JP3674422B2 - 高清浄度低炭素鋼の溶製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高清浄度低炭素鋼の溶製方法に係わり、とりわけ、炭素を0.02〜0.06質量%含有し、且つ高度に清浄化された缶用鋼板素材に好適な鋼の溶製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、炭素鋼を溶製するには、転炉等で主として脱炭、脱燐、脱硫等(以下、一次精錬ということが多い)を行なった後、溶鋼中の介在物の浮上分離を狙うため、出鋼時に金属アルミニウム、あるいは鉄−Si合金を用いて不純物元素を酸化し、この酸化から鋳造開始までの時間を長くする処置が取られていた。この一次精錬後に生成した大量の酸化物(以下、介在物という)を浮上させて溶鋼から除去するには、その後に真空脱ガス装置、取鍋等で実施される所謂二次精錬において、溶鋼中に吹き込む撹拌用ガスの増量、二次精錬時間の延長、あるいは鋳造速度の規制等の手法が取られてきた。また、大量に生成した介在物がスラグ中に一旦取り込まれた後に再び溶鋼中に懸濁しないように、溶鋼に塩基度(CaO/SiO2)の高いフラックスを投入して、二次精錬時に生じるスラグの融点を高め、固化させるといった手法も取られてきた。
【0003】
しかしながら、上記のような二次精錬でのガス流量の増大、二次精錬時間の延長、あるいはスラグの固化は、溶鋼の温度を著しく降下させる。そのため、前段階での一次精錬では出鋼時の溶鋼温度を高くしなければならないので,精錬負荷の増大を招くばかりか、高温による脱燐効率の減少、内張り耐火物の損耗量増大が生じ、精錬コストを大幅に増加させていた。
【0004】
そこで、特開昭50−8713号公報は、最終の溶製目標炭素濃度よりもかなり高目の状態で、転炉での脱炭精錬を終了して溶鋼中の溶存酸素濃度を低く抑え、その後に、該溶鋼を真空脱ガス装置内で脱炭、脱酸することを提案している。ところが、これらの技術では、本来脱燐反応に好適となる溶鋼中の酸素濃度及びスラグ中のFeO濃度が高くなる時期を経過せずに、転炉より出鋼することになるので、溶鋼中の燐濃度が著しく高くなり、最終的に鋼材の具備すべき性質を満足しなくなる。そのため、一次精錬前に溶銑の脱燐等、所謂「溶銑予備処理」が必須となり、該「溶銑予備処理」負荷の増大や精錬コストの増大を招く。また、一次精錬後の燐濃度が最終製品の目標範囲を超えることにより、転炉から出鋼した溶鋼を二次精錬に供給できないというチャンス・ロスも生じる。さらに、上記したような精錬コストの増大、精錬負荷の増大を招く技術を用いているにもかかわらず、精錬後に全ての大型介在物を浮上除去しきれず、介在物濃度の指標であるトータル酸素濃度が目標範囲を超えることにより、せっかく精錬した溶鋼を目標とする鋼材の素材に使用できなかったり、あるいは鋳造後に冷間圧延して得た鋼帯の表面に、大型介在物に起因する疵欠陥を誘発していた。
【0005】
また、最近、特開平10−317049号公報及び特開平10−219337号公報は、転炉から未脱酸出鋼した溶鋼をRH真空脱ガス装置で二次精錬する際に、脱ガス槽内で炭素含有物を溶鋼に添加して溶鋼中酸素濃度を100ppm以下までに低減してからアルミニウムで脱酸する技術を提案している。また、特許第2923182号公報では、同様にRHで炭材を用い、鋼中の炭素濃度を350ppm以下とした上で、脱酸剤を添加することを提案している。ところが、これらの技術では、真空下に保持された溶鋼中に炭素を添加するため、急激に多量のCOガスが槽内に発生し、所謂「突沸」現象を生じ、操業が極めて危険になるばかりでなく、COガスと共に飛び散った溶鋼スプラッシュが真空槽の内璧や排ガスタクト内に付着して操業を困難にしたり、あるいは真空排気速度を低下させる等の問題を生じている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、従来の技術では、介在物を低減した高清浄度鋼を得ようとすると、予備処理負荷が著しく高まったり、真空脱ガス処理での操業を困難にする等の問題があり、低コストで高清浄度鋼を安定して溶製できなかった。本発明は、かかる事情に鑑み、従来より予備処理負荷が少なく、真空脱ガス処理に際して操業を阻害することのない高清浄度低炭素鋼の溶製方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究し、その成果を本発明に具現化した。
【0008】
すなわち、本発明は、溶鋼を大気圧下で脱炭する一次精錬炉及び該一次精錬炉から出鋼した溶鋼を再度真空下で精錬する真空脱ガス装置を順次用いて、炭素濃度が0.02〜0.06質量%の低炭素溶鋼を溶製するに際し、前記一次精錬炉で溶鋼中の炭素濃度を0.02〜0.05質量%まで脱炭すると共に、出鋼時に加炭処理し、出鋼した溶鋼を真空脱ガス装置内で真空脱炭・脱酸して溶存酸素の濃度を0.02質量%以下にしてから、さらに脱酸剤を添加して脱酸処理を行なうことを特徴とする高清浄度低炭素鋼の溶製方法である。
【0009】
その際、前記加炭処理で溶鋼中の炭素濃度を0.06質量%以上に高めることが好ましく、さらには、一次精錬炉からの出鋼時又は出鋼後の真空精錬前に、溶鋼が伴うスラグ中に還元剤を添加することが一層好ましい。
【0010】
本発明によれば、溶銑の予備処理や一次精錬時の負荷を増大させることなく、最終製品の鋼材中に含有される介在物量を著しく低減することができるようになる。また、COガスの発生を伴う加炭を一次精錬の終了後、出鋼時に行なうようにしたので、二次精錬において操業を困難にするようなトラブルが発生しないようになる。その結果、介在物含有量に対して最も要求の厳しい缶用鋼板の素材が低コストで安定して供給できるようになる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。
【0012】
本発明で溶製の対象とする鋼は、炭素濃度が0.02〜0.06質量%の低炭素鋼であり、より詳しくは、飲料缶や食缶などの缶用鋼板素材であって、絞り加工やしごき加工などの高度の成形加工をなされるために、大型の非金属介在物の含有量を極限まで低減されることが望まれる鋼である。なお、炭素以外の成分の含有量については、特に限定するものではない。
【0013】
まず、このような鋼の溶製にあたって、本発明では、溶鋼を大気圧下で脱炭、脱燐等をする一次精錬炉において、予備処理を溶銑中燐濃度が0.10質量%となるまでにしか施していない溶銑を用い、溶鋼中の炭素濃度を0.02〜0.05質量%になるよう脱炭する。一次精錬炉としては、DCアーク炉やACアーク炉等の電気炉を使用しても良いが、一般的には、転炉の使用が好ましい。この転炉は、上吹き転炉、底吹き転炉、上底吹き転炉のいずれでも良い。また、電気炉を使用する場合には、酸素ガスを溶鋼に吹き付るランスを備えた電気炉の使用が好ましい。
【0014】
ここで、一次精錬炉での精錬終了時(吹止め時)に、溶鋼中の炭素濃度を0.02〜0.05質量%としたのは、0.05質量%以下だと溶鋼中の溶存酸素濃度及びスラグ中のFeOが脱燐に寄与するのに十分なだけ高まり、通常の製品鋼材中の燐濃度範囲である0.020質量%以下が容易に達成できるからである。一方、炭素濃度を0.02質量%未満にまで低下させると、スラグのFeO濃度が高くなり過ぎると共に、溶鋼の温度が著しく高温となって、一次精錬炉の内張り耐火物を傷めること、このようなスラグが出鋼時に取鍋に流出することによって、溶鋼がスラグで再酸化し、真空脱ガス終了後に介在物が増大する恐れがあること、及び溶鋼中の溶存酸素が過度に高まって、その後に炭素添加してもそれ以下に酸素が低下しないことから、炭素濃度の下限を0.02質量%とした。なお、この一次精錬での溶鋼温度は、出鋼時で1610℃程度と通常の精錬時と同等か、それ以下である。
【0015】
次に、本発明では、このように適正な炭素濃度で一次精錬を終了した溶鋼に対して、出鋼時に加炭処理を行う。加炭する目的は、C−O反応によって溶鋼中の酸素を除去し、炭素と平衡する溶存酸素の含有量を低減して、引き続き行なわれる真空脱ガス処理において、迅速に目標とする炭素濃度、酸素濃度の範囲に入るようにするためである。その加炭後の溶鋼中の炭素と酸素の関係は、ほぼCO分圧1気圧(0.1MPa)に平衡する関係にある。この関係は、図1に示すように、ほぼそのまま真空脱ガス開始時まで保持される。加炭材は、通常の製鋼で使用される黒鉛、コークス、高炭素フェロマンガン等で良い。
【0016】
そして、引き続き、本発明では、真空脱ガス装置において真空脱炭・脱酸精錬を行ない、溶存酸素濃度を0.02質量%以下とした後に、アルミニウム等の脱酸剤を添加して最終脱酸処理を行なう。ここで、脱酸剤添加直前の溶存酸素濃度を0.02質量%以下、且つ炭素濃度を0.02〜0.06質量%の範囲に収めるには、CとOの当量関係(図1の点線で示した直線)の傾きから見れば、真空脱ガス処理開始時(つまり、出鋼時の加炭後)の炭素濃度を0.04〜0.065質量%にしておけば良いことが予想される。しかし、現実には、真空脱ガス装置での大気のリーク、溶鋼上のスラグや取鍋耐火物からの再酸化等があるので、炭素濃度の低下に比べ酸素濃度の低下が小さくなる傾向がある。そこで、本発明では、好ましい真空脱ガス処理開始時の炭素濃度範囲として、加炭後の炭素濃度を上記の当量関係から必要とされる範囲よりも高い0.06質量%以上にすることにした。
【0017】
なお、この加炭後の炭素濃度の上限は、0.10質量%とするのが好ましい。これは、0.10質量%を超えると、目標の炭素濃度範囲まで脱炭するのに長時間が必要となり、精錬の能率を低下させる他、耐火物への負荷を増大したり、溶鋼温度を高めておく必要があり、一次精錬での負荷が増大するからである。
【0018】
また、最短時間で真空脱炭・脱酸処理するには、スラグからの再酸化を防止することが好ましい。そのため、本発明では、一次精錬炉からの出鋼時または出鋼後に、溶鋼に伴なわれているスラグ中に金属アルミニウム、アルミ滓などの還元剤を添加してスラグ中のFeOやMnOなどの酸化性成分を低減しておくのが良い。還元の目安としては、スラグ中のFeOを3.0質量%以下にすることである。
【0019】
【実施例】
溶銑予備処理により燐濃度を0.10質量%程度とした溶銑を用い、生産能力260トンの底吹き転炉で一次精錬した溶鋼に、本発明に従い、加炭処理(加炭材は黒鉛を使用)、真空脱ガス装置での真空脱炭・脱酸処理及び脱酸剤の添加を順次施した。また、発明の効果確認のため、前記溶鋼を、加炭処理せずに真空脱ガス装置で単に真空脱炭・脱酸処理した場合も実施した。なお、一次精錬の出鋼時における溶鋼温度は、1600〜1620℃の範囲であった。
【0020】
以下、これらの実施結果を、図1〜図5に基づき説明する。
【0021】
溶鋼中の炭素濃度と溶存酸素濃度との関係を図1に示す。図1では、RH真空脱ガス装置での真空脱炭・脱酸処理前の溶鋼を中抜きの丸印で、真空脱炭・脱酸処理後の溶鋼を黒塗りつぶし丸印で表わしている。また、丸印の大きいものは、加炭を実施した場合であり、小さいものは、加炭しなかった場合である。つまり、大きい丸印が本発明に、小さい丸が比較例に相当する。
【0022】
図1より、出鋼中に黒鉛を添加せず、真空脱炭・脱酸処理前の炭素濃度が0.04質量%以下の場合は(比較例)、真空脱炭・脱酸処理後の酸素濃度が200ppm以下とならない。一方、本発明のように、一次精錬後の出鋼途中で黒鉛を添加した場合には、真空脱炭・脱酸処理処理後の溶存酸素濃度を200ppm以下とすることができる。特に、真空脱炭・脱酸処理前の炭素濃度を0.06質量%以上とした場合には、真空脱炭・脱酸処理後の溶存酸素濃度を100ppm以下とすることができた。
【0023】
このようにして真空脱炭・脱酸処理した後に、溶鋼にアルミニウムを添加して最終脱酸処理を施した。このようにして溶製した溶鋼は、連続鋳造機に搬送され、タンディッシュを介して鋳型に注入し、連続鋳造した。そして、連続鋳造を開始してから取鍋内の溶鋼量の1/4、1/2、3/4、全量鋳込んだ時点でタンデイッシュ内の溶鋼からサンプルを採取し、それに含まれる全酸素量(溶存酸素と介在物となって含まれている酸素との合計量、以下、Tot.Oと略記)を分析した。分析結果を、真空脱炭・脱酸処理後の溶存酸素とタンディッシュ内サンプル中のTot.Oとの関係で整理し図2に示す。なお、図2では、上記鋳込み1/4時を白丸、2/4時を黒丸、3/4時を黒塗りつぶし三角、全量鋳込時を四角で表している。
【0024】
図2より、真空脱炭・脱酸処理を終了して金属アルミニウムによる脱酸処理を行う際に、従来法で溶製した溶鋼中の溶存酸素濃度が200ppmを超えている場合には、介在物の発生量が多いばかりでなく、Tot.Oの測定値そのものも「ばらつき」が大きくなることが明らかである。これは、サンプル中に大型介在物が多量に偏在しているために他ならない。一方、本発明による溶製の場合には、金属アルミニウムによる脱酸処理を行う際の溶存酸素濃度を200ppm以下とすることで、介在物の発生量が少なく、Tot.Oの測定値そのものの「ばらつき」が著しく小さくなっている。つまり、図2は、本発明によれば、サンプリングによる溶鋼清浄度の判定が明確になり、判定の信頼性も向上することを示している。
【0025】
次に、上記と同様にして採取した溶鋼のサンプルをエレクトロンビーム(EBと記す)によって溶解し、浮上して得られた単位重量あたりの介在物面積率を調べ、その調査結果を図3に示す。図3より、本発明を適用した場合には、タンディッシュ内の溶鋼に含まれる介在物を著しく低減できることが明らかである。つまり、本発明により、溶鋼の清浄度が従来に比べ格段に向上している。
【0026】
また、連続鋳造によって得られた鋳片(スラブ)の任意の位置からブロック状サンプルを切り出し、該サンプルから公知のスライム抽出法を用いて介在物を分離した。そして、それらの介在物を粒径別に分類し、従来法と本発明法によって溶製された場合を比較して、図4に整理した。図4では、従来法によるサンプルを黒塗りつぶし記号で、本発明法によるサンプルを中抜き記号で示している。図4より、本発明によれば、20μm以上の大型介在物を著しく減少できることが明らかである。
【0027】
さらに、連続鋳造によって得られた前記スラブを、実際に熱間圧廷あるいは冷間圧延して薄鋼板を製造した。そして、それらの薄鋼板で一定サイズの缶を製作し、使用鋼板に含まれる介在物に起因して製缶不良となり、不合格品とされる比率を調査した。調査結果を図5に示す。なお、不合格判定の基準とした疵は、缶のフランジ部クラック、ネッキングクラック、ピンホール及び胴の破れである。
【0028】
従来法で溶製した鋼板は、アルミニウム脱酸時に生成する介在物量が多かったために、鋼板中に含まれる介在物量が多い。そのため、図5より明らかなように、従来法で溶製した鋼板を用いた場合には、製缶時の不合格品の量が百万缶に数10〜数100個という膨大な量であった。一方、本発明を適用して溶製した場合の鋼板を用いると、アルミニウム脱酸によって生成する介在物に起因する製缶時の不合格品数が皆無となり、製缶時の歩止りが従来より著しく向上した。
【0029】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、予備精錬、及び一次精錬時の負荷を増大させることなく、溶鋼中に含有される介在物量を著しく低減することができた。その溶鋼は、介在物含有量に対して最も要求の厳しい缶用鋼板にしても、介在物に起因する製缶不良を著しく減少させることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶鋼中の炭素濃度と溶存酸素濃度との関係を示す図である。
【図2】真空脱炭・脱酸処理後の溶存酸素とタンディッシュ内サンプル中のTot.Oとの関係を示す図である。
【図3】溶鋼中に含まれる介在物を調査した結果を示す図である。
【図4】介在物の粒径分布を調査した結果を示す図である。
【図5】使用鋼板に含まれる介在物に起因して不合格品とされる比率を調査した結果を示す図である。
Claims (3)
- 溶鋼を大気圧下で脱炭する一次精錬炉及び該一次精錬炉から出鋼した溶鋼を再度真空下で精錬する真空脱ガス装置を順次用いて、炭素濃度が0.02〜0.06質量%の低炭素溶鋼を溶製するに際し、
前記一次精錬炉で溶鋼中の炭素濃度を0.02〜0.05質量%まで脱炭すると共に、出鋼時に加炭処理し、出鋼した溶鋼を真空脱ガス装置内で真空脱炭・脱酸して溶存酸素の濃度を0.02質量%以下にしてから、さらに脱酸剤を添加して脱酸処理を行なうことを特徴とする高清浄度低炭素鋼の溶製方法。 - 前記加炭処理で溶鋼中の炭素濃度を0.06質量%以上に高めることを特徴とする請求項1に記載の高清浄度低炭素鋼の溶製方法。
- 一次精錬炉からの出鋼時又は出鋼後の真空精錬前に、溶鋼が伴うスラグ中に還元剤を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の高清浄度鋼の溶製方法。
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