JP4790933B2 - 磁石用固形材料及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、軽量でありながら高磁気特性を有し、熱安定性に優れた希土類−鉄−窒素−水素系磁石用固形材料、及びそれを用いてなる磁石を利用した装置並びに部品に関する。この発明は、又、磁場中で圧粉成形後、衝撃圧縮して分解や脱窒を防止しながら高磁気特性の磁石用固形材料を得る製造方法に関する。
【0002】
ここで言う固形材料とは、塊状の材料のことを指す。さらに、ここで言う磁石用固形材料とは、塊状の磁性材料のことを指し、磁石用固形材料を構成する磁性材料の粉末同士が直接、または金属相若しくは無機物相を介して、連続的に結合し、全体として塊状を成している状態の磁性材料である。
【0003】
【従来の技術】
高性能の希土類磁石として、例えばSm−Co系磁石、Nd−Fe−B系磁石が知られている。前者は高い熱安定性と耐食性等により、また、後者は極めて高い磁気特性、低コスト、原料供給の安定性等によりそれぞれ広く用いられている。今日、更に高い熱安定性と高い磁気特性とを併せ持ち、軽量で原料コストの安価な希土類磁石が、電装用や各種FA用のアクチュエータ、あるいは回転機用の磁石として要望されている。
【0004】
一方、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄化合物をNH3とH2の混合ガス等の中で400℃〜600℃の比較的低温にて反応させる時、N原子及びH原子が上記結晶、例えばTh2Zn17型化合物の格子間位置に侵入し、キュリー温度や磁気異方性の顕著な増加を招来することが報告されている(米国特許第5186766号)。近年、かかる希土類−鉄−窒素系磁性材料を用いた高性能固形磁石が前記要望に沿う新磁石材料としてその実用化の期待が高まっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
窒素と水素とを金属間化合物の格子間に含有し、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素系材料(以下R−Fe−N−H系磁性材料という)は、一般に粉体状態にて得られるが、常圧下約600℃以上の温度ではα−Fe分解相と希土類窒化物相とに分解し易いため、自己焼結により焼結して磁石用固形材料として得ることは、通常の工業的方法では非常に困難である。
【0006】
そこで、R−Fe−N−H系磁性材料を用いた磁石としては、樹脂をバインダとしたボンド磁石が製造され使用されている。しかし、この材料を用いて作られた磁石は、400℃以上のキュリー温度を有し、本来200℃以上の温度でも磁化を失わない磁性粉体を使用しているにもかかわらず、12−ナイロン樹脂などのバインダの耐熱温度が低いことと保磁力の温度係数が−0.5%/℃程度であるのに対し保磁力が0.6MA/mと小さい(電気学会技術報告第729号、電気学会編、第41頁参照)ことが主な原因となって不可逆減磁率が大きくなり、概ね100℃未満の温度でしか使用されていない。すなわち、最近ヘビーデューティーの要求から、150℃以上の高温の環境下で使用される動力源としてのブラシレスモータ等を作る場合、このボンド磁石は使用することができないという問題があった。
【0007】
また、樹脂をバインダとした圧縮成形ボンド磁石を製造する場合、充填率を向上させ高性能化するには、工業的に難しい10重量トン/cm2以上の成形圧力が必要であり、金型寿命等を考慮すると、混合比率は体積比にて80%未満にせざるを得ない場合が多く、圧縮成形ボンド磁石によってはR−Fe−N−H系磁性材料の優れた基本磁気特性を十分に発揮できないという問題があった。
【0008】
以上の問題点を解決するために、樹脂バインダを用いない希土類−鉄−窒素系永久磁石の製造方法が特許第3108232号公報に提案されている。
しかしながら、当該方法によると、衝撃圧縮後の残留温度をTh2Zn17型希土類−鉄−窒素系磁性材料の分解温度以下に抑制するためには、衝撃圧縮の際の圧力を一定の狭い範囲に限定しなければならないという欠点があった。
さらに、当該方法によれば、希土類−鉄−窒素系磁性材料の分解を十分に押さえられないため、保磁力も最高で0.21MA/mと低くとどまるものであった。
【0009】
また、特開2001−6959には、大型でヒビや欠けのない成形体を得る目的で、円筒収束衝撃波を用いてTh2Zn17型希土類−鉄−窒素系磁性材料を圧縮固化する方法が開示されているが、当該方法により得られる磁石においても、保磁力の最高値は0.62MA/mと、まだ満足できるものではなかった。
【0010】
他に、衝撃波圧縮により成形したTh2Zn17型希土類−鉄−窒素系磁性材料の例としては、J.Appl.Phys.第80巻、第1号、356頁に報告されたものがあるが、10GPaでは充填率が低く20GPaではα−Fe分解相とSmN相への分解が進むため、各衝撃圧縮条件での磁気特性の最高値は保磁力0.57MA/m、(BH)max=134kJ/m3と、Th2Zn17型R−Fe−N−H系ボンド磁石に対して十分高い磁気特性を有しているとは言えないものであった。
【0011】
さらに、家電・OA機器や電気自動車への用途において、軽量高性能化が求められているが、Sm−Co系磁石の密度が8.4g/cm3程度、Nd−Fe−B系磁石の密度が7.5g/cm3程度とこれらの磁石を搭載すると重量が大きくなりがちであった。また、用途によっては磁気特性に余裕があるため磁石の小型化による軽量化が可能であっても、加工による歩留まりを考慮するとコスト的に必ずしも有利とは言えないものであった。例えば、切削屑は切削面積に比例するので体積が小さくなるほど製品の単位体積当たりの歩留まりは悪くなってしまう。
【0012】
その欠点を補う各種ボンド磁石は上述のように熱安定性に劣るものなので、軽量でありながら高磁気特性であり、熱安定性に優れ、コストパフォーマンスの高い磁石はまだ開発されていない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、菱面体晶または六方晶の結晶構造を有したR−Fe−N−H系磁性材料を80〜97体積%含有し、6.15〜7.45g/cm3と小さな密度を有しながら磁気特性とその安定性が優れることを特徴とする磁石用固形材料を提供することを目的とする。
本発明はまた、前記磁石用固形材料を製造する方法を提供することを他の目的とする。
本発明はさらに、前記磁石用固形材料を利用した装置、部品を提供することを更に他の目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、菱面体晶または六方晶の結晶構造を有するR−Fe−N−H系磁性材料を含有し、軽量で磁気特性とその安定性が高い磁石用固形材料を得るために、原料組成と含有率、その製造方法について鋭意検討したところ、窒素だけでなく水素をも含む磁性材料粉体を用い、その体積分率を80〜97体積%として、磁場中で圧粉成形体にした後、前記圧粉体を一定の衝撃波圧力を有する水中衝撃波で衝撃圧縮し、衝撃圧縮の持つ超高圧剪断性、活性化作用、短時間作用現象などの特徴を活かして衝撃圧縮後の残留温度をR−Fe−N−H系磁性材料の分解温度(常圧で約600℃)以下に抑制することにより、分解を防ぎながら、密度6.15〜7.45g/cm3で100℃以上でも使用可能な、金属結合により固化したR−Fe−N−H系磁石用固形材料を容易に得ることができるという知見を得て、この発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
(1)衝撃波圧力が3〜22GPaの水中衝撃波を用いて圧縮固化され、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料を80〜97体積%含有することを特徴とする磁石用固形材料。
(2)衝撃波圧力が3〜22GPaの水中衝撃波を用いて圧縮固化され、密度が6.15〜7.45g/cm3であることを特徴とする菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素系の磁石用固形材料。
(3)前記(1)又は(2)記載の磁石用固形材料であって、常温の残留磁束密度Br、常温の保磁力HcJ、磁石として使用するときのパーミアンス係数Pc及び最高使用温度Tmaxの関係が、μ0を真空の透磁率とするとき、
Br≦μ0HcJ(Pc+1)(11000−50Tmax)/(10000−6Tmax)
であることを特徴とする磁石用固形材料。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の磁石用固形材料であって、保磁力HcJが0.76MA/m以上で、しかも角形比Br/Jsが95%以上であることを特徴とする磁石用固形材料。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の磁石用固形材料であって、希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料以外の成分が密度6.5g/cm3以下の元素、化合物またはそれらの混合物であることを特徴とする磁石用固形材料。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の磁石用固形材料であって、希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料以外の部分に大気、不活性ガスのうち少なくとも1種を含有することを特徴とする磁石用固形材料。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の磁石用固形材料であって、希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料以外の部分に酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物、炭酸化物、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩のうち少なくとも1種を含有することを特徴とする磁石用固形材料。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の磁石用固形材料であって、希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料以外の部分に有機物を含有することを特徴とする磁石用固形材料。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の磁石用固形材料であって、希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料又はこれと他の構成成分との混合物を衝撃波圧力が3〜22GPaの水中衝撃波を用いて圧縮固化することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
(10)前記(9)に記載の磁石用固形材料を製造する方法であって、希土類−鉄−窒素−水素系磁性粉体を磁場中で圧粉成形した後、水中衝撃波を用いて圧縮固化することを特徴とする磁石用固形材料の製造方法。
(11)磁石の静磁場を利用する装置に使用するための部品であって、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の磁石用固形材料を用いたことを特徴とする部品。
(12)磁石の静磁場を利用する最高使用温度Tmaxが100℃以上の装置であって、その部品として上記(11)に記載の部品を使用することを特徴とする装置。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の磁石用固形材料に用いられるR−Fe−N−H系磁性材料としては、次の(1)〜(7)から選ばれた少なくとも一つの磁性材料が挙げられる。
(1)一般式RαFe100 ―α - β - γNβHγで表され、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する磁性材料であり、又、RはYを含む希土類元素から選ばれた少なくとも一種の元素であり、又、α、β、γは原子百分率で、3≦α≦20、5≦β≦30、0.01≦γ≦10であることを特徴とする磁性材料。
(2)一般式RαFe100 ―α - β - γ - δNβHγOδで表され、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する磁性材料であり、又、RはYを含む希土類元素から選ばれた少なくとも一種の元素であり、又、α、β、γ、δは原子百分率で、5≦α≦20、10≦β≦25、0.01≦γ≦5、1≦δ≦10であることを特徴とする磁性材料。
(3)R及び又はFeの20原子%以下をNi、Ti、V、 Cr、Mn、Zn、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Os、Ir、Bから選ばれた少なくとも一種の元素と置換した上記(1)又は(2)の磁性材料。
(4)N及び又はHの10原子%以下をC、P、Si、S、Alから選ばれる少なくとも一種の元素と置換した上記(1)〜(3)のいずれか磁性材料。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかの磁性材料の成分のうち、Rの50原子%以上がSmであることを特徴とする磁性材料。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかの磁性材料の成分のうち、Feの0.01〜50原子%をCoで置換したことを特徴とする磁性材料。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかの磁性材料の粒界又は表面にZnを反応させた磁性材料。
【0017】
これらの磁性材料は、公知の方法(例えば、米国特許第5186766号、米国特許第5164104号、特許第2703281号公報、特許第2705985号公報、特許第2708568号公報、特許第2739860号公報、特許2857476号公報等)により調製される。
【0018】
これらのR−Fe−N−H系磁性材料は、0.1〜100μmの平均粒径を有する粉体状で得られ、磁石用固形材料の原料として供給される。平均粒径が0.1μm未満であると、磁場配向性が悪くなり、残留磁束密度が低くなる。逆に平均粒径が100μmを越えると保磁力が低くなり、実用性に乏しくなる。優れた磁場配向性を付与させるために、更に好ましい平均粒径の範囲は1〜100μmであり、2〜80μmであれば、最も好ましい。
また、R−Fe−N−H系材料は、高い飽和磁化、高いキュリー点と共に、大きな磁気異方性を有することが特徴である。従って、粒径2μm以上の単結晶粉体とすれば外部磁場により容易に磁場配向することができ、高い磁気特性を持つ異方性磁石とすることができる。
【0019】
R−Fe−N−H系磁性材料の大きな特徴の一つは、耐酸化性が高く、錆が発生しにくい点である。Nd−Fe−B系の焼結磁石は、磁気特性が極めて高く、VCM等のアクチュエータや各種モータに多用されているが、表面が常温の大気中でも容易に酸化してしまうため、錆落ち防止の目的でニッケルメッキやエポキシ樹脂コーティングなどにより表面処理することが必須となる。
【0020】
これに対して、R−Fe−N−H系磁性材料を用いた磁石の場合、上記の表面処理を必要としないか、或いは簡便なものとすることができる。このことは、コスト的に有利であって、しかも、磁性の低い表面層がない分アクチュエータやモータとして使用する場合に磁石の磁力を最大限活かすことができるため、例えば(BH)max値がNd−Fe−B系焼結磁石より劣る場合であっても同様なコストパフォーマンスを発揮することができる。
【0021】
ところで、水素を含有しないTh2Zn17型R−Fe−N系磁性材料は、磁気特性の最適化を図ろうとした場合、窒素量がR2Fe17当たり3個より少なくなり、熱力学的に不安定なR2Fe17N3- Δ相が生じる。この相は、熱的、機械的なエネルギーにより容易にα−Fe分解相と窒化希土類とへ分解する結果、従来の衝撃波圧縮によっては高性能な磁石用固形材料とはなり得ない。
【0022】
これに対し、R−Fe−N−H系磁性材料においては、水素が上記で規定される範囲内に制御されれば、通常、その主相は熱力学的に安定なR2Fe17N3Hx相又は余剰な窒素を含むR2Fe17N3+ ΔHx相(通常xは0.01〜2程度の範囲)になって熱的、機械的なエネルギーによるα−Fe分解相及び窒化希土類相への分解は、Hを含まないTh2Zn17型R−Fe−N系磁性材料に比べて顕著に抑制される。
このことは、高磁気特性で、熱安定性、耐酸化性の優れた磁石用固形材料を得るための重要な知見に他ならない。
【0023】
本発明の磁石用固形材料は、R−Fe−N−H系磁性材料を80〜97体積%含有した材料である。R−Fe−N−H系材料以外の3〜20体積%の部分は真空であっても良いし、密度6.5g/cm3以下の元素、化合物、またはそれらの混合物であってもよい。
【0024】
本発明の磁石用固形材料の密度は6.15〜7.45g/cm3とすることが好ましい。6.15g/cm3未満であってもR−Fe−N−H系磁性材料の成分が80体積%以上となる場合は好ましい場合がある。また、R−Fe−N−H系磁性材料を97体積%以下としても7.45g/cm3を越える場合があり、既存の固形磁石に比べ軽量である本発明の磁石用固形材料の特徴が活かせなくなることもある。例えば、Sm2Fe17N3H0.1磁性材料の真密度は7.69g/cm3(IEEE Trans.Magn.、MAG−28、2326頁、及びICDDによるPowder Diffraction File WZ1430を参照)であるが、磁性材料以外の部分が充分無視できるほど密度の低いガスなどであったとして、磁性材料の含有率が80〜97体積%のとき、密度は6.15〜7.46となる。
【0025】
ここに言う真密度とは、X線から求められる、R−Fe−N−Hユニットセルの体積vと、そのユニットセルを構成する原子の原子量の総和wから求められる密度w/vのことであり、一般にX線密度Dxと呼ばれるものである。また、磁石用固形材料の密度Dmは、アルキメデス法や体積法などのマクロな方法で求めることができる。
【0026】
R−Fe−N−H系材料の組成や磁性材料以外の部分の種類により、R−Fe−N−H系材料の体積分率と密度の関係は変わるが、熱安定性の良い磁石用固形材料とするために80体積%以上の磁性材料含有率が求められ、軽量である磁石用固形材料とするために7.45g/cm3以下の密度が求められるので、より好ましい磁石用固形材料は、R−Fe−N−H系磁性材料を80〜97体積%含有し、しかも密度が6.15〜7.45g/cm3の範囲にあるものである。
【0027】
さらに好ましいR−Fe−N−H系磁性材料の体積分率または磁石用固形材料の密度の範囲を述べると、特に熱安定性が要求される用途には83〜97体積%であって密度6.35〜7.45g/cm3の範囲が選ばれ、機械的強度、磁気特性、熱安定性に非常に優れる軽量な磁石とするためには、85〜96体積%であって密度6.50〜7.40g/cm3の範囲が選ばれる。
【0028】
本発明の磁石用固形材料は、常温の残留磁束密度Br、常温の保磁力HcJ、磁石として使用するときのパーミアンス係数Pc及び最高使用温度Tmaxの関係が、μ0を真空の透磁率とするとき、
Br≦μ0HcJ(Pc+1)(11000−50Tmax)/(10000−6Tmax)
であれば更に望ましい。
上記の関係式は、磁石が顕著な減磁をしない条件を定める式であるが、その意味について以下に補足する。ここに顕著な減磁とは、不可逆でかつ大きな減磁のことを指し、例えば1000時間以内に不可逆減磁率で−20%を越えるような減磁を言う。
【0029】
磁石の逆磁場に対する磁化の変化を表すB−H曲線上における屈曲点のH座標は、角形比がほぼ100%であるとき、ほぼHcJの値となる。磁石の動作点が、屈曲点より高磁場側に来ると急激に減磁して、磁石の有する性能を有効に発揮させることができないので、動作点は屈曲点よりも低磁場側にあるべきである。従って、磁石の形状によって決まる反磁場に対する磁束密度の比を内部パーミアンス係数Pc0、磁石として磁気回路や装置に組み込んだ後、運転中磁石に掛かる逆磁場の大きさによって定まる各動作点でのパーミアンス係数の中で最小のパーミアンス係数をPcとするとき、Pc0とPcのうち小さい方の値をPcminとすれば、少なくとも下記式(1)でなければ、顕著な減磁が生じてしまう。
【0030】
【数1】
【0031】
(1)式は室温における条件式であり、温度T℃においては、残留磁束密度の温度係数[α(Br)]、保磁力の温度係数[α(HcJ)]を用いて、下記式(2)と書き改めることにより、大幅な減磁が生じない条件が決定される。
【0032】
【数2】
【0033】
ここでPc0がPcより小さく、着磁しても磁場を取り去るとすぐに減磁してしまう場合は、予めヨークなどに磁石を組み込んでから着磁することによって顕著な減磁を回避することができるが、少なくとも(2)式によって定める条件を満たしていなくては磁石の使用による顕著な減磁を免れることはできない。
【0034】
R−Fe−N−H系材料の組成や温度領域によってα(Br)、α(HcJ)の値は変わるが、ほぼα(Br)は−0.06%/℃、α(HcJ)は−0.5%/℃である。α(Br)の値に比べてα(HcJ)の値の方が絶対値が大きく、両者とも負の値なので、Tが高いほど(2)式を満たす正の値の組み合わせ(Br、HcJ)の領域は小さくなる。従って、本発明の磁石用固形材料を用いて成る磁石が、パーミアンス係数Pcの条件で使用される場合、動作中最も高くなる温度Tmax℃により決定される(2)式の範囲にBr及びHcJを制御することにより、磁石の減磁を緩和することができることになる。
(2)式にT=Tmax、α(Br)=−0.06、α(HcJ)=−0.5を代入し、整理すると下記式(3)のようになる。
【0035】
【数3】
【0036】
即ち、磁石としたとき、Br、HcJ、Pc、Tmax が(3)式を満たせば、顕著な減磁が起こらない磁石であるということができる。また、(3)式によれば、HcJが大きいほど、Brの取りうる値は大きくなる。熱安定性が高く、高磁気特性の磁石とするためには、HcJが0.62MA/mを越える磁石用固形材料とする方が好ましい。
【0037】
ところで、磁性材料の体積分率を上げることにより、Brを大きくして常温の最大エネルギー積(BH)maxが高い磁石用固形材料としたとしても、Tmaxが例えば100℃以上であるような高い温度であって(3)式の範囲を逸脱すれば、減磁が顕著となり、磁性材料の体積分率が低くBrの小さい磁石用固形材料とパフォーマンスが変わらなくなってしまう場合がある。つまり、PcとTmaxの組み合わせと磁石用固形材料のHcJによっては、R−Fe−N−H系磁性材料の体積分率を上げてBrを大きく取る意味がない。むしろ、磁性材料の体積分率を下げた方が軽量でコストパフォーマンスの高い磁石用固形材料となるのである。
【0038】
具体的な例を挙げて説明する。HcJ=0.62MA/mであるようなR−Fe−N−H系磁性粉体を原料とし、衝撃波圧縮を用いれば、ある条件でほぼ100%の体積分率を有する磁石用固形材料とすることができる。このときのBrは1.2Tを越える。
しかし、Pc=1、Tmax=100℃である用途の場合、(3)式から、Brを0.99T以上とする必要はない。即ち、この場合、0.99Tより高いBrを有した磁石用固形材料であったとしても磁石の動作又は使用によって減磁して、0.99TのBrを有した磁石とパフォーマンスは変わらなくなるのである。従って、磁性体の体積分率をむしろ83%〜85%程度に下げて、Br=0.99T程度の磁石とし、軽量かつコストの安い磁石とする方が好ましい。
【0039】
上記は、磁石の形状または磁気回路、動作によって決まる最小のパーミアンス係数、及びBr、HcJ、α(Br)、α(HcJ)といった磁性材料の磁気的な特性によって決まる熱安定性について述べたものであり、一般に磁石の温度特性とも言われる性質である。
【0040】
この他に、熱安定性が低下する大きな原因としては、磁性粉体同士が、充分金属結合により接合して固化していないことが挙げられる。本来、永久磁石は外界に静磁ポテンシャルを作るために、結晶の容易磁化方向を揃えているが、磁気的に非平衡な状態であるため、磁性粉体同士が充分結合され固定されていない状態であると、各磁性粉がマトリックスの中で回転するなどして容易磁化方向の向きを変え、蓄えられた静磁エネルギーが徐々に小さくなっていく。
【0041】
磁性粉充填率が80%未満の材料、例えばボンド磁石などは、100℃以上の高温で樹脂が軟化あるいは劣化すると比較的容易に上記のような緩和が起こり、顕著な減磁が生じることになる。ボンド磁石は、その名のとおり、バインダによりボンディングされている磁石であって、金属結合により固化された磁石ではない。熱安定性の不足はそのことに起因する問題点であるといえる。
【0042】
一方、本発明の材料であれば、体積分率が80%以上或いは83%以上であるために、磁性粉同士が金属結合で固化しており、このような緩和は起こらない。以上のように、100℃以上で満足する熱安定性を達成するためにも、磁性材料の体積分率の下限と上限を特定の範囲に制御する必要がある。
【0043】
本発明の磁石用固形材料は、特別な方法によらなくとも、磁石としたときの保磁力HcJが0.76MA/m以上で、しかも角形比Br/Jsが95%以上である磁石用固形材料とすることもできる。但し、Jsは常温の飽和磁化であり、本発明においては外部磁場を1.2MA/mとしたときの磁化の値とする。
【0044】
例えば、Sm2Fe17N3H0.1材料は、ニュークリエーション型の磁場反転機構を持つため粒径と保磁力HcJがほぼ反比例するような関係を持つ。2μm未満になると保磁力が0.76MA/mを越えるが、この領域では、磁性粉の粒径が小さくなるに従って凝集しやすくなり、通常工業的に利用されている磁場では磁性粉体の磁場配向度が急激に落ちて、角形比が低下する。
【0045】
図1は、ボールミルでSm2Fe17N3H0.1粉体を粉砕して得た様々な粒径の磁性粉体を外部磁場1.2MA/m、成形圧力14重量トン/cm2で圧縮成形し、それらの保磁力HcJと角形比Br/Jsの関係(図中●)を示したものである。HcJが0.73MA/mを越えると角形比が急激に低下し、HcJが0.76MA/m以上で95%以下となる。
【0046】
本発明の磁石用固形材料であると、衝撃波圧縮固化した際に組織を微細化することができるために、保磁力が0.76MA/m未満の磁性粉体を用いて角形比の高い圧粉体を調製し、これを衝撃波圧縮固化すると同時に保磁力を向上させ、高い角形比と高い保磁力を併せ持つ磁石用固形材料とすることができる。
保磁力が0.8〜1.2MA/mの範囲の場合、角形比を95%から、磁場配向の方法と磁性材料の成分などの工夫を加えることによりほぼ100%の範囲で調整することが可能である。
【0047】
本発明の磁石用固形材料において、R−Fe−N−H系磁性材料以外の成分は密度6.5g/cm3以下の元素、化合物またはそれらの混合物であることが好ましい。密度が6.5g/cm3を越える元素などであると、磁性材料の体積分率を80%に限定しても、磁石用固形材料全体の密度が7.45g/cm3を越える場合が多く、軽量である本発明の特徴が活かせなくなるので好ましくない。
【0048】
密度6.5g/cm3以下の元素としては、Al、Ar、B、Be、Br、C、Ca、Cl、F、Ga、Ge、H、He、Kr、Mg、N、Ne、O、P、S、Se、Si、Te、Ti、V、Y、Zrなどが挙げられる。
また、これらの化合物、合金や、密度6.5g/cm3以上の元素が含まれていても、Mn−Al−CやAl−Cu−Mg合金などのように化合物や合金において密度6.5g/cm3以下となるもの、或いは体積比で1:1のBi−Alなどの混合物において、密度6.5g/cm3以下となるものも好ましい。
【0049】
R−Fe−N−H系磁性材料以外の部分が密度6.5g/cm3以下であるガス、例えば大気、窒素ガス、He、Ar、Neなどの不活性ガスのうち少なくとも1種であっても良い。これらの磁性材−ガス複合磁石用固形材料は軽量であることが特徴である。
【0050】
また、R−Fe−N−H系磁性材料以外の部分が密度6.5g/cm3以下のMgO、Al2O3、ZrO2、SiO2、フェライトなどの酸化物、CaF2、AlF3などのフッ化物、TiC、SiC、ZrCなどの炭化物、Si3N4、ZnN、AlNなどの窒化物などであっても好ましく、その他、水素化物、炭酸化物、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩またはそれらの混合物であっても良い。
この中で、特にBaO・6Fe2O3系、SrO・6Fe2O3系、La添加フェライト系などの硬磁性フェライト、場合によってはMn−Zn系、Ni−Zn系軟磁性フェライトなどを含有させることにより、磁気特性やその安定性を向上させることができる。これらの磁性材−無機物複合磁石用固形材料は機械的強度が高く、熱安定性や磁気特性に優れる。
【0051】
さらに、R−Fe−N−H系磁性材料以外の部分が密度6.5g/cm3以下の有機物であっても良い。例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、全芳香族ポリエステルなどエンジニアリング樹脂と呼称される樹脂や液晶ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、弗素樹脂など、耐熱性の熱可塑性或いは熱硬化性樹脂を初め、シリコーンゴムなどの有機ケイ素化合物、カップリング剤や滑剤などの有機金属化合物など、ガラス転移点、軟化点、融点、分解点が100℃以上の有機物であるならば本発明の磁石用固形材料の成分として用いることができる。
但し、その体積分率は20%以下好ましくは17%以下であって、R−Fe−N−H系磁性材料の金属結合による固化を妨げるものであってはならない。この磁性材−有機物複合磁石用固形材料は、軽量なわりに耐衝撃性に優れる。但し、高温高湿度の過酷な環境においては、磁性材−有機物複合磁石用固形材料を用いない方が良い場合がある。
【0052】
本発明の磁石用固形材料のR−Fe−N−H系磁性材料以外の部分に、上記のガス、無機物、有機物のうち2種以上を同時に含有することができる。例えば、大気である空隙を有し、シリカを分散したシリコーンゴムを含有したR−Fe−N−H系磁性材−ガス−無機物−有機物複合磁石用固形材料などであり、それぞれの成分の特徴を活かして、用途により使い分けることが望ましい。
【0053】
次に、本発明の磁石用固形材料の製造法について述べる。但し、本発明の製造法は、これに限定されるわけではない。
水中衝撃波を用いた、本発明の衝撃圧縮法による固化工程では、衝撃波の持つ超高圧剪断性、活性化作用は、粉体の金属的結合による固化作用と組織の微細化作用を誘起し、固化と共に高保磁力化を可能とする。
このとき、衝撃圧力自体の持続時間は、従来の衝撃波を用いた場合よりも長いが、体積圧縮と衝撃波の非線型現象に基づくエントロピーの増加による温度上昇は極めて短時間(数μs以下)に消失し、その結果、分解や脱窒は殆ど起こらない。
【0054】
水中衝撃波を用いて圧縮した後も残留温度は存在する。この残留温度が分解温度(常圧で約600℃)以上になると、R−Fe−N−H系化合物等の分解が開始され、磁気特性を劣化するので好ましくない。しかし、水中衝撃波による場合は、従来の衝撃波による場合よりも、残留温度を低く保つことが非常に容易である。
【0055】
さらに、圧粉成形を80kA/m以上、好ましくは800kA/m以上の定常磁場、若しくはパルス磁場中で行うことにより、粉体の磁化容易軸を一方向に揃えることができ、得られた圧粉体を衝撃圧縮により、 固化しても、配向性は損なわれず、磁気的に一軸性の異方性をもつ磁石用固形材料体が得られる。
【0056】
本発明において、衝撃圧縮時の圧粉体の温度上昇を抑制するために、衝撃圧縮には、衝撃波圧力3〜22GPaの水中衝撃波を用いる必要がある。衝撃波圧力が3GPaより低いと、必ずしも密度6.15g/cm3以上の磁石用固形材料が得られない。衝撃波圧力が40GPaより高いと、α−Fe分解相等の分解物が生じることがあって好ましくない。さらに、密度が6.35〜7.45g/cm3の範囲、さらに6.50〜7.40g/cm3の範囲の磁石用固形材料を再現性良く得るには水中衝撃波の衝撃波圧力を3〜20GPa、さらに衝撃波圧力を4〜15GPaとすることで達成される。
但し、磁性材−ガス複合磁石用固形材料においては、衝撃圧力が高すぎると容易に密度が7.45g/cm3を越える磁石用固形材料となってしまうので衝撃波圧力3〜15GPaの水中衝撃波を用いる方が好ましい。
【0057】
水中衝撃波による衝撃圧縮方法としては、二重管の最内部に当該粉体を圧粉成形し中間部に水を入れ、外周部に爆薬を配置し、爆薬を爆轟させることで、前記中間部の水中に衝撃波を導入し、最内部の当該粉体を圧縮する方法や、当該粉体を密閉容器中へ圧粉成形し、水中へ投入し、爆薬を水中にて爆轟させ、その衝撃波により当該粉体を圧縮する方法や、特許第2951349号公報又は、特開平6−198496号公報による方法が選択できるが、いずれの方法においても、次に挙げる水中衝撃波による衝撃圧縮の利点を得ることができる。
【0058】
即ち、
(1)水中衝撃波の圧力は、爆薬と水のユゴニオ関係によって決まり、圧力Pは概略次式で示される。
P=288(MPa){(ρ/ρ0)7.25−1}
上式より、水中衝撃波を用いた場合には、水の密度ρの基準時密度ρ0に対する変化に関して圧力Pの増加量が非常に大きいため、爆薬量の調節により容易に超高圧が得られ、その際の磁性材料の温度は従来の衝撃波を用いた場合に比べて容易に低温度に保持される。
(2)衝撃圧力自体の持続時間が従来の衝撃波を用いた場合よりも長い。
(3)体積圧縮と衝撃波の非線型現象に基づくエントロピーの増加による磁性材料の温度上昇は極めて短時間に消失する。
(4)磁性材料の温度は、その後高く保持されることが少なく、又、長く保持されることが少ない。
(5)衝撃圧力が被圧縮体に対して均一に負荷される。
水中衝撃波のもつ、これらの優れた特徴によって、R−Fe−N−H系材料が熱分解を起こさず、容易に金属結合により圧縮固化される。
【0059】
以上述べてきたように、磁性粉体として熱的に安定でα−Fe分解相を析出しにくいR−Fe−N−H系磁性材料を選び、上記の衝撃波圧縮法にて成形することにより初めて、前記磁性材料の体積分率が80〜97%で、密度が6.15〜7.45g/cm3である磁石用固形材料を作製することができるのであり、この磁石用固形材料は、高磁気特性で金属結合により固化されているため、熱安定性に優れた特徴を有するのである。
【0060】
次に、本発明の装置又は部品について述べる。
最高使用温度Tmaxが100℃以上である用途には、従来のR−Fe−N−H系ボンド磁石であると、樹脂成分を含みかつ磁性粉体同士が金属結合で固化していないために、熱安定性に劣り、使用することが難しかった。本発明の磁石用固形材料であれば、よしんば樹脂成分を含んでいてもR−Fe−N−H系磁性粉同士が金属結合で固化しているので熱安定性に優れる。さらに磁石用固形材料のBr、HcJが、磁石としたときのPcとTmax及び(3)式で規定される領域にあれば、大きく減磁せず、軽量でコストパフォーマンスが高い上に熱安定性がさらに優れた磁石とすることができる。
【0061】
Tmaxの上限はR−Fe−N−H系材料のキュリー点付近であり、400℃を越えるが、磁石用固形材料磁石の組成や成分、磁石としての使われ方によりTmax上限は400℃以下の様々な値をとる。例えば、Znで被覆したHcJ=1.6MA/mであるR−Fe−N−H系材料を用いたとしても、Tmaxが220℃以上のとき、本発明の磁石として使用することは不可能である。
【0062】
本発明の磁石用固形材料により得られた磁石のPc0は、0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜10であり、Pc0、Br、HcJの値の組み合わせが(1)式の範囲を逸脱するときは、ヨークなどを装着してのちPc0を高めてから、着磁を行うことが好ましい。
【0063】
本発明の磁石用固形材料により得られた磁石の静磁場を用いた、各種アクチュエータ、ボイスコイルモータ、リニアモータ、ロータ又はステータとして回転機用モータ、その中で特に産業機械や自動車用モータ、医療用装置や金属選別機の磁場発生源のほかVSM装置、ESR装置、加速器などの分析機用磁場発生源、マグネトロン進行波管、プリンタヘッドや光ピックアップなどOA機器、アンジュレータ、ウイグラ、リターダ、マグネットロール、マグネットチャック、各種マグネットシートなどの装置並びに部品は、Pcの極めて小さなステッピングモータなどの特殊な用途を除いて、100℃以上の環境においても顕著な減磁が生ずることなく安定に使用することができる。
【0064】
用途によっては125℃以上の温度でも使用でき、例えばHcJ>0.7(MA/m)かつPc>1であるような場合が挙げられる。さらに、150℃以上での使用も可能で、例えばHcJ>0.8(MA/m)かつPc>2であるような場合が挙げられる。
また、これらの装置又は部品に用いるとき、本発明の磁石用固形材料を各種加工を施してから、各形状のヨークやホールピース、各種整磁材料を接着、密着、接合した上で組み合わせて用いても良い。
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、R−Fe−N−H系磁性材料の分解の度合いは、成形した磁石用固形材料のX線回折図(Cu−Kα線)をもとに、菱面体晶又は六方晶の結晶構造由来の回折線における最強線の高さaに対する、回折角2θが44度付近のα−Fe分解相由来の回折線の高さbの比b/aをもって判断した。この値が0.2以下なら分解の度合いは小さいと言える。好ましくは0.1以下である。さらに好ましくは0.05以下で、この場合、分解は略無いと言える。
【0066】
【実施例1】
図2は、水中衝撃波を用いた衝撃圧縮法を実施するための手段の一例を示す説明図である。
平均粒径60μmのSm2Fe17母合金をNH3分圧0.35atm、H2分圧0.65atmのアンモニア−水素混合ガス気流中、450℃で9ks窒化水素化を行った後、アルゴン気流中で3.6ksアニールを行い、その後ジェットミルにより2μmに粉砕した。この粉体を1.2MA/mの磁場中で磁場配向させながら圧粉成形を行うことにより得た成形体を、図2に示す如く、銅製パイプ1に入れて銅製プラグ2に固定した。さらに銅製パイプ3を銅製プラグ2に固定して、更に、この間隙に水を充填し、外周部に均一な間隙を設け、紙筒4を配置し、前記間隙中に200gの硝酸アンモニウム系爆薬5を装填し、起爆部6より前記爆薬を起爆し、爆薬を爆轟させた。この時の衝撃波圧力は、14GPaであった。衝撃圧縮後、パイプ1から固化したSm9.0Fe76.1N13.4H1.5なる組成の磁石用固形材料を取り出し、4.0MA/mのパルス磁場で着磁し、常温での磁気特性を測定した結果、飽和磁化Js=1.21T、残留磁束密度Br=1.19T、保磁力HcJ=0.73MA/m、最大エネルギー積(BH)max=243kJ/m3であった。又、アルキメデス法により密度を測定した結果、7.40g/cm3であった。このときのR−Fe−N−H系磁性材料の体積分率は96.2%であった。
また、X線回折法で解析した結果、固化した磁石用固形材料は殆どα−Fe分解相の析出は起きておらず、Th2Zn17型菱面体晶の結晶構造を有していることが確認された。
【0067】
爆薬量を調整して同様の実験を多数回繰り返した。
衝撃波圧力が15GPaより高いと、密度は7.45g/cm3を越える場合が多く、又、衝撃波圧力が40GPaより高いとα−Fe分解相等の分解物が生じることが確認された。又、この衝撃波圧力は、密度が6.15〜7.45g/cm3である磁石用固形材料をより再現性良く得るためには、衝撃波圧力を3〜15GPaとすることが好ましいことも分かった。
【0068】
【実施例2】
R−Fe−N−H系磁性材料の粉砕法をボールミルとすることと、R−Fe−N−H系磁性材料以外の成分、衝撃波圧力を表1に示したとおりとする以外は、実施例1と同様にして磁石用固形材料を作製し、4.0MA/mのパルス磁場で着磁してから、Br、HcJ、角形比Br/Js、(BH)maxを測定した。
その結果を表1に示した。HcJが0.81MA/mと大きい値であるにも関わらず、角形比が96%であった。その結果を図1中○で示し、通常の圧縮成形体の場合と比較した。
【0069】
【実施例3〜5】
R−Fe−N−H系磁性材料以外の成分、衝撃波圧力を表1に示したとおりとする以外は、実施例1と同様にして磁石用固形材料を作製し、実施例2と同様にしてそれらの各種磁気特性を測定した。その結果を表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
【比較例1】
平均粒径20μmのSm2Fe17母合金をN2ガス気流中、495℃で72ks窒化を行う以外は実施例1と同様な操作によりSm9.1Fe77.9N13.0磁性材料を得た。この粉体を2μmに粉砕し、実施例1と同様な方法により磁石用固形材料を作製した。この磁石を4.0MA/mのパルス磁場で着磁し常温での磁気特性を測定した結果、飽和磁化Js=1.22T、残留磁束密度Br=0.93T、保磁力HcJ=0.34MA/m、最大エネルギー積(BH)max=113kJ/m3であった。また,アルキメデス法により密度を測定した結果、7.23g/cm3であった。この材料のX線回折図には、Th2Zn17型菱面体晶の結晶構造以外にα−Fe分解相由来の回折線も観察された。回折角2θが44度付近におけるα−Fe分解相の回折線とTh2Zn17型菱面体晶の結晶構造を示す(303)最強線との強度比b/aは0.22であった。
【0072】
【比較例2】
図3に示す如く、実施例1における平均粒径2μmのR−Fe−N−H系磁性粉体を銅製パイプ1に入れて銅製プラグ2に固定し、外周部に均一な間隙を設け、紙筒4を配置し、前記間隙中に実施例1と同量の硝酸アンモニウム系爆薬5を装填し、起爆部6より前記爆薬を起爆し、爆薬を爆轟させた。衝撃圧縮後、パイプ1から固化した試料を取り出し、X線回折法により解析した結果、衝撃圧縮後はSmN相と多量のα−Fe分解相が生成していることが認められ、出発原料のSm−Fe−N−H化合物が分解していることが分かった。このときの強度比b/aは3.2であった。
【0073】
【実施例6及び比較例3、4】
平均粒径を2.5μmとしたSm9.0Fe76.4N13.5H1.1なる磁性粉体を用いることと衝撃波圧力を3GPa(実施例6)並びに23GPa(比較例3)としたこと以外は実施例1と同様にして磁石用固形材料を作製した。これらの磁石用固形材料の磁気特性を実施例1と同様にして測定した。その結果を表2に示した。
【0074】
また、これらの磁石用固形材料を正確に同形状の円盤に加工し、4.8MA/mのパルス磁場で着磁して、Pc0が2の磁石とした。これらの磁石を、125℃の恒温槽中で極力逆磁場が掛からないように注意して3.6Ms放置した。試料引き抜き式磁束測定装置を用いて、恒温槽放置前後の磁束の値を測定し、磁束の変化率、即ち不可逆減磁率(%)を求めた。結果を表2に示した。
不可逆減磁率は絶対値が小さいほど熱安定性が良いと判断できる。
また、公知の方法により磁性粉体積率60%でPc0が2の12−ナイロンをバインダとした射出成形ボンド磁石(比較例4)について、上記と同様にして不可逆減磁率を求めた。結果を表2に示した。
【0075】
【表2】
【0076】
以上の評価によって得られた結果は、PcがPc0と等しく、Tmax=125℃であるような用途を考えたとき、動作又は使用前後の減磁の度合いを調べるのに適切である。
【0077】
表2に示したとおり、比較例4のようにR−Fe−N−H系磁性材料の体積分率が80%未満であると磁性粉体同士が金属結合で固化していないために非常に低い熱安定性を示した。また、磁性粉体同士が金属結合で固化しているにも関わらず、Pc、Tmax、Br、HcJが(3)式を満たさない比較例3の熱安定性についても、[3]式を満たす実施例6よりかなり悪いことが判った。
【0078】
【実施例7及び比較例5】
実施例6の磁石を2個、ヨークを用いず固定してステータとしたブラシ付のDCモータを組み立て、コイルに一定の大きさの電力を与えながら100℃での環境下で36ks運転した(実施例7)。また、比較例3の磁石を用いて上記と同様にモータを組み立て同様に運転した(比較例5)。36ks後の回転数は、初期回転数が安定した直後に比べ、実施例7のモータで約2%、比較例5のモータでは約10%変化し、36ks後の回転数はどちらもほぼ510rpmで同等であった。比較例5のモータで用いた比較例3の磁石は、実施例7のモータで用いた実施例6の磁石より密度が17%も高く、R−Fe−N−H系磁石の体積分率が高いのにも関わらず上記モータとしたときのパフォーマンスは同じであった。
【0079】
【実施例8】
実施例6において、R−Fe−N−H系磁性材料以外の成分をZrO2とし、衝撃波圧力を14GPaとする以外は同様にして密度7.38g/cm3の磁石を作製し、実施例7と同様にしてモータを組み立て、100℃の環境下で運転した。その結果、実施例7と同等な成績が得られた。
【0080】
【発明の効果】
この発明は、特定組成、結晶構造の希土類−鉄−窒素−水素系磁性粉体等を圧粉成形し、水中衝撃波により衝撃圧縮することにより、自己焼結によらずに、分解、脱窒を防ぎ、軽量で高性能、特に熱安定性の高い希土類−鉄−窒素−水素系磁石用固形材料を得ることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【図1】Sm2Fe17N3H0.1磁性材料をボールミル粉砕して得た様々な粒径の磁性粉体を磁場圧縮成形した磁石用固形材料(●)及び実施例2の磁石用固形材料(○)の保磁力と角形比の関係を示した図である。
【図2】水中衝撃波を用いた衝撃圧縮法を実施するための手段の一例を示す説明図である。
【図3】比較例で使用した、爆薬の爆轟波を直接用いた衝撃圧縮法を実施するための手段を示す説明図である。
【符号の説明】
1 銅製パイプ(粉体を保持する為に使用)
2 銅製プラグ
3 銅製パイプ(水を保持するために使用)
4 紙筒(爆薬を保持するために使用)
5 爆薬
6 起爆部
Claims (12)
- 衝撃波圧力が3〜22GPaの水中衝撃波を用いて圧縮固化され、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料を80〜97体積%含有することを特徴とする磁石用固形材料。
- 衝撃波圧力が3〜22GPaの水中衝撃波を用いて圧縮固化され、密度が6.15〜7.45g/cm3であることを特徴とする菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素系の磁石用固形材料。
- 常温の残留磁束密度Br、常温の保磁力HcJ、磁石として使用するときのパーミアンス係数Pc及び最高使用温度Tmaxの関係が、μ0を真空の透磁率とするとき、Br≦μ0HcJ(Pc+1)(11000−50Tmax)/(10000−6Tmax)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁石用固形材料。
- 保磁力HcJが0.76MA/m以上で、しかも角形比Br/Jsが95%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁石用固形材料。
- 希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料以外の成分が密度6.5g/cm3以下の元素、化合物またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁石用固形材料。
- 希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料以外の部分に大気、不活性ガスのうち少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の磁石用固形材料。
- 希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料以外の部分に酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物、炭酸化物、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩のうち少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の磁石用固形材料。
- 希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料以外の部分に有機物を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の磁石用固形材料。
- 希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料又はこれと他の構成成分との混合物を衝撃波圧力が3〜22GPaの水中衝撃波を用いて圧縮固化することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
- 希土類−鉄−窒素−水素系磁性粉体を磁場中で圧粉成形した後、水中衝撃波を用いて圧縮固化することを特徴とする請求項9に記載の磁石用固形材料の製造方法。
- 磁石の静磁場を利用する装置に使用するための部品であって、請求項1〜8のいずれかに記載の磁石用固形材料を用いた部品。
- 磁石の静磁場を利用する最高使用温度Tmaxが100℃以上の装置であって、その部品として請求項11記載の部品を使用することを特徴とする装置。
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