JP5339644B2 - 磁石用固形材料の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高密度で高磁気特性を有し、熱安定性、耐酸化性に優れた希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁石用固形材料に関する。
また、本発明は、磁性材料粉体を衝撃圧縮して、分解や脱窒を防止しながら高密度・高性能の永久磁石を得る、磁石用固形材料の製造方法に関する。
高性能の希土類磁石としては、例えばSm−Co系磁石、Nd−Fe−B系磁石が知られている。前者は高い熱安定性と耐食性等により、また、後者は極めて高い磁気特性、低コスト、原料供給の安定性等によりそれぞれ広く用いられている。今日、更に高い熱安定性と高い磁気特性とを併せ持ち、原料コストの安価な希土類磁石が、電装用や各種FA用のアクチュエータ、あるいは回転機用の磁石として要望されている。
一方、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄化合物を、NHとHの混合ガス等の中で400〜600℃の比較的低温にて反応させる時、窒素原子及び水素原子が上記結晶、例えばThZn17型化合物の格子間位置に侵入して、キュリー温度や磁気異方性の顕著な増加を招来することが特許文献1に報告されている。
そして、近年、かかる希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料が前記要望に沿う新磁石材料として、その実用化への期待が高まっている。
窒素と水素とを金属間化合物の格子間に含有し、前記菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素系磁性材料(以下R−Fe−N−H系磁性材料という)は、一般に粉体状態にて得られるが、常圧下約600℃以上の温度ではα−Fe分解相と希土類窒化物相とに分解し易いため、自己焼結により固化して磁石用固形材料とすることは、通常の工業的方法では非常に困難である。そこで、R−Fe−N−H系磁性材料を用いた磁石としては、樹脂をバインダとしたボンド磁石が生産され使用されている。しかし、当該材料を用いて作られた磁石は、多くは400℃以上のキュリー温度を有し、本来200℃以上の温度でも磁化を失わない磁性粉体を使用しているにもかかわらず、非特許文献1によると、12−ナイロン樹脂などのバインダの耐熱温度が低いことと保磁力の温度係数が−0.5%/℃程度であるのに対し保磁力が0.6MA/mと小さいことが主な原因となって不可逆減磁率が大きくなり、概ね100℃未満の温度でしか使用されていない。すなわち、最近の高負荷の要求に対して、150℃以上の高温の環境下で使用される動力源としてのブラシレスモータ等を作る場合、このボンド磁石は使用することができないという問題があった。
また、樹脂をバインダとした圧縮成形ボンド磁石を製造する場合、充填率を向上させて高性能化するには、工業的に難しい1GPa以上の成形圧力が必要であり、金型寿命等を考慮すると、磁性材料の混合比率は体積分率で80%未満にせざるを得ない場合が多く、圧縮成形ボンド磁石によってはR−Fe−N−H系磁性材料の優れた基本磁気特性が十分に発揮できないという問題があった。
例えば、R−Fe−N−H系磁性材料を原料とするボンド磁石の中で、極めて高い磁気特性を有するものとして(BH)max=186kJ/mの圧縮成形ボンド磁石が非特許文献2にて報告されているが、従来のSm−Co系、Nd−Fe−B系焼結磁石等と比較して、R−Fe−N−H系磁性材料の高い基本磁気特性を十分に発揮しきれていない。
以上の問題点を解決するために、樹脂バインダを含まない希土類−鉄−窒素系磁性材料を用いた永久磁石の製造方法が特許文献2に提案されている。 しかしながら、当該方法によると、衝撃圧縮後の残留温度をThZn17型希土類−鉄−窒素系磁性材料の分解温度以下に抑制するためには、衝撃圧縮の際の圧力を一定の狭い範囲に限定しなければならないという欠点があった。これは、従来の衝撃波を用いた場合には、衝撃波自体の持続時間が短いにもかかわらず、磁性材料の温度が高く且つ長い時間にわたって保持される結果、磁性材料が非常に分解され易いからである。
しかも、当該方法によれば、得られたものの密度が、最高でも7.28g/cmにとどまるものであった。さらに、当該方法によれば、希土類−鉄−窒素系磁性材料の分解を十分に抑えられないため、保磁力も最高で0.21MA/mと低くとどまるものであった。
また、特許文献3には、大型でヒビや欠けのない成形体を得る目的で、円筒収束衝撃波を用いてThZn17型希土類−鉄−窒素系磁性材料を圧縮固化する方法が開示されているが、当該方法により得られる磁石においても、密度の最高値が7.43g/cm、保磁力の最高値が0.62MA/mと、まだ満足できるものではなかった。
他に、衝撃波圧縮により成形したThZn17型希土類−鉄−窒素系磁性材料の例としては、非特許文献3に報告されたものがあるが、10GPaでは充填率が低く20GPaではα−Fe分解相とSmN相への分解が進むため、各衝撃圧縮条件での成形体密度は必ずしも7.45g/cmを超えない場合が多く、又、磁気特性の最高値は保磁力0.57MA/m、(BH)max=134kJ/mと、ThZn17型R−Fe−N−H系ボンド磁石に対して十分高い磁気特性を有しているとは言えないものであった。
以上のように、高密度で分解がなく高磁気特性で、しかも熱安定性が良い磁石用固形材料が強く求められている。
これらの高性能磁石向けとは別に、一方で、家電・OA機器や電気自動車への用途において、軽量高性能化の方向も求められている。Sm−Co系磁石の密度が8.4g/cm程度、Nd−Fe−B系磁石の密度が7.5g/cm程度とこれらの磁石を搭載すると機器・ロータなどの重量が大きくなりがちであり、エネルギー効率の劣るものとなる場合があった。また、用途によっては磁気特性に余裕があるため磁石の小型化による軽量化が可能であっても、加工による歩留まりを考慮するとコスト的に必ずしも有利とは言えないものであった。例えば、切削屑は切削面積に比例するので体積が小さくなるほど製品の単位体積当たりの歩留まりは悪くなってしまう。
その欠点を補う各種ボンド磁石は上述のように熱安定性に劣るものなので、軽量でありながら高磁気特性であり、熱安定性に優れ、コストパフォーマンスの高い磁石はまだ開発されていない。
また、特許文献4に優れた磁気特性を有する希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料(以下R−Fe−N−H−O系磁性材料という)が提案されており、酸素成分を制御することにより、磁気特性、耐食性ともに優れた材料とした材料である。保磁力の向上に伴う安定した磁気特性を有することと耐酸化性が比較的高いために錆が発生しにくいことが大きな特徴とされる。
しかし、このR−Fe−N−H−O系磁性材料は特許文献5及び特許文献6に開示されているように、前述のR−Fe−N−H系材料を好適にボンド磁石として用いるために発明されたものであり、磁石用固形材料として応用された例は未だ報告されていない。
特許第2703281号公報 特許第3108232号公報 特開2001−6959号公報 特許第2708568号公報 特許第2857476号公報 特許第2708578号公報 電気学会技術報告第729号、電気学会編、第41頁 Appl.Phys.Lett.、第75巻、第11号、1601頁 J.Appl.Phys.第80巻、第1号、356頁
本発明の第1目的は、高密度で高磁気特性を有し、熱安定性、耐酸化性に優れたR−Fe−N−H−O系磁石用固形材料、及びその製造方法を提供することである。本発明は、着磁などよって磁化した状態である磁石も含んだ磁石用固形材料を提供する。
本発明者等は、上記課題について、鋭意検討した結果、磁気特性及び耐酸化性が優れたR−Fe−N−H−O系磁性材料を、磁場中若しくは無磁場で圧粉成形体にした後、水中衝撃波を用いて衝撃圧縮固化し、衝撃圧縮の持つ超高圧剪断性、活性化作用、短時間現象などの特徴を活かして、R−Fe−N−H−O系磁性材料を主として含有する磁石用固形材料を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
また、本発明者等は、上記水中衝撃波を用いた場合、R−Fe−N−H−O系磁性材料と硬磁性及び/又は軟磁性の粉体や固体、或いは非磁性材料の粉体又は固形材料を容易に一体化できることも見出し、本発明を完成した。
また、本発明者らは、更に、菱面体晶または六方晶の結晶構造を有するR−Fe−N−H−O系磁性材料を含有し、軽量で磁気特性とその安定性が高い磁石用固形材料を得るために、原料組成と含有率、その製造方法について鋭意検討したところ、窒素だけでなく水素、酸素をも含む磁性材料粉体を用い、その体積分率を80〜97体積%として、磁場中で圧粉成形体にした後、前記圧粉体を一定の衝撃波圧力を有する水中衝撃波で衝撃圧縮し、密度6.15g/cm以上で100℃以上でも使用可能な、金属結合又はイオン結合により固化したR−Fe−N−H−O系磁石用固形材料を容易に得ることができるという知見を得て、本発明を完成した。
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
(1)菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料を、80〜100体積%含有した磁石用固形材料の製造方法であって、
前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料が、一般式R α Fe 100−α−β−γ−δ β γ δ で表され、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素であり、又、α、β、γ、δは原子百分率で、5≦α≦20、10≦β≦25、0.1≦γ≦3.3、0.01≦δ≦10であり、
前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体を原料粉体全体に対して80〜100体積%含む原料粉体を3〜40GPaの水中衝撃波を用いて、衝撃圧縮固化することを特徴とする磁石用固形材料の製造方法。
菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料を、80〜100体積%含有した磁石用固形材料の製造方法であって、
前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料が、一般式RαFe100−α−β−γ−δβγδεで表され、RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素であり、MはZn,In,Sn、Ga、Al、B、C、Ca、Ge、Mg、Si、Ti、V、Zr、Co、Mnから選ばれる少なくとも1種の元素及び/又は、Mn−Al−C合金、Al−Cu−Mg合金、MgO、Al、ZrO、SiO、フェライト、CaF、AlF、TiC、SiC、ZrC、Si、ZnN、AlNから選ばれる少なくとも一種であり、又、α、β、γ、δ、εはモル百分率で、5≦α≦20、10≦β≦25、0.1≦γ≦3.3、0.01≦δ≦10、0.1≦ε≦10であり、
前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体を原料粉体全体に対して80〜100体積%含む原料粉体を3〜40GPaの水中衝撃波を用いて、衝撃圧縮固化することを特徴とする磁石用固形材料の製造方法。
)前記原料粉体が、前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体以外の成分として硬磁性材料の粉体を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の磁石用固形材料の製造方法。
)前記原料粉体が、前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体以外の成分として軟磁性材料の粉体を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の磁石用固形材料の製造方法。
)前記原料粉体が、前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体以外の成分として非磁性材料の粉体を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の磁石用固形材料の製造方法。
)前記原料粉体を圧粉成形した後、水中衝撃波を用いて衝撃圧縮固化することを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
)前記原料粉体の圧粉成形を磁場中で行うことを特徴とする()に記載の磁石用固形材料の製造方法。
)磁石用固形材料を切削加工及び/又は塑性加工により成形する工程を更に含むことを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
)磁石用固形材料を角柱状、円筒状、リング状、円板状又は平板状の形状に成形することを特徴とする()に記載の磁石用固形材料の製造方法。
10)磁石固形材料を少なくとも一度100℃以上且つ分解温度より低い温度で熱処理をする工程を更に含むことを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
11)前記水中衝撃波の圧力が3〜30GPaであることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
12)前記水中衝撃波の圧力が3〜22GPaであることを特徴とする(11)に記載の磁石用固形材料の製造方法。
ここで言う固形材料とは、塊状の材料のことを指す。さらに、ここで言う磁石用固形材料とは、塊状の磁性材料のことを指し、磁石用固形材料を構成する磁性材料の粉末同士が直接、または金属相若しくは無機物相を介して、連続的に結合し、全体として塊状を成している状態の磁性材料である。着磁によって磁化し、残留磁束密度を発現している状態を特に磁石と呼ぶが、磁石も又ここで言う磁石用固形材料の範疇に属する。
ここでいう希土類元素とは、周期表第IIIa族のYおよび原子番号57から71までのLa系列の15元素、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを指す。
ここで言う分解とは、R−Fe−N−H−O系磁性材料粉体の結晶構造が変化するのに伴ってα−Fe分解相が生じることであり、このα−Fe分解相の存在は磁気特性に悪影響を及ぼすので、上記のような分解は防止すべき現象である。但し、本発明で用いる原料の製造工程並びに本発明の磁石用固形材料を製造する工程で、酸素を含む層が非晶質化することがあるが、この現象を本発明でいう分解と区別する。
本発明のように、菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性粉体等を圧粉成形し、水中衝撃波を用いた衝撃圧縮をすることにより、バインダを必要とせず、自己焼結によらずに、又、分解、脱窒を防いで、高密度、高性能な磁石用固形材料を得ることを可能にする。さらに、軽量でありながら、高性能、特に磁気特性の安定性が高い磁石用固形材料を得ることを可能にする。
希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料と軟磁性の固形状金属を接合して一体化して得られた磁石用の固形材料の断面の一例を示す説明図である。 希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料層と軟磁性層が交互に積層され一体化した磁石用の固形材料の断面の一例を示す説明図である。 希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料を主として含有する層の周辺の一部又は全部を非磁性の固形状材料で覆った磁石用の固形材料の断面の例を示す説明図である。 磁石用固形材料の断面の一例を示す説明図である。 本発明の磁石固形材料を永久磁石同期モータに使用する場合における、表面磁石構造ロータの回転軸断面構造の一例である。 本発明の磁石固形材料を永久磁石同期モータに使用する場合における、表面磁石構造ロータの回転軸断面構造の一例である。 本発明の磁石固形材料を永久磁石同期モータに使用する場合における、埋込磁石構造ロータの回転軸断面構造の一例である。 本発明の磁石固形材料を永久磁石同期モータに使用する場合における、埋込磁石構造ロータの回転軸断面構造の一例である。 本発明の磁石固形材料を永久磁石同期モータに使用する場合における、埋込磁石構造ロータの回転軸断面構造の一例である。 本発明の磁石固形材料を永久磁石同期モータに使用する場合における、埋込磁石構造ロータの回転軸断面構造の一例である。 本発明の磁石固形材料を永久磁石同期モータに使用する場合における、埋込磁石構造ロータの回転軸断面構造の一例である。 本発明の磁石固形材料を永久磁石同期モータに使用する場合における、埋込磁石構造ロータの回転軸断面構造の一例である。 水中衝撃波を用いた衝撃圧縮法を実施する手段の一例を示す説明図である。 比較例で使用した、爆薬の爆轟波を直接用いた衝撃圧縮法を実施する手段の一例を示す説明図である。
以下、本発明について、特に好ましい態様を中心に詳細を説明する。
本発明の磁石用固形材料に用いられるR−Fe−N−H−O系磁性材料は、公知の方法により調製される。
例えば、希土類−鉄合金を高周波法、超急冷法、R/D法、HDDR法、メカニカルアロイング法、メカニカルグラインディング法などで調製し、数十〜数百μm程度に粗粉砕した後、窒素−水素混合ガス、アンモニア−水素混合ガスなどの雰囲気下で窒化水素化処理を行って微粉砕を行い、R−Fe−N−H−O系磁性材料を調製する。これらの工程中では、酸素源の種類、濃度を制御することが重要である。磁性材料の組成、合金の処理法や窒化法によっては粗粉砕や微粉砕を行わない場合もある。
本発明においては、工程のいずれかの段階で水素ガス、アンモニアガス、水素を含む化合物などの水素源と接触させ、窒素のみならず水素を導入することが重要である。即ち、R−Fe−N−H−O系磁性材料の水素量については、0.01原子%以上含むことが好ましい。この水素量が0.01原子%未満であると、しばしばα−Fe分解相及び希土類窒化物分解相が生じ、保磁力が低くなり、更に耐食性が低下する場合もあり好ましくない。水素量を0.1原子%以上含有しておれば、さらに好ましい磁石用固形材料の原料となる。
同様に、本発明においては、工程のいずれかの段階で粉体を処理する雰囲気、例えば粉砕工程中のガスや溶媒、容器等の粉砕治具、熱処理工程中のガス組成や真空度など、において溶存酸素、水分、酸化物など酸素を含む物質である酸素源と接触させ、制御しながら酸素を導入することが重要である。即ち、R−Fe−N−H−O系磁性材料の酸素量については、0.01原子%以上含むことが好ましい。この酸素量が0.01原子%未満であると、保磁力が低くなり、更に耐食性が低下する場合もあり好ましくない。さらに、保磁力が高く安定した材料を得るためには、この酸素量を好ましくは0.1原子%以上、さらに好ましくは1原子%以上とすることが望まれる。
また、粉砕雰囲気中の水蒸気量や水分量を制御するなどによって、水素と酸素を同時に制御しながら導入することも可能であるR−Fe−N−H−O系磁性材料の結晶構造としては、ThZn17型結晶構造等又はそれと同様な結晶構造を有する菱面体晶、又はThNi17、TbCu、CaZn型結晶構造等又はそれと同様な結晶構造を有する六方晶、さらにRFe14BN型、RFe14CN型やR(Fe1−y12型等又はそれと同様な結晶構造を有する正方晶などが挙げられ、そのうち少なくとも一種を含むことが必要である。この中でThZn17型結晶構造等又はそれと同様な結晶構造を有する菱面体晶、又はThNi17、TbCu、CaZn型結晶構造等又はそれと同様な結晶構造を有する六方晶が全体のR−Fe−N−H−O系磁性材料のうち50体積%以上含まれることが好ましく、ThZn17型結晶構造等又はそれと同様な結晶構造を有する菱面体晶が全体のR−Fe−N−H−O系材料のうち50体積%以上含まれることが最も好ましい。
本発明における全体の磁石用固形材料に対するR−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率は50〜100体積%とすることが好ましい。但し、R−Fe−N−H−O系磁性材料のみで磁石用固形材料が構成されている場合、或いは、ガス又は有機物との複合材料である場合は、全体の磁石用固形材料に対するR−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率は80〜100体積%であることが好ましい。80体積%未満であると磁性粉同士の連続的な結合が不十分であり、磁石用固形材料を成すことができない。但し、R−Fe−N−H−O系磁性材料以外に、希土類−鉄−ほう素系磁性材料などの硬磁性材料、Coなどの軟磁性材料、金属や無機物である非磁性相などが含まれるときは、それらの体積分率とR−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率を併せた値である固形材料体積分率が80〜100体積%の範囲にあれば良い。
ここでいう体積分率とは、磁石用固形材料の空隙を含めた全体の体積に対して磁性材料が占有する体積の割合のことである。
以上のR−Fe−N−H−O系磁性材料は、好ましくは0.1〜100μmの平均粒径を有する粉体状として得られ、磁石用固形材料の原料として供給される。平均粒径が0.1μm未満であると、磁場配向性が不十分となりやすく、残留磁束密度が低くなる傾向がある。逆に平均粒径が100μmを超えると材料組成によっては保磁力が低くなる場合があり、また密度を高くする製造条件が厳しくなる場合があるため、実用性に乏しくなる傾向にある。優れた磁場配向性を付与させるために、更に好ましい平均粒径の範囲は1〜100μmである。
また、R−Fe−N−H−O系磁性材料は、高い飽和磁化、高いキュリー点とともに、大きな磁気異方性を有することが特徴である。従って、単結晶粉体とすることができるR−Fe−N−H−O系磁性材料において、外部磁場により容易に磁場配向することができ、高い磁気特性を持つ異方性磁石用固形材料とすることができる。
高い磁化と保磁力を併せ持つ磁石用固形材料の原料として、R、Feの好ましい範囲は、それぞれ5≦α≦20、10≦β≦25である。
全体の充填率がほぼ100%で、本発明の方法で実現する強固な金属結合を有する磁石用固形材料を得るための原料粉体中のM成分の好ましい範囲は0.1≦ε≦10である。さらに金属バインダ磁石に比べ保磁力が高く、十分高い磁化を有する磁石用固形材料とするM成分の好ましい範囲は0.1≦ε≦5、更に好ましい範囲は0.1≦ε≦3である。磁化や(BH)max値を非常に高いものとするためには0.1≦ε≦1の範囲とすれば良いが、この場合保磁力の値が不安定になりやすい傾向がある。
Nd−Fe−B系焼結磁石は、磁気特性が極めて高く、VCMなどのアクチュエータや各種モータに多用されているが、表面が常温の大気中でも容易に酸化してしまうため、錆落ち防止の目的でニッケルメッキやエポキシ樹脂コーティングなどにより表面処理することが必須となる。
これに対して、R−Fe−N−H−O系磁性材料を用いた磁石の場合、上記の表面処理を必要としないか、或いは簡便なものとすることができる。即ち、コスト的に有利であるだけでなく、アクチュエータやモータとして使用する場合、ステータとロータ間のギャップが磁性の低い表面層分だけ狭く取れるので、回転や反復運動のトルクを大きく取れる利点があり、磁石の磁力を最大限活かすことができる。このため、例えば常温の(BH)max値がNd−Fe−B系磁石より劣る場合であっても、同様なパフォーマンスを発揮することができる。R−Fe−N−H−O系磁性材料を含有した磁石においては、表面処理を必要としない場合、常温の(BH)max値が200kJ/m以上であればコストパフォーマンスの優れた好ましい磁石となり、240kJ/m以上であれば更に好ましい。但し、本発明の中で、ピンニング型の磁化反転機構を持つ磁石用固形材料においては、原料磁性粉自体が熱安定性、耐食性に非常に優れるため、高温扁平用途では特に、常温の(BH)max値が200kJ/m未満であっても好適に用いられるが、その場合であっても常温の(BH)max値が100kJ/m以上あることが望ましい。
さらに、等方性の磁石用固形材料においては、さらなる低パーミアンス用途や多極着磁をして応用する場合に好適であって、その場合、常温の(BH)max値が150kJ/m未満であっても良いが、常温の(BH)max値が50kJ/m以上あることが望ましい。
本発明の磁石用固形材料における第1の態様は、7.45g/cmより高い密度を有することを特徴とするR−Fe−N−H−O系磁石用固形材料である。磁化及び磁束密度は充填率に比例するため、密度が小さくなるほど残留磁束密度が低くなり、最大エネルギー積が低下するので、一般に充填率が高い磁石用固形材料ほど高性能磁石用として好適に用いられる。また、R−Fe−N−H−O系磁石材料は多くの場合微粉体であるため、連続孔であるボイド等の酸素の通り道が多く存在すると、微粉体の表面が酸化劣化して保磁力が低下する要因となる。従って、材料組成・用途によっては、十分に密度を上昇させ、表面からの酸素の進入を防ぐことが必要であり、充填率は95%以上、好ましくは98%以上であることが要求され、特に表面近くの充填率は100%近いことが要求される場合がある。
ここに言う充填率とは、本発明の磁石用固形材料がR−Fe−N−H−O系磁性材料のみで構成されている場合、R−Fe−N−H−O系磁石用固形材料の密度と真密度との比である。また、ここで言う真密度とは、X線から求められる、R−Fe−Nユニットセルの体積vと、そのユニットセルを構成する原子の原子量の総和wから求められる密度w/vのことであり、一般にX線密度Dxと呼ばれるものであり、磁石用固形材料の密度Dmは、アルキメデス法や体積法などのマクロな方法で求めることができる。
酸化劣化が顕著となる材料組成、用途の組み合わせにおいては、磁石用固形材料の密度は、7.45g/cmより大きいことが好ましく、7.50g/cmより大きいことが更に好ましく、7.55g/cmより大きいことが更に好ましく、7.60g/cm以上であることが最も好ましい。また、原料の組成にもよるが、密度が8.0g/cmを超えると、逆に、高磁気特性を有するR−Fe−N−H−O相以外の相が生じ、磁気特性が低下する場合が多いので好ましくない。なお、酸化劣化とは、外界の酸素源によって、磁石用固形材料の磁気特性などに対し望ましくない酸素付加とそれに伴うR−Fe−N−H−O系磁性材料の分解を伴う現象で、本磁石用固形材料並びにその原料粉体への酸素導入とは性質の異なるものである。
製造方法や条件によっては、磁石用固形材料の体積が大きくなるほど、内部における充填率が下がる場合があるが、その場合であっても、表面層の充填率が充分上がっていてその厚みが充分大きければ、実用磁石として供することができる。
しかし、磁石用固形材料がR−Fe−N−H−O系材料のみで構成され、残部が大気である場合の密度が6.15g/cm以下であると、いかなる形態、体積の磁石を形成する場合においても磁石内にボイドを多く含み、しばしば衝撃や負荷により欠けや崩壊へと発展するヒビ、割れの原因となったり、上記のような保磁力低下をきたす傾向がある。
本発明の方法によれば、R−Fe−N−H−O系磁性材料のみを原料として5cm以下の磁石用固形材料を調製する場合、7.60g/cmを超える密度を有するものが比較的容易に得られるが、例えば0.1mの体積を有する磁石用固形材料を作製した場合において、形態によっては内部に7.45g/cm以下の密度の部分が生じることがある。しかし、そのような場合にあっても、表層部において一部でも7.60g/cmを超える密度を有する磁石用固形材料となっている場合は、耐酸化性を有し、高磁気特性であって、本発明の磁石用固形材料の範疇に属するものと言うことができる。
ところで、水素を含有しないThZn17型R−Fe−N系磁性材料は、磁気特性の最適化を図ろうとした場合、窒素量がRFe17当たり3個より少なくなり、熱力学的に不安定なRFe173−Δ相が生じる。この相は、熱的、機械的なエネルギーにより容易にα−Fe分解相と窒化希土類とへ分解する結果、従来の衝撃波圧縮法によっては高性能な磁石用固形材料とはなり得ない。
これに対し、水素が上記で規定される範囲内に制御されれば、通常、その主相は熱力学的に安定なRFe17相又は余剰な窒素を含むRFe173+Δ相(通常xは0.01〜2程度の範囲)になって熱的、機械的なエネルギーによるα−Fe分解相及び窒化希土類への分解は、Hを含まないThZn17型R−Fe−N系磁性材料に比べて顕著に抑制される。
このことは、密度が高く、高磁気特性で、熱安定性、耐酸化性の優れた磁石用固形材料を得るための重要な知見に他ならない。
また、R−Fe−N−H−O系原料粉体中の酸素はこの安定なRFe17相内に必ずしも全量含まれる必要はなく、この強磁性層の周りに局在し、R−Fe−N−H−O、R−Fe−H−O、R−Fe−O、R−Fe−N−H−O−M、R−Fe−H−O−M、R−Fe−O−MなどのR、Fe、N、H、Mのうち少なくとも1種とOを含む任意の組成の非晶質相を形成している構造を取ることが磁気特性の安定上好ましい場合がある。このような磁性粉体の構造の一例として、J.Alloys and Compounds.、第193巻、235頁には、ある条件で作製した強磁性を示すR−Fe−N−H−O微粉体の表面に、酸素が富化された100nm程度の非晶質層が存在する構造を取ることが報告されている。この酸素を多く含む層が分解し、α−Fe分解相に変化すると保磁力が大きく低下する。従来の衝撃波圧縮法によっては、この非晶質相の分解も誘発されるため、従来法によりR−Fe−N−H−O系材料が高性能な磁石用固形材料となりにくいもうひとつの理由になっている。
本発明で用いるR−Fe−N−H−O系磁性材料は、ニュークリエーション型、ピンニング型、エクスチェンジスプリング型、交換結合型など磁化反転のメカニズムが異なる各種磁性材料を磁石用固形材料とすることができる。これら全ての磁性材料は、いずれも600℃を超える温度で分解反応が生じるため、高温で高密度化する焼結法によっては磁石用固形材料とすることができないものであり、本発明の衝撃圧縮法を用いて成形することが非常に有効な材料群である。
上述のように、R−Fe−N−H−O系磁性材料はHを含まないR−Fe−N系磁性材料に比べて、熱的・機械的エネルギーによる分解が顕著に抑制されるが、仮に、これが分解して、約100nmを超える粒径の大きなα−Fe分解相と希土類窒化物相とが生じた場合、高価な希土類が多く含まれているのにも関わらず、α−Fe分解相が逆磁区の芽となり、保磁力が大きく低下して好ましくない。
そこで、予めR−Fe−N−H−O系磁性材料の副相として、Fe、Co、Fe−Co、パーマロイなどのFe−Ni、Fe−Co−Ni及びそれらの窒化物、さらに以上の成分と前記したM成分との合金、化合物などの軟磁性相を含有する場合、かかる軟磁性相の粒径または厚さが5〜100nm程度となるように調製することによって、実用的な保磁力を維持できる上に、高価な希土類の量を節約することができ、コストパフォーマンスの高い磁石が得られる。
これらの軟磁性副相は、特にR−Fe−N−H−O系磁性材料の残留磁束密度を向上させる効果を有する。しかし、軟磁性相の粒径または厚さが5nm未満であると飽和磁化が小さくなってしまい、又、100nmを超えると軟磁性相と硬磁性相並びに軟磁性相同士の交換結合による異方性を保持できなくなり、逆磁区の芽となって保磁力が低くなるので、好ましくない。
このような微構造を達成するために、R−Fe原料の作製法として、M成分を加え、超急冷法によりR−Fe−M原料とする公知の方法や、メカニカルアロイング法又はメカニカルグラインディング法などの公知の方法、又はそれに準じた粉砕法でR−Fe又はR−Fe−M原料を作製するなどの方法を採用できる。
また、このとき、軟磁性副相の量は5〜50体積%であることが好ましい。5体積%未満であると、保磁力は比較的高くなるが、残留磁束密度がR−Fe−N−H−O系材料単独の場合よりさほど高くならず、50体積%を超えると逆に残留磁束密度は高くなるが保磁力が低下し、何れも高い(BH)maxが得られない傾向がある。より好ましい軟磁性相量の範囲は10〜40体積%である。
更に、Nd−Fe−B系などの希土類−鉄−ほう素系磁性材料、SmCo系やSmCo17系のような希土類−コバルト系磁性材料、フェライト系磁性材料などの硬磁性粉体のうち一種又は二種以上を、50体積%以下の範囲内で、R−Fe−N−H−O系磁性材料と混合することにより、用途に応じて磁気特性、熱安定性、コストなどの各種実用化要件が最適化された磁石用固形材料を得ることができる。
一般に、希土類−鉄−ほう素系材料を多く含む程、磁気特性全般が高くなるが、耐食性が低下する上にコスト高となり、希土類−コバルト系磁性材料を多く含む程、熱安定性が向上するが、磁気特性が低下し、コストが高くなり、フェライト系磁性材料を多く含む程、コストが安くなり、温度特性は向上するが磁気特性が大きく低下する。R−Fe−N−H−O系磁性材料と極端に粒径の異なる他の磁性材料を混合すると、充填率を上げる条件がより広くなる利点がある。
本発明の磁石用固形材料は、特に保磁力が高く角形比の高い磁石とすることを目的として、R−Fe−N−H−O系磁性材料の粒界に非磁相を存在させることができる。
その方法としては、特許第2739860号公報及び特許第2705985号公報を初めとする公知の方法、例えば、磁性粉体と非磁性成分を混合して熱処理する方法、磁性粉体表面をメッキ処理する方法、磁性粉体表面に各種蒸着法により非磁性成分をコーティングする方法、磁性粉体を有機金属で処理し該有機金属を光分解させることにより金属成分として粉体表面をコーティングする方法等が挙げられる。さらに、R−Fe−N−H−O系磁性材料と非磁性成分を混合し圧縮成形した後、衝撃波により圧縮する方法も可能である。この磁石用固形材料の特徴は強固で緻密な粒界構造を有するため、金属バインダ磁石より少ないバインダで高い保磁力、充填率を達成でき、耐酸化性が良好となるのである。これらの材料において、R−Fe−N−H−O系磁性材料粉体同士が一部でも非磁性相を介さない強固な結合を有しておれば、機械的強度も満足する磁石用固形材料とすることができる。
非磁性成分としては、無機成分、有機成分のいずれも可能であるが、Zn、In、Sn、Ga等の融点が1000℃以下、好ましくは500℃以下の各低融点金属が好ましく、中でもZnを用いると飛躍的に保磁力が上昇し、熱安定性も向上する。高い磁気特性を実現するためには、予めR−Fe−N−H−O系磁性材料に含まれている量も含めて非磁性相の体積分率は、10体積%以下が好ましく、更に5体積%以下が好ましく、3体積%以下であると最も好ましい。又、0.1体積%未満であると保磁力に与える非磁性相の効果がほとんど見られなくなる。
本発明の磁石用固形材料は、軟磁性の固形金属材料と接合して一体化することにより、より高いコストパフォーマンスを実現することができる。Fe材、Fe−Co材、珪素鋼板などをR−Fe−N−H−O系磁石用固形材料と組み合わせることにより、磁束密度を増強することができ、更に、表面にそれらの材料やNi若しくはNiを含有する材料を張り合わせることで、加工性や耐食性をさらに増すこともできる。
R−Fe−N−H−O系磁石用固形材料と軟磁性材を接合一体化した例を図1、図2に示す。
図1は、R−Fe−N−H−O系磁性材料(硬磁性層)と軟磁性の固形状金属(軟磁性層)とを接合して一体化して得られた磁石用固形材料の断面の一例を示す。
図2は、R−Fe−N−H−O系磁性材料層(硬磁性層)と軟磁性層が交互に積層され一体化された磁石用固形材料の断面の一例を示す。図2のような構成にすると、磁石の表面磁束密度を損なうことなく、低コスト化が図れる。
本発明の特徴として、R−Fe−N−H−O系磁性材料粉体と軟磁性バルク材又は粉体とを混合することなく、同時に仕込んで衝撃波圧縮した場合、R−Fe−N−H−O系磁性材料の固化と軟磁性材との一体化を同時に行うことが出来、後工程で一体化の為の、切り出し、溶接、接着剤などによる接着を行う必要がないため、コストメリットが大きい。
本発明の磁石用固形材料は、図3に示すように、その表面の一部又は全部を非磁性の固形材料で覆うことができる。
図3は、非磁性体で覆われた磁石用固形材料の断面を例示する。表面全てを非磁性体で覆うような磁石用固形材料は、耐食性を増す効果もあって、高温高湿の過酷な環境での用途では磁気特性を若干犠牲にしてでも非磁性体の被覆をした方が好適な場合もある。非磁性体としては、分解温度や融点の高い有機物、高分子、無機物、非磁性金属などが挙げられるが、熱安定性が特に要求される用途では非磁性金属や無機物による被覆が好ましい。この場合も又、R−Fe−N−H−O系磁性材料粉体と非磁性固形材料又は粉体とを混合することなく同時に仕込んで、衝撃波圧縮した場合、R−Fe−N−H−O系磁性材料の固化と非磁性材との一体化を同時に行うことができる。
磁石用固形材料を異方性化し、磁石とするために、通常着磁を行うが、この際に磁石用固形材料に大きな衝撃が加わり、緻密に固化したR−Fe−N−H−O系磁石用固形材料をもってしても、割れ欠けの原因となる場合がある。そのため、着磁場や着磁方法によっては、磁石表面の一部又は全部を非磁性の固形材料で覆うことにより耐衝撃性の高い磁石用固形材料とすることが好ましい。
図4は、本発明の他の磁石用固形材料の断面の一例を示すものである。即ち、R−Fe−N−H−O系磁性材料と軟磁性体及び非磁性体を組み合わせることにより、図4に示すような磁石用固形材料を形成することもできる。
本発明の磁石用固形材料は、着磁後の磁気特性に優れることが特徴である。R−Fe−N−H−O系材料が磁気異方性材料であった場合、圧縮成形時に80kA/m以上、好ましくは800kA/m以上の磁場で、磁性粉体を磁場配向することが望ましい。更にまた、衝撃波圧縮成形後に1.6MA/m以上、より好ましくは2.4MA/m以上の静磁場若しくはパルス磁場で着磁することにより、残留磁束密度及び保磁力を増加させることが望ましい。
R−Fe−N−H−O系磁性材料が等方性材料である場合、圧縮成形時の磁場配向は不要であるが、上記のような着磁を行って、充分磁気的に異方化することが必須となる。
また、本磁石用固形材料を着磁し、磁石として使用する場合、その用途によっては多種多様な形状が要求される。本磁石用固形材料は、樹脂バインダを含まず、且つ密度が高く、切削加工及び/又は塑性加工により、任意の形状に、通常の加工機で容易に加工することができる。特に、工業的利用価値の高い角柱状、円筒状、リング状、円板状又は平板状の形状に、容易に加工できることが大きな特徴である。一旦これらの形状に加工した後、さらにそれらに切削加工などを施し、瓦状や任意の底辺形状を有する四角柱などに加工することも可能である。即ち、任意の形状から、円筒面を含む曲面、平面により囲まれたあらゆる形態に、容易に切削加工及び/塑性加工を施すにより成形することができるのである。ここで言う切削加工とは、一般的な金属材料の切削加工であり、鋸、旋盤、フライス盤、ボール盤、砥石などによる機械加工であり、塑性加工とは、プレスによる型抜きや成形、圧延、爆発成形などである。また、冷間加工後のひずみ除去の為に、当該磁性材料粉体の分解温度以下での焼き鈍し等の熱処理を行うことができる。磁性材料粉体の組成によっては、塑性加工により、磁気異方性を付与したり強化したりすることができ、また熱処理と組み合わせることにより保磁力の調整を行うことも可能である。熱処理は、後述する衝撃波圧縮の後、生じた歪みを焼鈍したり、微細組織の調整を行い各種磁気特性を向上させるために用いることができる。更に、R−Fe−N−H−O系磁性材料に低融点金属を含む場合などにおいて、圧粉成形と同時に或いはその前後に熱処理を行って磁性粉間の仮結合を強固なものとし、その後の取り扱いを容易にすること等にも利用できる。熱処理温度としては100℃以上且つ分解温度未満の範囲で選ばれ、上述の例以外にも本発明の磁石用固形材料を製造する各工程前、中、後、さらに本発明の磁石用固形材料用に選択した原料作製工程等の任意の段階で熱処理を実施することができる。
本発明の磁石用固形材料における第2の態様は、R−Fe−N−H−O系磁性材料を80〜97体積%含有した材料である。この態様は、軽量でありながら磁気特性とその安定性が優れる磁石用固形材料を提供しようというもので、第1の態様とはその目的が全く異なるものである。この態様においては、R−Fe−N−H−O系材料以外の3〜20体積%の部分は、用途や材料組成によっては大気であっても良いが、真空、或いは密度6.5g/cm以下の元素、化合物、またはそれらの混合物であってもよい。
本発明の第2の態様である磁石用固形材料の密度は、その特徴を活かすために、6.15〜7.45g/cmとすることが好ましい。6.15g/cm未満であってもR−Fe−N−H−O系磁性材料の成分が80体積%以上となる場合は好ましい場合がある。また、R−Fe−N−H−O系磁性材料を97体積%以下としても7.45g/cmを越える場合があり、既存の固形磁石に比べ軽量である本発明の磁石用固形材料の特徴が活かせなくなることもある。例えば、SmFe170.1磁性材料の真密度は7.69g/cm(IEEE Trans.Magn.、MAG−28、2326頁、及びICDDによるPowderDiffraction File WZ1430を参照)であるが、磁性材料以外の部分が充分無視できるほど密度の低いガスなどであったとして、酸素量が0.1原子%以下で磁性材料の含有率が80〜97体積%のとき、R−Fe−N−H−O系磁石用固形材料の密度は6.15〜7.46となる。
なお、本発明の磁石用固形材料は、多結晶体であり、R−Fe−N−H−O主相と異なった界面相を含む場合もあるため、ボイドが無い状態であってもDmは必ずしもDxに一致しない。従って、本発明においては、磁石用固形材料のパッキングの度合いを充填率Dm/Dxで判断するより、Dm自体の値を目安とする方が適切である場合が多い。
R−Fe−N−H−O系材料の組成や磁性材料以外の部分の種類により、R−Fe−N−H−O系材料の体積分率と密度の関係は変わるが、熱安定性の良い磁石用固形材料とするために80体積%以上の磁性材料含有率が求められ、軽量である磁石用固形材料とするために7.45g/cm以下の密度が求められるので、より好ましい磁石用固形材料は、R−Fe−N−H−O系磁性材料を80〜97体積%含有し、しかも密度が6.15〜7.45g/cmの範囲にあるものである。
さらに好ましいR−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率または磁石用固形材料の密度の範囲を述べると、特に熱安定性が要求される用途には83〜97体積%であって密度6.35〜7.45g/cmの範囲が選ばれ、機械的強度、磁気特性、熱安定性に非常に優れる軽量な磁石とするためには、85〜96体積%であって密度6.50〜7.40g/cmの範囲が選ばれる。
本発明の磁石用固形材料において、R−Fe−N−H−O系磁性材料以外の成分は密度6.5g/cm以下の元素、化合物またはそれらの混合物であることが好ましい。密度が6.5g/cmを越える元素などであると、磁性材料の体積分率を80%に限定しても、磁石用固形材料全体の密度が7.45g/cmを越える場合が多く、軽量である本発明における第2の態様の特徴が活かせなくなるので好ましくない。
密度6.5g/cm以下の元素としては、Al、Ar、B、Be、Br、C、Ca、Cl、F、Ga、Ge、H、He、Kr、Mg、N、Ne、O、P、S、Se、Si、Te、Ti、V、Y、Zrなどが挙げられる。また、これらの化合物、合金や、密度6.5g/cm以上の元素が含まれている場合においても、Mn−Al−CやAl−Cu−Mg合金などのように化合物や合金において密度6.5g/cm以下となるもの、或いは体積比で1:1のBi−Alなどの混合物において密度6.5g/cm以下となるものなどを選択することが好ましい。
R−Fe−N−H−O系磁性材料以外の部分が密度6.5g/cm以下であるガス、例えば、窒素ガス、He、Ar、Neなどの不活性ガスのうち少なくとも1種や水素ガス、アンモニアガスのような還元性ガスであっても良い。これらの磁性材−ガス複合磁石用固形材料は軽量であることが特徴である。
また、R−Fe−N−H−O系磁性材料以外の部分が密度6.5g/cm以下のMgO、Al、ZrO、SiO、フェライトなどの酸化物、CaF、AlFなどのフッ化物、TiC、SiC、ZrCなどの炭化物、Si、ZnN、AlNなどの窒化物などであっても好ましく、その他、水素化物、炭酸化物、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩またはそれらの混合物であっても良い。
この中で、特にBaO・6Fe系、SrO・6Fe系、La添加フェライト系などの硬磁性フェライト、場合によってはMn−Zn系、Ni−Zn系軟磁性フェライトなどを含有させることにより、磁気特性やその安定性を向上させることができる。これらの磁性材−無機物複合磁石用固形材料は機械的強度が高く、熱安定性や磁気特性に優れる。
さらに、R−Fe−N−H−O系磁性材料以外の部分が密度6.5g/cm以下の有機物であっても良い。例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、全芳香族ポリエステルなどエンジニアリング樹脂と呼称される樹脂や液晶ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、弗素樹脂など、耐熱性の熱可塑性或いは熱硬化性樹脂を初め、シリコーンゴムなどの有機ケイ素化合物、カップリング剤や滑剤などの有機金属化合物など、ガラス転移点、軟化点、融点、分解点が100℃以上の有機物であるならば本発明の磁石用固形材料の成分として用いることができる。
但し、その体積分率は20%以下、好ましくは17%以下、さらに好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下であって、R−Fe−N−H−O系磁性材料の金属結合による固化を妨げるものであってはならない。この磁性材−有機物複合磁石用固形材料は、軽量なわりに耐衝撃性に優れる。但し、高温高湿度の過酷な環境においては、磁性材−有機物複合磁石用固形材料を用いない方が良い場合がある。
本発明の磁石用固形材料のR−Fe−N−H−O系磁性材料以外の部分に、上記のガス、無機物、有機物のうち2種以上を同時に含有することができる。例えば、大気である空隙を有し、シリカを分散したシリコーンゴムを含有したR−Fe−N−H−O系磁性材−無機物−有機物複合磁石用固形材料、空隙に不活性ガスである窒素ガスを充填し、シリカを分散したシリコーンゴムを含有したR−Fe−N−H−O系磁性材−ガス−無機物−有機物複合磁石用固形材料などであり、それぞれの成分の特徴を活かして、用途により使い分けることが望ましい。
ところで、R−Fe−N−H−O系磁性材料を用いた本発明の磁石用固形材料のうちで、次のような特徴的な微構造を有する材料群がある。80体積%以上の充填率を有し、磁性粉同士連結し連続相を成していると同時に、酸素が富化された非晶質部分のみでも連続相を成し、大部分の原料粉体内に存在していた結晶相がそれぞれ非晶質相の中で孤立しているような構造である。結晶相があたかも島のように非晶質相の海に浮かんでいる、一種の海−島構造を成していると言える。
結晶相は酸素を含まないか、又は非晶質相より酸素量が少ない。この傾向から、結晶相は特に磁化の高い強磁性相となり、非晶質相は非磁性相又は常磁性体も含めた磁化の低い相となりやすい。しかもこの結晶相と非晶質相が強固に結合し一体となって本発明の磁石用固形材料を形成するため、機械的強度が高く、磁気特性、特に角形比が高く、磁気特性の安定性、特に保磁力の安定性が高い材料となる。
この海−島構造におけるR−Fe−N−H系或いはR−Fe−N−H−O系結晶相の体積分率は25体積%以上で有る方が磁化及び(BH)maxが大きくて実用的である。好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは75体積%以上である。勿論、海(非晶質相)、島(結晶相)双方とも本発明のR−Fe−N−H−O系磁性材料の一部を形成するものであるために、海と島の両方の体積分率を足した値が、また場合によってはそれにM成分の体積分率を加算した値が、R−Fe−N−H−O系磁性材料の磁石用固形材料全体に対する体積分率となる。
以上のような構造を有する磁石用固形材料を製造するときには、非晶質相が分解して磁気特性及びその安定性を悪化させないように衝撃波圧力を小さい範囲に制御する必要がある場合が多い。
本発明の磁石用固形材料は、常温の残留磁束密度B、常温の保磁力HcJ、磁石として使用するときのパーミアンス係数P及び最高使用温度Tmaxの関係が、μを真空の透磁率とするとき、
≦μcJ(P+1)(11000−50Tmax)/(10000−6Tmax
であれば更に望ましい。
上記の関係式は、磁石が顕著な減磁をしない条件を定める式であるが、その意味について以下に補足する。ここに顕著な減磁とは、不可逆でかつ大きな減磁のことを指し、例えば1000時間以内に不可逆減磁率で−20%を越えるような減磁を言う。
磁石の逆磁場に対する磁化の変化を表すB−H曲線上における屈曲点のH座標は、角形比がほぼ100%であるとき、ほぼHcJの値となる。磁石の動作点が、屈曲点より高磁場側に来ると急激に減磁して、磁石の有する性能を有効に発揮させることができないので、動作点は屈曲点よりも低磁場側にあるべきである。従って、磁石の形状によって決まる反磁場に対する磁束密度の比を内部パーミアンス係数Pc0、磁石として磁気回路や装置に組み込んだ後、運転中磁石に掛かる逆磁場の大きさによって定まる各動作点でのパーミアンス係数の中で最小のパーミアンス係数をPとするとき、Pc0とPのうち小さい方の値をPcminとすれば、少なくとも下記式(1)の範囲内でなければ、顕著な減磁が生じてしまう。
Figure 0005339644
(1)式は室温における条件式であり、温度T℃においては、残留磁束密度の温度係数[α(B)]、保磁力の温度係数[α(HcJ)]を用いて、下記式(2)と書き改めることにより、大幅な減磁が生じない条件が決定される。
Figure 0005339644
ここでPc0がPより小さく、着磁しても磁場を取り去るとすぐに減磁してしまう場合は、予めヨークなどに磁石を組み込んでから着磁することによって顕著な減磁を回避することができるが、少なくとも(2)式によって定める条件を満たしていなくては磁石の使用による顕著な減磁を免れることはできない。
R−Fe−N−H−O系材料の組成や温度領域によってα(B)、α(HcJ)の値は変わるが、ほぼα(B)は−0.06%/℃、α(HcJ)は−0.5%/℃である。α(B)の値に比べてα(HcJ)の値の方が絶対値が大きく、両者とも負の値なので、Tが高いほど(2)式を満たす正の値の組み合わせ(B、HcJ)の領域は小さくなる。従って、本発明の磁石用固形材料を用いて成る磁石が、パーミアンス係数Pの条件で使用される場合、動作中最も高くなる温度Tmax℃により決定される(2)式の範囲にB及びHcJを制御することにより、磁石の減磁を緩和することができることになる。
(2)式にT=Tmax、α(B)=−0.06、α(HcJ)=−0.5を代入し、整理すると下記式(3)のようになる。
Figure 0005339644
即ち、磁石としたとき、B、HcJ、P、Tmax が(3)式を満たせば、顕著な減磁が起こらない磁石であるということができる。また、(3)式によれば、HcJが大きいほど、Bの取りうる値は大きくなる。熱安定性が高く、高磁気特性の磁石とするためには、HcJが0.62MA/mを越える磁石用固形材料とする方が好ましい。
本発明の磁石用固形材料において、最も好ましい態様は、磁性材料体積分率を上げることにより、Brを増加させた磁石用固形材料、具体的には、ThZn17型結晶構造等又はそれと同様な結晶構造を有する菱面体晶を有するR−Fe−N−H−O系磁性材料を、充填率を95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上とすることで、磁石用固形材料の密度を、7.45g/cm以上、より好ましくは7.50g/cm以上、最も好ましくは7.60g/cm以上とし、常温における最大エネルギー積(BH)maxを高くした磁石用固形材料が、目的とする使用環境において(3)式を満足する磁気特性を有する磁石用固形材料である。
ところで、磁性材料の体積分率を上げることにより、Bを大きくして常温の最大エネルギー積(BH)maxが高い磁石用固形材料としたとしても、Tmaxが例えば100℃以上であるような高い温度であって(3)式の範囲を逸脱すれば、減磁が顕著となり、磁性材料の体積分率が低くBの小さい磁石用固形材料とパフォーマンスが変わらなくなってしまう場合がある。つまり、PとTmaxの組み合わせと磁石用固形材料のHcJによっては、R−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率を上げてBを大きく取る意味がない。むしろ、磁性材料の体積分率を下げた方が軽量でコストパフォーマンスの高い磁石用固形材料となるのである。
具体的な例を挙げて説明する。HcJ=0.62MA/mであるようなR−Fe−N−H−O系磁性粉体を原料とし、衝撃波圧縮を用いれば、ある条件でほぼ100%の体積分率を有する磁石用固形材料とすることができる。このときのBは1.2Tを越える。
しかし、P=1、Tmax=100℃である用途の場合、(3)式から、Bを0.99T以上とする必要はない。即ち、この場合、0.99Tより高いBを有した磁石用固形材料であったとしても磁石の動作又は使用によって減磁して、0.99TのBを有した磁石とパフォーマンスは変わらなくなるのである。従って、磁性体の体積分率をむしろ83〜85%程度に下げて、B=0.99T程度の磁石とし、軽量かつコストの安い磁石とする方が好ましい。
上記は、磁石の形状または磁気回路、動作によって決まる最小のパーミアンス係数、及びB、HcJ、α(B)、α(HcJ)といった磁性材料の磁気的な特性によって決まる熱安定性について述べたものであり、一般に磁石の温度特性とも言われる性質である。
この他に、熱安定性が低下する大きな原因としては、磁性粉体同士が、充分金属結合により接合して固化していないことが挙げられる。本来、永久磁石は外界に静磁ポテンシャルを作るために、結晶の容易磁化方向を揃えているが、磁気的に非平衡な状態であるため、磁性粉体同士が充分結合され固定されていない状態であると、各磁性粉がマトリックスの中で回転するなどして容易磁化方向の向きを変え、蓄えられた静磁エネルギーが徐々に小さくなっていく。
磁性粉充填率が80%未満の材料、例えばボンド磁石などは、100℃以上の高温で樹脂が軟化あるいは劣化すると比較的容易に上記のような緩和が起こり、顕著な減磁が生じることになる。ボンド磁石は、その名のとおり、バインダによりボンディングされている磁石であって、金属結合やイオン結合により固化された磁石ではない。熱安定性の不足はそのことに起因する問題点であるといえる。一方、本発明の材料のうち、磁性粉体積分率が80%以上、好ましくは83%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上であれば、磁性粉同士が金属結合で固化しており、このような緩和は起こらない。以上のように、100℃以上で満足する熱安定性を達成するためには、その材料の磁気特性と用途に応じて、磁性材料の体積分率の下限と上限を特定の範囲に設定する必要がある。
本発明の磁石用固形材料は、特別な方法によらなくとも、磁石としたときの保磁力HcJが0.76MA/m以上で、しかも角形比B/Jが95%以上である磁石用固形材料とすることもできる。但し、Jは常温の飽和磁化であり、本発明においては外部磁場を1.2MA/mとしたときの磁化の値とする。
例えば、SmFe170.1材料は、ニュークリエーション型の磁場反転機構を持つため粒径と保磁力HcJがほぼ反比例するような関係を持つ。2μm未満になると保磁力が0.76MA/mを越えるが、この領域では、磁性粉の粒径が小さくなるに従って凝集しやすくなり、通常工業的に利用されている磁場では磁性粉体の磁場配向度が急激に落ちて、角形比が低下する。
ボールミルでSmFe170.1粗粉体を粉砕して得たR−Fe−N−H−O系磁性材料(酸素量0.1〜5原子%)を1.2MA/mの外部磁場で磁場圧縮成形した充填率80%の圧粉体においては、HcJが0.74MA/mを越えると角形比が急激に低下し、HcJが0.76MA/m以上の領域で95%以下となる。
本発明の磁石用固形材料であると、衝撃波圧縮固化した際に組織を微細化することができるために、保磁力が0.76MA/m未満の磁性粉体を用いて角形比の高い圧粉体を調製し、これを衝撃波圧縮固化すると同時に保磁力を向上させ、高い角形比と高い保磁力を併せ持つ磁石用固形材料とすることができる。保磁力が0.8〜1.2MA/mの範囲の場合、角形比を95%から、磁場配向の方法と磁性材料の成分などの工夫を加えることによりほぼ100%の範囲で調整することが可能である。
次に、本発明の磁石用固形材料の製造法、特にその中で本発明の磁石用固形材料の実現を可能とした衝撃波圧縮について述べる。但し、本発明の製造法は、これに限定されるわけではない。
水中衝撃波による衝撃圧縮方法としては、二重管の最内部に当該粉体を圧粉成形し、中間部に水を入れ、外周部に爆薬を配置し、爆薬を爆轟させることで、前記中間部の水中に衝撃波を導入し、最内部の当該粉体を圧縮する方法や、当該粉体を密閉容器中へ圧粉成形し、水中へ投入し、爆薬を水中にて爆轟させ、その衝撃波により当該粉体を圧縮する方法や、特許第2951349号公報又は、特許第3220212号公報による方法が選択できる。いずれの方法においても、以下に示す水中衝撃波による衝撃圧縮の利点を得ることができる。
水中衝撃波を用いた本発明の衝撃圧縮法による圧縮固化工程では、衝撃波の持つ超高圧剪断性、活性化作用は、粉体の金属的結合による固化作用と組織の微細化作用を誘起し、バルク固化と共に高保磁力化することも可能である。このとき、衝撃圧力自体の持続時間は、従来の衝撃波を用いた場合よりも長いが、体積圧縮と衝撃波の非線形現象に基づくエントロピーの増加による温度上昇は極めて短時間(数μs以下)に消失し、分解や脱窒は殆ど起こらない。水中衝撃波を用いて圧縮した後も残留温度は存在する。この残留温度が分解温度(常圧で約600℃)以上になると、R−Fe−N−H−O系化合物等も分解が開始され、磁気特性を劣化するので好ましくない。しかし、水中衝撃波による場合は、従来の衝撃波による場合よりも、残留温度を低く保つことが非常に容易である。
即ち、水中衝撃波は以下のような特徴を有する。
(1)水中衝撃波の圧力は、爆薬と水のユゴニオ関係によって決まり、圧力Pは概略次式で示される。
P=288(MPa){(ρ/ρ7.25−1}
上式より、水中衝撃波を用いた場合には、水の密度ρの基準値ρに対する変化に関する圧力Pの増加量が非常に大きいため、爆薬量の調節により容易に超高圧が得られ、その際の磁性材料の温度は従来の衝撃波を用いた場合に比べて容易に低温度に保持される。
(2)衝撃圧力自体の持続時間が長い。
(3)体積圧縮と衝撃波の非線形現象に基づくエントロピーの増加による磁性材料の温度上昇は極めて短時間に消失する。
(4)磁性材料の温度は、その後高く保持されることが少なく、又、長く保持されることが少ない。
(5)衝撃圧力が被圧縮体に均一に負荷される。
水中衝撃波のもつ、これらの優れた特徴によって初めて、R−Fe−N−H−O系材料が熱分解を起こさず、高密度に容易に圧縮固化される。
更に、圧粉成形を磁場中で行うことにより、磁性材料粉体の磁化容易軸を一方向に揃えることができ、得られた圧粉体を衝撃圧縮固化により固形化しても、配向性は損なわれず、磁気的に一軸性の異方性をもつ磁石用固形材料が得られる。
本発明において、衝撃波圧力が3〜40GPaの水中衝撃波を用いて圧縮固化することにより、原料磁性粉体の真密度(例えば7.7g/cm)に対し充填率80%を超える密度の磁石用固形材料を得ることができる。衝撃波圧力が3GPaより低いと、必ずしも充填率が80%を超える磁石用固形材料を得ることができない。また、衝撃波圧力が40GPaより高いと、α−Fe分解相等の分解物が生じ易く、好ましくない。また、本発明のR−Fe−N−H−O系原料磁性粉体が、表面に酸素富化された非晶質相を有する場合、その非晶質相を分解させないため、衝撃波圧力を30GPa以下にすることが好ましい。
衝撃波圧力が3〜40GPaの水中衝撃波を用いて圧縮固化する場合は、原料磁性粉体の真密度に対し充填率80%を超える密度の磁石用固形材料を再現性良く得ることができる。また、衝撃波圧力が6〜40GPaの水中衝撃波を用いた場合は、充填率が90%を超える高密度の磁石用固形材料を得ることができる。但し、R−Fe−N−H−O系磁性材料の外に、軟磁性材料、希土類−鉄−ほう素系磁性材料などの硬磁性材料、非磁性相などの固形成分を含む場合は、上記の条件は、磁石用固形材料に対するR−Fe−N−H−O系原料磁性粉体の体積分率のみで決定されるわけでない。しかし、R−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率が50体積%以上の磁石用固形材料を分解無く得るためには、上記と同様、衝撃波圧力3〜40GPaの範囲内で水中衝撃波を制御する必要がある。この場合もR−Fe−N−H−O系原料磁性粉体が、上記非晶質相を有する場合、衝撃波圧力を3〜30GPaの範囲に制御することが好ましい。
次に、本発明の磁石用固形材料における第1の態様である高密度な磁石用固形材料を製造する場合において、衝撃波圧力8〜40GPaの水中衝撃波を用いる必要がある。衝撃波圧力が8GPaより低いと、必ずしも密度7.45g/cm以上のバルク磁石が得られない。衝撃波圧力が40GPaより高いと、α−Fe分解相等の分解物が生じることがあって、好ましくない。また、本発明のR−Fe−N−H−O系原料磁性粉体が、表面に酸素富化された非晶質相を有する場合、その非晶質相を分解させないため、衝撃波圧力を30GPa以下にすることが好ましい。
さらに、本発明における第2の態様である、軽量であり高温特性に優れた磁石用固形材料を製造する場合において、衝撃圧縮時の圧粉体の温度上昇を抑制するために、衝撃圧縮には、衝撃波圧力3〜22GPaの水中衝撃波を用いることが好ましい。衝撃波圧力が3GPaより低いと、必ずしも密度6.15g/cm以上の磁石用固形材料が得られない。衝撃波圧力が22GPaより高いと、密度7.45g/cm以上の磁石用固形材料となる場合が多く、さらに衝撃波圧力が40GPaより高いと、α−Fe分解相等の分解物が生じることがあって好ましくない。上記と同様に、本発明のR−Fe−N−H−O系原料が、表面に酸素富化された非晶質相を有する場合、衝撃波圧力を30GPa以下にすることが好ましい。
また、密度が6.35〜7.45g/cmの範囲、さらに6.50〜7.40g/cmの範囲の磁石用固形材料を再現性良く得るには水中衝撃波の衝撃波圧力を3〜20GPa、さらに衝撃波圧力を4〜15GPaとすることで達成される。但し、磁性材−ガス複合磁石用固形材料においては、衝撃圧力が高すぎると容易に密度が7.45g/cmを越える磁石用固形材料となってしまうので衝撃波圧力3〜15GPaの水中衝撃波を用いる方が好ましい。
R−Fe−N−H−O系磁性材料の製造法において酸素源、又は水素源並びに酸素源を接触させて、酸素成分、水素成分を導入することが重要であると既に述べたが、衝撃波圧縮の雰囲気に酸素源や水素源を存在させ接触させて、目的とする組成の磁石用固形材料と成す方法も有効である。
本発明の磁石用固形材料の製造方法において、磁石用固形材料に異方性を付与するために、原料粉体の圧粉成形を磁場中で行うことができ、原料粉体を圧粉成形した後、水中衝撃波を用いて衝撃圧縮固化することができる。また、原料粉体を磁場中で圧粉成形した後、水中衝撃波を用いて衝撃圧縮固化することができる。
以上述べたように、磁性粉体として熱的に安定でα−Fe分解相を析出しにくい、水素を含むR−Fe−N−H−O系材料を選び、上記水中衝撃波圧縮固化法にて固形化することにより初めて本発明の磁石用固形材料を作製することができるのであり、この磁石用固形材料を用いて製造する磁石は、高磁気特性で、耐酸化性に優れ、ボンド磁石のように磁性粉体の結合材としての樹脂成分を含まないため、熱安定性に優れた特徴を有する。
次に、本発明の第3の態様であるR−Fe−N−H−O系磁石用固形材料を含む部品又は装置について述べる。
最高使用温度Tmaxが100℃以上である用途には、従来のR−Fe−N−H−O系ボンド磁石であると、樹脂成分を含みかつ磁性粉体同士が金属結合で固化していないために、熱安定性に劣り、使用することが難しかった。本発明の磁石用固形材料であれば、よしんば樹脂成分を含んでいてもR−Fe−N−H−O系磁性粉同士が金属結合で固化しているので熱安定性に優れる。さらに磁石用固形材料のB、HcJが、磁石としたときのPとTmax及び(3)式で規定される領域にあれば、大きく減磁せず、軽量でコストパフォーマンスが高い上に熱安定性がさらに優れた磁石とすることができる。
maxの上限はR−Fe−N−H−O系材料のキュリー点付近であり、400℃を越えるが、磁石用固形材料の組成や成分、磁石としての使われ方によりTmax上限は400℃以下の様々な値をとる。例えば、Znで被覆したHcJ=1.6MA/mであるR−Fe−N−H−O系材料を用いたとしても、Tmaxが220℃以上のとき、本発明の磁石用固形材料を磁石として使用することは好ましくない。
本発明の磁石用固形材料により得られた磁石のPc0は、0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜10であり、Pc0、B、HcJの値の組み合わせが(1)式の範囲を逸脱するときは、ヨークなどを装着してのちPc0を高めてから、着磁を行うことが好ましい。
本発明の磁石用固形材料、中でも第2の態様の磁石用固形材料、若しくは(3)式を満足する磁石用固形材料により得られた磁石の静磁場を用いた、各種アクチュエータ、ボイスコイルモータ、リニアモータ、ロータ又はステータとして回転機用モータ、その中で特に産業機械や自動車用モータ、医療用装置や金属選別機の磁場発生源のほかVSM装置、ESR装置、加速器などの分析機用磁場発生源、マグネトロン進行波管、プリンタヘッドや光ピックアップなどOA機器、アンジュレータ、ウイグラ、リターダ、マグネットロール、マグネットチャック、各種マグネットシートなどの装置並びに部品は、Pの極めて小さなステッピングモータなどの特殊な用途を除いて、100℃以上の環境においても顕著な減磁が生ずることなく安定に使用することができる。
用途によっては125℃以上の温度でも使用でき、例えばHcJ>0.7(MA/m)かつP>1であるような場合が挙げられる。さらに、150℃以上での使用も可能で、例えばHcJ>0.8(MA/m)かつP>2であるような場合が挙げられる。
また、これらの装置又は部品に用いるとき、本発明の磁石用固形材料を各種加工を施してから、各形状のヨークやホールピース、各種整磁材料を接着、密着、接合した上で組み合わせて用いても良い。
また、本発明の磁石用固形材料を永久磁石同期モータ用ロータとして、もしくはその構成材料の硬磁性材料として使用する場合、本発明の表面磁石構造ロータとして、図5〜図6に示す回転軸断面構造とすることができる。また、埋込磁石構造ロータとして図7〜図12に示す回転軸断面構造とすることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、R−Fe−N−H−O系磁性材料の分解の度合いは、成形した磁石用固形材料のX線回折図(Cu−Kα線)をもとに、ThZn17型をはじめとする菱面体晶又は六方晶の結晶構造由来の回折線における最強線の高さaに対する、2θ=44°付近のα−Fe分解相由来の回折線の高さbの比b/aをもって判断した。この値が0.2以下なら分解の度合いは小さいと言える。好ましくは0.1以下である。さらに好ましくは0.05以下で、この場合、分解はほぼ無いと言える。
但し、上記の判定法は、磁石用固形材料の原料となるR−Fe−N−H−O系磁性材料にもともとFe軟磁性材料のような44°付近にピークを持つ材料が含有されている場合は適用できない。この場合、R−Fe−N−H−O系磁性材料を含む原料と磁石用固形材料におけるb/aの相対比により、分解の有無の目安とすることは可能である。
また、本件発明は以下の具体例によって何ら技術的範囲が限定されるものではない。
[製造例1]
平均粒径60μmのSmFe17母合金をNH分圧0.35atm、H分圧0.65atmで酸素分圧10−3atm以下のアンモニア−水素混合ガス気流中、465℃で7.2ks窒化水素化を行った後、酸素分圧10−5atmアルゴン気流中で1.8ksアニールを行い、溶存酸素量40ppm、含水量20ppmの炭化水素系溶媒を粉砕溶媒として用い10−1atmの窒素気流中で仕込んだボールミルにより平均粒径が約2μmとなるように粉砕し、R−Fe−N−H−O系磁性材料粉体を得た。この粉体を、1.2MA/mの磁場中で磁場配向させながら圧粉成形を行うことで成形体を得た。図13は水中衝撃波を用いた衝撃圧縮法を行う装置の一例を示す説明図である。得られた成形体を図14に示す如く銅製パイプ1に入れて銅製プラグ2に固定した。さらに銅製パイプ3を銅製プラグ2に固定し、更に、この間隙に水を充填し、外周部に均一な間隙を設け、紙筒4を配置し、銅製パイプ3と紙筒4の間隙中に280gの硝酸アンモニウム系爆薬5を装填し、起爆部6より前記爆薬を起爆し、爆薬を爆轟させた。このとき衝撃波圧力は16GPaであった。
衝撃圧縮後、パイプ1から固化したR−Fe−N−H−O系磁性材料であるSm8.5Fe72.312.72.83.7組成を有する磁石用固形材料を取り出し、4.0MA/mのパルス磁場で着磁し磁気特性を測定した結果、残留磁束密度B=1.18T、保磁力HcJ=0.78MA/m、(BH)max=264kJ/mの結果を得た。又、アルキメデス法により密度を測定した結果、密度7.60g/cm、充填率は99%であった。
更に、X線回折法で解析した結果、固化した磁石用固形材料はほとんどα−Fe分解相の析出が起きておらず、ThZn17型菱面体晶の結晶構造を有していることが確認された。
爆薬量を調節して同様の実験を多数回繰り返した。
衝撃波圧力が4GPaより低いと、得られた磁石用固形材料の充填率は必ずしも80%を超えず、衝撃波圧力が30GPaより高いとα−Fe分解相等の分解物が生じることが確認された。又、充填率80%を超える磁石用固形材料をより再現性良く得るためには、衝撃波圧力を3〜30GPaとすることが好ましいことも分かった。又、衝撃波圧力を6〜30GPaとすることで、充填率90%を超える磁石用固形材料が再現性良く得られることも確認された。
又、この衝撃波圧力は、密度が6.15〜7.45g/cmである磁石用固形材料をより再現性良く得るためには、衝撃波圧力を3〜15GPaとすることが好ましいことも分かった。
さらに、密度が7.45g/cmを超えるバルク磁石をより再現性良く得るためには、この衝撃波圧力を10〜30GPaとすることが好ましいことも分かった。又、衝撃波圧力12〜30GPaでは密度7.55g/cmを超えるバルク磁石を再現性良く得ることができることも確認された。
[比較例1]
平均粒径20μmのSmFe17母合金をNガス気流中、495℃で72ks窒化を行うこと以外は製造例1と同様に、ただし衝撃波圧力を18GPaとすることにより、Sm9.1Fe77.713.2なる組成の磁石用固形材料を作製した。 この磁石用固形材料を4.0MA/mのパルス磁場で着磁し磁気特性を測定した結果、残留磁束密度B=0.96T、保磁力HcJ=0.36MA/m、(BH)max=120kJ/mの結果を得た。又、アルキメデス法により密度を測定した結果7.50g/cmであった。
この材料のX線回折図には、ThZn17型菱面体晶の結晶構造以外にα−Fe分解相由来の回折線も観察された。44°付近におけるα−Fe分解相の回折線とThZn17型菱面体晶の結晶構造を示す(303)最強線との強度比b/aは0.21であった。
[比較例2]
図14は、爆薬の爆轟波を直接用いて衝撃圧縮を行う装置の一例を示す説明図である。この装置を用いて、製造例1で得た平均粒径2μmのR−Fe−N−H−O系磁性粉体を銅製パイプ1に入れて銅製プラグ2に固定し、外周部に均一な間隙を設け、紙筒4を配置し、前記間隙中に実施例と同量の硝酸アンモニウム系爆薬5を装填し、起爆部6より前記爆薬を起爆し、爆薬を爆轟させた。衝撃圧縮後、パイプ1から固化した試料を取り出し、X線回折法により解析した結果、衝撃圧縮後はSmNと多量のα−Fe分解相が生成していることが認められ、出発原料のR−Fe−N−H−O系化合物が分解していることが分かった。このときの回折線の強度比b/aは約3であった。
[実施例1]
所定量のSm及びFeの金属粉体(重量比16.85:83.15)をめのうボールによる振動ボールミルで180ks間メカニカルアロイング処理したのち、10−5atm以下の真空中600℃で7.2ks間熱処理した。この粉体には、Fe軟磁性材料が約30体積%含まれていた。この粉体を、NH分圧0.35atm、H分圧0.65atmの酸素分圧10−3atm以下のアンモニア−水素混合ガス気流中、380℃、1.2ksの条件で窒化水素化処理し、続いて同温度で水素中300sの時間熱処理した。この粉体を用いて、製造例1と同様に、ただし衝撃波圧力を18GPaとすることにより、Sm5.9Fe78.58.83.03.8なる組成の磁石用固形材料を作製した。
この磁石用固形材料を4.0MA/mのパルス磁場で着磁し磁気特性を測定した結果、残留磁束密度B=1.22T、保磁力HcJ=0.43MA/m、(BH)max=215kJ/mの結果を得た。又、アルキメデス法により密度を測定した結果7.74g/cmであった。
この材料のX線回折図には、ThZn17型菱面体晶の結晶構造以外にα−Fe由来の回折線も観察されたが、この材料はもともとα−Fe分解相ではないFe軟磁性材料を含む材料であるため、固化によってα−Fe分解相が生じたか否かはX線回折法によって厳密に判定することができなかった。なお、透過型電子顕微鏡観察を行った結果、Fe軟磁性相の体積分率は約30%、その結晶粒径は10〜50nm程度であり、R−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率が約70%である磁石用固形材料となった。
[実施例2]
製造例1で得た平均粒径約2μmのR−Fe−N−H−O系粉体と、平均粒径約25μmで組成がSm11.5Co57.6Fe24.8Cu4.4Zr1.7であるSm−Co系粉体を、体積比で50:50の割合になるようにめのう乳鉢に仕込み、溶存酸素量40ppm、含水量30ppmのシクロヘキサン中で湿式混合した。この作業は酸素分圧10−1atmのグローブボックス中で行った。
この混合粉体を用いて、製造例1と同様に、ただし衝撃波圧力を14GPaとすることにより、R−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率50%のR−Fe−N−H−O系磁石用固形材料(酸素量1.7原子%)を作製した。この磁石用固形材料を4.0MA/mのパルス磁場で着磁し磁気特性を測定した結果、残留磁束密度B=1.08T、保磁力HcJ=0.85MA/m、(BH)max=215kJ/mであった。
[実施例3]
公知のジエチル亜鉛を用いた光分解法によって、R−Fe−N−H−O系磁性材料の表面にZn金属を被覆した平均粒径約1μmのSm−Fe−Co−N−H−O磁性粉体を調製し、この粉体を用いて、製造例1と同様に、ただし衝撃波圧力を16GPaとすることにより、R−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率が100%であるSm8.2Fe62.6Co6.912.23.33.8Zn3.0なる組成の磁石用固形材料を作製した。
この磁石用固形材料を4.0MA/mのパルス磁場で着磁し磁気特性を測定した結果、残留磁束密度B=1.24T、保磁力HcJ=0.79MA/m、(BH)max=263kJ/mであった。密度は7.71g/cmであった。さらに、X線回折法で解析した結果、固化した磁石用固形材料は、ThZn17型菱面体晶の結晶構造を有していることが確認された。44°付近におけるα−Fe分解相の回折線とThZn17型菱面体晶の結晶構造を示す(303)最強線との強度比b/aは0.08であった。
[実施例4]
R−Fe−N−H−O系磁性材料として、公知の方法(特開平8−55712号公報)により得た、磁化反転機構がピンニング型である平均粒径30μmのSm−Fe−Co−Mn−N−H−O磁性粉体を用いて、製造例1と同様に、ただし衝撃波圧力を14GPaとすることにより、R−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率が100%である、Sm8.5(Fe0.89Co0.1166.6Mn3.618.52.60.2なる組成の磁石用固形材料を作製した。この磁石用固形材料を4.0MA/mのパルス磁場で着磁し磁気特性を測定した結果、残留磁束密度B=1.08T、保磁力HcJ=0.39MA/m、(BH)max=128kJ/mであった。体積法で求めた密度は7.70g/cm3であった。さらに、この材料のX線回折図には、ThZn17型菱面体晶の結晶構造以外にα−Fe分解相由来の回折線も観察された。44°付近におけるα−Fe分解相の回折線とThZn17型菱面体晶の結晶構造を示す(303)最強線との強度比b/aは0.06であった。
[実施例5]
R−Fe−N−H−O系磁性材料以外の成分をAlとし、製造例1で作製したR−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率が96%となるように配合し、前記混合粉体を減量とする磁石用固形材料を製造例1と同様にして作製した。但し、衝撃波圧力は15GPaとした。その後、4.0MA/mのパルス磁場で着磁し、B、HcJ、角形比B/J、(BH)maxを測定した。
その結果を表1に示した。保磁力HcJが0.83MA/mと大きい値であるにも関わらず、角形比96%を得ることができた。
[実施例6〜8]
R−Fe−N−H−O系磁性材料以外の成分及び、衝撃波圧力を表1に示したとおりとする以外は、製造例1と同様にして磁石用固形材料を作製し、実施例5と同様にしてそれらの各種磁気特性を測定した。その結果を表1に示した。
[実施例9]
公知の方法により製造された、平均粒径30μmのR−Fe−N−H−O系HDDR等方性磁性粉体を用いて、製造例1と同様に、R−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率が100%である、Sm8.3Fe76.10.9Ti2.412.00.10.2なる組成の磁石用固形材料を作製した。
この磁石用固形材料を4.0MA/mのパルス磁場で着磁し磁気特性を測定した結果、残留磁束密度B=0.70T、保磁力HcJ=1.05MA/m、(BH)max=75.4kJ/mの結果を得た。又、アルキメデス法により密度を測定した結果7.45g/cmであった。
この材料のX線回折図には、菱面体晶、六方晶の結晶構造以外にα−Fe分解相由来の回折線も観察され、比b/aは0.15であった。
[実施例10]
平均粒径60μmのSmFe17母合金をNH分圧0.35atm、H分圧0.65atmで酸素分圧10−3atm以下のアンモニア−水素混合ガス気流中、465℃で7.2ks窒化水素化を行った後、酸素分圧10−3atmとしたアルゴン気流中で7.2ksアニールを行い、溶存酸素量45ppm、含水量20ppmの炭化水素系溶媒を粉砕溶媒として用い10−1atmの窒素気流中で仕込んだボールミルにより平均粒径が約2μmとなるように粉砕した。この粉体を用い、製造例1と同様に、但し衝撃波圧力は25GPaとして、R−Fe−N−H−O系磁性材料の体積分率が100%である、Sm8.0Fe67.811.92.69.7組成を有する磁石用固形材料を得た。このとき、成形体を保持する銅製パイプ1の中は湿度を有した大気で満たした。この磁石用固形材料を4.0MA/mのパルス磁場で着磁し、磁気特性を測定した結果、残留磁束密度B=1.06T、保磁力HcJ=0.73MA/m、(BH)max=158kJ/mの結果を得た。又、アルキメデス法により密度を測定した結果、密度7.55g/cm、充填率は99%であった。
更に、X線回折法で解析した結果、固化した磁石用固形材料はほとんどα−Fe分解相の析出が起きておらず、ThZn17型菱面体晶の結晶構造を有していることが確認された。
本試料表面を鏡面研磨後5%ナイタール腐食液で30秒間腐食し、FE−SEMにて観察を行った結果、視野内に粒状に観察される部分と前記粒状部分の隙間を埋める様に存在する部分との2相構造であることが判った。EBSPにて各部分の結晶方位の観察を行った結果、前記粒状部分はThZn17型菱面体晶の結晶構造が観察され、その他の部分は非晶質であることが確認された。観察断面の面積比より、ThZn17型菱面体晶部分(結晶相)対非晶質部分(非晶質相)が6対4の体積比で存在することが判った。
Figure 0005339644

1 銅製パイプ(粉体を保持する為に使用)
2 銅製プラグ
3 銅製パイプ(水を保持するために使用)
4 紙筒(爆薬を保持するために使用)
5 爆薬
6 起爆部
7 水
8 試料部(希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料を含む試料)

Claims (12)

  1. 菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料を、80〜100体積%含有した磁石用固形材料の製造方法であって、
    前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料が、一般式R α Fe 100−α−β−γ−δ β γ δ で表され、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素であり、又、α、β、γ、δは原子百分率で、5≦α≦20、10≦β≦25、0.1≦γ≦3.3、0.01≦δ≦10であり、
    前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体を原料粉体全体に対して80〜100体積%含む原料粉体を3〜40GPaの水中衝撃波を用いて、衝撃圧縮固化することを特徴とする磁石用固形材料の製造方法。
  2. 菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有する希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料を、80〜100体積%含有した磁石用固形材料の製造方法であって、
    前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料が、一般式RαFe100−α−β−γ−δβγδεで表され、RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素であり、MはZn,In,Sn、Ga、Al、B、C、Ca、Ge、Mg、Si、Ti、V、Zr、Co、Mnから選ばれる少なくとも1種の元素及び/又は、Mn−Al−C合金、Al−Cu−Mg合金、MgO、Al、ZrO、SiO、フェライト、CaF、AlF、TiC、SiC、ZrC、Si、ZnN、AlNから選ばれる少なくとも一種であり、又、α、β、γ、δ、εはモル百分率で、5≦α≦20、10≦β≦25、0.1≦γ≦3.3、0.01≦δ≦10、0.1≦ε≦10であり、
    前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体を原料粉体全体に対して80〜100体積%含む原料粉体を3〜40GPaの水中衝撃波を用いて、衝撃圧縮固化することを特徴とする磁石用固形材料の製造方法。
  3. 前記原料粉体が、前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体以外の成分として硬磁性材料の粉体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁石用固形材料の製造方法。
  4. 前記原料粉体が、前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体以外の成分として軟磁性材料の粉体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁石用固形材料の製造方法。
  5. 前記原料粉体が、前記希土類−鉄−窒素−水素−酸素系磁性材料の粉体以外の成分として非磁性材料の粉体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁石用固形材料の製造方法。
  6. 前記原料粉体を圧粉成形した後、水中衝撃波を用いて衝撃圧縮固化することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
  7. 前記原料粉体の圧粉成形を磁場中で行うことを特徴とする請求項に記載の磁石用固形材料の製造方法。
  8. 磁石用固形材料を切削加工及び/又は塑性加工により成形する工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
  9. 磁石用固形材料を角柱状、円筒状、リング状、円板状又は平板状の形状に成形することを特徴とする請求項に記載の磁石用固形材料の製造方法。
  10. 磁石固形材料を少なくとも一度100℃以上且つ分解温度より低い温度で熱処理をする工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
  11. 前記水中衝撃波の圧力が3〜30GPaであることを特徴とする請求項1〜0のいずれかに記載の磁石用固形材料の製造方法。
  12. 前記水中衝撃波の圧力が3〜22GPaであることを特徴とする請求項11に記載の磁石用固形材料の製造方法。
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