JP4703609B2 - 磁気記録媒体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、磁気記録媒体(特にパターンド媒体)の製造方法、およびこの方法により製造された磁気記録媒体に関する。
近年の情報化社会において、我々が記録媒体へ記録する情報の量は増加の一途をたどっている。このため、飛躍的に高い記録・再生装置および記録媒体の出現が望まれている。現在、大容量かつ安価な記録媒体として需要が増加して続けているハードディスクに関しても、数年後には現行のおよそ10倍である1平方インチあたり1テラビット以上の記録密度が必要と言われている。
現行のハードディスクに用いられている磁気記録媒体では、磁性体微粒子の多結晶体を含む薄膜の一定の領域を1ビットとして記録している。記録媒体の記録容量を上げるためには記録密度を増加させなければならない。即ち、1ビットあたりの記録に使用できる記録マークサイズを小さくしなければならない。しかし、単純に記録マークサイズを小さくすると、磁性体微粒子の形状に依存するノイズの影響が無視できなくなる。ノイズを低減するために磁性体微粒子の粒子サイズを小さくすると、熱揺らぎのために常温で記録を保持することができなくなる。
これらの問題を回避するため、予め磁性体を非磁性体によって分断し、単一の磁性ドットを単一の記録セルとして記録再生を行うディスクリートビット型パターンド媒体が提案されている。
また、HDDに組み込まれる磁気記録媒体において、隣接トラック間の干渉によりトラック密度の向上が妨げられるという問題が顕在化している。特に記録ヘッド磁界のフリンジ効果による書きにじみの低減は重要な技術課題である。この問題に対して、磁気記録層を加工して記録トラック間を物理的に分離するディスクリートトラック型パターンド媒体(DTR媒体)が提案されている。DTR媒体では、記録時に隣接トラックの情報を消去するサイドイレース現象、再生時に隣接トラックの情報を読み出すサイドリード現象などを低減できるため、トラック密度を高めることができる。したがって、DTR媒体は高記録密度を提供しうる磁気記録媒体として期待されている。なお、パターンド媒体を広い意味で用いる場合、ディスクリートビット型パターンド媒体やDTR媒体を含むものとする。
パターンド媒体を浮上ヘッドで記録再生するためには、パターンド媒体の表面を平坦にすることが好ましい。すなわち、厚さ20nmの垂直磁気記録層をパターンド媒体に加工するためには、20nmの深さの溝を形成する。一方、浮上ヘッドの設計浮上量は10nm程度であるため、深い溝が残っているとヘッドがパターンド媒体に接触するおそれがある。このため、磁性パターン間の溝を非磁性体で充填し、媒体表面を平坦にすることが行われている。
磁性パターン間の凹部を埋め込んで平坦化するために、たとえばSiOまたはSiO2をRFスパッタリングする方法が知られている(特許文献1)。
特開2006−236474号公報
しかし、従来の方法では非磁性体をRFスパッタリングする際に酸素含有ガスを用いているため、磁性パターンの側壁に酸化によるダメージが生じる問題がある。また、酸素含有ガスを用いたRFスパッタリングでは、プロセスダストが生じたり、非磁性体の膜厚分布が生じたりする問題がある。
本発明の目的は、磁性パターンの側壁へのダメージを防止し、プロセスダストや非磁性体の膜厚分布の発生を抑制できる磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
本発明の一態様に係る磁気記録媒体の製造方法は、基板上に凸状をなす磁性パターンを形成し、前記磁性パターン間の凹部および前記磁性パターン上にSi、SiC、SiC−C、SiOC、SiON、Si34、Al、Alxy、TiおよびTiOxからなる群より選択される少なくとも1種の非磁性体を、酸素を含まないガス中でDCスパッタリングにより成膜し、酸素とアルゴンとを混合したエッチングガスであって、酸素濃度が1%以上70%以下であるエッチングガスを用いて、基板面に対して垂直方向から前記非磁性体の表面を改質しながらエッチバックを行うことを特徴とする。
本発明によれば、磁性パターンの側壁へのダメージを防止し、プロセスダストや非磁性体の膜厚分布の発生が抑制された磁気記録媒体を製造できる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1に、本発明の一実施形態に係るパターンド媒体(DTR媒体)の周方向に沿う平面図を示す。図1に示すように、パターンド媒体1の周方向に沿って、サーボ領域2と、データ領域3が交互に形成されている。サーボ領域2には、プリアンブル部21、アドレス部22、バースト部23が含まれる。データ領域3にはディスクリートトラック31が含まれる。
図2に、本発明の他の実施形態に係るパターンド媒体(ディスクリート型ビットパターンド媒体)の周方向に沿う平面図を示す。このパターンド媒体では、データ領域3に磁性ドット32が形成されている。
図3(a)〜(h)を参照して本発明の実施形態に係るパターンド媒体の製造方法を示す。
ガラス基板51上に、厚さ120nmのCoZrNbからなる軟磁性下地層、厚さ20nmのRuからなる配向制御用の下地層、厚さ20nmのCoCrPt−SiO2からなる強磁性層52、厚さ4nmのカーボン(C)からなる保護層53を順次成膜する。ここでは、簡略化のために、軟磁性下地層および配向制御層は図示していない。保護層53上に、レジスト54として厚さ100nmのスピンオングラス(SOG)をスピンコートする。このレジスト54に対向するようにスタンパ61を配置する。このスタンパ61には図1に示した磁性パターンと逆転した凹凸を有するパターンが形成されている(図3a)。
スタンパ61を用いてインプリントを行い、スタンパ61の凹部に対応してレジスト54の凸部54aを形成する(図3b)。
ICP(誘導結合プラズマ)エッチング装置でエッチングを行い、パターン化されたレジスト54の凹部の底に残っているレジスト残渣を除去する。このときの条件は、たとえば、プロセスガスとしてCF4を用い、チャンバー圧を2mTorr、コイルのRFパワーとプラテンのRFパワーをそれぞれ100W、エッチング時間を30秒とする(図3c)。
残ったレジストパターン(SOG)を耐エッチングマスクとして、ECR(電子サイクロトロン共鳴)イオンガンでイオンミリングを行い、厚さ4nmの保護層53および厚さ20nmの強磁性層52をエッチングする(図3d)。このときの条件は、たとえば、プロセスガスとしてArを用い、マイクロ波パワーを800W、加速電圧を500V、エッチング時間を3分とする。
その後、RIE装置でレジストパターン(SOG)を剥離する(図3e)。このときの条件は、たとえば、プロセスガスとしてCF4ガスを用い、チャンバー圧を100mTorr、コイルのパワーを400W、プラテンのパワーを100Wとする。
次に、スパッタ装置にSiC−Cターゲット(組成比SiC:20%、C:80%)をセットし、DCスパッタリングにより、磁性パターン間の凹部および磁性パターン上に非磁性体55を成膜する(図3f)。このときの条件は、たとえばAr流量を80sccmとし、成膜時間を260秒とする。このように酸素を含まないプロセスガス中で非酸化物のターゲットをDCスパッタリングすると、磁性パターンの側壁に酸化ダメージを与えることがなく、またプロセスダストの発生も抑制できる。
次いで、非磁性体55をエッチバックする(図3g)。このときの条件は、ECRイオンガンを用い、プロセスガスとしてAr流量を5sccm、O2流量を5sccmとし、マイクロ波パワー800W、加速電圧700Vで約6分間エッチングする。
本発明においては、図3fに示した非磁性体55の成膜と、図3gに示した非磁性体55のエッチバックを複数回繰り返してもよい。
通常のECRイオンガンやイオンミリング装置によるエッチバックでは、プロセスガスとしてArガスを用いる。これに対して、本発明ではプロセスガスとして酸素含有ガス(たとえば前記のようにArとO2との混合ガス)を用いる。
図4にエッチバック後の媒体表面の、原子間力顕微鏡(AFM)による測定結果を示す。図4(a)はAr−O2混合ガスを用いた場合、図4(b)はArガスを用いた場合を示す。図4(a)および(b)を比較してわかるように、同じエッチバック膜厚では、Ar−O2混合ガスを用いた場合の方が、Arガスを用いた場合よりも、表面の平坦性に優れていることがわかる。
また、光学表面検査機(OSA)による測定でも、Ar−O2混合ガスを用いた場合の方が、Arガスを用いた場合よりも、非磁性体の膜厚むらが小さいことがわかっている。
酸素含有ガスは、エッチバックを行っている時間の全部で用いてもよいし、その一部で用いてもよい。例えば、100nmのSiC-Cを成膜した後、SiC-Cを100nmエッチバックする際に、最初の10nmをエッチバックする時間だけ酸素含有ガスを用いてもよいし、最後の5nmをエッチバックする時間だけ酸素含有ガスを用いてもよい。エッチバックの初期に酸素含有ガスを用いると、平坦化に有利である。エッチバックの終期に酸素含有ガスを用いると、非磁性体の表面をO2で改質しながらエッチングが進むため、媒体の衝撃耐性を強めることが可能である。
非磁性体の成膜と非磁性体のエッチバックを複数回繰り返す場合、たとえば複数回のうちの1回のエッチバック時間の一部で酸素含有ガスを用いてもよい。
酸素含有ガス中の酸素ガスの割合は、1%以上70%以下が好ましく、5%以上70%以下がより好ましい。1%未満では酸素による表面改質の効果が現れない。70%を超える場合には、媒体表面に存在するDLCおよび磁性体がダメージを受けるので好ましくない。ガス圧はArとO2の合計で0.01〜1.0Paであることが好ましい。ビームの加速電圧は20〜1000Vであることが好ましい。
非磁性体の成膜と非磁性体のエッチバックを1回ずつ行った場合、プロセスが単純化されるのでダストが発生するリスクが低下する。非磁性体の成膜と非磁性体のエッチバックを複数回繰り返す場合でも、成膜チャンバーおよびエッチバックチャンバーを複数ずつ用意すれば1チャンバーあたりの工程時間が短縮するため、スループットを向上させることができる。ヘッドの浮上特性を考慮すると、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される凹部の深さが4nm以下になるまで、非磁性体の成膜と非磁性体のエッチバックを行うことが好ましい。
エッチバックの終点は、Q−MASS(四重極式質量分析計)を用い、強磁性層に含まれるCoが検出された時点で判断する。
最後に、CVD(化学気相堆積法)によりカーボン(C)を堆積して保護層56を形成する(図3h)。さらに、保護層56上に潤滑剤を塗布してDTR媒体を得る。
次に、本発明の実施形態において用いられる好適な材料について説明する。
<基板>
基板としては、たとえばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板、酸化表面を有するSi単結晶基板などを用いることができる。ガラス基板としては、アモルファスガラスおよび結晶化ガラスが用いられる。アモルファスガラスとしては、汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスが挙げられる。結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスが挙げられる。セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが挙げられる。基板としては、上述した金属基板や非金属基板の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。
<軟磁性下地層>
軟磁性下地層(SUL)は、垂直磁磁気記録層を磁化するための単磁極ヘッドからの記録磁界を水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、磁界の記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる作用を有する。軟磁性下地層には、Fe、NiまたはCoを含む材料を用いることができる。このような材料として、FeCo系合金たとえばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金たとえばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金たとえばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金たとえばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金たとえばFeZrNなどを挙げることができる。Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造または微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることもできる。軟磁性下地層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、TiおよびYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることもできる。Co合金には80at%以上のCoが含まれることが好ましい。このようなCo合金は、スパッタ法により成膜した場合にアモルファス相が形成されやすい。アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示すとともに、媒体の低ノイズ化を図ることができる。好適なアモルファス軟磁性材料としては、たとえばCoZr、CoZrNbおよびCoZrTa系合金などを挙げることができる。
軟磁性下地層の下に、軟磁性下地層の結晶性の向上または基板との密着性の向上のために、さらに下地層を設けてもよい。こうした下地層の材料としては、Ti、Ta、W、Cr、Pt、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。軟磁性下地層と記録層との間に、非磁性体からなる中間層を設けてもよい。中間層は、軟磁性下地層と記録層との交換結合相互作用を遮断し、記録層の結晶性を制御する、という2つの作用を有する。中間層の材料としては、Ru、Pt、Pd、W、Ti、Ta、Cr、Si、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。
スパイクノイズ防止のために軟磁性下地層を複数の層に分け、0.5〜1.5nmのRuを挿入することで反強磁性結合させてもよい。また、CoCrPt、SmCo、FePtなどの面内異方性を持つ硬磁性膜またはIrMn、PtMnなどの反強磁性体からなるピン層と軟磁性層とを交換結合させてもよい。交換結合力を制御するために、Ru層の上下に磁性膜(たとえばCo)または非磁性膜(たとえばPt)を積層してもよい。
<強磁性層>
垂直磁気記録層としては、Coを主成分とし、少なくともPtを含み、さらに酸化物を含む材料を用いることが好ましい。垂直磁気記録層は、必要に応じて、Crを含んでいてもよい。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化チタンが好適である。垂直磁気記録層は、層中に磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)が分散していることが好ましい。この磁性粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性粒子の配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)を得ることができる。このような構造を得るためには、含有させる酸化物の量が重要となる。
垂直磁気記録層の酸化物含有量は、Co、Cr、Ptの総量に対して、3mol%以上12mol%以下であることが好ましく、5mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。垂直磁気記録層の酸化物含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁気記録層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子を分離させ、微細化させることができるためである。酸化物の含有量が上記範囲を超えた場合、酸化物が磁性粒子中に残留し、磁性粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには、磁性粒子の上下に酸化物が析出し、結果として磁性粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)が得られなくなるため好ましくない。
垂直磁気記録層のCr含有量は、0at%以上16at%以下であることが好ましく、10at%以上14at%以下であることがより好ましい。Cr含有量として上記範囲が好ましいのは、磁性粒子の一軸結晶磁気異方性定数Kuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られるためである。Cr含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子の結晶性、配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。
垂直磁気記録層のPt含有量は、10at%以上25at%以下であることが好ましい。Pt含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁性層に必要なKuが得られ、さらに磁性粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるためである。Pt含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。Pt含有量が上記範囲未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性に十分なKuが得られないため好ましくない。
垂直磁気記録層は、Co、Cr、Pt、酸化物のほかに、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reから選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進し、または結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。8at%を超えた場合、磁性粒子中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子の結晶性、配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
垂直磁気記録層としては、CoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSi、ならびにPt、Pd、Rh、およびRuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造、さらに、これらにCr、BおよびOを添加したCoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどを使用することもできる。
垂直磁気記録層の厚さは、好ましくは5ないし60nm、より好ましくは10ないし40nmである。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置を作製することができる。垂直磁気記録層の厚さが5nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向がある。垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。垂直磁気記録層の保磁力は、237000A/m(3000Oe)以上とすることが好ましい。保磁力が237000A/m(3000Oe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
<保護層>
保護層は、垂直磁気記録層の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐ目的で設けられる。保護層の材料としては、たとえばC、SiO2、ZrO2を含むものが挙げられる。保護層の厚さは1ないし10nmとすることが好ましい。これにより、ヘッドと媒体の距離を小さくできるので、高密度記録に好適である。カーボンは、sp2結合炭素(グラファイト)とsp3結合炭素(ダイヤモンド)に分類できる。耐久性、耐食性はsp3結合炭素のほうが優れるが、結晶質であることから表面平滑性はグラファイトに劣る。通常、カーボンの成膜はグラファイトターゲットを用いたスパッタリング法で形成される。この方法では、sp2結合炭素とsp3結合炭素が混在したアモルファスカーボンが形成される。sp3結合炭素の割合が大きいものはダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれ、耐久性、耐食性に優れ、アモルファスであることから表面平滑性にも優れるため、磁気記録媒体の表面保護層として利用されている。CVD(chemical vapor deposition)法によるDLCの成膜は、原料ガスをプラズマ中で励起、分解し、化学反応によってDLCを生成させるため、条件を合わせることで、よりsp3結合炭素に富んだDLCを形成することができる。
次に、本発明の実施形態における各工程の好適な製造条件について説明する。
<インプリント>
基板の表面にレジストをスピンコート法で塗布し、スタンパを押し付けることにより、レジストにスタンパのパターンを転写する。レジストとしては、たとえば一般的なノボラック系のフォトレジストや、スピンオングラス(SOG)を用いることができる。サーボ情報と記録トラックに対応する凹凸パターンが形成されたスタンパの凹凸面を、基板のレジストに対向させる。このとき、ダイセットの下板にスタンパ、基板、バッファ層を積層し、ダイセットの上板で挟み、たとえば2000barで60秒間プレスする。インプリントによってレジストに形成されるパターンの凹凸高さはたとえば60〜70nmである。この状態で約60秒間保持することにより、排除すべきレジストを移動させる。また、スタンパにフッ素系の剥離材を塗布することで、スタンパをレジストから良好に剥離することができる。
<残渣除去>
RIE(反応性イオンエッチング)により、レジストの凹部の底に残存している残渣を除去する。このとき、レジストの材料に応じて適切なプロセスガスを用いる。プラズマソースは、低圧で高密度プラズマを生成可能なICP(Inductively Coupled Plasma)が好適であるが、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマや、一般的な平行平板型RIE装置を用いてもよい。
<強磁性層エッチング>
残渣を除去した後、レジストパターンをエッチングマスクとして用い、強磁性層を加工する。強磁性層の加工には、Arイオンビームを用いたエッチング(Arイオンミリング)が好適であるが、Clガス、またはCOとNH3の混合ガスを用いたRIEでもよい。COとNH3の混合ガスを用いたRIEの場合、エッチングマスクにはTi、Ta、Wなどのハードマスクを用いる。RIEを用いた場合、凸状の磁性パターンの側壁にテーパが付きにくい。いかなる材料でもエッチング可能なArイオンミリングで強磁性層を加工する場合、たとえば加速電圧を400Vとし、イオン入射角度を30°から70°まで変化させてエッチングを行うと、凸状の磁性パターンの側壁にテーパが付きにくい。ECRイオンガンを用いたミリングにおいては、静止対向型(イオン入射角90°)でエッチングすると、凸状の磁性パターンの側壁にテーパが付きにくい。
<レジスト剥離>
強磁性層をエッチングした後、レジストを剥離する。レジストとして一般的なフォトレジストを用いた場合、酸素プラズマ処理を行うことによって容易に剥離することができる。具体的には、酸素アッシング装置を用い、たとえばチャンバー圧を1Torr、パワーを400Wとし、処理時間を5分としてフォトレジストを剥離する。レジストとしてSOGを用いた場合、フッ素系ガスを用いたRIEでSOGを剥離する。フッ素系ガスとしてはCF4やSF6が好適である。なお、フッ素系ガスが大気中の水と反応してHF、H2SO4などの酸が生じることがあるため、水洗を行うことが好ましい。
<非磁性体の成膜>
レジスト剥離後、磁性パターン間の凹部および磁性パターン上に非磁性体を成膜する。この工程では、非磁性材料をバイアススパッタ法または通常のスパッタ法で成膜する。非磁性材料としては、Si、SiC、SiC−C、SiOC、SiON、Si34、Al、Alxy、Ti、TiOxおよびこれらの混合物から選択できる。バイアススパッタ法は、基板にバイアスをかけながらスパッタ成膜する方法であり、容易に凹部を埋め込みながら成膜できる。しかし、基板バイアスにより基板ダメージおよびスパッタダストが生じやすいので、通常のスパッタ法を用いるのが好適である。RFスパッタを用いることもできるが、膜厚に分布が生じやすいため、DCスパッタを用いることが好ましい。
<非磁性体エッチバック>
強磁性膜(またはその上のカーボン保護膜)が露出するまでエッチバックを行う。このエッチバックプロセスは、イオンミリングを用いることが望ましい。ECRイオンガンによるエッチングを用いてもよい。上述したようにプロセスガスにO2を混合すると、表面を改質しながらエッチバックを行うことができる。
<保護層形成および後処理>
エッチバック後、カーボン保護層を形成する。カーボン保護層は、CVD法、スパッタ法、または真空蒸着法により成膜することができる。CVD法によれば、sp3結合炭素を多く含むDLC膜が形成される。カーボン保護層の膜厚が2nm未満だとカバレッジが悪くなり、10nmを超えると記録再生ヘッドと媒体との磁気スペーシングが大きくなってSNRが低下するので好ましくない。保護層上に潤滑剤を塗布する。潤滑剤としては、たとえばパーフルオロポリエーテル、フッ化アルコール、フッ素化カルボン酸などを用いることができる。
実施例1
図1に示したようなサーボパターン(プリアンブル、アドレス、バースト)と記録トラックの凹凸パターンが形成されたスタンパを用い、図3に示した方法でDTR媒体を作製した。図3fの工程において、SiC−Cターゲットを用いたDCスパッタ法により非磁性体を成膜した。このときの条件は、Ar流量を80sccm、成膜時間を260秒に設定して厚さ100nmのSiC−Cを成膜した。この段階でSIMS(2次イオン質量分析法)により非磁性体の表面を解析したところ、Si(7.47at.%)、O(5.51at.%)、C(87.1at.%)であった。図3gの工程において、ECRイオンガンを用いて非磁性体をエッチバックした。プロセスガスとしてArとO2との混合ガスを用い、マイクロ波パワー800W、加速電圧700Vで、約12分間エッチバックした。図5に、エッチバック後の非磁性体の組成分布をEDXにより解析した結果を示す。この図に示されるように、表面側から基板側へ向かうにつれて、O濃度の減少とC濃度の増加が確認された。
図6に、組成分布をもつ非磁性体を有するパターンド媒体の断面図を示す。基板71上に軟磁性層72が形成され、その上に凸パターンをなす強磁性層73およびカーボンからなる保護層74が形成されている。強磁性層73の凸パターン間の凹部には非磁性体が埋め込まれている。この非磁性体は、基板側非磁性体(SiC−C)75aと表面側非磁性体(SiOC)75bを含む。
MFMによってトラックのランド/グルーブ比を測定したところ、非磁性体の埋め込み前とほぼ等しく、2:1であった。グライドヘッドを用いてAE(Acoustic Emission)を測定したところ、AEシグナルは観測されなかった。
比較例1
実施例1と同一のスタンパを用いて、従来の方法でパターンド媒体を作製した。図3fの工程において、SiOターゲットを用い、Ar流量75sccm、O2流量5sccmでRFスパッタを行い、スパッタ時間を500秒に設定して厚さ100nmのSiO2を成膜した。SIMSによる分析の結果、膜の組成はSi(36.0at.%)、O(64.0at.%)であった。図3gの工程において、ECRイオンガンを用いて非磁性体をエッチバックした。プロセスガスとしてArを用い、マイクロ波パワー800W、加速電圧700Vで、約15分間エッチバックした。
MFMによってトラックのランド/グルーブ比を測定したところ、非磁性体の埋め込み前よりもランド部(強磁性層部分)が減少し、およそ1:1であった。グライドヘッドを用いてAE(Acoustic Emission)を測定したところ、AEシグナルが観測された。これは、RFスパッタ法ではプロセスダストが多いためだと考えられる。
以上のように、実施例1の方法では、比較例1の方法よりも強磁性層へのダメージが少なく、表面性の良好な(AEシグナルが観測されない)媒体を製造できることがわかる。
実施例2
図1に示したようなサーボパターン(プリアンブル、アドレス、バースト)と記録トラックの凹凸パターンで形成されたスタンパを用い、図3に示した方法でDTR媒体を作製した。図3fの工程において、SiC−Cターゲットを用いたDCスパッタ法により非磁性体を成膜した。このときの条件は、Arガス流量を80sccm、成膜時間を260秒に設定して厚さ100nmのSiC−Cを成膜した。図3gの工程において、ECRイオンガンを用いて非磁性体をエッチバックした。プロセスガスとしてArとO2との混合ガスを用い、マイクロ波パワー800W、加速電圧700Vで、約12分間エッチバックした。
ナノスペック(ナノメトリクス社商品名)により埋め込み後の非磁性体の膜厚分布を調べたところ、媒体中で膜厚分布はほとんどなく、最も厚い部分と薄い部分の膜厚差は膜厚の1%であった。
比較例2
実施例1と同一のスタンパを用いて、従来の方法でパターンド媒体を作製した。図3fの工程において、SiOターゲットを用い、Ar流量75sccm、O2流量5sccmでRFスパッタを行い、スパッタ時間を500秒に設定して厚さ100nmのSiO2を成膜した。SIMSによる分析の結果、膜の組成はSi(36.0at.%)、O(64.0at.%)であった。図3gの工程において、ECRイオンガンを用いて非磁性体をエッチバックした。プロセスガスとしてArを用い、マイクロ波パワー800W、加速電圧700Vで、約15分間エッチバックした。
ナノスペック(ナノメトリクス社商品名)により埋め込み後の非磁性体の膜厚分布を調べたところ、媒体の上部と下部とで膜厚分布が生じ、その差は最大で膜厚の10%であった。
実施例2と比較例2との対比から以下のことがわかる。比較例2のように、酸素含有ガスを用いたRFスパッタで非磁性体を成膜すると、膜厚に10%程度のむらが生じる。これは、厚さ100nmの非磁性体では10nmの高低差に相当する。磁気スペーシングの観点から、強磁性層上に4nm以上の非磁性体が残存するのは好ましくない。これに対して、実施例2では膜厚分布の少ない媒体を製造することができる。
実施例3
厚さ100nmのSiC−Cを成膜した後、エッチバックする工程を5回繰り返した以外は実施例1と同様にしてDTR媒体を作製した。このDTR媒体の断面形状をTEMで観察した。その結果、TEM像の濃淡から、凹部に埋め込まれた非磁性体が5層をなしていることが確認された。1層の非磁性体の組成分布は実施例1と同様である。
なお、媒体によっては非磁性体の積層構造を観察することができなかったため、SIMSによる組成評価を行った。図5に示したように、表面側から基板側へ向かうにつれて、O濃度の減少とC濃度の増加が確認された。
この媒体を用いてタッチダウン/テイクオフ試験を行うと、タッチダウン/テイクオフ圧の差ΔP=0.18atmであった。試験後、媒体表面の微小なダストからなる輝点を観察したが、特に変化はなかった。
比較例3
実施例1と同一のスタンパを用いて、従来の方法でパターンド媒体を作製した。図3fの工程において、SiOターゲットを用い、Ar流量75sccm、O2流量5sccmでRFスパッタを行い、スパッタ時間を500秒に設定して厚さ100nmのSiO2を成膜した。SIMSによる分析の結果、膜の組成はSi(36.0at.%)、O(64.0at.%)であった。図3gの工程において、ECRイオンガンを用いて非磁性体をエッチバックした。プロセスガスとしてArを用い、マイクロ波パワー800W、加速電圧700Vで、約15分間エッチバックした。断面TEMを観察すると、凹部は均一な組成のSiO2で埋め込まれていた。
この媒体を用いてタッチダウン/テイクオフ試験を行うと、ΔP=0.05atmであった。試験後に表面を観察すると、大量の輝点が発生していた。断面SEMで観察したところ、ヘッドが接触した部分にクラックが生じていた。
実施例3と比較例3との対比から以下のことがわかる。比較例3のように、均一組成のSiOxは硬度が高いため、衝撃が加わった際にクラックが生じ、そこからダストが発生しやすい。これに対して、実施例3では、凹部に多層構造または組成分布を持ち層間で材料の密度が異なる非磁性体が埋め込まれているので、衝撃が吸収されると考えられる。
実施例4
異なる種類の非磁性体を用いた以外は実施例1と同様にしてDTR媒体を作製した。非磁性体として、Si、SiC、SiOC、SiON、Si34、Al、Alxy、TiまたはTiOxを用いた。これらの非磁性体をバイアススパッタ法またはDCスパッタ法で成膜した。いずれのDTR媒体でもAEシグナルが生じないことが確認された。
比較例4
非磁性体としてCuを用いた以外は実施例1と同様にしてDTR媒体を作製した。このDTR媒体ではAEシグナルが観測された。これは、スパッタリングおよびエッチバックの工程を経る間にCuが加熱されたリフローし、表面の形状が悪化したためである。
非磁性体としてカーボン(C)を用いた以外は実施例1と同様にしてDTR媒体を作製した。このDTR媒体でもAEシグナルが観測された。これは、カーボンが酸素と反応して表面のRaが増加したためである。
例5
SiCターゲットを用い、Ar流量75sccm、O2流量5sccm(酸素混合比6.3%)でRFスパッタを行い、厚さ100nmの非磁性体を成膜した。その後、ECRイオンガンを用いて非磁性体を垂直方向からエッチバックした。プロセスガスとしてArとO2との混合ガスを用い、マイクロ波パワー800W、加速電圧700Vで約12分間エッチバックした。この場合、DTR媒体表面の凹部の深さは最大値で4nmであった。
例5’
Arイオンミリング装置により40°の角度をつけて100nmのエッチバックを行った以外は例5と同様な方法を行った。この場合、DTR媒体表面の凹部の深さは最大値で15nmであった。
例5および例5’から、垂直入射のイオンガンを用いてエッチバックすると、表面平坦化に有効であることがわかる。
実施例6
図2に示したようなサーボパターン(プリアンブル、アドレス、バースト)と磁性ドットの凹凸パターンが形成されたスタンパを用い、図3に示した方法でディスクリートビット型パターンド媒体を作製した。磁性ドットはクロストラック方向120nm、ダウントラック方向25nmの長方形である。この媒体は、130Gbpsi相当の記録密度を有する。図3fの工程において、SiC−Cターゲットを用いたDCスパッタ法により非磁性体を成膜した。このときの条件は、Ar流量を80sccm、成膜時間を260秒に設定して厚さ100nmのSiC−Cを成膜した。図3gの工程において、ECRイオンガンを用いて非磁性体をエッチバックした。プロセスガスとしてArとO2との混合ガスを用い、マイクロ波パワー800W、加速電圧700Vで、約12分間エッチバックした。
グライドヘッドを用いてAEを測定したところ、AEシグナルは観測されなかった。AESデプスプロファイルを測定したところ、酸化層は検出されなかった。
このディスクリートビット型パターンド媒体でも、実施例1〜5のDTR媒体と同様の効果が期待できる。
以上説明したように、本発明によれば、非磁性体を成膜した後、酸素含有ガスを用いてエッチバックを行うことにより、膜厚分布が少なく表面の平坦性が良好で、衝撃に強いパターンド媒体を提供することができる。
本発明の一実施形態に係るDTR媒体の周方向に沿う平面図。 本発明の他の実施形態に係るディスクリートビット型パターンド媒体の周方向に沿う平面図。 本発明の実施形態に係るパターンド媒体の製造方法を示す断面図。 エッチバック後の媒体表面の、原子間力顕微鏡(AFM)による測定結果を示す図。 エッチバック後の非磁性体の組成分布をEDXにより解析した結果を示す。 組成分布をもつ非磁性体を有するパターンド媒体の断面図。図6の断面図に、
符号の説明
1…パターンド媒体、2…サーボ領域、21…プリアンブル部、22…アドレス部、23…バースト部、3…データ領域、31…ディスクリートトラック、32…磁性ドット、51…ガラス基板、52…強磁性層、53…保護層、54…レジスト、55…非磁性体、56…保護層、61…スタンパ、71…基板、72…軟磁性層、73…強磁性層、74…保護層、75a…基板側非磁性体、75b…表面側非磁性体。

Claims (2)

  1. 基板上に凸状をなす磁性パターンを形成し、
    前記磁性パターン間の凹部および前記磁性パターン上にSi、SiC、SiC−C、SiOC、SiON、Si34、Al、Alxy、TiおよびTiOxからなる群より選択される少なくとも1種の非磁性体を、酸素を含まないガス中でDCスパッタリングにより成膜し、
    酸素とアルゴンガスとを混合したエッチングガスであって、酸素濃度が1%以上70%以下であるエッチングガスを用いて、基板面に対して垂直方向から前記非磁性体の表面を改質しながらエッチバックを行う
    ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
  2. 前記非磁性体の成膜と、前記非磁性体のエッチバックとを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
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