本発明はガラスセラミックス焼結体から成る絶縁層の内部にコンデンサ部を内蔵したコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板に関する。
従来、携帯電子機器や携帯用情報端末等の分野では、半導体素子を実装した多層配線基板と共に、受動部品として抵抗体,コンデンサ,インダクタ等をプリント回路基板等の基板上に実装したモジュール基板が用いられてきた。
しかし近年、このような携帯電子機器や携帯用情報端末等に用いられる部品の小型化、複合化、高性能化が強く求められており、半導体素子を実装する多層配線基板の内部に受動部品に相当する機能を有する電子回路素子を内蔵させて、半導体素子等と受動部品とを高密度で実装した部品の集積化の流れが進んでいる。これらの受動部品を多層配線基板の内部に取り組むことは、基板表面にこれら受動部品の実装スペースを確保する必要をなくし、また設計の自由度も増すため、多層配線基板の小型化に寄与できることとなる。
例えば、コンデンサを内蔵したガラスセラミック多層配線基板を形成する場合、絶縁層を形成するガラスセラミックグリーンシート(以下、グリーンシートともいう)に誘電体ペーストを部分的に塗工して誘電体層を形成し、その後、所望の導体パターンを形成したグリーンシートと、誘電体層を形成したグリーンシートとを積層して、誘電体層および導体パターンをグリーンシートと同時に焼成することで形成することできる。
このようにして形成されたコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板の構造は、図2に示すように絶縁層1の層間に配設されたコンデンサ部2を備えており、コンデンサ部2はCu,Ag粉末の焼結体からなる電極層3と、チタン酸バリウム粉末等の誘電体粉末の焼結体からなる誘電体層4から構成されている。
上田達也,「低温焼成多層基板、内蔵コンデンサ用高誘電率材料とその応用」ファインセラミックスレポート(Fine Ceramics Report),社団法人日本ファインセラミックス協会,1996年,第14巻,第8号,p.220〜222
亀原伸男、丹羽紘一,「CR複合基板」,ニューセラミックス,1995年,第1号,p.39〜44
しかし、電極層を介してグリーンシートと誘電体層を同時焼成する場合、誘電体層中の成分が絶縁層および電極層に拡散し誘電体層の焼結が進まなかった。そのため、ガラスセラミック多層配線基板内に形成したコンデンサ部の容量値が低下したり、その容量値のバラツキが大きくなるという問題点があった。
また、電極層を介してグリーンシートと誘電体層を同時焼成する場合、グリーンシート中のガラス成分が誘電体層中に拡散するという現象が発生する。そのため、ガラスセラミック多層配線基板内に形成した誘電体層中のガラス成分が過剰となり、コンデンサ部の容量値が低下したり容量値のバラツキが大きくなるという問題点があった。
本発明は上記問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、電極層を介してグリーンシートと誘電体層を同時焼成する際、誘電体層中の成分と絶縁層中の成分あるいは電極層中のガラス成分の相互拡散を抑制し、ガラスセラミック多層配線基板内に形成したコンデンサ部の容量の低下を防ぎ、またそのバラツキを抑制することができるコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板を提供することにある。
本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板は、ガラスおよびフィラーを含有するガラスセラミックス焼結体から成る絶縁基体の内部に、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体層および該誘電体層の上下に配置された金属粉末の焼結体からなる電極層から構成され、前記絶縁基体の中央部に配置されたコンデンサ部と、該コンデンサ部の上下に配置された、チタン酸バリウム粉末とガラス粉末との焼結体からなる誘電体拡散防止層と、該誘電体拡散防止層と前記絶縁基体との間に配置された、金属粉末とガラス粉末との焼結体からなるメタライズ拡散防止層とを有していることを特徴とするものである。
本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板は、好ましくは、前記電極層および前記メタライズ拡散防止層は、前記電極層は、Ag,Cu,Ag−PtおよびAg−Pdのうちのいずれかから成る金属粉末を含む焼結体から成り、前記メタライズ拡散防止層は、Ag,Cu,Pt,Pd,Wおよびそれらを含む合金のうちの少なくとも1種から成る金属粉末と該金属粉末100質量部に対して10質量部以下のガラス粉末との焼結体から成り、前記誘電体拡散防止層は、チタン酸バリウム粉末と該チタン酸バリウム粉末100質量部に対して5〜150質量部のガラス粉末との焼結体から成り、前記メタライズ拡散防止層の厚みが5〜20μmで前記誘電体拡散防止層の厚みが5〜20μmであることを特徴とするものである。
また、本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板は、好ましくは、前記誘電体拡散防止層は、熱膨張係数が8×10−6〜10×10−6/℃であることを特徴とするものである。
さらに、本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板は、好ましくは、前記誘電体拡散防止層に含まれる前記ガラス粉末は、ガラス転移温度が550℃以下の非結晶ガラス粉末であることを特徴とするものである。
さらに、本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板は、好ましくは、前記誘電体層は、チタン酸バリウム粉末にB2O3,SiO2,CaO,BaOおよびZnOを含むガラス粉末とCuO粉末とをそれぞれチタン酸バリウム粉末100質量部に対して2〜10質量部添加した焼結体から成ることを特徴とするものである。
さらに、本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板は、好ましくは、前記誘電体拡散防止層は、BaTiO3を85〜98質量部、ガラス組成物を5〜150質量部含んで成り、前記ガラス組成物は、Li2Oを2.0〜32.0質量部、B2O3を12.0〜42.0質量部、SiO2を5.0〜15.5質量部、CaOを6.7〜20.6質量部、BaOを6.7〜20.6質量部含んでいることを特徴とするものである。
さらに、本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板は、好ましくは、前記電極層は、Ag,Cu,Ag−PtおよびAg−Pdのうちのいずれかから成る金属粉末を100質量部、ガラス組成物を10質量部以下含んで成り、前記ガラス組成物は、950℃以下の温度で結晶化してBaTiO3を析出するものであって、BaOを55.1〜59.7質量部、TiO2を24.0〜26.0質量部、SiO2を7.7〜11.3質量部、Al2O3を6.6〜9.7質量部、SrOを0.7質量部以下、Na2Oを0.5質量部以下、CaOを0.4質量部以下含んでいることを特徴とするものである。
さらに、本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板は、好ましくは、前記メタライズ拡散防止層は、Ag,Cu,Au,Ni,Pt,Pd,Wおよびそれらを含む合金のうちの少なくとも1種を100質量部、ガラス組成物を10質量部以下含んで成り、前記ガラス組成物は、950℃以下の温度で結晶化してBaTiO3を析出するものであって、BaOを55.1〜59.7質量部、TiO2を24.0〜26.0質量部、SiO2を7.7〜11.3質量部、Al2O3を6.6〜9.7質量部、SrOを0.7質量部以下、Na2Oを0.5質量部以下、CaOを0.4質量部以下含んでいることを特徴とするものである。
本発明のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層配線基板(以下、コンデンサ内蔵基板ともいう)は、コンデンサ部の上下に配置された、チタン酸バリウム粉末とガラス粉末との焼結体からなる誘電体拡散防止層と、該誘電体拡散防止層と前記絶縁基体との間に配置された、金属粉末とガラス粉末との焼結体からなるメタライズ拡散防止層とを有していることにより、同時焼成時に発生していた絶縁体層と誘電体層との間の相互拡散現象を、絶縁層と誘電体拡散防止層との間の相互拡散現象に置き換えることができる。従って、コンデンサ部を形成する誘電体層の誘電体成分(ガラス成分)が絶縁層および電極層に流出して誘電体層の焼結不足が発生したり、絶縁体層のガラス成分が誘電体層中に侵入して誘電体層のガラス成分が過剰となることを抑制することができる。その結果、コンデンサ内蔵基板内に形成したコンデンサ部の容量低下やその容量値のバラツキを大幅に抑制することができる。
また、誘電体拡散防止層とガラスセラミック焼結体からなる絶縁層間にメタライズ拡散防止層を介在させることにより、誘電体拡散防止層と絶縁層との間の誘電体成分(ガラス
成分)の過剰な相互拡散を抑制することができる。
その結果、誘電体拡散防止層と絶縁層とに発生するボイドを無くし、また誘電体拡散防止層と絶縁層との間の熱膨張係数の差による残留応力を緩和して、誘電体拡散防止層と絶縁層とにクラックが発生するのを防止し、信頼性の高いコンデンサ内蔵基板とすることができる。
本発明のコンデンサ内蔵基板は、好ましくは、電極層およびメタライズ拡散防止層は、電極層は、Ag,Cu,Ag−PtおよびAg−Pdのうちのいずれかから成る金属粉末を含む焼結体から成り、メタライズ拡散防止層は、Ag,Cu,Pt,Pd,Wおよびそれらを含む合金のうちの少なくとも1種から成る金属粉末とその金属粉末100質量部に対して10質量部以下のガラス粉末との焼結体から成ることから、電極層およびメタライズ拡散防止層を緻密な金属質の焼結体とすることができる。また、電極層およびメタライズ拡散防止層は、その厚みが5〜20μmであることから、誘電体層と誘電体拡散防止層との間、また誘電体拡散防止層と絶縁層との間の相互拡散をより有効に抑制することができる。
また、誘電体拡散防止層は、チタン酸バリウム粉末とチタン酸バリウム粉末100質量部に対して5〜150質量部のガラス粉末との焼結体から成ることから、誘電体拡散防止層は900〜1000℃の温度領域において緻密な焼結体となる。その結果、絶縁層と誘電体層との間の相互拡散を効果的に防止することが可能となる。以上により、コンデンサ内蔵基板内に形成したコンデンサ部の容量低下や容量値のバラツキをより好適に抑えることができる。
また、本発明のコンデンサ内蔵基板は、好ましくは、誘電体拡散防止層は、熱膨張係数が8×10−6〜10×10−6/℃であることから、ガラスセラミック焼結体からなる絶縁層とチタン酸バリウムを主成分とする誘電体層との間の熱膨張差による残留応力を小さくすることができる。その結果、誘電体層、誘電体拡散防止層、絶縁層の各層にクラックが発生しない、より信頼性の高いコンデンサ内蔵基板となる。
また、本発明のコンデンサ内蔵基板は、好ましくは、誘電体拡散防止層に含まれるガラス粉末は、ガラス転移温度が550℃以下の非結晶ガラス粉末であることから、同時焼成における冷却過程において誘電体拡散防止層中に分散した非結晶ガラス成分が、そのガラス転移温度に達するまで誘電体層と絶縁体層との間の応力を緩和する。その結果、誘電体層、誘電体拡散防止層、絶縁層の各層にクラックが発生しない、より一層信頼性の高いコンデンサ内蔵基板となる。
さらに、本発明のコンデンサ内蔵基板は、好ましくは、誘電体層は、チタン酸バリウム粉末にB2O3,SiO2,CaO,BaOおよびZnOを含むガラス粉末とCuO粉末とをそれぞれチタン酸バリウム粉末100質量部に対して2〜10質量部添加した焼結体から成ることから、誘電体層は900〜1000℃の温度領域でより緻密な焼結体となるため、その結果、絶縁層と誘電体層との間の相互拡散をより効果的に防止することが可能となる。
さらに、本発明のコンデンサ内蔵基板は、好ましくは、誘電体拡散防止層に含まれるガラス組成物の組成比を、Li2Oを2.0〜32.0質量部、B2O3を12.0〜42.0質量部、SiO2を5.0〜15.5質量部、CaOを6.7〜20.6質量部、BaOを6.7〜20.6質量部とすることにより、上記ガラス組成物がガラスセラミックスの焼結温度である1000℃以下で溶融し、誘電体拡散防止層の低温での焼結を従来のガラス組成物を使用した場合に比べより促すことができるため、誘電体部の特性とそのばらつきをより良くすることができる。
さらに、本発明のコンデンサ内蔵基板は、好ましくは、電極層とメタライズ拡散防止層に含まれるガラス組成物の組成比を、BaOを55.1〜59.7質量部、TiO2を24.0〜26.0質量部、SiO2を7.7〜11.3質量部、Al2O3を6.6〜9.7質量部、SrOを0.7質量部以下、Na2Oを0.5質量部以下、CaOを0.4質量部以下とすることにより、上記ガラス組成物が焼成時の結晶化の際に高誘電体層の主成分と同じ構造であるBaTiO3結晶を析出するため、従来のガラス組成物を使用した場合に比べ焼成時に発生するガラス成分の誘電体層への流入による誘電体層の特性とそのばらつきの悪化をより低減することができる。
従って、本発明のコンデンサ内蔵基板は、高容量で容量ばらつきの小さいコンデンサ部を内蔵したものとなる。
本発明のコンデンサ内蔵基板を添付図面に基づいて以下に詳細に説明する。
図1は本発明のコンデンサ内蔵基板の実施の形態の一例を説明するため断面図である。本発明のコンデンサ内蔵基板10は、複数の絶縁層11a〜11cを積層して成る絶縁基板11と、誘電体層12およびその上下に配設されたメタライズ層から成る一対の電極層13a,13bからなるコンデンサ部14と、コンデンサ部14を挟むようにその上下面に形成された誘電体拡散防止層15a,15bおよびメタライズ拡散防止層16a,16bと、貫通導体17a,17bと、配線層18a,18bとを有している。
本発明のセラミック配線基板10における絶縁層11a〜11cは、ガラス成分とセラミック粉末(セラミックフィラー)との焼結体から成る。このガラス成分としては、例えばSiO2−B2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は同一または異なってCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(但し、M3はLi,NaまたはKを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(但し、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。
また、セラミック粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等が挙げられる。
この絶縁層11a〜11cの焼成前の生シートであるグリーンシートは、ガラス粉末およびセラミック粉末と、有機バインダ,有機溶剤,可塑剤等とを添加混合してスラリーとするとともに、そのスラリーにドクターブレード法やカレンダロール法を採用することによって成形する。
このガラス粉末およびセラミック粉末に添加混合される有機バインダとしては、従来からセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラール系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。
グリーンシートを成形するためのスラリーに用いられる有機溶剤としては、その有機溶剤とガラス粉末とセラミック粉末と有機バインダとを混練してグリーンシート成形に適した粘度のスラリーが得られるように、例えば炭化水素類,エーテル類,エステル類,ケトン類,アルコール類等から成るものが挙げられる。
以上のようにして作製したグリーンシートに、必要に応じて金型加工やレーザ加工,マイクロドリルやパンチング等の機械的加工により貫通孔を形成する。この貫通孔に、Ag,Cu,Ag−Pt,Ag−Pd等の金属粉末とガラス粉末とに適当な有機バインダ,溶剤を添加混合した貫通導体用ペーストを、スクリーン印刷等により充填して、貫通導体17を形成する。
また、これらのグリーンシートの表面に、Ag,Cu,Ag−Pt,Ag−Pd等の金属粉末とガラス粉末に適当な有機バインダ,溶剤を添加混合した配線導体用ペーストを、スクリーン印刷等により塗布し、配線層18を形成してもよい。
次に、メタライズ拡散防止層16a,16bは、絶縁層11c,11bとなるグリーンシートの誘電体拡散防止層15a,15b側の各主面に、Ag,Cu,Au,Ni,Pt,Pd,Wおよびそれらを含む合金のうちの少なくとも1種からなる金属粉末とガラス粉末とに適当な有機バインダ,溶剤を添加混合して成る電極層用ペーストを、スクリーン印刷等により塗布して形成することができる。ここで、メタライズ拡散防止層16a,16bの厚みは5〜15μm、またメタライズ拡散防止層16に含まれるガラス粉末の添加量は金属粉末100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。これにより、メタライズ拡散防止層16を緻密な金属焼結体とすることができる。また、メタライズ拡散防止層16a,16bの各厚みを5〜15μmとすることで、誘電体拡散防止層15a,15bと絶縁層11a,11cとの間の誘電体成分や絶縁層中のガラス成分の相互拡散を有効に抑制することができる。
メタライズ拡散防止層16a,16b中のガラス粉末の添加量が10質量部を超えた場合、メタライズ拡散防止層16a,16bを形成する金属焼結体が焼結しにくい傾向があり、誘電体拡散防止層15a,15bと絶縁層11a,11cとの間で相互拡散が発生する。その場合、誘電体拡散防止層15a,15bと絶縁層11a,11cとにボイドが発生することがある。
また、メタライズ拡散防止層16a,16bの各厚みが5μmより小さい場合、誘電体拡散防止層15a,15bと絶縁層11a,11cとの間で相互拡散が起こりやすく、メタライズ拡散防止層16a,16bと絶縁層11a,11cとの間の絶縁層にボイドが発生する場合がある。また、誘電体拡散防止層15a,15bと絶縁層11a〜11cとの熱膨張係数の差が大きい場合、メタライズ拡散防止層16a,16bによる応力緩和効果が十分なものとはならず、絶縁層11a〜11cあるいは誘電体拡散防止層15a,15bにクラックが発生する場合がある。
また、メタライズ拡散防止層16a,16bの各厚みが15μmを超えた場合、メタライズ拡散防止層16a,16bと絶縁層11a〜11cの同時焼成過程における収縮挙動の差や熱膨張の差の影響が顕著に現れる。その結果、絶縁層11a〜11cにクラックが発生したり、コンデンサ内蔵基板10に反りが発生する場合がある。
また、メタライズ拡散防止層16a,16b中に含まれるガラス組成物の含有量は、焼成時に誘電体拡散防止層15a,15bとメタライズ拡散防止層16a,16bとの間や、メタライズ拡散防止層16a,16bと絶縁層11a〜11cとの界面はがれを生じない最小の比率であることが好ましい。すなわち、金属粉末が100質量部であっても焼成時に誘電体拡散防止層15a,15bとメタライズ拡散防止層16a,16bとの間や、メタライズ拡散防止層16a,16bと絶縁層11a〜11cとの間に界面はがれが生じない場合は上記ガラスを添加する必要はない。しかし、上記ガラス組成物の含有量が10質量部以上の場合には、焼成時にメタライズ拡散防止層16a,16b内のSiO2,Al2O3,Na2O,CaO成分が誘電体層12へ多く流入して、誘電体層12の特性とそのばらつきを悪化させやすい傾向があるため、上記範囲が有効である。
上記ガラス組成物は、ガラスの結晶化の際にBaOとTiO2が結合してBaTiO3結晶を析出するものである。主相としてBaTiO3結晶を析出するため、上記ガラス組成物が焼成時の拡散により誘電体層12の内部に流入しても誘電体層12の特性とそのばらつきを悪化させることがない。また、上記ガラス組成物のメタライズ拡散防止層16a,16bへの添加により誘電体拡散防止層15a,15bとメタライズ拡散防止層16a,16bとの間や、メタライズ拡散防止層16a,16bと絶縁層11a〜11cとの間との濡れ性が上昇し、焼成時の界面はがれの発生をより低減させることができる。
ガラス組成物の組成比は、BaOを55.1〜59.7質量部、TiO2を24.0〜26.0質量部、SiO2を7.7〜11.3質量部、Al2O3を6.6〜9.7質量部、SrOを0.7質量部以下、Na2Oを0.5質量部以下、CaOを0.4質量部以下であり、各成分の合計が100質量部となるように調整する。TiO2,SiO2,Al2O3,SrO,Na2O,CaOは、ガラス化のための網目形成酸化物、中間酸化物、網目修飾酸化物であるため、ガラス化するための最小の比率であることが好ましい。BaOが59.7質量部を超え、TiO2が26.0質量部を超え、SiO2が7.7質量部未満、Al2O3が6.6質量部未満の場合、この組成物をガラス化させることが困難となりやすい。また、BaOが55.1質量部未満、TiO2が24.0質量部未満、SiO2が11.3質量部を超え、Al2O3が9.7質量部を超え、SrOが0.7質量部を超え、Na2Oが0.5質量部を超え、CaOが0.4質量部を超える場合、BaO,TiO2以外の成分の、誘電体層12の内部への流入量が多くなるため、誘電体層12の特性とそのばらつきを悪化させやすい傾向がある。
誘電体拡散防止層15a,15bは、それぞれメタライズ拡散防止層16a,16b上に、チタン酸バリウム粉末と5〜150質量部のガラス粉末とに適当な有機バインダ,溶剤を添加混合して成る誘電体拡散防止層用ペーストを、スクリーン印刷法等で塗布して形成することができる。この誘電体拡散防止層15a,15bの厚みは5〜15μmで、誘電体拡散防止層15a,15bに含まれるガラス粉末の含有量は5〜150質量部であることが好ましい。誘電体拡散防止層15a,15bに含まれるガラス粉末の含有量が5〜150質量部であることで、誘電体拡散防止層15a,15bをチタン酸バリウムとガラス成分からなる緻密な焼結体とすることができ、また、誘電体拡散防止層15a,15bの厚みを5〜15μmとすることで、誘電体層12と絶縁層11a,11cとの間の相互拡散を有効に抑制することができる。
ここで、誘電体拡散防止層15a,15b中のガラス粉末の添加量が150質量部を超えた場合、誘電体拡散防止層15a,15b中のガラス成分が誘電体層12に拡散し、誘電体層12の誘電率を低下させやすくなる。
また、誘電体拡散防止層15a,15b中のガラス粉末の添加量が5質量部より少ない場合、誘電体拡散防止層15a,15bが900〜1000℃では十分に焼結せず、絶縁層11a,11cと誘電体層12との間での相互拡散を十分に抑制できないことがある。
また、誘電体拡散防止層15a,15bの厚みが5μmより小さい場合、誘電体拡散防止層15a,15bの拡散防止効果が十分でなく、誘電体拡散防止層15a,15bと絶縁層11a,11cとの間で相互拡散が発生し、コンデンサ内蔵基板10内に形成したコンデンサ部14の容量低下や容量値のバラツキが発生する場合がある。誘電体拡散防止層15a,15bの厚みが15μmを超えた場合、誘電体拡散防止層15a,15bと絶縁層11a〜11cの同時焼成過程における収縮挙動の差や熱膨張の差の影響が顕著に現れる。その結果、絶縁層11a〜11cにクラックが発生したり、コンデンサ内蔵基板10に反りが発生する場合がある。
また、誘電体拡散防止層15a,15bは、その熱熱膨張係数が8×10−6〜10×10−6/℃であり、誘電体拡散防止層15a,15bに含まれるガラス粉末のガラス転移温度は550℃以下の非結晶ガラス粉末であることが好ましい。誘電体拡散防止層15a,15bの熱膨張係数を8×10−6〜10×10−6/℃とすることにより、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体層12(熱膨張係数12×10−6〜15×10−6/℃)とガラスセラミック焼結体からなる絶縁層11a〜11c(熱膨張係数6×10−6〜10×10−6/℃)との熱膨張係数の差による熱応力をより有効に緩和することができる。
さらに、誘電体拡散防止層15a,15bに含まれるガラス粉末が、ガラス転移温度が550℃以下の非結晶ガラス粉末であることにより、冷却過程において誘電体拡散防止層15a,15b中に分散した非結晶ガラス成分がそのガラス転移温度に達するまで誘電体層12と絶縁層11a〜11cとの間の応力を緩和する。その結果、誘電体層12、誘電体拡散防止層15a,15b、絶縁層11a〜11cの各層にクラックが生じない、より一層信頼性の高いコンデンサ内蔵基板10となる。
さらに、誘電体拡散防止層15a,15bに含まれるガラス組成物の組成比は、Li2Oが2.0〜32.0質量部、B2O3が12.0〜42.0質量部、SiO2が5.0〜15.5質量部、CaOが6.7〜20.6質量部、BaOが6.7〜20.6質量部であることが好ましい。上記組成比とすることにより、このガラス組成物がガラスセラミックスの焼結温度である1000℃以下で溶融するため、誘電体拡散防止層15a,15bの低温での焼結を従来のガラス組成物を使用した場合に比べてより促すことができ、誘電体部の特性とそのばらつきをより良くすることができる。
SiO2,B2O3はガラス化のための網目形成酸化物であるため、B2O3が12.0質量部未満、SiO2が5.0質量部未満の場合、このガラス組成物をガラス化させることが困難となる。また、B2O3が42.0質量部を超え、SiO2が15.5質量部を超える場合、このガラス組成物の融点が1000℃を超え、誘電体拡散防止層15a,15bを1000℃以下の低温で焼結させることが困難となり、その特性とばらつきを悪化させやすい傾向がある。
また、Li2O,CaO,BaOはガラス化のための中間酸化物であり上記ガラス組成物のガラス化を促す。また、Li2Oはこのガラス組成物の低温焼結化を促す。Li2Oが2.0質量部未満の場合、このガラス組成物を1000℃以下の低温で溶融させることが困難となりやすい。また、Li2Oが32.0質量部を超える場合、上記ガラス組成物の融点が脱バインダー温度である700℃を下回るため、焼成の際にバインダー中のカーボンが溶融したガラス組成物内に取り残されて誘電体部の特性を悪化させやすい傾向がある。従って、上記Li2Oの組成比の範囲が有効である。また、上記SiO2,B2O3,Li2Oの組成比の範囲内で全体の組成比が100質量部となるようにCaO,BaOの量を調整する。
次に、グリーンシート上に形成するコンデンサ部14について説明する。コンデンサ部14は誘電体層12とその上下に配設されたメタライズ層から成る一対の電極層13a,13bから形成される。
電極層13aは、グリーンシートに形成された誘電体拡散防止層15a,15bのペーストの塗布膜上に、Ag,Cu,Ag−Pt,Ag−Pd等の金属粉末とガラス粉末に適当な有機バインダ,溶剤を添加混合した電極用ペーストを、スクリーン印刷法等によって塗布して形成することができる。この電極層13aに含まれるガラス添加量は10質量部以下が良い。これにより、電極層13aを緻密な金属焼結体とすることができる。その結果、誘電体層12と誘電体拡散防止層15a,15bとの間の相互拡散をより有効に抑えることができ、コンデンサ内蔵基板10内に形成したコンデンサ部14の容量低下や容量値のバラツキを低減することができる。
また、電極層13a,13b中に含まれるガラス(ガラス組成物)の含有量は、焼成時に電極層13a,13bと誘電体拡散防止層15a,15bとの間や、電極層13a,13bと誘電体層12との界面はがれを生じない最小の比率であることが好ましい。すなわち、金属粉末が100質量部であっても焼成時に電極層13a,13bと誘電体拡散防止層15a,15bとの間や、電極層13a,13bと誘電体層12との間に界面はがれが生じない場合は上記ガラスを添加する必要はない。しかし、上記ガラス組成物の組成比が10質量部を超える場合、焼成時に電極層13a,13b内のSiO2,Al2O3,Na2O,CaOの成分が誘電体層12へ多く流入して、誘電体層12の特性とそのばらつきを悪化させやすい傾向がある。
上記ガラス組成物は、その結晶化の際にBaOとTiO2が結合してBaTiO3結晶を析出するものがより好ましい。上記ガラス組成物は主相としてBaTiO3結晶を析出するため、上記ガラス組成物が焼成時の拡散により誘電体層12の内部に流入しても誘電体層12の特性を悪化させることがない。また、上記ガラス組成物の電極層13a,13bへの添加により電極層13a,13bと誘電体拡散防止層15a,15bとの間や、電極層13a,13bと誘電体層12との間との濡れ性が上昇し、焼成時の界面はがれの発生を防ぐことが可能となる。
ガラス組成物の組成比は、BaOが55.1〜59.7質量部、TiO2が24.0〜26.0質量部、SiO2が7.7〜11.3質量部、Al2O3が6.6〜9.7質量部、SrOが0.7質量部以下、Na2Oが0.5質量部以下、CaOが0.4質量部以下であり、各成分の合計が100質量部となるように調整する。TiO2,SiO2,Al2O3,SrO,Na2O,CaOは、ガラス化のための網目形成酸化物、中間酸化物、網目修飾酸化物であるため、ガラス化するための最小の比率であることが好ましい。BaOが59.7質量部を超え、TiO2が26.0質量部を超え、SiO2が7.7質量部未満、Al2O3が6.6質量部未満の場合、このガラス組成物をガラス化させることが困難となりやすい。また、BaOが55.1質量部未満、TiO2が24.0質量部未満、SiO2が11.3質量部を超え、Al2O3が9.7質量部を超え、SrOが0.7質量部を超え、Na2Oが0.5質量部を超え、CaOが0.4質量部を超える場合、BaO,TiO2以外の成分の、誘電体層12の内部への流入量が多くなり、誘電体層12の特性を悪化させやすい傾向がある。
誘電体層12は電極層13aの上に、チタン酸バリウム粉末とガラス粉末に適当な有機バインダ,溶剤を添加混合したチタン酸バリウムペーストをスクリーン印刷法等で塗布して形成することができる。ここで、誘電体層12は、チタン酸バリウム粉末にB2O3,SiO2,CaO,BaOおよびZnOを含むガラス粉末とCuO粉末とをそれぞれチタン酸バリウム粉末100質量部に対して2〜10質量部添加した焼結体から成ることが好ましい。これにより、900〜1000℃の温度領域でより緻密な焼結体を形成することができるため、コンデンサ内蔵基板10内に形成したコンデンサ部14の容量が大きくなり、またその容量値のバラツキを小さくすることができる。
電極層13bは、誘電体層12の塗布膜上にAg,Cu,Ag−Pt,Ag−Pd等の金属粉末とガラス粉末とに適当な有機バインダ,溶剤を添加混合した電極用ペーストをスクリーン印刷法等によって塗布して形成することができる。ここで、電極層13bに含まれるガラスの含有量は、電極層13aと同し理由により10質量部以下が好ましい。
さらに、絶縁層11a、11b、11cとなる各グリーンシートを3〜20MPaの圧力と50〜80℃の温度で加熱圧着して積層体を作製する。
その後、例えばメタライズ拡散防止層16a,16b等の金属粉末がAg,Au,Pt,Pdおよびそれらの合金のうちの少なくとも1種である場合は大気中で900〜1000℃の温度で、メタライズ拡散防止層16a,16b等の金属粉末がCu,Ni,Wおよびそれらの合金うちの少なくとも1種である場合は窒素雰囲気下で積層体を焼成することにより、本発明のコンデンサ内蔵基板10が得られる。
また、積層体を焼成する際に、グリーンシートが焼結する温度では実質的に焼結収縮しない無機成分、例えばアルミナから成る拘束グリーンシートを積層体の両面に積層して焼成すると、この拘束グリーンシートによって積層体の主面方向の焼成時の収縮が拘束されて抑制されるために、グリーンシートとチタン酸バリウムを主成分とする誘電体層12となる塗布層等との焼結収縮挙動の差によるコンデンサ内蔵基板10の反り等を抑制することができる。
さらに、コンデンサ内蔵基板10の表面に位置する配線層18a,18bには、その表面に電子部品を実装する際の半田濡れ性の向上や配線層18a,18bの腐食防止のために、ニッケル,銅,金等のめっき層を施してもよい。
本発明のコンデンサ内蔵基板の実施例を以下に説明する。
コンデンサ内蔵基板の絶縁体層となるグリーンシートを得るために、ガラスとしてSiO2−CaO−MgO系ガラス粉末50質量部と、セラミックフィラーとしてAl2O3粉末50質量部とを混合し、この無機粉末100質量部に有機バインダとしてアクリル系樹脂12質量部,フタル酸系可塑剤6質量部および溶剤としてトルエン30質量部を加え、ボールミル法により混合しスラリーとした。このスラリーを用いて、ドクターブレード法により厚さ200μmのグリーンシートを成形した。
このグリーンシートに、メタライズ拡散防止層用ペーストをスクリーン印刷法にて塗布し70℃で30分乾燥して、メタライズ拡散防止層のパターンを形成した。また、このパターンの形状は3mm角のパターンとした。なお、上記のメタライズ拡散防止層用ペーストは、Ag粉末とガラス粉末との混合物からなり、Ag粉末とガラス粉末とを100質量部としたとき、これにアクリル樹脂12質量部と有機溶剤としてα−テルピネオール6質量部とを加え、攪拌脱泡機により十分に混合したものを用いた。
また、メタライズ拡散防止層上に誘電体拡散防止層用ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、70℃で30分乾燥して、誘電体焼拡散防止層のパターンを形成した。誘電体拡散防止層用ペーストは、チタン酸バリウム粉末とガラス粉末との混合物からなり、チタン酸バリウム粉末とガラス粉末とを100質量部としたとき、これにアクリル樹脂12質量部と有機溶剤としてα−テルピネオール8質量部とを加え、攪拌脱泡機により十分に混合した後に3本ロールで十分に混練したものを用いた。
次に、メタライズ拡散防止層と誘電体拡散防止層のパターンを形成したグリーンシートにパンチングマシーンを用いて所定位置に貫通孔を形成し、この貫通孔にスクリーン印刷法で貫通導体用ペーストを充填した。貫通導体用ペーストとしては、Ag粉末(平均粒径3μm)100質量部に対してガラス粉末10質量部を加え、さらにバインダ成分として所定量のアクリル系樹脂およびテルピネオールを加えて、攪拌脱泡機により十分に混合したものを用いた。
さらに、誘電体拡散防止層のパターン上に電極層用ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、70℃で30分乾燥して、下側の電極層のパターンを形成した。電極用ペーストとしては、メタライズ拡散防止層用ペーストと同じものを用いた。
次に、下側の電極層のパターン上に、誘電体層用ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、70℃で30分乾燥して、誘電体層のパターンを形成した。誘電体層用ペーストとしては、チタン酸バリウム粉末と、それに対して5質量部のB2O3,SiO2,CaO,BaO,ZnOを含むガラス粉末と、5質量部の酸化銅との混合物からなり、さらにこの混合物を100質量部としたとき、これにアクリル樹脂12質量部と有機溶剤としてα−テルピネオール5質量部とを加え、攪拌脱泡機により十分に混合した後に3本ロールで十分に混練したものを用いた
次に、誘電体層のパターン上に電極層用ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、70℃で30分乾燥して、上側の電極層のパターンを形成しコンデンサ部を形成した。
次に、コンデンサ部を形成したグリーンシート裏面と、メタライズ拡散防止層のパターンと誘電体拡散防止層のパターンを形成したグリーンシート表面とに、配線層用のペーストをスクリーン印刷法で塗布し、70℃で30分乾燥して、配線層のパターンを形成した。配線層用ペーストとしては、Ag粉末100質量部に対してガラス粉末10質量部を加え、さらにバインダ成分として所定量のアクリル系樹脂およびテルピネオールを加えて、攪拌脱泡機により十分に混合したものを用いた。
次に、コンデンサ部を形成したグリーンシートと、メタライズ拡散防止層のパターンおよび誘電体拡散防止層のパターンを形成したグリーンシートとを、5MPaの圧力と50℃の温度で真空加熱圧着して積層体を作製した。
次に、この積層体を、500℃で3時間のバインダの燃焼行程と、900℃で1時間のセラミックスの焼結工程とからなる焼成工程で焼成し、緻密なガラスセラミックス焼結体から成る絶縁体層の内部に同時焼成により誘電体層を配設して成るコンデンサ内蔵基板を得た。
得られたコンデンサ内蔵基板について、その容量素子の電気的な容量を測定し、また半田ディップ試験(260℃,5秒)後のクラックの発生の有無を確認した。容量の測定は、測定周波数1MHz、測定温度25℃の条件で、アジレントテクノロジー株式会社製インピーダンス測定器(型式:4294Aプレシジョン インピーダンス アナライザ、測定精度:±0.08%)を用いて測定した。測定結果を表1〜表3に示す。また、クラックの発生の確認は、コンデンサ内蔵基板の断面を鏡面研磨仕上げした後、金属顕微鏡(倍率は100倍)で観察して行なった。
表1は、誘電体拡散防止層の厚みが10〜15μm、誘電体拡散防止層に添加するガラス添加量をチタン酸バリウムの粉末に対し30質量部としたとき、メタライズ拡散防止層中のガラス添加量(質量部)とメタライズ拡散防止層の厚みがコンデンサ部を形成する誘電体層の比誘電率に与える影響を調査した結果である。
ここで、比誘電率は、得られた容量をC、誘電体層の厚みをd、コンデンサ部の面積をSとしたとき、ε=C×d/Sから求めた値であり、誘電体層用の誘電体材料を単独で焼成した場合の比誘電率は1100〜1200であった。
そして、比誘電率が1000より小さいものを×、半田ディップ試験でクラックが観察されたものを△、比誘電率が1000を超え、かつ半田ディップ試験でクラックが発生しなかったものを○とした。
表1の結果から、メタライズ拡散防止層中のガラス添加量は10質量部以下でメタライズ拡散防止厚みは5〜15μmであるものが、誘電体用材料の比誘電率とほぼ同等の値が得られ、さらにクラックの発生のない、良好な特性を有するものであることが判明した。
表2は、誘電体拡散防止層に添加するガラス添加量をチタン酸バリウムの粉末に対し5質量部としたとき、誘電体拡散防止層中のチタン酸バリウム粉末に対するガラス添加量と、誘電体拡散防止層の厚みと、コンデンサ部の比誘電率との関係を調査した結果である。
ここで、比誘電率は表1と同様な方法で求めたものであり、比誘電率が1000より小さいものを×、半田ディップ試験でクラックが観察されたものを△、比誘電率が1000を超え、かつ半田ディップ試験でクラックが発生しなかったものを○とした。
表2の結果から、誘電体拡散防止層のガラス添加量は5〜150質量部で誘電体拡散防止層厚みは5〜15μmであるものが、誘電体用材料の比誘電率とほぼ同等の値が得られ、さらにクラックの発生のない、良好な特性を有するものであることが判明した。
表3は、誘電体拡散防止層に添加するガラス粉末の種類を結晶化ガラスと非晶質ガラスで比較した結果を示すものである。表3より、誘電体拡散防止層に添加するガラス粉末を非結晶ガラスとすることで、クラックの発生率が低下することが判明した。
以上より、本発明のコンデンサ内蔵基板はいずれも良好な特性を有するものであることが確認できた。
絶縁体層となるセラミックグリーンシートを得るために、ガラスとしてSiO2−CaO−MgO系ガラス粉末60質量部と、セラミック粉末としてAl2O3粉末40質量部とを混合し、この無機粉末100質量部に有機バインダとしてアクリル樹脂12質量部、フタル酸系可塑剤6質量部および溶剤としてトルエン30質量部を加え、ボールミル法により混合しスラリーとした。このスラリーを用いてドクターブレード法により厚さ200μmのセラミックグリーンシートを成形した。
次に、このセラミックグリーンシートから第1セラミックグリーンシート、第2セラミックグリーンシートの2枚を用意した。
このセラミックグリーンシート上に本発明の内蔵されるコンデンサ部Aと比較のために作製したコンデンサ部Bをスクリーン印刷法により作製した。以下、作製方法を示す。
まず、第1セラミックグリーンシートの裏面と第2セラミックグリーンシートの表面にメタライズ拡散防止層用のペーストを、それぞれ縦1.3mm×横1.3mm×厚み12μm,縦2.0mm×横2.0mm×厚み12μm,縦2.6mm×横2.6mm×厚み12μmと、縦1.7mm×横1.7mm×厚み12μm,縦2.4mm×横2.4mm×厚み12μm,縦3.0mm×横3.0mm×厚み12μmの範囲にスクリーン印刷した。
メタライズ拡散防止層に含まれる紛体としてCuとガラスからなるものを使用した。コンデンサ部Aに使用するメタライズ拡散防止層のガラスの組成比として、BaOが55.1質量部、TiO2が24.0質量部、SiO2が11.3質量部、Al2O3が9.7質量部であるものを使用した。また、コンデンサ部Bに使用するメタライズ拡散防止層のガラスとして、BaO,TiO2を含まないものを使用した。この粉体にアクリル樹脂バインダ、テルピネオールを加えて、3本ロールにより適度な粘度になるように混合したものを用いた。
次に、印刷したメタライズ拡散防止層用のペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、第1セラミックグリーンシートの裏面と第2セラミックグリーンシートの表面に形成されたメタライズ拡散防止層用のペースト上に、誘電体拡散防止層用のペーストを、それぞれ縦1.3mm×横1.3mm×厚み12μm,縦2.0mm×横2.0mm×厚み12μm,縦2.6mm×横2.6mm×厚み12μmと、縦1.7mm×横1.7mm×厚み12μm,縦2.4mm×横2.4mm×厚み12μm,縦3.0mm×横3.0mm×厚み12μmの範囲にスクリーン印刷した。
誘電体拡散防止層に含まれる粉体として、BaTiO3とガラスからなるものを使用した。コンデンサ部Aに使用する誘電体拡散防止層のガラスの組成比として、Li2Oを12.0質量部、B2O3を34.0質量部、SiO2を14.0質量部、CaOを20.0質量部、BaOを20.0質量部含んでなるものを使用した。また、コンデンサ部Bに使用する誘電体拡散防止層のガラスとして、Li2Oを含まないものを使用した。
この粉末に、有機バインダ、分散剤、有機溶剤を加えて混練し、ペースト状にした。有機バインダとしてアクリル樹脂バインダ、分散剤としてノニオン系のものを使用した。また、有機溶剤としてテルピネオールを使用した。
次に、印刷した誘電体拡散防止層用のペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、第1セラミックグリーンシートと第2セラミックグリーンシートに形成されたパターンの中心に機械的加工によりビアホールを形成した。ビアホールは、断面形状が直径0.2mmの円形となるように加工した。
次に、第1セラミックグリーンシートと第2セラミックグリーンシートに形成されたビアホール内部に、Cuとガラス組成物と有機バインダと有機溶剤からなる導体ペーストを充填した。
次に、第2セラミックグリーンシートの表面に形成された誘電体拡散防止層用のペースト上に、電極層用ペーストをスクリーン印刷により塗布し、縦1.3mm×横1.3mm×厚み12μm,縦2.0mm×横2.0mm×厚み12μm,縦2.6mm×横2.6mm×厚み12μmの容量素子電極のパターンを形成した。
電極層に含まれる紛体として、Cuとガラスからなるものを使用した。コンデンサ部Aに使用する電極層のガラス組成物として、BaOを55.1質量部、TiO2を24.0質量部、SiO2を11.3質量部、Al2O3を9.7質量部を含んでなるものを使用した。また、コンデンサ部Bに使用する電極層のガラスとして、BaO,TiO2を含まないものを使用した。この粉体にアクリル樹脂バインダ、テルピネオールを加えて、3本ロールにより適度な粘度になるように混合したものを用いた。
次に、印刷した電極層用ペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、この第2セラミックグリーンシートの表面に形成された電極層用ペースト上に、高誘電体層用ペーストをスクリーン印刷により塗布し、縦1.7mm×横1.7mm×厚み12μm,縦2.4mm×横2.4mm×厚み12μm,縦3.0mm×横3.0mm×厚み12μmの容量素子電極パターンを形成した。
誘電体層の粉末は、コンデンサ部A,BともにBaTiO3と焼結助剤からなるものを使用した。この粉末に、有機バインダ、分散剤、有機溶剤を加えて混練し、ペースト状にした。有機バインダとしてアクリル樹脂バインダを、分散剤としてノニオン系のものを使用した。また、有機溶剤としてテルピネオールを使用した。
次に、印刷した誘電体層用ペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、この第2セラミックグリーンシートの表面に形成された誘電体層用ペースト上に、電極層用ペーストを同じ要領で塗布し、縦1.3mm×横1.3mm×厚み12μm,縦2.0mm×横2.0mm×厚み12μm,縦2.6mm×横2.6mm×厚み12μmの容量素子電極パターンを形成した。
次に、印刷した配線導体用ペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、プローブをあてるために必要な表層パッドを形成するために、第1セラミックグリーンシートの表面と第2セラミックグリーンシートの裏面に導体配線パターンを形成した。
次に、第1セラミックグリーンシートと第2セラミックグリーンシートを重ね合わせ55kg/cm2の圧力で真空プレスすることによりセラミックグリーンシート積層体を得た。
次に、この内蔵されるコンデンサ部A,Bを形成したセラミックグリーンシート積層体をN2雰囲気で950℃、40分間焼成した。焼成工程における雰囲気の条件は、高誘電体層、電極層、誘電体拡散防止層、メタライズ拡散防止層および絶縁体層に含まれる有機バインダ、有機溶剤を分解させるために、35℃の温水に通したN2を炉内に供給したものとした。
このようにして得られた誘電体素子内蔵基板に対して、内蔵されるコンデンサ部A,Bの電気的な容量を測定した。容量の測定は、測定周波数1MHz、測定温度25℃の条件で、インピーダンス測定器(型式:4294Aプレシジョンインピーダンスアナライザ、測定精度:±0.08%、アジレントテクノロジー株式会社製)を用いて行なった。
得られた容量値とそのばらつきを、形成したコンデンサ部A,Bの電極パターンの一辺長さに対する値として算出した結果を表4に示す。ばらつきの指標として容量値の標準偏差の3倍(3σ)を用い、この値が20%以下であればコンデンサとして使用可能とした。
表4により、コンデンサ部A,Bの容量値のばらつきを比較した結果、コンデンサ部Bであっても、3σが20%以下でありコンデンサとして使用可能であると判断されるが、誘電体拡散防止層、メタライズ拡散防止層、電極層のガラスの組成比を本発明の範囲に限定して作製したコンデンサAの方が、ばらつきが15%以下とより低減されている。その結果、コンデンサAの方が容量値について高い精度を要するコンデンサとして使用可能であると判断される。
本発明のコンデンサ内蔵基板の実施の形態の1例を示す断面図である。
従来のコンデンサ内蔵基板の1例を示す断面図である。
符号の説明
1・・・絶縁層
2・・・コンデンサ部
3・・・電極層
4・・・誘電体層
10・・・コンデンサ内蔵基板
12・・・誘電体層
13a,13b・・・電極層
14・・・コンデンサ部
15a,15b・・・誘電体拡散防止層
16a,16b・・・メタライズ拡散防止層