本発明は、ガラスセラミックスから成る絶縁基板の内部にコンデンサを内蔵したコンデンサ内蔵配線基板に関するものである。
近年、IT(Information Technology)産業の中核をなす半導体分野では、IC、LSIチップ等の半導体素子の性能向上が著しく、その半導体素子が大型コンピュータ、パーソナルコンピュータ、移動体通信端末等に代表される情報処理装置の高速化、小型化、多機能化等を支えている。この半導体素子に入出力される高周波信号の伝達速度を上げるために、導体材料としてはAg、Cu等の低抵抗導体が使用され、これらと同時焼成が可能で高周波帯域で誘電損失の低い、焼成温度が例えば1000℃以下の低温焼結多層配線基板、所謂ガラスセラミック多層配線基板が開発されてきている。
また、半導体チップを実装するガラスセラミック多層配線基板の内部に、大容量のコンデンサを内蔵させる構造が提案されている。これは、半導体チップの近くのガラスセラミック多層配線基板の内部にコンデンサを配置させることにより、半導体チップに影響を与える電源のインピーダンスを下げることができ、基板全体を小型化することができるためである。
一方、移動体通信端末等の電子機器の小型軽量化と、これを構成する電子部品の高密度実装化に伴い、ガラスセラミック多層配線基板の内部に配置されるコンデンサの小型化、大容量化の要求が高まってきている。コンデンサを小型化、大容量化するには、誘電体層を薄くするか、高い誘電率をもつ誘電体材料を使用する必要がある。そのため、誘電体材料には高い誘電率であることが要求される。
高い誘電率をもつ誘電体材料の1つに、チタン酸バリウムに代表されるペロブスカイト構造を有するものがある。チタン酸バリウムを主成分とするセラミックコンデンサは、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体層と電極層とを1250℃〜1350℃で焼成することにより得られる。
特開1997−92978号公報
しかしながら、コンデンサ内蔵配線基板は、一般に誘電体ペーストと導体ペーストとをガラスセラミックグリーンシート上に形成し、これを1000℃以下の温度で同時焼成することにより作製される。そのため、ガラスセラミック多層配線基板の内部に形成されるコンデンサを上記の方法で形成しようとした場合、同時焼成時にガラスセラミック層の成分が誘電体層に流入し、拡散してしまうため、所望の誘電率が得られなくなるといった問題点があった。
そこで、ガラスセラミック層の成分が誘電体層に流入することを防止するために、誘電体層と電極層とからなるコンデンサ層とガラスセラミック層との間にAl2O3、MgO、ZrO2、TiO2、CaOからなる拡散防止層や、チタン酸バリウム粉末を主成分とした拡散防止層が形成された構造が提案されている。
しかしながら、Al2O3、MgO、ZrO2、TiO2、CaOからなる拡散防止層を用いた場合には、誘電体層の主成分であるチタン酸バリウムとその成分が異なるため、拡散防止層の成分が誘電体層に流入してしまい、所望の誘電率が得られなくなるといった問題点があった。
また、チタン酸バリウム粉末を主成分とした拡散防止層を用いた場合には、ガラスセラミック層との収縮温度が異なるため、焼成時に拡散防止層とガラスセラミック層との間にクラックやボイドが発生し、基板強度や基板信頼性を満足させることが困難となるといった問題点があった。
本発明は、上記問題点に鑑み完成されたものであり、その目的は、誘電体層の誘電率が高く、かつ、拡散防止層とガラスセラミック層との間にクラックやボイドが発生することのないコンデンサ内蔵配線基板を提供することにある。
本発明のコンデンサ内蔵配線基板は、ガラスセラミックスから成る絶縁基板の内部にコンデンサ部を有するコンデンサ内蔵配線基板であって、前記コンデンサ部は、チタン酸バリウムから成る誘電体層を前記絶縁基板と同時焼成が可能なAg、Cu、Ag−Pt、Ag−PdおよびCu−Wのうちのいずれかの導体材料から成る少なくとも2個の電極層で挟持して成り、且つ前記コンデンサ部の両主面に、BaOを55.1〜59.7質量%、TiO 2 を24.0〜26.0質量%、SiO 2 を7.7〜11.3質量%、Al 2 O 3 を6.6〜9.7質量%含むガラス組成物から成る拡散防止層を形成したことを特徴とする。
本発明のコンデンサ内蔵配線基板によれば、ガラスセラミック層の内部に形成された拡散防止層がガラス組成物から成ることから、ガラス組成物とガラスセラミック層との収縮温度が近くなるため、焼成時に拡散防止層とガラスセラミック層との間にクラックやボイドが発生することを防ぐことができる。
また、拡散防止層の構成元素がペロブスカイト構造を構成する元素であることから、焼成時に拡散防止層の成分が誘電体層に流入しても誘電体層の誘電率が下がることを防ぐことができる。
したがって、拡散防止層とガラスセラミック層との間にクラックやボイドがなく、かつ、誘電体層の誘電率の高いコンデンサ内蔵配線基板を提供することができる。
また、本発明のコンデンサ内蔵配線基板は、誘電体層をチタン酸バリウムとし、電極層をAg、Cu、Ag−Pt、Ag−PdおよびCu−Wのうちのいずれかより成っているものとし、拡散防止層を、BaOを55.1〜59.7質量%、TiO2を24.0〜26.0質量%、SiO2を7.7〜11.3質量%、Al2O3を6.6〜9.7質量%含んで成るガラス組成物として
おり、高周波特性が良い低抵抗金属を用いて電極層が形成されたガラスセラミッ多層配線基板の内部に、誘電率が高い誘電体層を同時焼成によって形成することができるため、小型で大容量のコンデンサを内蔵したコンデンサ内蔵配線基板とすることができる。
また、拡散防止層がBaOを55.1〜59.7質量%、TiO2を24.0〜26.0質量%、SiO2を7.7〜11.3質量%、Al2O3を6.6〜9.7質量%含んで成るガラス組成物であることから、拡散防止層の構成元素が誘電体層のチタン酸バリウムと同じBa、Tiで主に構成されているため、焼成時に拡散防止層の成分が誘電体層に流入しても誘電体層の誘電率が下がることを防ぐことができる。したがって、コンデンサ部の誘電率が高く、かつ、低抵抗で高周波特性が良く、かつ、拡散防止層とガラスセラミック層との間にクラックやボイドがないコンデンサ内蔵配線基板を提供することができる。
本発明のコンデンサ内蔵配線基板(以下、基板ともいう)を添付図面に基づき以下に詳細に説明する。
図1は、本発明のコンデンサ内蔵配線基板の実施の形態の一例を示す断面図である。図1において、1は誘電体層、2は電極層、3は拡散防止層、4は絶縁基板である。
本発明のコンデンサ内蔵配線基板は、ガラスセラミックスから成る絶縁基板4の内部に形成されたペロブスカイト化合物から成る誘電体層1と、誘電体層1の上下主面にそれぞれ形成された絶縁基板4と同時焼成が可能な金属から成る電極層2とで構成され、コンデンサ部の上下主面にそれぞれ拡散防止層3が形成されており、拡散防止層3は、ペロブスカイト構造を構成する元素を主成分とするガラス組成物から成っている。
本発明のコンデンサ内蔵配線基板は以下のようにして作製される。まず、絶縁基板4の前駆体であるグリーンシートを形成する。グリーンシートは、ガラスまたはガラスとセラミック粉末との混合物、および樹脂バインダに、溶剤(有機溶剤、水等)および必要に応じて所定量の可塑剤、分散剤を加えて混合することによりスラリーを得、これをPETフィルム等の支持体上にドクターブレード法、リップコーター法、ダイコーター法等により成形することによって得る。
セラミック粉末としては、例えばAl2O3、SiO2、ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル、ムライト、コージェライト)等が挙げられる。
ガラスとしては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す)、SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は同一または異なってCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す)、SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は上記と同じである)、SiO2−B2O3−M3 2O系(但し、M3はLi、NaまたはKを示す)、SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(但し、M3は上記と同じである)、SiO2−Bi2O3系、SiO2−B2O3−Bi2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3−Bi2O3系等が挙げられる。
樹脂バインダとしては、従来からセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸、メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体で、具体的にはアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等)、ポリビニルブチラール系、ポリビニルアルコール系、アクリル−スチレン系、ポリプロピレンカーボネート系、セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。
溶剤としては、ガラス粉末とセラミック粉末、および樹脂バインダを分散させ、グリーンシート成形に適した粘度のスラリーが得られるように、例えば水または炭化水素類、エーテル類、エステル類、ケトン類、アルコール類等の有機溶剤が挙げられる。
次に、得られたグリーンシートの上に上述した拡散防止層3となるガラスペーストを形成する。この拡散防止層3は、基板の同時焼成時にガラスセラミック層の成分が誘電体層1に拡散し、流入してしまい、誘電体層1の誘電率が下がることを防止する作用を有している。
ここで、拡散防止層3は、ペロブスカイト構造を構成する元素を主成分とするガラス組成物から成っていることが重要であり、誘電体層1がチタン酸バリウムから成り、BaO(酸化バリウム)を55.1〜59.7質量%、TiO2(二酸化チタン)を24.0〜26.0質量%、SiO2(二酸化ケイ素)を7.7〜11.3質量%、Al2O3(アルミナ)を6.6〜9.7質量
%含んで100質量%と成るガラス組成物である。
拡散防止層3の構成元素がペロブスカイト構造を構成する元素で構成されていることで、焼成時に拡散防止層3の成分が誘電体層1に流入してもペロブスカイト構造である誘電体層1の結晶構造を変化させることがないため誘電体層1の誘電率が下がることを防ぐことができる。さらに、拡散防止層3がガラス組成物から成ることから、ガラス組成物とガラスセラミック層との収縮温度が近くなるため、焼成時に拡散防止層3とガラスセラミック層との間にクラックやボイドが発生することを防ぐことができる。
拡散防止層3は、BaOを55.1〜59.7質量%、TiO2を24.0〜26.0質量%、SiO2を7.7〜11.3質量%、Al2O3を6.6〜9.7質量%からなるガラス粉末と、樹脂バインダ
と、有機溶剤とを含んで成るガラスペーストを用いて形成する。
ここで、BaO、TiO2、SiO2、Al2O3は、ガラス化のための網目形成酸化物、中間酸化物、網目修飾酸化物である。BaOが59.7質量%を超え、TiO2が26.0質量%を超え、SiO2が7.7質量%を超え、Al2O3が6.6質量%未満の場合、この組成物をガラス化させることが困難となる。
また、BaOが55.1質量%未満、TiO2を24.0質量%未満、SiO2が11.3質量%未満、Al2O3が9.7質量%を超える場合、誘電体層1と同じ成分であるBaO、TiO2以外の割合が少なくなるため、誘電体層1の誘電率が下がってしまう。
ガラスペーストに用いられる樹脂バインダおよび有機溶剤としては、絶縁基板4となるガラスセラミックグリーンシート(以下、グリーンシートともいう)との同時焼成が可能であれば特に制限されるものではなく、例えばグリーンシートに配合される樹脂バインダおよび有機溶剤と同様のものが使用可能である。
拡散防止層3を形成する方法は、グリーンシート上にガラスペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷することにより形成する方法、または、ガラスペーストをスラリーとして用いてドクターブレード法、リップコーター法、ダイコーター法等の成型方法により拡散防止グリーンシートを作製し、グリーンシート上に積層する方法を用いることができる。
次に、電極層2を形成する。電極層2は、Ag(銀)、Cu(銅)、Ag(銀)−Pt(白金)、Ag(銀)−Pd(パラジウム)およびCu(銅)−W(タングステン)のい
ずれかで構成される。これらで構成された電極層2は、電気抵抗値が小さいので、基板に搭載される半導体素子に入出力される高周波信号の伝達速度が遅くなることがなく、高周波用途に好適である。
電極層2を形成する方法としては、例えば導体材料粉末をペースト化した導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷したり、めっき法や蒸着法等により所定パターン形状の金属膜を形成したりするようなグリーンシート上に直接形成する方法、あるいは印刷により所定パターン形状に形成した導体厚膜や所定パターン形状に加工した金属箔、めっき法や蒸着法等により形成した所定パターン形状の金属膜をグリーンシート上に転写する方法がある。導体材料としては、例えばAu、Ag、Cu、Pd、Pt等の1種または2種以上が挙げられ、2種以上の場合は混合、合金、コーティング等のいずれの形態であってもよい。なお、電極層2にはコンデンサを形成するための電極層2以外の配線層も含まれる。
導体ペーストに使用される導体材料粉末は、焼成時に絶縁基板4および誘電体層1のそれぞれの成分が相互拡散し、誘電体層1の誘電率が減少することを抑えるために、直径5μm以下の粒径の細かいものであることが好ましい。
導体ペーストに用いられる樹脂バインダおよび有機溶剤としては、絶縁基板4となるグリーンシートとの同時焼成が可能であれば特に制限されるものではなく、例えばグリーンシートに配合される樹脂バインダおよび有機溶剤と同様のものが使用可能である。
なお、電極層2を形成する前に、必要に応じて電極層2とその上下の絶縁層間の他の導体層との接続または導体層同士を接続するためのビアホール導体やスルーホール導体等の貫通導体を形成してもよい。これら貫通導体は、パンチング加工やレーザ加工等によりグリーンシートに形成した貫通孔に、導体材料粉末をペースト化した導体ペーストを印刷やプレス充填により埋め込む等の手段によって形成される。
次に、誘電体層1を形成する。誘電体層1はペロブスカイト粉末とガラス粉末と樹脂バインダおよび有機溶剤を含んで成る誘電体ペーストを用いて形成される。
誘電体ペーストに使用されるペロブスカイト粉末は、1000℃以下の焼成で誘電体層が焼結するために、直径0.5μm以下の粒径の細かいものであることが好ましい。また、ペロ
ブスカイト粉末としては、誘電率が高いチタン酸バリウムを用いる。
誘電体層1に用いられるガラス粉末はガラスを構成する網目形成酸化物と網目修飾酸化物とを混合したものを溶融したものをガラス化させることにより得ることができる。このようなガラスとしては、ガラスセラミック層と同時焼成可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す)、SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は同一または異なってCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す)、SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は上記と同じである)、SiO2−B2O3−M3 2O系(但し、M3はLi、NaまたはKを示す)、SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(但し、M3は上記と同じである)、SiO2−Bi2O3系、SiO2−B2O3−Bi2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3−Bi2O3系等が挙げられる。
誘電体層1を形成する方法は、グリーンシート上に形成された電極層2の上に誘電体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷することにより形成する方法、または、誘電体ペーストをスラリーとして用いてドクターブレード法、リップコーター法、ダイコーター法等の成型方法により誘電体グリーンシートを作製し、電極層2が形成されたグリーンシート上に積層する方法を用いることができる。誘電体ペーストを印刷することにより形成する場合、例えば、形成された誘電体層1の上に導体ペーストを印刷して上部の電極層2を形成し、さらに誘電体グリーンシートを積層し、誘電体グリーンシートの上面にさらに他の電極層2を形成したものを積層してもよい。いずれの場合においても、誘電体層1は単層でもよく、より高容量のコンデンサを得るために、誘電体層1と電極層2とが交互に重なるように形成した複数層としてもよい。
次に、誘電体層1が形成されたグリーンシートを含む複数のグリーンシートを位置合わせして積層し、圧着することによりグリーンシート積層体を作製する。圧着は3.0〜8.0MPa程度の圧力を加えて行ない、必要に応じて35〜80℃で加熱を行なう。グリーンシート同士の十分な密着性を得るために、グリーンシートに有機溶剤と樹脂バインダとを混合するなどして作製した接着剤を用いてもよい。
そして最後に、グリーンシート積層体を焼成することにより、本発明のコンデンサ内蔵配線基板が作製される。焼成する工程は有機成分の除去とセラミック粉末の焼結とから成る。有機成分の除去は100〜800℃の温度範囲でグリーンシート積層体を加熱することによって行ない、有機成分を分解、揮発させる。焼結温度はセラミック組成により異なり、約800〜1000℃の範囲内で行なう。焼成雰囲気はセラミック粉末や導体材料により異なり、大気中、還元雰囲気中、非酸化性雰囲気中等で行なわれ、有機成分の除去を効果的に行なうために水蒸気等を含ませてもよい。
グリーンシート積層体の上下面にさらに拘束グリーンシートを積層して焼成し、焼成後に拘束シートを除去するようにすれば、より高寸法精度のコンデンサ内蔵ガラスセラミック多層基板を得ることが可能となる。拘束グリーンシートは、Al2O3等の難焼結性無機材料を主成分とするグリーンシートであり、焼成時に収縮しないものである。この拘束グリーンシートが積層された積層体は、収縮しない拘束グリーンシートにより積層平面方向(xy平面方向)の収縮が抑制され、積層方向(z方向)にのみ収縮するので、焼成収縮に伴う寸法ばらつきが抑制される。
また、拘束グリーンシートには難焼結性無機成分に加えて、焼成温度以下の軟化点を有するガラス成分、例えばグリーンシート中のガラスと同じガラスを含有させるとよい。焼成中にこのガラスが軟化してグリーンシートと結合することによりグリーンシートと拘束グリーンシートとの結合が強固なものとなり、より確実な拘束力が得られるからである。このときのガラス量は、難焼結性無機成分とガラス成分とを合わせた無機成分に対して0.5〜15質量%とすると拘束力が向上し、かつ拘束グリーンシートの焼成収縮が0.5%以下に抑えられる。
焼成後、基板の両面に剥離することなく付着した状態の拘束シートを除去する。除去方法としては、例えば研磨、ウォータージェット、ケミカルブラスト、サンドブラスト、ウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。
以上によって、誘電体層の誘電率が高く、かつ、拡散防止層とガラスセラミック層との間にクラックやボイドが発生することのないコンデンサ内蔵配線基板を提供することができる。
本発明のコンデンサ内蔵配線基板およびガラスペーストの実施例を以下に説明する。
絶縁体層となるガラスセラミックグリーンシートを得るために、ガラスとしてSiO2−CaO−MgO系ガラス粉末60質量%と、セラミック粉末としてAl2O3粉末40質量%とを混合し、この無機粉末100質量部に、樹脂バインダとしてアクリル樹脂12質量部、フタル酸系可塑剤6質量部および溶剤としてトルエン30質量部を加え、ボールミル法により混合しスラリーとした。このスラリーを用いてドクターブレード法により厚さ200μmのガラスセラミックグリーンシートを成形した。
次に、このガラスセラミックグリーンシートから第1のガラスセラミックグリーンシート、第2のガラスセラミックグリーンシートの2枚を用意した。
まず、第1のガラスセラミックグリーンシートと第2のガラスセラミックグリーンシートに、機械的加工によりビアホールと成る貫通孔を形成した。この貫通孔は、断面形状が直径0.15mmの円形となるように加工した。
次に、第1のガラスセラミックグリーンシートと第2のガラスセラミックグリーンシートに形成された貫通孔内部に、Cuとガラス組成物と樹脂バインダと有機溶剤とからなる導体ペーストを充填した。
次に、第1および第2のガラスセラミックグリーンシート上に、BaOを57.1質量%、TiO2を25.0質量%、SiO2を9.3質量%、Al2O3を8.6質量%含んで成るガラス組成物100質量部に、樹脂バインダとしてアクリル樹脂35.0質量部、分散剤としてノニオン系分散剤3.5質量部を加えたガラスペーストをスクリーン印刷法により塗布し、縦1.3mm×横1.3mm×厚み12μmの拡散防止層パターンを形成した。
次に、第1および第2のガラスセラミックグリーンシートの表面に形成されたガラスペースト上に、導体ペーストをスクリーン印刷法により塗布し、縦1.3mm×横1.3mm×厚み12μmの電極パターンを形成した。
導体ペーストに含まれる粉末として、Cu粉末98.0質量%とSiO2−B2O3系ガラス粉末2.0質量%とを混合したものを使用した。この粉末100質量部に、樹脂バインダとしてアクリル樹脂10.9質量部、有機溶剤としてテルピネオール1.5質量部を加えて混練しペースト状にした。
次に、印刷した導体ペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、第2のガラスセラミックグリーンシートの表面に形成された導体ペースト上に、誘電体ペーストをスクリーン印刷法により塗布し、縦1.7mm×横1.7mm×厚み27μmの誘電体パターンを形成した。誘電体ペースト中の粉末として、個数積算粒径分布における50%粒径で0.10μmであるチタン酸バリウム粉末95.0質量%と、SiO2−B2O3系ガラス5.0質量%とを混合したものを使用した。この粉末100質量部に、樹脂バインダとしてアクリル樹脂30.0質量部、ノニオン系分散剤3.0質量部、有機溶剤としてテルピネオール3.0質量部を加えて混練しペースト状にした。
次に、印刷した誘電体ペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、第2のガラスセラミックグリーンシート表面に形成された誘電体ペースト上に、導体ペーストを塗布し、縦1.3mm×横1.3mm×厚み12μmの電極パターンを形成した。
次に、印刷した導体ペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、プローブをあてるために必要な電極パッドを形成するために、第1のガラスセラミックグリーンシート表面と第2のガラスセラミックグリーンシート裏面に導体ペーストを塗布し、配線導体パターンを形成した。
次に、印刷した導体ペースト中の有機溶剤を80℃の温風により乾燥した。
次に、第1のガラスセラミックグリーンシートと第2のガラスセラミックグリーンシートとを重ね合わせ、5.6Paの圧力、55℃の温度で真空プレスすることによりガラスセラミックグリーンシート積層体を得た。
次に、内蔵されるコンデンサを形成したガラスセラミックグリーンシート積層体を、N2雰囲気で915℃、40分間焼成し、実施例1のコンデンサ内蔵配線基板を作製した。焼成工程における雰囲気としては、誘電体層、電極層、拡散防止層およびガラスセラミックグリーンシートに含まれる樹脂バインダ、有機溶剤を分解させるために、50℃の温水に通したN2を炉内に供給したものとした。
また、比較例1として、ガラスペーストのかわりとしてAl2O3、ZrO2の耐火物からなるペーストを用いた以外は実施例1と同様の方法により、コンデンサ内蔵配線基板を作製した。
また、比較例2として、ガラスペーストのかわりとしてチタン酸バリウム粉末を主成分としたペーストを用いた以外は実施例1と同様の方法により、コンデンサ内蔵配線基板を作製した。
また、比較例3として、実施例1のガラスペーストのかわりとしてBaOを53.1質量%、TiO2を23.0質量%、SiO2を13.3質量%、Al2O3を10.6質量%含んで成るガラス組成物100質量部に樹脂バインダとしてアクリル樹脂35.0質量部、分散剤としてノニオン系分散剤3.5質量部を加えたガラスペーストを用いた以外は実施例1と同様の方法により、コンデンサ内蔵配線基板を作製した。
また、比較例4として、実施例1のガラスペーストのかわりとしてBaOを60.7質量%、TiO2を27.0質量%、SiO2を6.7質量%、Al2O3を5.6質量%含んで成るガラス組成物100質量部に樹脂バインダとしてアクリル樹脂35.0質量部、分散剤としてノニオン系分散剤3.5質量部を加えたガラスペーストを用いることを試みたが、ガラス化の過程である組成物を溶融状態から急冷するときに失透が発生し、ガラス化することができなかった。
このようにして得られた実施例1と比較例1、2および3のコンデンサ内蔵配線基板のコンデンサの電気的な容量を測定した。容量の測定は、測定周波数1MHz、測定温度25℃の条件で、インピーダンス測定器(型式「4294Aプレシジョンインピーダンスアナライザ」、測定精度±0.08%、アジレントテクノロジー株式会社製)を用いて行なった。
また、拡散防止層と絶縁基板の界面のクラック、ボイドの発生率の測定を行なった。すなわち、まずコンデンサ内蔵配線基板の断面を鏡面研磨仕上げした後、電子顕微鏡(倍率10000倍、型式「走査電子顕微鏡 JSM−6340F」、日本電子社製)にて観察を行なった。
得られた容量値およびクラック、ボイドの発生率を表1に示す。
表1より、本発明のガラスペーストを用いた実施例1のコンデンサの方が、Al2O3、ZrO2の耐火物からなるペーストを用いて作製した比較例1のコンデンサより容量値が高くなっていることが分かる。また、本発明のガラスペーストを用いた実施例1のコンデンサの方が、チタン酸バリウム粉末を主成分としたペーストを用いた比較例2のコンデンサより拡散防止層と絶縁基板の界面のクラック、ボイドの発生率が少なくなっていることが分かる。これより、本発明のガラスペーストを用いることにより、誘電体層の誘電率が高く、かつ、拡散防止層とガラスセラミック層との間にクラックやボイドが発生することのないコンデンサ内蔵配線基板を提供することが可能であることを確認できた。
また、表1より、本発明のガラスペーストを用いた実施例1のコンデンサの方が、本発明の範囲外のガラス組成比からなるガラスペーストを用いた比較例3のコンデンサより容量値が高くなっていることが分かる。これより、本発明の範囲内のガラス組成比からなるガラスペーストを用いることにより、誘電体層の誘電率がより高く、かつ、拡散防止層とガラスセラミック層との間にクラックやボイドが発生することのないコンデンサ内蔵配線基板を提供することが可能であることを確認できた。
なお、本発明の実施の形態は、上記の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しないものであれば、種々の変更は可能である。
本発明のコンデンサ内蔵配線基板の実施の形態の一例を示す断面図である。
符号の説明
1・・・誘電体層
2・・・電極層
3・・・拡散防止層
4・・・絶縁基板