ところで、LTCC材料は、その材質・組成に応じて、一般に、(1)ガラス複合系材料(ガラスコンポジット系材料)、(2)結晶化ガラス系材料、及び、(3)非ガラス系材料(セラミックス系低温焼成材料)の3種に大別することができる。「ガラス複合系材料」は、通常、50〜70質量%の非晶質ガラス粉末と50〜30質量%のセラミックス粉末(例えば、アルミナ粉末)の混合材料であり、「結晶化ガラス系材料」は、加熱焼成時に多数の微細な結晶がガラス成分中に析出した材料であり、ガラスセラミックスとも呼ばれている。また、「非ガラス系材料」は、主成分であるセラミック粉末(例えば、BaO−希土類酸化物−TiO2系材料粉末)に、ZnO、CuO、B2O3等の焼成時に液相を形成する成分(焼結助剤)が少量(通常10%以下)添加されて低温焼成が可能となった材料である。
これらのなかでも、非ガラス系材料は、共振器等の高周波デバイス用の誘電体材料としての特性に優れており、例えば、BaO−4TiO2系や上記のBaO−希土類酸化物−TiO2系の材料、殊に、BaO−Nd2O3−TiO2系材料は、特に誘電率及びQ値(誘電損失の評価ファクター:Q=1/tanδで定義される)が高いことから広範な研究がなされており、その低温焼成化に関する技術も多く提案されている(例えば、本出願人を権利者とする特許第3103803号参照)。
しかし、このような非ガラス系材料においても、上述した焼成過程における焼結に伴う収縮によるデバイス製造上の問題が生じ得るため、これを防止すべく、特許文献1及び2等に記載された従来の無収縮プロセスを適用しようとすると、セラミック基板の素地を形成する非ガラス系材料の焼結密度を十分に高めることができず、実用に供することができるセラミック基板を製造できないという問題があった。
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、LTCC材料の種類を問わず、すなわち、セラミック基板材料として非ガラス系材料を用いても、無収縮プロセスを利用することができ、これにより製作精度を高めて更なる小型化及び高密度化を実現できるとともに、実用性に優れた高性能の電子デバイスを製造可能なセラミック基板の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者は、非ガラス系材料の焼結助剤成分の焼結時の物性挙動に着目し鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明によるセラミック基板の製造方法は、セラミック基板の素地材料からなるグリーンシートを形成し、グリーンシートの少なくとも片面に金属を含む第1の層を形成し、第1の層上に、前記第1の層上に所定のマスクパターンを形成した後、さらに素地材料の焼成温度では焼結しない難焼結性の第2の層(拘束層)を形成し、第2の層が形成された積層体を、グリーンシートの焼結温度で焼成し、焼成された積層体から第2の層を除去し、前記第2の層が除去された後の前記第1の層を、前記マスクパターンを用いてパターニングすることにより配線層を形成する方法である。
前述の如く、セラミック基板のベースを形成するための素地に用いられるLTCC材料には、一般に、焼結助剤が含まれており、非ガラス系材料に添加される焼結助剤としては、通常、B2O3、ZnO、CuO等が知られている。これらの焼結助剤成分は、セラミック基板の素地を焼成する際に液相を形成するが、本発明者の知見によれば、この液相化したときの焼結助剤の粘度が過度に小さく、そのため、液相化した焼結助剤が、素地のグリーンシート上に積層された難焼結性の拘束層側へ拡散し易くなり、これにより、素地のグリーンシートの焼結が阻害されてしまい、実用に耐え得る程度の十分な焼結密度を得ることができないことが判明した。ただし、作用機序はこれに限定されない。
これに対し、本発明によるセラミック基板の製造方法では、セラミック基板の素地材料からなるグリーンシート上に、難焼結性の拘束層である第2の層を直接積層するのではなく、それらの間に、金属を含む第1の層を形成することにより、素地のグリーンシートにB2O3、ZnO、CuO等の液相化したときの粘度が小さい焼結助剤が含まれていた場合でも、液相化した焼結助剤が第2の層(拘束層)側へ拡散することが防止されることが判明した。これは、グリーンシート、第1の層、及び第2の層を備える積層体の焼結時に、金属を含む第1の層が焼結されて金属を含む緻密な層が形成され、これが、液相化した焼結助剤に対してバリア層(障壁層)として機能するものと推定される。ただし、作用はこれに限定されない。また、この際、第2の層が難焼結層であるので、グリーンシート層が平面方向に収縮することが抑止され、無収縮プロセスによる焼結が実現される。
なお、セラミック基板の素地材料として非ガラス系材料以外のLTCC材料を用いた場合に上記第1の層を設けても、第2の層を拘束層としてして十分に機能させることができるので、LTCC材料の種類を問わず、寸法精度の高いセラミック基板を製造することができる。また、材料組成によっては、ガラス複合系材料(ガラスコンポジット系材料)や結晶化ガラス系材料においても、焼結助剤の拡散や同種のメカニズムに起因するような焼結阻害の問題が生じるおそれも皆無とは言い切れず、そのような場合には、第1の層が同様にバリア層として機能し得るものと推定される。そればかりか、後述するとおり、焼成処理後の第1の層を配線層としても用いることができるので、本発明によるセラミック基板の製造方法は、この点においても、種々のLTCC材料を用いる際に有用であり、上述の如く、セラミック基板の素地材料として非ガラス系材料を用いるときに、特に有効な方法と言える。
ここで、「非ガラス系材料」とは、前記の如く、セラミック粉末を主成分として含み、焼成時に液相を形成する成分を焼結助剤として含むものであり、一般に一義的に定義されるものではないが、本発明においては、ガラス成分が全体の10質量%以下のものを示す。
また、第1の層として、焼結助剤を含むものを用いると好適である。こうすれば、グリーンシート、第1の層、及び第2の層の積層体を焼結するときに、第1の層の焼結性がより高められ、グリーンシートに含まれる液相化した焼結助剤に対するバリア性が向上される。また、第1の層に含まれる焼結助剤と素地グリーンシートに含まれる焼結助剤双方の溶融による相互作用によって素地と第1の層との融着が促進されるとともに、第1の層と素地グリーンシートとの焼結挙動を合致させ易くなるので、焼結後の素地と第1の層との固着強度が高められる。
そして、本発明によるセラミック基板の製造方法では、第2の層が除去された後の第1の層をパターニングして配線層を形成する。こうすれば、焼成後に第2の層と第1の層の両方を除去した後に、新たな配線層を形成する工程を実施することなく、第1の層を配線層として機能させることができるので、工程の簡略化による生産性の向上が図られる。
具体的には、第2の層が除去された第1の層上に、所定のパターンを有するマスクを形成し、そのマスクを用いて第1の層をパターニングすることにより配線層を形成する方法が挙げられる。この場合のマスクとしては、第1の層を除去するプロセスに対して耐性を有するものであればよい。例えば、エッチングを用いる場合には、そのエッチ耐性を有するものを使用できる。その後、マスクを除去することにより、マスクパターンど同パターンの配線層が形成される。
ここで、本発明によるセラミック基板の製造方法では、第1の層を形成した後でかつ第2の層を形成する前に、第1の層上に所定のマスクパターンを形成し、第2の層が除去された後の第1の層を、そのマスクパターンを用いてパターニングすることにより配線層を形成している。
通常、拘束層としての第2の層が積層されていても、平面方向の収縮を完全になくすことはできないので、若干の収縮は避けられない。一般に、セラミック基板の素地のグリーンシートは、内部電極やビアホール導体等が形成された多層シートで形成されることが多々あり(例えば、本出願人による特許第3471571号公報、特開2002−198647号公報等参照)、かかる多層シートを焼成した場合、グリーンシートの平面方向の若干の収縮により、ビアホール導体の位置も初期位置から若干ずれてしまう。その後で、焼成体に配線層を形成する場合、ビアホール導体との接続位置のずれを考慮して、両者の接続を確保すべく、設計上の寸法裕度を大きくする等の対策が必要となり得る。こうなると、配線の微細化が妨げられてしまう。
これに対し、焼成に先立って、第1の層上の例えば、ビアホール導体上にマスクパターンを先に形成しておき、焼成後に、第2の層が除去された後の第1の層を、そのマスクパターンを用いてパターニングして配線層を形成すれば、焼成時に、マスクパターンも素地のグリーンシートと同じ縮率で収縮するので、ビアホール導体等と配線層との位置ずれがなく両者を確実に接続することができる。これにより、配線の微細化による更なる高密度実装に寄与することができる。
或いは、第1の層を形成した後でかつ第2の層を形成する前に、第1の層上に、第1の層に含まれる金属と同じ金属を含む所定のマスクパターンを形成し、第2の層が除去された後の第1の層を、そのマスクパターンを用いてパターニングすることにより配線層を形成してもよい。このようにしても、焼成時に、マスクパターンと素地のグリーンシートが同じ縮率で収縮するので、上記のようなビアホール導体等と配線層とを確実に接続することができ、その結果、更なる高密度配線を実現できる。また、この場合、マスクは第1の層と同組成の材料で形成されるので、マスクの層は、マスクの厚さ分、他の部分よりも厚くなり、そのマスクパターンが形成された第1の層全体を一様に、例えばエッチング処理すれば、マスクパターン以外の部分の金属を含む層が除去されたときに、マスクパターンの部分の金属を含む層が配線パターンとして残留する。よって、マスクを除去する工程を省略することができ、更なる生産性の向上が図られる。
本発明のセラミック基板の製造方法によれば、セラミック基板の素地材料からなるグリーンシート上に、難焼結性の拘束層である第2の層を直接積層するのではなく、それらの間に、金属を含む第1の層を介在させることにより、素地のグリーンシート中の焼結助剤が液相化しても、その液相化した焼結助剤が第2の層(拘束層)側へ拡散することが防止されるので、素地に用いるLTCC材料の種類を問わず、無収縮プロセスを利用することができ、これにより製作精度を向上させることができ、電子デバイスの更なる小型化及び高密度化を実現することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
(第1実施形態)
図1乃至図7は、本発明によるセラミック基板の製造方法の好適な第1実施形態によってセラミック基板を製造する手順を示す工程図(フロー図)であり、各工程におけるセラミック基板の要部を示す概略断面図である。
まず、セラミック基板の素地材料を調製し、グリーンシート10を形成する(図1)。具体的には、最初に、非ガラス系材料の素地材料を調製するために、例えば主成分としてバリウム(Ba)、ネオジム(Nd)等の希土類、及びチタン(Ti)の各酸化物を用意し、それらが所定の組成比となるように所定量を秤量し、例えば水等を用いた湿式混合等により混合する。それから、BaO−Nd2O3等の希土類酸化物−TiO2系化合物の合成を行うため、その混合物を、例えば1100℃以上、好ましくは1100℃〜1400℃程度で所定時間、仮焼を行った後、所定の粒径となるように粉砕する。なお、主成分原料としては、酸化物である必要はなく、バリウム、希土類元素、及びチタンの例えば炭酸塩、水酸化物、硫化物等のように熱処理により酸化物となるものを使用してもよい。
次に、焼結助剤成分である銅(Cu)、亜鉛(Zn)、及びホウ素(B)の各酸化物の所定量を秤量し、先に仮焼して得た主成分(母材粉末)であるBaO−希土類酸化物−TiO2化合物と、例えば水等を用いた湿式混合等により混合する。このときの主成分と焼結助剤との混合比は特に制限されず、例えば、主成分粉末に対して焼結助剤が0.1〜10質量%程度となるように適宜調整できる。なお、焼結助剤に関しても、主成分原料と同様に、酸化物である必要はなく、例えば、炭酸塩、水酸化物、硫化物等のように熱処理により酸化物となるものを使用してもよい。
次いで、主成分と焼結助剤成分との均一分散性を高め、かつ、後工程での成型等の作業性を向上させるべく粒度分布の狭い粉体を得るために、上記の混合粉砕物を、その焼結温度以下の温度で所定時間で再仮焼した後、その仮焼粉末を所定の粒径まで粉砕する。
それから、得られた粉末に、例えば、アクリル系(アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステルの単独重合体または共重合体、より具体的には、アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等)、ポリビニルブチラール系、ポリビニルアルコール系、アクリル−スチレン系、ポリプロピレンカーボネート系、セルロール系、エチルセルロース系等の単独重合体又は共重合体を適宜の溶剤で溶解したビヒクル等の有機バインダー、或いは、無機バインダー、必要に応じてエステル等の可塑剤やターピネオール等の有機溶剤を混合してスラリーを得る。次に、このスラリーを、例えばドクターブレード法、スラリーキャスト法、スクリーン印刷法、圧延法、プレス法等の適宜の方法によってシート化し、この誘電体のスラリーシートを所望により複数層積層してグリーンシート10を得る。
次に、金属ペーストを調製し、この金属ペーストを、グリーンシート10の両面に、例えばスクリーン印刷法、ドクターブレード法、スラリーキャスト法、圧延法、プレス法等によりシート状に塗布し、乾燥させて金属ペースト層(第1の層)を形成する(図2)。この金属ペーストとしては、銀(Ag)、銅(Cu)、銀−パラジウム(Ag−Pd)、金(Au)、白金(Pt)等の粉末(例えば平均粒径が数μmオーダーのもの)に、ポリビニルアルコール系、アクリル系、エチルセルロース系のような有機バインダーを加え、塗布に適した粘度となるように適宜混合したものを用いることができる。また、金属ペーストに含まれる金属についても、当初から金属である必要はなく、例えば、硝酸塩、酸化物、塩化物等のように熱処理により金属となるものを使用することができる。
さらに、金属ペーストには適宜の焼結助剤を添加することが好ましい。この焼結助剤としては、非晶質のSiO2、B2O3、Al2O3、ZnO、PbO、Bi2O3、ZrO2、TiO2、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、希土類酸化物等のガラス粉末や、結晶性のSiO2、Al2O3、ZrO2、TiO2、ZnO、MgO、MnO2、MgAl2O4、ZnAl2O4、MgSiO3、Mg2SiO4、Zn2SiO4、Zn2TiO4、SrTiO3、CaTiO3、MgTiO3、BaTiO3、CaMgSi2O6、SrAl2Si2O8、BaAl2Si2O8、CaAl2Si2O8、Mg2Al4Si5O18、Zn2Al4Si5O18、AlN、Si3N4、SiC等のセラミック粉末を、単独で又は複数組み合わせ、適宜選択して用いることができる。
このとき、金属ペーストに含まれる焼結助剤の化合物又は組成物は、素地材料のグリーンシート10に含まれる焼結助剤と同じ種類のものであると一層好適である。
また、金属ペースト中の金属成分と焼結助剤成分との混合割合は、後述する如く金属ペースト層11の焼成によって形成される配線層導体に要求される電気的性質や機能に応じて適宜設定することができ、例えば、配線層の抵抗やデバイスによっては寄生容量をより小さくするためには、通常、金属100質量部に対して焼結助剤を10質量部程度以下の割合で用いることを例示できる。なお、金属ペーストに用いる金属粉末の性状や形状(例えば、粒状である場合と鱗片状である場合等)によっても、配線層として導通を確保できる金属成分の含有割合は影響を受けるものと想定されるので、金属ペースト中の金属成分と焼結助剤成分との混合割合は、種々の要因に応じて適宜調整され得る。
次いで、グリーンシート10の焼成温度(グリーンシート10の母剤粉末の焼結温度)では焼結しない難焼結性のセラミック材料粉末に、グリーンシート10用のペースト調製と同様にして有機バインダーを添加、混合してスラリーを調製し、このスラリーを、金属ペースト層11上に、例えば、ドクターブレード法、スラリーキャスト法、スクリーン印刷法、圧延法、プレス法等によりシート状に塗布し、拘束層12(第2の層)を形成し、この状態のものを、例えば熱圧着して図3に示す積層体を得る。
この拘束層12を形成する難焼結性のセラミック材料としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、トリジマイト、トリジマイト、α石英、トリジマイト−α石英、クリストバライト、β石英等が挙げられる。また、焼成時に、拘束層12によるグリーンシート10及び金属ペースト層11の拘束力を高めつつ、有機バインダーを効率よく確実に除去(脱バイ処理)するために、難焼結性のセラミック材料粉末に、グリーンシート10の焼結温度以下でありかつグリーンシート10に含まれる有機成分の分解温度よりも高い軟化点を有するガラス粉末を所定量加えてもよい。
次に、図3に示す積層体を、例えばアルミナセッター等の支持具に載置し、適宜の温度にて脱バイ処理を行った後、例えば850℃〜1050℃程度で所定時間焼成する。このとき、積層体の厚さ方向の焼結収縮を補助・促進するため、積層体上にセラミック板を載せる等の適宜の方法を用いて厚さ方向に加圧するようにしてもよい。そして、焼成後、積層体の両面に未焼結体として残存する拘束層12を、例えば、サンドブラスト、ビーズブラスト、ドライアイスブラスト等の乾式ブラスト処理、水ジェット等やアイスブラスト、スラリーブラスといった湿式ブラスト処理のほか、デスミア処理、プラズマ(アッシング)処理、ジェットスクラブ処理、超音波処理、レーザー処理といった適宜の方法を用いて除去し、グリーンシート10の焼結により形成された誘電体層10a、及び、金属ペースト層11の焼成処理により形成された導体層11aからなる図4に示す焼結積層体を得る。
それから、金属ペーストの焼結助剤として用い得る上述したセラミック粉末と、前記の有機バインダーを適宜の割合で混合したセラミック材料ペーストを調製し、このペーストを、導体層11a上にスクリーン印刷等を用いて所望のパターンに塗布し、これを乾燥させることにより、所定のパターンを有するマスク13を形成する(図5)。さらに、このマスク13が積層された部分以外の導体層11aを除去し、誘電体層10a上のマスク13の下部に配線層14を形成する(図6)。このマスク13の積層部分以外の導体層11aを除去する方法としては、図5に示す積層体を、導体層11aの構成金属を溶解する薬液(例えば、導体層11aの金属成分がAgの場合、アンモニア水と過酸化水素水の混合溶液等)に浸漬したり、その積層体上に薬液を流通させたりする湿式化学処理、金属成分を選択的に除去できる条件でのイオンミリングやアッシングといった物理処理を例示できる。
そして、マスク13を上述したブラスト処理等によって除去し、誘電体層10a上に所定のパターンを有する配線層14が形成されたセラミック基板100を得る(図7)。
このような本発明によるセラミック基板の製造方法の第1実施形態によれば、セラミック基板の素地材料からなるグリーンシート10上に、金属ペースト層11を介して、難焼結性の拘束層12を積層するので、グリーンシート10中に液相化し得るBa2O3、ZnO、CuO等の焼結助剤が含まれており、その液相化した粘性の低い焼結助剤が拘束層12側へ流動・拡散しようとしても、焼成時に金属ペースト層11から形成される導体層11a(形成途中の状態も含む)が、その液相化焼結助剤の移動を妨げるバリア層として機能する。その結果、液相化した焼結助剤が拘束層12側へ拡散することを抑止することができるので、グリーンシート10の焼結が阻害されることなく、十分な焼結密度ひいては抗折強度を有する誘電体層10aを形成させることができる。よって、セラミック基板材料として、非ガラス系材料を用いても、無収縮プロセスを利用することができるので、製作精度が格段に高められて更なる小型化及び高密度化を実現でき、しかも、実用性に優れた高性能の電子デバイスを得ることができるセラミック基板100を実現できる。
また、金属ペースト層11が焼結助剤を含む場合には、図3に示すグリーンシート10、金属ペースト層11、及び拘束層12の積層体を焼結するときに、金属ペースト層11の焼結性をより高めることができるので、グリーンシート10に含まれる液相化した焼結助剤に対するバリア性を更に向上されることが可能となる。また、金属ペースト層11に含まれる焼結助剤とグリーンシート10に含まれる焼結助剤双方の溶融による相互作用によってグリーンシート10と金属ペースト層11の融着が促進されるとともに、金属ペースト層11とグリーンシート10のそれぞれの焼結挙動を互いに合致させ易くなるので、焼結によって形成される誘電体層10aと導体層11aとの固着強度を格段に高めることができる。
またさらに、金属ペースト層11の構成金属としてCuを用いると、例えばAg等の金属を用いたときに湿分の影響によって生じ得るような金属原子のマイグレーションを防止することができる利点がある。
また、グリーンシート10に含まれる液相化し得る焼結助剤の拡散防止層として機能する金属ペースト層11から形成される導体層11aを用いて、所望のパターンを有する配線層14を形成するので、金属ペースト層11を有効に利用するして経済性を向上させることができる。さらに、金属ペースト層11から形成される導体層11aを一旦除去してから新たに配線層を形成する手間が省けるので、生産性を高めることもできる。
(第2実施形態)
図8乃至図12は、本発明によるセラミック基板の製造方法の好適な第2実施形態によってセラミック基板を製造する手順を示す工程図(フロー図)であり、各工程におけるセラミック基板の要部を示す概略断面図である。
本実施形態においては、まず、第1実施形態と同様にして、グリーンシート10の両面に金属ペースト層11が形成された図2に示す積層体を得る。次に、第1実施形態におけるマスク13の形成と同様にして、金属ペースト層11上に、所定のパターンを有するマスク23を形成する(図8)。さらに、第1実施形態における拘束層12の形成と同様にして、マスク23が設けられた金属ペースト層11上に、拘束層22を形成する(図9)。
次に、この図9に示す積層体を、図3に示す積層体の焼成処理と同様にして焼成した後、積層体の両面に未焼結体として残存する拘束層22を、拘束層12の除去と同様にして除去し、グリーンシート10が焼結して形成された誘電体層10a、金属ペースト層11の焼成処理により形成された導体層11a、その上に所定のパターンを有して形成された焼結マスク23aからなる図10に示す焼結積層体を得る。
それから、上述したマスク13が積層された部分以外の導体層11aの除去と同様にして、この焼結マスク23aが積層された部分以外の導体層11aを除去し、誘電体層10a上の焼結マスク23aの下部に配線層24を形成する(図11)。
そして、焼結マスク23aを上述したブラスト処理等によって除去し、誘電体層10a上に所定のパターンを有する配線層24が形成されたセラミック基板200を得る(図12)。
このような本発明によるセラミック基板の製造方法の第2実施形態によれば、前述した本発明による第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる(重複を避けるため、ここでの説明は省略する)。加えて、焼成時に、マスク23のパターンも素地のグリーンシート10と同じ縮率で収縮するので、グリーンシート10に内部電極やビアホール導体等が予め設けられていても、これらと配線層24との位置ずれを防止でき、両者が確実に接続される。その結果、ビアホール導体等が形成されたグリーンシート10から形成される誘電体層10a上に後から配線層を形成する場合のような両者の接続位置のずれを考慮して設計上の寸法裕度を大きくするといった対策が不要となるので、配線構造の微細化による更なる高密度実装が可能となる。
(第3実施形態)
図13乃至図16は、本発明によるセラミック基板の製造方法の好適な第3実施形態によってセラミック基板を製造する手順を示す工程図(フロー図)であり、各工程におけるセラミック基板の要部を示す概略断面図である。
本実施形態においても、まず、第1実施形態と同様にして、グリーンシート10の両面に金属ペースト層11が形成された図2に示す積層体を得る。次に、第1実施形態におけるマスク13の形成と同様にして、金属ペースト層11上に、所定のパターンを有するマスク33を形成する(図13)。このマスク33は、金属ペースト層11と同じ材料からなる組成物からなる。さらに、第1実施形態における拘束層12の形成と同様にして、マスク33が設けられた金属ペースト層11上に、拘束層32を形成する(図14)。
次いで、この図14に示す積層体を、図3に示す積層体の焼成処理と同様にして焼成した後、積層体の両面に未焼結体として残存する拘束層32を、拘束層12の除去と同様にして除去し、グリーンシート10が焼結して形成された誘電体層10a、金属ペースト層11の焼成処理により形成された導体層11a、その上に所定のパターンを有して形成された導体層11aと同組成の金属マスク33aからなる図15に示す焼結積層体を得る。
その後、上述したマスク13が積層された部分以外の導体層11aの除去と同様のプロセスを図15に示す焼結積層体に適用する。こうすると、導体層11aと金属マスク33aが同組成を有するので、金属マスク33aが積層された部分以外の導体層11aと金属マスク33aとが、同じレートで除去され、金属マスク33aが積層された部分以外の導体層11aが誘電体層10a上に露呈し、所定のパターンを有する配線層34が形成される(図16)。
このような本発明によるセラミック基板の製造方法の第3実施形態によれば、前述した本発明による第1実施形態及び第2実施形態と同様の作用効果を奏することができる(重複を避けるため、ここでの説明は省略する)。しかも、金属マスク33aが導体層11aと同時に除去されるので、配線層を形成した後にマスクを除去する工程を省略することができ、これにより、生産性を更に一層向上させることができる。
なお、上述したとおり、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更を加えることが可能である。例えば、非ガラス系材料としては、BaO−Nd2O3等の希土類酸化物−TiO2系化合物以外にも、BaO−Nd2O3等の希土類酸化物−TiO2/MgO−SiO2系化合物、MgO−SiO2系化合物等が挙げられる。また、本発明で用いる素地のグリーンシート10に含まれる母剤のLTCC材料としては、「非ガラス系材料」に制限されず、従来から用いられている「ガラス複合系材料(ガラスコンポジット系材料)」や、例えばSiO2−Al2O3−CaO−BaO−MgOガラス粉末とアルミナ粉末が適宜の割合で混合された「結晶化ガラス系材料」を用いてもよい。
さらに、グリーンシート10の片面側にのみ、金属ペースト層11と拘束層12,22,32を設けて焼成を行ってもよい。またさらに、第1の層である金属ペースト層11は、図17Aに示すように素地のグリーンシート10の全面に一様に形成してもよく、或いは、図17Bに示すように、少なくともグリーンシート10における配線や素子デバイスが形成される領域Rを覆うように形成されていれば、グリーンシート10の全面を覆うように設けなくても構わない。
また、金属粉末を含む金属ペースト層11に代えて、金属フィルム又は金属フォイルをグリーンシート10上に貼付又は被着させてもよい。この場合、適宜の方法で金属フィルムや金属フォイルを適宜の基材シート上に形成した後、その金属フィルムや金属フォイルを、基材シートからグリーンシート10上へ転着又は転写することができる。金属ペーストをグリーンシート10上へ塗布するとき、場合によっては、シートの周縁部において厚さが不均一となるおそれがあるのに対し、金属フィルムや金属フォイルは、厚さの均一性を十分に確保し易いので、焼結後の導体層の表面平坦性を向上させ得る利点がある。なお、金属フィルムや金属フォイルを用いる場合、その上に、適宜の焼結助剤を塗布してもよい。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(セラミック基板の素地材料)
表1に示す組成系のLTCC材料、及び、液相形成用の焼結助剤を含有するセラミック基板の素地材料(グリーンシート母剤)を調製した。
(実施例1〜4)
上記A材、B材、C材、及びD材をセラミック基板の素地材料として用い、上述した第1実施形態と同様の方法を用いて図4に示す状態のセラミック基板(実施例1〜4)を得た。
具体的な条件としては、まず、グリーンシート10として、各素地材料を用いたシート8枚を積層したもの(厚さ約100μm)を形成した。次に、そのグリーンシート10の両面上に、金属としてAg粉末、焼結助剤としてZnO−SiO2系粉末、及び有機バインダーとしてエチルセルロースを含む金属ペーストをスクリーン印刷し、金属ペースト層11(乾燥後の厚さ約15μm)を形成した。さらに、その上に、難焼結性材料としてジルコニア、及び、有機バインダーとしてアクリル系樹脂を含む拘束層12(厚さ約100μm)を形成した。こうして得た図3に示すものと同様の構造を有する積層体を、熱圧着した後、約900℃で所定時間焼成し、さらに、未焼結体として残存した拘束層12をブラスト処理によって除去して図4に示すものと同様の構造を有する焼結積層体を形成した。
(参考例1〜4)
評価用の参考例1〜4として、実施例1〜4で形成したグリーンシート10に金属ペースト層及び拘束層を設けることなく、そのままの状態で、約900℃で所定時間焼成し、誘電体層のみからなる焼結体を得た。この焼結体は、無収縮プロセスではなく自由収縮プロセスを適用したものであり、セラミック基板の各素地材料の焼結体に対して望まれる焼結密度及び抗折強度の指標となるものである。
(比較例1)
金属ペースト層11を形成しなかったこと以外は、実施例4(D材)と同様にして焼結体を得た。すなわち、比較例1の焼結体は、グリーンシート10の両面に金属ペースト層11を形成することなく、拘束層12を直接形成して焼結した後、未焼結体として残存する拘束層12をブラスト処理で除去したものである。
(評価)
実施例1〜4で得たセラミック基板を、アンモニア水と過酸化水素水を同量(50vol%/50vol%)混合した溶液に浸漬し、金属ペースト層11の焼成によって形成された導体層11aを除去した。実施例1〜4から得られたこれらの誘電体層10aのみの焼結体、参考例1〜4で得られた誘電体層10aのみの焼結体、及び、比較例1で得られた誘電体層10aのみの焼結体について、それらの焼結密度及び抗折強度を測定した。なお、焼結密度は、水を用いたアルキメデス法による焼結体の嵩密度と重量の測定結果から算出し、抗折強度の測定は、JIS SR 1601に規定する抗折強度の測定に準拠して行った。得られた結果を表2にまとめて示す。
これらの結果より、実施例1〜4のセラミック基板の焼結体は、同じ素地材料を用いて自由収縮プロセスで形成された焼結体と同等の焼結密度及び抗折強度を有することが確認された。これに対し、比較例1の焼結体は、同じ素地材料を用いて形成された実施例4のセラミック基板の焼結体及び自由収縮プロセスで形成された参考例4の焼結体に比して、焼結密度及び抗折強度が優位に劣ることが確認された。
10…グリーンシート、10a…誘電体層、11…金属ペースト層(第1の層)、11a…導体層、12,22,32…拘束層(第2の層)、13,23,33…マスク、14,24,34…配線層、23…焼結マスク、23a…焼結マスク、33a…金属マスク、100,200…セラミック基板、R…領域。