JP4634650B2 - 耐食性に優れた溶接鋼管 - Google Patents

耐食性に優れた溶接鋼管 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、長期にわたって風雨に曝される農業用施設,埋設配管等に適し、環境に及ぼす影響が少ない耐食性に優れた溶接鋼管に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビニルハウスの骨組み等、長期にわたって風雨に曝される資材や土中埋設配管等には、めっき鋼板を原板とする溶接鋼管が使用されている。
溶接鋼管の耐食性,耐久性を改善するため防錆処理が必要とされるが、造管前のめっき鋼板に無機系又は有機系処理を施しても、造管時にカジリ等によって皮膜が損傷し、或いは溶接部を補修した溶射層が露出したままとなる。そのため、皮膜損傷部や溶射補修部を起点とした腐食が発生・成長し、初期白錆や長期使用時の赤錆等によって見栄えの劣化は勿論,構造体としての機能が損なわれることもある。
【0003】
そのため、造管された溶接鋼管の表面に防錆油や石油系樹脂を塗布する防錆処理が知られている。しかし、この方法では、耐食性の向上が十分でなく、防錆油や石油系樹脂の塗布によってベトツキ感が付与されることから敬遠されがちである。この点、水性樹脂をコーティングする方法は、ベトツキ感がなく、防錆処理後の仕上りも良好な見栄えを維持する。しかし、鋼管表面に加工油が残存していると塗布された水性樹脂が弾かれ、均一な樹脂皮膜が形成されず下地鋼が露出しやすい。また、水性樹脂は下地鋼との反応性に不足するものが多く、密着性が十分でなく高耐食性も得られがたい。
【0004】
そこで、クロム酸化合物を防錆剤として添加した有機樹脂を鋼管表面に塗布することにより、耐食性を向上させる方法が採用されている。クロメート皮膜は、三価Cr及び六価Crが複合した酸化物,水酸化物からなる皮膜である。難溶性の三価Cr化合物は、環境遮断機能を呈して基材の腐食を防止し、下地めっき金属に対する樹脂皮膜の密着性を向上させる。六価Crは、酸素酸アニオンとなって化成処理皮膜から溶出し、加工等で生じた鋼板露出部と還元反応し難溶性の三価Cr化合物として再析出する。三価Crの析出により化成処理皮膜が自己修復され、優れた防食作用が発現される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、クロメート処理では、Crイオンを含む排液処理に多大な負担がかかる。また、土中埋設管等に長期間使用すると、環境にとって有害な六価Crが皮膜から溶出する虞がある。
そこで、最近では、チタン系,ジルコニウム系,リン酸塩系等のCrフリー処理が種々検討されている。本発明者等も、Ti,Zr,He,V,Nb,Ta,Mo,W等の酸化物又は水酸化物及びフッ化物が共存した界面層及び皮膜を形成するとき、耐食性に優れた化成処理鋼板が得られることを特願2000−388673号で提案した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、先願で提案された化成処理皮膜の有用性を調査する過程で見出されたものであり、クロメート処理液に代わるクロムフリー処理液がめっき層及び溶射補修層に対する反応性が高いことを利用し、造管後の防錆処理によって耐食性を高めた溶接鋼管を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の溶接鋼管は、その目的を達成するため、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板から造管された溶接鋼管を基材とし、酸化物が高い絶縁抵抗を示すバルブメタルの酸化物又は水酸化物と、バルブメタルのフッ化物が共存する界面反応層を介し、有機樹脂にバルブメタルの酸化物又は水酸化物と、バルブメタルのフッ化物が分散した化成処理皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0008】
バルブメタルとしては、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W等がある。化成処理皮膜に含まれるO及びFの濃度比F/Oが原子比率で1/100以上となるようにフッ化物を含ませるとき、フッ化物起因の自己修復作用が顕著になる。
バルブメタルの酸化物又は水酸化物及びフッ化物が分散する有機樹脂としては、ウレタン系、エポキシ系、ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン−アクリル酸共重合体等のオレフィン系、ポリスチレン等のスチレン系、ポリエステル系、或いはこれらの共重合体又は変性物、アクリル系から選ばれた1種又は2種以上の樹脂が使用される。
【0009】
化成処理皮膜は、更に可溶性又は難溶性の金属リン酸塩又は複合リン酸塩を含むことができる。可溶性の金属リン酸塩又は複合リン酸塩としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属,Mn等の塩がある。難溶性の金属リン酸塩又は複合リン酸塩としては、Al,Ti,Zr,Hf,Zn等の塩がある。
この化成処理皮膜は、所定組成に調製された化成処理液を皮膜量が0.1〜3.0g/m2となる皮膜量で溶接鋼管の表面に塗布した後、水洗することなく板温50〜250℃で乾燥することによって生成する。化成処理液の塗布に先立って溶接時に損傷した溶接部等のめっき層がZn,Zn−Al合金,Al等を溶射することにより補修されるが、塗布された化成処理液は溶射補修部に対しても十分に反応し、溶接鋼管の表面に均一な防食皮膜を形成する。
【0010】
【作用】
本発明に従った溶接鋼管は、図1の模式図に示すように、鋼基材1上のめっき層2の表面に界面反応層3を介して化成処理皮膜4が形成されている。界面反応層3及び化成処理皮膜4は、酸化皮膜が厚く成長した溶射補修部に対しても同様に形成される。
界面反応層3は、化成処理液に含まれているフッ化物,リン酸塩等がめっき層2と反応してできたフッ化亜鉛,リン酸亜鉛,バルブメタルのフッ化物,リン酸塩等の反応生成物からなり、優れた環境遮蔽能を呈する緻密層である。化成処理皮膜4は、樹脂マトリックス4aにバルブメタルの酸化物又は水酸化物4b及びフッ化物4cが粒状に分散している。化成処理皮膜4には、化成処理液の組成によってはリン酸塩,複合リン酸塩等が更に分散することもある。
【0011】
緻密な界面反応層3を介して化成処理皮膜4が形成されているので、雰囲気中の腐食性成分が鋼基材1に直接到達することが防止される。また、バルブメタルの酸化物又は水酸化物4b,フッ化物4c,リン酸塩,複合リン酸塩等の粒子が有機樹脂で厚膜化した化成処理皮膜4に三次元的に分散しているため、樹脂マトリックス4aを浸透してきた水分等の腐食性成分が分散粒子で捕捉され、界面反応層3に到達する腐食性成分が大幅に少なくなる。したがって、界面反応層3が緻密であることと相俟って、優れた防食効果が奏せられる。
【0012】
また、化成処理皮膜4が柔軟性のある有機樹脂を含んでいることから、溶接鋼管の成形加工時にあっては素材の塑性変形に化成処理皮膜4が追従し、クラックの発生が大幅に減少する。更に、化成処理皮膜4の有機樹脂は、樹脂塗量に対する親和性が高いことから塗装密着性も向上させ、3μm以下の膜厚であればCu系電極にめっき成分がピックアップされることが抑制され、溶接性の向上にも有効である。
【0013】
バルブメタルは、酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属を指し、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wの1種又は2種以上が使用される。バルブメタルの酸化物又は水酸化物からなる皮膜は、電子の移動に対する抵抗体として働き、雰囲気中の水分に含まれている溶存酸素による還元反応(下地鋼との酸化反応)が抑えられる。その結果、下地鋼からの金属成分の溶出(腐食)が防止される。なかでも、Ti,Zr,Hf等のIV族A元素の4価化合物は安定な化合物であり、優れた皮膜を形成することから好適な皮膜成分である。
【0014】
バルブメタルの酸化物又は水酸化物が連続皮膜として溶接鋼管の表面に形成されている場合、電子移動に対する抵抗体として有効に作用するが、実際の化成処理皮膜では化成処理時や成形加工時における皮膜欠陥の発生が避けられない。皮膜欠陥部では下地鋼が露出するため、所期の腐食抑制作用が期待できない。そこで、本発明においては、バルブメタルの可溶性フッ化物を共存させることによって化成処理皮膜に自己修復作用を付与している。バルブメタルのフッ化物は、雰囲気中の水分に溶け出した後、皮膜欠陥部から露出している下地鋼の表面に難溶性酸化物又は水酸化物となって再析出し、皮膜欠陥部を埋める自己修復作用を呈する。
【0015】
たとえば、溶接鋼管の表面に形成されたチタン系皮膜は、酸化物[TiO2]や水酸化物[Ti(OH)4]が複合した皮膜である。ミクロ的にみて皮膜厚みが極端に不足する部分やピンホール等の皮膜欠陥部では下地鋼が露出し、腐食の起点になりやすい。この点、従来のクロム系皮膜では可溶性の六価Crが皮膜欠陥部に難溶性三価Cr化合物として析出することにより自己修復作用が発現するが、チタン系皮膜では自己修復作用を期待できない。皮膜厚みを増加することによって皮膜欠陥部を少なくできるが、硬質で延性に乏しいチタン系皮膜は化成処理された溶接鋼管を成形加工する際に溶接鋼管の伸びに追従できず、クラック,カジリ等の欠陥が化成処理皮膜に生じやすくなる。
【0016】
これに対し、XnTiF6(X:アルカリ金属,アルカリ土類金属又はNH4,n=1又は2),TiF4等のフッ化物を共存させると、フッ化物が化成処理皮膜から溶出しTiF6 2-+4H2O→Ti(OH)4+6F-等の反応によって難溶性の酸化物又は水酸化物となって皮膜欠陥部に再析出し、自己修復作用を呈する。フッ化物としては、酸化物又は水酸化物となる金属と同種又は異種の何れであってもよい。また、バルブメタルとしてMo又はWを選択するとき、これら六価酸素酸塩の中には可溶性を示す塩も存在し、自己修復作用を呈するものもある。そのため、化成処理皮膜に含ませるフッ化物に加わる制約が緩和される。
【0017】
【実施の形態】
溶接鋼管用の原板としては、電気めっき法,溶融めっき法,蒸着めっき法で製造された亜鉛又は亜鉛合金めっき鋼板が使用される。亜鉛合金めっきには、Zn−Al,Zn−Mg,Zn−Ni,Zn−Al−Mg等がある。また、溶融めっきした後で合金化処理を施した合金化亜鉛めっき鋼板も化成処理用原板として使用できる。めっき鋼板は、高周波溶接,レーザ溶接等の常法に従って所定サイズの溶接鋼管に造管される。
得られた溶接鋼管に化成処理が施されるが、化成処理は塗布型又は反応型の何れであってもよい。ただし、反応型化成処理では処理液の安定性を維持する上からpHを若干低く調整する。以下の説明では、バルブメタルとしてTiを例に採っているが、Ti以外のバルブメタルを使用する場合も同様である。
【0018】
化成処理液は、Tiソースとして可溶性のハロゲン化物や酸素酸塩を含む。Tiのフッ化物はTiソース及びFソースとしても有効であるが、(NH4)F等の可溶性フッ化物をFソースとして化成処理液に別途添加する場合もある。具体的なTiソースとしては、KnTiF6(K:アルカリ金属又はアルカリ土類金属,n:1又は2),K2[TiO(COO)2],(NH4)2TiF6,TiCl4,TiOSO4,Ti(SO4)2,Ti(OH)4等がある。これらTiソースは、化成処理液を塗布した後で乾燥・焼付けするときに所定組成の酸化物又は水酸化物とフッ化物からなる化成処理皮膜が形成されるように各成分の配合比率が選定される。
【0019】
Tiソースを化成処理液中にイオンとして安定的に維持する上で、キレート作用のある有機酸を添加することが好ましい。有機酸を添加する場合、金属イオンをキレート化して化成処理液を安定させることから、有機酸/金属イオンのモル比が0.02以上となる添加量に定められる。有機酸としては、酒石酸,タンニン酸,クエン酸,蓚酸,マロン酸,乳酸,酢酸等が挙げられる。なかでも、酒石酸等のオキシカルボン酸やタンニン酸等の多価フェノール類は、処理液を安定化させると共に、フッ化物の自己修復作用を補完する作用も呈し、塗膜密着性の向上にも有効である。
可溶性又は難溶性の金属リン酸塩又は複合リン酸塩を化成処理皮膜に含ませるため、各種金属のオルソリン酸塩やポリリン酸塩を添加してもよい。
【0020】
可溶性の金属リン酸塩又は複合リン酸塩は、化成処理皮膜から溶出して皮膜欠陥部に溶出し、めっき層のZn,Al等と反応して不溶性リン酸塩を析出することによって、チタンフッ化物の自己修復作用を補完する。また、可溶性リン酸塩が解離する際に雰囲気が若干酸性化するため、チタンフッ化物の加水分解、ひいては難溶性チタン酸化物又は水酸化物の生成が促進される。可溶性リン酸塩又は複合リン酸塩を生成する金属にはアルカリ金属,アルカリ土類金属,Mn等があり、各種金属リン酸塩又は各種金属塩とリン酸,ポリリン酸,リン酸塩として化成処理液に添加される。
難溶性の金属リン酸塩又は複合リン酸塩は、化成処理皮膜に分散し、皮膜欠陥を解消すると共に皮膜強度を向上させる。難溶性リン酸塩又は複合リン酸塩を形成する金属にはAl,Ti,Zr,Hf,Zn等があり、各種金属リン酸塩又は各種金属塩とリン酸,ポリリン酸,リン酸塩として化成処理液に添加される。
【0021】
Alを含むめっき層が形成されためっき鋼板から造管された溶接鋼管では黒変色が発生しやすいが、この場合にFe,Co,Niから選ばれた1種又は2種以上の金属塩を皮膜に存在させることにより黒変色を防止できる。また、厳しい加工等によってめっき層に大きなクラックが生じたものでは、フッ化物,リン酸塩の自己修復作用だけでは不充分な場合が生じる。この場合には、Mo,Wの可溶性六価酸素酸塩を皮膜中に多量存在させることにより、六価クロムと同様の作用を発現させてめっき層のクラックを補修し、耐食性を向上させる。
更に、バルブメタルの酸化物又は水酸化物4bやフッ化物4c等の粒子が樹脂マトリックス4aに分散した化成処理皮膜4とするため、ウレタン系、エポキシ系、ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン−アクリル酸共重合体等のオレフィン系、ポリスチレン等のスチレン系、ポリエステル系、或いはこれらの共重合体又は変性物、アクリル系等の有機樹脂を化成処理液に添加している。
【0022】
ウレタン樹脂としては、有機ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる水溶性又は水分散性のウレタン樹脂、なかでも自己乳化型ウレタン樹脂が好ましい。有機ポリイソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート,トリレンジイソシアネート,ジフェニルメタンジイソシアネート,ナフタレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,ノルボルナンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。他方、ポリオール化合物としては、ポリエステルポリオール,ポリエーテルポリオール,ポリカーボネートポリオール,ポリアセタールポリオール,ポリアクリレートポリオール,ポリエステルアミドポリオール,ポリブタジエン系等のポリオレフィンポリオールが挙げられる。
【0023】
自己乳化型のウレタン樹脂は、カルボン酸含有化合物等の親水成分を分子中に導入することによって作製される。自己乳化型ウレタン樹脂では,導入した親水成分に応じてイオン性がアニオン,カチオン又はノニオンになる。たとえば、ポリエチレングリコール,イソシアネート等をポリマー骨格に導入するとノニオン性に、水酸基を導入するとアニオン性に、スルホン酸(塩)基,カルボキシル(塩)基等を導入するとカチオン性になる。
リン酸塩を含む化成処理液やオキシカルボン酸やシランカップリング剤が添加された系では、アニオン性又はカチオン性ウレタン樹脂は樹脂粒子が凝集反応を起こしてゲル化することがあるが、ノニオン性ウレタン樹脂ではこのような現象が生じない。この点、ノニオン性ウレタン樹脂の使用が好ましいが、ノニオン性ウレタン樹脂の使用比率を半分以上とすることによりゲル化を起こすことなくアニオン性又はカチオン性ウレタン樹脂も使用できる。
【0024】
化成処理液には、潤滑性の向上に有効なワックスを化成処理皮膜に含ませるため、フッ素系,ポリエチレン系,スチレン系等の有機ワックスやシリカ,二硫化モリブデン,タルク等の無機質潤滑剤等を添加することもできる。低融点の有機ワックスは、皮膜乾燥時に表面にブリードし、潤滑性を発現すると考えられる。高融点有機ワックスや無機系潤滑剤は、皮膜中に分散状態で存在するが,処理皮膜の最表層では島状分布で皮膜表面に露出することによって潤滑性が発現するものと考えられる。
【0025】
以上のように、ハロゲン化物や酸素酸塩からなるTiソース化合物に、必要に応じてイオン安定化作用のある有機酸や、チタンフッ化物の自己修復作用を補完し耐食性を向上させる作用のあるリン酸塩を添加した処理液をベースとし、更に有機樹脂を配合することもできる。調製された処理液を溶接鋼管に塗布すると、フッ素イオン及びリン酸イオンの無機陰イオンと下地めっき金属又はTiと反応した皮膜層がめっき層表面に優先的に且つ緻密に形成され、その上にTiのフッ化物,酸化物,水酸化物やリン酸塩が分散した有機樹脂皮膜が形成された2層構造の皮膜となる。Zn,Zn−Al合金,Al等の溶射補修層に対しても同様な反応が進行し、溶接鋼管の表面に均一な2層構造の皮膜が形成される。
【0026】
調製された化成処理液をロールコート法,スピンコート法,スプレー法等で溶接鋼管に塗布し、水洗することなく乾燥することによって、耐食性に優れた化成処理皮膜がめっき層及び溶射補修層の表層に形成される。化成処理液の塗布量は、十分な耐食性を確保するため1mg/m2以上のチタン付着量となるように調整することが好ましい。
形成された化成処理皮膜を蛍光X線,ESCA等で元素分析すると、化成処理皮膜に含まれているO及びF濃度が測定される。測定値から算出した濃度比F/O(原子比率)と耐食性との関係を調査したところ、濃度比F/O(原子比率)1/100以上で皮膜欠陥部を起点とする腐食の発生が大幅に減少した。これは、自己修復作用のあるチタンフッ化物が十分な量で化成処理皮膜中に含まれていることによるものと推察される。
【0027】
また、界面反応層3及び化成処理皮膜4は、それぞれ3〜300nm,0.1〜3μm程度の厚みをもっていることが好ましい。界面反応層3は、膜厚3nm以上で十分な環境遮断能を発現するが、300nmを超える厚膜に成長すると成形加工時に加わる応力によってクラックが発生しやすくなり、却って耐食性を低下させる。界面反応層3への腐食性成分の到達は、膜厚0.1μm以上の化成処理皮膜4で顕著に抑制される。しかし、膜厚が3μmを超える化成処理皮膜4では、耐食性向上効果が飽和するばかりでなく、溶接性が劣化する。なお、界面反応層3や化成処理皮膜4の厚みは、AESやGDSによる深さ方向の元素分析,TEM観察等によって測定できる。
【0028】
化成処理皮膜は、常温で乾燥することもできるが、連続操業を考慮すると50℃以上に保持して乾燥時間を短縮することが好ましい。ただし、250℃を超える乾燥温度では、化成処理被膜に含まれている有機成分が熱分解し、有機成分で付与された特性が損なわれることがある。
化成処理皮膜を形成した後、更に耐食性に優れた有機皮膜を形成することもできる。この種の皮膜として、たとえばウレタン系樹脂,エポキシ樹脂,ポリエチレン、ポリプロピレン,エチレン−アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂,ポリスチレン等のスチレン系樹脂,ポリエステル,或いはこれらの共重合物又は変性物,アクリル系樹脂等の樹脂皮膜を膜厚0.1〜5μmで化成処理皮膜の上に設けると、クロメート皮膜を凌駕する高耐食性が得られる。或いは、導電性に優れた樹脂皮膜を化成処理皮膜の上に設けることにより、潤滑性が改善され、溶接性も付与される。この種の樹脂皮膜としては、たとえば有機樹脂エマルジョンを静電霧化して塗布する方法(特公平7−115002号公報)で形成できる。
【0029】
【実施例】
板厚1.2mm,片面めっき付着量60g/m2の溶融Zn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板をオープンパイプ状に成形した後、幅方向両端部を高周波溶接することにより直径20mmの溶接鋼管を製造した。溶接時に損傷した溶接部をビードカットした後、Zn,Zn−Alの2連溶射で補修した。
化成処理液としては、ウレタン樹脂エマルジョンにTiソース及びFソースを配合し、場合によっては各種金属化合物,有機酸,リン酸塩を添加し、表1の組成をもつ化成処理液を調合した。
【0030】
Figure 0004634650
【0031】
溶接鋼管を温水で洗浄した後、表1の化成処理液を塗布し、スポンジで扱くことにより化成処理液の付着量,ひいては化成処理皮膜4の膜厚を調整した。化成処理液が塗布された溶接鋼管を、水洗することなくドライヤを用いて80℃で乾燥した。
めっき層2の表面に形成された界面反応層3及び化成処理皮膜4を厚み測定すると共に成分分析した。測定結果を表2に示す。
【0032】
Figure 0004634650
【0033】
化成処理された各溶接鋼管から溶射補修部を含む試験片を切り出し、次の各種試験に供した。
促進腐食試験
長さ150mmの試験片の切断端面をシールし、JIS Z2371に準拠した塩水噴霧試験を24時間及び72時間継続した後、試験片表面に発生した白錆の面積率を測定した。測定結果から、白錆発生面積率が5%未満を◎,5〜10%を○,10〜30%を△,30%以上を×として耐食性を評価した。
【0034】
疵付き部の腐食試験
溶接鋼管取扱い時の疵付きを想定して試験片表面にカッターでクロスカットを刻んだ後、同じ塩水噴霧試験24時間後に試験片表面に発生した腐食の幅を測定した。測定結果から、最大腐食幅が2mm以下を◎,2〜4mmを○,4〜8mmを△,8mm以上を×として疵付き部の耐食性を評価した。
表3の調査結果にみられるように、本発明に従った処理液1〜7で処理された溶接鋼管は、パイプ本体及び疵付き部共に優れた耐食性を呈した。
【0035】
他方、フッ化物を含まない処理液8で処理された溶接鋼管は、疵付き部の耐食性が劣り自己修復作用に欠けていた。チタン化合物を含まない処理液9,10で処理された溶接鋼管は、本発明例に比較すると長期耐食性に劣っていた。処理液11を用いて単にウレタン樹脂皮膜を形成した溶接鋼管や処理液12の防錆油を単に塗布した溶接鋼管では、鋼管本体及び疵付き部ともに耐食性に劣っていた。クロメート処理液12は、本発明例と同様な耐食性を溶接鋼管に付与するものの、Cr溶出試験で3mg/m2以上のCr溶出が検出された。
【0036】
Figure 0004634650
【0037】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の溶接鋼管は、金属の酸化物又は水酸化物及びフッ化物が共存した緻密な界面反応層を介し、バルブメタルの酸化物又は水酸化物及びフッ化物の粒子が樹脂マトリックスに分散した化成処理皮膜がめっき層表面に形成されている。化成処理液の反応性が高いため、酸化皮膜が比較的厚く生成する溶射補修部にあっても、同様な化成処理皮膜が形成される。そのため、界面反応層の優れた環境遮断機能が活用され,耐食性に優れた溶接鋼管となる。また、化成処理皮膜に柔軟性のある有機樹脂が含まれているため、成形加工時に発生するクラックが少なく、化成処理皮膜への欠陥導入を抑制しながら所定形状に加工することも可能となる。しかも、環境に悪影響を及ぼしかねないCrを含まない化成処理皮膜であることから、従来のクロメート処理鋼板に代わる材料として広範な分野で使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に従って形成された化成処理皮膜の模式図
1:鋼基材 2:めっき層 3:界面反応層 4:化成処理皮膜
4a:樹脂マトリックス 4b:バルブメタルの酸化物又は水酸化物
4c:フッ化物

Claims (6)

  1. 亜鉛めっき鋼板又は亜鉛合金めっき鋼板から造管された溶接鋼管を基材とし、酸化物が高い絶縁抵抗を示すバルブメタルの酸化物又は水酸化物と、バルブメタルのフッ化物が共存する界面反応層を介し、有機樹脂にバルブメタルの酸化物又は水酸化物と、バルブメタルのフッ化物が分散した化成処理皮膜が形成されていることを特徴とする耐食性に優れた溶接鋼管。
  2. バルブメタルがTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wから選ばれた1種又は2種以上である請求項1記載の溶接鋼管。
  3. 有機樹脂がウレタン系,エポキシ系,オレフィン系,スチレン系,ポリエステル系,アクリル樹脂系から選ばれた1種又は2種以上、或いはこれら樹脂の共重合体又は変性物である請求項1記載の溶接鋼管。
  4. 化成処理皮膜に含まれるO及びFの濃度比F/Oが原子比率で1/100以上である請求項1記載の溶接鋼管。
  5. 化成処理皮膜が更に可溶性又は不溶性金属のリン酸塩又は複合リン酸塩を含む請求項1記載の溶接鋼管。
  6. 溶接部のめっき層がZn,Zn−Al合金又はAl合金の溶射によって補修されている請求項1〜5の何れか一項に記載の溶接鋼管。
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