JP4624055B2 - アルキレンカーボネートの製造方法 - Google Patents
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一方、本反応を工業的に実施するための検討も進められており、反応器の運転条件(特許文献6)、触媒の回収方法(特許文献7)、高収率を得るための反応器の種類と組み合わせ法(特許文献8)、製造したアルキレンカーボネートからアルキレングリコールを製造するプロセスまで含めたプロセス検討(特許文献9)などが挙げられる。
これほど重要な技術課題にも関わらず、上記先行文献等では、技術課題は、製品収率、操業の安定性、装置の簡便さ等の経済性が優先され、安全に関する記述は思いのほか少なく、わずかに特許文献8に、「安全上の理由から二酸化炭素分圧を高める必要がある」という記載があるのみで、具体的な記述は一行もない。
ところが、例えばエチレンオキサイドの場合では、このような高転化率の条件で反応を行うと、アセトアルデヒドやグリコールの副生も顕著と成る。これらアルデヒドやグリコールは、エチレンオキサイドやエチレンカーボネートの重合を誘発して、エチレンカーボネートの収率を下げてしまうという不都合があった。
さて、本反応の製造プロセスでは、反応器出口混合物からアルキレンカーボネート、未反応のアルキレンオキサイド、未反応の二酸化炭素を分離した後の、触媒を含む残液を反応器に戻して再利用する。
すなわち、爆発の可能性を回避しつつ、少ない廃棄物量で、長時間安定してプラントを運転する技術開発が求められていた。
まず、反応条件、特に反応温度について詳細に調べた。本反応に好ましい反応温度は、上記文献等より、おおよそ100〜200℃とされ(特許文献6〜9)、200℃を超えると副生成物が増えるとされていた(特許文献6)。本発明者らは、この副生成物を詳細に分析した結果、200℃より低い反応温度ではポリグリコール、ポリ炭酸エステルなどの透明で粘調な重合物がほとんどであったのに対して、200℃よりも高い反応温度では、重合物の量が多くなったのみならず、若干茶色や黒色に変色した重合物が副生して得られる場合があり、局所的に高温部分があることが示唆された。
そして、この現象を詳細に調べた結果、このような副生成物の変化は、アルキレンオキサイドの臨界温度を境にして起こっていることが推定され、本発明の端緒を得た。
現在工業化、あるいは技術開示されている本反応プロセスでは、この分離操作には一様にフラッシュタンクを用いており、本発明者らも同様の装置で検討をしていたが、このフラッシュタンクからの排出ガスの組成を調べたところ、例えば、エチレンオキサイドの場合ならば、エチレンオキサイドの濃度が、エチレンオキサイド/二酸化炭素系における爆発限界である80体積%には入っていなかったものの、エチレンオキサイド/空気系における爆発限界である3体積%ははるかに超えており、この排出ガスは、絶対に空気に触れさせてはいけないことがわかった。そこで、第一に、この排出ガスの含まれるアルキレンオキサイドの割合を下げるべく、アルキレンオキサイド転化率の下限を規定し、次に、この排出ガスを、空気に触れさせること無く、不活性ガスなどを添加して、爆発の可能性を回避しつつ無害化する方法を検討した。
すなわち、本発明は、
1.エチレンオキサイドと二酸化炭素から、触媒の存在下に反応させ、エチレンカーボネートを製造するプロセスにあって、
a.反応温度が、エチレンオキサイドの臨界温度以下であり、かつ、反応圧力が4〜12MPaであり、
b.完全混合型反応器を直列に用いた多段反応方式の反応器または完全混合型反応器とこの反応器出口に設けたピストンフロー型反応器とを有する反応器を用いてエチレンオキサイドの転化率を95%以上とし、
c.反応混合物から、未反応のエチレンオキサイドと二酸化炭素の混合物を分離するに際して、該混合物中のエチレンオキサイドのモル比(C)が、40%以下に維持し、
d.該未反応エチレンオキサイドの処理方法が、エチレンオキサイドを水に吸収させる工程を含むこと
を特徴とするエチレンカーボネートの製造方法に係わる。
3.該水に吸収させた未反応エチレンオキサイドを無害化する工程が、酸を添加して反応させたのち、中和して活性汚泥処理する工程を含むことを特徴とする上記1または2に記載のエチレンカーボネートの製造方法に係わる。
4.該未反応エチレンオキサイドを吸収させる水が、酸を含んでいることを特徴とする上記3記載のエチレンカーボネートの製造方法に係わる。
本発明で使用されるアルキレンオキサイドは、化学式(1)で表される化合物である。
このようなアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ビニルエチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド及びスチレンオキサイド等が挙げられ、特にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドが入手の容易さなどの点で好ましい。これらのアルキレンオキサイドは、単独でも、また、複数種類を組み合わせて用いても良い。
アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート及びスチレンカーボネート等が挙げられ、本発明は、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの製造に好ましく用いられる。
本発明で用いられる二酸化炭素は、工業的に入手可能なものが好ましく、天然ガス、発酵ガス、石油精製の副生ガス、アンモニア合成工程の副生ガスなどから得られる二酸化炭素が例示される。荷姿は、ガス状炭酸ガス、液化炭酸ガス、ドライアイスから選ばれるが、なかでもガス状炭酸ガスおよび液化炭酸ガスが、取り扱いの容易さから好ましく用いられる場合が多い。
触媒濃度は、用いる触媒、反応条件、反応器の形状等により異なり、反応器中の濃度として、0.01〜5質量%に調整されるのが一般的である。
本発明の要件の第一は反応温度である。
本発明では、反応温度は、用いるアルキレンオキサイドの臨界温度以下の温度でなければならない。臨界温度を越えて高い反応温度では、副生成物が増えて所望のアルキレンカーボネートの収率が落ちてしまうため好ましくない。
反応温度の下限は、一般に100℃付近とされる場合が多く、150℃以上であれば好ましい。
本発明を実施するに当り、原料であるアルキレンオキサイドと二酸化炭素の量比は、アルキレンオキサイドに対する二酸化炭素のモル比で表現して、通常、1〜5、好ましくは1〜2である。しかし、通常は反応器から余剰の二酸化炭素ガスを放出すると、同伴する未反応のアルキレンオキサイドも増えるので、反応器圧力が一定となるように二酸化炭素供給量を調整する方法が好ましい。
また、二酸化炭素を反応液に溶解させるために、種々の反応器形式が考案されており、本発明で開示するシャワーノズル式や、エジェクター方式、気泡塔反応器などが例示され、ベンチュリー攪拌子を備えた完全混合槽反応器などを用いることも好ましい。
本反応は著しい発熱反応であり、反応熱の除去が重要である。種々の方式が提案されているが、一般的には、反応器の周りにジャケットを設けてオイルを流し、このオイルを熱交換器に通して除熱したり、反応器から反応混合物を一部抜き出し、熱交換器を通して冷ました反応混合物を再び反応器に戻して除熱したりする方式が用いられる場合が多い。
反応器等のプロセス液が通る部位の材質は、プロセス液に対する耐蝕性があれば使用可能である。鉄錆があるとその触媒作用によりアルキレンオキサイドの重合物の生成原因となるので、ステンレス鋼を用いるのが好ましい。
本発明では、反応器出口混合物から、まず未反応のアルキレンオキサイド、未反応の二酸化炭素を除去するが、この工程では、フラッシュタンクや段数の小さな簡便な蒸留塔などが用いられる場合が多く、本発明者らも、フラッシュタンクを用いて検討を行った。
フラッシュタンクの運転条件は、反応温度および反応圧力によってフラッシュ後の混合物の温度と圧力が決まるが、引き続く蒸留工程との熱量や圧力のバランスを考慮して、若干の調整をする場合が多い。エチレンオキサイドを用いる場合は、一般に100〜150℃、300〜2000Torrという条件が選ばれる場合が多い。
転化率として95%以上を達成する方法は種々あるため、そのうちのいくつかを例示する。
アルキレンオキサイドの転化率を上げるには、一般には反応時間を長くする方法がよく知られているが、逆にアルキレンカーボネート選択性は下がってしまう恨みがあるため、転化率を高く維持したままで、選択性を高く維持する方法としては、反応器を、一段で高い転化率を達成するのではなく、多段にして、いたずらに反応時間を延ばすことなく選択性を上げる方法も好ましい。また、完全混合型反応器を用いる場合には、反応器出口に、フィニッシャーと呼ばれる小型のピストンフロー型反応器を取り付けておき、転化率を稼ぐ方法も好ましい。
本発明の要件の第三は、該混合物中のアルキレンオキサイドの濃度を80モル%以下にすることである。例えば、エチレンオキサイド/二酸化炭素系の爆発限界は上記分離工程の運転温度である100〜150℃では、エチレンオキサイド濃度として約80%であることが知られている(橋口 東京工業試験所報告、1965年、Vol.60、No.3、85頁)。
しかしながら、実際のプラント運転では、例えば急な停電で反応器の温度が下がる、二酸化炭素供給ポンプが故障するなど、なんらかの原因でアルキレンオキサイドの転化率が下がり、未反応のアルキレンオキサイドが安全な範囲を越えて大量に排出される場合も現実問題として想定されるため、爆発限界ギリギリの80%で操業する場合は少ない。
このように、上記分離工程におけるアルキレンオキサイドの濃度を下げる方法としては、まずはアルキレンオキサイドの転化率を上げて未反応分を減らすことが挙げられる訳であるが、上記分離工程に不活性ガスを吹き込み、濃度を下げる方法も好ましく例示される。
吹き込むガスは、二酸化炭素、チッソ、不活性ガスなどの不燃性ガスが好ましい。
さらに、例えば、エチレンオキサイドの場合、空気中での爆発範囲はエチレンオキサイドの濃度として3〜100%であり、上記分離工程で排出された混合物は、大量の二酸化炭素中だから爆発の可能性がないだけであって、絶対に空気に触れてはいけない混合物である。
本発明の第四の要件は、上記分離工程で分離した混合物を水に吸収させることであり、これは、その後の処理を安全に行うために、絶対に必須な要件である。
水に吸収させた後の処理方法としては、アルキレンオキサイドを希硫酸などで対応するグリコールに無害化したのち吸収水を活性汚泥などで処理する方法、無害化したのち吸着剤などで除去する方法、水中に空気を吹き込みながら湿式燃焼で無害化する方法などが例示される。なかでも、アルキレンオキサイドを酸でグリコールに無害化したのち、活性汚泥処理する方法は好ましく例示される。また、吸収させる液として、水の代わりに希硫酸を用いることも簡便で好ましい実施様態である。
もしも万が一、急激な燃焼が始まったとしても、それがプラント全体に広がらないように、配管の要所に金網を詰めて火炎伝播体積以下になる個所を設けることは好ましい。このために用いる素材としては、金網や金属たわし、硝子ビーズなどの不燃性の充填物が挙げられる。
さらに、燃焼はラジカルの連鎖反応であるため、ラジカルの壁面消失を促す目的で、表面積の大きな素材を配管の要所に設けておくことも有効である。例えば、セラミックス製ハニカムや、シリカやアルミナなどの表面積の大きな多孔質無機粒子が挙げられる。
未反応のアルキレンオキサイドと二酸化炭素を分離した後の混合物は、主としてアルキレンカーボネートを含むため、蒸留などの適切な手段により、アルキレンカーボネートを製品として取り出すことができる。
上記混合物には、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンカーボネートなど、アルキレンカーボネートよりも沸点のはるかに高いポリマー様の高沸物を含むため、蒸留法を用いる場合は、薄膜蒸留法を用いるとよい。蒸留条件は、100〜150℃、1〜100Torrの範囲で選ばれる場合が多い。
このようにして得られたアルキレンカーボネートは、凝固点が25℃と同じくらいかそれよりも高い場合が多いため、液体で貯蔵する場合は、該凝固点以上の温度で貯蔵する必要がある。
このようにして得られたアルキレンカーボネートは、一般に安定で、毒性の無い、極性の大きな化合物であり、水や有機溶剤とよく混合し、高分子物質に対しても、一般に優れた溶解性を示す。そのため、有機溶剤として広範囲に用いられるのみならず、活性水素を有する化合物に対して、開環付加反応、開環縮合反応を行うため、有機合成原料としても有用である。また、二次電池用電解液としての用途にも好ましく用いることができる。
具体的な用途としては、有機溶剤、ポリマー溶剤、ヒドロキシアルキル化剤、リチウム二次電池用電解液、医薬品、アクリル繊維加工剤、土壌硬化剤などに用いられ、芳香族ポリカーボネート原料としての炭酸ジエステルを製造する原料としても、好適に用いられる。
図1はアルキレンカーボネート製造プロセスを示すフロー図である。
反応器11は、内径10cmΦ、直胴部長さ250cm、容量20Lで、反応器上部に二酸化炭素の吸収効率を高める液分散ノズルを持った、ステンレス製の縦型円塔槽である。
なお、配管14と16の分岐から調整弁までの間に、フィニッシャーを設けたが、記載は省略した。
原料として、約5℃に冷却されたエチレンオキサイドを、原料配管1からエチレンオキサイドポンプ4に供給し、そこで2650g/hをポンプで昇圧し、エチレンオキサイド供給配管8から反応器循環配管14に供給した。もう一方の原料である二酸化炭素として、液化二酸化炭素を原料配管3から二酸化炭素供給ポンプ6に供給した。そこで昇圧させ、温水浴型の二酸化炭素蒸発器7でガス化させ、約90℃の温度で二酸化炭素供給配管10から反応器上部の気相部に約9.5MPaの一定圧力となるよう調節して供給した。平均的な二酸化炭素供給量は2870g/hであった。
エチレンカーボネート精製工程で回収した触媒とフレッシュ触媒の割合は、それぞれ9部及び1部として、反応器循環液中の沃化カリウム濃度が0.23〜0.26wt%となるように設定した。
さらに、フラッシュタンク18の底部より、主にエチレンカーボネートを含む混合物を配管19を通して抜き出し、エチレンカーボネート回収塔21に導入した。エチレンカーボネート回収塔は、160℃、49Torrに制御された薄膜蒸留器である。エチレンカーボネートは蒸留器21より配管20を通して抜き出し、触媒、高沸物を含む混合物は蒸留塔より配管22を通して抜き出した。この一部を、配管23を通して系外に排出した。
各配管の流量と組成を表1にまとめた。
反応温度は、180℃とした。エチレンオキサイドの臨界温度は196℃である。
エチレンオキサイド、エチレンカーボネート、二酸化炭素、ヨウ化カリウムはそれぞれ、EO、EC、CO2、KIと略記した。配管16の値は、フィニッシャー以降の混合物の分析結果である。
配管17から系外に排出されたガス、および、配管20から抜き出される製品エチレンカーボネートに若干含まれるエチレンオキサイドと二酸化炭素を、50℃に設定したスクラバーで、0.1モル/Lの希硫酸水溶液に吸収させて、エチレンオキサイドをエチレングリコールに無害化したのち、苛性ソーダで中和して活性汚泥処理した。スクラバーには、内径26cmΦ、直胴部長さ120cmの吸収塔を用いた。
上記条件で、配管23から排出されるブローダウン量は約11%で、2700時間の連続運転を達成した。ブローダウンした液に着色は無く、運転終了後の開放点検でも、反応器や熱交換器に付着物はほとんど見られなかった。
反応温度を200℃、反応圧力を3.5MPaとした以外は、実施例1と同様の運転を行った。EO転化率はほぼ100%であった。
反応時間400時間あたりから、反応温度の上昇が始まり、熱交換器での伝熱低下が推定されたため、430時間で運転を停止した。配管23より抜き出した液は薄く茶色に変色しており、熱交換器を開放点検したところ、伝面に茶色〜黒色の付着物が一面に付着していた。
反応温度を200℃から、徐々に190℃まで下げた以外は、比較例1と同様の運転を行った。190℃で反応成績が安定した時点で、EO転化率は約80%であった。
スクラバー出口でEO濃度をモニターしながら、EO濃度が爆発限界の3%以上にならないように慎重に実験を行ったが、実施例1で用いたスクラバー1基では処理能力が足りず、結局、スクラバー出口ガスに大量の窒素を吹き込んで爆発の可能性を回避した。
配管23からブローダウンした液に着色は無く、運転終了後の開放点検でも、反応器や熱交換器に付着物はほとんど見られなかった。
16、17、19、20、22、23、24、26 配管
4、5、6、13、25 ポンプ
7 熱交換器
11 反応器
18 フラッシュタンク
21 薄膜蒸留器
Claims (4)
- エチレンオキサイドと二酸化炭素から、触媒の存在下に反応させ、エチレンカーボネートを製造するプロセスにあって、
a.反応温度が、エチレンオキサイドの臨界温度以下であり、かつ、反応圧力が4〜12MPaであり、
b.完全混合型反応器を直列に用いた多段反応方式の反応器または完全混合型反応器とこの反応器出口に設けたピストンフロー型反応器とを有する反応器を用いてエチレンオキサイドの転化率を95%以上とし、
c.反応混合物から、未反応のエチレンオキサイドと二酸化炭素の混合物を分離するに際して、該混合物中のエチレンオキサイドのモル比(C)が、40%以下に維持し、
d.該未反応エチレンオキサイドの処理方法が、エチレンオキサイドを水に吸収させる工程を含むこと
を特徴とするエチレンカーボネートの製造方法。 - 該モル比(C)を所定の割合以下に維持する方法が、当該分離操作後の未反応エチレンオキサイドと二酸化炭素の混合物に不活性ガスを吹き込むことを特徴とする請求項1記載のエチレンカーボネートの製造方法。
- 該水に吸収させた未反応エチレンオキサイドを無害化する工程が、酸を添加して反応させたのち、中和して活性汚泥処理する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のエチレンカーボネートの製造方法。
- 該未反応エチレンオキサイドを吸収させる水が、酸を含んでいることを特徴とする請求項3記載のエチレンオキサイドの製造方法。
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