JP4608233B2 - 凹凸模様形成用ノンクロメート系プレコート金属板の製造用下塗り塗料組成物、及びノンクロメート系プレコート金属板 - Google Patents

凹凸模様形成用ノンクロメート系プレコート金属板の製造用下塗り塗料組成物、及びノンクロメート系プレコート金属板 Download PDF

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Description

本発明は、滑らかな凹凸模様(ユズ肌状外観)を有するノンクロメート系プレコート金属板の製造用下塗り塗料組成物、及びノンクロメート系プレコート金属板に関するものである。本発明の下塗り塗料組成物を用いれば、耐食性、耐水性、及び加工性の全てを兼ね備えたユズ肌調のノンクロメート系プレコート金属板が得られるので、例えば家電製品や建材用途、自動車用、鋼製家具等、様々な用途に適用することができる。
塗装・焼付け時に発生する溶剤蒸気等の生成に伴って作業環境の悪化や大気汚染等が深刻化するなか、家電メーカーでの作業改善を図り、脱脂や塗装工程を省略する目的で、家電メーカー等のユーザーサイドに供給する前に、鋼板メーカー等において予め、鋼板の塗装・焼付けを行なう塗装金属板(この様な塗装金属板を、「プレコート金属板」と呼ぶ)の使用が増大している。
上記プレコート金属板に求められる特性としては、加工性や耐食性等の他、意匠性が挙げられる。特に、穏やかな凹凸模様を呈する「ユズ肌」と呼ばれる外観は、搬送時や成形時の疵等が目立ち難い等の理由により、適用分野によっては非常に好まれている。また、最近の特性としては、環境に配慮して、皮膜及び塗膜中に有害なクロム系物質を含まない、ノンクロメートタイプであることも要請されている。
この様な要求特性を備えた、ユズ肌外観を有するノンクロメート系プレコート金属板として、例えば特許文献1が挙げられる。上記特許文献1は特に、激しい加工を受けた部分の塗膜密着性及び当該加工部の耐食性を高めるという観点から検討されたものであり、特定の表面粗さを有する亜鉛系めっき鋼板の表面に、特定の成分を含む非クロム系の化成処理皮膜を形成し、その上層に、特定の非クロム系防錆添加成分を含む下塗り塗膜、更に上塗り塗膜を順次形成することにより、上述した種々の諸特性に優れたユズ肌調のプレコート鋼板を得るというものである。
しかしながら、極く最近になって、ユーザーサイドからは、上述した加工性や耐食性に加え、更に耐水性も兼ね備えたノンクロメート系プレコート金属板の提供が要請される様になっている。ところが上記公報の鋼板では、この要求特性を充分満足していないことが本発明者らの実験により明らかになった。
その他、ノンクロメート系ではないが、ユズ肌外観を有するプレコート金属板として特許文献2が挙げられる。しかしながら、上記公報にしても、滑らかな凹凸外観を有する塗装金属板の製造を主目的としてなされたものであり、塗装金属板に通常要求される特性(加工性、硬度、耐汚染性、耐薬品性等)については考慮しているものの、本発明の如く耐食性と耐水性の両立(耐食性を低下させることなく耐水性を高める)といった観点からのアプローチは全くなされていない。また、同じくノンクロメート系でなく、ユズ肌外観を有するプレコート金属板として開示されたものでもないが、特許文献3には、特定の水性樹脂とポリイソシアネート組成物と水を含有する、耐水性等に優れた水性塗料が開示されているが、耐水性の点で未だ不充分である。
特開2002−80979号公報 特開平10−226015号公報 特開2002−363504号公報
本発明は上記事情に鑑み、なされたものであり、その目的は、耐食性と耐水性という、相反する特性を兼ね備えており、しかも加工性にも優れた、ユズ肌状外観のノンクロメート系プレコート金属板を製造するのに適した下塗り塗膜用の塗料組成物;及び、当該塗料組成物を用いて得られるノンクロメート系プレコート金属板を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明に係る、凹凸模様形成用ノンクロメート系プレコート金属板の製造に使用される下塗り塗膜用の塗料組成物は、数平均分子量(Mn)が18,000〜25,000のポリエステル系樹脂Aと、数平均分子量(Mn)が5,000〜15,000のポリエステル系樹脂Bを、(1.0〜5.0):(9.0〜5.0)の質量比率で含有するところに要旨を有するものである。
上記下塗り塗料組成物において、更に架橋剤として、メラミン系樹脂及びエポキシ系樹脂を含有するもの;更に防錆顔料として、シリカ系防錆剤及びリン酸塩系防錆剤を含有するものはいずれも、本発明の好ましい態様である。
更に上記課題を解決し得た本発明に係る、耐食性、耐水性、及び加工性に優れたノンクロメート系プレコート金属板は、ノンクロメート系下地処理皮膜に、下塗り塗膜、及び凹凸模様を形成する上塗り塗膜が被覆されたノンクロメート系プレコート金属板であって、当該下塗り塗膜は、前述した塗料組成物を用いて形成されるものであるところに要旨を有するものである。
ここで、上記下塗り塗膜の膜厚を7μm以上とすれば、より優れた特性が得られるので好ましい態様である。
本発明に係る下塗り塗膜用の塗料組成物は上記の様に構成されているので、滑らかな凹凸模様(ユズ肌状外観)を備えたノンクロメート系プレコート金属板の製造に好適であり、当該塗料組成物を用いれば、耐食性、耐水性、及び加工性の全てに優れたプレコート金属板を提供することができる。
本発明者らは、ユズ肌状外観を有するノンクロメート系プレコート金属板の製造に使用される下塗り塗膜用の塗料組成物であって、耐食性と耐水性という、相反する特性を兼ね備えており、しかも加工性にも優れたプレコート金属板を得ることができる塗料組成物を提供すべく、特に、樹脂に着目して検討してきた。その結果、下塗り塗膜を形成する樹脂の組成を、数平均分子量Mn(以下、単に「分子量」と略記する場合がある)が18,000〜25,000のポリエステル系樹脂A(以下、「低分子量の樹脂A」若しくは単に「樹脂A」と略記する場合がある)と、数平均分子量が5,000〜15,000のポリエステル系樹脂B(以下、「高分子量の樹脂B」若しくは単に「樹脂B」と略記する場合がある)の混合物とすれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
まず、本発明に係る下塗り塗膜用の塗料組成物について説明する。
(1)下塗り塗膜用の塗料組成物
上記塗料組成物は以下の記載の通り、必須成分として、樹脂、架橋剤、及び防錆顔料を含有している。これら成分のうち、本発明を最も特徴付けるのは樹脂である。
(1−1)樹脂
本発明では、下塗り塗膜用のベース樹脂(主剤樹脂)として、分子量の異なる2種類のポリエステル系樹脂(樹脂Aと樹脂B)を用いたところに特徴がある。この様な樹脂混合物を使用することにより初めて、耐食性を劣化させることなく耐水性を高めることが可能となり、耐食性と耐水性という、相反する特性を兼ね備えたノンクロメート系プレコート金属板を提供することができた。
この点についてもう少し詳しく説明すると、一般に樹脂塗装金属板において、樹脂塗膜中に添加される樹脂としては、ポリエステル系樹脂の他、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等、様々な樹脂が例示されており、特に耐食性や加工性の向上という観点からすれば、非親水性樹脂(例えばポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等)の使用が推奨されている。本発明者らは、上記非親水性樹脂のなかでも特にポリエステル系樹脂に着目し、当該ポリエステル系樹脂分子量の数平均分子量が、耐食性及び耐水性に及ぼす影響について調査した。その結果、1種類のポリエステル系樹脂を使用したのでは両方の特性を兼備させることは困難であったが、意外にも、分子量の異なる2種類のポリエステル系樹脂を所定の混合比率で配合すれば両方の特性を兼備させることが可能であり、しかも加工性にも優れたプレコート金属板が得られることが明らかになった。この様にユズ肌外観を有するノンクロメート系プレコート金属板において、本発明の如く、下塗り塗膜用のベース樹脂として、本発明で規定する所定の分子量からなる2種類のポリエステル系樹脂を混合使用したものは、従来知られていない。ちなみに前述した特許文献1には、下塗り塗膜用の樹脂として、数平均分子量20,000のポリエステル樹脂を単独で使用し、ノンクロメート系プレコート金属板を製造した実施例が開示されているが、この様な金属板は、耐食性や加工性に優れるものの耐水性に劣ることを、後記する実施例において確認している。また、前述した特許文献3には、水性樹脂として、数平均分子量の異なる樹脂Aと樹脂Bを組合わせて使用しているが、当該水性樹脂の実態はアクリル系樹脂であり、且つ、樹脂Bの数平均分子量は実質的に50,000以上(実施例は200,000〜500,000)と、本発明で規定する範囲(18,000〜25,000)に比べて格段に高い。
ここで、本発明に用いられるポリエステル系樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分との縮重合によって製造されるものであり、変性したポリエステル系樹脂(エポキシ変性ポリエステル系樹脂、フェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂等の熱硬化性ポリエステル系樹脂または不飽和ポリエステル系樹脂)も本発明の範囲に包含される。
このうち上記多塩基酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水マレイン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸等が;また、上記多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール、或は更にグリセリン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールの如き3価以上の多価アルコール等を少量併用したものが挙げられる。上記多塩基酸成分と多価アルコール成分を縮重合させることによって得られるポリエステル系樹脂であって、後述する数平均分子量(Mn)を満足するものであれば、多塩基酸成分や多価アルコール成分の組合せ等は一切限定されず、全て使用可能である。
そして本発明では、上記ポリエステル系樹脂として、数平均分子量(Mn)が18,000〜25,000のポリエステル系樹脂Aと、数平均分子量が5,000〜15,000のポリエステル系樹脂Bを、(1.0〜5.0):(9.0〜5.0)の質量比率で混合使用する。
上記構成を特定するに当たり、本発明者らによる数多くの基礎実験によれば、一般的な傾向として、概ね、ポリエステル系樹脂の分子量を大きくすると、耐食性は向上するが耐水性は低下する傾向にあり;一方、ポリエステル系樹脂の分子量を小さくすると、耐水性は向上するが耐食性は低下する傾向にあることが明らかになった。即ち、本発明に用いられる2種類の樹脂A及び樹脂Bの作用(役割)を簡易に述べるならば、高分子量の樹脂Aは、特に加工性や耐食性の向上に大きく寄与しており、樹脂Aの添加に伴う耐水性の低下を、低分子量の樹脂Bで補っているということができる。従って、本発明で使用する樹脂A及び樹脂Bの分子量、並びにこれらの混合比率は、所望の特性を発揮させるのに極めて重要であり、これらのうちいずれかが、本発明で定める範囲を外れたものは所望の特性が得られないことを、後記する実施例によって確認している。
尚、数平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法に基づいて行っており、ポリエチレン換算量として表している。
まず、本発明で使用する樹脂Aの数平均分子量は18,000〜25,000であり、樹脂Bの数平均分子量は5,000〜15,000である。
ここで、樹脂A及び樹脂Bの分子量が夫々、上記下限を下回ると、加工性及び耐食性が低下してしまう。これは、分子量の小さい樹脂を用いると、樹脂の架橋密度が大きくなって耐水性は向上するが、その反面、塗膜硬度が大きく(硬くなる)なって加工性が劣化してしまう他、下塗り塗膜中に添加される防錆顔料(後記する)の溶出量が少なくなり、防錆剤添加による作用が有効に発揮されない為と思料される。一方、樹脂A及び樹脂Bの分子量が夫々、上述した上限を超えると、耐水性が低下してしまう。これは、分子量の大きい樹脂を用いると、樹脂の架橋密度が低くなって塗膜硬度が小さくなる(軟らかくなる)為、加工性は向上し、防錆顔料の溶出量も多くなって防錆顔料添加による作用も有効に発揮される反面、樹脂の架橋密度が小さい為に耐水性の低下をもたらしているものと思料される。
樹脂Aの数平均分子量の好ましい上限は22,000であり、より好ましくは21,000であり、更により好ましくは20,000である。樹脂Aの最も好ましい数平均分子量は19,000である。この様な範囲を満足する樹脂Aとしては、市販品を使用しても良く、例えば東洋紡績株式会社製バイロン300、530、560、630、650;バイロンRV30P;GM900、GM990、GM400、GM460等が挙げられる。
また、樹脂Bの数平均分子量の好ましい下限は8,000、より好ましい下限は10,000である。また、樹脂Bの数平均分子量の好ましい上限は14,000である。樹脂Bの最も好ましい数平均分子量13,000である。この様な範囲を満足する樹脂Bとしては、市販品を使用しても良く、例えば東洋紡績株式会社製バイロンGK130、GK590、GK190等;大日本インキ工業株式会社製SUPERベッコライトM−6801−30等が挙げられる。
更に本発明では、上記樹脂Aと樹脂Bの混合比率を、質量比率で(1.0〜5.0):(9.0〜5.0)とする。低分子量の樹脂Bに対し、高分子量の樹脂Aの比率が相対的に多くなると、耐水性が低下してしまう。これは、樹脂の架橋密度が小さくて塗膜硬度が小さくなる(柔らかくなる)為、防錆顔料による作用も有効に発揮される結果、加工性や耐食性は向上する反面、樹脂の架橋密度が小さい為に耐水性の低下をもたらす為と思料される。一方、低分子量の樹脂Bに対し、高分子量の樹脂Aの比率が相対的に少なくなると、樹脂の架橋密度が大きくなって耐水性向上には寄与する反面、塗膜硬度が大きくなる(硬くなる)為、加工性の低下、更には防錆顔料の作用低下に伴う耐食性の低下を招くと思料される。好ましい混合比率は(1.5〜4.0):(8.5〜6.0)であり;より好ましい混合比率は(2〜3.5):(8〜6.5)であり、最も好ましいのは3:7である。
本発明における下塗り塗膜中に含まれる上記樹脂の添加量(合計含有量)は、固形分換算で40〜60質量%とすることが好ましい。40質量%未満では、成形加工性が劣化する。一方、60質量%を超えると、防錆顔料が不足する為に耐食性が低下する恐れがある。上記樹脂のより好ましい配合量は、45質量%以上、55質量%以下である。
更に上記樹脂A及びBに求められる他の特性として、ガラス転移温度(Tg)が30℃未満、水酸基価が5mgKOH/g以下を満足することが推奨される。
まず、上記樹脂のガラス転移温度(Tg)が30℃以上では、加工後の塗膜に生じる内部応力が過大となり、加工部で塗膜が剥離したり破壊し易くなるばかりでなく、塗膜に生じる内部応力の増大は、たとえば塩水噴霧試験後の耐食性にも悪影響を及ぼす。しかしガラス転移温度(Tg)が30℃未満のものであれば、こうした欠点を生じることがなく、加工後においても優れた塗膜密着性と耐食性を発揮し得るものとなる。
加工後の塗膜密着性と耐食性を高める上でより好ましいガラス転移温度は20℃以下である。但し、ガラス転移温度が低過ぎると塗膜硬度が劣化するで、好ましくは−5℃以上、より好ましくは0℃以上とすることが望ましい。
また、上記樹脂の水酸基価が5mgKOH/gを超えると、硬化剤との反応点が増加して深絞り加工後の内部応力が過大となり、塩水噴霧試験で満足のいく耐食性を確保できなくなる。
以上、本発明に係る下塗り塗膜用の塗料組成物を最も特徴付ける樹脂について説明した。
(1−2)架橋剤
本発明では、更に架橋剤として、メラミン系樹脂とエポキシ系樹脂を併用することが推奨され、これにより、耐食性を低下させることなく耐水性を高めることができる。両者の併用により、メラミン系樹脂を単独使用した場合に比べ、樹脂の架橋密度が大きくなり、耐水性が著しく向上することを、後記する実施例によって確認している。
但し、所望の特性を有効に発揮させる為には、メラミン系樹脂とエポキシ系樹脂の混合比率を適切に制御することが推奨され、エポキシ系樹脂を過剰に添加すると、塗膜が硬くなり過ぎて加工性が低下し、クロスカット部の耐食性も低下する。この様な観点から、本発明ではメラミン系樹脂とエポキシ系樹脂の好ましい混合比率を固形分換算で、メラミン系樹脂100質量部に対し、エポキシ系樹脂を2〜20質量部とする。より好ましくは、メラミン系樹脂100質量部に対し、エポキシ系樹脂を5〜15質量部であり;更により好ましくは、メラミン系樹脂100質量部に対し、エポキシ系樹脂を10〜15質量部であり;最も好ましいのはメラミン系樹脂100質量部に対し、エポキシ系樹脂12質量部ある。
ここで、本発明に用いられるメラミン系樹脂としては、メラミンとアルデヒド類を反応させて得られるメチロール基含有メラミン樹脂;更にこのメチロール基を、アルコール類で処理した所謂アルキル化メラミン樹脂(例えばメチルメラミン樹脂、エチルメラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂等)が挙げられる。
この様なメラミン系樹脂は市販品を使用しても良く、例えば三井化学製「サイメル325」、「サイメル301」、「サイメル303」、「サイメル327」等の使用が推奨される。
また、本発明に用いられるエポキシ系樹脂としては、代表例として、ビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂、或はこれらの各種変性樹脂が挙げられるが、その他に例えば、グリシジルメタクリレートの如き分子中にグリシジル基を有する重合性単量体をモノマー成分として使用することにより分子中にエポキシ基を導入した各種の共重合樹脂やオリゴマー等を使用することも可能である。
この様なエポキシ系樹脂は市販品を使用しても良く、例えばジャパン・エポキシレジン(株)製「ユピコート1001」、「ユピコート801」、「ユピコート806」、「ユピコート825」、「ユピコート1004」等の使用が推奨される。
本発明における下塗り塗膜中に含まれる上記架橋剤の添加量(合計含有量)は、ベース樹脂固形分100質量部に対し、20〜30質量部とすることが好ましい。20質量部未満では、耐水性が低下し;一方、30質量部を超えると、成形加工性に悪影響を及ぼす恐れがある。
(1−3)防錆顔料
本発明では、更に防錆顔料として、シリカ系防錆剤とリン酸塩系防錆剤を併用することが推奨され、これにより、耐食性を低下させることなく耐水性を高めることができる。
本発明に用いられるシリカ系防錆剤としては、以下のものが例示され、特に好ましいのはイオン交換シリカである。
・ヒュームドシリカ;「AEROSIL R971」、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R811」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL R202」、「AEROSIL R805」、「AEROSIL 130」、「AEROSIL 200」、「AEROSIL 300」、「AEROSIL 300CF」等(いずれも日本アエロジル社製の商品名);
・イオン交換シリカ;「シールデックス C303」等(GRACE Davision製の商品名)、「SHIELDEX C3O3」、「SHIELDEX AC−3」、「SHIELDEX C−5」等(いずれも富士シリシア化学社製の商品名);
・アルミニウム修飾シリカ;「アデライトAT−20A2」等(日本アエロジル社製の商品名)。
また、本発明に用いられるリン酸塩系防錆剤としては、以下のものが例示され、特に好ましいのはトリポリリン酸アルミニウムである。
・トリポリリン酸アルミニウム;「テイカK−WHITE 80」、「テイカK−WHITE 84」、「テイカK−WHITE 105」、「テイカK−WHITE G105」、「テイカK−WRITE 90」等(いずれもテイカ社製の商品名);
・リン酸塩;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛等;
・ホスネン酸、ホスホン酸塩;亜リン酸亜鉛、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム等。
上記防錆剤の好ましい組合わせは、シリカ系防錆剤としてイオン交換シリカと、リン酸塩系防錆剤としてトリポリリン酸アルミニウムを併用したものである。これらはいずれも、pH緩衝作用によって優れた防錆能を発揮するものである。更にトリポリリン酸アルミニウムは、pH緩衝作用に加えて不働態膜形成作用も有しており、その結果、一層優れた防錆能が発現されることになる。尚、トリポリリン酸アルミニウムは、そのままで使用しても良いが、MgやCaで処理したMg処理品やCa処理品も使用可能であり、これらは、より優れた防錆性能を発現するので好ましい。
尚、所望の特性を有効に発揮させるには、シリカ系防錆剤とリン酸塩系防錆剤の混合比率を適切に制御することが推奨され、特に固形分換算で、リン酸塩系防錆剤100質量部に対し、シリカ系防錆剤4.5〜14.8質量部の比率で配合することが好ましい。リン酸塩系防錆剤に対してシリカ系防錆顔料の添加量が多くなると、防錆剤の溶出量が多くなって塗膜にブリスターが発生し、耐水性が低下してしまう。一方、リン酸塩系防錆剤に対してシリカ系防錆顔料の添加量が少なくなると、特にクロスカット部での耐食性が低下してしまう。これは、耐食性向上に寄与する物質(溶解度の低い腐食生成物)の生成が減少する為であると思料される。より好ましくは、リン酸塩系防錆剤100質量部に対し、シリカ系防錆剤5〜12質量部であり;更により好ましくは、リン酸塩系防錆剤100質量部に対し、シリカ系防錆剤8〜12質量部であり;最も好ましくは、リン酸塩系防錆剤100質量部に対し、シリカ系防錆剤9.4である。
本発明における下塗り塗膜中に含まれる上記防錆剤の添加量(合計含有量)は、固形分換算で25〜45質量%の範囲が好ましい。25質量%未満では防錆性能が不足気味となり、逆に45質量%を超えて多過ぎると、成形加工性に悪影響を及ぼす恐れがでてくる。防錆剤のより好ましい配合量は30質量%以上、40質量%以下である。
尚、上述した防錆剤はいずれも、その平均粒径を下塗り塗膜の膜厚以下に微粉砕して使用することが推奨される。防錆剤の粒径が塗膜厚さを超えると加工性が悪くなるからである。本発明では、下塗り塗膜の膜厚を概ね、7μm以上と定めていることから、各防錆剤の平均粒径は、15μm程度以下とすることが好ましい。
(1−4)その他
本発明に係る下塗り塗膜用の塗料組成物は、前述した樹脂、架橋剤、及び防錆剤を必須成分として含有するものであるが、更に他の成分として、体質顔料を添加しても良い。特に、更なる加工性向上という観点からすれば、シリカ系体質顔料(例えばタルク、クレイ等)と二酸化チタンを併用することが推奨される。
この様な体質顔料は、市販品を使用しても良く、例えば以下のものが例示される。
シリカ系体質顔料として、丸尾カルシウム株式会社製「LMR#200」、「LMS#200」、「LMS#100」、「LMP#100」、「LMR#100」、「クレイ1号」、「クレイ特号」等;富士シリシア化学株式会社製「サイシリア350」、「サイシリア445」等。
二酸化チタンとして、テイカ株式会社製「JR−301」、「JR−603」、「JR−806」、「JRNC」等;石原産業株式会社製「タイペークCR−97」、「タイペークCR−93」、「タイペークCR−95」等。
ここで、シリカ系体質顔料と二酸化チタンの混合比率は、固形分換算で二酸化チタン100質量部に対し、シリカ系体質顔料を0.7〜4.9質量部とすることが推奨される。シリカ系体質顔料は総じて、二酸化チタンに比べて比重が小さい為、シリカ系体質顔料の含有量が相対的に多くなると、嵩高になって加工性が劣化するからである。
本発明における下塗り塗膜中に含まれる上記体質顔料の添加量(合計含有量)は、固形分換算で2〜4質量%の範囲が好ましい。2質量%未満では塗膜硬度が劣化し、逆に4質量%を超えて多過ぎると、成形加工性に悪影響を及ぼす恐れがある。
更に上記下塗り用塗膜組成物には、本発明の作用を損なわない範囲で、必要により、塗料用として公知の添加剤、例えば消泡剤や沈降防止剤、分散剤、流動調整剤等を適量配合することも勿論可能である。
次に、本発明に係るユズ肌調のノンクロメート系プレコート金属板について説明する。
本発明のプレコート金属板は、ノンクロメート系下地処理皮膜に、下塗り塗膜及び凹凸模様を形成する上塗り塗膜が被覆されたノンクロメート系プレコート金属板であって、該下塗り塗膜は、上述した下塗り塗膜用の塗料組成物から形成されるものであるところに特徴がある。
以下、本発明のプレコート金属板を構成する各要件について説明する。
(2)下塗り塗膜
上記下塗り塗膜を構成する塗料組成物の詳細は、前述した通りである。特に、優れた耐食性を確保する為には、下塗り塗膜の膜厚を7μm(より好ましくは9μm以上)とすることが推奨される。一方、その上限は、耐食性や耐水性、加工性といった観点からは特に限定されず、例えば30μmの膜厚でも所望の特性が得られる(後記する実施例を参照)が、膜厚が厚くなるとコスト増を招く他、塗膜の乾燥時間が長くなって生産性も劣化し、実用的でない。実用性を考慮すれば、その上限を15μm(より好ましくは12μm)とすることが推奨される。
(3)ノンクロメート系下地処理皮膜
本発明に用いられるノンクロメート系下地処理皮膜は特に限定されず、公知のノンクロメート系下地処理を適用することができる。代表的な下地処理法としては、原板たる金属板(鋼板)に亜鉛系めっきを施しておき、その表面にリン酸塩処理、あるいはシリカやジルコニアをベースとするクロムフリーの化成処理等を施す方法が挙げられる。また、市販の下地処理液を使用しても良く、例えば日本パーカーライジング製「CT−E220」、「CT−E203」等;日本ペイント製「EC2000」等の使用が推奨される。
(4)凹凸模様を形成する上塗り塗膜
本発明では、上塗り塗膜は所望のユズ肌外観(凹凸模様)を形成する為に形成するものであり、この様な凹凸模様形成用の上塗り塗料組成物としては、例えば、特開2002−226788号公報に記載の組成物をそのまま採用することができる。
具体的には、凹凸模様形成用塗料として、沸点が常温より高く、樹脂の分解温度よりも低い示す脂肪族飽和炭化水素を使用する。この様な脂肪族飽和炭化水素としては、炭素数が5〜70のものが挙げられ、具体的には、ペンタン(C512)、ヘキサン(C614)、ヘプタン(C716)、オクタン(C818)、ノナン(C920)、デカン(C1022)、ウンデカン(C1124)、ドデカン(C1226)、トリデカン(C1328)、テトラデカン(C1430)、ペンタデカン(C1532)、ヘキサデカン(C1634)、ヘプタデカン(C1736)、オクタデカン(C1838)、ノナデカン(C1940)、エイコサン(C2042)、ヘンエイコサン(C2144)、ドコサン(C2246)、トリコサン(C2348)、テトラコサン(C2450)、ペンタコサン(C2552)、ヘキサコサン(C2654)、ヘプタコサン(C2756)、オクタコサン(C2858)、ノナコサン(C2960)、トリアコンタン(C3062)、ヘントリアコンタン(C3164)、ドトリアコンタン(C3266)、トリトリアコンタン(C3368)、ペンタトリアコンタン(C3572)、ヘキサコンタン(C60122)、ヘプタコンタン(C70142)等の直鎖状脂肪族飽和炭化水素;イソペンタン(C512)、2−メチルペンタン(C614)、3−メチルペンタン(C614)、2,2−ジメチルブタン(C614)、2,3−ジメチルブタン(C614)、2−メチルへキサン(C716)、3−メチルへキサン(C716)、3−エチルペンタン(C716)、2,2−ジメチルペンタン(C716)、2,3−ジメチルペンタン(C716)、2,4−ジメチルペンタン(C716)、3,3−ジメチルペンタン(C716)、2,2,3−トリメチルブタン(C716)、2−メチルヘプタン(C818)、3−メチルヘプタン(C818)、2,2−ジメチルヘキサン(C818)、2,3−ジメチルヘキサン(C818)、2,5−ジメチルへキサン(C818)、3,4−ジメチルへキサン(C818)、2,2,3−トリメチルペンタン(C818)、2,2,4−トリメチルペンタン(C818)、2,3,3−トリメチルペンタン(C818)、2,3,4−トリメチルペンタン(C818)、2−メチルオクタン(C920)、2−メチルノナン(C1022)等の分枝状脂肪族飽和炭化水素が挙げられる。これらの脂肪族飽和炭化水素は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
上記脂肪族飽和炭化水素の含有量は、塗料全体の固形分に占める重量比率で0.1〜8質量%に制御することが推奨される。0.1質量%未満では、脂肪族飽和炭化水素の量が少な過ぎて塗膜表面を充分覆うことができず、所望の凹凸模様が得られない。より好ましくは0.5質量%以上である、但し、8質量%を超えて添加すると、塗膜表面が厚く覆われてしまい、形成される凹凸模様は微細になると同時に表面光沢が極端に低下し、ポストコート金属板の様な凹凸模様を得ることができない。より好ましくは3質量%以下である。
尚、使用する脂肪族飽和炭化水素は、固形のまま使用しても良いが、例えばキシレン等の希釈剤・溶剤で溶解して使用すると、添加効果が一層促進され、良好な凹凸模様を効率よく得ることができる。
また、脂肪族飽和炭化水素以外の塗料成分の溶解度パラメーターと、脂肪族飽和炭化水素の溶解度パラメーターの差の絶対値は1.0以上であることが好ましい。上述した通り、造膜過程で脂肪族飽和炭化水素が分離する為には、脂肪族飽和炭化水素と、塗料成分との相溶性が悪いことが必要であるが、その為には、夫々の溶解度パラメーターの値(SP値)の絶対値が1.0以上離れていることが要求される。このSP値の差は大きければ大きい程好ましいが、大きくなり過ぎると、コーティングする前の塗料の状態で分離してしまい、均一に塗装することが困難となる。従って、塗装均一性等を考慮すると、その上限を3以下(より好ましくは2以下)に制御することが推奨される。
ここでSP値とは、分子間力や溶解力、溶媒効果を表す熱力学的パラメータであり、具体的には、液体のモル蒸発エンタルピーをΔHA V、そのモル容をVA、熱力学定数をR、絶対温度をTとしたとき、(ΔHA V−RT)1/2A -1/2で表されるものである(学会出版センター編、大瀧仁志、田中元治、船橋重信著「溶液反応の化学」、117頁)。
尚、SP値は、例えば、希釈剤や界面活性剤の種類等を適切に制御することによって所望範囲に調整することが可能である。
更に、塗料として使用する為には、常温において流動性を示すことが必要であるが、本発明に用いられる凹凸模様形成用塗料は特に、FDカップ#4で粘度10秒以上、90秒以下の流動性を示すことが推奨される。FDカップ#4とは、JIS K 5400の塗料一般試験方法に記載の「4.塗料の性状に関する試験方法」のうち、「4.5 粘度、4.5.4 フォードカップNo.4法」を意味する。具体的には、一定容積のカップに一定量の試料を満たし、一定口径をもつ孔から流下させ、その流下時間(秒)を測定することにより試料の流動性を評価する方法であり、この粘度が小さいことは流動性に優れることを意味する。
所望の流動性を得る為には、上記粘度を90秒以下に制御することが好ましい。90秒以下に制御すると塗料の流動性が高められる結果、焼付け時間が120秒以下と短時間であっても、塗料表面から脂肪族飽和炭化水素が分離する為、所望の凹凸模様を形成することが可能である。より好ましくは45秒以下である。但し、上記粘度が10秒を下回ると、流動性は優れるものの塗装性に劣り、実操業レベルに適さない。より好ましくは15秒以上である。
以上が、脂肪族飽和炭化水素に要求される特性であり、これ外の塗料成分については、樹脂塗装金属板に通常用いられる成分を適宜選択して使用することができる。
このうち樹脂塗料としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、およびそれらの混合または変性した樹脂等を適宜使用することができる。
また、溶剤または希釈剤としては、塗料成分を完全に溶解させることができるものであれば特に限定されないが、例えばジエチルエーテル、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150等の使用が推奨される。
更に、塗料中には、本発明の作用を損なわない範囲で公知の添加剤を使用することができ、例えばシリカ、潤滑剤、架橋剤、ワックス、防錆顔料、艶消し剤、着色顔料、界面活性剤等を添加しても良い。
この様な構成からなる上塗り塗膜の膜厚は10〜25μm、より好ましくは15〜18μmの範囲にすることが望ましい。上塗り塗膜の膜厚が10μm未満では隠蔽性不足となって透けの問題が現われ、逆に25μmを超えて厚くなり過ぎると塗膜にワキや窪みが生じ易くなる。
(5)金属板
本発明に用いられる金属板としては、表面被覆金属板に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、軟鋼やステレス鋼板を始めとする各種合金鋼板;Al・Al合金板、Cu・Cu合金板、Ti・Ti合金板等の金属板に、各種めっき(Zn・Zn合金めっき、Al・Al合金めっき、Cu系めっき、Ni系めっき、Cr系めっき等)が施されためっき金属板が挙げられる。具体的には、例えば、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、Al5%−Zn合金めっき鋼板、Al55%−Zn合金めっき鋼板等が例示される。なかでも、めっき付着量の多い溶融亜鉛めっき鋼板、めっき層が硬い合金化溶融亜鉛めっき鋼板の使用が特に推奨される。これらのめっき金属板に、皮膜密着性や耐食性の向上を目的として、リン酸塩処理、クロメート処理等の化成処理を施した金属板も本発明の範囲内に包含される。
尚、金属板として亜鉛めっき鋼板を使用する態様は、犠牲防食機能によって様々な要因による鋼板の局部腐食を防止する上で極めて有用であり、電気めっき、溶融亜鉛めっき、置換めっき等めっき手法の如何は問わないが、機能を有効に発揮させるには、片面当りの付着量で45g/m2以上とすることが推奨される。
最後に、本発明の金属板を製造する方法について説明する。
本発明のプレコート金属板は、上記金属板に、前述したノンクロメート系下地処理を施した後、前述した下塗り塗料組成物を適切な厚さで塗布して下塗り塗膜を形成し、その上に上塗り塗料組成物を塗布し乾燥することによって得られる。
具体的にはまず、前述した下塗り塗料用組成物を金属板上に塗布し、硬化乾燥して下塗り塗膜を形成する。詳細には、下塗り塗料用組成物をロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、静電塗装機、ハケ、ブレードコーター、ダイコーター等で所定の膜厚になる様に塗装した後、常温放置するか、若しくは、熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉、遠赤外線炉、エネルギー線硬化炉等で硬化乾燥する。
次に、上塗り塗膜を被覆するが、上記の凹凸模様形成用塗料を用いて上塗り塗膜を形成するに当たっては、特に風速を0.1m/s以上(好ましくは1m/s以上)に制御しつつ、脂肪族飽和炭化水素の沸点以上、樹脂の分解温度未満に加熱して造膜する。
尚、風速の上限は特に限定されないが、高くなると、塗装後の塗装表面に塗料の流れ欠陥等が発生することから、20m/s以下、より好ましくは10m/s以下に制御することが推奨される。
更に上記方法では、脂肪族飽和炭化水素の沸点以上、樹脂の分解温度未満に加熱し、乾燥することが必要である。この様な条件で造膜すると、造膜過程では塗膜表面から脂肪族飽和炭化水素が分離して所望の凹凸模様が形成されると共に、焼付け後の塗膜中からは脂肪族飽和炭化水素が除去される為、加工性の優れた塗装金属板が得られる。
尚、その他の要件については特に限定されず、上記成分を含む塗料を、公知の塗装方法で原板の表面に塗布し、乾燥して製造することができる。例えば表面を清浄化して、必要に応じて化成処理(例えばリン酸塩処理、クロメート処理等)を施した長尺金属帯表面に、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等を用いて塗料を塗工し、上記条件で熱風乾燥炉を通過させて乾燥させれば良い。被膜厚さの均一性や処理コスト、塗装効率等を総合的に勘案して実用上好ましいのは、ロールコーター法である。
この様にして得られる塗装金属板は、ユズ肌外観と呼ばれる独特の凹凸模様が形成されており、耐食性、耐水性、及び加工性に優れているので極めて有用である。ここで、ユズ肌外観とは、一般に、3次元粗さ測定器で測定した場合、凹凸の深さが概ね1〜5μm程度で、凹凸の間隔が1〜5mmを満足するものを総称していうが、本発明における凹凸模様は、上記ユズ肌外観に限定されず、他の凹凸模様も包含される。例えば凹凸の深さがより深い10μm前後で凹凸の間隔が10mm前後を有する凹凸模様等も本発明の範囲内に含まれる。本発明における好ましい凹凸模様とは、凹凸の深さが約3μmで、凹凸の間隔が約3〜5mmのものである。
上記凹凸模様は、上記SP値の差を適切に制御する等の方法によって変化させることができる。例えば上記SP値の差を、概ね、1〜3の範囲に制御することによって、所望の凹凸模倣を得ることができる。一方、凹凸の深さが1〜5mm程度で、凹凸の間隔が1〜5mmを満足する模様を得る為には、SP値の差を概ね2〜3の範囲に制御することが推奨される。
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本願発明に含まれる。尚、各実施例において「部」及び「%」はいずれも、質量基準である。
実施例1…樹脂組成についての検討(その1)
本実施例では、下塗り塗膜に添加する樹脂の分子量が、耐食性、耐水性、及び加工性に及ぼす影響について調べた。
本実施例で使用した下塗り塗膜用塗料組成物、及び上塗り塗膜用塗料組成物の詳細は夫々、以下の通りである。
(1)下塗り塗膜用塗料組成物
以下に示す(1−1)、(1−2)、(1−3)、及び(1−4)の各成分を固形分換算で、混合比率が39部:11部:35部:15部となる様に配合し、下塗り塗膜用の塗料組成物とした。
(1−1)樹脂
樹脂A(数平均分子量、メーカー名):15,000(大日本インキ工業株式会社製SUPERベッコライトM−6801−30)、18,000(東洋紡績株式会社製バイロン530)、19,000(東洋紡績株式会社製バイロン560)、23,000(東洋紡績株式会社製バイロン300)、28,000(東洋紡績株式会社製バイロン550)
樹脂B(数平均分子量、メーカー名):3,000(東洋紡績株式会社製バイロン220)、7,000(東洋紡績株式会社製バイロンGK130)、13,000(東洋紡績株式会社製バイロンGK190)、15,000(大日本インキ工業株式会社製SUPERベッコライトM−6801−30)、18,000(東洋紡績株式会社製バイロン530)
(1−2)架橋剤
メラミン系樹脂(三井サイテック株式会社製「サイメル325」)及びエポキシ系樹脂(ジャパン・エポキシレジン(株)製「ユピコート1001」)を、25部:3部の混合比率で使用。
(1−3)防錆顔料
シリカ系防錆剤としてイオン交換シリカ(GRACE Davision製「シールデックス C303」、及びリン酸塩系防錆剤としてトリポリリン酸アルミニウム(テイカ製「テイカK−WHITE G105」)を、3部:32部の混合比率で使用。
(1−4)体質顔料
二酸化チタン(テイカ株式会社社製「JR−603」及びシリカ系体質顔料(丸尾カルシウム株式会社社製「クレイ1号」)を14.5部:0.5部の混合比率で使用。
(2)上塗り塗膜用塗料組成物
脂肪族炭化水素として、パラフィン(和光試薬製、融点:40〜42℃)を用い、キシレンで溶解した溶液(濃度50質量%)を塗料(塗料樹脂として、大日本インキ社製SRF34を使用)中に分散させたものを上塗り塗膜用の塗料組成物とした。
次に、溶融亜鉛めっき鋼板(板厚:0.8mm、めっき付着量:片面60g/m2)の表面に、ノンクロメート系下地処理材として、日本パーカーライジング社製の商品名「CT−E220」)を100mg/m2付着させた亜鉛めっき鋼板を準備し、当該亜鉛めっき鋼板上に、上記の下塗り塗膜用の塗料組成物及び上塗り塗膜用の塗料組成物をバーコーターで塗装することにより、種々のノンクロメート系プレコート鋼板を得た(下塗り塗膜の膜厚10μm、上塗り塗膜の膜厚17μm)。尚、下塗り塗料の塗装・焼付け条件は、到達板温度210℃で50秒間であり、上塗り塗料の塗装・焼付け条件は、焼付温度215℃、焼付時風速5m/s、焼付時間50秒とした。
この様にして得られた各プレコート鋼板はいずれも、極めて良好なユズ肌外観が得られている(表には示さず)。上記プレコート鋼板について、下記の方法により、耐食性、耐水性、及び加工性を測定し評価した。
[耐食性]
各プレコート鋼板について、JIS−Z−2371に規定の塩水噴霧試験(SST)を700時間行い、端面とクロスカット部の膨れ幅を測定し、以下の基準で相対評価した。
端面
◎:膨れ幅が2mm以下
○:膨れ幅が2mm超、3mm以下
×:膨れ幅が3mm超
クロスカット
◎:膨れ幅が1mm以下
○:膨れ幅が1mm超、2mm以下
×:膨れ幅が2mm超
[耐水性]
各プレコート鋼板について、耐水性試験用の試験片(50mm×120mm)を調製し、60°のクロスカットを入れて40℃の温水中に1000時間浸漬し、浸漬後(引上げ直後)の塗膜外観を目視観察し、ASTM D714に記載のブリスターランクに基づき、評価した。尚、以下のランク付において、「2、4、6、8」の算数字はブリスターの大きさ(サイズ)を意味し、数字が小さい程、ブリスターのサイズが大きいことを意味しており;一方、「F、M、MD、D」のローマ字記号はブリスターの集積密度を意味し、DからFに向かう程、密度が小さくなる(細かい)ことを意味している。
◎:ブリスターなし
○:ブリスター発生小(8F)
×:ブリスター発生大(8F未満;即ち、2F、2M、2MD、2D、4F、4M、4MD、4D、6F、6M、6MD、6D、8M、MD、8D)
[加工性]
各プレコート鋼板を縦50mm×横50mmの大きさに切断し、各鋼板の塗装面を外側にして折曲げ、室温(20℃)下にて万力で180°(0T加工)折曲げ加工した後、折曲げ部を目視若しくは10倍のルーペで観察し、塗膜に生じたクラックの状態を下記基準で評価した。
◎:クラックの発生なし
(目視観察及び10倍ルーペ観察のいずれにおいても認められず)
○:クラックの発生なし
(目視ではクラックは観察されなかったが、10倍ルーペで観察すると
クラックの発生が認められた)
X:クラック有り
(目視確認のみでも、クラックの発生が認められた)
これらの結果を表1に併記する。
Figure 0004608233
まず、No.1〜6は、樹脂Aと樹脂Bの数平均分子量の範囲が夫々、本発明の範囲を満足する本発明例であり、耐食性、耐水性、及び加工性の全てに優れたユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板が得られている。
これに対し、No.7は、樹脂Bについて、数平均分子量の範囲が小さい樹脂を用いた比較例;No.9は、樹脂Aについて、数平均分子量の範囲が小さい樹脂を用いた比較例であり、いずれも、耐水性は極めて良好であるが、加工性、及びクロスカット部の耐食性が低下している。この様な組成の鋼板は、樹脂の架橋密度が大きくなることから、耐水性向上には有効に作用する反面、塗膜硬度が大きくなる(硬くなる)為、加工性が低下する他、防錆顔料の溶出量も少なくなって防錆顔料添加による作用が有効に発揮されないものと思料される。
また、No.8は、樹脂Bについて、数平均分子量の範囲が大きい樹脂を用いた比較例;No.10は、樹脂Aについて、数平均分子量の範囲が大きい樹脂を用いた比較例であり、いずれも、加工性及び耐食性は極めて良好であるが、耐水性が低下している。この様な組成の鋼板は、樹脂の架橋密度が小さく塗膜硬度も小さくなる(柔らかくなる)為、加工性は向上し、防錆顔料の溶出量も多くなって防錆顔料添加による作用も有効に発揮される反面、架橋密度が小さい為に耐水性の低下をもたらしているものと思料される。
実施例2…樹脂組成についての検討(その2)
本実施例では、下塗り塗膜に添加する樹脂の混合比率が、耐食性、耐水性、及び加工性に及ぼす影響について調べた。
具体的には下塗り塗膜に使用する樹脂の混合比率を表2に記載の通り、種々変化させたこと以外は、実施例1と同様にしてユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板を製造し、種々の特性を評価した。
これらの結果を表2に併記する。
Figure 0004608233
まず、No.1〜3は、樹脂Aと樹脂Bの混合比率が本発明の範囲を満足する本発明例であり、耐食性、耐水性、及び加工性の全てに優れたユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板が得られている。
これに対し、No.4は、樹脂Aを添加しない比較例であり、耐水性は極めて良好であるが、加工性、及びクロスカット部の耐食性が低下している。樹脂Bのみでは、樹脂の架橋密度が大きくなることから、耐水性向上には有効に作用する反面、塗膜硬度が大きくなる(硬くなる)為、加工性が低下する他、防錆顔料の溶出量も少なくなって防錆顔料添加による作用が有効に発揮されないものと思料される。
また、No.5は、樹脂Bを添加しない比較例であり、加工性及び耐食性は極めて良好であるが、耐水性が低下している。樹脂Aのみでは、樹脂の架橋密度が低くて塗膜硬度が小さくなる(柔らかくなる)為、加工性は向上し、防錆顔料の溶出量も多くなって防錆顔料添加による作用も有効に発揮される反面、架橋密度が小さい為に耐水性の低下をもたらしているものと思料される。
参考例1…架橋剤についての検討
本参考例では、下塗り塗膜に添加する架橋剤(メラミン系樹脂とエポキシ系樹脂)の混合比率が、耐食性、耐水性、及び加工性に及ぼす影響について調べた。
具体的には下塗り塗膜用塗料組成物として、表3に記載の樹脂を使用し、且つ、架橋剤の混合比率を表3に示す通り種々変化させたこと以外は、実施例1と同様にしてユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板を製造し、種々の特性を評価した。
これらの結果を表3に併記する。
Figure 0004608233
No.1〜3は、架橋剤として用いたメラミン系樹脂とエポキシ系樹脂の混合比率が本発明の好ましい範囲を満足する例であり、耐食性、耐水性、及び加工性の全てに優れたユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板が得られている。
これに対し、No.4は、メラミン系樹脂に対してエポキシ系樹脂の添加比率が多い例であり、耐水性は極めて良好であるが、加工性、及びクロスカット部の耐食性が低下している。エポキシ系樹脂の添加量が多くなると、樹脂の架橋密度が大きくなることから、耐水性向上には有効に作用する反面、塗膜硬度が大きくなる(硬くなる)為、加工性が低下する他、防錆顔料の溶出量も少なくなって防錆顔料添加による作用が有効に発揮されないものと思料される。
また、No.5は、エポキシ系樹脂を添加しない例であり、加工性及び耐食性は極めて良好であるが、耐水性が低下している。メラミン系樹脂のみでは、樹脂の架橋密度が低くて塗膜硬度が小さくなる(柔らかくなる)為、加工性は向上し、防錆顔料の溶出量も多くなって防錆顔料添加による作用も有効に発揮される反面、架橋密度が小さい為に耐水性の低下をもたらしているものと思料される。
参考例2…防錆顔料についての検討
本参考例では、下塗り塗膜に添加する防錆顔料(シリカ系防錆顔料とリン酸塩系防錆顔料)の混合比率が、耐食性、耐水性、及び加工性に及ぼす影響について調べた。
具体的には下塗り塗膜用塗料組成物として、表4に記載の樹脂を使用すると共に、防錆顔料としてイオン交換シリカとトリポリリン酸アルミニウムを用い、表4に示す通り、混合比率を種々変化させたこと以外は、実施例1と同様にしてユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板を製造し、種々の特性を評価した。
これらの結果を表4に併記する。
Figure 0004608233
No.1〜3は、防錆顔料として用いたイオン交換シリカとトリポリリン酸アルミニウムの混合比率が本発明の好ましい範囲を満足する例であり、耐食性、耐水性、及び加工性の全てに優れたユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板が得られている。
これに対し、No.4は、シリカ系防錆剤を添加しない例であり、加工性及び耐水性は極めて良好であるが、クロスカット部の耐食性が低下している。これは、シリカ系防錆剤を添加しないと、特にクロスカット部において、耐食性向上に寄与する化合物(溶解度の低い腐食生成物)の生成が減少し、所望の耐食作用が有効に発揮されないものと思料される。
また、No.5は、リン酸塩系防錆剤に対してシリカ系防錆顔料の添加量が多い例であり、加工性及び耐食性は良好であるが、耐水性が低下している。これは、シリカ系防錆剤の添加量が多くなると、当該防錆剤の溶出量が多くなって塗膜部にブリスターが発生する為と思料される。
参考例3…体質顔料についての検討
本参考例では、下塗り塗膜に添加する体質顔料(シリカ系体質顔料と二酸化チタン)の混合比率が、耐食性、耐水性、及び加工性に及ぼす影響について調べた。
具体的には下塗り塗膜用塗料組成物として、表5に記載の樹脂を使用すると共に、表5に示す通り、体質顔料(シリカ系体質顔料と二酸化チタン)の混合比率を種々変化させたこと以外は、実施例1と同様にしてユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板を製造し、種々の特性を評価した。
これらの結果を表5に併記する。
Figure 0004608233
No.1〜3は、体質顔料の混合比率が本発明の好ましい範囲を満足する例であり、耐食性、耐水性、及び加工性の全てに優れたユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板が得られている。
これに対し、No.4は、二酸化チタンに比べてシリカ系体質顔料の添加量が多い例であり、耐食性及び耐水性は良好であるが、加工性が低下している。これは、二酸化チタンに比べてシリカ系体質顔料の比重が小さい為、シリカ系体質顔料の添加量が多くなると、体質顔料の嵩が高くなって加工性が劣化するものと思料される。
参考例4…下塗り塗膜の膜厚についての検討
本参考例では、下塗り塗膜の膜厚が、耐食性、耐水性、及び加工性に及ぼす影響について調べた。
具体的には下塗り塗膜用塗料組成物として、表6に記載の樹脂を使用すると共に、塗膜の膜厚を種々変化させる目的で、バーコートにて塗装するに当たり、バーの番手を変えて付着量を変化させたこと以外は実施例1と同様にしてユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板を製造し、種々の特性を評価した。
これらの結果を表6に併記する。
Figure 0004608233
No.1〜3、及び5は、下塗り塗膜の膜厚が本発明の好ましい範囲を満足する例であり、耐食性、耐水性、及び加工性の全てに優れたユズ肌調のノンクロメート系プレコート鋼板が得られている。
これに対し、No.4は、下塗り塗膜の膜厚が3μmと薄い例であり、加工性及び耐水性は極めて良好であるが、端面部及びクロスカット部の耐食性がいずれも低下している。これは、下塗り塗膜の膜厚が薄いと所望の防錆作用が有効に発揮されない為である。

Claims (4)

  1. 凹凸模様形成用ノンクロメート系プレコート金属板の製造に使用される下塗り塗膜用の塗料組成物であって、
    樹脂として、数平均分子量(Mn)が18,000〜25,000のポリエステル系樹脂Aと、数平均分子量(Mn)が5,000〜15,000のポリエステル系樹脂Bを、(1.0〜5.0):(9.0〜5.0)の質量比率で含有し、且つ、
    架橋剤として、メラミン系樹脂及びエポキシ系樹脂を含有し、
    メラミン系樹脂とエポキシ系樹脂を、固形分換算で、メラミン系樹脂100質量部に対し、エポキシ系樹脂を2〜20質量部の比率で含有することを特徴とする凹凸模様形成用ノンクロメート系プレコート金属板の製造用下塗り塗料組成物。
  2. 更に防錆顔料として、シリカ系防錆剤及びリン酸塩系防錆剤を含有し、
    シリカ系防錆剤とリン酸塩系防錆剤を、固形分換算で、リン酸塩系防錆剤100質量部に対し、シリカ系防錆剤4.5〜14.8質量部の比率で含有するものである請求項1に記載の下塗り塗料組成物。
  3. 更に体質顔料として、二酸化チタンを含有し、更にシリカ系体質顔料を含有しても良く、
    シリカ系体質顔料と二酸化チタンの混合比率は、固形分換算で、シリカ系体質顔料:二酸化チタン=0:15〜1:14である請求項1または2に記載の下塗り塗料組成物。
  4. ノンクロメート系下地処理皮膜に、下塗り塗膜、及び凹凸模様を形成する上塗り塗膜が被覆されたノンクロメート系プレコート金属板であって、
    該下塗り塗膜は、請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物から形成されるものであり、且つ、該下塗り塗膜の膜厚は7μm以上であることを特徴とする耐食性、耐水性、及び加工性に優れたノンクロメート系プレコート金属板。
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