JP4540259B2 - 懸架式防護堰 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、懸架式防護堰に関し、特に山間の谷部に架け渡されて土石流を堰き止める懸架式防護堰に関する。
【0002】
【従来技術】
従来より、山間の谷部には砂防ダムなどの種々の防護堰が構築されており、例えば、図6に示すように、ダム中央の溢流部102に格子状の防護柵103を設け、巨石や流木等を含む土石流を堰き止める砂防ダム101がある。しかし、このような砂防ダム101の場合、防護柵103が土石流の直撃を受けることにより損壊され、その防護柵103の損壊に伴って溢流部102の側部や河床部104も損傷を受け、その補修等に多くの手間や費用がかかることが問題となっていた。そこで、土石流などの直撃を緩衝して受け止める作用を有する防護堰として、例えば図7に示すように、ロープ状の防護ネット111を使用するものが提案されている。この防護堰110は、溢流部102の両側上部に亘って主索112を架設し、その主索112に複数の吊索113を所定間隔をおいて吊設して下端を河床部104に固定すると共に、これら複数の吊索112に複数の横索114を上下に間隔をおいて支持させることによって構成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような防護堰110には以下のような2つの問題点がある。
【0004】
第1の問題点としては、例えば、図7に示すように、この防護ネット111に巨石等が衝突して図中実線で示される吊索113aにのみ衝撃荷重が作用したとき、その吊索113aから他の吊索113へのエネルギ伝達は横索114によって行われるが、吊索113と横索114は直交しており、横索114には曲げ剛性がなく、土石流荷重Pが作用している箇所における横索114以外の横索114は、弛んでしまうことから、横索114による他の吊索113へのエネルギ伝達がなされず、ネット特有の弾力による応力の分散効果を得ることはできなかった。
【0005】
また、吊索113と横索114は、交差部分で締結金具によって互いに締結されていることから、締結金具115における吊索113と横索114の局部変形が大きく、その交差部分に局部的に大きな力が作用して、かかる箇所で切断される場合があった。
【0006】
第2の問題としては、従来の防護ネット111は、図8に示すように、主索112からほぼ垂直に延在するように吊設されて溢流部102の河床部104に固定されている。従って、防護ネット111に土石流が衝突して図中点線で示される位置まで移動した場合、土石流荷重Pによって、吊索113には大きな張力T′が作用し、主索112及び吊索113がその張力T′に耐えることができずに切断される場合があった。
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、土石流と衝突した際に、その衝撃エネルギを適切に吸収して土石流を確実に堰き止めることができる懸架式防護堰を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する請求項1に記載の懸架式防護堰の発明は、山間の谷部に架け渡されて土石流を堰き止める懸架式防護堰において、山間の谷部に架け渡されて土石流を堰き止める懸架式防護堰において、谷部の両側上部間に架け渡した主索と、該主索に所定間隔をおいて吊設した吊索と、該吊索の下端に上部が結合され、下部が谷底に固定されて張設された、多数のリング部材を相互に連結して網状に構成されたリングネットと、を有することを特徴とする。この発明によれば、土石流の衝突により、リングネットの一部のリング部材に土石流荷重が作用した場合に、その力は、円滑に他のリング部材に伝達され、リングネット全体に分散される。また、リング部材は、円形状を有していることから、例えばロープ部材と比較した場合にその変形領域は著しく広い。従って、同じ荷重が加えられた場合に、ローブ部材はすぐにテンションがかかり、材料自体の伸びが始まるが、リング部材は、外形が円形状から徐々に変化して、これ以上変化することができない形状まで変形してから、材料自体の伸びが始まる。従って、荷重による力を受けた場合に、その広い変形領域によって高度の緩衝作用を発現する。従って、その衝撃エネルギを適切に吸収して、土石流を確実に堰き止めることができる。更に、土石流を捕捉して満砂後に、リングネットの上部から溢れ出した後続の土石流を主索とリングネットとの間を通過させ、土石流と主索との直接の接触を防止して主索の摩耗を防ぎ、主索の切断による防護堰の決壊を防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の懸架式防護堰において、前記吊索を吊設する所定間隔は、前記リング部材の直径よりも長い間隔とされたことを特徴とする。このような間隔で吊索を吊設すれば、満砂後の後続の土石流を確実に通過させることができる。請求項3に記載の発明は、前記リング部材の直径は、0.6〜1.5mであることを特徴とする。リング部材がこの直径であるリングネットによれば、確実に土石流を堰き止めることができる。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の懸架式防護堰において、リングネットが、それぞれ隣り合うリング部材の内周面側が接触するようにリング部材を相互に連結することによって構成されていることを特徴とする。この発明によれば、リング部材同士の接点箇所を荷重の大きさや方向に応じて自由に移動させることができる。従って、土石流荷重による力を他のリング部材に均一かつ円滑に伝達することができ、その衝撃エネルギを適切に吸収することができる。また、リング部材同士の移動の自由度が高いことから、リング部材の剛性を高く設定した場合でも、リングネット自体の剛性を低くすることができ、リングネットの変形を容易ならしめ、その運搬作業や施工作業の容易化を図ることができる。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の懸架式防護堰において、リングネットが、主索から下方に移行するに従って谷部の下流側に漸次移行するように傾斜して設けられたことを特徴とする。この発明によると、リングネットを下端が上端よりも下流側に位置するように上下方向に傾斜して設けることによって、土石流捕捉時の水平荷重を分力して受け止めることができる。従って、土石流を確実に堰き止めることができる。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の懸架式防護堰において、リングネットが、谷部の谷底で折り返されて上流側に向かって所定長さ延在する姿勢状体に配置されたことを特徴とする。この発明によれば、リングネットの面積をより大きく確保することができ、その衝撃吸収能力を更に増大させることができる。また、谷底に固定する固定部の面積を増大させることができ、より強固に設置することができる。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の懸架式防護堰において、リングネットが、リングネットの側端から谷部の上流側に向かって延在し、上流部で谷部の互いに対向する両傾斜面に固定される補助ネットを有することを特徴とする。この発明によると、土石流を捕捉した際に、リングネットの側部と渓岸との間に土砂を積極的に堆積させて閉塞することができる。従って、土石流がリングネットに捕捉されて満砂後に、後続の土石流が左右の渓岸に回り込んで、山脚を抉り取るのを防止することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。尚、本実施の形態における懸架式防護堰10は、砂防ダム1に設けた場合を例に説明するが、山間の谷部に直接設置しても良い。
【0016】
図1は、懸架式防護堰10の構成説明図、図2は、懸架式防護堰10の設置状態を示す図、図3は、その平面図、図4は、図3のX−X線断面矢視図、図5は、リング部材の変形状態を説明する図である。
【0017】
懸架式防護堰10は、砂防ダム1の上部両側でアンカー17によって固定されている基礎4の間に架設される主索11と、主索11に吊設された複数の吊索12と、吊索12の下端に支持されるリングネット13と、リングネット13の両側の側部にそれぞれ結合された補助ネット14と、リングネット13の端部に接続され溢流部2の河床部3に沿って下流から上流に向かって敷設される敷設部15とを備えている。
【0018】
主索11は、土石流荷重Pを充分に受け止めることができる強度を有したワイヤロープ等によって構成されており、中央部が弛むように架設されている。この主索11に吊設される吊索12は、リングネット13の直径よりも大きく、土石流を通過させることができる間隔を互いに有して設けられている。そして、硬質のパイプ部材によって構成されたシールドパイプ(図示せず)によって被装されており、土石流との当接による摩耗が防止されている。
【0019】
リングネット13は、リング部材16を互いに隣り合うリング部材16の内周面側が接触するように相互に連結して網状に構成したものである。リング部材16は、高強度の硬鋼線を複数回リング状に捲回し、周方向に所定間隔をおいて複数箇所を結束手段で結束することによって構成されている。本実施の形態では、Φ4mmの硬鋼線を直径が0.6〜1.5mのリングを形成するように15〜25回捲くことによって構成されているが、その大きさや捲き数などは、要求される衝撃エネルギの吸収力や堰き止める石や流木の大きさ等に応じて適宜変更することができる。このリングネット13は、通常に拡げた状態において、溢流部2の中央から下側を閉塞すると共に下端で上流に向かって折曲されて河床部3に沿って所定長さ延在する面積を有するように構成されている。
【0020】
そして、リングネット13の側部両側には、図1に示すように、補助ネット14が結合されている。補助ネット14は、リングネット13の側部に連続して溢流部2の互いに対向する側壁面5に沿って上流側に延在するように配置され、リングネット13が土石流を捕捉した際に、リングネット13の側部と側壁面5との間に土砂を積極的に堆積させて閉塞するものであり、その網目は、リング部材16のリング径よりも小さい大きさに形成されている。
【0021】
敷設部15は、リングネット13を河床部3に固定するものであり、土石流による引張荷重に耐えることができる強度を有している。本実施の形態では、リング部材16のリング径よりも大きな網目を有する網状体によって構成されているが、他の構成でも良く、例えばリングネット13で構成しても良い。
【0022】
敷設部15は、アンカーピンUによって河床部3に固定される。アンカーピンUは、予想される土石流の規模に応じて、その数量及び長さが適宜調整される。アンカーピンUの代わりに、若しくはアンカーピンUと併用して河床部3等に埋め込んだアンカーに敷設部15の先端部を固定しても良い。
【0023】
上記構成を有する懸架式防護堰10は、図2乃至図4に示すように、基礎4の間に主索11が架設されて、リングネット13が主索11から吊索12を介して下方に移行するに従って漸次上流側から下流側に移行するように傾斜して主索11と河床部3との間に張設され、河床部3で上流側に向かって折り返されて所定長さ延在するように配置される。そして、補助ネット14が溢流部2の側壁面5に沿って上流側に延在するように固定され、敷設部15が河床部3に沿って上流側に延在するように固定されて敷設される。尚、図3で符号17は、基礎4を固定するために谷部両側の地山に埋め込まれるアンカーである。
【0024】
上記懸架式防護堰10によれば、土石流の衝突により、図2のリング部材16aに土石流荷重Pが加えられた場合に、その力は、リング部材16aに内周面側が接触するように相互に連結されているリング部材16bとリング部材16cに伝達される。そして、更にリング部材16bとリング部材16cに内周面側が接触するように相互に連結されている他のリング部材16d、リング部材16e、リング部材16fに伝達される。このように、土石流荷重Pによる力は、リング部材16aを中心として漸次拡がるように円滑に他のリング部材16に伝達され、リングネット13全体に分散される。
【0025】
また、リング部材16は、円形状を有していることから、図5に示すように、引張方向に容易に変形することができ、例えば従来のロープ部材と比較した場合にその変形領域は著しく広い。例えば、同じ荷重が加えられた場合に、ロープ部材はすぐにテンションがかかり、材料自体の伸びが始まるが、リング部材16は、外形が円形状から徐々に変化して、これ以上変化することができない形状まで変形してから、材料自体の伸びが始まる。従って、荷重による力を受けた場合に、その変形領域の広さによって高度の緩衝作用を発現する。従って、その衝撃エネルギを適切に吸収して、土石流を確実に堰き止めることができる。
【0026】
更に、リング部材16は、リング部材16同士の接点箇所を荷重の大きさや方向に合わせて自由に移動させることができるので、荷重Pによる力を他のリング部材16に均一に伝達することができる。尚、図5の点Gは、変形前の交差箇所を示しており、同図(b)に示されるように変形後は交差部分が移動していることがわかる。
【0027】
また、内周面側が接触するように相互に連結されていることから、リング部材16同士の移動の自由度が高い。従って、リング部材16の剛性を高く設定した場合でも、リングネット16自体の剛性を低くすることができ、変形を容易ならしめ、運搬作業や施工作業の容易化を図ることができる。
【0028】
また、リングネット13は、主索から下方に移行するに従って漸次上流側から下流側に移行するように傾斜して設けられているので、土石流の捕捉時にリングネット13に付加される水平方向の荷重Pを分力して受け止めることができる。従って、吊索12の張力Tを小さくすることができ、その負担を軽減することができる。更に、リングネット13の端部を河床部3で上流側に折り返して所定長さ上流側に向かって延在するように設けたことから、リングネット13の面積をより広く確保することができる。従って、荷重Pを受けた際に、より大きな変形を生じさせることが可能となり、衝撃エネルギの吸収能力をより高めることができる。そして、河床部3への固定面積を広く確保することができ、必要に応じてより強固に固定することができる。
【0029】
また、主索11とリングネット13との間に吊索12を介在させたことにより、例えば土石流を捕捉して満砂後に、リングネット13の上部から溢れ出した後続の土石流を主索11とリングネット13との間を通過させることができる。これにより、土石流が主索11に当接するのを防止して主索11の摩耗を防ぎ、主索11の切断によって懸架式防護堰10全体が決壊するのを防ぐことができる。その際、吊索12は、シールドパイプによって被装されていることから、土石流との当接による摩耗が防止され、リングネット13の上部を適切に支持することができる。
【0030】
また、補助ネット14を設けているので、リングネット13が土石流を捕捉した際に、リングネット13の側部と溢流部2の側壁面5との間に土砂を積極的に堆積させて閉塞することができる。従って、土石流がリングネット13に捕捉されて満砂後に、後続の土石流がリングネット13の側部から流出するのを防止することができる。
【0031】
特に、この懸架式防護堰10を砂防ダム1の溢流部2ではなく、山間の谷部に直接設置した場合、例えば谷部の上部両側に基礎4を設置し、主索11を架設して谷部にリングネット13を設けた場合に、土石流による満砂後に、後続の土石流がリングネット13の側部から左右の谷部渓岸に回り込んで、山脚を抉り取りながら流出するといった事態の発生を確実に防止することができる。
【0032】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施の形態では、主索11とリングネット13との間に吊索12を介在させ、また、補助ネット14を設けた例を示したが、これらは状況によっては必ずしも必要ではなく、例えば大規模な土石流が発生しない場所である場合には、設けなくて良い。
【0033】
また、主索11及び吊索12に、別個にブレーキ装置を設けても良い。ブレーキ装置とは、主索11や吊索12の一部をリング状に弛ませた状態で結束し、予め設定されている以上の引張荷重が加えられた場合に、結束部分がずれて、弛み分だけ軸方向に移動させるものである。これによれば、懸架式防護堰10に与えられる衝撃エネルギをより一層緩和してすることができる。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る懸架式防護堰によれば、土石流の衝突により、リングネットの一部のリング部材に土石流荷重が作用した場合に、その力を円滑に他のリング部材に伝達し、リングネット全体に分散することができる。また、リング部材は、その円形状により引張方向に容易に変形することができ、広い変形領域を有するので、荷重による力を受けた場合に、その変形領域の広さによって高度の緩衝作用を発現することができる。従って、その衝撃エネルギを適切に吸収して、土石流を確実に堰き止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】防護堰の構成説明図である。
【図2】防護堰の設置状態を示す図である。
【図3】防護堰の平面図である。
【図4】図3のX−X線断面矢視図である。
【図5】リング部材の変形状態を説明する図である。
【図6】従来技術を説明する図である。
【図7】従来技術を説明する図である。
【図8】従来の防護堰に作用する荷重を説明する図である。
【符号の説明】
1 砂防ダム
2 溢流部(谷部)
3 河床部(谷底)
4 基礎
5 側壁面
10 懸架式防護堰
11 主索
12 吊索
13 リングネット
14 補助ネット
15 敷設部
16 リング部材
Claims (7)
- 山間の谷部に架け渡されて土石流を堰き止める懸架式防護堰において、
谷部の両側上部間に架け渡した主索と、
該主索に所定間隔をおいて吊設した吊索と、
該吊索の下端に上部が結合され、下部が谷底に固定されて張設された、多数のリング部材を相互に連結して網状に構成されたリングネットと、
を有することを特徴とする懸架式防護堰。 - 前記吊索を吊設する所定間隔は、前記リング部材の直径よりも長い間隔とされたことを特徴とする請求項1に記載の懸架式防護堰。
- 前記リング部材の直径は、0.6〜1.5mであることを特徴とする請求項1又は2に記載の懸架式防護堰。
- 前記リングネットは、リング部材をそれぞれ隣り合うリング部材の内周面側が接触するように相互に連結することによって構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の懸架式防護堰。
- 前記リングネットは、前記主索から下方に移行するに従って漸次前記谷部の下流側に移行するように傾斜して設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の懸架式防護堰。
- 前記リングネットは、前記谷部の谷底で折り返されて前記上流側に向かって所定長さ延在する姿勢状体に配置されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の懸架式防護堰。
- 前記リングネットは、前記リングネットの側端から前記谷部の上流側に向かって延在し、上流部で前記谷部の互いに対向する両傾斜面に固定される補助ネットを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の懸架式防護堰。
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