JP4535645B2 - 接着細胞選別装置、細胞増殖能評価装置、それらのプログラム及びそれらの方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、接着依存性細胞を含有する培養容器内において培養容器に接着している細胞と接着していない細胞とを選別する接着細胞選別装置、そのプログラム及びその方法、並びにその方法を利用した細胞増殖能評価装置、そのプログラム及びその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒト皮膚組織から分離した角化細胞(keratinocyte)の増殖過程を概説すると、角化細胞は当初培養容器の培地中に浮遊しているが、経時と共に培養容器の底面に接着し、接着した後はその接着面積を伸展させていき、その後細胞分裂を起こして増殖していく。なお、ほぼコンフルエントな状態に至った後は培養容器の底面から剥離されて継代が行われる。
【0003】
ところで、接着依存性細胞の細胞増殖能はどの細胞も一定というわけではない。例えば、採取された組織から細胞を分離するための分離操作や培養容器の底面から細胞を剥離させる剥離操作などにより細胞がダメージを受けると、そのダメージの程度に応じて細胞増殖能は異なる。また、細胞が採取される個体や採取箇所等が異なることによっても、細胞増殖能は変化する。このような細胞増殖能を評価する際、培養容器の培地中に浮遊している細胞が培養容器の底面に接着するまでの時間を指標とすることがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、細胞が培養容器底面に接着するまでの時間を細胞増殖能の評価の指標とするためには、時間経過に伴って細胞の接着状況を逐次把握する必要がある。このため、培養容器をリンスしたあと残っている細胞をカウントするという手法では経時的に測定することができないので相応しくなく、熟練者が培養容器を外から観察して培養容器底面に接着している細胞の数をカウントする手法が相応しいと考えられる。
【0005】
しかしながら、熟練者による作業は経験に頼るところが大きいため誰でも実施できるというものではなく、経験の少ない者が実施することは困難だった。また、作業者による手作業では時間や手間が掛かるため、測定には限度があり、作業者の負担にもなる。
【0006】
本発明は上記問題点を解決することを課題とするものであり、熟練を要さずに細胞が接着したか否かを容易に選別でき、作業者の負担を軽減できる接着細胞選別装置、そのプログラム及びその方法を提供することを目的の一つとする。また、熟練を要さずに細胞増殖能を容易に評価できる細胞増殖能評価装置、そのプログラム及びその方法を提供することを別の目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
本発明の接着細胞選別装置は、培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積を算出する投影面積算出手段と、前記投影面積算出手段によって算出された投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別する選別手段とを備えたものである。この装置では、培養容器内の個々の接着依存性細胞が培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別する。この装置によれば、特別な熟練を要することなく接着細胞と未接着細胞とを容易に選別できる。
【0008】
ここで、「接着依存性細胞」とは、まず培養容器の底面に直接接着するか又は細胞外マトリックスを介して間接的に接着し、次いでその接着面積が広がっていき、その後細胞分裂する細胞のことをいう。例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル等の温血動物から採取された種々の細胞が挙げられる。この温血動物の細胞としては、例えば、角化細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞若しくは間質細胞、又はこれら細胞の前駆細胞、幹細胞若しくは接着依存性のガン細胞が挙げられる。また、胚性肝細胞を使用することもできる。或いは、エリスロポエチン、成長ホルモン、顆粒球コロニー刺激因子、インスリン、インターフェロン、血液凝固第VIII因子等の血液凝固因子、グルカゴン、組織プラスミノーゲンアクチゲーター、ドーパミン、ガン遺伝子、ガン抑制遺伝子等をコードする外来遺伝子を前記細胞に導入し、それらの遺伝子を種々のプロモータを用いて強制的に又は特定の条件下で発現させるように構成した形質転換細胞を使用してもよい。また、細胞外マトリックスとしては、例えば、インテグリン、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖タンパク質等が挙げられる。
【0009】
また、「培養容器」としては、細胞が培養できるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等の合成樹脂、ヒドロキシアパタイトセラミックス、アルミナセラミックス、ガラス等から構成されたものが好適に使用される。
【0010】
本発明の接着細胞選別装置において、前記選別手段は、接着依存性細胞が前記培養容器に実際に接着しているときの投影面積を経験的に求めることによって得られた閾値と前記投影面積算出手段によって算出された投影面積とを比較することにより、個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別するように構成してもよい。こうすれば、個々の接着依存性細胞の投影面積と閾値とを比較して、例えば投影面積が閾値以下又は閾値未満ならば未接着細胞、投影面積が閾値以上又は閾値を上回るならば接着細胞という具合に選別できる。
【0011】
本発明の接着細胞選別装置において、前記培養容器を照らすことにより前記培養容器内の個々の接着依存性細胞を前記底面に投影させる照明手段と、前記照明手段によって前記培養容器が照らされているときに前記培養容器を下方から撮影することにより前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記底面に投影されたときの投影画像を得る撮影手段とを備え、前記投影面積算出手段は、前記撮影手段によって得られた投影画像に基づいて個々の接着依存性細胞の投影面積を算出するように構成してもよい。こうすれば、個々の接着依存性細胞の投影画像を容易且つ安価に得ることができ、ひいては本装置全体のコストを低く抑えることができる。
【0012】
本発明の接着細胞選別装置において、前記選別結果に基づいて接着細胞数を算出し、該接着細胞数に基づいて細胞接着率を算出する接着率算出手段を備えて構成してもよい。こうすれば、細胞接着率に基づいて細胞増殖能を評価できる。なお、細胞接着率は(接着細胞数/全細胞数)で表されるが、全細胞数としては初期細胞数つまり播種細胞数を用いてもよいし、接着細胞数と未接着細胞数との和を用いてもよい。
【0013】
コンピュータを、上述の接着細胞選別装置を構成する投影面積算出手段及び選別手段(接着細胞選別装置が構成要素として接着率算出手段を備えているときには接着率算出手段も含む)として機能させるためのプログラムは、通常、コンピュータのCPUによって読み出すことが可能なCD−ROMやHDD等の記録媒体に記録され、そこからCPUによって読み出されて実行される。このため、このようなプログラムは上述した接着細胞選別装置の作用効果を発揮するために用いられ、有用性が高い。
【0014】
本発明の接着細胞選別方法は、培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別するものである。こうすれば、特別な熟練を要することなく接着細胞と未接着細胞とを容易に選別できる。
【0015】
本発明の接着細胞選別方法において、培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積を、接着依存性細胞が前記培養容器に実際に接着しているときの投影面積を経験的に求めることによって得られた閾値と比較することにより、個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別してもよく、こうすれば、個々の接着依存性細胞の投影面積と閾値とを比較して、例えば投影面積が閾値以下又は閾値未満ならば未接着細胞、投影面積が閾値以上又は閾値を上回るならば接着細胞という具合に選別できる。
【0016】
本発明の接着細胞選別方法において、前記培養容器が照明で照らされているときに該培養容器を下方から撮影することにより前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記底面に投影されたときの投影画像を得、該投影画像に基づいて前記投影面積を算出してもよい。こうすれば、個々の接着依存性細胞の投影画像を容易且つ安価に得ることができ、ひいては本方法全体を低コストで実施できる。
【0017】
本発明の細胞増殖能評価方法は、上述の接着細胞選別方法により前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別し、その選別結果に基づいて前記培養容器内の接着依存性細胞の集団としての細胞増殖能を評価するものである。一般に培養開始から短時間のうちに培養容器に接着する細胞数が多いほど細胞増殖能が優れている。したがって、時間経過に伴う接着細胞数の推移から細胞増殖能を評価することができる。
【0018】
ここで、前記選別結果に基づいて、接着細胞数を算出し、該接着細胞数から得られる細胞接着率に基づいて前記細胞増殖能を評価してもよい。また、細胞増殖能を評価するにあたり、今回の細胞接着率と、経験的に求めることによって得られる細胞接着率の時間推移とを比較し、該比較結果に基づいて前記細胞増殖能を評価してもよい。
【0019】
本発明の細胞増殖能評価装置は、培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積を算出する投影面積算出手段と、前記投影面積算出手段によって算出された投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別する選別手段と、前記選別結果に基づいて接着細胞数を算出し、該接着細胞数に基づいて細胞接着率を算出する接着率算出手段と、該細胞接着率を経験的に求めることによって得られた細胞接着率の時間推移と比較する比較手段と、該比較結果に基づいて前記接着依存性細胞の集団としての細胞増殖能を評価する評価手段とを備えて構成されている。この評価装置によれば、上記細胞増殖評価方法を具現化できる。
【0020】
コンピュータを、上述の細胞増殖能評価装置を構成する投影面積算出手段、選別手段、接着率算出手段、比較手段及び評価手段として機能させるためのプログラムは、通常、コンピュータのCPUによって読み出すことが可能なCD−ROMやHDD等の記録媒体に記録され、そこからCPUによって読み出されて実行される。このため、このようなプログラムは上述した細胞増殖能評価装置の作用効果を発揮するために用いられ、有用性が高い。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は培養容器内の接着依存性細胞の状態を模式的に示す断面図、図2は個々の接着依存性細胞の接着(接触)面積の推移を表す模式的なグラフである。
【0022】
本発明の接着細胞選別装置及びその方法の一実施形態は、図1に示すように、培地12で満たされた培養容器13内において、接着依存性細胞(以下、細胞という)11を培養する際に、培養容器13の底面に接着している細胞(以下、接着細胞という)と、底面に接着していない細胞(以下、未接着細胞という)とを、培養容器13の底面への投影面積Paに基づいて選別するものである。また、細胞増殖能評価方法の一実施形態は、培養容器13内の個々の細胞が接着細胞か未接着細胞かを選別した選別結果に基づいて、その培養容器13内の細胞集団全体の増殖能力を定量的に評価するものである。
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。細胞11は、培養容器13の底面に直接又は細胞外マトリックスを介して接着することができると共に、その培養容器13の底面上で培養することができる性質を有する。この細胞11の培養過程は、図2に示すように、細胞接着期21,細胞誘導期22及び細胞増殖期23からなる3種のステージに分類される。
【0024】
細胞接着期21は、培地12と共に培養容器13内に播種された細胞11がその培養容器13の底面に接着した後からその底面上で平面的な細胞伸展を終了するまでの期間taである。この細胞接着期21の細胞11は、図1(a)に示すように播種直後には球状のまま培地12中で浮遊していた状態から、図1(b)に示すように細胞11の下端面が培養容器13の底面上に接着した後、図1(c)に示されるようにその接着位置で徐々に接着面積Saを増大させて扁平形状(平板状)に形を変化させる。そして、培養容器13の底面上における接着面積Saの増大が停止した時点で細胞接着期21は終了する。この細胞接着期21の細胞11は、播種するための細胞懸濁液を調製する際に加えられたダメージの程度に応じてその機能回復に時間を要することから、通常の細胞分裂とはやや異なる行動様式をとる。このようなダメージとしては、例えば採取された組織から細胞11を分離するための分離操作によるダメージや、培養容器13の底面から細胞11を剥離させるための酵素(プロティナーゼ等)処理によるダメージや、凍結保存された細胞11を培養温度に戻すための温度変化によるダメージ等が挙げられる。また、播種された細胞11の中には生存不能なものもみられる。このような生存不能な細胞や、ダメージを受けて機能回復に時間を要している細胞は、培養容器13の底面に接着しない状態で浮遊あるいは沈降し、未接着細胞として存在する。これに対し、生存細胞はダメージの程度にほぼ比例するように所定時間経過後に機能回復し、培養容器13の底面に接着する。
【0025】
細胞誘導期22は、細胞接着期21の終了後から第1回目の細胞分裂を完了するまでの期間である。この細胞誘導期22の細胞11は、培養容器13の底面に接着した後の新しい環境に順応するための期間であり、図1(d)及び(e)に示される細胞分裂直前の僅かな期間以外は、図1(c)に示される状態(培養容器13の底面上に扁平形状に接着した状態)のままで生存し、接着面積Saの増大はほとんど見られない。そしてこの細胞誘導期22の細胞(親細胞)11は、所定のラグタイムtlの後に、図1(f)に示されるような正常な第1回目の細胞分裂を完了して2個の娘細胞11aとなる。
【0026】
細胞増殖期23は、細胞誘導期22の終了後(第1回目の細胞分裂終了後)以降の期間である。この細胞増殖期23の細胞11は、図1(f)に示されるように、その細胞11(11a)の周囲に隣接する娘細胞11a等の接触細胞がない状況では、ほぼ一定の世代期間tg毎に細胞分裂を繰り返しながら増殖するが、接触細胞数の増大に伴って世代時間tgが徐々に長くなる。そして、培養容器13の底面がコンフルエント状態(培養容器13の底面全体が細胞11によって覆われている状態)になったところで、すなわち細胞11の周囲が接触細胞により完全に覆われたときに細胞分裂を停止する。図2に示されるように、この細胞増殖期23における各細胞11の接着面積Saは、細胞分裂の直後に急激に増大した後、所定時間の間、ほぼ一定の接着面積を維持し、次の細胞分裂の直前に急激に減少するという周期を繰り返す。
【0027】
さて、前述のように、細胞11は細胞接着期21の初期において培養容器13の培地12中で浮遊していた状態から培養容器13の底面に接着するが、細胞11が底面に接着するまでの時間は細胞11に加えられたダメージの程度や個体差に応じて変わるため、その時間や所定時間における接着細胞数(細胞接着率)を調べることにより細胞増殖能を評価することができる。そして、その時間や接着細胞数を調べるには、まず細胞11が底面に接着したか否かを選別する必要がある。ここでは、培養容器13内の細胞11を底面に投影したときの投影画像を撮影し、その投影画像から個々の細胞11の投影面積Pa(図1参照)を算出し、算出した投影面積Paと予め定めておいた閾値Tとを比較し、閾値Tを越える投影面積Paを持つ細胞11については底面に接着している接着細胞であるとみなし、閾値T以下の投影面積Paを持つ細胞11については底面に接着していない未接着細胞であるとみなす。これにより、外から培養容器13を観察した結果に基づいて、培養容器13内の個々の細胞11が接着しているか否かの選別ができ、特別な熟練を要することなく接着細胞と未接着細胞とを容易に選別できる。さらに、個々の細胞11の投影画像は例えばCCDカメラのような安価な装置で容易に得ることができる。
【0028】
前出の閾値Tは、細胞11が培養容器13の底面に実際に接着しているときの投影面積Paを経験的に求めることによって得られる。即ち、予め培養容器13の培地12を除去し底面を洗浄して未接着細胞を除去したあと、個々の細胞11の投影面積分布を求め、その投影面積値の最小値を閾値Tとすることができる。
【0029】
時間経過に伴って逐次培養容器13内の個々の細胞11について未接着細胞か接着細胞かを選別した結果から、培養容器13内の細胞11の集団としての細胞増殖能を評価できる。即ち、時間経過に伴う接着細胞数の推移を調べ、比較的短時間で接着細胞数が増加しているものは良好な細胞増殖能を有していると評価できる。また、特定の条件で経験的に得られる実験データに基づいて接着細胞数の平均的な推移を予め求めておき、測定時の選別結果と比較することによって、測定した細胞の細胞増殖能の良し悪しを評価することができる。
【0030】
以下、このような細胞増殖過程を有する細胞が培養容器13の底面に接着したか否かを選別する装置及び方法について説明する。図3は接着細胞選別装置の概略構成図である。
【0031】
この接着細胞選別装置30は、培養容器13内の細胞11を培養するためのインキュベータ31と、照明手段としてのLEDランプ36と、撮影手段としてのCCDカメラ37と、投影面積算出手段、選別手段及び接着率算出手段としてのコンピュータ40とを備えている。インキュベータ31は、培養容器13に対して温度、湿度、CO2濃度を調節可能な周知の装置であり、5%CO2含有エアをボンベ32から給湿器33を介して培養容器13内に供給するライン34と、培養容器13内からガスを排出するライン35とを備えている。LEDランプ36は、インキュベータ31内の天井付近に設置され、培養容器13を上方から照らすことにより、培養容器13内の個々の細胞11を培養容器13の底面に投影させるものである。CCDカメラ37は、インキュベータ31内の底部に設置された三次元ステージ38によって支持され、この三次元ステージ38によって上下・左右・前後に動かされる。このCCDカメラ37は、LEDランプ36によって培養容器13が照らされているときに培養容器13の下方から撮影することにより、培養容器13内の個々の細胞11が培養容器13の底面に投影されたときの投影画像を撮影し、その投影画像のデータをケーブル39を介してコンピュータ40へ送信する。コンピュータ40は、CCDカメラ37から入力された投影画像に画像解析処理を施し、画像解析処理後の投影画像に基づいて培養容器13内の個々の細胞11が底面に投影されたときの投影面積Paを算出し、その投影面積Paと閾値Tとを比較することにより、個々の細胞11が培養容器13の底面に接着しているか否かを選別する。
【0032】
投影面積Paは、例えば紀ノ岡らの論文(Biotech.Bioeng.,67,p234−239(2000))の画像解析手法を投影画像に施すことにより得られる。この場合、原画像に対して背景分離処理、ルックアップテーブル変換処理、平滑化処理、二値化抽出処理、孤立点除去処理、クロージング処理、穴埋め処理、エリア抽出処理、画素数計測処理の順に画像解析を行い、個々の細胞像を抽出し、各細胞の投影部分の画素数を計測し、この画素数に1画素当りの面積を乗算した値を投影面積Paとする。
【0033】
次に、この接着細胞選別装置30の動作について説明する。オペレータによりコンピュータ40に細胞選別開始の指令が入力されるか又は所定の開始タイミングになると、コンピュータ40は内部メモリに記憶されている細胞選別プログラムを読み出してこれを実行する。図4はこの細胞選別プログラムのフローチャートである。このプログラムが開始されると、コンピュータ40は、まずCCDカメラ37から個々の細胞11が培養容器13の底面に投影されたときの投影画像を入力し(ステップS100)、続いてその投影画像に画像解析処理を施して個々の細胞11の投影面積Paを算出する(ステップS110)。そして、それぞれの投影面積Paと予め内部メモリに記憶されている閾値Tとを比較し(ステップS120)、投影面積Paが閾値Tを越えるのものを接着細胞とみなしてその細胞数を算出する(ステップS130)。そして、全細胞数に対する接着細胞数の割合である細胞接着率を算出する(ステップS140)。本実施形態における全細胞数は初期細胞数つまり播種細胞数であり、これは予めオペレータによりコンピュータ40に入力されている。最後に、入力した投影画面内の全細胞数、接着細胞数、細胞接着率をディスプレイに表示する(ステップS150)。このとき、オペレータの指令に応じて、培養時間に対する細胞接着率の変化つまり細胞接着率の時間推移を表すグラフをディスプレイに表示してもよい。好ましくは、培養容器13内の全細胞数、接着細胞数、細胞接着率を表示することであり、このような表示は、全底面の投影画像を一括で入力できる構成としたり、CCDカメラを移動させて複数の投影画像を入力し、全底面分のデータとして算出する構成としたり、することで実現できる。
【0034】
以上詳述した本実施形態の接着細胞選別装置30によれば、特別な熟練を要することなく接着細胞と未接着細胞とを容易に選別できる。また、個々の細胞11の投影画像をCCDカメラ37により容易且つ安価に得ることができ、ひいては本装置全体のコストを低く抑えることができる。さらに、時間経過に伴う細胞接着率の推移から細胞増殖能を的確に評価することができる。
【0035】
なお、以上説明した本実施形態では投影面積Paに基づいて接着細胞と未接着細胞とを選別したが、投影面積Paに代えて、接着(接触)面積Saを利用しても同様の効果を得ることができる。この場合、共焦点走査型レーザ顕微鏡を用いることで接着面積Saを得ることが可能である。この共焦点走査型レーザ顕微鏡は、対象物にレーザ照射したときに発せられる蛍光を受光するものであるから、検査専用の細胞群を継代培養時に別途作成し、予めそれらの細胞に蛍光発色マーカーを取り込ませておくことが好ましい。
【0036】
一方、細胞増殖能の評価については次のようにして実施できる。即ち、予め人工的に細胞増殖能の良好な細胞と不良な細胞を作製し、それぞれについて、接着細胞選別装置30を用いて細胞接着率の時間推移を作成し、これらを対照データとして保存する。次に、今回細胞増殖能を調査しようとする細胞につき、同じく接着細胞選別装置30を用いてデータ(培養時間と細胞接着率)を採り、今回のデータと対照データとを比較し、その比較の結果、今回のデータが細胞増殖能の良好な細胞の時間推移に近ければ細胞増殖能が良好、今回のデータが細胞増殖能の不良な細胞の時間推移に近ければ細胞増殖能が不良といった具合に評価することができる。このような比較や評価を接着細胞選別装置30によって実行させた場合には、その装置30は細胞増殖能評価装置として機能する。
【0037】
【実施例】
[実験例1]
実験例1では、トリプシンで3分間処理した細胞を培養容器13に接種し、図3の接着細胞選別装置30を用いて表1の条件の下で実験を行った。ここでは、培養1時間後に投影面積分布を調べた。即ち、接着細胞選別装置30において、細胞選別プログラムのステップS110を行ったあと、ステップS120に進まずに投影面積を1×102μm2毎に区切って0〜1×102μm2、1×102〜2×102μm2、2×102〜3×102μm2、…とし、各範囲毎の細胞の分布を調べた。この投影面積分布には培地12中に浮遊している未接着細胞と培養容器13の底面に接着している接着細胞の両方が含まれている。
【0038】
【表1】
【0039】
[実験例2]
実験例2では、同じくトリプシンで3分間処理した細胞を培養容器13に接種し、図3の接着細胞選別装置30を用いて表1の条件の下で実験を行った。ここでは、培養1時間後に培養容器13内の培地12を除去し底面をPBS(リン酸緩衝液)で洗浄し、洗浄後の培養容器13につき実験例1と同様して投影面積分布を調べた。この投影面積分布には接着細胞のみが含まれている。
【0040】
実験例1,2の培養1時間後における投影面積分布を図5(a)及び(b)に示す。PBS洗浄により未接着細胞を除去し接着細胞のみが存在している図5(b)では、未接着細胞と接着細胞とが混在している図5(a)に比べて、投影面積Paの小さい領域の細胞が消失しており、これが未接着細胞に対応していることがわかる。したがって、図5(b)の投影面積分布のうち投影面積Paの最小値を未接着細胞と接着細胞との閾値Tとして定めた。この閾値Tを細胞選別装置30のコンピュータ40に入力した。
【0041】
[実験例3]
実験例3では、トリプシンで3分間又は15分間処理した細胞を図3の接着細胞選別装置30を用いて表1の条件の下で実験を行った。ここでは、接着細胞選別装置30において図4の細胞選別プログラムを実行した。即ち、培養時間の経過に伴い、逐次、培養容器13を撮影して投影画像から投影面積Paを算出し、その投影面積Paと先に求めた閾値Tとを比較して閾値Tを越えた投影面積Paを持つ細胞を接着細胞とみなし、全細胞数(初期細胞数)に対する接着細胞数の割合つまり細胞接着率を求め、培養時間に対する細胞接着率の変化を調べた。そのときの様子を図6に示す。図6は細胞接着率の経時曲線つまり時間推移であり、図6(a)はトリプシン3分処理の細胞、図6(b)はトリプシン15分処理の細胞である。この図6中、二重丸はこの実験例3に基づいて細胞接着率を求めたときの結果を表し、白丸は熟練者が手作業で細胞接着率を求めたときの結果を表す。
【0042】
この図6から明らかなように、熟練者が手作業で細胞接着率を求めたときの推移と、実験例3に基づいて細胞接着率を求めたときの推移とは、非常によく一致していた。この細胞接着率は、細胞集団の細胞増殖能の指標となるものであり、短時間のうちに細胞接着率が高くなる細胞集団は細胞増殖能が高いと評価される。このように、従来は熟練者が手作業によって求めていた細胞接着率をコンピュータにより自動的に求めることができることがわかった。また、トリプシンの処理時間が長いほど細胞が受けるダメージが大きいため、そのダメージの回復に時間がかかり、培養容器13に接着するまでの時間が長引くことが知られているが、実験例3に基づいて細胞接着率を求めた場合でも、その点は良好に再現されていた。
【0043】
ところで、トリプシン3分処理は通常の細胞培養時における処理であるため、トリプシン3分処理の細胞を細胞増殖能が良好な細胞とし、トリプシン15分処理は通常に比べて処理時間が長く細胞に対するダメージが大きいため、トリプシン15分処理の細胞を細胞増殖能が不良な細胞とする。すると、図6(a)は細胞増殖能の良好な細胞についての細胞接着率の推移、図6(b)は細胞増殖能の不良な細胞についての細胞接着率の推移ということができる。ここでは、便宜上、これらを対照データと称する。そして、実際に細胞増殖能を評価したい細胞につき、同じく接着細胞選別装置30を用いてデータ(培養時間と細胞接着率)を採り、今回のデータと対照データとを比較し、その比較の結果、今回のデータが細胞増殖能の良好な細胞の時間推移に近ければ細胞増殖能が良好、今回のデータが細胞増殖能の不良な細胞の時間推移に近ければ細胞増殖能が不良と評価することができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態や上記実施例に何等限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。例えば、上記実施形態のステップS130において、投影面積Paが閾値T以下のものを未接着細胞とみなしてその細胞数を算出すると共に投影面積Paが閾値Tを越えるのものを接着細胞とみなしてその細胞数を算出し、ステップS140において、未接着細胞数と接着細胞数との和を求めこれを全細胞数とし、この全細胞数に対する接着細胞数の割合を細胞接着率として算出してもよい。この場合も上記実施形態と同様の効果が得られる。このとき、ステップS150において、入力した投影画面内の全細胞数、接着細胞数、未接着細胞数、細胞接着率をディスプレイに表示してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】培養容器内の接着依存性細胞の状態を模式的に示す断面図である。
【図2】個々の接着依存性細胞の接着面積の推移を表す模式的なグラフである。
【図3】接着細胞選別装置の概略構成図である。
【図4】細胞選別プログラムのフローチャートである。
【図5】培養時間1時間後における投影面積分布を表すグラフである。
【図6】培養時間に対する細胞接着率の変化を表すグラフである。
【符号の説明】
11・・・細胞、12・・・培地、13・・・培養容器、21・・・細胞接着期、22・・・細胞誘導期、23・・・細胞増殖期、30・・・接着細胞選別装置、31・・・インキュベータ、32・・・ボンベ、33・・・給湿器、34,35・・・ライン、36・・・LEDランプ、37・・・CCDカメラ、38・・・三次元ステージ、39・・・ケーブル、40・・・コンピュータ、Pa・・・投影面積、Sa・・・接着面積、T・・・閾値。
Claims (14)
- 培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積を算出する投影面積算出手段と、
前記投影面積算出手段によって算出された投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別する選別手段と
を備えた接着細胞選別装置。 - 前記選別手段は、接着依存性細胞が前記培養容器に実際に接着しているときの投影面積を経験的に求めることによって得られた閾値と前記投影面積算出手段によって算出された投影面積とを比較することにより、個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別する
請求項1記載の接着細胞選別装置。 - 請求項1又は2記載の接着細胞選別装置において、
前記培養容器を照らすことにより前記培養容器内の個々の接着依存性細胞を前記底面に投影させる照明手段と、
前記照明手段によって前記培養容器が照らされているときに前記培養容器の下方から撮影することにより前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記底面に投影されたときの投影画像を得る撮影手段と
を備え、
前記投影面積算出手段は、前記撮影手段によって得られた投影画像に基づいて個々の接着依存性細胞の投影面積を算出する
接着細胞選別装置。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の接着細胞選別装置において、
前記選別結果に基づいて接着細胞数を算出し、該接着細胞数に基づいて細胞接着率を算出する接着率算出手段
を備えた接着細胞選別装置。 - コンピュータを、請求項1〜3のいずれかに記載の接着細胞選別装置を構成する前記投影面積算出手段及び前記選別手段として機能させるためのプログラム。
- コンピュータを、請求項4記載の接着細胞選別装置を構成する前記投影面積算出手段、前記選別手段及び前記接着率算出手段として機能させるためのプログラム。
- 培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別する接着細胞選別方法。
- 培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積を、接着依存性細胞が前記培養容器に実際に接着しているときの投影面積を経験的に求めることによって得られた閾値と比較することにより、個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別する請求項7記載の接着細胞選別方法。
- 前記培養容器が照明で照らされているときに該培養容器を下方から撮影することにより前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記底面に投影されたときの投影画像を得、該投影画像に基づいて前記投影面積を算出する請求項7又は8記載の接着細胞選別方法。
- 請求項7〜9のいずれか記載の接着細胞選別方法により前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別し、その選別結果に基づいて前記培養容器内の接着依存性細胞の集団としての細胞増殖能を評価する細胞増殖能評価方法。
- 請求項10に記載の細胞増殖能評価方法において、前記選別結果に基づいて接着細胞数を算出し、該接着細胞数から得られる細胞接着率に基づいて、前記細胞増殖能を評価する細胞増殖能評価方法。
- 請求項11に記載の細胞増殖能評価方法において、前記細胞接着率と、経験的に求めることによって得られる細胞接着率の時間推移とを比較し、該比較結果に基づいて前記細胞増殖能を評価する細胞増殖能評価方法。
- 培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影されたときの投影面積を算出する投影面積算出手段と、
前記投影面積算出手段によって算出された投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器に接着しているか否かを選別する選別手段と、
前記選別結果に基づいて接着細胞数を算出し、該接着細胞数に基づいて細胞接着率を算出する接着率算出手段と、
該細胞接着率を経験的に求めることによって得られた細胞接着率の時間推移と比較する比較手段と、
該比較結果に基づいて前記接着依存性細胞の集団としての細胞増殖能を評価する評価手段と、
を備えた接着細胞評価装置。 - コンピュータを、請求項13記載の接着細胞評価装置を構成する前記投影面積算出手段、前記選別手段、前記接着率算出手段、前記比較手段及び前記評価手段として機能させるためのプログラム。
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