JP4095811B2 - 剥離細胞選別装置、剥離細胞選別方法及びそのプログラム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、剥離細胞選別装置、剥離細胞選別方法及びそのプログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ヒト組織をインビトロ(in vitro)で培養し、培養した組織を患者に適用する技術が数多く報告されている。特にヒト皮膚組織については、欧米において商品化レベルにまで達している。ここで、ヒト皮膚組織、例えばヒト表皮角化細胞(Keratinocyte)による培養細胞シートの製品化のフローを図8に基づいて説明する。まず、患者又はドナーの健康な部位から少量の組織片を採取し、酵素処理によって細胞を分散させた後、角化細胞を分離・回収する(ステップS1)。次に、その角化細胞を用いて初代培養を行う(ステップS2)。その後、初代培養で増殖させた細胞を別の複数の培養容器に分けて接種(播種)し(ステップS3)、培地交換等の操作を必要に応じて行うと、細胞が培養面に接着したあと増殖して培養面での細胞の占める面積が徐々に増加し、所定面積に達してコンフルエントな状態となる(ステップS4)。このとき、製品として総合的に必要となる十分な面積(細胞数)が確保されたか否かをチェックし(ステップS5)、確保されていなければ培地を除去したあと培養面に接着している細胞をトリプシンなどのプロテアーゼによって培養面から剥離させたあと回収し(ステップS6)、必要な面積が確保されるまで継代培養を繰り返し行うことで面積を増やす。一方、必要な面積が確保されたならば、組織構築のために三次元培養(重層化)を施し(ステップS7)、これを移植用の培養細胞シートとして病院へ輸送し、移植を行う(ステップS8)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ステップ6の剥離操作において、プロテアーゼの処理時間が長いと、細胞がダメージを受けてその後の継代培養に支障が生じることがある。このため、剥離操作において、時間経過に伴って細胞の剥離状況を逐次把握することにより、プロテアーゼ処理時間の最適化を図ることが望ましい。
【0004】
一方、ステップ6の剥離操作におけるプロテアーゼの処理では、細胞が剥離するまでに要する時間が個々の細胞で異なるため、この点も考慮して培養面から剥離した細胞を回収することが望ましい。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決することを課題とするものであり、培養容器で培養している細胞につき容易に剥離の有無を選別できる剥離細胞選別装置、剥離細胞選別方法、及びそのプログラムを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
本発明は上述した目的を達成するために以下の構成を採用した。
【0007】
本発明の第1は、培養容器内の個々の接着依存性細胞につき前記培養容器の所定の面に投影された投影面積を算出する投影面積算出手段と、前記投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器から剥離したか否かを選別する選別手段とを備えた剥離細胞選別装置に関する。この装置では、培養容器内の個々の接着依存性細胞につき、培養容器の所定の面に投影された投影面積に基づいて培養容器から剥離したか否かを選別するため、特別な熟練などを要することなく細胞が剥離したか否かを容易に選別できる。
【0008】
ここで、「接着依存性細胞」とは、まず培養容器の所定の面に直接接着するか又は細胞外マトリックスを介して間接的に接着し、次いでその接着面積が広がっていき、その後細胞分裂する細胞のことをいう。例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル等の温血動物から採取された種々の細胞が挙げられる。この温血動物の細胞としては、例えば、角化細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞若しくは間質細胞、又はこれらの細胞の前駆細胞、幹細胞若しくは接着依存性のガン細胞が挙げられる。また、胚性幹細胞を使用することもできる。或いは、エリスロポエチン、成長ホルモン、顆粒球コロニー刺激因子、インスリン、インターフェロン、血液凝固第VIII因子等の血液凝固因子、グルカゴン、組織プラスミノーゲンアクチゲーター、ドーパミン、ガン遺伝子、ガン抑制遺伝子等をコードする外来遺伝子を前記細胞に導入し、それらの遺伝子を種々のプロモータを用いて強制的に又は特定の条件下で発現させるように構成した形質転換細胞を使用してもよい。また、細胞外マトリックスとしては、例えば、インテグリン、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖タンパク質等が挙げられる。
【0009】
また、「培養容器」としては、細胞が培養できるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等の合成樹脂、ヒドロキシアパタイトセラミックス、アルミナセラミックス、ガラス等から構成されたものが好適に使用される。
【0010】
本発明の第1の剥離細胞選別装置において、前記投影面積算出手段は、接着依存性細胞が接着している培養容器内に剥離剤が投入されたあとの時間経過に伴って前記投影面積を算出してもよい。こうすれば、剥離剤が投入されたあとの経過時間と接着依存性細胞の剥離状況との関係を把握できる。ここで、「剥離剤」とは、接着している接着依存性細胞を剥離する作用を有するものであれば特に限定されないが、例えばトリプシンやディスパーゼなどのプロテアーゼが挙げられる。
【0011】
本発明の第1の剥離細胞選別装置において、前記選別手段は、剥離開始前の前記投影面積と測定時の前記投影面積との面積比に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器から剥離したか否かを選別してもよい。この面積比は接着依存性細胞の剥離状況を示すパラメータとなり得るため、この面積比に基づいて剥離の有無を選別すれば適切に接着依存性細胞の剥離状況を把握できる。
【0012】
このとき、前記選別手段は、予め経験的に接着依存性細胞が剥離した時点における前記面積比を求めてこれを閾値と定め、測定時の前記面積比と前記閾値とを比較することにより、個々の接着依存性細胞が前記培養容器から剥離したか否かを選別してもよい。こうすれば、測定時の前記面積比と前記閾値とを比較して、例えば前者が後者以下又は後者未満ならば剥離している、前者が後者以上又は後者を上回るならば剥離していないという具合に選別できる。
【0013】
本発明の第1の剥離細胞選別装置は、前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記所定の面に投影された投影画像を撮影する撮影手段を備え、前記投影面積算出手段は、前記撮影手段によって得られた投影画像に基づいて前記投影面積を算出してもよい。こうすれば、個々の接着依存性細胞の投影面積を容易且つ安価に得ることができ、ひいては本装置全体のコストを低く抑えることができる。このとき、前記培養容器を照らすことにより前記培養容器内の個々の接着性細胞を前記所定の面に投影させる照明手段を更に備え、前記撮影手段は、前記照明手段によって前記培養容器が照らされているときに前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記所定の面に投影された投影画像を撮影してもよい。
【0014】
本発明の第1の剥離細胞選別装置は、前記培養容器内の細胞を回収可能な細胞回収手段と、前記選別手段によって剥離したと選別された接着依存性細胞を前記細胞回収手段に回収させる細胞回収制御手段とを備えていてもよい。こうすれば、培養容器から剥離した接着依存性細胞を早期に回収できる。例えば剥離したあとの接着依存性細胞を剥離剤で処理し続けるとダメージを受けて増殖能力が低下することがあるが、この装置によれば早期に回収できるため、そのようなおそれは解消される。
【0015】
このとき、前記選別手段によって剥離したと選別された接着依存性細胞の位置を検出する位置検出手段を備え、前記細胞回収制御手段は、前記位置検出手段によって検出された位置の接着依存性細胞を前記細胞回収手段に回収させてもよい。こうすれば、剥離した接着依存性細胞を的確に回収できる。
【0016】
さらに、本発明の第1の剥離細胞選別装置には、前記培養容器に剥離剤を投入したあとの経過時間を計測する計時手段と、該計時手段による計時結果に基づいて前記剥離剤により剥離した剥離細胞を分類分けして回収する分類回収手段を設けてもよい。これによれば、回収した剥離細胞を計時情報に基づいて分類することができ、剥離した時間に基づいて剥離細胞に能力(例えば増殖能等)の差がある場合などでは、その能力差に応じて分取することができる。又、剥離した細胞から順に回収できるので、剥離剤による細胞ダメージを抑えることができる。
【0017】
本発明の第2は、コンピュータを、本発明の第1の剥離細胞選別装置の前記投影面積算出手段及び前記選別手段として、又は前記投影面積算出手段、前記選別手段及び前記細胞回収制御手段として機能させるためのプログラムに関する。また、本発明の第3は、コンピュータに、培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記培養容器の所定の面に投影された投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞につき前記培養容器から剥離したか否かを選別する工程を実行させるためのプログラムに関する。これらのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ送信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。これらのプログラムをコンピュータに実行させれば、本発明の第1の剥離細胞選別装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
[第1実施形態]
図1は剥離細胞選別装置の概略構成図である。本実施形態の剥離細胞選別装置10は、支持台11と、照明手段としてのLEDランプ13と、撮影手段としてのCCDカメラ15と、投影面積算出手段及び選別手段としての制御装置17とを備えている。
【0019】
支持台11は、培地で培養された接着依存性細胞(以下単に細胞という)21が底面に接着している培養容器20を、その底面が下方に視覚的に露出した状態で支持している。即ち、支持台22は、培養容器20の底面縁部のみを支持したり、培養容器20の底面部分に相当する箇所を透明部材としたりすることで、CCDカメラ15による撮影が妨げられないように構成されている。
【0020】
LEDランプ13は、支持台11に支持された培養容器20を上方から照らすことにより培養容器20内の個々の細胞21を培養容器20の底面に投影させる。
【0021】
CCDカメラ15は、培養容器20の底面を撮影できるように培養容器20の下方に設置されている。このCCDカメラ15は、制御装置17からの指令信号を受信すると、LEDランプ13によって上方から照らされた培養容器20の下方から底面を撮影し、培養容器20内の個々の細胞21が培養容器20の底面に投影された投影画像を得、その投影画像のデータを制御装置17に送信する。また、CCDカメラ15は、三次元ステージ16に取り付けられ、上下・左右・前後に移動可能である。この三次元ステージ16は制御装置17からの指令信号によって作動して所定の位置にCCDカメラ15を位置決めする。
【0022】
制御装置17は、周知のCPU、ROM、RAM等で構成されている。この制御装置17は、三次元ステージ16に指令信号を出力してCCDカメラ15を所定の位置に位置決めしたあと、CCDカメラ15に指令信号を出力して投影画像を撮影させ、その投影画像をCCDカメラ15から入力して画像解析処理を施し、画像解析処理後の投影画像に基づいて培養容器20内の個々の細胞21が底面に投影された投影面積Acを算出し、予め記憶しておいた剥離開始前の投影面積Ac*を用いて面積比Ac/Ac*を算出し、この面積比Ac/Ac*を予め定めておいた閾値Tと比較することにより、個々の細胞21が培養容器20の底面から剥離したか否かを選別する。
【0023】
ここで、投影面積Acは、例えば紀ノ岡らの論文(Biotech.Bioeng.,67,P234−239(2000))の画像解析手法を投影画像に施すことにより得られる。この場合、原画像に対して背景分離処理、ルックアップテーブル変換処理、平滑化処理、二値化抽出処理、孤立点除去処理、クロージング処理、穴埋め処理、エリア抽出処理、画素数計測処理の順に画像解析を行い、個々の細胞像を抽出し、各細胞の投影部分の画素数を計測し、この画素数に1画素あたりの面積を乗算した値を投影面積Acとする。
【0024】
剥離処理時における投影面積Acの変遷を図2に基づいて説明する。この図2において、Acは細胞が底面に投影された投影面積を表し、Aaは細胞が底面に接着している接着面積を表す。底面に細胞21が接着している培養容器20に剥離剤を添加すると、時間の経過に伴って、図2(a)に示すように細胞21と底面との接着面積Aaが大きな状態から、図2(b)に示すように細胞21と底面との接着面積Aaが小さな状態を経て、図2(c)に示すように細胞21が剥離して底面に沈降した状態又は剥離して浮遊した状態(剥離状態)に至る。この図2からわかるように、細胞21は接着状態から剥離状態に至る過程で投影面積Ac及び接着面積Aaの両方とも徐々に小さくなっていき、剥離状態では両面積Ac,Aaはほぼ一定値となる。
【0025】
閾値Tは以下の手順(1)及び(2)により予め定めておいた。
【0026】
(1)培養容器20として75cm2のT型フラスコ(ヌンク社)、細胞21としてヒト角化細胞であるテロメラーゼ活性化細胞(hTERT−HME1,クロンテック社)、培地としてヒト角化細胞用無血清培地(Humedia−KG2,倉敷紡績(株))を用いて、温度37℃、5%CO2含有エアという条件下でコンフルエント状態になるまで培養した。このような底面に細胞が接着している培養容器20を複数作製した。次に、各培養容器20につき、剥離剤としてのトリプシン溶液を滴下する前に、培養容器20を支持台11に載せてLEDランプ13を点灯し培養容器20の下方に設置したCCDカメラ15により培養容器20の底面に投影された細胞21の投影画像を撮影し、制御装置17によりこの投影画像のデータに画像解析処理を施し、単位面積当たりに接着している細胞数をカウントし、これを剥離処理前の接着細胞濃度Xa1(cell/cm2)とした。次に、各培養容器20に培地を排出しリンスしたあとトリプシン溶液を滴下し、トリプシン溶液滴下後の経過時間(以下、トリプシン処理時間という)が0.5分になった時点で1つの培養容器20にトリプシンインヒビタを投入してトリプシンの作用を停止させ、その後溶液(剥離状態の細胞を含む)を培養容器20から回収し遠心分離したあと得られた剥離細胞につき増殖能力の一指標である倍加時間を調べる一方、培養容器20の底面を緩衝液で2回リンスしたあと底面をCCDカメラ15で撮影し、画像解析処理を施し、トリプシン処理時間が0.5分の接着細胞濃度Xa2(cell/cm2)を求めた。また、トリプシン処理時間が1分、2分、3分、6分、9分、12分、15分となった時点で各1つの培養容器20に先ほどと同様の処理を施し、剥離細胞の倍加時間を調べる一方、接着細胞濃度Xa2(cell/cm2)を求めた。そして、下記数1式により剥離率を求め、横軸をトリプシン処理時間、縦軸を剥離率(実測値)とするグラフを作成した。そのグラフを図3に示す。なお、テロメラーゼ活性化細胞はトリプシン処理時間によらず増殖能力に大きな差異は見られなかった。
【0027】
【数1】
実測の剥離率=(Xa1−Xa2)/Xa1
【0028】
(2)一方、一つの培養容器20について、培地を排出しリンスしたあとトリプシン溶液を滴下し、トリプシン処理時間0.5分における個々の細胞21(細胞数:20)の投影面積を初期投影面積Ac*とした。この培養容器20についてはトリプシンインヒビタを投入せず、引き続き、トリプシン処理時間が1分、2分、3分、6分、9分、12分、15分となった時点で投影面積Acを求め、横軸を面積比Ac/Ac*、縦軸を細胞数とするグラフつまり面積比と細胞数との関係を表すグラフを作製した(図4(a)参照)。ここで、面積比Ac/Ac*の閾値Tを適当に定め、この閾値Tを越えない細胞を剥離細胞としその細胞数をNSとし、この閾値Tを越える細胞を未剥離細胞としその細胞数をNLとし、推定の剥離率を下記数2式により求めた。そして、横軸をトリプシン処理時間、縦軸を剥離率とするグラフとして、剥離率が実測値つまり数1式のもの(図3参照)と剥離率が推定値つまり数2式のものとを作製し、両グラフが一致するような閾値Tを求めたところ、T=0.6のときに良好に一致した。そのときの様子を図4に示す。なお、図4(a)は面積比と細胞数との関係を表すグラフであり、図4(b)はトリプシン処理時間と剥離率との関係を表すグラフである。また、図4(a)における点線は閾値T(=0.6)を示す。
【0029】
【数2】
推定の剥離率=NS/(NS+NL)
【0030】
上述した実施形態のテロメラーゼ活性化細胞に代えて、ヒト角化細胞である0才(包皮)ドナー由来の細胞(KK−4009,倉敷紡績(株))を用いて本実施形態と同様の実験を行い、同様の手法により閾値Tを求めたところ、T=0.6のときの良好な結果が得られた。そのときの様子を図5に示す。なお、図5(a)は面積比と細胞数との関係を表すグラフであり、図5(b)はトリプシン処理時間と剥離率との関係を表すグラフである。また、図5(a)における点線は閾値T(=0.6)を示す。この結果、細胞特性の異なる株に対しても面積比を指標とした剥離状況の評価は可能であることがわかった。
【0031】
また、ここで用いた0才ドナー由来の細胞につき、トリプシン処理時間と増殖能力の一指標である倍加時間との関係を調べたところ、表1に示す結果が得られた。この表1からわかるように、トリプシン処理時間が3分及び15分の剥離細胞では増殖能力が低くなっている。これは、処理時間が3分では分化により接着能力や増殖能力の低くなった細胞群が優先的に浮遊し、15分では過度のトリプシン処理による障害で活性の低下が引き起こされたためと考えられる。このようにトリプシン処理時間は細胞の増殖能力と密接に関係していることから、トリプシン処理時間を細胞増殖能力の一指標と見ることができる。したがって、トリプシン処理時間に応じて剥離細胞を分類分けして回収すれば、同様の細胞増殖能力を持つ細胞ごとの回収が可能となる。
【0032】
【表1】
【0033】
以上のことから、本実施形態の剥離細胞選別装置10によれば、培養容器20内の個々の細胞21につき面積比Ac/Ac*と閾値Tとを比較することにより、底面から剥離したか否かを特別な熟練など要することなく容易且つ適切に選別することができる。また、図4(b)や図5(b)の推定値のグラフを作製すれば、トリプシン処理時間と細胞の剥離状況との関係を容易に把握することができる。さらに、個々の細胞21の投影画像をLEDランプ13とCCDカメラ15とにより容易且つ安価に得ることができ、ひいては剥離細胞選別装置10の全体のコストを低く抑えることができる。
【0034】
[第2実施形態]
図6は剥離細胞選別装置の概略構成図である。本実施形態の剥離細胞選別装置30は、支持台31と、照明手段としてのLEDランプ33と、撮影手段としてのCCDカメラ35と、細胞回収手段としての吸引ノズル36と、投影面積算出手段、選別手段、細胞回収制御手段及び位置検出手段としての制御装置37とを備えている。
【0035】
支持台31は、培地で培養された細胞41が底面に接着している培養容器43を、その底面が下方に視覚的に露出した状態で支持している。この支持台31の近傍には、支持台31に支持された培養容器40内に剥離剤であるトリプシン溶液を注入可能な注入管32が設けられている。注入管32には注入管32の開閉を行うソレノイドバルブ34が取り付けられ、このソレノイドバルブ34は制御装置37の指令信号に応じて開閉する。
【0036】
LEDランプ33は、支持台31に支持された培養容器33を上方から照らすことにより培養容器40内の個々の細胞41を培養容器40の底面に投影させる。
【0037】
CCDカメラ35は、培養容器40の底面を複数に区分したときの各区分に対応して培養容器40の下方に複数個設置されている。このCCDカメラ35は、制御装置37からの指令信号を受信すると、LEDランプ33によって上方から照らされた培養容器40の下方から底面を撮影し、培養容器40内の個々の細胞41が培養容器40の底面に投影された投影画像を得、その投影画像のデータを制御装置37に送信する。
【0038】
吸引ノズル36は、細胞41を1つずつ吸引可能なノズルであり、三次元アーム38によって上下・左右・前後に動かされる。この三次元アーム38は制御装置37からの指令信号によって作動して所定の位置に吸引ノズル36を位置決めする。
【0039】
制御装置37は、周知のCPU、ROM、RAM等で構成されている。この制御装置37は、各CCDカメラ35に指令信号を出力して投影画像を撮影させ、その投影画像をCCDカメラ35から入力して第1実施形態と同様の画像解析処理を施し、画像解析処理後の投影画像に基づいて培養容器40内の個々の細胞41が底面に投影された投影面積Acを算出し、予め記憶しておいた剥離開始前の投影面積Ac*を用いて面積比Ac/Ac*を算出し、この面積比Ac/Ac*を予め定めておいた閾値Tと比較することにより、個々の細胞41が培養容器40の底面から剥離したか否かを選別する。なお、閾値Tの定め方は第1実施形態で述べた通りである。そして、剥離している細胞41の位置を認識し、三次元アーム38を駆動制御して吸引ノズル36をその位置に移動させたあとその位置にある細胞41を吸引させる。なお、剥離した細胞41の位置は、CCDカメラ35の設置位置及び投影画像のデータに基づいて検出する。
【0040】
次に、この剥離細胞選別装置30の動作について説明する。オペレータにより入力装置であるキーボードから制御装置37に剥離操作開始の指令が入力されると、制御装置37は内部メモリに記憶されている剥離操作プログラムを読み出してこれを実行する。図7はこの剥離操作プログラムのフローチャートである。このプログラムが開始されると、制御装置37は、まず培地を排出しリンスしたあとの培養容器40内に注入管32のソレノイドバルブ34を開放してトリプシン溶液を投入し、所定量したあとでソレノイドバルブ34を閉鎖する(ステップS100)。そして、閉鎖すると同時にタイマによりトリプシン処理時間の計測を開始すると共にLEDランプ33を点灯し(ステップS110)、トリプシン処理時間0.5分の時点で各CCDカメラ35から初期の投影画像のデータを読み込んで画像解析処理を施して各細胞41の初期の投影面積Ac*を算出し、所定の記憶領域に記憶する(ステップS120)。続いて、トリプシン処理時間が所定時間(例えば1分)経過するごとに各CCDカメラ35から投影画像のデータを読み込んで画像解析処理を施し各細胞の投影面積Acを算出し(ステップS130)、さらに面積比Ac/Ac*を算出してこの面積比Ac/Ac*と閾値Tとを比較し(ステップS140)、この面積比Ac/Ac*が閾値Tを下回ったものを剥離細胞とみなしてその剥離細胞の位置を認識し、三次元アーム38を駆動制御してその位置にある剥離細胞を吸引ノズル36により吸引して図示しない回収容器に回収しトリプシンインヒビタを投入してトリプシンの作用を停止させる(ステップS150)。このとき、同時期に回収した剥離細胞は同じ回収容器に回収する。その後、すべての細胞41を回収したか否かを判定し(ステップS160)、回収していないときには再びステップS130に戻り、回収し終わったときにはこのプログラムを終了する。なお、ステップS160における全細胞が回収されたか否かの判定処理に代え、所定時間(例えば、全細胞を回収するのに十分な時間)を経過したか否かを判定するようにしてもよい。
【0041】
以上詳述した本実施形態の剥離細胞選別装置30によれば、培養容器40の底面から剥離した細胞41を早期に回収できる。このため、例えば剥離したあと更にトリプシン溶液で処理し続けるとダメージを受けて増殖能力が低下するおそれのある細胞にとっては、そのようなおそれが解消される。また、CCDカメラ35の設置位置及び投影画像のデータに基づいて剥離した細胞の位置を検出して吸引ノズル36でその細胞を吸引するため、剥離した細胞を的確に回収できる。
【0042】
なお、本実施形態ではトリプシン処理時間0.5分における投影面積を初期投影面積Ac*としたが、これはトリプシン処理時間0.5分では剥離が開始しておらず、トリプシン添加前の投影面積と実質同じと判断したからである。もちろん、トリプシン添加前の投影面積を初期投影面積Ac*としてもよい。
【0043】
以上、本発明の実施の形態や実施例について説明したが、本発明はこれらに何等限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の剥離細胞選別装置の概略構成図である。
【図2】剥離処理時における投影面積Acの変遷を表す説明図である。
【図3】テロメラーゼ活性化細胞に関し、横軸をトリプシン処理時間、縦軸を剥離率(実測値)としたグラフである。
【図4】テロメラーゼ活性化細胞に関し、(a)は面積比と細胞数との関係を表すグラフであり、(b)はトリプシン処理時間と剥離率との関係を表すグラフである。
【図5】0才ドナー由来細胞に関し、(a)は面積比と細胞数との関係を表すグラフであり、(b)はトリプシン処理時間と剥離率との関係を表すグラフである。
【図6】第2実施形態の剥離細胞選別装置の概略構成図である。
【図7】第2実施形態の剥離操作プログラムのフローチャートである。
【図8】培養細胞シートの製品化のフローである。
【符号の説明】
10…剥離細胞選別装置、11…支持台、13…LEDランプ、15…CCDカメラ、17…制御装置、20…培養容器、21…細胞、30…剥離細胞選別装置、31…支持台、32…注入管、33…LEDランプ、34…ソレノイドバルブ、35…CCDカメラ、36…吸引ノズル、37…制御装置、38…三次元アーム、40…培養容器、41…細胞。
Claims (7)
- 培養容器内の個々の接着依存性細胞につき前記培養容器の所定の面に投影された投影面積を算出する投影面積算出手段と、
前記投影面積に基づいて個々の接着依存性細胞が前記培養容器から剥離したか否かを選別する選別手段と
を備え、
前記投影面積算出手段は、接着依存性細胞が接着している培養容器内に剥離剤が投入されたあとの時間経過に伴って前記投影面積を算出し、
前記選別手段は、剥離開始前又は剥離剤投入直後の前記投影面積と剥離剤投入後の前記投影面積との面積比を閾値と比較することにより、個々の接着依存性細胞が前記培養容器から剥離したか否かを選別する
剥離細胞選別装置。 - 前記選別手段は、予め経験的に接着依存性細胞が剥離した時点における前記面積比を求めてこれを前記閾値と定める
請求項1記載の剥離細胞選別装置。 - 請求項1又は2に記載の剥離細胞選別装置であって、
前記培養容器内の個々の接着依存性細胞が前記所定の面に投影された投影画像を撮影する撮影手段
を備え、
前記投影面積算出手段は、前記撮影手段によって得られた投影画像に基づいて前記投影面積を算出する
剥離細胞選別装置。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の剥離細胞選別装置であって、
前記培養容器内の細胞を回収可能な細胞回収手段と、
前記選別手段によって剥離したと選別された接着依存性細胞を前記細胞回収手段に回収させる細胞回収制御手段と
を備えた剥離細胞選別装置。 - 請求項4記載の剥離細胞選別装置であって、
前記選別手段によって剥離したと選別された接着依存性細胞の位置を検出する位置検出手段
を備え、
前記細胞回収制御手段は、前記位置検出手段によって検出された位置の接着依存性細胞を前記細胞回収手段に回収させる
剥離細胞選別装置。 - 剥離開始前又は剥離剤投入直後に、培養容器内の個々の接着依存性細胞につき前記培養容器の所定の面に投影された投影面積を算出するステップと、
剥離剤投入後に前記投影面積を算出するステップと、
剥離開始前又は剥離剤投入直後の前記投影面積と剥離剤投入後の前記投影面積との面積比を閾値と比較することにより、個々の接着依存性細胞が前記培養容器から剥離したか否かを選別するステップと、
を含む剥離細胞選別方法。 - コンピュータに、請求項6に記載の剥離細胞選別方法の各工程を実行させるためのプログラム。
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