特許文献2及び特許文献3に記載の入浴介助装置は、特許文献1に記載の入浴介助装置のように座面を4本のテープワイヤで吊り下げた構造を有していないため、座面の安定性では優れている。また、浴槽のリムに載せることで浴槽への後付けを可能としている。しかしながら、特許文献2に記載の入浴介助装置は一段のスライドガイドを用いて座面が浴槽のリムの高さから浴槽の底面まで昇降するようになっている。そのため、座面に取付けられたスライダがスライドガイドに完全に収容されるようにスライドガイドの長さを十分にとらなければならない。従って、入浴介助装置を浴槽に取付けるとスライドガイドが浴槽の上方にかなり延在して入浴介助装置全体の重心が高くなる。そのため、入浴介助装置自体を浴槽のリムに載せる構成と相まって、装置本体の自重が浴槽にかかり、浴槽後方(浴槽内と反対側)に倒れ易くなるので、例えば浴槽に特別に固定穴を開けて入浴介助装置を固定しなければならない。
また、特許文献3に記載の入浴介助装置には、上述の一段ガイドの代わりに多段伸縮ガイドを用いている。この多段ガイドはスライダ内の各ガイドにローラを取付けた構造を有し、座面が最上位置で背凭れの上方に位置する駆動装置によって背凭れの後側に接続したベルトを巻き取る構造を有している。そのため、伸縮ガイドを多段にはしているが、巻き取り構造に関して装置自体の高さが低く抑えられていない。その結果、装置自体の重心が高くなり、やはり装置自体の後方への倒れの問題が生じる。これを解決するために、例えば浴槽に特別に固定穴を開けて入浴介助装置を固定しなければならない。
また、ガイド内にローラを備える構造のため、多段ガイド全体が太くなり、座面と浴槽壁面との隙間が大きくなって浴槽を広く使えない。
また、座面が最上位置にある状態で昇降装置の高さが背凭れよりかなり高い位置にあると、介助者が被介助者の肩を後方から抱えたり頭を後方から支えたりする作業が行いにくくなり、介助に支障をきたす。
また、これらの特許文献2及び特許文献3に記載の入浴介助装置を浴槽に取付けると、装置自体の高さが浴槽のリムよりかなり高くなるので、浴室内の浴槽上方の空間を装置自体がかなり占有してしまい、浴室が見た目で狭くなるという問題も生じる。
なお、上述の特許文献3に記載の多段ガイドを用いた入浴介助装置とは異なり、多段ガイドを用いた入浴介助装置であって全体の重心が低い入浴介助装置であれば、浴槽のリム上に複雑な拘束手段を用いたり浴槽のリムに追加工をすることなく、入浴介助装置自体を浴槽のリム上に設置場所をとらない状態で簡単に載せることができ、加えてこのように簡単に載せた状態で浴槽後方に倒れ難くできるので、このような入浴介助装置が望まれる。
本発明の目的は、浴槽への取付けが簡単に行え、かつ被介助者の座面への移乗を行い易い入浴介助装置を提供することにある。
上述した課題を解決するために、本発明にかかる入浴介助装置は、浴槽のリム上の所定位置に設置するフレームと、フレーム上に取付けられた昇降装置と、昇降装置の一部に取付けられた背凭れ付きの座面とを備え、昇降装置には多段伸縮ガイドが取付けられて、当該多段伸縮ガイドを介して座面が昇降するようになった入浴介助装置において、昇降装置は、巻き上げたり繰り出したりして座面の昇降を行うワイヤをさらに備え、かつ多段伸縮ガイドは、入浴介助装置の浴槽への取付け状態で見て座面が最上位置にある場合に背凭れの高さと多段伸縮ガイドの高さが同程度となるように構成されるとともに、座面が浴槽の底面に到達するように伸出できる程度の段数を多段伸縮ガイドが少なくとも有しており、ワイヤの座面との接続部分は、当該座面の背凭れ側端部と、多段ガイドの伸縮方向と座面の形成面との交差点との間で、座面側に位置したことを特徴としている。
多段ガイドの高さを座面の背凭れの高さと同程度とすることで、入浴介助装置の重心を高さ方向に抑えることができ、入浴介助装置の浴槽後方への倒れを防止できる。これによって、入浴介助装置の浴槽への取付けが簡単に行えるようになる。また、多段ガイドが高さ方向に突出していないので、被介助者の移乗の際に介助者が被介助者の後方から頭を支えたり肩を抱えることができ、被介助者の移乗が行い易くなる。
また、この部分でワイヤを座面に連結して座面を昇降させることで、座面の上昇時にワイヤにかかる張力の作用方向と多段ガイドの伸縮方向を近づけることができるようになり、昇降装置によるワイヤの巻き上げを小さな駆動力で効率的に行うことができる。
従って、昇降装置の高さを低く設置しても、ワイヤの巻き上げ方向と多段ガイドの伸縮方向を近づけることができるので、入浴介助装置自体の高さを低くすることが可能となる。
なお、ここで好ましくは、昇降装置がワイヤを巻き上げたり繰り出したりして座面の昇降を行うようになっており、当該ワイヤが昇降装置の座面取付側に備わったプーリを介して巻き上げたり繰り出されるようになっているのが良い。
ワイヤをこのように配索することで、座面の上昇時にワイヤにかかる張力の作用方向と多段ガイドの伸縮方向を近づけることができるようになり、昇降装置によるワイヤの巻き取りを小さな駆動力で効率的に行うことができる。また、昇降に伴うワイヤ角度の変化を少なくできることで、例えば昇降装置の外ケースに形成されたワイヤ出口の開口幅を小さくすることも可能となる。従って、外観上も好ましく、被介助者の指や髪の毛の巻き込みも起り難くなる。
また、本発明に係る入浴介助装置は、被介助者の体重が座面にかかることでワイヤと座面との接続部分を中心としたモーメントが多段ガイドの最下段に作用するが、このようなワイヤの接続位置関係とすることで、このモーメントによる多段ガイドの最下段に生じる曲げ応力を小さくすることができる。
また、本発明の請求項2に記載の入浴介助装置は、請求項1に記載の入浴介助装置において、多段伸縮ガイドを多重の円管で構成したことを特徴としている。
多段ガイドが全て円管でできているので、多段ガイドの前後方向の揺れや左右方向の揺れに対して強度を均等に保つことができる。
また、本発明の請求項3に記載の入浴介助装置は、請求項1に記載の入浴介助装置において、多段伸縮ガイドを多重の角管で構成したことを特徴としている。
多段ガイドが全て角管でできているので、同様の寸法の円管でできた多段ガイドに較べて曲げ強度を向上させることができる。そのため、円管でできた多段ガイドに較べて同等の強度を有するより小さな寸法の多段ガイドを入浴介助装置に備えることができ、浴槽内のスペースをより広くとることが可能となる。
また、本発明の請求項4に記載の入浴介助装置は、請求項1に記載の入浴介助装置において、多段伸縮ガイドを2列に配置したことを特徴としている。
多段ガイドを2列に配置することで、座面と多段ガイドとのすき間を大きくすることなく、多段ガイドの強度を確保できる。これによって、座面を浴槽の壁面に近づけることができ、浴槽内を広く利用することができる。
また、本発明の請求項5に記載の入浴介助装置は、請求項4に記載の入浴介助装置において、2列の多段伸縮ガイド同士を橋渡ししたことを特徴としている。
2列の多段ガイドを橋渡すことでこれらを同時に伸縮させることができ、座面の昇降を滑らかに行えるようになる。
また、本発明の請求項6に記載の入浴介助装置は、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の入浴介助装置において、多段伸縮ガイドの完全な伸び出し時に当該多段ガイドを構成する各パイプの重なり部分の長さが少なくとも一箇所他の重なり部分の長さと異なることを特徴としている。
多段ガイドの最も太いガイドとこれに摺接する内側ガイドの重なり部分を最も長くし、多段ガイドの最も細いガイドとこれに摺接する外側ガイドの重なり部分を最も短くすることで、各ガイド同士のがたつきを小さく抑えつつ、多段ガイドの伸出時の全長を長くすることができる。これによって、多段ガイドの高さを座面の背凭れの高さと同程度に抑えつつ、座面の下降量をかなり大きくとることができる。また、このような構成は、多段ガイドの伸縮量を規制するストッパを多段ガイド内に設けておけば良く、簡単な構成で実現できる。
また、本発明の請求項7に記載の入浴介助装置は、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の入浴介助装置において、多段伸縮ガイドを構成する各パイプの肉厚に関して、最も細いパイプの肉厚が最も大きくなっていることを特徴としている。
多段ガイドの強度的に一番弱いパイプのみ強度を向上させることで、多段ガイド自体の小型化を図りつつ、多段ガイド全体の強度を十分に確保できる。
本発明によると、浴槽への取付けが簡単に行えかつ被介助者の座面への移乗がやり易い入浴介助装置を実現できる。また、入浴介助装置の浴槽後方への倒れを防止することができる。
また、ワイヤやプーリを介して座面を昇降する場合において、昇降装置によるワイヤの巻き上げを効率的に行うことができる。また、ワイヤと座面の接続部分の位置を特定することで、多段ガイドの最下段に大きな曲げ応力が発生するのを防止する。
また、多段ガイドを円管とすることで、多段ガイドの前後方向の揺れや左右方向の揺れに対して強度を均等に保つことができる。また、多段ガイドを多重の角管とすることで、円管でできた多段ガイドに較べてより小さな寸法で同等の強度を有する多段ガイドにでき、入浴介助装置の小型化を図れる。また、多段ガイドを2列に配置することで、座面とガイドのすき間を大きくすることなく、強度を確保したまま入浴介助装置の小型化を図れる。これらによって、浴槽内壁に入浴介助装置の座面を近づけることができ、浴槽を広く使えるようになる。
また、2列の多段ガイドを橋渡すことで、座面の昇降を滑らかに行えるようになる。また、多段ガイドの完全な伸び出し時に当該多段ガイドを構成する各パイプの重なり部分の長さが異なるようにすることで、各ガイド同士のがたつきを小さく抑えつつ、多段ガイドの伸出時の全長を長くすることができる。
また、多段ガイドを構成する各パイプの肉厚に関して、最も細いパイプの肉厚を最も大きくすることで、多段ガイドを小型化しつつ多段ガイド全体の強度を十分に確保できる。
以下、本発明の一実施形態にかかる入浴介助装置について説明する。本発明の一実施形態にかかる入浴介助装置1は、図1に示すように、浴槽のリムの一端側に載せられる支持フレーム20と、支持フレーム20に取付けられた昇降装置30と、伸縮ガイドを介して昇降装置30に取付けられた背凭れ付きのシート50とを備えている。
そして、伸縮ガイドには多段ガイド40が用いられている。また、昇降装置30には、図3に示すようにドラム350とドラム350を駆動するモータ323が取付けられ、当該ドラム350に巻かれたワイヤ100をモータ323によって巻き上げたり繰り出したりすることで、ワイヤ端部に接続した背凭れ付きのシート50を多段ガイド40の伸縮とともに昇降するようになっている。なお、多段ガイド40にはテレスコピック型の多段ガイドを用いることによって、昇降装置30の高さをシート50の背凭れ540の高さとほぼ同等に抑えている。
以下、各構成についてより詳細に説明する。支持フレーム20は、図2及び図4に示すように、浴槽のリムに取付けた状態において上面視で角型C字形状を有し、浴槽の一端側リムに載せられるメインフレーム210と、メインフレーム210の両端に取付けられ、浴槽の側方リムに載せられる2本のサイドフレーム220を備えている。支持フレーム20は、ステンレスの角パイプでできており、メインフレーム210の両端からサイドフレーム220の一部が挿入されており、サイドフレーム220の一部がメインフレーム210に対してスライド可能となってサイドフレーム同士の間隔を調整可能にしている。また、サイドフレーム220はメインフレーム210に対して図示しないネジ等の締結手段によってサイドフレーム同士が適当な間隔を保ったまま固定されるようになっている。また、サイドフレーム220の一部には抑えプレート230が備わり、抑えプレート230を浴槽の内壁に押し当てることによってサイドフレーム220の位置決め及び支持フレーム20のずれ防止を行うようになっている。
このように支持フレーム20は各サイドフレーム220がメインフレーム210に対してスライド可能となっており、サイドフレーム220の幅調整を可能としているので、入浴介助装置1を様々な形状及び大きさの浴槽のリムに取付け可能となっている。また、支持フレーム20に備わった抑えプレート230がサイドフレーム220の幅調整時のストッパとしての役目を果たすことで、入浴介助装置1を浴槽に取付けた後に入浴介助装置本体の位置ずれを防止することができる。
一方、メインフレーム210の中央部分には昇降装置30が取付けられている。昇降装置30は、図3及び図4に示すように、入浴介助装置1を浴槽に取付けてシート50を最上位置に保った状態で、昇降装置30(図3参照)とシート50を一定の角度範囲内で水平方向に回転させる回転部310と、回転部310の上方に取付けられかつ多段ガイド40を介してシート50を支持する本体フレーム320と、本体フレーム320の内側に設けられた昇降駆動部330と、本体フレーム320に取付けられた多段ガイド40とを有している。なお、昇降装置30はここでは図示しないが、装置カバーで全体的に覆われている。
回転部310は、支持フレーム20にベースプレート311を介して一体に取付けられたベアリング台312と、ベアリング台312に対して回転自在に取付けられたベアリング314と、ベアリング314に固定されたカムリング315と、カムリング315の所定位置に形成された切欠き部に係合するストッパ(図示せず)と、カムリング315に固定された回転軸を有しかつ本体フレーム320を支持する回転台319とを備えている。
そして、本体フレーム320に取付けられた回転レバー329(図1及び図2参照)を操作することによって図示しない操作ワイヤが引っ張られ、カムリング315の切欠き部とストッパとの係合が解除するようになっている。すなわち、通常、ストッパがカムリング315に係合しているので、昇降装置30が所定の位置で停止し、回転レバー329を操作することでストッパをカムリング315から係合解除させると、昇降装置30及び上限位置にあるシート50を予め定められた一定の角度内で水平に回転できるようになっている。これによって、上限位置にあるシート50を浴槽のリム側に移動させ、被介助者が浴槽外からシート50に乗り移り易くしている。また、一旦、シート50に被介助者が座った後は、回転レバー329の操作によってストッパとカムリング315との係合を解除し、シート50を水平方向に回転させてシート50を浴槽内上方に移動させることで、被介助者の移乗性向上を図っている。
続いて、回転台319に備わったワイヤ駆動部の構造について説明する。回転台319にはステンレスのパイプからなる本体フレーム320と、本体フレーム320に取付けられた駆動部取付けベース321と、駆動部取付けベース321の上方に取付けられたドラム350と、ドラム350から繰り出し又はドラム350で巻き取り可能なワイヤ100と、ドラム350を回転させてワイヤ100の繰り出し及び巻き取りを行うモータ323と、モータ323を駆動するバッテリ(図示せず)と、座面の昇降を制御する制御装置(図示せず)と、昇降スイッチを有したスイッチボックス(図示せず)を備えている。
また、本体フレーム320の一部には上述した回転レバー329が備わり、回転レバー329の操作によって上述したようにシート上限位置における一定角度範囲内の水平方向の回転を可能としている。
一方、ドラム350は、ドラム回転ボス351及びドラム支持板352によって本体フレーム320に回転可能に支持されている。また、ドラム350には一端がシート50に結合したワイヤ100の他端側が巻き付けられている。そして、ドラム350に巻かれたワイヤ100はワイヤガイド331によってドラム周面からのふくらみが抑えられるとともにワイヤ押さえ332によってもドラム周面からのふくらみが抑えられている。また、ワイヤ100の撓みによる座面の浴槽壁部への到達を検知するリミットスイッチ(図示せず)とワイヤ巻き取りによる座面の最上位置を検知するリミットスイッチ(図示せず)が本体フレーム320の適所に備わっている。
また、本体フレーム320のシート側前面部分にはプーリ軸及びプーリ台を介してプーリ370が備わっている。すなわち、プーリ370は、多段ガイド40における第1のガイド410の下方部分であって昇降装置30の本体フレーム320に取付けられている。そして、本体フレーム320の中間位置に配置されたドラム350から繰り出したワイヤ100がプーリ370を介して多段ガイド40の最下段ガイドにおける一方の連結部445に接続されている。
多段ガイド40は、図2に示すように、2列に配置した円筒状の多段ガイドであり、ガイド収容部をなす第1のガイド410と、この内側に摺動可能に備わる第2のガイド420と、さらにこの内側に摺動可能に備わる第3のガイド430と、最も内側に収納可能に備わる第4のガイド440からなるテレスコピックタイプの多段伸縮ガイドである。
なお、多段ガイド40は、全てステンレスでできており、浴槽内での長期間の使用に耐えられるようになっている。また、第1のガイド410の上部にはキャップ415が嵌められ、第1のガイド上部からの内側ガイドの突出を防止している。また、第2のガイド420には第2のガイド同士の間隔を保持するための第1架橋板425が取付けられ、第3のガイド430にも第3のガイド同士の間隔を保持する第2架橋板435が取付けられている。なお、第1架橋板425と第2架橋板435は多段ガイド昇降時の各段の左右ガイドを同期させて多段ガイド40の滑らかな伸縮を可能にする役目を果たしている。
一方、第4のガイド440の下端部は、取付け状態で水平方向に延在しており、図3に一部を示す2つの連結部445,446を介して互いに連結されている。そして、昇降装置側の一方の連結部445にワイヤ100の一端が連結されている。
多段ガイド40は、ここでは詳細には図示しないが、各ガイドの上端部に半割構造の外側ライナが備わり、各ガイドの下端部にはリング状のストッパ及び内側ライナが備わっている。そして、第1のガイド410乃至第3のガイド430の内周には摺動シートが備わり、外側のガイドの摺動シートに対してこれに隣接する内側のガイドの外側ライナが摺動することで、外側のガイドから内側のガイドが伸出するようになっている。また、内側ライナはストッパとともに各ガイドの下端にネジ止めされ、このガイドに摺設する内側ガイドの外側ライナが外側ガイドの内側ライナに突き当たることで、内側ガイドの抜けを防止している。
4段からなる多段ガイド40は、図2に示すように多段ガイド40を完全に伸ばした状態で、図6に示すように第1のガイド410に対する第2のガイド420の入り込み長さ(互いの重なり代)Laが最も大きく、第3のガイド430に対する第4のガイド440の入り込み長さ(互いの重なり代)Lcが最も短くなっている。
また、ガイド同士のがたつきを小さくするに際し、ガイドの外径が大きい場合と小さい場合とでは、ガイドの外径が小さい場合には、入り込み長さを小さくすることができる。従って、がたつきを抑えるために必要以上に入り込み長さを確保する必要がなく、多段ガイド40を縮めた状態で全長を短くできる一方、多段ガイド40を伸ばした状態で全長をかなり長くできる。
これによって、多段ガイド40のがたつきを最小限に抑えつつ、かつ多段ガイド40が縮んだときの長さを短くし、かつ多段ガイド40の直線部の全長(L1+L2+L3+L4)を例えば600mm程度まで長くすることができ、一般家庭で使用される浴槽の中で、かなり深さのある浴槽にも座面を浴槽底部まで到達可能としている。
このように、多段ガイドの伸出長を600mm程度まで十分確保した場合であっても、ガイド長すなわち多段ガイドが縮んだ時の長さを300mm程度に抑えることができる。従って、回転部310の必要寸法等を確保した上でも、介助装置自体の高さを350mm程度に低く抑えることができる。
一方、多段ガイド40には可動カバー450が取付けられている(図4及び図5にのみ図示)。なお、可動カバー450はC形のリングストッパを介して第1のガイド410にスライド可能に取付けられ、第2のガイド420が伸出することで背凭れ部540と共に下降するようになっている。これによって、可動カバー450は昇降装置30からのワイヤ繰り出し部335(図2参照)を覆い隠すとともに、シート50が下降する過程において生じるワイヤ露出部336(図2参照)を覆い隠す役目を果たしている。更に、可動カバー450の上部は湾曲して2列の第1のガイド間に入り込んでおり、湾曲部451が被介助者の頭載せ部455となっている。
続いて、背凭れ付きのシート50について説明する。
背凭れ付きのシート50は、図1に示すように、断面丸型のステンレスからなるパイプをシート状に折り曲げたシートフレーム510と、同じく断面丸型のパイプでできておりシートフレーム510の一部に設けられたアームレスト520と、シートフレーム510の着座位置に取付けられた座面530と、シートフレーム510の背凭れ位置に取付けられた背凭れ部540とを有している。そして、シートフレーム510の一部を上述した多段ガイド40の第4のガイド440及びこの連結部446に適当な締結具で結合することで、シート50が多段ガイド40にしっかりと固定されている。
なお、背凭れ部540の高さは、座面530の上限位置で多段ガイド40の上端部と同等の高さとなっている。より具体的には、背凭れ部540の高さは、例えば200mm乃至400mm、好ましくは350mm程度であり、被介助者がシート50に座った状態でその上端が被介助者の肩胛骨の下程度に位置するようになっている。なお、この程度の高さであれば、背凭れ部540が高すぎずに介助者の足を上げ易く、かつ低過ぎずに被介助者の上半身を支えるのに十分な高さといえる。
続いて、本実施形態にかかる入浴介助装置1の実際の使用方法について説明する。まず、図4に示すように、入浴介助装置1を浴槽のリムの一側縁部に載せる。そして、支持フレーム20のサイドフレーム220に備わった抑えプレート230が浴槽の内壁側面に突き当たるまでサイドフレーム220を幅調整する。サイドフレーム220が幅方向適所に位置決めされた後に、サイドフレーム220とメインフレーム210との固定を図示しないネジ等の締め付けで行う。このようにして、入浴介助装置1を浴槽のリムに簡単に取付けることができる。
なお、上述したように、多段ガイド40の上端部は背凭れ部540の上端部とほぼ同等の高さであるので、入浴介助装置自体の重心の位置が低くなり、特許文献2及び特許文献3に記載した入浴介助装置に比べて装置自体の浴槽後方への倒れが生じにくい。
次いで、被介助者をシート50に座らせる。この際、入浴介助装置1の昇降装置30に備わった回転レバー329を握ってカムリング315とストッパとの係合を解除する。これによって、シート50を一定の角度範囲内で水平に回転させることができ、シート50を浴槽の側方リムを越えて初期の回転位置に対して約90度程度まで回転させる。そして、この時点で回転レバー329を放して、ストッパとカムリング315とを係合させ、シート50が90度回転した位置でシート50を固定する。
そして、入浴介助装置1のシート50に被介助者を乗せる。これによって、被介助者に浴槽のリムを跨らせることなくシート50に座らせることができる。また、多段ガイド40の上端部の高さが背凭れ部540の高さと同程度であるので、介助者が被介助者をシート50に座らせる場合に、介助者が被介助者の肩を抱えたり頭を支えながら被介助者をシート50に座らせることができるので、介助が行い易い。
ここで、シート50の回転角度は90度以下でも良く、例えば45度とすることができる。このような回転角度に制限した入浴介助装置1は、特に浴室が狭く、シート50を90度回すと浴室の壁や壁に取付けてある水栓が邪魔で介助し難いといった場合の使用に適している。
続いて、回転レバー329を握ってカムリング315とストッパとの係合を再び解除し、シート50の回転を可能にして被介助者を浴槽内上方まで移動させる。この際、多段ガイド40の上端部の高さがシート50の背凭れ部程度の高さに抑えられているので、シート50の移動中、介助者が被介助者の肩を抱えたり頭や首を支えたりしながらシート50を容易に回転させることができる。また、多段ガイド40の高さがシート50の背凭れ部540と同程度であることで、被介助者の足を介助者が持ち上げてリムを跨らせる場合、被介助者の上半身を若干後ろに倒しながら足を持ち上げることができ、面倒な足の持ち上げ動作を簡単に行うことができる。
続いて、シート50が浴槽のちょうど上方部分に達したときに回転レバー329を放してストッパとカムリング315とを再び係合させる。これによって、シート50は浴槽の上方位置の適所で固定される。
続いて、図5に示すようにシート50を浴槽の底部まで下降させる。この下降に際しては、入浴介助装置1を制御する制御装置に備わったスイッチボックスの下降ボタンを押す。これによって、入浴介助装置1に備わったバッテリの電力を用いてモータ323を駆動し、ドラム350に巻かれたワイヤ100を昇降装置30からプーリ370(図2参照)を介して繰り出させ、シート50を下降させる。この下降にあたっては、多段ガイド40がテレスコピックタイプの多段ガイドとなっており、かつ2本の多段ガイド間が架橋構造となっているので、座面を滑らかに下降させることができ、被介助者の快適な入浴を可能とする。
また、昇降装置30には可動カバー450が備わっており、シート50が上限位置にあるときはワイヤ100の昇降装置からワイヤ繰り出し部335(図2参照)を覆い、かつシート50が下降するに従って一定の高さまで可動カバー450が下降するようになっている。そして、シート50が下降したときに背凭れ部540と可動カバー450とが協働してワイヤ繰り出し部335と繰り出したワイヤ100とを覆い隠すことができる。これに加えて、被介助者は可動カバー上部の頭載せ部455に頭を載せることができる。これによって、被介助者の快適な入浴を可能にする。なお、ワイヤ100は被介助者の体重を充分支えるような強度でできており、モータ323は、ウォームギヤを介して減速するようになっているので、シート50の昇降をゆっくりと快適に行うことができる。また、ウォームギヤを用いることでクラッチなどの複雑な構造を必要としないので、昇降装置30の部品点数を削減できる。
シート50が浴槽の底部に到達すると、ワイヤ100が撓んで図示しないリミットスイッチがこの撓みを検知し、モータ323によるワイヤ100の繰り出しを停止する。
なお、図6に示したように多段ガイド40が最も伸びた状態で多段ガイド40の最も太いパイプとこれに摺動するパイプの重なり代Laが最も大きく、多段ガイド40の最も細いパイプとこれに摺動するパイプとの重なり代Lcが最も小さくなっているので、多段ガイド40の上端部がシート50の背凭れ部540の高さと同程度であるにもかかわらず、多段ガイド40を十分な長さに伸出させることができる。これによって、シート50を様々な深さの浴槽の底部まで完全に到達させることが可能となる。すなわち、入浴介助装置1は、深さが深い浴槽であっても対応することが可能である。
また、多段ガイド間からワイヤ100を繰り出して多段ガイド間を通って座面下方にワイヤ端部を接続しており、従来のように座面の四隅をワイヤで吊るような構造を取っていない。そのため、シート50の揺れが無くなるのはもちろん、シート50の側方部分にワイヤを配置させる必要がなくなり、浴槽内のシート50の側方を有効な入浴スペースとして活用することができる。また、浴槽によっては側壁形状が湾曲しているような特殊な形状の浴槽もあるが、このような側壁部が直線的ではない浴槽に対しても、この入浴介助装置1を利用することができる。
また、本実施形態にかかる入浴介助装置は、シート50の昇降は入浴介助装置1に備わったモータ323とバッテリによってワイヤ100を繰り出したり巻き取ったりすることで行われ、家庭用電源などから電力を供給するタイプの入浴介助装置ではない。すなわち、バッテリの電力だけでシート50を昇降させることができるので、入浴時に仮に停電になったとしてもシート50の昇降に関して影響を受けることはない。
また、ワイヤ100はプーリ370を介してしてドラム350から繰り出されたりドラム350に巻き取られたりするようになっており、その繰り出し方向や巻き取り方向が多段ガイド40の伸出方向とかなり近くなっているので、モータ323の駆動力をシート50の昇降に効率的に伝えることができる。そのため、低消費電力でシート50の昇降を行うことができ、バッテリの小型化や長寿命化を実現できる。
さらには、図7(b)に示すように、ワイヤ100の端部は、座面530の後方であって座面530の形成面と多段ガイド40の伸縮方向との交差点と、座面530の後端部との間で、座面側に近い位置で連結されている(図7(a)、図7(b)ではプーリは図示省略)。そのため、図7(a)に示した場合と比較して明らかなように、被介助者の体重によって多段ガイド40の連結部を支点としてモーメントが発生するが、このモーメントによって最下段ガイド(第4のガイド440)のパイプの曲げ部分に作用する応力を極力小さくできる。これによって、第4のガイド440と第3のガイド430とが磨耗によりせることはない。
すなわち、図7(a)の場合、パイプ曲げ部にかかる力をF、ワイヤとパイプの接続部を支点としたモーメントをMとすると、近似的にM=W×a=F1×(L0−a)となる。従って、F1=W×a/(L0−a)となる。また、図7(b)の場合、F2=W×b/(L0−b)となり、a>bのため、F1>F2となり、本実施形態の場合における第4のガイド440の曲げ部に生じる曲げ応力を小さくできることが分る。なお、図7(a)の構造に比べて図7(b)の構造の方がワイヤ巻上げに関してモータの駆動力を余分に必要とするが、近年の小型モータはこれに十分耐えるだけの駆動力を有しており、図7(b)に示すように第4のガイド440の曲げ部に過大な曲げ応力を発生させないことによる利点の方が大きい。
また、多段ガイド40は2列配置されているので、強度を十分確保しつつ多段ガイド自体を小型化することができ、昇降装置30とシート50との間隔を狭めることができる。その結果、シート50が浴槽の壁面近傍に沿って昇降できるようになり、浴槽内をより広く利用することが可能になる。
また、多段ガイド40の第4のガイド440を構成する最も細いパイプの肉厚は他のパイプの肉厚よりも厚くなっている。これによって、多段ガイド40の最下段のパイプを細くすることができ、結果的に多段ガイド全体のパイプ径も小さくすることができる。その結果、昇降装置自体の小型化を図ることが可能となり、浴槽内を広く利用することができる。
このようにしてシート50を浴槽の底部まで到達させて被介助者の入浴を終了した後、再び制御装置に接続されたスイッチボックスの上昇ボタンを押してシート50を上昇させる。この場合、上述したように第4のガイド440のパイプ曲げ部に過大な曲げ応力が発生しないことと、平行するガイド同士を第1及び第2架橋板425,435で連結していることから、シート50を滑らかに上昇させることができる。
このようにして、シート50を再び最上位置まで上昇させ、リミットスイッチの検知によりシート55を上限位置で停止させた後、介助者が被介助者の肩を抱えたり首や頭を支えながら、被介助者の上半身を後ろに若干倒して被介助者の足を持ち上げる。そして、回転レバー329を握り、昇降装置30のカムリング315とストッパとの係合を解除して座面を回転させる。この際、多段ガイド40の上端部が座面の背凭れ部540の高さと同等の高さであり、かつ背凭れ部の上側が介助スペースとして確保できるので、上述したように被介助者を若干後ろに倒すことができ、これによって被介助者の足を介助者が持ち上げ易くなり、浴槽のリムを容易にまたがせることができる。このようにしてシート50を回転させて座面530がリムを超えたところで回転レバー329を離し、カムリング315とストッパとを再度係合させてシート50を固定する。そして、この時点で被介助者を浴槽の外に降ろし、被介助者の入浴を終える。これによって入浴後の被介助者の移乗性も向上させることができる。
本実施形態にかかる入浴介助装置1は、以上説明したことに加えて、入浴介助装置全体が簡単な構造となっており、支持フレーム20、昇降装置30、シート50をそれぞれ簡単に取り外すことができる。そのため、このような入浴介助装置1をレンタル品として提供したときに、支持フレーム20、シート50、昇降装置30を各ユニットとして取り換えることができ、レンタル品としての回収時のメンテナンス性を向上させる。
なお、上述した実施形態のように円形のテレスコピックタイプの多段ガイドを2本並べた形態とする代わりに、その変形例として、図8に示すように断面角型の多段ガイド60を1本だけ昇降装置30’に取付け、昇降装置30’のドラム350’から繰り出されたワイヤ100を多段ガイド60の上方部分に配置したプーリ370’を介して多段ガイド60の最下段部分の適所に連結し、ワイヤ100を多段ガイド60の内側に通す構成としても良い。
このように1本の多段ガイド60であっても横幅を広くすることによって、十分な強度を確保することができる。これによって、多段ガイドを2本用いることがなく、省スペースを図ることが可能となる。また、この場合、多段ガイドの最下段のガイドに座面取付け用の支持シャフト61を設け、シート55を着脱可能に取付けようにしても良い。
また、上述の実施形態と異なり、図9に示すようにモータ723に接続されたワイヤ巻き取り繰り出し用のドラム750を昇降装置70の下方に取付けるとともに、プーリ770を昇降装置70の座面側(前面側)であって昇降装置70の上部に取付け、ワイヤ100の一端をシート50より下方に接続しても良い。
また、プーリを介して巻き上げるように構成すれば、プーリの位置によって巻き上げる際の角度を小さくすることができる。すなわち、図9のプーリ770’のようにプーリをより上方に配置すれば、ワイヤの巻き上げ角度を小さくすることができ(図9の巻き上げ角度θ’参照)、モータをプーリより下方に配置して、重心を低くすることも可能となる。
これによって、小さなモータ駆動力でシート50の昇降を行えるようになり、バッテリの長寿命化を図ることができるので、省エネルギの観点から好ましい。
また、上述の実施形態における入浴介助装置の多段ガイドに関して、断面円形のパイプを用いる代わりに、断面四角のパイプを用いても良い。これらのパイプの断面寸法が同等の場合、断面円形のパイプより断面四角のパイプの方が断面二次モーメントが約1.6倍となるので、より全体的に細い多段ガイドで同様の強度を確保できる。その結果、浴槽の壁面と座面との隙間を狭くすることができ、浴槽内をより広く使用できるようになる。