JP4524465B2 - 抗アレルギー剤 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、アレルギー症状を効果的に軽減させることのできる抗アレルギー剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
アレルギー疾患は増加の一途をたどり、今や、国民の3割が何らかのアレルギー症状を訴えるほどの深刻な問題となっている。代表的な症状としては、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎等の症状が挙げられる。アレルギー疾患増加の要因としては、食生活や住環境の変化、大気汚染、植林政策、各種ストレスの増加、過剰な衛生志向等が指摘されており、現代病の一つと言うこともできる。
【0003】
これらのアレルギー疾患は、多くの場合1型アレルギー反応と呼ばれる反応によって引き起こされる。1型アレルギー反応は、抗原感作による特異的イムノグロブリンE(IgE)の産生、産生されたIgEのマスト細胞との結合、マスト細胞結合IgEへの再侵入した抗原の架橋、マスト細胞からのケミカルメディエーターの遊離、遊離されたケミカルメディエーターによる毛細血管の透過性増大および平滑筋収縮、という多段階のステップを経て惹起される。そして、実際に起こる各種のアレルギー症状とは、例えば鼻炎、喘息等では、毛細血管の透過性増大に始まる炎症反応、あるいは喘息に代表される平滑筋収縮という反応によって代表される。
【0004】
なお、ケミカルメディエーターとは、炎症反応に含まれる細胞間の情報伝達物質の総称であるが、本発明においては、抗原の刺激によってマスト細胞や好塩基球から遊離される、ヒスタミンに代表される化学物質類のことを指す(生化学辞典第3版、東京化学同人、1998)。
アレルギー症状は、重篤な場合には医薬品等によって効果的に軽減させなければならない。
【0005】
一方、食品由来の抗アレルギー成分にも大きな関心が向けられている。古くから食されている食品由来の成分は、その安全性が長い間の食経験により確かめられており、医薬品にしばしば見られるような副作用を持つものが少ない。そのため、対症療法的な使用方法のみならず、日常的な摂取による予防的な使用も可能となる。
現在、抗アレルギー用食品とされているものは、そのほとんどがマスト細胞からのケミカルメディエーター遊離抑制作用を持つ成分が配合されているものである。成分の代表的なものとしては、甜茶抽出物、バラ花びら抽出物、リンゴ抽出物、シソ抽出物等がよく知られている。
ケミカルメディエーターが産生される経路についても詳細に調べられており、2つの産生経路−シクロオキシゲナーゼ経路およびリポキシゲナーゼ経路−のあることがわかっている。これらの経路に対する作用は抗アレルギー成分によって異なり、例えば甜茶抽出物は前者の経路を、シソ種子抽出物は後者の経路を抑制することが知られている。このことから、異なる抽出物を同時に配合することによって、異なるケミカルメディエーター産生経路を同時に抑制し、細胞からのケミカルメディエーター遊離を効率的に抑制する抗アレルギー用食品も考案されている(特開平11-056297号公報)。
【0006】
一方、アレルギーの発症は、すでに述べたように、IgEの産生、IgEのマスト細胞との結合、ケミカルメディエーターの遊離、および遊離されたケミカルメディエーターによる毛細血管の透過性増大あるいは平滑筋収縮という一連の反応によって起こる。したがって、実際のアレルギー症状を効果的に抑制するためには、ケミカルメディエーター遊離の抑制だけでは十分とは言えない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、従来の抗アレルギー用食品は、ケミカルメディエーターの遊離を抑制する成分の配合にとどまっており、アレルギー症状を引き起こす最も直接的なステップである毛細血管の透過性増大を抑制する成分を配合したものはなかった。本発明者らは、ケミカルメディエーターの遊離を抑制する成分に加えて、毛細血管の透過性を抑制することが知られているヘスペリジンを同時に配合することで、実際のアレルギー症状をより効果的に軽減させることを見出した。従って本発明は、効果的な抗アレルギー剤を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
1型アレルギー反応の一連のステップは既に説明した通りであるが、そのステップの中で、どれか一つでも完全に抑制することができれば、理論的にはアレルギー症状は起こらない。しかし、通常、そのようなアレルギー発症までのステップを完全に抑制することはきわめて難しく、1つのステップの抑制のみでは現実的にはある程度の抑制効果しか示さない。特に、食品に医薬品のような強い作用を期待することは難しく、また、特定のステップに対する強い作用は、副作用の可能性も考慮しなければならない。
【0009】
そこで、我々は、それぞれのステップに対しては穏やかな抑制作用であっても、それらを組み合わせることでアレルギー症状を効果的に緩和させることができないかと考え、食品由来の成分を対象に様々な可能性を鋭意検討した。その結果、ケミカルメディエーター遊離を抑制する成分に加えて、ヘスペリジンを同時に配合することで、アレルギー症状をより効果的に軽減させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に使用するケミカルメディエーター遊離抑制物質としては、甜茶抽出物を挙げることができる。甜茶抽出物は、中国広西壮族自治区に自生しているバラ科植物Rubus suavissimus S. Leeの茶葉の熱水抽出物であり、サンテンチャ(登録商標)としてよく知られている。ケミカルメディエーター遊離抑制の活性本体は、甜茶ポリフェノールであるエラジタンニンであることが解明されている(平井、食品と開発、vol.32, p22-24, 1997)。
【0011】
ヘスペリジンは、毛細血管の強化、透過性増大の抑制、出血予防、血圧調整等の生理作用を有する働きがあり、ビタミンPとも呼ばれる(日本ビタミン学会、ビタミンハンドブック2−水溶性ビタミン、p195, 1989、化学同人)。また、このような働きは、ビタミンCと併用することでより効果的になる場合のあることも知られている(島薗、万木、ビタミンII、p400-405, 1980、共立出版;日本ビタミン学会、新ビタミン学、p439-441, 1969、日本ビタミン学会)。
【0012】
本発明に使用するヘスペリジンとしては、ヘスペリジンやヘスペリジンを多く含む抽出物を糖転移酵素等により処理した酵素処理ヘスペリジンを挙げることができる。このようなヘスペリジンとして柑橘類の果汁や果皮から抽出したものを用いることができる。ヘスペリジンの供給源としては、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ミカン、キンカン等食用に供されるものから得られたものであれば使用可能であり、抽出精製されたヘスペリジンでもよいし、ヘスペリジンを含むフラボノイド画分でもよい。ヘスペリジンは、水への溶解性がきわめて低く、アルコールなどにもほとんど溶解しないが、糖転移酵素により処理することによって水溶性が高められる。飲料を製造する際、このような酵素処理ヘスペリジン(特開平3-7593号公報、特開平10-70994号公報)を使用する。これらの抽出物やヘスペリジンは、いずれも長い間日常的に食されてきた食品に由来するものであり、その安全性はきわめて高い。
【0013】
抗アレルギー剤は、飲料をはじめとして、飴、キャンディー、ガム等の固形食品、クリーム状あるいはジャム状の半流動食品、ゼリー等のゲル状食品等、食品として通常考えられる様々な形態の食品に配合することが可能である。また、それぞれの配合量は、一律に限定されるものではなく、製造される食品の形態、風味、効果等を総合的に考慮して決定される。甜茶抽出物は、1日あたりそれぞれの抽出物の固形量換算で10〜1,000mg、酵素処理ヘスペリジンは5〜500mg摂取すれば、抗アレルギー効果が発揮されるので、この量が摂取できるように配合すればよい。
【0014】
なお、ケミカルメディエーター遊離抑制物質及び酵素処理ヘスペリジンを飲料に配合する場合には、飲料100mlで抗アレルギー効果を発揮するように配合すると、アレルギー患者の治療や健康管理を行う上で利便性が高い。例えば清涼飲料、お茶、果汁飲料や乳飲料等に、ケミカルメディエーター遊離抑制物質として前述の甜茶抽出物0.01〜1重量%を、酵素処理ヘスペリジンを0.005〜0.5重量%を添加すれば、この飲料100mlを摂取するだけで、ケミカルメディエーター遊離抑制物質を10〜1,000mg、酵素処理ヘスペリジンを5〜500mg摂取することができ、目的とする抗アレルギー効果を期待できる。以下に実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
【実施例1】
表1に示す配合で本発明の抗アレルギー剤を含む原料を混合した後、140℃で3秒間加熱殺菌し、紙パックに200mlずつ充填して、抗アレルギー用飲食品である飲料を製造した。
【0016】
【表1】
【0017】
なお、この飲料200ml中には、甜茶抽出物が固形量換算で300mg、酵素処理ヘスペリジンが30mg含まれていた。
【0018】
【参考例1】
表2に示す配合で原料を混合した後、140℃で3秒間加熱殺菌し、紙パックに200mlずつ充填して、飲料を製造した。
【0019】
【表2】
【0020】
なお、この飲料200ml中には、バラ花びら抽出物が固形量換算で300mg、酵素処理ヘスペリジンが30mg含まれていた。
【0021】
【実施例2】
上白糖70重量部と水飴(水分30%)25重量部を、水蒸気で温度が140℃になるまで加熱しながら混和、撹拌し、完全に溶解したことを確認した後、水道水で100℃まで温度を下げ、本発明の抗アレルギー剤である甜茶抽出物(サントリー社製)3重量部及び酵素処理ヘスペリジン(東洋精糖社製)2重量部を加えて撹拌し、水道水で約60℃に温度を下げて棒状に成形し、小判状に3gずつ打錠して、抗アレルギー用食品である飴を製造した。
【0022】
なお、この飴3g中には、甜茶抽出物が固形量換算で90mg、酵素処理ヘスペリジンが60mg含まれていた。
【0023】
【実施例3】
表3に示した配合で本発明の抗アレルギー剤を含むゼリーミックスを調製し、分散溶解してから90℃まで湯煎で加熱した後、70℃まで冷却した時点で、容器に100gずつ充填して冷却し、抗アレルギー食品であるゼリーを製造した。
【0024】
【表3】
【0025】
なお、このゼリー100g中には、甜茶抽出物が固形量換算で150mg、酵素処理ヘスペリジンが15mg含まれていた。
【0026】
【発明の効果】
【試験例1】
本発明の効果を確認するために、ケミカルメディエーター遊離抑制物質である甜茶抽出物と、酵素処理ヘスペリジンについて、それぞれを単独で用いた場合と、同時に用いた場合の抗アレルギー効果を調べた。
ddY系マウス(6週齢、雌、24匹)を、甜茶抽出物投与群(A群)、酵素処理ヘスペリジン投与群(B群)、甜茶抽出物及び酵素所処理ヘスペリジン投与群(C群)、対照群(D群)に分け、A群には甜茶抽出物(サントリー社製、サンテンチャ)25mgを水0.2mlに溶解したもの、B群には酵素処理ヘスペリジン(東洋精糖社製)2.5mgを水0.2mlに溶解したもの、C群には甜茶抽出物25mg及び酵素処理ヘスペリジン(東洋精糖社製)2.5mgを水0.2mlに溶解したもの、D群には水0.2mlを、1日1回、7日間経口投与した。なお、7日目の投与は、アレルギー反応惹起の1時間前に投与を行った。
マウスは、投与5日目に、両方の耳介にDNP特異的IgE抗体 62.5μg/mlを10μl皮内投与することで感作し、投与7日目に0.2mlの0.25%エバンスブルー含有生理食塩水に溶解したDNP結合ウシ血清アルブミン(DNP-BSA)0.05mgを静脈投与することでアレルギー反応を惹起した。惹起30分後、耳介に滲出したエバンスブルーを、1mlのホルムアミドで抽出し、その濃度を620nmの吸光度で測定し、アレルギー反応の強さとした。その結果を図1に示す。
【0027】
これによると、甜茶抽出物及び酵素処理ヘスペリジンを単独投与したA群及びB群では、対照であるD群との有意差は認められなかったが、甜茶抽出物と酵素処理ヘスペリジンを投与したC群では、A、B及びD群との有意差が認められた。このことは、甜茶抽出物及び酵素処理ヘスペリジンの相乗効果により抗アレルギー効果が増強されたことを示している。
【0028】
【試験例2】
試験例1で用いたddy系マウスのかわりにWister系ラット(6週令、雄)を用いて、1群を5匹とし、甜茶抽出物及び酵素処理ヘスペリジンの投与量をそれぞれ100mg/1ml、10mg/1mlとした以外は、同様にして11日間投与した。最終投与の1時間後に、剃毛した背部にDNP特異的IgE抗体 62.5μg/mlを50μl皮内投与することで感作し、18時間後に1mlの0.5%エバンスブルー含有生理食塩水に溶解したDNP-BSA 1mgを静脈投与することでアレルギー反応を惹起した。惹起30分後、背部皮内の感作した部分に滲出したエバンスブルーを、5mlのホルムアミドで抽出し、その濃度を620nmの吸光度で測定し、アレルギー反応の強さとした。その結果を図2に示す。
【0029】
これによると、甜茶抽出物及び酵素処理ヘスペリジンを単独投与したA群及びB群、甜茶抽出物と酵素処理ヘスペリジンを混合して投与したC群は、対照であるD群との有意差が認められた。さらにC群は、A群及びB群との有意差が認められた。このことは、甜茶抽出物及び酵素処理ヘスペリジンの相乗効果により抗アレルギー効果が増強されたことを示している。
【0030】
以上の試験結果から、ケミカルメディエーター遊離を抑制する成分に加えて、酵素処理ヘスペリジンを同時に配合することで、実際のアレルギー症状をより効果的に軽減させることが可能であることが確認された。従って、本発明の実施により、有効な抗アレルギー剤が提供される。
【0031】
【図面の簡単な説明】
【図1】甜茶抽出物と酵素処理ヘスペリジンのマウス耳介におけるアレルギー反応の抑制効果を示す。
【図2】甜茶抽出物と酵素処理ヘスペリジンのラット背部皮内におけるアレルギー反応の抑制効果を示す。
Claims (3)
- 甜茶抽出物と酵素処理ヘスペリジンとを組み合わせたことを特徴とする抗アレルギー剤。
- 酵素処理ヘスペリジンが柑橘類から抽出されたものである請求項1記載の抗アレルギー剤。
- 柑橘類がレモン、オレンジ、グレープフルーツ、ミカン、キンカン、カラタチ、ユズの中から選ばれる1種または2種以上である請求項2記載の抗アレルギー剤。
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