JP4504632B2 - 湿式剥離性に優れた熱接着貼り紙 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、書や絵画などの作品の表装における裏打紙や障子紙、壁紙等、貼り付け、はがしを繰返す対象物に適用する熱接着貼り紙に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱接着貼り紙は、ホットメルト接着剤(HM)として熱可塑性樹脂層を紙の片面に設けたもので古くから知られており、剥離に際して対象物を傷めず再度の貼り紙に支障のないような剥離性を得るための改善策が多く提案されている。
【0003】
係る熱接着貼り紙の剥離の方式としては、基本的には湿式と乾式とがある。湿式による方式は、特許文献1に開示されているように、紙の片面に熱可塑性樹脂層を水溶性の樹脂から形成し、剥離に際して加湿・加水することによって簡単に表装を作品から剥がすことができる貼り紙としたものである。
【0004】
しかしながら、この湿式法においては、剥離に際して加湿・加水するという手間を要すると共に、本紙(作品)側に水溶性HM樹脂が不均一に汚れとして残り、再表装する前に水溶性HM樹脂を洗い流し、除去する工程が必要となる欠点がある。
【0005】
また、乾式による方式は、裏打紙自体を内部破壊によって剥離できる紙で形成する方式、また、裏打紙を剥離性の良い層を含む多層漉きにした貼り付け紙による方式である。とくに、本願出願人が出願した特許文献2には、片面にホットメルト接着剤層を設けた作品に接する側を多層漉きとし、この多層漉きの各層の少なくとも一つの層間に層間剥離を生じる機能を付与せしめた剥離可能な貼り付け紙を開示した。この方式は、湿式における梅雨時期や湿気の多い場所での表装の層間剥離や作品への樹脂(糊分)の浸出による作品の汚れの問題、剥離に際して熟練を要する、また剥離できたとしても、紙層に厚薄が出たりして次の表装に支障をきたすという問題の解消をその課題としたものである。
【0006】
しかしながら、この方式は、貼り付け、再表装のための剥離作業が比較的簡単であるという利点があるが、剥離面が平滑性を欠くとともに、再表装の層間剥離した本紙側(作品)に極薄のHM樹脂層と薄紙が残り、わずかではあるが肉厚となる問題がある。
【0007】
【特許文献1】
特開昭58−23867号公報
【0008】
【特許文献2】
特願2001−265104号明細書
【0009】
【特許文献3】
特公平1−59298号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、ホットメルト接着剤(以下、HMとも称する。)を紙の片面に設けた貼り付け紙の接着性と剥離性の更なる改善にある。
【0011】
また、本発明の他の課題は、作品を簡単に裏打ちができて、使用中の強度に耐える接着力を維持し、作品を傷めることなく、汚さず、簡単に作品だけを剥がすことができる湿式剥離性に優れた熱接着紙を提供することにある。
【0012】
さらに、他の課題は、剥離後、作品を洗いに供することなく、再表装ができる熱接着貼り紙を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、作品に貼着した熱接着紙の素人による剥離は、剥離後のシミによる汚れの影響さえなければ、乾式よりも湿式による方式の方が格段に容易であるという認識の上に立つものである。
【0014】
そして、熱可塑性の疎水性ポリマーを水に分散したポリマー水性分散液からなるHM層が、上記課題を達成できるという知見を得たことによる。すなわち、熱可塑性の疎水性ポリマーを水に分散したポリマー水性分散液からなるHM層を紙の片面に形成した熱接着貼り紙は、作品への貼り付けに際して、接着が一様で、接着後の状態が極めて良く、しかも、剥離に際しては、接着面に霧吹きのような手段で湿性を賦与することによって、簡単に必要部分を剥離でき、その上、剥離面は綺麗で、再度の貼り付けにも何らの影響がない。
【0015】
このポリマー水性分散液としては、特許文献3に記載の融点が50〜130℃のポリオレフィン系熱可塑性樹脂からなるポリマー100重量部を、
(A) 成分として、
【0016】
【式1】
(B) 成分として、
【0017】
【式2】
式中、R1はHまたはCH2;
R2はC1〜C4のアルキレン基またはヒドロキシ置換アルキレン基;
R3とR4はHまたはC1〜C4のアルキル基;
R5はC1〜C22のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアラルキル基;
AはOまたはNHである。
上記親水性寄与成分の(A)成分と親油性寄与成分の(B)成分との共重合体を酸で一部または全部を中和した中和物2〜30重量部を用いて前記ポリマーの可塑化温度以上の温度で水に分散させたポリマー水性分散液を好適に使用できる。
【0018】
このポリマー水性分散液は、大日精化工業株式会社からセカイダイン(商標名)として発売されている接着剤であって、この接着剤は、ポリオレフィン系フィルムのPEやPPの単体または複合フィルムに、グラビア印刷機によって、フィルム製袋の接着部分の両面に部分コーティングして、シール部分を形成して中身を詰めたのち熱接着してシールするのに使用され、部分コーティング可能なため袋の透明性が良く、熱シール部のイージーピール性に優れているものである。具体的には、紙の片面に熱可塑性の疎水性ポリマーを水に分散したポリマー水性分散液からなるホットメルト層をグラビア印刷によって8〜30ミクロン厚に形成することによって、貼着時には強固な接着性を示し、剥離時には湿式剥離性に優れた熱接着貼り紙であって、前記ポリマー水性分散液が、融点が50〜130℃のエチレン−酢ビ共重合体からなるポリマー100重量部に、親水性寄与成分のジメチルアミノエチルメタクリレートを10〜80モル%と親油性寄与成分のブチルメタクリレートを90〜20モル%の2成分からなる共重合体を酸で中和した中和物の2〜30重量部を用いて、前記エチレン−酢ビ共重合体の可塑化温度以上の温度で水に分散させてなり、その分散粒子が平均粒径が1ミクロンであり、且つ、その粘性が100cPのポリマー水性分散液であることを特徴とする。
【0019】
しかしながら、この分散液は熱接着貼り紙用のHMとして、とくに、湿式による剥離性に優れており、しかも、剥離後、対象作品を汚すことが全くないという特性を有することの知見は全く予想外のことであり、熱接着貼り紙の更なる展開に大きく貢献する。
【0020】
すなわち、ポリマー水性分散液から得たHMを、PPなどの疎水性フィルムではなく、親水性の紙材に塗工・乾燥するために、HMは紙材の表面層の隙間へ浸透し造膜固化するためにファスナー効果やアンカー効果が働き、HM層と紙材は強固に一体化する。一方、作品へ本発明のHM裏打紙を貼着するときは、作品の支持体が紙材などの親水性素材であっても、既に造膜されたHM層は紙材の中まで浸透することはない。むしろ、HM層表面に極薄層で点在するであろう前記(A)成分や(B)成分が接着を阻害するため、乾燥時であっても、作品側の方が接着力は弱いと思われるが、その接着力は作品を構成する紙材等の内部結合力より強ければ問題ない。そして、表装体を加湿して剥離する際に、(A)成分が吸水し膨潤・溶解して微細な部分で接着阻害剤として働いているとき、外部より剥離する力が働くと、簡単に剥がれてHM成分は裏打紙側に残り作品側には残らないものと思われる。
【0021】
このポリマー水性分散液の熱接着紙への塗布は、このポリマー水性分散液は、分散粒子が平均粒径1ミクロンであり、その粘性は100mPa・s(=cP)程度であるので、グラビア印刷等によって簡単に塗布できる。その塗布層の厚みは、安定した接着強度を得る点から、下地層を設けない場合は、8〜30ミクロン厚、とくに、10〜15ミクロン厚程度が好ましい。
【0022】
その塗布面の乾燥は、分散液の造膜温度の点から、通常の加熱乾燥炉内で100〜120℃で、短時間、例えば、5〜10秒間保持することによって、ブロッキング性の良好な熱接着紙が得られる。
【0023】
この熱接着紙は、80〜120℃の温度で5〜20秒間、加圧・加熱処理して作品の裏面に貼着することで表装体が得られる。
【0024】
そして、その剥離に際しては、通常の湿式による剥離と同様に、接着部分を室温下で霧吹き等の手段で加湿することによって簡単に剥離することができ、剥離後の書画などの描かれた作品本体、すなわち、本紙は、タック(べたつき)が無く平滑であって、しかもHMによって作品が汚されることがなく、また、再表装にも悪影響を及ぼすことはない。
【0025】
本発明のHM層は、下地層を設けたことによって、紙の吸湿性、表面状態に影響されることなく、その上に形成したHM層の均一性を改善することができ、これによって、熱接着紙の品質を高め、作品の裏面への加圧・加熱処理による貼着をよりスムーズに行うことができる。
【0026】
この下地層は、HM層と馴染み性のよい疎水性熱可塑性樹脂であるPE、PP、EVA、アイオノマー樹脂等のポリオレフィン系樹脂を用いることができ、HM層を形成する紙の片面に、Tダイスより押出しラミネートする方法、HMフイルムを接着剤又は加熱により接着することによって、10〜30μmの厚みに形成し、その表面に、コロナ放電処理をして、接着力を高めるための処理をすることによって形成する。
【0027】
そして、この下地層の上に熱可塑性の疎水性ポリマーを水に分散して得たホットメルトとしての水性分散液を塗布し、100〜120℃の雰囲気中に短時間保持して20〜3ミクロン厚のHM層に形成する。
【0028】
なお、下地層として、融点が70°から100°Cのポリオレフィン系樹脂を選定した場合は、下地層もホットメルト層となるため、上記ホットメルト層は少量でよい。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、実施例に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
実施例1
この例は、下地層を形成することなしに、紙の片面のホットメルト層を形成した例を示す。
【0031】
ポリマー水性分散液として、大日精化工業株式会社製のセイカダイン1900Wを使用した。このポリマー水性分散液は、外観は乳白色のエマルジョンであって、樹脂系はEVA系、固形分は50%、粘度は、100cPs、PHは5、最低造膜温度は60℃とされるものであった。
【0032】
このセイカダイン1900Wは、市販のエバフレックス220粘着剤(三井デュポンポリケミカル株式会社製、商標名:組成エチレン−酢ビ共重合体 融点が75℃の粘着剤)100重量部を、
(A)成分として、DMMA(三菱レイヨン株式会社製、商標名:組成ジメチルアミノエチルメタアクリレート)を20モル%と、
(B)成分として、BMA(三菱レイヨン株式会社製、商標名:組成ブチルメタアクリレート)を80モル%との共重合体を酸で中和した中和物15重量部を用いて、前記高分子物の可塑化温度以上の温度130℃で水に分散させて得られたものとされている。
【0033】
この水溶性分散剤を100g/m2の紙材に、40ミクロンのグラビア版で3回印刷の条件で塗布し、120℃ 5秒の条件で乾燥して、12ミクロンの厚みにHM層を形成した貼り付け紙(裏打紙)を得た。
【0034】
この貼り付け紙を105℃ 15秒の条件で表装した。表装後の状態は、外観上も問題無く接着力も十分であった。
【0035】
こうして得られた貼り付け紙を以下の条件で剥離テストを行った。剥離時の状態、並びに剥離後の状態は、以下のとおりであった。
【0036】
【表1】
表装されるものとして、35g/m2の画仙紙に書を書いた作品を用いた。その画仙紙の内部結合力は、52gf/15mm幅であった。
【0037】
SM工業株式会社(東京都世田谷区野沢3−31−4)製SMプレッサーY型を用い、プレス機のスポンジを敷いた台の上に、本発明の裏打紙を、HM層を上向きにして置き、その上に作品を乗せて、作品の裏面がHM層に接するようにセットして、105℃で15秒間、通常の使用圧力で貼着した。貼着後の表面状態は平滑で、貼着状態も優れたものであった。
【0038】
剥離に際しての加湿は、アクリル板の上へ表装された作品(表装体)を下向きにして置き、市販のスプレーで水道水を表層体の裏面より吹き付け、水分がHM面へ全面に行き渡り、表装体がアクリル板へ貼り付く程度に施した。表層体の裏面を構成する裏打紙の一隅より裏打紙を剥して、作品だけをアクリル板へ貼り付けたまま残して、乾燥した後に剥離して、再表装前の本紙として評価した。
【0039】
同表に示す 比較例1は、裏打ち紙として、市販の株式会社大昌(住所:広島県甲奴郡上下町)製「オフスターチ100」( 主成分:水溶性接着剤(ポリエチレングリコール系+α))にHM成分としてポリカプロラクトンを付加したもので、実施例と同様の表装と剥離試験を行った。
【0040】
その結果、本発明の貼り付け紙は、作品をこれで裏打ちして表装した後、表装体を剥離した際、本紙側にHM樹脂が残らず、傷めずに作品を表装前のきれいな状態に戻すことが出来る特性を有するもので、比較例と対比して、格段に優れたものであった。
【0041】
実施例2
この例は、実施例1に記載のHM層を形成するに先だって下地層を形成した例を示す。100g/m2の紙材の片面にEVAをTダイスでラミネートして15μmの厚みで下地層を形成した。その上にこの水溶性分散剤を40μmのグラビア版で1回印刷の条件で塗布し、120°Cで5秒で乾燥して、4μmの厚みに形成し、合計19μm厚のHM層を形成した。この下地層を有するHM層を形成した貼り付け紙は、使用した紙材の表面状態、湿度に相当のバラツキがあっても、得られた貼り付け紙(裏打紙)の特性は、実施例1の場合と同様であったが、何れの場合も、その特性にはバラツキが認められなかった。
【0042】
【発明の効果】
本発明によって以下の効果が奏せられる。
【0043】
1. 本発明の貼り紙で貼着した表装物から、霧吹き等の加湿によって、被着体の作品を簡単に、しかも綺麗に剥離することが出来る。
【0044】
2. 従来、剥離した作品側の水溶性接着剤を洗い流すために比較的長時間水洗を行う必要があったのに対して、本発明の貼り紙の剥離作業は短時間で可能である。
【0045】
3. 従来の剥離作業中ののり洗い流し作業は、作品の紙質が書道用紙などであるため極めて弱く、更に色合い濃淡などの色調を変化させないなど、細心の注意を要する作業であったのに対して、本発明の貼り紙の剥離作業は、のり洗い流し作業がないために熟練を必要としない。
【0046】
4. 剥離した作品側に、水溶性接着剤が残らないため、書画が描かれた本紙が染みにならない。
【0047】
5. 剥離した作品側に、水溶性接着剤が残らないため、描かれた水墨画の墨色を元のままに維持することが出来る。
【0048】
6. 従来の水溶性HM裏打紙の巻紙は一定以上の水分を吸湿し乾燥すると、ブロッキングが発生するのに対して、本発明品は、水分+70℃以上の加温がない限り、自然乾燥ではブロッキングを起こすことはない。
【0049】
7. 本発明のMH層に下地層を設けることによって、その特性にバラツキのない貼り紙が得られる。
Claims (2)
- 紙の片面に熱可塑性の疎水性ポリマーを水に分散したポリマー水性分散液からなるホットメルト層をグラビア印刷によって8〜30ミクロン厚に形成することによって、貼着時には強固な接着性を示し、剥離時には湿式剥離性に優れた熱接着貼り紙であって、
前記ポリマー水性分散液が、
融点が50〜130℃のエチレン−酢ビ共重合体からなるポリマー100重量部に、親水性寄与成分のジメチルアミノエチルメタクリレートを10〜80モル%と親油性寄与成分のブチルメタクリレートを90〜20モル%の2成分からなる共重合体を酸で中和した中和物の2〜30重量部を用いて、前記エチレン−酢ビ共重合体の可塑化温度以上の温度で水に分散させてなり、
その分散粒子が平均粒径が1ミクロンであり、且つ、その粘性が100cPのポリマー水性分散液である湿式剥離性に優れた熱接着貼り紙。 - ホットメルト層の下にポリオレフィン系樹脂を10〜30μmの厚みに形成した下地層を有する請求項1に記載の湿式剥離性に優れた熱接着貼り紙。
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