以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る車両の制動制御装置について説明する。
図1には、本実施形態に係る車両の制動制御装置10の油圧回路が示されている。車両の制動制御装置10は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応答してブレーキオイル(作動油)を圧送するマスタシリンダ14を有している。マスタシリンダ14は、その両側の圧縮コイルばねにより所定の位置に付勢されたフリーピストン16により画成された第一のマスタシリンダ室14Aと第二のマスタシリンダ室14Bとを有している。なお、第一,第二のマスタシリンダ室14A,14Bの油圧は、マスタシリンダ圧センサ13により検出されている。また、ブレーキペダル12の踏み込み量は、ブレーキペダルストロークセンサ(図2参照)により検出されている。
第一のマスタシリンダ室14Aには前輪用のブレーキ油圧制御導管18Fの一端が接続され、ブレーキ油圧制御導管18Fの他端には左前輪用のブレーキ油圧制御導管20FL及び右前輪用のブレーキ油圧制御導管20FRの一端が接続されている。ブレーキ油圧制御導管18Fの途中には前輪用の連通制御弁22Fが設けられている。ここで、連通制御弁22Fは、常開型のリニアソレノイド弁である。連通制御弁22Fの両側のブレーキ油圧制御導管18Fには第一のマスタシリンダ室14Aよりブレーキ油圧制御導管20FL又はブレーキ油圧制御導管20FRへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管24Fが接続されている。
左前輪用のブレーキ油圧制御導管20FL及び右前輪用のブレーキ油圧制御導管20FRの他端にはそれぞれ左前輪及び右前輪の制動力を発生する制動力発生装置のホイールシリンダ26FL,26FRが接続されている。左前輪用のブレーキ油圧制御導管20FL及び右前輪用のブレーキ油圧制御導管20FRの途中には、それぞれ差圧制御弁28FL,28FRが設けられている。ここで、差圧制御弁28FL,28FRは、常開型のリニアソレノイド弁である。差圧制御弁28FL,28FRの両側のブレーキ油圧制御導管20FL,20FRにはそれぞれホイールシリンダ26FL,26FRよりブレーキ油圧制御導管18Fへ向かうオイルの流れのみを許す逆止バイパス導管30FL,30FRが接続されている。
差圧制御弁28FLとホイールシリンダ26FLとの間のブレーキ油圧制御導管20FLにはオイル排出導管32FLの一端が接続され、差圧制御弁28FRとホイールシリンダ26FRとの間のブレーキ油圧制御導管20FRにはオイル排出導管32FRの一端が接続されている。オイル排出導管32FL,32FRの途中にはそれぞれ常閉型の減圧制御弁34FL,34FRが設けられており、オイル排出導管32FL,32FRの他端は、接続導管36Fを介して前輪用のリザーバ38Fに接続されている。
以上に説明したように、差圧制御弁28FL,28FRはそれぞれホイールシリンダ26FL,26FR内の圧力を増圧又は保持するための増圧弁であり、減圧制御弁34FL,34FRはそれぞれホイールシリンダ26FL,26FR内の圧力を減圧するための減圧弁である。従って差圧制御弁28FL及び減圧制御弁34FLは互いに共働して左前輪のホイールシリンダ26FL内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を構成しており、差圧制御弁28FR及び減圧制御弁34FRは互いに共働して右前輪のホイールシリンダ26FR内の圧力を増減し保持するための増減圧弁を構成している。
接続導管36Fは、接続導管40Fを介してポンプ42Fの吸入側に接続されている。ポンプ42Fの吐出側は、途中にダンパ48Fを有する接続導管50Fを介してブレーキ油圧制御導管18Fに接続されている。接続導管50Fにはポンプ42Fよりダンパ48Fへ向かうオイルの流れのみを許す逆止弁52Fが設けられている。なお、ポンプ42Fは、電動機56により駆動される。
リザーバ38Fは、ピストンの上下動に連動して開閉が切り替えられる開閉弁を含んでいる。接続導管の一端はリザーバ38Fに接続されており、接続導管の他端はブレーキ油圧制御導管18Fに接続されている。なお、図示されるとおり、後輪側の油圧回路は、上述した前輪側の油圧回路と同様な構成となっている。
図2には、本実施形態に係る車両の制動制御装置10の機能ブロックが示されている。電子制御装置(Electrical Control Unit:ECU)60は、連通制御弁22F,22R、差圧制御弁28FL〜28RR、減圧制御弁34FL〜34RR、及びモータ56の駆動を制御するための構成である。ECU60は、物理的には、CPU[Central ProcessingUnit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、電流制御用トランジスタなどからなる。ECU60では、制動制御装置10が起動されると、ROMに記憶されている専用のアプリケーションプログラムがRAMにロードされ、CPUによってそのプログラムに記述された各処理が実行される。また、ECU60は、機能的には、ホイールシリンダ圧の目標値を演算するためのホイールシリンダ圧目標値演算部62と、ホイールシリンダ圧の推定値を演算するためのホイールシリンダ圧推定値演算部64と、各制御弁及びモータの駆動を制御する制御部66と、各制御弁に対応して設けられた電流供給部68〜72と、モータに対応して設けられた電流供給部74と、を備えている。
ホイールシリンダ圧目標値演算部62は、車両を適切な制動状態に制御するため、ドライバーの操作又は車両の挙動状態に応じて、ホイールシリンダ圧の目標値を演算する処理を行う。例えば、ホイールシリンダ圧目標値演算部62は、急ブレーキ時のドライバーによるブレーキ操作を検出して、ホイールシリンダ圧の目標値を迅速に増加させる。また、悪路での車輪のロック状態を検出すると、ABS[Anti lock Brake System]制御状態に移行して、ホイールシリンダ圧の目標値を適切に調節する。なお、ホイールシリンダ圧目標値演算部62による演算処理は、一定の演算タイミングごとに行われる。
ホイールシリンダ圧推定値演算部64は、ホイールシリンダに流入するブレーキオイルの液量、及びホイールシリンダから流出するブレーキオイルの液量を逐次演算することで、ホイールシリンダ圧の推定値を演算する。ホイールシリンダ圧の推定値の演算については、後に詳述する。
制御部66は、各センサ13,15からの検出値、ホイールシリンダ圧の目標値、及び推定値を取り込むと、最適な制動モードを選択して、各制御弁及びモータの駆動を制御する。制御部66は、従来技術と同様に、通常モード、増圧モード、減圧モード及び保持モードによる制動制御を行う。さらに、制御部66は、これらの制御モードにおいて、差圧制御による制動制御を行う。ここで、差圧制御とは、差圧制御弁28FL〜28RRの絞り開度を調節することでホイールシリンダ圧を制御する制御方法のことである。以下、差圧制御についてより詳しく説明する。
図3には、差圧制御弁28FL〜28RRの内部構造が示されている。図3を参照して、差圧制御の原理について説明する。差圧制御弁28FL〜28RRのソレノイド88が通電されておらず、可動ロッド89が圧縮コイルばね90の押圧力のみを受ける場合には、可動ロッド89の先端は絞り部91から大きく離れる。この状態では、絞り部91の開口面積が、絞りに関して支配的となる。一方、ある程度の大きさの電流をソレノイド88に通電すると、可動ロッド89の先端が絞り部91に近づいて、可動ロッド89先端と絞り部91との間隙が絞り部91の開口面積より小さくなる。この状態では、可動ロッド89先端と絞り部91との間隙が、絞りに関して支配的となる。即ち、通電電流を調節すれば、差圧制御弁28FL〜28RRの絞り開度を調節することができ、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との差圧を調節することができる。
差圧制御弁28FL〜28RRの絞り開度の調節に関して、次の数式(1),(2)を考慮することで、適切な大きさの通電電流を求めることができる。
F−FSP = (PMC−PWC)×A ・・・(1)
K・I = ΔP = PMC−PWC ・・・(2)
なお、上の数式(1),(2)において、Fは通電により可動ロッド89に作用する力であり、FSPは圧縮コイルばね90の押圧力であり、PMCはマスタシリンダ圧であり、PWCはホイールシリンダ圧であり、Aは絞り部91の開口面積であり、Iは通電電流の大きさであり、Kは係数である。
上の数式(1)は、可動ロッド89に関して成立する力のつり合いの式である。ここで、ばね力FSP,開口面積Aは既知の値であり、マスタシリンダ圧PMCにはマスタシリンダ圧センサ13の検出値を代入可能であるため、所望のホイールシリンダ圧PWCを得るために必要な作用力Fは数式(1)から算出可能である。さらに、数式(1)を簡略化した数式(2)から理解されるように、検出されたマスタシリンダ圧PMCを基準としてホイールシリンダ圧PWCを所望の圧力に調節するためには、通電電流Iを大きさを差圧ΔPに応じた値とすればよい。なお、本実施形態では、実験的な検証を行うことで、様々な値のマスタシリンダ圧PMC、ホイールシリンダ圧PWCの条件下における差圧ΔPと通電電流Iの関係をマップ化している。
次に、差圧制御における制御部66の演算処理について説明する。図4には、電流指示値の演算ロジックが示されている。この演算ロジックでは、減算部94において、マスタシリンダ圧の検出値とホイールシリンダ圧の目標値との差分を算出することで、差圧指示値を算出する。次に、差圧ΔPと通電電流Iの関係のマップ95を参照して、ホイールシリンダ圧を所望の圧力に調節するために必要な通電電流を求め、これを電流指示値とする。そして、制御部66は、電流指示値を電流供給部68〜72へ出力する。
電流供給部70は、電流指示値に応じた電流を差圧制御弁28FL〜28RRに供給するための構成である。詳しくは、電流供給部70は、電流指示値に応じたデューティー比でトランジスタをオンオフし、差圧制御弁28FL〜28RRのソレノイドに電圧を印加する。ここで、電流供給部70は、供給電流を電流センサで検出してフィードバック制御している。なお、図2では、電流供給部70を一つだけ示しているが、実際には、各差圧制御弁28FL〜28RRごとに一つずつ、合計4つ設けられている。
また、連通制御弁22F,22R、減圧制御弁34FL〜34RR及びモータ56のそれぞれについても電流供給部68,72,74が設けられており、各電流供給部68,72,74は制御部66からの電流指示値に応じた電流を供給している。これらの電流供給部68,72,74は、従来技術と同様であるため詳しい説明は省略する。
本実施形態の制動制御装置10では、上述したように差圧制御弁28FL〜28RRを利用して差圧制御を行うため、ホイールシリンダ圧を制御するときに圧力変動を小さくすることができる。よって、制動制御装置10の圧力変動に起因するノイズを抑制することができる。特に、ABS制御を行うときには、差圧制御弁28FL〜28RRの絞り開度調節が頻繁に行われるため、ノイズ抑制の効果が大きい。また、上述した差圧制御によれば、ホイールシリンダ圧の微妙な調節が可能となり、好適な制動制御を実現することができる。
[ホイールシリンダ圧の推定]
次に、ホイールシリンダ圧推定値演算部64によるホイールシリンダ圧の推定値の演算について詳しく説明する。特に本実施形態では、差圧制御弁28FL〜28RRによる差圧制御を行っているため、差圧制御時のホイールシリンダ圧の推定値の演算に工夫が必要となる。そこで、差圧制御時のホイールシリンダ圧の推定値の演算について図5〜図7を参照して説明する。
図5には、ホイールシリンダの増圧時におけるホイールシリンダ内の油量変化の演算ロジックが示されている。この演算ロジックでは、(1)減算部81において、ダンパ液圧(=マスタシリンダ圧)とホイールシリンダ圧との差分を算出することで、差圧制御弁28FL〜28RRの全開状態におけるホイールシリンダ圧の増圧勾配を算出する。そして、乗算部82において、ホイールシリンダ圧の増圧勾配に増圧時間を乗算することで、第一の油量変化を算出する。また、(2)減算部83において、前述の差圧指示値に応じた油量を、予め作成したマップ(差圧指示値と油量の関係を示すマップ)を参照して求めることにより、ホイールシリンダの油量を求める。そして、求められたホイールシリンダの油量から前回の演算タイミングにおける油量を減算することで、第二の油量変化を算出する。なお、上記のマップは、様々な値のホイールシリンダ圧目標値について、差圧指示値と油量の関係を予め調べて作成すればよい。ホイールシリンダ油量はホイールシリンダ圧に比例するため、既述の数式(2)からもわかるように、予め作成したマップを用いることで、ホイールシリンダ圧目標値と差圧指示値とからホイールシリンダ油量を一義的に求めることができる。
次に、選択部84において、第一の油量変化と第二の油量変化を比較し、小さい方の油量変化を選択する。ここで、差圧制御弁28FL〜28RRが作動して差圧制御状態にあるときには、第二の油量変化が選択される。次に、選択部において、選択された油量変化とポンプ吐出量を比較し、小さい方を選択する。以上の処理により、ホイールシリンダの増圧油量変化が演算される。そして、前回の演算タイミングにおけるホイールシリンダ油量に、今回演算された増圧油量変化を加算することにより、今回の演算タイミングにおけるホイールシリンダ油量が算出される。
上述した図5の演算ロジックを、図6を参照して別の視点から説明する。図6には、ホイールシリンダ内の油量変化を算出するためのフローチャートが示されている。
ホイールシリンダ圧推定値演算部64(CPU)は、処理を開始すると、制動制御装置10の現在の制御モードが増圧モードであるか否かを判定する(S601)。ここで、増圧モードであると判定された場合には、差圧制御弁28FL〜28RRの絞り開度を全開状態であると仮定してホイールシリンダの増加油量を演算する(S602)。そして、現在の作動油の温度に応じた温度補正係数を求め(S603)、この温度補正係数をホイールシリンダの増加油量に乗じて、ホイールシリンダの増加油量を補正する(S604)。
次に、CPUは、差圧制御弁28FL〜28RRが駆動中であるか否かを判定する(S605)。ここで、差圧制御弁28FL〜28RRが駆動中であると判定された場合には、ステップ608に進む。一方、差圧制御弁28FL〜28RRが駆動中でないと判定された場合には、ステップ606に進む。ステップ606では、ホイールシリンダ油量を、予め作成したマップ(差圧指示値と油量の関係を示すマップ)を参照して求める。次に、求められたホイールシリンダ油量から前回の演算タイミングにおけるホイールシリンダ油量を減算して、増加油量を演算する(S607)。その後、ステップ608に進む。
次に、ステップ608では、前回の演算タイミングn−1におけるホイールシリンダ油量から、増加油量を加算して、今回の演算タイミングnにおけるホイールシリンダ油量を算出する。そして、ホイールシリンダ油量から、ホイールシリンダの油圧を演算する(S609)。
一方、ステップ601で増圧モードでないと判定された場合には、続いて制動制御装置10の現在の制御モードが減圧モードであるか否かを判定する(S610)。ここで、減圧モードであると判定された場合には、ホイールシリンダの減少油量を演算する(S611)。そして、現在の作動油の温度に応じた温度補正係数を求め(S612)、この温度補正係数をホイールシリンダの減少油量に乗じて、ホイールシリンダの減少油量を補正する(S613)。次に、前回の演算タイミングn−1におけるホイールシリンダ油量から減少油量を減算して、今回の演算タイミングnにおけるホイールシリンダ油量を求める(S614)。そして、ホイールシリンダ油量から、ホイールシリンダ圧を演算する(S609)。
また、ステージ610で減圧モードでないと判定された場合には、前回の演算タイミングn−1におけるホイールシリンダ油量を、今回の演算タイミングnにおけるホイールシリンダ油量とする(S615)。そして、ホイールシリンダ油量から、ホイールシリンダ圧を演算する(S609)。
本実施形態では、上述したように、差圧制御弁28FL〜28RRが駆動したときに、差圧制御弁28FL〜28RRに対する差圧指示値に応じてホイールシリンダ圧の推定値を補正している。このため、差圧制御弁28FL〜28RRが差圧制御を行って、絞り開度が低下したときにホイールシリンダ圧の推定値を正確に求めることができ、よって、ホイールシリンダ圧を所望の圧力に調節することができる。例えば、図7のタイムチャートでは、ホイールシリンダ圧の推定値が補正される様子が示されている。差圧指示値を用いた補正を行わない場合には、差圧制御弁28FL〜28RRが駆動(ON)したときに、機械的要因による誤差や温度補正係数などの計算上の誤差の積み重ねによりホイールシリンダ圧の推定値が点線Lに沿って上昇してしまう。これに対して、差圧指示値を用いた補正を行った場合には、ホイールシリンダ圧の推定値の上昇は抑えられ、ホイールシリンダ圧の推定値は実圧にほぼ一致している。
[ABS制御時の対処]
次に、図8及び図9を参照して、ABS制御時の対処について説明する。図8には、ABS制御時に、制御部(CPU)により行われる対処処理のフローチャートが示されている。この対処処理は、差圧指示値の演算処理に伴って行われる。
CPUは、処理を開始すると、ホイールシリンダ圧の目標値を演算する(S801)。次に、CPUは、(1)現在、ABS制御中であること、(2)マスタシリンダ圧の検出値が所定閾値より小さいこと、(3)車両減速度の検出値が所定閾値より大きいこと、の3条件が全て満たされているか否かを判定する(S802)。これにより、マスタシリンダ圧センサ13の異常の有無が判定される。
上記のステップ802において、3条件が全て満たされていないと判定された場合にはマスタシリンダ圧センサ13に異常が無いことが判定される。この場合、CPUは、マスタシリンダ圧の検出値からホイールシリンダ圧の目標値を減算して、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値を演算する(S803)。次に、CPUは、演算された差圧指示値が、予め設定された閾値より大きいか否かを判定する(S804)。ここで、差圧指示値が閾値より小さいと判定された場合には、差圧制御弁28FL〜28RRの駆動要求をオフにし、演算された差圧指示値をリセットする(S805)。これにより、CPUは、差圧制御弁28FL〜28RRの差圧制御を実行しないため、急激な制動力の変化による車輪のロックが回避される。
一方、ステップ803において、差圧指示値が閾値より大きいと判定された場合には、続いて差圧指示値の増圧勾配が、予め設定された閾値より小さいか否かを判定する(S806)。ここで、差圧指示値の増圧勾配が閾値より大きいと判定された場合には、差圧制御弁28FL〜28RRの駆動要求をオンにし、演算された差圧指示値をセットする(S807)。これにより、CPUは、差圧制御弁28FL〜28RRの差圧制御を実行するため、適度な制動力が車輪に与えられる。
また、ステップ806において、差圧指示値の増圧勾配が閾値より小さいと判定された場合には、演算された差圧指示値に対してローパスフィルタによりフィルタリングする(S808)。そして、差圧制御弁28FL〜28RRの駆動要求をオンにし、フィルタリング後の差圧指示値をセットする(S807)。これにより、CPUは、差圧制御弁28FL〜28RRの差圧制御を実行するため、適度な制動力が車輪に与えられる。
上述した処理では、ステップ808において、差圧制御弁28FL〜28RRに対する差圧指示値をローパスフィルタによりフィルタリングするため、ABS制御時に変動が大きくなる差圧指示値から低周波成分を取り出して、安定した制動制御を行うことができる。即ち、ABS制御時にはマスタシリンダ圧の変動が大きくなり、よって差圧指示値の変動が大きくなるが、このような変動量の影響による制御性能の悪化を抑制して、所望の制動制御を行うことができる。なお、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値をフィルタリングしたが、その演算に用いられるマスタシリンダ圧の検出値をフィルタリングしてもよい。
次に、マスタシリンダ圧センサ13に異常が有ることが判定された場合の対処処理について説明する。ステップ802において、3条件が全て満たされていると判定された場合には、マスタシリンダ圧センサ13に異常が有ることが判定される。この場合、CPUは、今回の演算タイミングnで増圧モードであるか否かを判定する(S809)。ここで、増圧モードでないと判定された場合には、減圧モードであることが判定される。この場合、CPUは、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値に、予め設定された固定値Cを設定する(S810)。そして、差圧制御弁28FL〜28RRの駆動要求をオンにし、差圧指示値Cをセットする(S811)。これにより、CPUは、予め設定された差圧指令値Cによる差圧制御を実行する。このため、マスタシリンダ圧センサ13の異常の影響を受けずに、ABS制御におけるホイールシリンダ圧の減圧処理を行うことができる。
上記のステップ809において、増圧モードであると判定された場合には、続いてCPUは、前回の演算タイミングn−1で増圧モードであったか否かを判定する(S812)。ここで、増圧モードでないと判定された場合には、CPUは、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値に、予め設定された固定値Aを設定する(S813)。そして、差圧制御弁28FL〜28RRの駆動要求をオンにし、差圧指示値Aをセットする(S811)。これにより、CPUは、予め設定された差圧指令値Aによる差圧制御を開始する。
さらに増圧モードが続いて、上記のステップ812において、前回の演算タイミングで増圧モードであると判定された場合には、CPUは、前回の差圧指示値から予め設定された固定値Bを減算した値を、今回の差圧指示値とする(S814)。そして、差圧制御弁28FL〜28RRの駆動要求をオンにし、差圧指示値をセットする。これにより、CPUは、予め設定された減少勾配Bをもつ差圧指令値による差圧制御を実行する。このため、マスタシリンダ圧センサ13の異常の影響を受けずに、ABS制御におけるホイールシリンダ圧の増圧処理を行うことができる。
上述した異常対処処理では、ABS制御中に異常が生じた場合に、予め設定されたABS制御用の差圧指示値による差圧制御を行うため、ABS制御が実行できなくなる事態を回避することができる。例えば、図9(a)に示されるように、上述した異常対処処理を行わない場合には、マスタシリンダ圧センサ13が正常であるときに、マスタシリンダ圧PMC実圧とマスタシリンダ圧PMC検出値はほぼ一致し、ホイールシリンダ圧PWC実圧はホイールシリンダ圧PWC目標値にほぼ一致する。よって、所望のABS制御が実現されている。しかし、図9(b)に示されるように、マスタシリンダ圧センサ13に異常が生じると、マスタシリンダ圧PMC検出値が低下して、ABS制御時にホイールシリンダ圧PWC実圧が大きく変動するようになる。この状況では、ホイールシリンダ圧PWC実圧の上昇時に、車輪に過度の制動力が作用して、車輪がロックされてしまう。これに対して、上述した異常対処処理を行った場合には、図9(c)に示されるように、差圧指令値が予め設定された値となるため、ホイールシリンダ圧PWC実圧が適度な圧力に調節され、ABS制御を実行可能としている。
なお、上述した異常対処処理では、予め設定された値A,B,Cを固定値としたが、状況に応じて変化する可変値としてもよい。また、上述した異常対処処理では、マスタシリンダ圧センサ13の異常に対処しているが、他の種類の異常が検出された場合に異常対処処理を行ってもよい。また、差圧指示値そのものを直接的に予め設定された値としたが、差圧指示値の演算に用いられるマスタシリンダ圧の検出値、ホイールシリンダ圧の目標値などを予め設定された値とすることにより、差圧指示値を間接的に予め設定された値としてもよい。
[差圧制御開始時の圧力変動緩和処理]
次に、図10及び図11を参照して、差圧制御開始時の圧力変動緩和処理について説明する。図10には、差圧制御開始時の圧力変動緩和処理のフローチャートが示されている。
CPUは、処理を開始すると、差圧制御弁による差圧制御を行っているか否かを判定する(S101)。ここで、差圧制御を行っていると判定された場合には、続いてCPUは、前回の演算タイミングにおいて差圧制御弁による差圧制御を行っていたか否かを判定する(S102)。一方、ステップ101において、差圧制御を行っていないと判定された場合には、処理を終了する。
ステップ102において、差圧制御を行っていないと判定された場合には、マスタシリンダ圧の検出値とホイールシリンダ圧の目標値との差分を演算して、その差分を変数Bに設定する(S103)。そして、CPUは、その変数Bが0であるか否かを判定する(S104)。一方、ステップ102において、差圧制御を行っていたと判定された場合には、前回の演算タイミングにおいて設定された変数Bが0であるか否かを判定する(S104)。
ステップ104において、変数Bは0でないと判定された場合には、今回の演算タイミングにおけるホイールシリンダ圧の目標値と、前回の演算タイミングにおけるホイールシリンダ圧の目標値との差分を演算して、ホイールシリンダ圧の目標値の変化勾配を求める。そして、その差分を変数Aに設定し(S105)、ステップ106に進む。一方、ステップ104において、変数Bは0であると判定された場合には、ステップ111に進む。
ステップ106では、CPUは、変数Aが0以上であるか否かを判定する。ここで、変数Aが0以上であると判定された場合には、続いてCPUは、変数Bが0より大きいか否かを判定する(S107)。ここで、変数Bが0より大きいと判定された場合には、CPUは、(1)B−K×A、(2)0、のいずれか大きい方を選択して、変数Bに再設定する(S108)。一方、変数Bが0より小さいと判定された場合には、CPUはステップ111に進む。なお、変数Bは(−K×A)により、ホイールシリンダ圧の目標値の勾配変化に応じて調整される。
ステップ106において、変数Aが0より小さいと判定された場合には、続いてCPUは、変数Bが0より小さいか否かを判定する(S109)。ここで、変数Bが0より小さいと判定された場合には、CPUは、(1)B−K×A、(2)0、のいずれか小さい方を選択して、変数Bに設定する(S110)。一方、変数Bが0より大きいと判定された場合には、CPUはステップ111に進む。
ステップ111では、ホイールシリンダ圧の目標値とマスタシリンダ圧の検出値との差分から所定値Bを減算することにより仮差圧指示値を演算し、その後処理を終了する。この仮差圧指示値は、差圧制御弁が絞り開度を調節してホイールシリンダ圧を制御するために用いられる。
上述した圧力変動緩和処理では、差圧制御弁による差圧制御の開始時に、マスタシリンダ圧の検出値とホイールシリンダ圧の目標値との差分が所定値で調整された仮差圧指示値を演算し、この仮差圧指示値に応じてホイールシリンダ圧を制御するため、ホイールシリンダ圧の急激な変化を抑制することができる。また、差圧制御を開始するときの閾値に大きな値を設定できるので、ソレノイドの駆動頻度を減らすことができ、ソレノイドの寿命を長くしたり、節電することができる。この圧力変動緩和処理の効果を、図11を参照して説明する。
図11には、圧力変動緩和処理を行った際のタイムチャートが示されている。時間が経過してホイールシリンダ圧の目標値が推定値を超えると、目標値と推定値との差分が所定閾値を超えた時点で差圧制御が開始する。ここで、ホイールシリンダ圧が直ちに目標値になるように制御すると、ホイールシリンダ圧は点Aから点Bに急激に変化し、ドライバーの意図よりも大きな制動力が発生して、それにより生じる車両のショックにドライバーは違和感を持ってしまう。
これに対して、上述した圧力変動緩和処理を行った場合には、マスタシリンダ圧の検出値とホイールシリンダ圧の目標値との差分が所定値で調整された仮差圧指示値を演算し、この仮差圧指示値に応じてホイールシリンダ圧を制御するため、ホイールシリンダ圧の急激な変化を抑制することができる。さらには、仮差圧指示値は、マスタシリンダ圧の検出値とホイールシリンダ圧の目標値との差分である本差圧指示値に徐々に近づけられるため、ホイールシリンダ圧の急激な変化を抑制しつつ、所望の制動状態に移行することができる。
また、上述した圧力変動緩和処理では、ホイールシリンダ圧の目標値の変化勾配が変化した場合に、仮差圧指示値を維持する。例えば、ホイールシリンダ圧の目標値の変化勾配が増加から減少に変化すると、図10のフローチャートのステップ106の判定からステップ107,ステップ108に進んでいた処理が、ステップ109,ステップ111に進むようになり、仮差圧指示値が維持される。よって、図中点Cから破線で示すようにホイールシリンダ圧の目標値の勾配が増加から減少に変化した場合に、それに合わせてホイールシリンダ圧の実圧を減少させることができる。よって、ホイールシリンダ圧の目標値の変化に応じて適切にホイールシリンダ圧を制御することができる。
[車両旋回時の車両挙動安定化処理]
次に、図12〜図14を参照して、車両旋回時における車両挙動を安定化する処理について説明する。図12には、制御部(CPU)により行われる車両挙動安定化処理のフローチャートが示されている。
CPUは、処理を開始すると、車両が旋回状態であるか否かを判定する(S121)。ここで、車両が旋回状態であると判定された場合には、ステップ122に進む。一方、車両が旋回状態でないと判定された場合には、補正処理を終了する。なお、車両の旋回状態を判定するためには、CPUは、ヨーレートセンサ、横加速度センサ、操舵角センサ、車輪速センサなどの検出値を取り込み、これらの検出値に基づいて判定を行えばよい。
ステップ122では、CPUは、旋回の大きさを示す旋回量が、予め設定された閾値より大きいか否かを判定する。ここで、旋回量が閾値より大きいと判定された場合には、ステップ123に進む。一方、旋回量が閾値より小さいと判定された場合には、補正処理を終了する。なお、判定に用いる閾値は、ヨーレートセンサ、横加速度センサ、操舵角センサ、車輪速センサなどのセンサの種類に応じて、車両が十分な大きさの旋回を行っていることを判定可能な閾値を設定すればよい。
ステップ123では、CPUは、処理対象であるホイールシリンダ圧の目標値が、旋回内輪に対応したものであるか否かを判定する。ここで、ホイールシリンダ圧の目標値が旋回内輪に対応したものであると判定された場合には、ステップ124に進む。一方、ホイールシリンダ圧の目標値が旋回内輪に対応したものでないと判定された場合には、補正処理を終了する。なお、ホイールシリンダ圧の目標値が旋回内輪に対応しているか否かの判定は、ヨーレートセンサ、横加速度センサ、操舵角センサ、車輪速センサなどのセンサの検出値に基づいて行えばよい。
ステップ124では、CPUは、ホイールシリンダ圧の目標値から所定値を減算することで、差圧指示値を増加する処理を行う。その後、CPUは補正処理を終了する。
上述した車両挙動安定化処理では、車両の旋回制御時に、旋回内輪に対応する差圧指示値を増加させるため、ホイールシリンダ圧が高くなりすぎることを防止して、旋回内輪に作用する制動力を抑制し、車両の挙動を安定化することができる。即ち、差圧制御弁は機械的な公差を持つため、その機械的な公差により、同じ差圧指示値を与えてもホイールシリンダ圧を高めに調節するものと、低めに調節するものとがある。差圧制御弁がホイールシリンダ圧を高めに調節するものである場合には、過剰な制動力により、車両の旋回時に旋回内輪が落ち込んで、車両の挙動が不安定になる可能性がある。上述した車両挙動安定化処理では、旋回内輪に対応する差圧指示値を増加させることで、このような事態を回避している。
図13に示される、車両1がカーブ路を旋回して走行する状況を一例として、差圧指示値を増加することの効果を説明する。図14には、車両1がカーブ路を走行する際の、旋回外輪のホイールシリンダ圧の実圧、旋回内輪のホイールシリンダ圧の実圧、旋回内輪のホイールシリンダ圧の目標値、車両の旋回量の経時変化が示されている。なお、旋回内輪のホイールシリンダ圧の目標値は、減算される前の値が示されている。
車両1がカーブに到達する前には、ホイールシリンダ圧、車両1の旋回量の経時変化は共に0である(図にて丸1の位置)。車両1がカーブに進入すると、運転者によるブレーキペダルの踏み込みに応じて、ホイールシリンダ圧の目標値及び実際値が立ち上がり、また、車両1の旋回量が増加する(図にて丸2の位置)。そして、カーブの途中で旋回量が閾値Tより大きくなると、旋回内輪に対応するホイールシリンダ圧の目標値が低減されて、差圧指示値が増加される(図にて丸3の位置)。これにより、旋回内輪のホイールシリンダ圧の実圧は、減算前の目標値と同程度となり、車両の挙動が安定化する。車両1がカーブを抜けて旋回量が閾値Tより小さくなると、旋回内輪に対応するホイールシリンダ圧の目標値の減算を終了する(図にて丸4の位置)。
なお、差圧指示値を増加させる処理は、上記のとおりホイールシリンダ圧の目標値から所定値を減算する処理に限らない。例えば、差圧指示値に所定値を加算することで差圧指示値を直接的に増加させてもよいし、差圧指示値の演算に用いられるマスタシリンダ圧の検出値に所定値を加算することで差圧指示値を間接的に増加させてもよい。
[ノイズ低減のための減圧禁止処理]
次に、図15及び図16を参照して、ノイズ低減のための減圧禁止処理について説明する。図15には、制御部(CPU)により行われる減圧禁止処理のフローチャートが示されている。
ECUは、処理を開始すると、ブレーキ戻し状態であるか否かを判定する(S151)。ここで、ブレーキ戻し状態であると判定された場合には、ステップ152に進む。一方、ブレーキ戻し状態でないと判定された場合には、処理を終了する。なお、ブレーキ戻し状態の判定は、ドライバーの制動要求量を示す検出値、例えばペダルストロークセンサ、マスタシリンダ圧センサなどの検出値を取り込み、これらの検出値に基づいて判定を行えばよい。
ステップ152では、ECUは、ブレーキ戻し量が予め設定された閾値より大きいか否かを判定する。ここで、ブレーキ戻し量が閾値より大きい場合には、ステップ153に進む。一方、ブレーキ戻し量が閾値より小さい場合には、処理を終了する。なお、判定に用いる閾値は、ペダルストロークセンサ、マスタシリンダ圧センサなどのセンサの種類に応じて設定すればよい。
ステップ153では、ECUは、差圧制御弁及び減圧制御弁が駆動中であるか否かを判定する。これにより、ABS制御中であるか否かが判定される。ここで、差圧制御弁及び減圧制御弁が駆動中であると判定された場合には、ステップ154に進む。一方、差圧制御弁及び減圧制御弁が駆動中でないと判定された場合には、処理を終了する。
ステップ154では、ECUは、ホイールシリンダ圧の目標値と推定値との差分の絶対値が、予め設定された閾値より小さいか否かを判定する。ここで、差分の絶対値が閾値より大きいと判定された場合には、ステップ155に進み、制御モードを減圧モードとしてホイールシリンダ圧を減圧する。一方、差分の絶対値が閾値より小さいと判定された場合には、ステップ156に進み、ホイールシリンダ圧の減圧を保留する。
上述したように、ドライバーによるブレーキ戻し操作時に、ホイールシリンダ圧の目標値と推定値との差分が所定値より小さい場合には、減圧モードによる処理を禁止する。これにより、減圧制御弁の開放が禁止されるため、減圧制御弁の駆動回数が減り、減圧制御弁の駆動に伴うノイズの発生を抑制することができる。ここで、ドライバーによるブレーキ戻し操作時には、減圧制御を行わなくてもホイールシリンダ圧は抜けるのであるから、減圧モードによる処理を禁止しても特段の問題はない。
図16に示される状況を一例として、減圧モードによる処理を禁止することによる効果を説明する。ドライバーのブレーキ操作によりマスタシリンダ圧PMCが上昇した場合には、それに伴ってホイールシリンダ圧PWCも上昇する。そして、ABS制御が開始すると、ホイールシリンダ圧PWCが調節される。その後、ドライバーがブレーキペダルの踏み込みを緩めると、マスタシリンダ圧PMCが低下し、それに伴ってホイールシリンダ圧PWC目標値が低下する。但し、ホイールシリンダ圧PWC推定値が低下し始めるのは、ホイールシリンダ圧PWC推定値の演算遅れにより若干遅れてしまう。
ここで、仮に、減圧モードを禁止する処理を行わないと、ホイールシリンダ圧PWCの推定値が目標値よりも高くなってしまうため、ホイールシリンダ圧PWCの推定値を目標値まで低下させようとして、制動制御装置が減圧モードで作動し、本来であれば必要のない減圧を行ってしまう。即ち、減圧制御弁の作動頻度が増加し、作動音が発生してしまう。これに対して、上述したように減圧モードを禁止する処理を行うと、減圧制御弁の開放が禁止されるため、不要な減圧制御を防止することができる。
[異常対処処理]
次に、図17及び図18を参照して、異常対処処理について説明する。図17には、制御部66(CPU)により行われる異常対処処理のフローチャートが示されている。
CPUは、異常対処処理を開始すると、差圧制御を行っているか否かを判定する(S171)。ここで、差圧制御中であると判定された場合には、ステップ172に進む。一方、差圧制御中でないと判定された場合には、異常対処処理を終了する。
ステップ172では、CPUは、制動制御装置10に異常があるか否かを判定する。ここで、異常があると判定された場合には、ステップ173に進む。一方、異常がないと判定された場合には、異常対処処理を終了する。なお、制動制御装置10の異常とは、制動制御装置10に関する各種の異常であり、例えば、マスタシリンダ圧センサの異常、各制御弁の異常などである。
ステップ174では、CPUは、異常発生からの継続時間が予め設定された閾値(例えば数十msec程度)より小さいか否かを判定する(S173)。ここで、異常継続時間が閾値より大きいと判定された場合には、今回の演算タイミングの差圧指示値として、前回の演算タイミングの差圧指示値を設定する(S174)。一方、異常継続時間が閾値より小さいと判定された場合には、異常対処処理を終了する。
上述した異常対処処理では、異常の継続時間が所定閾値より小さい場合に、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値を維持する。よって、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値が維持されるため、ドライバーのブレーキ操作を反映しつつ、車両の制動状態を維持することができる。即ち、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値を維持した場合には、マスタシリンダ圧はドライバーのブレーキ操作に応じて変化するため、ホイールシリンダ圧はドライバーのブレーキ操作に応じて変化して、車両の制動力にはドライバーのブレーキ操作が反映される。また、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値を維持することにより、車両の制動状態を維持することができる。
次に、図18を参照して、別の異常対処処理について説明する。図18には、制御部(CPU)66により行われる異常対処処理のフローチャートが示されている。
CPUは、異常対処処理において、制動制御装置10に異常があるか否かを判定する(S181)。ここで、異常があると判定された場合には、ステップ182に進む。一方、異常がないと判定された場合には、異常対処処理を終了する。なお、制動制御装置10の異常とは、制動制御装置10の異常とは、制動制御装置10に関する各種の異常であり、例えば、マスタシリンダ圧センサの異常、各制御弁の異常などである。
ステップ182では、CPUは、車両の運動制御を継続することが可能であるか否かを判定する。ここで、運動制御を継続可能であると判定された場合には、ステップ183に進む。一方、運動制御を継続不能であると判定された場合には、異常対処処理を終了する。
ステップ183では、CPUは、差圧制御弁28FL〜28RRによる差圧制御が可能であるか否かを判定する。ここで、差圧制御が可能であると判定された場合には、第1のバックアップ終了処置を実施する(S184)。ここで、第1のバックアップ終了処置とは、差圧制御弁28FL〜28RRに与える差圧指示値を時間経過に応じて一定の減少勾配で徐々に減少させて、最終的には差圧指示値が0となるまで減少させる処理である。一方、差圧制御が不能であると判定された場合には、ステップ185に進む。
ステップ185では、CPUは、差圧制御弁28FL〜28RRが駆動可能であるか否かを判定する。ここで、差圧制御弁28FL〜28RRが駆動可能であると判定された場合には、第2のバックアップ終了処置を実施する(S186)。ここで、第2のバックアップ終了処置とは、予め設定された時間が経過するごとに、差圧制御弁28FL〜28RRに与える電流指示値から一定値を減算することで、電流指示値を繰り返し減少させて、一定値の減算を所定回数行うと、電流指示値を0に設定する処理である。
本変形例では、上述したように、第2のバックアップ終了処置において、異常発生時に、差圧制御弁28FL〜28RRによる差圧制御が可能である場合に、差圧指示値を徐々に減少させるため、ドライバーに与える違和感を少なくすることができる。第1のバックアップ終了処置の効果を、第2のバックアップ終了処置と比較して説明する。
第2のバックアップ終了処置では、電流指示値からの一定値の減算を所定回数行うと、次の演算タイミングで電流指示値は0に設定され、急激に減少する。よって、ホイールシリンダ圧が急激に増加して、車両の制動力が急激に増加することにより、ドライバーに違和感を与えてしまう。これに対して、第1のバックアップ終了処置では、差圧指示値を最終的には0に至るまで徐々に減少させるため、ホイールシリンダ圧は徐々にマスタシリンダ圧まで増加するため、車両の制動力が急激に増加することがない。よって、ドライバーに与える違和感を少なくすることができる。
なお、上記の説明では、第1のバックアップ終了処置において、差圧指示値を直線的に減少させているが、差圧指示値の減少勾配は、状況に応じて可変する値としてもよい。差圧指示値の減少勾配を適切に調節することで、ヨーレートを好適に減少させて、ドライバーに与える違和感を少なくすることもできる。また、差圧指示値の減少勾配を適切に調節することで、アンチスピン制御を穏やかに終了させることもできる。
10…制動制御装置、12…ブレーキペダル、13…マスタシリンダ圧センサ、14…マスタシリンダ、22F,22R…連通制御弁、26FL,26FR,26RL,26RR…ホイールシリンダ、28FL,28FR,28RL,28RR…差圧制御弁、34FL,34FR,34RL,34RR…減圧制御弁、38F,38R…リザーバ、42F,42R…ポンプ、48F,48R…ダンパ、56…モータ、60…ECU、62…ホイールシリンダ圧目標値演算部、64…ホイールシリンダ圧推定値演算部、66…制御部、68,70,72,74…電流供給部。