JP2005035367A - ブレーキ制御装置 - Google Patents

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Koji Nakaoka
宏司 中岡
Yoshito Tanaka
義人 田中
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Abstract

【課題】車両において車輪のブレーキ圧を電気的に制御するブレーキ制御装置において、その制御中にブレーキ圧が振動する傾向を抑制する。
【解決手段】ブレーキ圧に対する制御要求として、減圧要求と増圧要求と保圧要求とのうちのいずれかを逐次選択する。さらに、その選択された制御要求ごとに、増圧弁および減圧弁を制御すべき制御モードとして、減圧モードと増圧モードと保圧モードとのうちのいずれかを選択し、その選択に際し、減圧要求の選択時における増圧モードの選択と、増圧要求の選択時における前記減圧モードの選択とを禁止する。
【選択図】 図7

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両において車輪のブレーキの圧力を電気的に制御するブレーキ制御装置に関するものであり、特に、そのブレーキの圧力を制御する技術の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両において車輪のブレーキを制御するブレーキ制御装置が既に知られている(例えば、特許文献1参照。)。この種のブレーキ制御装置は、一般に、(a)ブレーキを電気的に制御するアクチュエータ装置と、(b)そのアクチュエータ装置を制御するコントローラとを含むように構成される。
【0003】
この種のブレーキ制御装置の用途としては、アンチロック制御等、運転者の操作に依存することなく自動的にブレーキ圧を制御する自動制御が既に知られている。しかし、近年、運転者の指令に応じた高さにブレーキ圧を制御する通常制御を機械的にではなく電気的に実行しようとする傾向がある。そのため、この種のブレーキ制御装置が通常制御のために使用される場合もある。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−356157号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
いずれにしても、この種のブレーキ制御装置によるブレーキ圧の制御においては、実際のブレーキ圧である実ブレーキ圧が、目標のブレーキ圧である目標ブレーキ圧に精度よく追従することが要望される。
【0006】
そのため、目標ブレーキ圧が時間と共に急に変化する状況においては、その変化に追従すべく、実ブレーキ圧も急に変化することが必要となる。すなわち、目標ブレーキ圧の変化に対する実ブレーキ圧の応答性が高いことが必要となるのである。このような必要性は、通常、上述の自動制御の方が通常制御より高い。
【0007】
一方、この種のブレーキ制御装置においては、一般に、実ブレーキ圧の目標ブレーキ圧からの偏差が減少するように実ブレーキ圧をフィードバック制御することが行われる。
【0008】
このフィードバック制御においては、通常、目標ブレーキ圧が上昇過程にあるか下降過程にあるかを問わず、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧より高ければ、実ブレーキ圧を制御する制御モードとして減圧モードが選択され、逆に、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧より低ければ、増圧モードが選択される。
【0009】
しかし、本発明者らは、その研究により、次のような事実が存在することに気が付いた。
【0010】
すなわち、目標ブレーキ圧が上昇過程にある場合に、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧より高くなるごとに、実ブレーキ圧を制御する制御モードとして減圧モード、すなわち、目標ブレーキ圧が変化する向きとは逆向きの制御モードを選択すると、実ブレーキ圧が時間と共に振動する傾向が強くなるという事実が存在することに気が付いた。
【0011】
さらに、目標ブレーキ圧が下降過程にある場合に、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧より低くなるごとに、実ブレーキ圧を制御する制御モードとして増圧モード、すなわち、目標ブレーキ圧が変化する向きとは逆向きの制御モードを選択すると、実ブレーキ圧が時間と共に振動する傾向が強くなるという事実も存在することに気が付いた。
【0012】
以上説明した本発明者らの知見に基づき、本発明は、車両において車輪のブレーキの圧力を電気的に制御するブレーキ制御装置において、その制御中にブレーキの圧力が振動する傾向を抑制することを課題としてなされたものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本明細書に記載の技術的特徴のいくつかおよびそれらの組み合わせのいくつかの理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴やそれらの組み合わせが以下の態様に限定されると解釈されるべきではない。
【0014】
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈されるべきである。
(1) 車両において車輪のブレーキを制御するブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキを電気的に制御するアクチュエータ装置と、
そのアクチュエータ装置を制御するコントローラと
を含み、かつ、そのコントローラが、前記ブレーキの圧力であるブレーキ圧に対する制御要求として、少なくとも減圧要求と増圧要求とを含む複数の要求のうちのいずれかを逐次選択するとともに、その選択された制御要求ごとに、前記アクチュエータ装置を制御すべき制御モードとして、減圧モードと増圧モードと保圧モードとのうちのいずれかを選択し、かつ、前記減圧要求の選択時における前記増圧モードの選択と、前記増圧要求の選択時における前記減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方を禁止するブレーキ制御装置。
【0015】
ブレーキ圧を制御する制御要求として減圧要求が選択される状況においては、目標ブレーキ圧が下降傾向にある。そのため、この状況においては、実ブレーキ圧を放置するだけで、その実ブレーキが、それより高い目標ブレーキ圧にしだいに相対的に接近する傾向がある。この傾向は、見かけ上、実ブレーキ圧が上昇する傾向である。
【0016】
そのため、この傾向が存在するにもかかわらず、実ブレーキ圧の見かけ上の上昇傾向と同じ向きの傾向を実ブレーキ圧に生じさせる増圧モードを選択すると、増圧量が過剰となり、実ブレーキ圧のオーバシュートが誘発されて、実ブレーキ圧が振動し易くなる。
【0017】
これに対し、ブレーキ圧を制御する制御要求として増圧要求が選択される状況においては、目標ブレーキ圧が上昇傾向にある。そのため、この状況においては、実ブレーキ圧を放置するだけで、その実ブレーキ圧が、それより低い目標ブレーキ圧にしだいに相対的に接近する傾向がある。この傾向は、見かけ上、実ブレーキ圧が下降する傾向である。
【0018】
そのため、この傾向が存在するにもかかわらず、実ブレーキ圧の見かけ上の下降傾向と同じ向きの傾向を実ブレーキ圧に生じさせる減圧モードを選択すると、減圧量が過剰となり、実ブレーキ圧のオーバシュートが誘発されて、実ブレーキ圧が振動し易くなる。
【0019】
以上説明した知見に基づき、本項に係る装置においては、減圧要求の選択時における増圧モードの選択と、増圧要求の選択時における減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方が禁止される。
【0020】
したがって、この装置によれば、実ブレーキ圧の制御中、その実ブレーキ圧の振動を抑制することが容易となる。
【0021】
本項における「アクチュエータ装置」は、ブレーキの圧力を制御するために電気的に作動させられる装置であれば、その形式の如何は問わない。そのため、例えば、電磁弁はもとより、弁を使用しないで圧力を電気的に制御する形式のアクチュエータ装置(例えば、容積可変の状態で作動液を収容する液室の容積をモータによって変化させる装置)も本項における「アクチュエータ装置」に含まれる。
【0022】
また、本項における「アクチュエータ装置」を構成する要素の数は、車両における各車輪のブレーキにつき、単一でも、複数でもよい。
【0023】
また、本項における「アクチュエータ装置」が電磁弁を含むように構成される場合に、その電磁弁は、液圧制御精度の観点からはリニア弁として構成することが望ましいが、オンオフ弁として構成することも可能である。
(2) 前記複数の要求が、さらに、保圧要求を含み、
前記コントローラが、その保圧要求の選択時に、前記減圧モードと前記増圧モードとの少なくとも一方の選択を禁止するものである(1)項に記載のブレーキ制御装置。
【0024】
実ブレーキ圧を制御する制御要求として保圧要求が選択されている状況においては、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧から外れていても、それら間の偏差に敏感に応答する変化を実ブレーキ圧を生じさせるよりその実ブレーキ圧に大きな変化を生じさせない方が、実ブレーキ圧の振動を抑制するために効果的である。
【0025】
このような知見に基づき、本項に係る装置においては、保圧要求の選択時に、減圧モードと増圧モードとの少なくとも一方の選択が禁止される。
(3) 前記コントローラが、
(a) 前記車両の状態量に基づいて前記制御要求を選択する制御要求選択手段と、
(b) 前記ブレーキ圧の実際値である実ブレーキ圧の、前記ブレーキ圧の目標値である目標ブレーキ圧からの偏差に基づいて前記制御モードを選択する制御モード選択手段と
を含み、かつ、その制御モード選択手段が、前記減圧要求の選択時における前記増圧モードの選択と、前記増圧要求の選択時における前記減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方を禁止する(1)または(2)項に記載のブレーキ制御装置。
【0026】
本項における「車両の状態量」は、例えば、車体の状態量を含むように解釈したり、車輪の状態量を含むように解釈することが可能である。ここに、車体の状態量としては、例えば、車体の前後加速度、横加速度、ヨーレート等があり、また、車輪の状態量としては、例えば、車輪速度、車輪加速度、スリップ率、スリップ角、接地荷重、タイヤの空気圧、タイヤの変形状態等がある。
(4) 前記コントローラが、前記ブレーキ圧が時間と共に変化する勾配が大きいことが想定される状況においてそのブレーキ圧を制御する高勾配型制御と、その勾配が小さいことが想定される状況においてそのブレーキ圧を制御する低勾配型制御とのうちの高勾配型制御において、前記減圧要求の選択時における前記増圧モードの選択と、前記増圧要求の選択時における前記減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方を禁止するものである(1)ないし(3)項のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【0027】
目標ブレーキ圧が上昇過程にある状況において、その目標ブレーキ圧がそれより高圧の実ブレーキ圧に接近する傾向は、目標ブレーキ圧の勾配が大きいほど強い。同様に、目標ブレーキ圧が下降過程にある状況において、その目標ブレーキ圧がそれより低圧の実ブレーキ圧に接近する傾向は、目標ブレーキ圧の勾配が大きいほど強い。
【0028】
したがって、減圧要求の選択時における増圧モードの選択と、増圧要求の選択時における減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方を禁止することによって奏される効果は、ブレーキ圧が時間と共に変化する勾配が大きいことが想定される状況においてそのブレーキ圧を制御する高勾配型制御の方が、その勾配が小さいことが想定される状況においてそのブレーキ圧を制御する低勾配型制御より大きい。
【0029】
このような知見に基づき、本項に係る装置においては、高勾配型制御において、減圧要求の選択時における増圧モードの選択と、増圧要求の選択時における減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方が禁止される。
【0030】
したがって、この装置によれば、高勾配型制御において、実ブレーキ圧の振動が効果的に抑制されるとともに、低勾配型制御において、実ブレーキ圧の応答性が無駄に犠牲にされずに済む。
(5) 前記高勾配型制御が、前記車輪のスリップを制御するスリップ制御を含む(4)項に記載のブレーキ制御装置。
(6) 前記スリップ制御が、前記車両の制動時に前記車輪がロックすることを防止するアンチロック制御と、前記車両の駆動時に前記車輪がスピンすることを防止するトラクション制御とのうちの少なくとも一方を含む(5)項に記載のブレーキ制御装置。
(7) 前記車輪が、複数の車輪を含み、
前記高勾配型制御が、各車輪に作用する制動力の、それら複数の車輪間における関係を制御することにより、前記車両のヨーイングを制御してそれの安定性を制御する車両安定性制御を含む(4)ないし(6)項のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
(8) 前記低勾配型制御が、前記車両の運転者の指令に応じた高さに前記ブレーキ圧を制御する通常制御を含む(4)ないし(7)項のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
(9) 前記コントローラが、さらに、
前記選択された制御モードに基づいて前記アクチュエータ装置を、前記ブレーキ圧の実際値である実ブレーキ圧の、前記ブレーキ圧の目標値である目標ブレーキ圧からの偏差とフィードバックゲインとの積に基づいてフィードバック制御する制御手段を含み、かつ、その制御手段が、そのフィードバックゲインを、前記高勾配型制御において前記低勾配型制御におけるより大きくなるように設定する(4)ないし(8)項のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【0031】
実ブレーキ圧のフィードバック制御においては、フィードバックゲインの設定値次第で実ブレーキ圧の制御特性が決まる。具体的には、フィードバックゲインが大きいほど、実ブレーキ圧の目標ブレーキ圧からの偏差の変化に対して敏感に実ブレーキ圧が応答するように実ブレーキ圧が制御される。
【0032】
そして、高勾配型制御において、フィードバックゲインを比較的大きな値に設定すれば、実ブレーキ圧の高応答性が実現される。
【0033】
しかし、実ブレーキ圧の目標ブレーキ圧からの偏差がそれほど大きくなくても、実ブレーキ圧が大きく変化させられてしまう傾向があり、これは、実ブレーキ圧の振動を助長する可能性を意味する。
【0034】
これに対し、本項に係る装置においては、減圧要求の選択時における増圧モードの選択と、増圧要求の選択時における減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方が禁止され、それにより、実ブレーキ圧の振動を抑制することが容易となる。
【0035】
したがって、この装置によれば、高勾配型制御において、実ブレーキ圧の制御について高応答性を実現しつつその振動を抑制することが容易となる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
【0037】
図1には、本発明の第1実施形態に従うブレーキ制御装置を含むブレーキシステムが系統図で示されている。このブレーキシステムは、左右の前輪FL,FRと左右の後輪RL,RRとを備えた車両に搭載される。
【0038】
図1においては、符号10がマスタシリンダを示し、符号12がブレーキ操作部材としてのブレーキペダルを示している。
【0039】
マスタシリンダ10は、2個の加圧ピストン14,14をハウジング内に直列に備えたタンデム式であり、それら加圧ピストン14,14のそれぞれの前方に加圧室16,16が形成されている。それら加圧室16,16は、主通路18,20によってそれぞれ左右前輪側のブレーキシリンダ22,22および左右後輪側のブレーキシリンダ24,24と接続されている。マスタシリンダ10は、必要に応じて各加圧室16,16に補充する作動液を収容するリザーバ28を備えている。
【0040】
各ブレーキシリンダ22,24の液圧により各ブレーキ30,32が作用させられ、その結果、前輪FL,FRおよび後輪RL,RRの回転が抑制されて車両が制動される。このように、ブレーキ30,32は、ブレーキシリンダ22,24の液圧により作用させられる液圧ブレーキなのである。
【0041】
本実施形態においては、このブレーキシステムが前輪側のブレーキ系統と後輪側のブレーキ系統との2系統を有するように構成されている。前輪側のブレーキ系統と後輪側のブレーキ系統とでは構造が共通するため、以下、その構造を前輪側のブレーキ系統について代表的に説明することにより、後輪側のブレーキ系統についての説明を省略する。
【0042】
前輪側のブレーキ系統における主通路18の途中に常開式のカット弁38が設けられている。このカット弁38の開状態においては、ブレーキシリンダ22の液圧(ブレーキ圧)の高さが基本的にはマスタシリンダ10によって機械的に制御される。これに対し、カット弁38の閉状態においては、ブレーキシリンダ22がマスタシリンダ10からカットされる一方、ブレーキシリンダ22の液圧の高さが後述の電気系統によって電気的に制御される。
【0043】
主通路18のうちカット弁38の下流側に位置する部分には分岐通路40が2本接続されている。各分岐通路40は、主通路18から延び出た後に二股に分岐させられている。一方の分岐部42は、増圧弁44を経てポンプ通路46に接続されている。これに対し、他方の分岐部48は、減圧弁50を経てリザーバ通路52に接続されている。
【0044】
増圧弁44および減圧弁50は、いずれも、常閉式のリニア弁である。リニア弁は、例えば、特開2001−180472号公報に記載されているように、弁子と弁座とを有するシーティング弁と、コイルとを含むように構成される。このリニア弁においては、弁子の前後間における圧力差がコイルの磁気力に比例するように制御される。
【0045】
ポンプ通路46には、アキュムレータ60と、モータ62によって駆動されるポンプ64とが接続されている。ポンプ64は、リザーバ28から汲み上げた作動液を圧力下に増圧弁44に向かって吐き出す。増圧弁44の開状態においては、その吐き出された作動液がブレーキシリンダ22に押し込まれ、それにより、ブレーキシリンダ22が増圧される。
【0046】
これに対し、リザーバ通路52の一端部は、ポンプ通路46のうちポンプ64の吸入側に位置する部分を経てリザーバ28に接続されている。減圧弁50の開状態においては、ブレーキシリンダ22から排出された作動液が減圧弁50およびリザーバ通路52を順に経てリザーバ28に排出され、それにより、ブレーキシリンダ22が減圧される。
【0047】
それら増圧弁44も減圧弁50も閉状態にあり、かつ、カット弁38も閉状態にあれば、ブレーキシリンダ22の液圧が保持される。
【0048】
カット弁38の閉状態においては、ブレーキペダル12の踏込みにもかかわらずマスタシリンダ10から作動液が排出されないため、特に対策を講じないと、ブレーキペダル12の剛性がカット弁38の開状態におけるより高い。本実施形態においては、カット弁38の閉状態であっても、開状態におけると同程度の操作フィーリングを実現すべく、2種類のストロークシミュレータが搭載されている。
【0049】
第1は、マスタシリンダ10とブレーキペダル12との間に設けられたストロークシミュレータ70である。これは、それらマスタシリンダ10とブレーキペダル12とを弾性的に相対変位可能な状態で互いに連携させることにより、作動液がマスタシリンダ10から排出されない状態でも、運転者の踏力に応じたストロークをブレーキペダル12に発生させる。
【0050】
第2は、主通路20のうちカット弁38の上流側に位置する部分に設けられたストロークシミュレータ72である。これは、作動液を圧力下に吸収する液吸収器74と、それと主通路20との間に設けられた常閉式の電磁開閉弁76とを含むように構成されている。その電磁開閉弁76の開状態においては、マスタシリンダ10からの作動液の排出が液吸収器74によって圧力下に行われる。
【0051】
このブレーキシステムにおいては、運転者によるブレーキ操作が検出されると、カット弁38がオンされて閉状態に切り換えられ、電磁開閉弁76もオンされて開状態に切り換えられる。
【0052】
この状態においては、ブレーキシリンダ22の液圧がアキュムレータ60およびポンプ64を圧力源として、増圧弁44と減圧弁50とによって電気的に制御される。すなわち、この状態は、電気的制御状態なのである。
【0053】
そして、運転者によるブレーキ操作が解除されると、カット弁38がオフされて開状態に切り換えられ、電磁開閉弁76もオンされて開状態に切り換えられる。これにより、このブレーキシステムは、図1に示すマニュアル制御状態に復元される。
【0054】
これに対し、このブレーキシステムの電気系統に異常がある場合(正常であることの確認がとれない場合)場合には、いずれの電磁弁38,44,50,76もノーマル状態とされ、この状態においては、ブレーキシリンダ22の液圧がマスタシリンダ10を圧力源として、運転者によるブレーキペダル12の踏込みに応じて機械的に制御される。すなわち、この状態は、マニュアル制御状態なのである。
【0055】
図2には、このブレーキシステムのうちの電気系統がブロック図で概念的に表されている。
【0056】
このブレーキシステムは、種々のセンサを備えている。それらセンサとしては、マスタシリンダ10における2個の加圧室16,16の圧力をそれぞれ検出する圧力センサ90,92と、ブレーキペダル12の操作ストロークを検出するストロークセンサ94と、ポンプ通路46の圧力を検出する圧力センサ96と、4個のブレーキシリンダ22,22,24,24の圧力をそれぞれ検出する4個の圧力センサ100,102,104,106とがある。
【0057】
このブレーキシステムは、さらに、各車輪の角速度を車輪速度として検出する4個の車輪速度センサ110と、車体の前後加速度を検出する前後加速度センサ112とを備えている。
【0058】
それらセンサの出力信号が電子制御ユニット(以下、単に「ECU」で表す。)120に入力される。ECU120は、コンピュータ122を主体として構成されている。ECU120は、それらセンサの出力信号に基づき、駆動回路124を介して前述の電磁弁38,44,50,76,80を制御する。
【0059】
図3には、コンピュータ122のハードウエア構成がブロック図で概念的に表されている。コンピュータ122は、よく知られているように、CPU124とROM126とRAM128とがバス130により互いに接続されて構成されている。ROM126には、基本制御プログラム、フィードバックゲイン設定ルーチン、制御モード選択ルーチンおよび車速推定プログラムを始めとして各種プログラムが予め記憶されている。
【0060】
車速推定プログラムは、例えば、複数の車輪についてそれぞれ検出された車輪速度に基づいて車速を推定するためにコンピュータ122によって実行されるプログラムである。
【0061】
図4には、上記基本制御プログラムの内容がフローチャートで概念的に表されている。この基本制御プログラムは、各車輪ごとに繰返し実行される。
【0062】
各車輪についての各回の実行時には、まず、ステップS1(以下、単に「S1」で表す。他のステップについても同じとする。)において、前述のセンサにより各種の車両状態量が検出される。
【0063】
次に、S2において、その検出された車両状態量に基づき、今回の車輪のブレーキシリンダ22,24の目標液圧(目標ブレーキ圧)P*が決定される。目標液圧P*は、例えば、ストロークセンサ94により検出された操作ストロークおよび圧力センサ90,92により検出されたマスタシリンダ圧に基づき、予め設定された規則に従って決定される。
【0064】
続いて、S3において、今回の車輪につき、増圧弁44および減圧弁50の作用によってアンチロック制御が実行中であるか否かが判定される。今回は、実行中ではないと仮定すれば、判定がNOとなり、S4に移行する。
【0065】
このS4においては、アンチロック制御を開始するための条件が成立したか否かが判定される。この判定は、例えば、今回の車輪の、路面に対するスリップ量等に基づいて行われる。ここに、スリップ量は、前記車速推定プログラムの実行によって演算された車速と、今回の車輪について検出された車輪速度との差を用いて演算される。
【0066】
今回は、その制御開始条件が成立しなかったと仮定すれば、S4の判定がNOとなり、S8において、今回の車輪のブレーキシリンダ22,24の液圧をフィードバック制御するためのフィードバックゲインが設定される。
【0067】
そのフィードバック制御においては、後に詳述するが、ブレーキシリンダ22,24の制御液圧(実ブレーキ圧)Pcの目標液圧P*からの偏差dPとフィードバックゲインKFB(比例制御係数)との積として、ブレーキシリンダ22,24の液圧の制御量CMが決定される。本実施形態においては、フィードバックゲインKFBが、大きい値KFBHIと、小さい値KFBLO(通常値)とのいずれかが選択されて設定される。
【0068】
S8の詳細が図5にフィードバックゲイン設定ルーチンとしてフローチャートで表されている。
【0069】
このフィードバックゲイン設定ルーチンにおいては、まず、S31において、今回実行しようとする制御が、ブレーキシリンダ22,24の液圧を大きな勾配ΔPで制御することを必要とする高勾配型制御であるか否かが判定される。具体的には、今回の制御が、通常制御、すなわち、ブレーキペダル12の操作ストロークおよびマスタシリンダ圧に応じた高さの液圧をブレーキシリンダ22,24に発生させる制御ではなくて、アンチロック制御の如き自動制御であるか否かが判定される。
【0070】
今回の制御は、アンチロック制御ではなく通常制御であると仮定すれば、判定がNOとなり、S33に移行する。
【0071】
このS33において、フィードバックゲインKFBとして小さい値KFBLOが選択される。今回の制御は通常制御であって、アンチロック制御ほどに大きな勾配ΔPがブレーキシリンダ22,24の液圧制御に要求されないからである。
【0072】
以上で、このフィードバックゲイン設定ルーチンの一回の実行が終了する。
【0073】
その後、図4のS9において、今回のブレーキシリンダ22,24の液圧を制御する制御モードが選択される。
【0074】
このS9の詳細が図6に、制御モード選択ルーチンとしてフローチャートで概念的に表されている。
【0075】
この制御モード選択ルーチンにおいては、まず、S51において、今回実行しようとする制御が高勾配型制御であるか否かが判定される。今回は、高勾配型制御ではないと仮定されているため、判定がNOとなり、S56に移行する。
【0076】
このS56においては、今回の車輪につき、通常規則に従って制御モードが選択される。
【0077】
具体的には、ブレーキシリンダ22,24の制御液圧Pcが目標液圧P*より低ければ増圧モード、高ければ減圧モード、ほぼ等しければ保圧モードがそれぞれ今回の制御モードとして選択される。
【0078】
以上で、この制御モード選択ルーチンの一回の実行が終了する。
【0079】
その後、図4のS10において、今回の車輪に対応する増圧弁44と減圧弁50とのうち、選択された制御モードに対応するリニア弁が選択される。具体的には、その選択された制御モードが増圧モードである場合には、減圧弁50が選択されずに増圧弁44が選択され、減圧モードである場合には、増圧弁44が選択されずに減圧弁50が選択され、保圧モードである場合には、増圧弁44も減圧弁50も選択されない。
【0080】
このS10においては、さらに、前記演算された目標液圧P*の、制御液圧Pcからの偏差dPと前記設定されたフィードバックゲインKFBとの積が今回の制御量CMとして演算される。このことを式で表せば、
CM=KFB・(P*−Pc)
となる。
【0081】
このS10においては、さらにまた、演算された制御量CMの絶対値に基づき、予め定められた規則に従い、選択されたリニア弁に供給すべき励磁電流Iの大きさが決定される。さらに、その決定された大きさの励磁電流Iが、選択されたリニア弁に供給されることにより、そのリニア弁が駆動される。
【0082】
これに対し、選択されなかったリニア弁については、消磁信号が供給されることにより、ノーマル位置に復元される。例えば、保圧モードが選択された場合には、増圧弁44も減圧弁50もノーマル位置である閉位置に切り換えられ、これにより、対応するブレーキシリンダ22,24の液圧が保持される。
【0083】
以上で、この基本制御プログラムの一回の実行が終了する。
【0084】
以上、アンチロック制御中ではない状態においてそれの開始条件が成立しなかった場合を説明したが、成立した場合には、S4の判定がYESとなり、S5において、今回のブレーキシリンダ22,24についての制御要求が選択される。
【0085】
具体的には、例えば、今回の車輪についての前述のスリップ量、車輪加速度等に反映される車輪ロック傾向に基づき、予め定められた規則に従い、減圧要求と保圧要求と増圧要求とのいずれかが今回の制御要求として選択される。ここに、車輪加速度は、例えば、車輪速度の時間微分値として演算することが可能である。
【0086】
図7には、理解を容易にするために、この基本制御プログラムの一連の実行によって一連のアンチロック制御中に選択された制御要求の一例として、アンチロック制御の開始時から、減圧要求、保圧要求および増圧要求がそれらの順に制御要求として選択された例がグラフで表されている。
【0087】
その後、図4のS6において、選択された最新の制御要求につき、今回のブレーキシリンダ22,24の液圧を制御すべき目標勾配ΔPが決定される。この決定は、例えば、車体の前後加速度、車輪のスリップ量等に基づき、予め定められた規則に従って決定される。例えば、車輪スリップ量が大きいほど大きくなるように目標勾配ΔPが決定される。
【0088】
ところで、通常制御、すなわち、運転者の操作量に応じたブレーキシリンダ22,24の液圧の制御においては、その液圧の勾配ΔPの目標値という概念は基本的にはそもそも存在しない。しかし、通常制御の結果として発現される勾配ΔPの実際値という概念はもちろん存在し、それとアンチロック制御における目標勾配ΔPとを互いに比較すると、勾配ΔPは、通常制御の方が、アンチロック制御を含む車輪スリップ制御より小さいのが通常である。
【0089】
勾配ΔPが大きいことが直ちに、ブレーキシリンダ22,24の液圧を制御する際の応答性を高くすべき必要性を意味するわけではないが、勾配ΔPが大きいほど、ブレーキシリンダ22,24の制御液圧Pcを目標液圧P*の変化に追従させることが困難となるという事実は否定できない。
【0090】
そのため、本実施形態においては、勾配Δが小さい通常制御(これが低勾配型制御の一例である。)においては、ブレーキシリンダ22,24の液圧を通常の応答性で制御すべく、前述のように、フィードバックゲインKFBが小さい値KFBLOに設定される。これに対し、勾配ΔPが大きいアンチロック制御(これが高勾配型制御の一例である。)においては、ブレーキシリンダ22,24の液圧を高い応答性で制御すべく、後述のように、フィードバックゲインKFBが大きい値KFBHIに設定される。
【0091】
したがって、本実施形態においては、通常制御が低勾配型制御であると同時に低応答性制御であるのに対し、アンチロック制御が高勾配型制御であると同時に高応答性制御であるように設計されている。
【0092】
その後、S7において、アンチロック制御中における目標液圧P*の今回値P*(i)が演算される。目標液圧P*の今回値P*(i)は、例えば、目標液圧P*の前回値P*(i−1)(これが存在しない初回の制御サイクルにおいては、ブレーキシリンダ22,24の制御液圧Pcで代用される)と、前記決定された目標勾配ΔPとこの基本制御プログラムの実行が反復されるサイクルタイムΔTとの積との和として演算される。このことを式で表すと、
P*(i)=P*(i−1)+ΔP・ΔT
となる。
【0093】
続いて、S8において、今回選択された制御要求につき、前述のようにして、フィードバックゲインKFBが設定される。
【0094】
このS8においては、まず、図5のS31において、今回の制御が高勾配型制御であるか否かが判定される。今回の制御はアンチロック制御であり、高勾配型制御の一例であるため、このS31の判定がYESとなる。次に、S32において、フィードバックゲインKFBが大きい値KFBHIに設定される。
【0095】
その後、図4のS9において、今回選択された制御要求につき、制御モードが選択される。
【0096】
このS9においては、まず、図6のS51において、今回の制御が高勾配型制御であるか否かが判定される。今回の制御はアンチロック制御であり、高勾配型制御の一例であるため、このS51の判定がYESとなる。
【0097】
次に、S52において、今回選択されている制御要求が増圧要求であるか保圧要求であるか減圧要求であるかが判定される。
【0098】
今回の制御要求が増圧要求である場合には、S53において、前記演算された目標液圧P*と制御液圧Pcとの差に基づき、図7に示すように、増圧モードと保圧モードとのいずれかが今回の制御モードとして選択される。
【0099】
例えば、制御液圧Pcが目標液圧P*より低い場合には、増圧モードが選択され、目標液圧P*とほぼ等しい場合には、保圧モードが選択される。制御液圧Pcが目標液圧P*より高い場合には、減圧モードではなく、保圧モードが選択される。減圧モードの選択が禁止されているのであり、これにより、制御液圧Pcが目標液圧P*より高い場合には、今回の制御が高勾配型制御であることに着目し、制御液圧Pcを下降させる代わりに、目標液圧P*が素早く上昇することを待ち、それにより、両者間の差が減少するようになっている。
【0100】
図8には、今回の制御要求が増圧要求である場合に、目標液圧P*と制御液圧Pcとのそれぞれの時間的推移の一例がグラフで表されている。この例においては、増圧モードと保圧モードとが交互に実行される一方、減圧モードは一切実行されない。その結果、制御液圧Pcが、時間的に安定した状態で目標液圧P*に追従させられる。
【0101】
図9には、それとの比較のため、今回の制御要求が増圧要求である場合に、目増圧モードも減圧モードも選択的に実行される一例が示されている。この例においては、制御液圧Pcに振動が発生し易く、ブレーキシリンダ22,24の液圧が時間的に安定し難い。
【0102】
以上、今回の制御要求が増圧要求である場合を説明したが、保圧要求である場合には、図4のS54において、図7に示すように、保圧モードが選択され、減圧モードの選択も増圧モードの選択も禁止される。
【0103】
また、今回の制御要求が減圧要求である場合には、図4のS55において、前記演算された目標液圧P*と制御液圧Pcとの差に基づき、図7に示すように、減圧モードと保圧モードとのいずれかが今回の制御モードとして選択される。
【0104】
例えば、制御液圧Pcが目標液圧P*より高い場合には、減圧モードが選択され、目標液圧P*とほぼ等しい場合には、保圧モードが選択される。制御液圧Pcが目標液圧P*より低い場合には、増圧モードではなく、保圧モードが選択される。増圧モードの選択が禁止されているのであり、これにより、制御液圧Pcが目標液圧P*より低い場合には、今回の制御が高勾配型制御であることに着目し、制御液圧Pcを上昇させる代わりに、目標液圧P*が素早く下降することを待ち、それにより、両者間の差が減少するようになっている。
【0105】
いずれの場合にも、その後、図4のS10において、前述のようにして、今回の車輪に対応する増圧弁44と減圧弁50とのうち、選択された制御モードに対応するリニア弁が選択される。さらに、その選択されたリニア弁についての今回の制御量CMが演算される。さらにまた、選択されたリニア弁については、演算された制御量CMに応じた駆動電流Iが供給されて励磁されることにより、駆動される。これに対し、選択されなかったリニア弁については、消磁信号が供給されることにより、ノーマル位置に復元される。
【0106】
以上で、この基本制御プログラムの一回の実行が終了する。
【0107】
以上、S3の実行が、アンチロック制御中ではない状態において行われた場合を説明したが、アンチロック制御中である場合には、S3の判定がYESとなり、S11において、アンチロック制御の終了条件が成立したか否かが判定される。例えば、運転者によるブレーキ操作が終了したときに成立する条件と、車速が基準値以下であるときに成立する条件とを含む複数の条件が累積的にまたは選択的に成立したか否かが判定され、その成立時には、アンチロック制御の終了条件が成立したと判定される。
【0108】
今回は、アンチロック制御の終了条件が成立してはいないと仮定すれば、S11の判定がNOとなり、S5に移行し、前述のようにして、制御要求の選択、制御モードの選択およびリニア弁の駆動が行われる。
【0109】
本実施形態においては、一連のアンチロック制御中、この基本制御プログラムが反復的に実行される。その初回の実行時には、S1ないしS10が実行され、次回以後の実行時には、S1ないしS3、S11およびS5ないしS10の実行が反復される。その結果、例えば、図8に示すように、同じ制御要求が選択されている期間中に、異なる複数の制御モードが逐次選択されるのが通常である。図8の例においては、増圧モードと保圧モードとが交互に選択されている。
【0110】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、増圧弁44と減圧弁50とが互いに共同して前記(1)項における「アクチュエータ装置」の一例を構成し、ECU120が同項における「コントローラ」の一例を構成しているのである。
【0111】
さらに、本実施形態においては、ECU120のうち図4のS5を実行する部分が前記(3)項における「制御要求選択手段」の一例を構成し、S6,S7およびS9を実行する部分が同項における「制御モード選択手段」の一例を構成しているのである。
【0112】
さらに、本実施形態においては、ECU120のうち図4のS8およびS10を実行する部分が前記(9)項における「制御手段」の一例を構成しているのである。
【0113】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態に対して後述のスタンバイプログラムが追加されたものであるため、そのスタンバイプログラムのみを詳細に説明し、他の要素については同一の名称または符号を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
【0114】
一般に、リニア弁においては、それへの励磁電流の供給を、その励磁電流が0から立ち上がって目標値に増加するように行う場合より、0でない大きさから立ち上がって目標値に増加するように行う場合のほうが、応答性が高い。すなわち、より素早く目標の励磁電流が実現されて目標液圧が実現されるのである。
【0115】
このような知見に基づき、本実施形態においては、図10にグラフで概念的に表すように、増圧弁44についても減圧弁50についても、それが開弁すべき時期に先立って、開弁しない大きさの電流が供給されるようになっている。
【0116】
減圧要求が解除されるかまたはその見込みが大きくなると、その後間もなく減圧弁50が再度開弁させられる可能性より、増圧弁44が開弁させられる可能性の方が高い。なぜなら、本実施形態においては、減圧モードが選択され得るのは減圧要求の選択時に限られ、保圧要求の選択時にも増圧要求の選択時にも減圧モードが選択されることはないからである。
【0117】
したがって、本実施形態においては、増圧弁44については、減圧要求が解除される見込みが大きくなった時期から、スタンバイモードに移行し、増圧弁44を開弁させない大きさの励磁電流がスタンバイ電流として供給される。この供給は、その後に増圧モードが選択されて増圧弁44を開弁させることが必要となるまで継続される。
【0118】
同様に、増圧要求が解除されるかまたはその見込みが大きくなると、その後間もなく増圧弁44が再度開弁させられる可能性より、減圧弁50が開弁させられる可能性の方が高い。なぜなら、本実施形態においては、増圧モードが選択され得るのは増圧要求の選択時に限られ、保圧要求の選択時にも減圧要求の選択時にも増圧モードが選択されることはないからである。
【0119】
したがって、本実施形態においては、減圧弁50については、増圧要求が解除される見込みが大きくなった時期から、スタンバイモードに移行し、減圧弁50を開弁させない大きさの励磁電流がスタンバイ電流として供給される。この供給は、その後に減圧モードが選択されて減圧弁50を開弁させることが必要となるまで継続される。
【0120】
例えば、複数の条件が累積的に成立することを条件に減圧要求または増圧要求が解除されるように設計することが可能である。この場合には、それら条件のうちの一部が成立したことをもって、減圧要求または増圧要求が解除される見込みが大きくなったと判定することが可能である。
【0121】
図11には、本実施形態におけるコンピュータ122によって実行されるスタンバイプログラムの内容が概念的にフローチャートで表されている。
【0122】
このスタンバイプログラムは、アンチロック制御中、各車輪ごとに繰返し実行される。各回の実行時には、まず、S71において、今回の車輪について選択されている減圧要求が解除される見込みが大きいか否かが判定される。今回は、その見込みが大きいと仮定すれば、判定がYESとなり、S72において、今回の車輪に対応する増圧弁44にスタンバイ電流が供給される。以上で、このスタンバイプログラムの一回の実行が終了する。
【0123】
これに対し、今回は、今回の車輪について選択されている減圧要求が解除される見込みが大きくはないと仮定すれば、S71の判定がNOとなり、S73において、今回の車輪について選択されている増圧要求が解除される見込みが大きいか否かが判定される。今回は、その見込みが大きいと仮定すれば、判定がYESとなり、S74において、今回の車輪に対応する減圧弁50にスタンバイ電流が供給される。以上で、このスタンバイプログラムの一回の実行が終了する。
【0124】
また、減圧要求が解除される見込みも増圧要求が解除される見込みも大きくはない場合には、S71およびS73の判定が共にNOとなり、直ちにこのスタンバイプログラムの一回の実行が終了する。
【0125】
以上、本発明のいくつかの実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[課題を解決するための手段]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に従うブレーキ制御装置を含むブレーキシステムを示す系統図である。
【図2】図1におけるブレーキシステムのうちの電気系統を概念的に表すブロック図である。
【図3】図2におけるコンピュータ122のハードウエア構成を概念的に表すブロック図である。
【図4】図3におけるROM126に記憶されている基本制御プログラムの内容を概念的に表すフローチャートである。
【図5】図3におけるROM126に記憶されているフィードバックゲイン設定ルーチンの内容を概念的に表すフローチャートである。
【図6】図3におけるROM126に記憶されている制御モード選択ルーチンの内容を概念的に表すフローチャートである。
【図7】図4の基本制御プログラムを説明するためのグラフである。
【図8】前記第1実施形態の作動態様を説明するためのグラフである。
【図9】前記第1実施形態との比較例の作動態様を説明するためのグラフである。
【図10】本発明の第2実施形態に従うブレーキ制御装置における目標液圧、制御要求および制御モードの各時間的推移の一例を示すグラフであるとともに、増圧弁44および減圧弁50の各励磁電流の時間的推移の一例を示すタイムチャートである。
【図11】前記第2実施形態におけるコンピュータ122によって実行されるスタンバイプログラムの内容を概念的に表すフローチャートである。
【符号の説明】
30,32 ブレーキ
44 増圧弁
50 減圧弁
120 ECU

Claims (7)

  1. 車両において車輪のブレーキを制御するブレーキ制御装置であって、
    前記ブレーキを電気的に制御するアクチュエータ装置と、
    そのアクチュエータ装置を制御するコントローラと
    を含み、かつ、そのコントローラが、前記ブレーキの圧力であるブレーキ圧に対する制御要求として、少なくとも減圧要求と増圧要求とを含む複数の要求のうちのいずれかを逐次選択するとともに、その選択された制御要求ごとに、前記アクチュエータ装置を制御すべき制御モードとして、減圧モードと増圧モードと保圧モードとのうちのいずれかを選択し、かつ、前記減圧要求の選択時における前記増圧モードの選択と、前記増圧要求の選択時における前記減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方を禁止するブレーキ制御装置。
  2. 前記複数の要求が、さらに、保圧要求を含み、
    前記コントローラが、その保圧要求の選択時に、前記減圧モードと前記増圧モードとの少なくとも一方の選択を禁止するものである請求項1に記載のブレーキ制御装置。
  3. 前記コントローラが、前記ブレーキ圧が時間と共に変化する勾配が大きいことが想定される状況においてそのブレーキ圧を制御する高勾配型制御と、その勾配が小さいことが想定される状況においてそのブレーキ圧を制御する低勾配型制御とのうちの高勾配型制御において、前記減圧要求の選択時における前記増圧モードの選択と、前記増圧要求の選択時における前記減圧モードの選択とのうちの少なくとも一方を禁止するものである請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
  4. 前記高勾配型制御が、前記車輪のスリップを制御するスリップ制御を含む請求項3に記載のブレーキ制御装置。
  5. 前記スリップ制御が、前記車両の制動時に前記車輪がロックすることを防止するアンチロック制御と、前記車両の駆動時に前記車輪がスピンすることを防止するトラクション制御とのうちの少なくとも一方を含む請求項4に記載のブレーキ制御装置。
  6. 前記低勾配型制御が、前記車両の運転者の指令に応じた高さに前記ブレーキ圧を制御する通常制御を含む請求項3ないし5のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
  7. 前記コントローラが、さらに、
    前記選択された制御モードに基づいて前記アクチュエータ装置を、前記ブレーキ圧の実際値である実ブレーキ圧の、前記ブレーキ圧の目標値である目標ブレーキ圧からの偏差とフィードバックゲインとの積に基づいてフィードバック制御する制御手段を含み、かつ、その制御手段が、そのフィードバックゲインを、前記高勾配型制御において前記低勾配型制御におけるより大きくなるように設定する請求項3ないし6のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
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