以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
図1に、本発明の一実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置の概略図を示すと共に、図2に車両用ブレーキ制御装置の制御系の関係を表したブロック図を示す。これらの図を参照して、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置の基本構成について説明する。
なお、図1では、車両用ブレーキ制御装置のうちの第1配管系統のみを示したが、第2配管系統も同様の構成とされている。また、ここでは前輪駆動車において前輪系の配管系統と後輪系の配管系統を備える前後配管の液圧回路を構成する車両に対して本実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置を適用した場合について説明するが、X配管などに適用することもできる。
図1に示すように、ブレーキペダル1が倍力装置2と接続されており、この倍力装置2によりブレーキ踏力等が倍力される。倍力装置2は、倍力された踏力をマスタシリンダ(以下、M/Cという)3に伝達するプッシュロッド等を有しており、このプッシュロッドがM/C3に配設されたマスタピストンを押圧することによりM/C圧を発生させる。そして、M/C圧は、アンチロックブレーキ(以下、ABSという)制御等を行うブレーキ液圧制御用アクチュエータを介して左前輪FL用のW/C4および右前輪FR用のW/C5へ伝達される。M/C3には、マスタリザーバ3aが接続されており、M/C3内にブレーキ液を供給したり、M/C3内の余剰ブレーキ液を貯留できるようになっている。
以下の説明では、第1配管系統である右前輪FRおよび左前輪FL側について説明するが、第2配管系統である左後輪RLおよび右後輪RR側についても全く同様である。
車両用ブレーキ制御装置は、M/C3に接続する管路(主管路)Aを備えており、この管路Aには逆止弁20aと共に、図2に示すブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)50にて制御される差圧制御弁20が備えられている。この差圧制御弁20によって管路Aは2部位に分けられている。具体的には、管路Aは、M/C3から差圧制御弁20までの間においてM/C圧を受ける管路A1と、差圧制御弁20から各W/C4、5までの間の管路A2に分けられる。
差圧制御弁20は、通常は連通状態であるが、W/C4、5にM/C圧以上のW/C圧を発生させる時、あるいはトラクション(以下、TRCという)制御時や車両速度制御時などに、M/C側とW/C側との間に所定の差圧を発生させる状態(差圧状態)となる。
また、管路A2は2つに分岐しており、一方にはW/C4へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁30が備えられ、他方にはW/C5へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁31が備えられている。
これら増圧制御弁30、31は、ブレーキECU50により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。増圧制御弁30、31が連通状態に制御されているときには、M/C圧あるいは後述するポンプ10の吐出によるブレーキ液圧を各W/C4、5に加えることができる。これら増圧制御弁30、31は、ABS制御等の車両制動制御が実行されていないノーマルブレーキ時に常時連通状態に制御されるノーマルオープン弁とされている。
なお、増圧制御弁30、31には、それぞれ安全弁30a、31aが並列に設けられており、ブレーキ踏み込みを止めてABS制御が終了したときにおいてW/C4、5側からブレーキ液を排除するようになっている。
管路Aのうちの増圧制御弁30、31と各W/C4、5との間に管路(吸入管路)Bが接続されている。この管路Bには、ブレーキECU50により連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁32、33がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁32、33は、ノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)のときに常時遮断状態とされるノーマルクローズ弁とされている。
また、管路Bは調圧リザーバ40の第1リザーバ孔40aに接続されている。そして、ABS制御時などにおいては、管路Bを通じて調圧リザーバ40へブレーキ液を流動させることにより、W/C4、5におけるブレーキ液圧を制御し、各車輪がロック傾向に至ることを防止できるようにしている。
管路Aの差圧制御弁20および増圧制御弁30、31の間と調圧リザーバ40の第1リザーバ孔40aとを結ぶ管路(補助管路)Cには回転式ポンプ10が配設されている。この回転式ポンプ10の吐出口側には、安全弁10aが備えられており、ブレーキ液が逆流しないようになっている。この回転式ポンプ10にはモータ11が接続されており、このモータ11によって回転式ポンプ10が駆動される。
また、調圧リザーバ40の第2リザーバ孔40bとM/C3とを接続するように管路(補助管路)Dが設けられている。
調圧リザーバ40は、リザーバ内のブレーキ液圧とM/C圧との差圧の調圧を行いつつ、回転式ポンプ10へのブレーキ液の供給を行う。調圧リザーバ40に備えられた第1、第2リザーバ孔40a、40bは、それぞれがリザーバ室40cに連通させられている。第1リザーバ孔40aは、管路Bおよび管路Cに接続され、W/C4、5から排出されるブレーキ液を受け入れると共に回転式ポンプ10の吸入側にブレーキ液を供給する。第2リザーバ孔40bは、管路Dに接続されてM/C3側からのブレーキ液を受け入れる。
リザーバ孔40aより内側には、ボール弁などで構成された弁体41が配設されている。この弁体41は、弁座42に離着することで管路Dとリザーバ室40cとの間の連通遮断を制御したり、弁座42との間の距離が調整されることでリザーバ室40cの内圧とM/C圧との差圧の調圧を行う。弁体41の下方には、弁体41を上下に移動させるための所定ストロークを有するロッド43が弁体41と別体で設けられている。また、リザーバ室40c内には、ロッド43と連動するピストン44と、このピストン44を弁体41側に押圧してリザーバ室40c内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング45が備えられている。
このように構成された調圧リザーバ40は、所定量のブレーキ液が貯留されると、弁体41が弁座42に着座して調圧リザーバ40内にブレーキ液が流入しないようになっている。このため、回転式ポンプ10の吸入能力より多くのブレーキ液がリザーバ室40c内に流動することがなく、回転式ポンプ10の吸入側に高圧が印加されることもない。
ブレーキECU50は、車両用ブレーキ制御装置の制御系を司る部分である。ブレーキECU50は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータで構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算を行い、ABS制御やTRC制御や車両速度制御などのモータ駆動が行われる車両制動制御を実行する。
図2に示すように、ブレーキECU50は、各車輪FL〜RRに備えられた車輪速度センサ51a〜51dやW/C圧センサ52a〜52dの検出信号を受け取り、各種物理量を求める。例えば、ブレーキECU50は、各検出信号に基づいて各車輪FL〜RRの車輪速度や車速(推定車体速度)、各車輪FL〜RRのW/C圧を求めている。そして、これらに基づいてABS制御やTRC制御および車両速度制御などの車両制動制御を実行している。
例えば、ABS制御の場合、制御を実行するか否かを判定すると共に、制御対象輪のW/C圧に対して増圧、保持、減圧のいずれを行うかの判定などを行う。また、TRC制御の場合、制御を実行するか否かを判定すると共に、制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。そして、その結果に基づいて、ブレーキECU50が各制御弁20、30〜33やモータ11の制御を実行する。これにより、ABS制御においては制御対象輪の減速スリップを抑制し、TRC制御においては制御対象輪となる駆動輪の加速スリップを抑制する。また、車両速度制御においては、降坂路を下る際の車速や減速時の車速が所定速度となるように、制御対象輪の制動力を制御する。
例えば、TRC制御において、左前輪FLを制御対象輪としてW/C圧を発生させる場合には、差圧制御弁20を差圧状態にしつつ、モータ11をオンさせ、ポンプ10を駆動する。これにより、差圧制御弁20の下流側(W/C側)のブレーキ液圧が差圧制御弁20で発生させられる差圧に基づいて高くなる。そして、非制御対象輪となる右前輪FRに対応する増圧制御弁31を遮断状態とすることで、W/C5が加圧されないようにしつつ、制御対象輪となる左前輪FLに対応する増圧制御弁30には電流を流さない、もしくは流す電流量を調整(例えばデューティ制御)することで、W/C4に所望のW/C圧を発生させる。
以上のようにして、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置が構成されている。次に、この車両用ブレーキ制御装置の具体的な作動について説明する。なお、本車両用ブレーキ制御装置では、通常ブレーキに加えて、ABS制御やTRC制御などを実行できるが、これらの基本的な作動に関しては従来と同様である。このため、ここでは本発明の特徴に関わるABS制御やTRC制御および車両速度制御などで駆動されるモータ11の駆動方法について、例えばTRC制御を例に挙げて説明する。
本実施形態では、モータ11の温度上昇の防止や耐久性向上を図るために、車両制動制御中に継続してモータ11を駆動するのではなく、モータ11を必要時にオンし、それ以外の時にはオフする。例えば、TRC制御では、推定車体速度V0に基づいて演算された目標車速(目標車体速度)Vtに所定の偏差を加えた開始閾値Vstartより車輪速度が大きくなった場合に、モータ11をオンしてポンプ10を駆動させ、目標車速(目標車体速度)Vtに所定の偏差を加えた終了閾値Vfinishより車輪速度が小さくなると、モータ11をオフするようにしている。しかしながら、このようにモータ11をオンオフ駆動するよりもさらにモータ11をオフさせる頻度を増加させ、モータ駆動時間を短くできるようにすることが望まれる。
そこで、本実施形態では、モータ駆動をオンからオフに切替えたときに、オフ後にもモータ11の慣性回転によってW/C圧を上昇させられることに基づき、その上昇分を見込んでW/C圧が目標圧まで上昇する前からモータ駆動をオフし、よりモータ駆動時間を短くできるようにする。図3は、本実施形態にかかるモータ駆動制御処理の詳細を示したフローチャートである。また、図4は、図3のモータ駆動制御処理に用いられる制御初回判定処理の詳細を示すフローチャートである。以下、これらの図を参照してモータ制御処理の詳細について説明する。
モータ制御処理は、車両制動制御が実行されたときに実行され、予め決められた所定の制御周期毎に実行される。
まず、ステップ100では、各車輪FL〜RRに実際に発生させられているW/C圧WCFL、WCFR、WCRL、WCRRを取得する。各W/C圧WCFL、WCFR、WCRL、WCRRについては、W/C圧センサ52a〜52dの検出信号を入力することで取得している。
続く、ステップ105では、各アプリから各車輪FL〜RRの目標圧TPFL、TPFR、TPRL、TPRRを取得する。各アプリとは、ABS制御やTRC制御などのモータ駆動が行われる車両制動制御などを実行しているアプリケーションのことであり、本ステップでは、各アプリでの設定した目標圧TPFL、TPFR、TPRL、TPRRを読み込むことで、これらを取得している。
その後、ステップ110に進み、モータ駆動中であるか否かを判定する。この判定は、後述するステップ140において、既にモータ駆動中であることを示すモータ駆動中フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。車両制動制御が実行されるのがモータ制御処理が開始されてから初めての場合など、まだモータ駆動中でない場合にはステップステップ115に進む。そして、ステップ115でモータON時間をクリアすると共に、モータOFF時間を1つインクリメントして更新してからステップ125に進む。また、ステップ110で肯定判定された場合には、ステップ120に進んでモータOFF時間をクリアすると共に、モータON時間を1つインクリメントして更新してからステップ125に進む。なお、モータON時間およびモータOFF時間とは、それぞれモータ駆動を行っている時間とモータ駆動を行っていない時間を表しており、対応するカウンタのカウント値を制御周期毎にインクリメントすることで計測している。
ステップ125では、モータOFF時間に対応した液圧偏差閾値を設定する。液圧偏差閾値とは、目標圧TP**と実W/C圧WC**との偏差DTP**が車両制動制御におけるW/C圧増圧が必要となる大きさになってモータ駆動をオンする必要があることを示す閾値である。なお、**は、FL、FR、RL、RRのいずれかであって、制御対象輪に対応する符号を意味している。
液圧偏差閾値は、モータOFF時間が長くなるほど小さな値、つまりモータ駆動がオンされ易くなるように設定される。また、液圧偏差閾値は、各輪用として設定される値POnth1と、4輪合計用として設定される値POnth2がある。各輪用の値POnth1は、各輪の目標圧TP**と実W/C圧WC**との偏差DTP**の閾値として用いるものである。4輪合計用の値POnth2は、各輪の目標圧TP**の合計値と各輪の実W/C圧WC**の合計値との総偏差DTPall(つまり、偏差DTP**の合計)の閾値として用いるものである。各輪と4輪合計のいずれについても、偏差DTP**、総偏差DTallを液圧偏差閾値と比較することでモータ駆動をオンする必要があるかを判定することができ、両方を用いて判定することもできる。各輪での比較は、ABS制御やTRC制御のように各輪で独立して駆動させる制御に用いると好適である。また、4輪合計での比較は、4輪もしくは同系統の車輪間で同じW/C圧に制御するような車両速度制御などに用いると好適である。なお、ここでは各輪と4輪合計の両方の比較を行う場合について説明したが、目標圧TP**を取得したアプリ毎、つまり実行されている制御の種類毎に各輪と4輪合計のいずれを用いるかを可変にしても良い。
また、液圧偏差閾値は、車両制動制御の各輪制御開始時、つまり初回のモータ駆動のときとそれ以降のモータ駆動のときとで可変にすると好ましい。すなわち、各輪制御開始時の初回のモータ駆動のときには、ブレーキに遊び、例えばブレーキパッドとブレーキディスクとのクリアランスがある状態となっている。このため、各輪制御開始時の初回のモータ駆動のときには、初回用の液圧偏差閾値(各輪用の値POnth3および4輪用(全輪用)の値POnth4)をその後の値よりも小さい値に設定しておき、モータ駆動が行われ易くなるようにしてより早くからモータ駆動が行われるようにすると好ましい。これにより、ブレーキの遊びを低減しておけるため、応答性良く制動力を発生させることが可能となる。
なお、初回のモータ駆動であるか否かについては、後述する図4における制御初回判定処理によって判定されているため、その判定結果に基づいて判定することができる。
続いて、ステップ130に進み、ステップ100、105で取得内容に基づいて、各輪の目標圧TP**と実W/C圧WC**との偏差DTP**を演算すると共に、各輪の目標圧TP**の合計値と各輪の実W/C圧WC**の合計値との総偏差DTPallを演算する。
その後、ステップ135に進み、偏差DTP**が初回以降の各輪用の液圧偏差閾値POnth1より大きい、総偏差DTPallが初回以降の4輪用の液圧偏差閾値POnth2より大きい、いずれかの車輪が制御開始かつ偏差DTP**が初回用の各輪用の液圧偏差閾値POnth3より大きい、制御対象輪が制御開始かつ総偏差DTPallが初回用の4輪用の液圧偏差閾値POnth4より大きい、のいずれか1つでも成り立つか否かを判定する。
ステップ135において、いずれか1つでも成り立てば、モータ駆動に基づくポンプ加圧が必要であることからステップ140に進んでモータ駆動をオンすると共に、例えばモータ駆動中フラグをセットしてモータ駆動中であることを示する。その後、処理を終了する。このように、各輪の偏差DTP**や4輪合計の総偏差DTPallが大きくなると、モータ駆動に基づくポンプ加圧が為されることで、実W/C圧WC**が目標圧TP**に近づくようにでき、TRC制御における加速スリップを目標スリップに近づけることが可能となる。そして、初回用の液圧偏差閾値POnth3、POnth4を初回以降の液圧偏差閾値POnth1、POnth2よりも低く設定してあることから、各輪制御開始時の初回のモータ駆動のときにはより早くからモータ駆動をオンできる。これにより、ブレーキの遊びを低減しておけ、応答性良く制動力を発生させることが可能となる。
そして、ステップ135で否定判定されれば、ステップ145に進み、各輪の偏差DTP**が各輪用のモータオフ閾値POffth1以下となり、かつ、4輪の総偏差DTPallが各輪用のモータオフ閾値POffth2以下となっているか否かを判定する。
モータオフ閾値POffth1、POffth2とは、モータ駆動をオンからオフに切替えたときに、オフ後のモータ11の慣性回転に基づくポンプ加圧によって、実W/C圧WC**を目標圧TP**に上昇、もしくは4輪の実W/C圧WC**の合計値が4輪の目標圧に上昇させられると想定される閾値である。つまり、ステップ145で肯定判定される場合には、モータ駆動をオフしたとしても、モータ11の慣性回転によって実W/C圧WC**を目標圧TP**まで上昇、もしくは4輪の実W/C圧WC**の合計値が4輪の目標圧TP**の合計値に上昇させられる程度まで、各輪の偏差DTP**や4輪の総偏差DTPallが小さくなったことを意味している。モータ11の慣性回転に基づくW/C圧の昇圧量が大きいほどモータオフ閾値POffth1、POffth2が大きな値に設定される。
また、モータ11の慣性回転に基づくW/C4、5の昇圧量は、モータ11に掛かる負荷、つまりそのときに発生させられている実W/C圧WC**と相関関係があり、実W/C圧WC**が小さいほど大きく、実W/C圧WC**が大きいほど小さくなる。このため、モータオフ閾値POffth1、POffth2については、例えば予め実験によってモータ11が基準回転数のときの実W/C圧WC**と昇圧量との関係を調べておき、それに基づいて設定することができる。また、モータ11へ供給される電流量に基づいて、モータ11に基づくW/C4、5の昇圧量が変わるため、ブレーキECU50からモータ11に供給する電流量に応じてモータオフ閾値POffth1、POffth2を補正することもできる。
図5は、実W/C圧WC**と昇圧量との関係の一例を示した図である。この図に示すように、実W/C圧WC**と昇圧量はほぼ反比例の関係となる。そして、ステップ100で取得した実W/C圧WC**と図5に示す関係に基づいて、各制御周期のときのモータオフ閾値POffth1、POffth2を取得することができる。すなわち、実W/C圧WC**が低い場合に対して高い場合の方がモータオフ閾値POffth1、POffth2が低くなるようにする。なお、ここでは実W/C圧WC**と昇圧量との関係に基づいてモータオフ閾値POffth1、POffth2を設定したが、目標圧PT**もほぼ実W/C圧WC**であるため、目標圧PT**に基づいてモータオフ閾値POffth1、POffth2を設定しても良い。
また、図6は、モータ11に供給される電流量と補正係数αとの関係を示した図である。モータ11の電流量が大きいほどモータ11の回転数が大きくなり、それに比例して昇圧量が大きくなる。このため、図6に示すように、モータ11の電流量が基準値となるときを補正係数α=1として、それよりも電流量が大きければ補正係数α>1、小さければ補正係数α<1とし、当該補正係数αを図5に基づいて演算したモータオフ閾値POffth1、POffth2に掛けることで、最終的なモータオフ閾値POffth1、POffth2とする。すなわち、電流量が低い場合に対して高い場合の方がモータオフ閾値POffth1、POffth2が高くなるようにする。
そして、ステップ145肯定判定されると、ステップ150に進んでモータ駆動をオフすると共に、例えばモータ駆動中フラグをオフしてモータ駆動中ではないことを示す。この後は、モータ11の慣性回転に基づくポンプ加圧によって、実W/C圧WC**を目標圧TP**まで上昇、もしくは4輪の実W/C圧WC**の合計値を4輪の目標圧まで上昇させる。このように、モータ11の慣性回転に基づくポンプ加圧を見込んで、実W/C圧WC**が目標圧TP**まで上昇したり、4輪の実W/C圧WC**の合計値が4輪の目標圧まで上昇する前からモータ駆動をオフしている。これにより、よりモータ駆動時間を短くすることが可能となる。
次に、図4を参照して、制御初回判定処理の詳細について説明する。なお、制御初回判定についても、所定の制御周期毎に実行される。ここに示した制御初回判定処理は、基本的には車輪FL〜RR毎に実行されるが、ステップ200については全車輪FL〜RRについて1度に行われる。
まず、ステップ200では、車輪速度センサ51a〜51dの検出信号に基づいて各輪の車輪速度VW**を演算すると共に車速V0を演算する。また、TRC制御の目標車速Vtを車速V0に対してTRC制御閾値を加算することで演算すると共に、TRC制御の開始閾値となる開始速度Vstartを目標車速Vtに対してTRC制御の開始閾値を加算することで演算する。また、TRC制御の終了閾値となる終了速度Vfinishを目標車速Vtに対してTRC制御の終了閾値を加算することで演算する。
続いてステップ205に進み、制御初回判定処理が実行されている車輪**がTRC制御中であるか否かを判定する。ここでの判定は、後述するステップ220においてTRC制御中であることを示すTRC制御中フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。ここで否定判定された場合には、ステップ210に進んで当該車輪**がTRC制御中になってからの経過時間を計測するTRC制御中タイマをクリアしたのち、ステップ215に進む。
ステップ210では車輪速度VW**がステップ200で演算したTRC制御の開始閾値となる開始速度Vstartを超えているか否かを判定する。ここで肯定判定されれば、ステップ220に進んで例えばTRC制御中フラグをセットすることでTRC制御中であることを示すと共に、TRC制御が開始して初回であることを示す初回制御中フラグをオンして処理を終了する。また、ここで否定判定されれば、TRC制御の開始条件を満たしていないため、そのまま処理を終了する。
一方、既にTRC制御が開始されていてステップ205で肯定判定された場合には、ステップ225に進み、TRC制御タイマをカウントアップしたのち、ステップ230に進む。
ステップ230では、車輪速度VW**がステップ200で演算したTRC制御の終了閾値となる終了速度Vfinish未満になったか否かを判定する。ここで否定判定されれば、ステップ235に進み、ブレーキの遊びが小さくなった条件を満たしたり、実W/C圧WC**が目標圧TP**よりも大きくなったか否かを判定している。ブレーキの遊びが小さくなったことは、制御対象輪の実W/C圧WC**が初回制御時のオフ許可圧Pstart以上になったこと、もしくは、初回のTRC制御開始から一定時間Tstart経過したことを条件として判定している。このステップ235で肯定判定された場合には、初回のTRC制御、つまりブレーキの遊びを小さくするために必要なポンプ加圧を実行する必要がなくなったことを示している。したがって、ステップ240に進み、当該車輪**について、TRC制御開始して初回のモータ駆動であることを表す初回制御中フラグをオフし、TRC制御開始ではなくなったことを示す。そして、ステップ235で否定判定された場合には、そのまま処理を終了する。
また、ステップ230で肯定判定された場合には、TRC制御の終了条件を満たしていることから、ステップ245に進んで例えばTRC制御中フラグをオフすることでTRC制御中でないことを示すと共に、TRC制御開始でないことを示したのちTRC制御終了して処理を終了する。このようにして、TRC制御が開始されて初回のモータ駆動であるか否かを判定し、初回のモータ駆動である場合には、初回制御中フラグをセットすることで、その旨が確認できるようにしている。この結果を確認することで、モータ制御処理におけるステップ215などの処理が実行されている。
図7は、本実施形態のようなモータ駆動方法を行ったときのタイムチャートである。この図に示されるように、目標圧TP**と実W/C圧WC**との偏差DTP**が大きくなると、モータ駆動がオンされることでポンプ加圧が為され、実W/C圧WC**が目標圧TP**に追従させられる。そして、実W/C圧WC**が目標圧TP**に至る前からモータ駆動をオフし、その後はモータ11の慣性回転によって実W/C圧W**が上昇させられるようにしている。
以上説明したように、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置では、モータ11の慣性回転によって実W/C圧W**が上昇させられることを見込んで、その分早くからモータ駆動をオフさせるようにしつつ、的確にW/C圧を目標圧まで上昇させられる。したがって、さらにモータ11をオフさせる頻度を増加させ、モータ駆動時間を短くできるようにすることが可能となるため、モータ駆動を適宜オフすることでモータ温度が過剰に上昇することを抑制しつつ、W/C圧が目標圧に至るように的確なモータ駆動を行うことが可能となる。
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
(1)例えば、上記実施形態では、実W/C圧をW/C圧センサ52a〜52dにて直接検出しているが、演算によって推定することもできる。すなわち、ABS制御やTRC制御および車速制御においては、M/C3内に発生させられたM/C圧を基準として、モータ11の回転数および増圧制御弁30、31や減圧制御弁32、33の駆動時間に基づいて、実W/C圧を推定できる。これをW/C圧センサ52a〜52dの検出信号から得られる検出値に代えて用いることもできる。この場合、M/C圧に対して差圧制御弁20による差圧分を加算した値以上にはW/C圧が上昇しないため、M/C圧と差圧制御弁20の差圧分を加算した値にて上限ガードを行う。なお、実W/C圧の推定に関して、W/C圧増圧勾配および減圧勾配は実験により求めることができ、モータ回転数に応じて各勾配を補正したり、同系統内の両車輪のW/C圧を増加させているときにはW/C圧増圧勾配を補正すると好ましい。
(2)上記実施形態では、ステップ135、145において各車輪の偏差DTP**と液圧偏差閾値POnth1、POnth3やモータオフ閾値POffth1との比較だけでなく、総偏差DTPallと液圧偏差閾値POnth2、POnth4やモータオフ閾値POffth2との比較も行うようにしているが、いずれか一方の比較だけであっても良い。
(3)上記実施形態では、ステップ145の条件をモータ駆動オフの条件としたが、他の条件、例えばアクセルオフやブレーキオンが行われるなど、ドライバ操作によって加速スリップが低減される条件を満たした場合にモータ駆動オフとすることもできる。
(4)上記実施形態では、液圧偏差閾値の設定に基づいてTRC制御開始時にはモータ駆動が行われ易くなるようにしたが、TRC制御開始と共にモータ駆動がオンされるようにしても良い。
(5)モータオン時間やモータオフ時間に基づいて、モータ駆動のオンオフを制御しても良い。
例えば、モータ駆動を一旦オンからオフに切替えたときには、モータ駆動停止時間だけモータ駆動をオンさせないようにしても良い。これにより、モータ駆動のオンオフが繰り返されることを防止でき、オンしたときの突入電流が頻繁に発生する場合の加熱などを防止できるため、モータ温度を確実に低下させることが可能となる。
ただし、偏差DTP**が大きいときには、モータ駆動をオンさせなくするモータ駆動停止時間を偏差DTP**が小さいときと比較して小さくなるようにすると好ましい。すなわち、偏差DTP**が大きいときには、車両挙動も大きく現れている可能性があるため、その場合にはより早くからモータ駆動がオンされるようにすることで、より早く車両安定化を図ることが可能となる。
また、モータ駆動を行うブレーキECU50などのシステム保護やモータ駆動をオンしてからの液圧応答性を考慮して、一度モータ駆動をオンしたら、一定時間モータ駆動をオフしないようにしても良い。
また、モータ駆動をオンオフするときの制御サイクルを長くするとより良い。すなわち、制御サイクルを長くすれば、例えばTRC制御においては、制御量の変動(特に、W/C圧を減圧する側)を少なくすることにより、車輪スリップの発生タイミングを遅らせることができるので、制御サイクルを長くすることができる。このように、制御サイクルを長くすることで、モータオフ時間を伸ばすことができ、モータ温度上昇をより抑制することが可能となる。
(6)上記実施形態において、配管系統毎にポンプ10を駆動するモータ11を備えるようにしても良い。その場合、第1、第2配管系統それぞれについて、配管系統毎に各輪用のモータオフ閾値POffth1や系統内の全輪用(2輪用)のモータオフ閾値POffth2を設定し、配管系統毎に備えられるモータ11を独立してオンオフ制御するようにしても良い。これにより、各配管系統内でのW/C圧に基づいて適切にモータ11をオンオフ制御することが可能となる。
(7)なお、上記実施形態においては、ブレーキECU50が本発明における液圧制御手段に相当し、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応している。例えば、ステップ100の処理を実行する部分が実圧取得手段、ステップ105の処理を実行する部分が目標圧取得手段、ステップ135の処理を実行する部分がモータオン判定手段、ステップ145の処理を実行する部分がモータオフ判定手段に相当する。