以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
図1に、本発明の一実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置の概略図を示すと共に、図2に車両用ブレーキ制御装置の制御系の関係を表したブロック図を示す。これらの図を参照して、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置の基本構成について説明する。
なお、図1では、車両用ブレーキ制御装置のうちの第1配管系統のみを示したが、第2配管系統も同様の構成とされている。また、ここでは前輪駆動車において前輪系の配管系統と後輪系の配管系統を備える前後配管のブレーキ液圧回路を構成する車両に対して本実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置を適用した場合について説明するが、X配管などに適用することもできる。
図1に示すように、ブレーキペダル1が倍力装置2と接続されており、この倍力装置2によりブレーキ踏力等が倍力される。倍力装置2は、倍力された踏力をマスタシリンダ(以下、M/Cという)3に伝達するプッシュロッド等を有しており、このプッシュロッドがM/C3に配設されたマスタピストンを押圧することによりM/C圧を発生させる。そして、M/C圧は、アンチロックブレーキ(以下、ABSという)制御等を行うブレーキ液圧制御用アクチュエータを介して左前輪FL用のW/C4および右前輪FR用のW/C5へ伝達される。M/C3には、マスタリザーバ3aが接続されており、M/C3内にブレーキ液を供給したり、M/C3内の余剰ブレーキ液を貯留できるようになっている。
右前輪FRおよび左前輪FLに対してW/C圧を発生させる第1配管系統の他にも、左後輪RLおよび右後輪RRに対してW/C圧を発生させる第2配管系統も備えられているが、第1配管系統と第2配管系統は基本的に同じ構成であるため、以下の説明では第1配管系統について説明する。
車両用ブレーキ制御装置は、M/C3に接続する管路(主管路)Aを備えており、この管路Aには逆止弁20aと共に、図2に示すブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)50にて制御される差圧制御弁20が備えられている。この差圧制御弁20によって管路Aは2部位に分けられている。具体的には、管路Aは、M/C3から差圧制御弁20までの間においてM/C圧を受ける管路A1と、差圧制御弁20から各W/C4、5までの間の管路A2に分けられる。
差圧制御弁20は、通常は連通状態であるが、W/C4、5にM/C圧以上のW/C圧を発生させる時、あるいはトラクション(以下、TRCという)制御時や車両速度制御時などに、M/C側とW/C側との間に所定の差圧を発生させる状態(差圧状態)となる。
また、管路A2は2つに分岐しており、一方にはW/C4へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁30が備えられ、他方にはW/C5へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁31が備えられている。
これら増圧制御弁30、31は、ブレーキECU50により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。増圧制御弁30、31が連通状態に制御されているときには、M/C圧あるいは後述するポンプ10の吐出によるブレーキ液圧を各W/C4、5に加えることができる。これら増圧制御弁30、31は、ABS制御等の車両制動制御が実行されていないノーマルブレーキ時に常時連通状態に制御されるノーマルオープン弁とされている。
なお、増圧制御弁30、31には、それぞれ安全弁30a、31aが並列に設けられており、ブレーキ踏み込みを止めてABS制御が終了したときにおいてW/C4、5側からブレーキ液を排除するようになっている。
管路Aのうちの増圧制御弁30、31と各W/C4、5との間に管路(吸入管路)Bが接続されている。この管路Bには、ブレーキECU50により連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁32、33がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁32、33は、ノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)のときに常時遮断状態とされるノーマルクローズ弁とされている。
また、管路Bは調圧リザーバ40の第1リザーバ孔40aに接続されている。そして、ABS制御時などにおいては、管路Bを通じて調圧リザーバ40へブレーキ液を流動させることにより、W/C4、5におけるブレーキ液圧を制御し、各車輪がロック傾向に至ることを防止できるようにしている。
管路Aの差圧制御弁20および増圧制御弁30、31の間と調圧リザーバ40の第1リザーバ孔40aとを結ぶ管路(補助管路)Cには回転式ポンプ10が配設されている。この回転式ポンプ10の吐出口側には、安全弁10aが備えられており、ブレーキ液が逆流しないようになっている。この回転式ポンプ10にはモータ11が接続されており、このモータ11によって回転式ポンプ10が駆動される。
また、調圧リザーバ40の第2リザーバ孔40bとM/C3とを接続するように管路(補助管路)Dが設けられている。
調圧リザーバ40は、リザーバ内のブレーキ液圧とM/C圧との差圧の調圧を行いつつ、回転式ポンプ10へのブレーキ液の供給を行う。調圧リザーバ40に備えられた第1、第2リザーバ孔40a、40bは、それぞれがリザーバ室40cに連通させられている。第1リザーバ孔40aは、管路Bおよび管路Cに接続され、W/C4、5から排出されるブレーキ液を受け入れると共に回転式ポンプ10の吸入側にブレーキ液を供給する。第2リザーバ孔40bは、管路Dに接続されてM/C3側からのブレーキ液を受け入れる。
第2リザーバ孔40bより内側には、ボール弁などで構成された弁体41が配設されている。この弁体41は、弁座42に離着することで管路Dとリザーバ室40cとの間の連通遮断を制御したり、弁座42との間の距離が調整されることでリザーバ室40cの内圧とM/C圧との差圧の調圧を行う。弁体41の下方には、弁体41を上下に移動させるための所定ストロークを有するロッド43が弁体41と別体で設けられている。また、リザーバ室40c内には、ロッド43と連動するピストン44と、このピストン44を弁体41側に押圧してリザーバ室40c内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング45が備えられている。
このように構成された調圧リザーバ40は、所定量のブレーキ液が貯留されると、弁体41が弁座42に着座して調圧リザーバ40内にブレーキ液が流入しないようになっている。このため、回転式ポンプ10の吸入能力より多くのブレーキ液がリザーバ室40c内に流動することがなく、回転式ポンプ10の吸入側に高圧が印加されることもない。
ブレーキECU50は、車両用ブレーキ制御装置の制御系を司る部分である。ブレーキECU50は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータで構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算を行い、ABS制御やTRC制御などに加えて車両速度制御を実行する。
図2に示すように、ブレーキECU50は、各種検出信号を受け取り、各種物理量を演算したり、運転者の操作に基づく車両走行状態を検出している。具体的には、ブレーキECU50は、各車輪FL〜RRに備えられた車輪速度センサ51a〜51d、W/C圧センサ52a〜52d、車両速度制御スイッチ53、アクセルペダルの操作量センサ54およびストップランプスイッチ55の検出信号を受け取っている。そして、例えば、ブレーキECU50は、各検出信号に基づいて各車輪FL〜RRの車輪速度や車速(推定車体速度)、各車輪FL〜RRのW/C圧を求めている。また、ブレーキECU50は、車両速度制御スイッチ53の検出信号からスイッチ操作が為されたか否か、つまり運転者が車両速度制御を要求しているか否かを判定している。さらに、ブレーキECU50は、アクセルペダルの操作量センサ54およびストップランプスイッチ55からアクセルのオンオフや制動中であるか否かの判定を行っている。そして、これらに基づいてABS制御やTRC制御および車両速度制御などを実行している。
例えば、ABS制御の場合、制御を実行するか否かを判定すると共に、制御対象輪のW/C圧を増圧、保持、減圧のいずれを行うかの判定などを行う。また、TRC制御や車両速度制御の場合、制御を実行するか否かを判定すると共に、制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。そして、その結果に基づいて、ブレーキECU50が各制御弁20、30〜33やモータ11の制御を実行する。これにより、ABS制御においては制御対象輪の減速スリップを抑制し、TRC制御においては制御対象輪となる駆動輪の加速スリップを抑制する。また、車両速度制御においては、降坂路を下る際の車速や減速時の車速が目標速度(目標車体速度)に追従するように、制御対象輪の制動力を制御する。
例えば、車両速度制御において、各車輪FL〜RRにW/C圧を発生させて制動力を付与する場合には、差圧制御弁20を差圧状態にしつつ、モータ11をオンさせ、ポンプ10を駆動する。これにより、差圧制御弁20の下流側(W/C側)のブレーキ液圧が差圧制御弁20で発生させられる差圧に基づいて高くなる。そして、各車輪FL〜RRに対応する増圧制御弁30、31には電流を流さない、もしくは流す電流量を調整(例えばデューティ制御)することでW/C4、5に所望のW/C圧を発生させ、制動力を付与する。
以上のようにして、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置が構成されている。次に、この車両用ブレーキ制御装置の具体的な作動について説明する。なお、本車両用ブレーキ制御装置では、通常ブレーキに加えて、ABS制御やTRC制御などを実行できるが、これらの基本的な作動に関しては従来と同様である。このため、ここでは本発明の特徴に関わる車両速度制御におけるモータ11の駆動方法について説明する。
本実施形態では、モータ11の温度上昇の防止や耐久性向上を図るために、車両速度制御中に継続してモータ11を駆動するのではなく、モータ11を必要時にオンし、それ以外の時にはオフする。具体的には、目標車速と車速との偏差が閾値より大きくなった場合にモータ11をオンしてポンプ10を駆動させ、その偏差が閾値より小さくなるとモータ11をオフするようにしている。しかしながら、このようにモータ11をオンオフ駆動する場合において、目標車速と車速との偏差が大きくなった場合に一律にモータ11をオンすると、モータ11の駆動時間が長くなる。このため、さらにモータ11をオフさせる頻度を増加させるのが好ましい。
したがって、本実施形態では、モータ制御処理を実行することで、モータ11の駆動時間をさらに短時間化できるようにする。これにより、モータ11の温度上昇が防げるため、車両用ブレーキ制御装置に熱的余裕が持たせられるようにでき、モータ11の耐久性向上が図れる。図3Aおよび図3Bは、モータ制御処理の詳細を示したフローチャートである。これらの図を参照してモータ制御処理の詳細について説明する。
モータ制御処理は、例えばイグニッションスイッチがオンされると実行され、予め決められた所定の制御周期毎に実行される。
まず、ステップ100では、車両速度制御スイッチ53がオンされているか否か、つまり運転者が車両速度制御を要求しているか否かを判定する。ここで否定判定されれば、ステップ105に進み、例えば車両速度制御中フラグをオフするなどによって車両速度制御中ではないことを示し、処理を終了する。そして、ステップ100で肯定判定されれば、ステップ110に進む。
ステップ110では、ブレーキECU50によって演算されている車速が車両速度制御の終了条件として設定される基準値VENDを超えているか否かを判定する。例えば、車両が降坂路を下る際に車両速度制御を実行する場合には、車速が目標車速Vtで一定となるように制動力を発生させるが、車速が目標車速Vtよりも十分に遅くなると車両速度制御を終了しても良い。このため、ステップ110で肯定判定された場合、つまり車両速度制御の終了条件を満たしておらず車両速度制御が実行され得る場合にはステップ115以降に進み、ステップ110で否定判定された場合には、ステップ105に進む。
ステップ115では、車両速度制御中であるか否かを判定する。この判定は、後述するステップ125において、既に車両速度制御中であることを示す車両速度制御中フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。本ステップの処理が実行されるのがモータ制御処理が開始されてから初めての場合など、まだ車両速度制御中でない場合にはステップ120に進み、車両速度制御の実行条件である車速が目標車速Vtを超えているか否かを判定する。ここで否定判定された場合には、車両速度制御が実行されないことから処理を終了する。一方、ステップ120で肯定判定された場合には、ステップ125に進み、例えば車両速度制御中フラグをオンするなどによって車両速度制御中であることを示した後、ステップ130に進み、例えば初回制御中フラグをセットするなどによって初回の車両速度制御中であることを示す。
その後、ステップ135に進み、モータ駆動中であるか否かを判定する。この判定は、後述するステップ145において、既にモータ駆動中であることを示すモータ駆動中フラグがセットされているか否かに基づいて行われる。車両速度制御が実行されるのがモータ制御処理が開始されてから初めての場合など、まだモータ駆動中でない場合にはステップ136に進む。
ステップ136では、操作量センサ54の検出信号に基づいて、アクセルがオンされているか否かを判定する。アクセルオンされた場合には、運転者が車両を加速させようとしている状況であり、車速を車両速度制御の目標速度Vtに制限するのは好ましくない。このためアクセルがオンされていれば、モータ駆動をオンする為の処理には行かずに処理を終了し、そのままモータ駆動オフを維持するようにしている。また、併せて、差圧制御弁への出力電流値を変化させたり、減圧制御弁を所定の時間開状態にするなどして付加されている制動力を低下するようにしても良い。一方、アクセルがオンされていなければステップ137へ進む。
ステップ137では、ストップランプスイッチ55の検出信号に基づいて制動中であるか否かを判定している。運転者がブレーキ操作を行って制動中となった場合、基本的にはそれによる制動力によって車速を低下させられると想定される。このため、ブレーキ操作が行われた場合には、そのままモータ駆動がオフのままとし、ブレーキ操作による制動力に基づいて車速を低下させるようにする。ただし、ブレーキ操作による制動力に基づいて確実に車速を目標車速Vt近傍まで低下させられれば良いが、車速が大きいと低下させられない可能性もある。このため、ステップ137で肯定判定された場合にはステップ138に進み、運転者のブレーキ操作によって車速低下可能であると想定される第3車速閾値に相当するモータオフ閾速度MOFF未満まで車速が低下しているかを否かを判定する。そして、ここでも肯定判定されれば、モータ駆動オンするための処理には行かずに処理を終了し、そのままモータ駆動オフを維持するようにしている。また、ステップ137、138のいずれかで否定判定された場合には、ステップ140へ進み、モータ駆動をONする為の判定処理を行う。
ステップ140では、初回の車両速度制御中であるか否かを判定する。上記したステップ130において初回制御中フラグがセットされた状態であれば、本ステップで肯定判定される。ここで肯定判定された場合には、ステップ145に進んでモータ駆動をオンすると共に、モータ駆動中フラグをセットすることでモータ駆動中であることを示す。
ステップ145の処理が実行される状況は、既に車両速度制御中であった場合もしくは車両速度制御中になった場合(ステップ115、125参照)である。このため、車両速度制御に基づいて車速が目標車速Vtとなるように差圧制御弁20や増圧制御弁30、31を制御し、さらにモータ駆動をオンすれば、W/C圧を発生させられる。そして、初回の車両速度制御のときには、まだブレーキに遊び、例えばブレーキパッドとブレーキディスクとのクリアランスがある状態である。したがって、初回の車両速度制御のときにはモータ駆動をオンするようにし、W/C圧を発生させることで、ブレーキの遊びを低減して応答性良く制動力が発生させられるようにしている。
なお、上記したステップ136で肯定判定された場合や、ステップ137、138の双方で肯定判定された場合には、初回の車両速度制御中であったとしても、モータ駆動をオフして良い状況になっている。このため、初回制御中フラグをオフして、初回の車両速度制御中ではなくなったことを示す。また、制動中と判定されることでモータ駆動をオフすることになるが、この場合でも車速が車両速度制御の終了条件として設定される基準値VENDに低下するまでは、車両速度制御が継続されることになる。
一方、ステップ115で肯定判定された場合にはステップ150に進み、ステップ140と同様に、初回の車両速度制御中であるか否かを判定する。そして、肯定判定されればステップ155に進み、初回の車両速度制御が実行されてからの経過時間を計測する初回制御中カウンタを1つインクリメントする。その後、ステップ160、165において、ブレーキの遊びが小さくなったか否かを判定している。
具体的には、ステップ160では、初回制御中カウンタが、初回の車両速度制御の開始から一定時間経過したことを示すオフ許可閾値CTHを超えているか否かを判定している。また、ステップ165では、W/C圧センサ52a〜52dの検出信号から求められる制御対象輪のW/C圧がオフ許可圧PTHを超えているか否かを判定する。初回の車両速度制御の開始から一定時間経過したり、W/C圧が所定の圧まで高くなると、ブレーキの遊びが小さくなっていると想定される。このため、ステップ160、165のいずれか一方でも肯定判定されればステップ170に進み、初回制御中フラグをオフして初回の車両速度制御中ではなくなったことを示す。また、ステップ160、165のいずれでも否定判定されれば、初回制御中フラグをオフしないようにする。
そして、再びステップ135に進み、再度モータ駆動中か否かを判定する。制御初回であってもステップ145でモータ駆動がONされた場合には、今度はモータ駆動中であるため、ステップ175に進む。ステップ175では、操作量センサ54の検出信号に基づいて、アクセルがオンされているか否かを判定する。アクセルがオンされた場合には、運転者が車両を加速させようとしている状況であり、車速を車両速度制御の目標車速Vtに制限するのは好ましくない。このため、アクセルがオンされていれば、ステップ180に進んでモータ駆動をオフすると共に、モータ駆動中フラグをオフしてモータ駆動中ではないことを示す。又、併せて、差圧制御弁への出力電流値を変化させたり、減圧制御弁を所定の時間開状態にするなどして付与していた制動力を低下させても良い。そして、アクセルがオンされていなければ、ステップ185に進む。
なお、アクセルがオンされたときにモータ駆動をオフすることになるが、この場合でも車速が車両速度制御の終了条件として設定される基準値VENDに低下するまでは、車両速度制御が継続されることになる。
ステップ185では、モータ駆動の停止条件として、車速が第2速度閾値に相当する目標車速Vt以下になってから所定時間Tαが経過したか否かを判定する。車両速度制御が実行され、車速が目標車速Vtに近づくように制動力が付与された場合において、車速が低下すると、それ以上制動力を増加させなくても良い。このため、車速が目標車速Vt以下になってから所定時間Tαが経過したら、確実に車速が目標車速Vt以下になったと判定し、ステップ180に進んでモータ駆動をオフすると共に、モータ駆動中フラグをオフしてモータ駆動中ではないことを示す。また、ここで否定判定された場合にはステップ190に進む。
ステップ190では、ストップランプスイッチ55の検出信号に基づいて制動中であるか否かを判定している。運転者がブレーキ操作を行って制動中となった場合、基本的にはそれによる制動力によって車速を低下させられると想定される。このため、ブレーキ操作が行われた場合には、モータ駆動がオフされるようにし、ブレーキ操作による制動力に基づいて車速を低下させるようにする。
ただし、ブレーキ操作による制動力に基づいて確実に車速を目標車速Vt近傍まで低下させられれば良いが、車速が大きいと低下させられない可能性もある。このため、ステップ190で肯定判定された場合にはステップ195に進み、運転者のブレーキ操作によって車速低下可能であると想定される第3車速閾値に相当するモータオフ閾速度MOFF未満まで車速が低下しているかを否かを判定する。そして、ここでも肯定判定されればステップ180に進んでモータ駆動をオフするようにしている。また、ステップ190、195のいずれかで否定判定された場合には、モータ駆動をオンしたままとし、制動力の付与を継続する。
なお、上記したステップ175、185のいずれかで肯定判定された場合やステップ190、195の双方で肯定判定された場合には、初回の車両速度制御中であったとしても、モータ駆動をオフして良い状況になっている。このため、初回制御中フラグをオフして、初回の車両速度制御中ではなくなったことを示す。また、制動中と判定されることでモータ駆動をオフすることになるが、この場合でも車速が車両速度制御の終了条件として設定される基準値VENDに低下するまでは、車両速度制御が継続されることになる。
一方、車両速度制御が開始されてからモータ駆動がオフされた場合は、ステップ135において否定判定される。この場合には、再びステップ140において初回の車両速度制御中であるか否かの判定が行われるが、初回の車両速度制御が実行された後にモータ駆動がオフされた状況は既に初回の車両制御中ではないため、ステップ200に進む。
ステップ200では、車速が目標車速Vtに所定の第1速度偏差を加えた第1速度閾値に相当するモータオン閾速度MONを超えているか否かを判定する。モータオン閾速度MONは、車速と目標車速Vtとの偏差が大きくなり、モータ駆動をオンして制動力を付与すべき基準値である。上記したように、車両速度制御では、車速が目標車速Vtで一定となるように制動力を発生させ、車速が目標車速Vtから所定範囲内の速度であれば制動力を発生させないようにする。したがって、例えば降坂路を下る際の目標車速Vtに対して所定速度加算した速度をモータオン閾速度MONに設定し、車速がモータオン閾速度MONを超えると制動力発生条件を満たしたとしている。
なお、モータオン閾速度MONとモータオフ閾速度MOFFは同じにすることもできるが、モータ駆動のオンオフが繰り返されるハンチング防止のために、モータオン閾速度MONよりもモータオフ閾速度MOFFを小さな値に設定してある。さらに、ここでは車両速度制御として車両が降坂路を下る際を例に挙げているが、所定の速度勾配で変化する目標車速Vtで車両を減速させる場合もある。この場合には、その速度勾配で変化する目標車速Vtに対して所定速度加減算した速度をモータオン閾速度MONやモータオフ閾速度MOFFに設定すればよい。
そして、ステップ200で肯定判定された場合には、ステップ145に進んでモータ駆動をオンする。これにより、制動力が発生させられ、車速が低下させられて目標車速Vtに近づけられる。そして、この後はステップ135において肯定判定され、アクセルがオンされたり車速が目標速度以下になってから所定時間Tα経過したり、ブレーキ操作が為されて車速がモータオフ閾速度MOFFを下回るまで、モータ駆動がオンされて、制動力が付与される。以上のようにして、車両速度制御処理が実行される。
図4および図5は、従来方法と本実施形態の方法それぞれにより、降坂路における車両速度制御を行ったときのタイムチャートである。
まず、図4に示すように、従来の場合、車両速度制御スイッチ53がオンされることで目標車速Vtが設定されると共に、この目標車速Vtに基づいてモータオン閾速度MONが設定される。そして、車速が目標速度Vtを超えると車両速度制御中となり、さらに車速がモータオン閾速度MONを超えるとモータ駆動がオンされる。そして、車速が目標車速Vt以下に低下してから所定時間Tαが経過すると、モータ駆動がオフされる。このような動作が初回の車両速度制御であるか2回目以降の車両速度制御であるかにかかわらず繰り返される。そのため、ブレーキの遊びがある初回の車両速度では制動力の増加が遅れ気味となり車速が一時的に高くなる傾向にあった。また、アクセル操作やブレーキ操作など、運転者の操作に基づく車両の走行状態変化があっても、それとは無関係に車速と目標車速Vtとの関係だけに基づいてモータ駆動のオンオフを制御している。このため、モータ駆動をオンしている時間が長くなる傾向にあった。
一方、図5に示すように、本実施形態の場合、車両速度制御スイッチ53がオンされることで目標車速Vtが設定されると共に、この目標車速Vtに基づいてモータオン閾速度MONおよびモータオフ閾速度MOFFが設定される。そして、車速が目標速度Vtを超えると車両速度制御中となり、初回の車両速度制御においては、車速が目標速度よりも大きくなっていれば、車速がモータオン閾速度MONを超えていなくてもモータ駆動をオンする(t1)。その後W/C圧>PTHとなってブレーキの遊びが小さくなっていることが確認できたら一旦モータをオフする(t2)。さらに車速が上昇しモータオン閾速度MONを上回ると、再度モータ駆動がオンされる(t3)。これにより、初回の車両速度制御ではW/C圧が発生させられ、ブレーキの遊びを低減して応答性良く制動力が発生させられるようにできるため、車速の上昇を低減できる。そして、車速が目標車速Vt以下に低下してから所定時間Tαが経過すると、モータ駆動がオフされる。
続いて、車両速度制御中に再び車速が目標車速Vtを超えた場合、基本的には車速がモータオン閾速度MONを超えるとモータ駆動がオンされる。そして、基本的には車速が目標車速Vt以下に低下してから所定時間Tαが経過したときにモータ駆動がオフされる。しかしながら、その途中でアクセルがオンされたり、ブレーキ操作が為されると、それに応じてモータ駆動がオフされる。これにより、車両速度制御によって車速が目標速度となるようにしつつ、よりモータ11をオフさせる頻度を増加させられ、よりモータの温度上昇の防止や耐久性向上を図ることが可能となる。
以上説明したように、本実施形態の車両用ブレーキ制御装置によれば、車両速度制御におけるモータ駆動をオンしている際に、運転者によるアクセル操作やブレーキ操作のような走行状態変化があったことを検出し、検出された場合にモータ駆動をオフするようにしている。これにより、モータ11をオフさせる頻度を増加させられ、よりモータ11の温度上昇の防止や耐久性向上を図ることが可能となる。
また、運転者によるブレーキ操作が為された場合にモータ駆動をオンした状態にすると、調圧リザーバ40を介してM/C3内のブレーキ液をポンプ10にて吸引し、管路A2側に供給することになる。このとき、ブレーキペダル1の踏み込みに基づいてマスタピストンが押圧され、マスタリザーバ3aとの連通路が塞がれているため、M/C3内へのブレーキ液の補充が為されず、M/C3内に溜まっていたブレーキ液のみが用いられることになる。したがって、制動中かつモータ駆動がオンされているときには、ブレーキ液の消費に応じてマスタピストンが動き、それに伴ってブレーキペダル1が吸い込まれ、ペダルストローク変動を発生させる。これに対して、本実施形態では、ブレーキ操作が為されて制動中になるとモータ駆動を停止しているため、ブレーキペダル1が吸い込まれることを防止でき、ペダルストローク変動の発生を防止できる。運転者が車両減速の為さらにブレーキを踏み込むとマスタシリンダ圧がW/C圧を上回った時点で逆止弁20aを介してブレーキ液が導入されW/C圧が上昇する。これにより、車両はさらに減速し、運転者は操作に伴った減速感を得ることができる。
さらに、運転者によるアクセル操作が為されたときにもモータ駆動をオフするようにしているため、運転者が車両を加速させたいのに車両速度制御によって速度制限が為されることを防止できる。このため、運転者の意図に反して車両速度を抑制するという違和感を防止できる。
また、初回の車両速度制御の際には、車速がモータオン閾速度MONを超えていなくてもモータ駆動をオンさせている。これにより、ブレーキの遊びを低減して応答性良く制動力が発生させられるようにできるため、より早くから車速を低減することが可能となる。また、モータ駆動をオンする頻度を低減するには、モータ駆動をオンする閾値となるモータオン閾速度MONを大きな値に設定すれば良い。しかしながら、この場合、車速がモータオン閾速度MONを超えてから初めてモータ駆動をオンしたのでは、ブレーキの遊びによって制動力発生が遅れ、車速と目標車速Vtとの乖離が大きくなるし、モータオン閾速度MONが大きい為にその遅れも大きくなる。したがって、本実施形態のように、初回の車両速度制御の際にモータ駆動をオンすることで、モータオン閾速度MONを大きな値に設定しても、車速と目標車速Vtとの乖離を小さくできると共に、より早く制動力を発生させられるため、より運転者の安心感を増すことが可能となる。別の見方をすれば、モータオン閾速度MONをより高い値に設定することが可能となるため、モータを駆動する頻度や時間をさらに低減することができる。
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、実W/C圧をW/C圧センサ52a〜52dにて直接検出しているが、演算によって推定することもできる。すなわち、ABS制御やTRC制御および車両速度制御においては、M/C3内に発生させられたM/C圧を基準として、モータ11の回転数および増圧制御弁30、31や減圧制御弁32、33の駆動時間に基づいて、実W/C圧を推定できる。これをW/C圧センサ52a〜52dの検出信号から得られる検出値に代えて用いることもできる。この場合、M/C圧に対して差圧制御弁20による差圧分を加算した値以上にはW/C圧が上昇しないため、M/C圧と差圧制御弁20の差圧分を加算した値にて上限ガードを行う。なお、実W/C圧の推定に関して、W/C圧増圧勾配および減圧勾配は実験により求めることができ、モータ回転数に応じて各勾配を補正したりすると好ましい。また、上記実施形態では、初回制御中カウンタがオフ許可閾値CTHを上回るか、W/C圧がオフ許可圧PTHを上回ると初回制御中でないとしているが、初回制御中カウンタのみを用いて初回制御中でないとするようにしてもよい。このようにすると短時間のモータオン・オフによる作動音の変化とそれに伴う運転者の違和感を防止でき、より効果的に初回速度制御時の速度上昇を抑えられる。
また、上記実施形態で説明したモータオン閾速度MONやモータオフ閾速度MOFFおよび基準値VENDなどについては、周辺環境や目標車速Vtなどに応じて可変としても良い。
図6(a)は路面勾配とモータオン閾速度MONとの関係、図6(b)は、温度とモータオン閾速度MONとの関係、図6(c)は、目標車速Vtとモータオン閾速度MONとの関係を示したグラフである。図6(a)に示すように、路面勾配が大きいと車速変動が大きくなる為、車両速度制御の性能を重視して、路面勾配が大きくなるほどモータオン閾速度MONを小さくすると良い。また、図6(b)に示すように、温度が高くなるとブレーキ液圧制御用アクチュエータの熱保護の観点からモータ駆動がオンされ難くなるように、温度が高くなるほどモータオン閾速度MONを大きくすると良い。さらに、図6(c)に示すように、目標車速Vtが高くなるに従ってモータオン閾速度MONも高くするようにしても良い。
なお、これら路面勾配や温度および目標速度に応じたモータオン閾速度MONの設定を組み合わせて行っても良い。その場合、路面勾配や温度および目標速度に応じたモータオン閾速度MONの設定を行い、そのうちの最大値を路面勾配や温度および目標速度に応じたモータオン閾速度MONとして設定すれば、ブレーキ液圧制御用アクチュエータの温度保護の観点から好ましい。また、ここでは路面勾配や温度および目標速度に応じたモータオン閾速度MONの設定について説明したが、基準値VENDやモータオフ閾速度MOFFについても、路面勾配や温度および目標速度とモータオン閾速度MONとの関係と同様の関係となる。このため、基準値VENDやモータオフ閾速度MOFFについても、図6(a)〜(c)に示す関係を用いて設定しても良い。
また、上記実施形態では、車両速度制御を車両速度制御スイッチ53が押下された場合に実行するものについて説明したが、他の制御からの車両速度制御要求に基づいて実行されても良い。そして、上記実施形態のように、車両速度制御スイッチ53にて車両速度制御の制御要求を検出する場合には、車両速度制御スイッチ53が制御要求検出手段に相当し、他の制御での車両速度制御要求に基づいて車両速度制御を実行する場合には、ブレーキECU50のうちその要求を検出する部分が制御要求検出手段に相当することになる。
また、アクセル操作を操作量センサ54の検出信号に検出したが、例えばエンジンECUからスロットル開度を入力してアクセル操作を検出することもできる。同様に、ブレーキ操作をストップランプスイッチ55の検出信号に検出したが、例えば踏力センサやストロークセンサの検出信号に基づいて検出することもできる。これらアクセル操作やブレーキ操作などを検出する部分が運転操作検出手段に相当する。また、車速検出手段として車輪速度センサ51a〜51dを用いているが、車速センサなどを用いても良いし、ブレーキECU50が他のECUから車速を取得するようにしても良い。
また、上記実施形態では、ブレーキECU50が車両速度制御手段に相当し、各図中に示したステップは、ブレーキECU50中の各種処理を実行する手段に対応するものである。具体的には、ステップ175、190、136、137の処理を実行する部分が走行変化状態判定手段に相当する。