本発明は、車両のブレーキ装置に関し、特に、車輪のスリップ制御が可能なブレーキ装置に関する。
従来、車両のブレーキ装置に関し、車輪のロックないしスキッド状態の発生を防止するスリップ制御装置が知られている。例えば、アンチスキッドブレーキ装置は、車両のブレーキ油圧を制御して各車輪の制動力を調節することにより、制動時における車輪のロックないしはスキッド状態の発生を防止するようにしたものである。
このようなスリップ制御装置では、各車輪の回転速度(車輪速)を検出する必要があるので、例えば電磁ピックアップタイプの車輪速センサが各車輪に配設されている。車輪速センサの異常や故障、断線等により、車輪速の検出が困難となった場合には、アンチスキッドブレーキ制御が不安定に行われることから、車輪速センサの出力信号に異常を適切に検出し、スリップ制御を中止する等の発明が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1記載の車両のスリップ制御装置では、2つの車輪速センサが同時に故障しても当該故障を検出できる。
特開平5−85342号公報
しかしながら、特許文献1記載のスリップ制御装置では、スリップ制御を禁止した後のブレーキ油圧の制御については記載されていない。
アンチスキッドブレーキ装置を備えた車両では、アンチスキッドブレーキ制御を前提として、充分な制動力を得られるようにブレーキペダルの操作量(踏力やマスタシリンダ圧)とブレーキ油圧の関係が設計される。このため、アンチスキッドブレーキ制御を前提とした場合、スリップ制御が禁止された状態でも、充分な制動力が車輪に加えられるので、車輪がロックしやすくなる傾向が生じるなど制動操作の操作性が低下するという不都合が生じる。
本発明は、上記問題に鑑み、アンチスキッドブレーキ制御が禁止された場合、制動操作の操作性を向上できるブレーキ装置を提供することを目的とする。
上記問題に鑑み、本発明は、制動時における車輪のロック状態の発生を防止するABS制御手段と、所定の条件が成立した場合に前記ABS制御手段によるABS制御を禁止するABS制御禁止手段と、ブレーキ操作部材の操作を検出するブレーキ操作検出手段と、前記ブレーキ操作部材の操作量に基づき設定された目標減速度に応じて車輪の制動圧を制御する制動圧制御手段と、有するブレーキ装置において、前記ABS制御禁止手段によりABS制御が禁止された場合、ABS制御が禁止されていない場合よりも、前記ブレーキ操作部材の操作中、定常的に、車輪の制動圧を低下させる制動力低下手段を、有し、前記制動力低下手段は、前記目標減速度に応じて、制動圧を低下させる、ことを特徴とする。
本発明によれば、アンチスキッドブレーキ制御が禁止された場合、制動操作の操作性を向上できるブレーキ装置を提供することができる。
また、本発明の一形態において、制動力低下手段は、目標減速度が大きいほど、制動圧を大きく低下させる、ことを特徴とする。
本発明によれば、車両の減速度が低い場合、制動圧の低下量を小さくできるので、車両の減速度が低い場合の制動力の不足を防止できる。なお、車両の減速度が低い場合だけでなく、車速に応じて制動圧の低下量を小さくしてもよい。
また、本発明の一形態において、前記制動圧低下手段は、前記ブレーキ操作検出手段により前記ブレーキ操作部材の操作が検出された場合に、前記ABS制御禁止手段によりABS制御が禁止された場合、前記ブレーキ操作検出手段により当該ブレーキ操作の終了が検出されるまで、制動圧の低下を遅らせる、ことを特徴とする。
本発明によれば、ABS制御が禁止されても、運転者がブレーキ操作中であれば、制動圧が低下されないので、ブレーキ操作中のいわゆるブレーキ抜けを防止できる。
また、本発明は、ブレーキ制御の異常を検出するブレーキ制御異常検出手段と、ブレーキ制御異常検出手段により検出されたブレーキ制御の異常に基づき、各輪のブレーキ制御の制御状態を検出する制御状態検出手段と、を有し、制動圧低下手段は、制御状態検出手段により検出された制御状態に応じて制動圧を低下させる、ことを特徴とする。
本発明によれば、ブレーキ装置に何らかの異常が生じ、車輪のロックが発生しやすい場合、制動圧を低下させることができるので車輪のロックを防止しうる。
また、本発明は、ブレーキ操作部材の操作に応じて設定された目標減速度等の目標物理量に基づきホイルシリンダの制動圧を制御する制動圧制御手段と、制動時における車輪のロック状態の発生を防止するABS制御手段と、所定の条件が成立した場合に前記ABS制御手段によるABS制御を禁止するABS制御禁止手段と、ブレーキ操作部材の操作を検出するブレーキ操作検出手段と、を有するブレーキ装置において、前記制動圧制御手段は、前記ABS制御禁止手段によりABS制御が禁止された場合、ブレーキ操作部材の操作中、定常的に、前記目標物理量を補正する目標値補正手段を有し、目標値補正手段は、前記目標物理量の大きさに応じて、当該目標物理量を補正する補正量を定める、ことを特徴とする。
また、本発明の一形態において、目標値補正手段は、前記前記目標物理量が大きいほど、当該目標物理量が小さくなるよう補正する、ことを特徴とする。
本発明によれば、例えば、目標減速度が低い場合、効き補正係数が高めに設定されるので、目標減速度が低い場合の制動力の不足を防止できる。目標物理量は、例えば車速であってもよい。
また、本発明の一形態において、前記制動圧制御手段は、前記ブレーキ操作検出手段により前記ブレーキ操作部材の操作が検出された場合に、前記ABS制御禁止手段によりABS制御が禁止された場合、前記ブレーキ操作検出手段により当該ブレーキ操作の終了が検出されるまで、前記目標値補正手段による目標物理量の補正を遅延する目標値補正遅延手段を、有することを特徴とする。
本発明によれば、ABS制御が禁止されても、運転者がブレーキ操作中であれば、効き補正係数が補正されないので、ブレーキ操作中のいわゆるブレーキ抜けを防止できる。
また、本発明の一形態において、ブレーキ制御の異常を検出するブレーキ制御異常検出手段と、ブレーキ制御異常検出手段により検出されたブレーキ制御の異常に基づき、各輪のブレーキ制御の制御状態を検出する制御状態検出手段と、を有し、目標値補正手段は、制御状態検出手段により検出された制御状態に応じて目標物理量を補正する、ことを特徴とする。
本発明によれば、バックアップ制動が行われることにより、車輪のロックが発生しやすい場合、効き補正係数を小さくできるので車輪のロックを防止しうる。
アンチスキッドブレーキ制御が禁止された場合、制動操作の操作性を向上できるブレーキ装置を提供することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。図1は、ブレーキ操作部材(以下、ブレーキペダルという)の操作量に基づき目標減速度が設定され、該目標減速度に基づきホイルシリンダの制動圧が制御されるブレーキ装置の油圧回路図を示す。本実施の形態のブレーキ装置は、電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)30により制御され、アンチスキッドブレーキ制御が禁止された場合、制動操作の操作性を向上するようにブレーキ装置を制御可能となる。
ブレーキペダル2には、2つの液圧室1a、1bを備えたマスタシリンダ1が連結されている。液圧室1a、1bにはブレーキペダル2の踏力に応じたマスタシリンダ圧が発生する。マスタシリンダ1の上部には、作動流体が貯留されたリザーバタンク18が設けられている。ブレーキペダル2が非操作状態の場合、すなわち加圧ピストンが後端位置にある場合にリザーバタンク18と液圧室1a、1bが連通され、ブレーキペダル2が操作され加圧ピストンが前方に移動されると、リザーバタンク18と液圧室1a、1bが遮断される。
マスタシリンダ1の液圧室1a、1bにはそれぞれ第1マスタ通路26a及び第2マスタ通路26bが連通している。第1マスタ通路26aには、その内部の液圧、すなわち液圧室1aに発生するマスタシリンダ圧に応じた信号を出力するMC油圧センサ5aが配設されている。同様に、第2マスタ通路26bには、その内部の液圧、すなわち液圧室1bに発生するマスタシリンダ圧に応じた信号を出力するMC油圧センサ5bが配設されている。
第1マスタ通路26aは、作動流体の流通を許容/遮断するマスタカット弁24FRを介して、車輪FRのホイルシリンダに連結される。同様に、第2マスタ通路26bは、マスタカット弁24FLを介して、車輪FLのホイルシリンダに連結される。マスタカット弁26aは常態で第1マスタ通路26aと、マスカット弁26bは常態で第2マスタ通路26bとを、それぞれ導通状態とし、ブレーキペダル2が踏み込まれるとこれらの通路を遮断状態とする常開の電磁開閉弁である。
第1マスタ通路26aには、シミュレータカット弁23を介してストロークシミュレータ22が接続されている。シミュレータカット弁23は、常態で第1マスタ通路26aとストロークシミュレータ22とを遮断状態とし、ブレーキペダル2が踏み込まれると、これらを導通状態とする常閉の電磁開閉弁である。
リザーバタンク18は、戻り配管11を介して、油圧ポンプ4の入力側と連通している。油圧ポンプ4の吐出側には蓄圧器3が接続され、油圧ポンプ4のモータが駆動されると、蓄圧器3に高圧の作動流体が保持される。
蓄圧器3の吐出側は、高圧通路8に連通している。高圧通路8には、その内部の液圧を検出する蓄圧センサ13が配設されている。
高圧通路8は、リニア増圧弁6FR,6FL、6RL及び6RRを介して車輪FR、FL、RL及びRRの各ホイルシリンダに接続されている。また、高圧通路8は、リニア増圧弁6FR〜RR及びリニア減圧弁7FR,7FL、7RL及び7RRを介して、低圧の戻り配管11と接続されている。各リニア増圧弁6FR〜6RRと車輪FR〜RRの各ホイルシリンダとの間には、ホイルシリンダの圧力を検出し当該圧力を示す制動圧信号を出力する制動圧センサ9FR,9FL、9RL及び9RRが配設されている。
リニア増圧弁6FR〜RRは、電力が供給されていない状態で閉じた常閉弁として構成される。また、リニア減圧弁7FR、7FLは、電力が供給されていない状態で閉じた常閉弁として構成され、リニア減圧弁7RL、7RRは、電力が供給されていない状態で開いた常開弁として構成される。
後述の制御系が正常な場合は、ブレーキペダル2が踏み込まれると、ECU30は、マスタカット弁24FR及びマスタカット弁24FLを閉状態とする。係る状況では、シミュレータカット弁23が開状態とされることで、マスタシリンダ圧に応じた量の作動流体が液圧室1aからストロークシミュレータ22に流入される。ストロークシミュレータ22は、ブレーキペダル2の踏込みによる消費油量をシミュレートし、マスタシリンダ1から吐出される油量を吸収して消費して、運転者のブレーキペダル踏込感覚を確保するように構成されている。なお、図1は、制御系が正常な状態で、ブレーキペダル2が踏み込まれていない場合(イグニッションオン時の状態)を示す。
そして、制御系に何らかの異常が検出された場合、ブレーキペダル2が踏み込まれると、マスタカット弁24FR及び24FLは開状態に、シミュレータカット弁23は閉状態になり、マスタシリンダ1の液圧室1a、1bからマスタシリンダ圧に応じた量の作動流体が車輪FRとFLのホイルシリンダへ流入される。すなわち、制御系に何らかの異常が検出されても、ブレーキペダル2の操作量に応じた制動圧がホイルシリンダに供給されるので、車両は機械的に制動される(バックアップ制動)。
上記の油圧回路における制動圧を制御するブレーキECU30は、各種の信号が入力され当該信号を処理する信号処理回路を含んで構成される信号入力部31、演算を行う演算処理装置32、予め定められた制御用のパラメータやプログラムを記憶するROMやRAMにより構成される記憶装置33、演算処理装置32による演算結果を駆動回路等により制御信号として出力する制御信号出力部34、を有するように構成される。
信号入力部31には、蓄圧センサ13、MC油圧センサ5a、5b及び制動圧センサ9FR〜9RR、走行速度を検出し車速信号を出力する車速検出器、各車輪FR〜RRの車輪速を検出し車輪速信号を出力する車輪速センサ12FR〜12RR、がそれぞれ電気的に接続されている。蓄圧センサ13により検出された検出圧力M−ACCは蓄圧器圧力信号として、MC油圧センサ5a、5bにより検出されたマスタシリンダ圧はMC油圧信号として、車速検出器により検出された車速は車速信号として、制動圧センサ9FR〜9RRにより検出された制動圧PWCは制動圧信号として、車輪速センサにより検出された車輪速が車輪速信号として、それぞれ信号入力部31に入力される。
また、制御信号出力部34は、油圧ポンプ4、リニア増圧弁6FR〜RR、リニア減圧弁7FR〜RRと電気的に接続される。油圧ポンプ4には、油圧ポンプ4をオン又はオフに制御する蓄圧制御信号が出力される。また、リニア増圧弁6FR〜6RRには電流値よりなる制御信号Va−FR〜Va−RRが出力され、リニア減圧弁7FR〜7RRには電流値よりなる制御信号Vr−FR〜Vr−RRが出力される。リニア増圧弁6FR〜6RR及びリニア減圧弁7FR〜7RRの開度は、入力される制御信号に比例して制御され、各ホイルシリンダを所望の制動圧に制御することで各車輪が制動され又は制動が解除される。
記憶装置33には、後述の効き補正係数設定MAP、制御状態テーブル、演算処理装置32の演算処理に必要なプログラム等が格納されている。
続いて、ブレーキECU30により制御される油圧回路の作用について説明する。ブレーキペダル2が操作されると、MC油圧センサ5a、5bがマスタシリンダ圧を検出し、ブレーキECU30にMC油圧信号を出力する。ブレーキECU30は、マスタシリンダ圧に基づいて目標減速度を演算し、目標減速度や車両の走行状況等に基づき各車輪のブレーキ配分を算出する。目標減速度及び各車輪のブレーキ配分が算出されたら、各車輪の制動圧を制御する目標ホイルシリンダ圧を設定する。
ブレーキペダル2が踏み込まれた場合、ブレーキECU30は、設定された目標ホイルシリンダ圧に基づき電流値よりなる制御信号Va−FR〜Va−RRを生成すると共に、各輪の目標ホイルシリンダ圧が各輪の実ホイルシリンダ圧よりも大きくなった場合、リニア減圧弁7FR〜7RRを閉じ、制御信号Va−FR〜Va−RRをリニア増圧弁6FR〜6RRに出力する。リニア増圧弁6FR〜6RRは、該電流値に応じて開度を調整し蓄圧器3から供給される圧力を制御し、車輪FR〜RRのホイルシリンダに制動圧を供給する。
また、ブレーキペダル2の踏込み量が減少した場合、ブレーキECU30は、設定された目標ホイルシリンダ圧に基づき電流値よりなる制御信号Vr−FR〜Vr−RRを生成すると共に、各輪の目標ホイルシリンダ圧が実ホイルシリンダ圧よりも低くなった場合、リニア増圧弁6FR〜RRを閉じ、制御信号Vr−FR〜Vr−RRをリニア減圧弁7FR〜7RRに出力する。リニア減圧弁7FR〜7RRは、該電流値に応じて開度を調整し、ホイルシリンダが低圧の戻り配管11と連通することで、ホイルシリンダ内の制動圧が緩和される。
ブレーキ装置の機能ブロックについて、図2(a)を参照しながら説明する。ブレーキ装置は、目標減速度等の目標物理量に基づきホイルシリンダの制動圧を制御する制動圧制御手段43、制動時における車輪のロック状態の発生を防止するABS制御手段(Anti−Skid Brake System)41、所定の条件が成立した場合にABS制御手段41によるABS制御を禁止するABS制御禁止手段42、ABS制御禁止手段によりABS制御が禁止された場合、目標物理量を補正する目標値補正手段44、ブレーキペダル2の操作を検出するブレーキ操作検出手段46、ブレーキ操作検出手段による当該ブレーキ操作の終了まで、目標値補正手段による目標物理量の補正を遅延する目標値補正遅延手段45、ブレーキ制御の異常を検出するブレーキ制御異常検出手段47、各輪のブレーキ制御の異常に基づきブレーキ装置の制御状態を検出する制御状態検出手段48、を有する。
制動圧制御手段43は、設定された目標ホイルシリンダ圧に基づき、電流値よりなる制御信号Va−FR〜Va−RRを生成しリニア増圧弁6FR〜6RRに、又は、電流値よりなる制御信号Vr−FR〜Vr−RRを生成しリニア減圧弁7FR〜7RRに出力する。
また、ABS制御手段41は、各車輪の車輪速信号に基づき当技術分野において周知の方法で、車輪速及び各車輪の制動スリップ率を演算し、何れかの車輪の制動スリップ率が、ABS制御開始の基準値よりも大きくなると(ABS制御の開始条件が成立すると)、ABS制御の終了条件が成立するまで、当該車輪について制動スリップ率が所定の範囲内になるよう、ホイルシリンダの制動圧を増減するアンチスキッド制御を行う。
ABS制御禁止手段42は、所定の条件が成立した場合にABS制御手段41によるABS制御を禁止する。所定の条件が成立した場合とは、例えば、車輪速センサが故障した場合、車輪速センサの配線が断線した場合、車輪速センサのコネクタが嵌合不良となった場合など、ABS制御を適切に行えない場合をいう。
ABS制御禁止手段42によりABS制御が禁止されている旨の信号を入力された制動圧制御手段43は、目標値補正手段44により目標物理量を補正する。目標物理量の補正は、例えば目標減速度に、効き補正係数を乗算することで行う。効き補正係数は、ABS制御が禁止されていない場合は例えば1.0に設定され、ABS制御が禁止されている場合には、A(A<1.0)に設定される。したがって、効き補正係数Aが目標減速度に乗算されることで、目標減速度が小さく補正される(車両の減速が緩やかになる)。
また、ブレーキペダル2が操作されている場合には、ブレーキ操作検出手段46により制動中である旨の信号が制動圧制御手段43に入力される。ブレーキ操作中にABS制御が禁止された場合、制動圧制御手段43は目標値補正遅延手段45により、当該ブレーキ操作が終了するまで(ブレーキペダル2が戻されるまで)目標値の補正を遅延する。目標値補正遅延手段45により、ブレーキ操作中に目標減速度が小さくなるように補正されることがなくなり、ブレーキ操作中のいわゆるブレーキ抜けが防止される。
また、ブレーキ制御異常検出手段47は、各車輪のホイルシリンダに接続された配管の配管漏れや制動圧センサ9FR〜9RRの異常、リニア増圧弁6FR〜6RRの異常、等各輪毎にブレーキ制御の異常を検出する。ブレーキ制御状態検出手段48は、ブレーキ制御異常検出手段47により検出されたブレーキ制御の異常に基づき、例えば、FRは機械制御(マスタカット弁24FRを介して機械的に制動を加える)により、FL〜RRはリニア増圧弁6FL〜6RRにより、それぞれ制動力が加えられているといった、各輪の制御状態を検出する。ブレーキ制御状態検出手段48が検出したブレーキ制御状態は、制動圧制御手段43に出力され、目標値補正手段44は、制御状態に応じた効き補正係数を設定する。
ところで、本実施の形態のブレーキ装置は、ABSアクチュエータによっても実現可能である。図2(b)は、ABSアクチュエータ50を制御するABS制御手段41の概略機能構成図を示す。ABS制御手段41は、上述のとおり周知の方法でアンチスキッド制御を行い、また、ABS制御禁止手段は所定条件が成立した場合ABS制御を禁止する。
図2(b)のABS制御手段41は、制動圧低下手段49を有するように構成される。制動圧低下手段49は、ABS制御禁止手段42によりABS制御が禁止された場合、ABS制御が禁止されていない場合よりも、ABSアクチュエータ50による車輪の制動力を低下させる。また、制動力低下手段49は、車両の減速度に応じて制動力を低下させることができる。
また、制動圧低下手段49は、ブレーキ操作検出手段によりブレーキ操作部材の操作が検出された状態で、ABS制御禁止手段によりABS制御が禁止された場合、ブレーキ操作検出手段による当該ブレーキ操作の終了まで、制動力の低下を遅らせることができる。すなわち、本実施の形態を構成するブレーキ装置は、いわゆる図1のようなバイワイヤのブレーキ装置でなくともよく、ABSアクチュエータを有し、マスタシリンダ圧から供給された制動圧を制御できるものであればよい。
なお、以下の実施例1ないし3においては、図1の油圧回路及び図2(a)の機能構成ブロックに基づき説明する。
本実施の形態のブレーキ装置の好適な実施例について説明する。図3は、ABS制御の禁止中、目標減速度を下げる補正を行うブレーキ制御の制御手順を示すフローチャート図の一例である。
制動圧制御手段43は、図3のフローチャート図によるブレーキ制御を、例えばエンジンが始動することでスタートし、所定時間(例えば6msec)毎のタイマ割込み処理として実行する。まず、制動圧制御手段43は、マスタシリンダ圧や車両の走行状況等に基づいて目標減速度を演算し設定する(S11)。
次いで、制動圧制御手段43は、ABS制御がABS制御禁止手段42により禁止されているか否かを判定する(S12)。通常の走行のようにABS制御が禁止されていない場合(ステップS11のNo)、目標値補正手段44は効き補正係数を1.0のままとする(S13)。
車輪速センサが故障した場合等により、ABS制御禁止手段42がABS制御を禁止している場合(ステップS11のYes)、目標値補正手段44は、効き補正係数にA(A<1.0)を設定する。これにより、ABS制御の禁止中は効き補正係数が小さくなる。
ついで、目標値補正手段44は目標減速度に効き補正係数を乗算する(S15)。以上で図3の制御手順が終了する。
したがって、本実施によれば、ABS制御が禁止されている場合、目標減速度が小さくなるように補正される。図4は、図3のフローチャート図の制御手順の結果、車両に生じる減速度を示すグラフ図の一例である。なお、図4のグラフ図のX軸は、踏力センサ21により検出された踏力である。
図4のグラフ図において、ラインaはABS制御が禁止されていない場合、ラインbはABS制御が禁止されている場合、の車両の減速度をそれぞれ示す。ラインa及びbはいずれも、踏力が小さい場合(ブレーキペダルの踏込み操作の始め)は、比較的急に減速度が高まり、ある程度減速度が上昇すると減速度の上昇の仕方が緩やかになる。ラインbは、効き補正係数がAに補正されているため、ラインaよりも約2割程度小さい減速度を示している。したがって、ABS制御が禁止されている場合、目標減速度が小さく補正されることで、車両に生じる減速度が小さくなるように制御できる。
本実施のブレーキ装置によれば、ABS制御が禁止された場合、例えば車輪がロックしやすい状況におけるロックの発生を低減でき、また、急激な制動が抑制されるため、ブレーキ装置の操作性を向上させることができる。
なお、図3のフローチャート図では、所定の一の値Aを効き補正係数に設定したが、効き補正係数は目標減速度に応じて設定することが好適である。図5(a)は、補正前の目標減速度と効き補正係数の関係を示す効き補正係数設定MAPの一例である。補正係数設定MAPは、記憶装置33に予め格納されている。
図5(a)の効き補正係数設定MAPによれば、目標減速度が低い領域c(踏力が比較的小さい領域)では、例えば0.95のように1.0よりわずかに小さい効き補正係数が設定される。これにより、制動力がわずかに減少したことを運転者に告知でき、運転者はABS制御が禁止中であることを認識できる。また、目標減速度が低い領域で、効き補正係数が高めに設定されるので、目標減速度が低い場合の制動力の不足を防止できる。
目標減速度が大きくなり、領域dやeに達すると、効き補正係数は更に小さくなるので、車輪がロックしやすい減速度となってもロックの発生を低減でき、また、目標減速度に応じて徐々に効き補正係数が小さく設定されるため、運転者の違和感が軽減されると共に、ブレーキ装置の操作性を向上できる。
図5(b)は、図5(a)の効き補正係数MAPに基づき目標減速度を設定した場合に、車両に生じる減速度を示すグラフ図の一例である。なお、図5(b)において図4と同一部分には同一の符号を付しその説明は省略する。
図5(b)では、効き補正係数MAPに基づき目標減速度が補正された場合に、車両に生じた制動力をラインfに示す。ラインfでは、踏力が小さい場合(ブレーキペダルの踏込み操作の始め)は目標減速度が小さく設定されるので、効き補正係数も0.95となるため、比較的急に減速度が高まる。ある程度減速度が上昇するにつれ、効き補正係数が小さく設定されることから減速度の上昇の仕方が緩やかになる。したがって、ABS制御が禁止されている場合、目標減速度に応じて効き補正係数を設定することで、徐々に車両に生じる減速度の上昇の仕方が小さくなるように制御できる。
実施例2では、ブレーキ操作中にABS制御が禁止された場合にブレーキECU30が行う制御手順について説明する。図6(a)及び(b)は、ブレーキ操作中に、ABS制御が禁止された場合のブレーキ制御の制御手順を示すフローチャート図の一例である。なお、図3のフローチャート図と同様の処理については同じステップ番号を付し、当該処理については簡単に説明する。
まず、制動圧制御手段43は、ABS制御禁止手段42によりABS制御が新たに禁止されたか否かに応じて割り込み処理を行う(S10)。新たにABS制御が禁止されたのでない場合(既にABS制御が禁止されている場合を含む)、実施例1と同様にステップS11〜S15の処理が行われる(ステップS10のNo)。
新たにABS制御が禁止された場合(ステップS10のYes)、ステップS200に進み、目標値補正遅延手段45により、図6(b)のフローチャート図に示す割り込み処理が行われる。
割り込み処理では、まず、目標減速度が設定され(S11)、次いで、ブレーキ操作検出手段46によるブレーキ操作の検出結果に基づき、ブレーキ操作が継続して行われているか否かが判定される(S201)。ブレーキ操作が継続して行われている場合(S201のYes)、目標値補正遅延手段45は効き補正係数を1.0のままに設定し(S13)、ブレーキ操作が継続して行われていない場合(S201のNo)、目標値補正手段44は効き補正係数をA(A<1.0)に設定する(S14)。次いで、設定された効き補正係数が目標減速度に乗算され、目標減速度が補正される(S15)。
次いで、目標値補正遅延手段45は、ブレーキ操作が終了したか否かを判定する(S202)。ブレーキ操作が終了した場合(S202のYes)、当該割り込み処理は終了され(S203)、ブレーキ操作が終了していない場合(S202のNo)、図6(b)の割り込み処理が繰り返される。
本実施例によれば、ABS制御が禁止されても、運転者がブレーキ操作中であれば、効き補正係数が補正されないので、ブレーキ操作中のいわゆるブレーキ抜けを防止できる。
なお、本実施例においても、図5(a)のような効き補正係数MAPに基づき、目標減速度に応じて効き補正係数を設定することが好適である。
実施例3では、ABS制御が禁止された場合に、ブレーキ制御状態検出手段48により検出された各輪の制御状態に応じて、ブレーキECU30が行うブレーキ装置の制御手順について説明する。
図7は、ABS制御の禁止中、目標減速度を下げる補正を行うブレーキ制御の制御手順を示すフローチャート図の一例である。なお、図7において、図3のフローチャート図と同様の処理については同じステップ番号を付し、当該処理については簡単に説明する。
まず、制動圧制御手段43は、マスタシリンダ圧や車両の走行状況等に基づいて目標減速度を演算し設定する(S11)。
次いで、制動圧制御手段43は、ABS制御がABS制御禁止手段42により禁止されているか否かを判定する(S12)。通常の走行のようにABS制御が禁止されていない場合(ステップS11のNo)、目標値補正手段44は、効き補正係数を1.0のままとする(S13)。
車輪速センサが故障した場合等により、ABS制御が禁止されている場合(ステップS11のYes)、ブレーキ制御状態検出手段48は、各輪のブレーキ制御状態を検出する。図8は、各輪毎のブレーキ制御状態と効き補正係数の関係を示す制御状態テーブルの一例を示す。図8では、サーボと記載された車輪はリニア増圧弁により制動力が加えられることを、マニュアルと記載された車輪は機械制御により制動力が加えられることを、それぞれ示す。なお、ゼロと記載された車輪は制動力を加えること又は制動力の制御が困難であることを示す。
バックアップ制動時にはロックが発生しやすく、また、サーボとマニュアルでは一般にサーボの方が制動力が強いとされるので、ブレーキ制御状態に応じて効き補正係数を設定することが好適となる。例えば、状態1はブレーキ制御状態に異常のない状態であり、実施例1又は2のようにA(A<1.0)の効き補正係数が設定される。また、状態2のように、前輪2つがマニュアルで、後輪2つがサーボの場合、状態1よりも効き補正係数を小さくする(B、C、D、E及びFはいずれも<A)。目標値補正手段44は、ブレーキ制御状態に応じて図8の制御状態テーブルを参照し、該当する効き補正係数を抽出する(S301)。
次いで、目標値補正手段44は、抽出された効き補正係数を目標減速度に乗算する(S15)。以上で図7の制御手順が終了する。
配管漏れや制動圧センサ9FR〜9RRの異常、リニア増圧弁6FR〜6RRの異常、等が発生し、バックアップ制動が行われている場合、車輪のロックが発生しやすいが、本実施例によれば、ABS制御が禁止された状態でバックアップ制動となった場合、効き補正係数を小さくできるので、車輪のロックを防止しうる。
なお、本実施例においても、図5(a)のような効き補正係数MAPに基づき、目標減速度に応じて効き補正係数を設定することが好適である。例えば、図8の効き補正係数に図5の効き補正係数MAPの効き補正係数を減速度に応じて乗算する等の処理を行えば、ブレーキ制御状態と目標減速度に応じた効き補正係数が得られる。
以上、実施例1ないし3において説明したように、本実施の形態のブレーキ装置は、ABS制御が禁止された場合、車輪のロックを低減する等、制動操作の操作性を向上させるブレーキ装置を提供することができる。
ブレーキペダルの操作量に基づきホイルシリンダの制動圧が制御されるブレーキ装置の油圧回路図を示す。
ブレーキ装置の機能構成ブロック図の一例である。
ABS制御の禁止中、目標減速度を下げる補正を行うブレーキ制御の制御手順を示すフローチャート図の一例である。
図3の制御手順の処理により車両に生じる減速度を示すグラフ図の一例である。
効き補正係数設定MAPの一例である。
ブレーキ操作中に、ABS制御が禁止された場合のブレーキ制御の制御手順を示すフローチャート図の一例である
ABS制御の禁止中、目標減速度を下げる補正を行うブレーキ制御の制御手順を示すフローチャート図の一例である。
制御状態テーブルの一例である。
符号の説明
2 ブレーキペダル
3 蓄圧器
4 油圧ポンプ
5a、b MC油圧センサ
6FR〜6RR リニア増圧弁
7FR〜6RR リニア減圧弁
9FR〜9RR 制動圧センサ
13 蓄圧センサ
21 踏力センサ
22 ストロークシミュレータ
23 シミュレータカット弁
24FR、FL マスタカット弁
30 ブレーキECU