以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両制動装置が適用された車両を示す概略構成図である。同図に示される車両1は、いわゆるハイブリッド車両として構成されており、エンジン2と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構3と、動力分割機構3に接続された発電可能なモータジェネレータ4と、変速機5を介して動力分割機構3に接続された電動モータ6と、車両1の駆動系全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」といい、電子制御ユニットは、すべて「ECU」と称する。)7とを備える。変速機5には、ドライブシャフト8を介して車両1の駆動輪たる右前輪9FRおよび左前輪9FLが連結される。
エンジン2は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU10により制御される。エンジンECU10は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、エンジン2の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン2の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU10は、必要に応じてエンジン2の作動状態に関する情報をハイブリッドECU7に与える。
動力分割機構3は、変速機5を介して電動モータ6の出力を左右の前輪9FR,9FLに伝達する役割と、エンジン2の出力をモータジェネレータ4と変速機5とに振り分ける役割と、電動モータ6やエンジン2の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。モータジェネレータ4と電動モータ6とは、それぞれインバータを含む電力変換装置11を介してバッテリ12に接続されており、電力変換装置11には、モータECU14が接続されている。モータECU14も、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号等に基づいて電力変換装置11を介してモータジェネレータ4および電動モータ6を制御する。なお、上述のハイブリッドECU7やエンジンECU10、モータECU14は、何れもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。
ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、電力変換装置11を介してバッテリ12から電力を電動モータ6に供給することにより、電動モータ6の出力により左右の前輪9FR,9FLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、車両1はエンジン2によって駆動される。この際、動力分割機構3を介してエンジン2の出力の一部をモータジェネレータ4に伝えることにより、モータジェネレータ4が発生する電力を用いて、電動モータ6を駆動したり、電力変換装置11を介してバッテリ12を充電したりすることが可能となる。
また、車両1を制動する際には、ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、前輪9FR,9FLから伝わる動力によって電動モータ6が回転させられ、電動モータ6が発電機として作動させられる。すなわち、電動モータ6、電力変換装置11、ハイブリッドECU7およびモータECU14等は、車両1の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって左右の前輪9FR,9FLに回生制動力を付与する回生ブレーキユニットとして機能する。
車両1はこのような回生ブレーキユニットに加えて、図2に示されるように、本実施形態におけるブレーキ制御装置としての液圧ブレーキユニット20を備える。このため、両者を協調させるブレーキ回生協調制御を実行することにより車両1は制動可能である。本実施形態における車両1は、ブレーキ回生協調制御を実行することにより、回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させることができる。
図2は、本実施形態に係る液圧ブレーキユニット20を示す系統図である。液圧ブレーキユニット20は、図2に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、液圧ブレーキユニット20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給系路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給系路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
液圧ブレーキユニット20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御して、ブレーキ回生協調制御を実行可能である。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
上述のように構成された液圧ブレーキユニット20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。液圧ブレーキユニット20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求は例えば、運転者がブレーキペダル24を操作した場合や、走行中に他の車両との距離を自動制御している際に当該他の車両との距離が所定の距離よりも狭まった場合などに生起される。
制動要求を受けて、ブレーキECU70は、要求制動力から回生による制動力を減じることにより、液圧ブレーキユニット20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECU7から液圧ブレーキユニット20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に対する供給電流の値を決定する。
その結果、液圧ブレーキユニット20においては、動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介してブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給されて車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤによる制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
なお、このとき、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードが主流路45へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。
図3は、運転者によるブレーキ操作入力とホイールシリンダ圧との関係を示す図である。図3の縦軸はホイールシリンダ圧を示し、横軸は例えばブレーキペダル24に課されるペダル踏力等の運転者によるブレーキ操作入力を示す。図3には、ブレーキ回生協調制御の実行中における液圧制動力の一例が実線で示されている。また、図3において一点鎖線により示されるのは運転者の要求制動力であり、要求制動力は運転者の操作入力に比例して増大するようブレーキECU70により設定される。要求制動力と液圧制動力との差、図3でいえば要求制動力を示す一点鎖線と液圧制動力を示す実線との間隙が回生制動力の大きさを示す。
図3に示されるように、操作入力が入力値Aに達するまでのように比較的小さい場合には、ブレーキECU70は液圧制動力を発生させない。なぜならブレーキ回生協調制御において要求制動力を回生制動力のみによりまかなうことが可能な場合には、車両の燃費向上の観点から回生制動力を優先的に利用することが望ましいからである。ここで、操作入力Aは、予め設定された回生制動力の最大値に要求制動力が達するときの操作入力を示している。運転者の操作入力が入力値Aを超えて大きくなると要求制動力を回生制動力のみで賄うことができなくなるため、液圧ブレーキユニット20の発生させる液圧制動力により制動力の不足分が補われる。つまり、操作入力が入力値Aを超える場合にブレーキECU70は操作入力に比例させてホイールシリンダ圧を増大させ、液圧制動力を生じさせる。
図2を参照して説明したように、ブレーキ回生協調制御の実行中は、ホイールシリンダ圧は動力液圧源30等を含むホイールシリンダ圧制御系統により制御される。その一方、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65は閉状態とされるため、運転者のブレーキペダル24の操作によりマスタシリンダ32及びレギュレータ33において加圧されたブレーキフルードはホイールシリンダ23には供給されない。
閉状態のマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65のそれぞれの上流側のブレーキフルードの液圧は要求制動力を発生させられるよう加圧されている。これは、ブレーキバイワイヤによる制御に異常が生じた場合などにレギュレータカット弁65等を開弁して液圧制動力で要求制動力をまかなうようにするためである。このような冗長性はフェイルセーフの観点から見て好ましい。
一方、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65のそれぞれの下流側の液圧はホイールシリンダ圧に等しい。よって、閉状態とされたこれらの弁にはともに、要求制動力に相当する液圧と実際のホイールシリンダ圧との差圧、つまり要求制動力と液圧制動力との差である回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。ここで図3に示されるように、運転者の操作入力が入力値Aであるときの要求制動力を液圧制動力のみにより発生させる場合に必要とされるホイールシリンダ圧を圧力Pとする。言い換えれば、圧力Pは、予め設定された回生制動力の最大値に相当する液圧制動力を発生させる際に必要とされるホイールシリンダ圧に相当する。結局、ブレーキ回生協調制御の実行中のマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65は、この圧力差Pを保持することができれば充分であるといえる。
そこで、本実施形態においては、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧制御系統によりホイールシリンダ圧が制御されている間、レギュレータカット弁65の上下流間の差圧が所定の液圧を超えるとレギュレータカット弁65が開弁されるようレギュレータカット弁の開弁圧を制御する。なお、ここで開弁圧とは、閉状態とされた電磁制御弁に作用する差圧作用力により当該制御弁が開弁されるときの上下流間の差圧をいい、電磁制御弁に供給される制御電流に応じて変動する。
要するに典型的に従来は、想定される使用環境下において閉弁時に作用する差圧作用力が制御弁を開弁させることのないよう閉弁状態における開弁圧が規定されていた。そして、この規定の開弁圧の実現を保証する規定の制御電流を供給または遮断することにより制御弁の開閉が制御されていた。ところが、本実施形態においては、想定される使用環境下において閉弁時に差圧作用力による機械的な開弁が起こり得るように、ブレーキECU70は規定の開弁圧よりも当該弁の開弁圧を低減させるよう制御する。
より具体的には、ブレーキECU70は、上述の圧力Pを所定の液圧とし、レギュレータカット弁65の上下流間の差圧が圧力Pを超えると当該弁が機械的に開弁されるように開弁圧を制御する。そのためにブレーキECU70は、閉状態におけるレギュレータカット弁65への制御電流を、想定される使用環境下で閉弁状態を保証する規定の制御電流より少なくなるよう制御する。
図4は、本実施形態におけるレギュレータカット弁65への供給電流と開弁圧との関係を示す図である。図4の縦軸はレギュレータカット弁65への制御電流を示し、横軸は閉状態とされたレギュレータカット弁65の開弁圧を示す。図4に一例として示されるようにレギュレータカット弁65の開弁圧は、当該レギュレータカット弁65への供給電流の大きさに比例して大きくなる。
レギュレータカット弁65は、当該弁の使用が想定される環境下において閉弁状態を保証する規定の制御電流I0の供給を受けて閉弁される一方、制御電流の供給が遮断されている間は開状態となる常開の電磁制御弁である。ところが、本実施形態においてブレーキECU70は、ブレーキ回生協調制御の実行中においてレギュレータカット弁65を閉弁しておくべき間、規定の制御電流I0より小さい中間電流IPを当該弁へ供給する。この中間電流IPは、レギュレータカット弁65の開弁圧が上述の圧力Pとなるよう設定された制御電流である。中間電流IPは規定の制御電流I0よりも小さい電流とされているので、レギュレータカット弁65における消費電力を抑えることができるという点で好ましい。
なお、ここで、中間電流IPは、圧力Pに余裕代ΔPを加えた圧力P+ΔPを開弁圧とするように設定されてもよい。余裕代ΔPは、例えばブレーキECU70の制御遅れの許容可能な程度や、ブレーキ回生協調制御の正常な実行中におけるレギュレータカット弁65の上下流間の差圧の変動量などを考慮して実験等により適宜設定することができる。余裕代ΔPを適宜設定することによりレギュレータカット弁65の開閉の頻度を抑えることができるので、当該弁の耐久性の向上に寄与することとなる。
図5は、本実施形態におけるブレーキ回生協調制御の実行中のレギュレータカット弁65の開閉動作を説明するための図である。図5の上部はレギュレータカット弁65の上下流間の差圧の時間変化を示し、図5の下部は差圧の変化に対応したレギュレータカット弁65の開閉状態の変化を示す。
ブレーキ回生協調制御の実行中はブレーキECU70により中間電流IPが供給されてレギュレータカット弁65は閉状態とされている。回生制動力が最大値に達している場合には図5に示されるようにレギュレータカット弁65の上下流間に差圧Pが生じている。ところが、時刻t1において、例えば運転者による急激なブレーキペダル24の踏み増し等によりレギュレータカット弁65の上流側が増圧された場合には、当該弁の上下流間の差圧が一時的に圧力値Pを超えて大きくなる。上述のようにブレーキECU70は、レギュレータカット弁65の開弁圧を圧力Pとするよう中間電流IPを供給している。よって、時刻t1にレギュレータカット弁65の上下流間の差圧が圧力値Pを超えるとレギュレータカット弁65は機械的に開弁される。
その結果、運転者のブレーキペダル24の踏み増しにより加圧されたブレーキフルードが、マスタシリンダユニット27からレギュレータカット弁65を介してホイールシリンダ23へと供給される。そして、例えば時刻t2にレギュレータカット弁65の上下流間の差圧が圧力値Pまで低下する。上下流間の差圧が開弁圧である圧力Pにまで低下すればレギュレータカット弁65に作用する差圧作用力が弱まって開弁状態を維持することができなくなり、レギュレータカット弁65は機械的に閉弁されることとなる。
このレギュレータカット弁65の機械的な開弁によるブレーキフルードのホイールシリンダ23への供給は、ホイールシリンダ圧制御系統によるホイールシリンダ圧の制御に並行して実現され得る。また、レギュレータカット弁65は、ブレーキECU70からの制御電流の遮断を待つことなく上下流間の差圧に応じて機械的に開弁される。このため、仮にブレーキECU70によるホイールシリンダ圧制御系統等の制御に遅延が生じたとしても、この遅延による影響を軽減することができる。このように、本実施形態によれば、運転者のブレーキ操作による要求制動力の変動を迅速にホイールシリンダ23へと伝達し、運転者のブレーキ操作に制動力を速やかに追従させることが可能となる。よって、より高度の信頼性を持つブレーキ制御装置を実現することができる。
また、異常の発生等によりホイールシリンダ圧が低下してレギュレータカット弁65の下流側が減圧された場合にも当該弁の上下流間の差圧が一時的に大きくなり、中間電流IPの供給により制御された開弁圧を超えてしまうことがある。この場合においても図5を参照して説明したのと同様に、レギュレータカット弁65が機械的に開弁され、上下流間の差圧が制御された開弁圧まで低下するようマスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へとブレーキフルードが供給される。このため、仮に制御の遅延が生じたとしても機械的な開弁により軽減されることとなり、制動力制御のフェイルセーフ性を向上させることができる。よって、より高度の信頼性を持つブレーキ制御装置を実現することが可能となる。
本実施形態においては、レギュレータカット弁65の開弁圧は、予め設定された回生制動力の最大値に対応させて均一値に設定されていたが、これを変動させてもよい。制御部は、例えば車両の走行状態に応じた回生制動力の変動に合わせて開弁圧を変動させてもよい。このようにすれば、発生する回生制動力に合わせて開閉弁の開弁圧を変動させることができるので、ホイールシリンダ圧制御系統による制御をより柔軟に補完することができる。
なお、上述の実施形態においては開弁圧を制御する対象をレギュレータカット弁65としたが、マスタカット弁64の開弁圧も同様に制御してもよい。そうすれば、上下流間の差圧に応じてレギュレータカット弁65とともにマスタカット弁64も機械的に開閉される。よって、より多量のブレーキフルードを短時間にホイールシリンダへと供給することが可能となり、より迅速にホイールシリンダ圧制御系統による制御を補完することができるという点で好ましい。
また、マスタカット弁64の開弁圧についてもレギュレータカット弁65の開弁圧と同様に余裕代ΔPを加えて設定してもよい。この場合、レギュレータカット弁65に対する余裕代よりもマスタカット弁64に対する余裕代を大きく設定してもよい。このようにすれば、マスタカット弁64よりもレギュレータカット弁65を優先的に開弁させることが可能となる。よって、レギュレータカット弁65の機械的な開弁で充分に差圧を解消できる場合にはマスタカット弁64は開弁されないこととなる。これにより、マスタカット弁64の機械的な開閉を抑制することができるので、ブレーキフィーリングの向上等の観点から好ましい。
20 液圧ブレーキユニット、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 30 動力液圧源、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU。