以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、たとえば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態に係るブレーキ制御装置20が搭載される車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを備える。
ディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧された作動液をディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。
動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動液を、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給された作動液の液圧を適宜調整して、ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下でさらに詳しく説明する。
各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお、以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40から作動液が供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、たとえばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。ブレーキペダル24への運転者による入力が機械的に伝達されてマスタシリンダ32の作動液が加圧される。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31に作動液が供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、作動液を貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、ブレーキペダル24の操作量に応じてアキュムレータ35の液圧を調圧してマスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、たとえばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧された作動液の圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、たとえば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35における作動液の圧力が異常に高まってたとえば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧の作動液はリザーバ34へと戻される。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対する作動液の供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42、43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RR、21RLのホイールシリンダ23FR、23FL、23RR、23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41、42、43および44の中途には、ABS保持弁51、52、53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、作動液を双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へと作動液を流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へも作動液を流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44における作動液の流通は遮断される。
さらに、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46、47、48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46、47、48および49の中途には、ABS減圧弁56、57、58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49における作動液の流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49における作動液の流通が許容され、作動液がホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45における作動液の流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間で作動液を双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23への作動液の供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間で作動液を双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61における作動液の流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間の作動液の流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間で作動液を双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されることが好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23への作動液の供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間で作動液を双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62における作動液の流通は遮断される。
本実施形態においては上述のように、マスタシリンダユニット10のマスタシリンダ32は、次の各要素を含んで構成される第1の系統により前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに連通される。第1の系統は、マスタ配管37、マスタ流路61、マスタカット弁64、主流路45の第1流路45a、個別流路41および42、ABS保持弁51および52を含んで構成される。また、マスタシリンダユニット10の液圧ブースタ31およびレギュレータ33は、次の各要素を含んで構成される第2の系統により後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに連通される。第2の系統は、レギュレータ配管38、レギュレータ流路62、レギュレータカット弁65、主流路45の第2流路45b、個別流路43および44、ABS保持弁53および54を含んで構成される。
よって、ドライバーによるブレーキ操作量に応じて加圧されたマスタシリンダユニット10における液圧は、第1の系統を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに伝達される。また、後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLへは、第2の系統を介してマスタシリンダユニット10における液圧が伝達される。これにより、ドライバーのブレーキ操作量に応じた制動力を各ホイールシリンダ23に発生させることができる。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動液を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35における作動液の圧力と主流路45における作動液の圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45における作動液の圧力とリザーバ34における作動液の圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を含んで圧力制御機構が構成される。圧力制御機構を動作させることによりホイールシリンダ23の液圧が制御される。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67との間に主流路45の第2流路45bが連通されているので、圧力制御機構は、分離弁60の開閉に関わらず後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLの液圧を制御することができる。分離弁60が開状態であれば、圧力制御機構を動作させることによりすべてのホイールシリンダ23の液圧を制御することができる。
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54、56〜59、60、64〜68を制御して、ブレーキ回生協調制御を実行可能である。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内の作動液の圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内の作動液の圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内の作動液の圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。さらに、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサ73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動液圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、たとえば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、たとえば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力の情報は、ハイブリッドECUからブレーキECU70に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
その結果、ブレーキ制御装置20においては、作動液が動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23から作動液が減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んで、ブレーキ操作部材の操作から独立してホイールシリンダの液圧を制御し得るホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統により、いわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
また、このときブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出される作動液がホイールシリンダ23へ供給されないようにする。さらにブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出される作動液がホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65およびマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。
なお、本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、回生制動力を利用せずに液圧制動力だけで要求制動力をまかなう場合にも、当然ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御することができる。ブレーキ回生協調制御を実行しているか否かにかかわらず、ホイールシリンダ圧制御系統により制動力を制御する制御モードを、以下では適宜「リニア制御モード」と称する。あるいは、ブレーキバイワイヤによる制御と呼ぶ場合もある。
リニア制御モードにおいて要求制動力を液圧制動力のみにより発生させる場合には、通常、ブレーキ操作量に基づいて求められる液圧をホイールシリンダ23の目標液圧として液圧制御を行う。また、レギュレータ圧あるいはマスタシリンダ圧をホイールシリンダ23の目標液圧として液圧制御することも可能である。この場合は、必ずしもホイールシリンダ圧制御系統によってホイールシリンダ23に作動液を供給しなくてもよい。運転者によるブレーキペダルの操作に応じて加圧されたマスタシリンダ圧あるいはレギュレータ圧をホイールシリンダ23にそのまま導入すれば自然に要求制動力を発生させることができるからである。
このため、本実施形態に係るブレーキ制御装置20では、たとえば停車中のように回生制動力を使用しないときに、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23に作動液を供給する。レギュレータ33から各ホイールシリンダ23に作動液を供給する制御モードを以下では「レギュレータモード」と称する。つまりブレーキECU70は、停車中において、リニア制御モードからレギュレータモードに制御モードを切り替えて制動力を発生させる。
レギュレータモードにおいては、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65および分離弁60を開弁し、マスタカット弁64を閉弁する。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、制御が停止され閉弁される。シミュレータカット弁68は開弁される。その結果、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23に作動液が供給されることとなり、レギュレータ圧によって各車輪に制動力が付与される。レギュレータ33には動力液圧源30が高圧側として接続されているので、制動力の発生に動力液圧源30における蓄圧を活用することができるという点で好ましい。
このようにレギュレータモードにおいては、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67への制御電流の供給を停止して閉弁し、両リニア制御弁を休止させている。このため、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の動作頻度を低減させることが可能となり、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を長期間にわたって使用することができるようになる。すなわち、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の耐用期間を向上させることができる。
図2は、本発明の実施形態におけるリニア制御モードからレギュレータモードへの切替を説明するための図である。図2において、縦軸は液圧を表し、横軸は時間を表している。また、図2における実線は、通常のリニア制御モードでブレーキECU70により演算されたホイールシリンダ圧の目標値Pb(以下、適宜「基本目標液圧Pb」と呼ぶ)を表し、一点鎖線は、レギュレータ圧Prを表している。ここでは、図2に示すように、基本目標液圧Pbが、レギュレータ圧Prよりも差分ΔPだけ大きい例を示している。
走行中の車両が、リニア制御モードで制動力を発生され、時刻t1に停止したとする。ここで、時刻t1において車両の停止とともに制御モードをリニア制御モードからレギュレータモードに切り替えた場合、基本目標液圧Pbを目標値としていたホイールシリンダ圧が差分ΔPだけ低圧のレギュレータ圧Prに変化するので、制動力の急激な変動が生じ、運転者がブレーキフィーリングに違和感を感じる虞がある。
そこで、本実施形態に係るブレーキ制御装置20においては、ブレーキECU70は、リニア制御モードからレギュレータモードに制御モードを切り替える場合には、その切替の前に、ホイールシリンダ圧制御系統によりホイールシリンダ圧をレギュレータ圧Prに漸次近づけるホイールシリンダ圧補正制御を行う。
図2における二点鎖線は、ホイールシリンダ圧補正制御を行う場合の、補正されたホイールシリンダ圧の目標値Pc(以下、適宜「補正目標液圧Pc」と呼ぶ)を表している。この補正目標液圧Pcは、ホイールシリンダ圧が徐々にレギュレータ圧Prに近づき、最終的にレギュレータ圧Prに略一致するように設定される。補正目標液圧Pcの設定方法については後述するが、運転者によるブレーキペダル24の操作量の変化に応じて設定されることが好ましい。なお、図2では、時刻t2まではブレーキペダル24を徐々に戻し、時刻t2後はブレーキペダル24を徐々に踏み込んでいる例を示している。本実施形態では、図2に示すように、ブレーキペダル24の操作方向によらず補正目標液圧Pcがレギュレータ圧Prに近づくように設定される。
本実施形態において、ブレーキECU70は、車両が停止した時刻t1にホイールシリンダ圧の目標を基本目標液圧Pbから補正目標液圧Pcに切り替える。これにより、ホイールシリンダ圧は、補正目標液圧Pcを目標としてホイールシリンダ圧制御系統により制御され、時刻t3においてレギュレータ圧Prと略一致させられる。そして、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧がレギュレータ圧Prと略一致した時刻t3の後に、リニア制御モードからレギュレータモードに制御モードを切り替える。図2においては、時刻t1から時刻t3までの間が、ホイールシリンダ圧補正制御を行っている期間である。
このように、本実施形態に係るブレーキ制御装置20では、リニア制御モードからレギュレータモードに制御モードを切り替える場合に、その切替を行う前にホイールシリンダ圧補正制御を行うように構成した。これにより、ホイールシリンダ圧とレギュレータ圧Prとの間に差がある場合であっても急激に制動力が変化する事態を回避できるので、ブレーキフィーリングを向上できる。
図3は、本実施形態におけるホイールシリンダ圧補正制御を説明するためのフローチャートである。図3に示される処理は、リニア制御モードによる制動中にブレーキECU70により周期的に実行される。
まず、ブレーキECU70は、車両が停止しているか否かを判定する(S10)。車両が停止しているか否かは、車両に設けられた車速センサや、車輪速センサからの情報に基づいて判定する。なお、ブレーキECU70は、車両停止の判定に代えて、車速が所定の閾値αよりも低速であるか否かを判定するようにしてもよい。所定の閾値αは、レギュレータモードへの移行を許可してもよいと想定される充分に低い車速であり、ブレーキECU70に予め設定され記憶されている。また、ブレーキECU70は、車両停止の判定に代えて、レギュレータモードへの移行を許可してもよい状態であるか否かを判定するようにしてもよい。
車両が停止していない場合には(S10のN)、ブレーキECU70はそのまま処理を終了し、次の実行タイミングで再度処理を実行する。レギュレータモードに移行する必要がないからである。
車両が停止している場合には(S10のY)、ブレーキECU70は、前回の処理のときに車両が停止していたか否かを判定する(S12)。前回の処理のときに車両が停止していなかった場合(S12のN)とは、すなわち車両が停止した直後の状態である。この場合、ブレーキECU70は、基本目標液圧Pbの補正すべき補正量Poを演算する(S14)。S14における補正量Poは、以下の(1)式のように、基本目標液圧Pbからレギュレータ圧Prを減算した値である。
補正量Po=基本目標液圧Pb−レギュレータ圧Pr (1)
その後、ブレーキECU70は、補正目標液圧Pcを演算する(S28)。補正目標液圧Pcは、以下の(2)式のように、レギュレータ圧Prに補正量Poを加算した値である。
補正目標液圧Pc=レギュレータ圧Pr+補正量Po (2)
(1)および(2)式から分かるように、車両が停止した直後の補正目標液圧Pcは、基本目標液圧Pbに等しく設定される。その後、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧制御系統、すなわち、増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67などを制御して、ホイールシリンダ圧が補正目標液圧Pcに等しくなるようにする(S30)。そして再びS10に戻り、処理が繰り返される。
一方、S12において前回の処理のときに車両が停止していた場合には(S12のY)、ブレーキECU70は、以下の(3)式により補正量変化量Pvを演算する(S16)。
補正量変化量Pv=|前回レギュレータ圧Pr’−レギュレータ圧Pr|×K (3)
補正量変化量Pvは、運転者によるブレーキペダル24の操作量の変化量を表している。ここで、Kは所定の係数である。係数Kを変えることにより、補正目標液圧Pcがレギュレータ圧Prに近づく速度を変化させることができる。最適な係数Kは、適宜実験やシミュレーションにより定めればよい。
S16の後、ブレーキECU70は、前回の処理のときの補正量Po’の絶対値が、補正量変化量Pvよりも小さいか否かを判定する(S18)。前回の処理のときの補正量Po’の絶対値が、補正量変化量Pv以上である場合(S18のN)、ブレーキECU70は、前回の処理のときの補正量Po’が零より大きいか否かを判定する(S20)。
前回の補正量Po’が零より大きい場合(S20のY)、ブレーキECU70は、以下の(4)式により補正量Poを演算する。
補正量Po=前回補正量Po’−補正量変化量Pv (4)
一方、前回の補正量Po’が零以下である場合(S20のN)、ブレーキECU70は、以下の(5)式により補正量Poを演算する。
補正量Po=前回補正量Po’+補正量変化量Pv (5)
ここで、(4)式は、ブレーキペダル24を戻す操作を行った場合の基本目標液圧Pbの補正量Poを表しており、(5)式は、ブレーキペダル24を踏み込む操作を行った場合の基本目標液圧Pbの補正量Poを表している。
その後、ブレーキECU70は、上述の(2)式により補正目標液圧Pcを演算し(S28)、ホイールシリンダ圧制御系統によりホイールシリンダ圧が補正目標液圧Pcとなるよう制御する(S30)。そして再びS10に戻り、処理が繰り返される。このようにして、ホイールシリンダ圧がレギュレータ圧Prに漸次近づけられる。
一方、前回の処理のときの補正量Po’の絶対値が、補正量変化量Pvよりも小さい場合(S18のY)、ブレーキECU70は、補正量Poを零に設定する(S26)。その後、ブレーキECU70は、上述の(2)式により補正目標液圧Pcを演算する(S28)。この場合、補正量Poが零であるので、補正目標液圧Pc=レギュレータ圧Prとなる。その後、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧制御系統を制御して、ホイールシリンダ圧が補正目標液圧Pcに等しくなるようにする(S30)。ここで、ホイールシリンダ圧がレギュレータ圧Prに略一致するようになったので、ブレーキECU70は、図3に示すホイールシリンダ圧補正制御を終了し、制御モードをリニア制御モードからレギュレータモードに切り替える。
以上のように、本実施形態では、運転者によるブレーキペダル24の操作量の変化に応じて、ホイールシリンダ圧がレギュレータ圧Prに近づくように構成している。たとえば、運転者のペダル操作量の変化量が大きい場合には、ホイールシリンダ圧がレギュレータ圧Prに近づく速度が大きくなり、ペダル操作量の変化量が小さい場合には、ホイールシリンダ圧がレギュレータ圧Prに近づく速度が小さくなる。運転者のブレーキ操作が無い状態でホイールシリンダ圧をレギュレータ圧Prに近づけると、運転者の制動感覚と異なる制動力変化となってしまうが、本実施形態にように運転者によるブレーキペダル24の操作量の変化に応じて、ホイールシリンダ圧がレギュレータ圧Prに近づくようにすることで、運転者に違和感を与えずに、リニア制御モードからレギュレータモードに切り替えることができる。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
たとえば、上述の実施形態では、図3に示すように、補正量変化量を前回レギュレータ圧Pr’と今回のレギュレータ圧Prの差を用いて求めているが、基本目標液圧Pbやペダルストロークに基づいて求めてもよい。
また、上述の実施形態では、ホイールシリンダ圧とレギュレータ圧Prとが略一致した場合に、リニア制御モードからレギュレータモードへの切替が行われるように構成したが、レギュレータ圧Prの前後に所定の閾値を設定し、その閾値内にホイールシリンダ圧が入った場合に切替が行われるように構成してもよい。好適な閾値は、適宜実験やシミュレーションにより定めればよい。
また、上記では、リニア制御モードからレギュレータモードに制御モードを切り替える場合について説明したが、レギュレータモードからリニア制御モードに制御モードを切り替える場合にも、その切替の前に、ホイールシリンダ圧制御系統によりホイールシリンダ圧をレギュレータ圧に漸次近づけるホイールシリンダ圧補正制御を行ってもよい。この場合も、急激に制動力が変化する事態を回避できるので、ブレーキフィーリングを向上できる。
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 27 マスタシリンダユニット、 31 液圧ブースタ、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバ、 60 分離弁、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ。