以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。ブレーキペダル24への運転者による入力が機械的に伝達されてマスタシリンダ32のブレーキフルードが加圧される。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47の中途には、ABS減圧弁56,57が設けられている。各ABS減圧弁56、57は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56、57が閉状態であるときには、減圧用流路46、47におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56、57が開弁されると、減圧用流路46、47におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46、47およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
また、減圧用流路48、49の中途には、第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81が設けられている。第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81は、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整され流量が制御される。ソレノイドに通電されて第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81が開弁されると、減圧用流路48、49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23からリザーバ34へと還流する。
本実施形態において第1減圧リニア制御弁80のオリフィス径は、全開時のブレーキフルード流量がポンプ36の吐出能力よりも小さくなるよう設定されている。また、第2減圧リニア制御弁81のオリフィス径も全開時のブレーキフルード流量がポンプ36の吐出能力よりも小さくなるよう設定されている。第1及び第2減圧リニア制御弁80及び81のそれぞれの全開時の流量をポンプ吐出流量よりも小さくすることにより、仮に故障等により制動中に全開状態となったとしても、直ちに制動力が失われることなくある程度制動力を保つことができる。減圧リニア制御弁を通じて流出する流量をポンプ36の作動により補うことができるからである。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。増圧リニア制御弁66は、リニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、第1減圧リニア制御弁80の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66等のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66等の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66、第1減圧リニア制御弁80、及び第2減圧リニア制御弁81のリニアソレノイドへの供給電力をそれぞれ連続的に制御することにより、各リニア制御弁の出入口間の差圧を制御することができる。
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に第1及び第2減圧リニア制御弁80及び81の高圧側の液圧を示すので、この出力値を各リニア制御弁の制御に利用することができる。また、各リニア制御弁が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56及び57、第1及び第2減圧リニア制御弁80及び81が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や第1及び第2減圧リニア制御弁80及び81に供給する制御電流の値を決定する。その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが第1及び第2減圧リニア制御弁80及び81の少なくとも一方を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。
なおこのとき、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64を閉状態とし、レギュレータ33及びマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。
ところで、本実施形態においては、ブレーキECU70は、第1減圧リニア制御弁80と第2減圧リニア制御弁81とを併用してホイールシリンダ圧の減圧を制御する。第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81はともに、各輪に共通のホイールシリンダ圧を示す制御圧センサ73の測定値に基づいて制御される。
このとき、例えば、ブレーキECU70は、第1減圧リニア制御弁80と第2減圧リニア制御弁81とを異なる条件で開弁が開始されるようにする。ブレーキECU70は、例えば第1減圧リニア制御弁80が第2減圧リニア制御弁81よりも優先的に開弁されてホイールシリンダ圧の減圧制御に供されるように第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81を制御する。
図2は、第1減圧リニア制御弁80の電流−流量特性(以下では適宜、IQ特性ともいう)の一例を示す図である。図2の縦軸は制御弁での作動液流量Qを示し、横軸は通電される制御電流Iを示す。図2では、制御弁が全開状態へと開弁されるときのIQ特性が実線により示されている。逆に閉弁されるときのIQ特性は一点鎖線により示されている。
図2に示されるように、第1減圧リニア制御弁80の流量と制御電流とは線形な関係を有する。第1減圧リニア制御弁80への制御電流がゼロから増加されていく場合には、制御電流が電流Iopenに達したときに第1減圧リニア制御弁80の開弁が開始され、更に電流が増すにつれ制御弁の開度が増大されて流量も増えていく。制御弁の開弁が開始されてから全開状態となるまでの間は、流量の増加量は制御電流の増加量に比例する。なお以下では電流Iopenを、制御弁を開弁を開始させるのに必要とされる電流という意味で、適宜「開弁電流」と呼ぶ。開弁電流Iopenは制御弁の出入口間に作用する差圧に応じて変動する。
図2に示される例では、開弁電流Iopenから更に電流Imaxだけ制御電流が増加されたときに制御弁が全開状態となる。制御弁が全開状態となった場合には、更に制御電流が増加されても流量は最大流量に維持され当然それ以上増加することはない。なお以下では電流Imaxを、開弁開始から全開状態に至るまでに必要とされる追加の電流という意味で、適宜「全開電流」と呼ぶ。全開電流Imaxは制御弁の出入口間に作用する差圧に応じて変動する。
なお、図2に一点鎖線で示されるように第1減圧リニア制御弁80が閉弁されるときのIQ特性はヒステリシス的な特性を示す。つまり、制御電流を減少させていくときには、開弁されるときに比べてある程度低い制御電流まで全開状態が維持される。更に制御電流が減少すると、電流に比例して流量が減少していき、最終的には完全に閉弁される。
図3は、開弁電流Iopenと差圧Pとの関係の一例を示す図である。図3の縦軸は開弁電流Iopenを示し、横軸は制御弁の出入口間に作用する差圧Pを示す。本実施形態においては第1減圧リニア制御弁80はホイールシリンダ23とリザーバ34との間に設けられているから、差圧Pはホイールシリンダ圧に相当する。
図3に示されるように、第1減圧リニア制御弁80は、開弁電流Iopenと差圧Pとの間に線形の関係を有し、
Iopen=γ・P+δ (式1)
と表すことができる。ここでγ及びδは定数である。開弁電流Iopenは、差圧Pが増加するにつれて減少する。これは、第1減圧リニア制御弁80が、作用する差圧Pが増加するにつれて閉弁状態の当該制御弁を開弁させる力が増加するような向きに配置されているからである。
また、図4は、全開電流Imaxと差圧Pとの関係の一例を示す図である。図4の縦軸は全開電流Imaxを示し、横軸は制御弁の出入口間に作用する差圧Pを示す。第1減圧リニア制御弁80は、全開電流Imaxと差圧Pとの間に線形の関係を有し、
Imax=α・P+β (式2)
と表すことができる。ここでα及びβは正の定数である。全開電流Imaxは、差圧Pが増加するにつれて増加する。差圧Pが大きいほど所定の制御弁開度を維持するのに大きな力が必要とされるからである。
なお本実施形態では、第2減圧リニア制御弁81は第1減圧リニア制御弁80と同一の仕様とされており、共通のIQ特性を有する。また両リニア制御弁80、81は、開弁電流Iopen及び全開電流Imaxについても共通である。同一仕様のリニア制御弁を用いることはブレーキ制御装置のコスト低減という観点から好ましい。
まず第1の実施形態について以下で更に詳しく説明する。第1の実施形態においては、第2減圧リニア制御弁81への制御電流を調整することにより、ホイールシリンダ圧の減圧特性を柔軟にチューニングすることができる。
第1の実施形態においては、第1減圧リニア制御弁80への制御電流は、開弁電流に相当する第1の成分と、フィードバック電流に相当する第2の成分と、を含む。フィードバック電流に相当する成分は例えば、ホイールシリンダ圧の目標圧と実液圧との偏差とフィードバックゲインとの積により与えられる。具体的には第1減圧リニア制御弁80への制御電流Islr1は次式により与えられる。
Islr1=Iopen1+G1・ΔP (式3)
ここで、Iopen1は第1減圧リニア制御弁80の開弁電流であり、G1は第1減圧リニア制御弁80のフィードバックゲインである。ΔPは、ホイールシリンダ圧の目標圧に対する制御圧センサ73の測定値の偏差である。
よって、第1減圧リニア制御弁80には制御中に少なくとも開弁電流Iopen1が与えられる。制御圧センサ73により取得されるホイールシリンダ圧の実測値が目標値に追従して偏差ΔPが許容範囲内に収まっている場合には、ブレーキECU70は第1減圧リニア制御弁80に制御電流Islr1として開弁電流Iopen1を与える。例えば目標圧の変動によりホイールシリンダ圧が目標圧から過渡的に乖離して偏差ΔPが許容範囲を超えた場合に、ブレーキECU70は開弁電流Iopen1にフィードバック電流G1・ΔPが付加して第1減圧リニア制御弁80に供給する。このようにして第1減圧リニア制御弁80の開度が偏差に応じて制御され、ホイールシリンダ圧は目標値へと減圧される。開弁電流Iopen1が予め通電されていることにより、偏差が許容範囲を超えたときに速やかに第1減圧リニア制御弁80を開弁して目標値へと追従させることができる。
これに対して、第2減圧リニア制御弁81への制御電流Islr2は、開弁電流Iopen2に基づいて設定される電流値である第3の成分と、フィードバック電流に相当する第4の成分と、を含み、次式で与えられる。
Islr2=Iopen2’+G2・ΔP (式4)
ここで、Iopen2’は、第2減圧リニア制御弁81の開弁電流Iopen2とは異なる開弁電流学習値である。G2は第2減圧リニア制御弁81のフィードバックゲインである。
本実施形態では、第2減圧リニア制御弁81の開弁電流学習値Iopen2’は、開弁電流Iopen2に対してオフセット量Ioffsetだけオフセットされて設定される値であり、次式により与えられる。
Iopen2’=Iopen2−Ioffset (式5)
ここで、オフセット量Ioffsetはゼロまたは正の値である。開弁電流学習値Iopen2’及びオフセット量Ioffsetは予め設定されてブレーキECU70に記憶されている。なお本実施形態では第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81は共通の特性を有するから、第2減圧リニア制御弁81の開弁電流Iopen2は第1減圧リニア制御弁80の開弁電流Iopen1に等しい。
式4及び式5から、第2減圧リニア制御弁81には、制御中に開弁電流Iopen2よりもオフセット量Ioffsetだけ小さい開弁電流学習値Iopen2’が少なくとも与えられる。ブレーキECU70は、偏差ΔPが許容範囲内に収まっている場合には第2減圧リニア制御弁81に開弁電流学習値Iopen2’を与え、偏差ΔPが許容範囲を超えた場合には開弁電流学習値Iopen2’にフィードバック電流G2・ΔPが付加された制御電流Islr2を与える。
このため、偏差ΔPが許容範囲を超えた場合であっても、オフセット量Ioffsetがフィードバック電流G2・ΔPにより補填されるまでは第2減圧リニア制御弁81は開弁されない。すなわち、開弁電流学習値Iopen2’とフィードバック電流G2・ΔPの合計が開弁電流Iopen2に達したときにはじめて第2減圧リニア制御弁81は開弁されることになる。
このように、偏差ΔPが許容範囲内に収まっている場合に各減圧リニア制御弁に供給される制御電流は、オフセット量Ioffsetの分だけ第1減圧リニア制御弁80のほうが第2減圧リニア制御弁81よりも大きい。このため、偏差ΔPが許容範囲を超えた場合には、第1減圧リニア制御弁80のほうが第2減圧リニア制御弁81よりも優先的に開弁されることになる。よって、オフセット量Ioffsetを適宜設定することにより、第1減圧リニア制御弁80に対する第2減圧リニア制御弁81の開弁開始の遅れを調整することができる。その結果、第1減圧リニア制御弁80の減圧特性と第2減圧リニア制御弁81の減圧特性とが合成された特性として与えられるブレーキシステム全体の合成減圧特性を柔軟にチューニングすることができる。
なお、本実施形態においては、第1減圧リニア制御弁のフィードバックゲインG1と第2減圧リニア制御弁81のフィードバックゲインG2とを異なる値に設定してもよい。例えば、第1減圧リニア制御弁80のフィードバックゲインG1よりも第2減圧リニア制御弁81のフィードバックゲインG2が大きく設定されてもよい。このようにすれば、通常の制動時には主として第1減圧リニア制御弁80により減圧制御が実行される一方、急制動時などの比較的多量の作動液流量が必要とされる場合に第2減圧リニア制御弁81が併用されるというように制御弁ごととの役割分担も可能となる。
ところで本実施形態では、オフセット量Ioffsetは第2減圧リニア制御弁81の全開電流Imaxに比例するように設定され、次の式で与えられる。
Ioffset=K・Imax2 (式6)
ここで、Imax2は第2減圧リニア制御弁81の全開電流であり、Kは定数である。定数Kは例えばゼロ以上1以下の値に設定される。
図5は、第2減圧リニア制御弁81の開弁電流Iopen2及び開弁電流学習値Iopen2’と差圧Pとの関係の一例を示す図である。図5の縦軸は電流を示し、横軸は制御弁の出入口間に作用する差圧Pを示す。図5においては、開弁電流Iopen2が破線により、開弁電流学習値Iopen2’が実線により示されている。
本実施形態においては第1減圧リニア制御弁80と第2減圧リニア制御弁とは共通の特性を有するから、図5に示される開弁電流Iopen2は、図3に示される第1減圧リニア制御弁80の開弁電流Iopen1と同じ特性である。これに対して、開弁電流学習値Iopen2’は、オフセット量Ioffsetだけ開弁電流Iopen2からオフセットされており、図5に示されるように開弁電流学習値Iopen2’は開弁電流Iopen2よりもオフセット量Ioffsetだけ小さい値を取る。オフセット量Ioffsetは、上述の式2及び式6より、
Ioffset=K・(α・P+β) (式7)
となる。よって、図5に示されるように、差圧Pが大きくなるにつれてオフセット量Ioffsetは大きくなる。
図6乃至図8は、本実施形態に係り、それぞれ異なるオフセット量Ioffsetの場合の合成IQ特性を例示するための図である。図6乃至図8のそれぞれにおいて、上段に第1減圧リニア制御弁80のIQ特性を示し、中段に第2減圧リニア制御弁81のIQ特性を示し、下段に第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81のIQ特性が合成された合成IQ特性を示す。合成IQ特性は、第1減圧リニア制御弁80のIQ特性と第2減圧リニア制御弁81のIQ特性とを加算したものであり、2つの制御弁を1つの制御弁とみなしたときのIQ特性に相当する。上述のように第2減圧リニア制御弁81の開弁を開始させるために必要とされるフィードバック電流の大きさはオフセット量Ioffsetに応じて異なる。よって、図示されるように、第2減圧リニア制御弁81のIQ特性は第1減圧リニア制御弁80のIQ特性に対してオフセット量Ioffsetに応じて変位することになる。
図6は、オフセット量Ioffsetがゼロである場合を示す。つまり式6の定数Kがゼロに設定された場合を示す。オフセット量Ioffsetがゼロであれば、第2減圧リニア制御弁81のIQ特性は第1減圧リニア制御弁80のIQ特性に対して変位しない。第2減圧リニア制御弁81の開弁電流学習値Iopen2’は実際の開弁電流Iopen2に等しく、第1減圧リニア制御弁80の開弁電流Iopen1とも等しい。2つの制御弁のIQ特性の重ね合わせにより与えられる合成IQ特性は、第1減圧リニア制御弁80または第2減圧リニア制御弁81のIQ特性をちょうど2倍にしたものとなる。すなわち、合成IQ特性における所定電流値に対する流量は、第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81における所定電流値に対する流量のちょうど2倍となっている。
図7は、定数Kがゼロより大きく1より小さい値sに設定され、オフセット量Ioffsetが全開電流Imax2のs倍である場合を示す。上述のようにオフセット量Ioffsetがフィードバック電流により補填されたときに第2減圧リニア制御弁81の開弁が開始される。よって、第1減圧リニア制御弁80のIQ特性に対して第2減圧リニア制御弁81のIQ特性は、オフセット量の分だけ電流が大きくなる方向(図中右方向)へ変位することになる。その結果、合成IQ特性は、2つの制御弁のIQ特性の重ね合わせにより、図7に示されるように折れ線状の特性となる。このようにして単一のリニア制御弁では実現することができないIQ特性を得ることができる。
図8は、定数Kが1に設定され、オフセット量Ioffsetが全開電流Imax2に等しい場合を示す。この場合、第1減圧リニア制御弁80がちょうど全開状態となったときに第2減圧リニア制御弁81の開弁が開始されることになる。よって、合成IQ特性は、図8に示されるように、第1減圧リニア制御弁80または第2減圧リニア制御弁81のIQ特性と同じ傾きで2倍の流量までリニアに変化する特性となる。
なお、図2及び図3に示されるように、開弁電流及び全開電流はともに差圧に応じて変化するので、第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81のIQ特性も差圧に応じて変化する。本実施形態ではオフセット量Ioffsetを全開電流Imax2に比例するように設定しているので、制御弁に作用する差圧が変化しても第1減圧リニア制御弁80のIQ特性に対する第2減圧リニア制御弁81のIQ特性の相対的位置関係を保つことができるという点で好ましい。
以上のように本実施形態においては、複数のホイールシリンダの液圧を共通に制御するために複数の減圧制御弁が並列に設けられている。これにより、ブレーキシステム全体に要求される減圧性能を満足させつつ、各制御弁のオリフィスサイズを小さくすることができる。その結果、動力液圧源30のポンプ36の吐出能力よりも各減圧用制御弁からの流出流量を小さくすることが可能となるので、減圧制御弁が仮に故障等により全開状態となったとしても直ちに制動力が失われることなくある程度制動力を保つことができる。このようにして、要求減圧性能の実現とフェイルセーフ性能の向上とを両立させることができる。
また、各減圧制御弁での制御電流は、開弁電流に基づき設定される成分とフィードバック電流に基づく成分を含み、少なくとも1つの減圧制御弁の開弁電流成分は他の減圧制御弁の開弁電流成分よりも例えばオフセットされて小さく設定される。その結果、ホイールシリンダ圧の目標値からの偏差が拡大してフィードバック電流が制御電流に付加されるときに、開弁電流成分が小さく設定されている減圧制御弁は他の減圧制御弁よりも遅れて開弁される。このようにして複数の減圧制御弁のIQ特性を互いにずらすことによりブレーキシステム全体の合成IQ特性を調整することができる。特に、複数の減圧制御弁を1つのホイールシリンダ圧測定値を用いて制御する場合に、簡単に合成IQ特性をチューニングすることができるという点で好ましい。
次に本発明の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態のようにオフセット量を設定するのではなく、第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81のそれぞれに対する偏差ΔPの許容範囲を異ならせる。このようにしても第1減圧リニア制御弁80を第2減圧リニア制御弁81よりも優先的に開弁させることが可能である。なお以下の説明では第1の実施形態と共通の箇所については説明を適宜省略する。
図9は、第2の実施形態に係る第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81の制御状態を説明するための図である。図9の上部には各輪共通に制御されるホイールシリンダ圧の測定値及び目標液圧がそれぞれ実線及び破線で示されている。図9の下部にはホイールシリンダ圧の目標液圧からの偏差ΔPが示されている。
第2の実施形態においては図9に示されるように、偏差ΔPに関して第1のしきい値ΔP1及び第2のしきい値ΔP2が設定されている。第1のしきい値ΔP1及び第2のしきい値ΔP2は予め設定されてブレーキECU70に記憶されている。第1のしきい値ΔP1は第1減圧リニア制御弁80の制御のために設定される値であり、ブレーキECU70は、偏差ΔPが第1のしきい値ΔP1を超える場合に第1減圧リニア制御弁80を開弁制御する。具体的には、ブレーキECU70は、偏差ΔPが第1のしきい値ΔP1以下である場合に第1減圧リニア制御弁80に開弁電流Iopen1よりもわずかに小さい電流を制御電流として供給し、偏差ΔPが第1のしきい値ΔP1を超える場合にフィードバック電流G1・ΔPを制御電流に付加する。よって、第1減圧リニア制御弁80は偏差ΔPが第1のしきい値ΔP1以下である場合に閉弁され、偏差ΔPが第1のしきい値ΔP1を超える場合に偏差ΔPに応じて開度が制御される。このようにして、第1減圧リニア制御弁80により偏差ΔPを解消するようにホイールシリンダ圧を減圧することができる。
また、第2のしきい値ΔP2は第2減圧リニア制御弁81の制御のために設定される値であり、ブレーキECU70は、偏差ΔPが第2のしきい値ΔP2を超える場合に第2減圧リニア制御弁81を開弁制御する。すなわち、ブレーキECU70は、偏差ΔPが第2のしきい値ΔP2以下である場合に第2減圧リニア制御弁81に開弁電流Iopen2よりもわずかに小さい電流を制御電流として供給し、偏差ΔPが第2のしきい値ΔP2を超える場合にフィードバック電流G2・ΔPを制御電流に付加する。
図9に示されるように、第1のしきい値ΔP1よりも第2のしきい値ΔP2のほうが大きな値に設定されている。このため、ホイールシリンダ圧の減圧制御に際して通常は第1減圧リニア制御弁80が優先的に開弁制御される。第2のしきい値ΔP2よりも偏差ΔPが大きく拡大した場合に限り第2減圧リニア制御弁81が補助的に開弁制御される。このようにして、第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81のそれぞれをホイールシリンダ圧減圧用の主制御弁及び副制御弁として使用し、両者の役割分担を図ることができる。また、第1及び第2しきい値を適宜設定することにより、減圧特性をチューニングすることも可能である。
なおここで、第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81の開弁電流を求める方法の一例を図10を参照して説明する。この方法では、まず、減圧リニア制御弁に作用する差圧すなわちホイールシリンダ圧を所定圧力まで増圧し、第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81に交互に通電していく。通電によりホイールシリンダ圧が減少開始するときの液圧値及び電流値を記憶する。液圧の減少が開始されたということは、制御弁の開弁が開始されたということである。よって、この液圧値及び電流値の組は、制御弁に作用する差圧と当該差圧における開弁電流とを示すことになる。この液圧値及び電流値の組を複数組取得することにより、例えば最小自乗法等により図3に示されるような開弁電流特性を得ることができる。このようにすれば、複数のリニア制御弁の開弁電流特性を1回の測定シーケンスで取得することができ、測定処理を短時間で行うことができるという点で好ましい。
図10に示される例では、まず第1減圧リニア制御弁80に電流Iaが通電されたときにホイールシリンダ圧が液圧値Paから減少を開始する。よって、差圧Paに対応する第1減圧リニア制御弁80の開弁電流は電流Iaである。次に第2減圧リニア制御弁81に電流I1が通電されたときにホイールシリンダ圧が液圧値P1から減少を開始する。よって、差圧P1に対応する第2減圧リニア制御弁81の開弁電流は電流I1であると言える。更に同様の処理を順次繰り返すことにより、差圧Pb及び差圧Pcのそれぞれに対応する第1減圧リニア制御弁80の開弁電流は電流Ib及びIcであり、差圧P2及び差圧P3のそれぞれに対応する第2減圧リニア制御弁81の開弁電流は電流I2及びI3であることがわかる。このようにして第1減圧リニア制御弁80及び第2減圧リニア制御弁81のそれぞれについて例えば3組ずつの差圧及び開弁電流の組を求めることができる。これらの測定値から図3に示されるような開弁電流特性を求めることができる。
なお、以上の各実施形態においては減圧用の制御弁が複数設けられている場合を説明したが、本発明はこれに限られず、ホイールシリンダ圧を増圧するための制御弁を複数設ける場合にも適用可能である。例えば、レギュレータカット弁65をオンオフ弁ではなくリニア制御弁とし、増圧リニア制御弁66及びレギュレータカット弁65に対して本発明を適用することも可能である。この場合、増圧リニア制御弁66及びレギュレータカット弁65に作用する差圧はアキュムレータ圧とホイールシリンダ圧との差として求めることができ、それぞれアキュムレータ圧センサ72及び制御圧センサ73により測定される。この場合、ブレーキECU70は、例えば増圧リニア制御弁66がレギュレータカット弁65よりも優先的に開弁されるように制御する。このようにすれば、例えば通常の制動時の増圧制御には増圧リニア制御弁66を使用し、急制動時にレギュレータカット弁65を併用するというように、より好ましい増圧制御を実現することができる。
また、並列に設けられる制御弁は2つに限られず、3つ以上の制御弁に対しても本発明を同様に適用することが可能である。このようにすれば、更に増圧特性または減圧特性を柔軟に設定することが可能となる。
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 27 マスタシリンダユニット、 31 液圧ブースタ、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバ、 60 分離弁、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ、 80 第1減圧リニア制御弁、 81 第2減圧リニア制御弁。