JP4493268B2 - 乳脂肪含有ロールイン用油脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低温での伸展性に優れた乳脂肪含有ロールイン用油脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、マーガリン、ショートニング等の可塑性油脂に使用される油脂は“マーガリン ショートニング ラード“ (P324中澤君敏著:株式会社光琳発行)に記載の『マーガリン、ショートニングは常温で結晶性脂肪をもつ可塑性物質と定義されるが、そのためその物理性は主に稠度、可塑性及び結晶構造に関連する。物理的にその結晶状態はAlfaは蝋状(アセトグリセリドの如き)、Betaは粗結晶、そしてBeta-primeは微粒状である。融点ではAlfa、Beta-prime、Betaの順に高くなる。マーガリン、ショートニング組成の望ましい結晶状態はBeta-primeといわれている。』の通り、その結晶状態はβプライム型のものが良好とされ、用いられてきた。
【0003】
βプライム型の油脂結晶は微細結晶をとり乳化安定性に寄与し、良好な稠度を示す。 反面このβプライム型結晶はエネルギー的には準安定形であるため、保存条件等が適切でない場合等には、更にエネルギー的に安定なβ型結晶へと転移現象を引き起こすという欠点があった。このβ型結晶は最安定形であるため、これ以上の転移現象を起こすことはないが、一般に結晶サイズが大きく、グレイニングやブルームと呼ばれる粗大結晶粒を形成し、ザラつきや触感の悪さを呈し、製品価値の全くないものになってしまう。
【0004】
βプライム型を経由するβ型結晶であっても、結晶サイズの比較的小さなものも知られている。例えば、カカオ脂のV型結晶がこれに相当し、実質はSOS、POS等の対称型トリグリセリドのβ2型結晶である。しかしながら、これらの結晶サイズの比較的小さなβ型結晶を得るには、テンパリングと呼ばれる特殊な熱処理工程を経る必要があったり、所定温度まで冷却した後、結晶核となる特定成分を加える等、極めて煩雑な工程を要するものであった。結果として通常のロールイン用油脂組成物を製造するような急冷可塑化工程では、当該結晶は得られないのが実状である。また、カカオ脂のV型結晶は可塑性に乏しいものである。
【0005】
一方、βプライム型で最安定形の油脂でさえ経日的に硬くなる傾向があり、結晶の析出方法や保存方法等を細かく管理しなければならなかった。
【0006】
上記のような問題点を解決するため、エネルギー的にも安定で且つ微細な結晶を得る目的で、これ迄にも種々の発明がなされてきた。特許文献1には、特定のトリグリセリド比率とすることにより、β型結晶を得る方法が開示されている。また特許文献2では、エステル交換反応により油脂のグレイニングを抑制する方法が、そして特許文献3には、高融点油脂を配合することにより微細な結晶を維持させる方法がそれぞれ開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、β型結晶を得るのにテンパリング操作が必要とされ、特許文献2及び特許文献3の方法では、得られた組成物は経日的に硬くなる傾向があり、ロールイン用油脂組成物として安定性の点で十分に満足の得られるものではなかった。
【0008】
また、乳脂肪を配合した所謂「コンパウンドタイプ」のロールイン用油脂組成物は、良好な風味が得られる反面、広い温度範囲での可塑性に乏しく、低温で硬くなりやすい傾向にあり、ロールイン作業でロールイン用油脂組成物が切断されてしまい、作業性の面で十分に満足の得られるものではなかった。
【0009】
【特許文献1】
特公昭51−9763号公報
【特許文献2】
特公昭58−13128号公報
【特許文献3】
特開平10−295271号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、上記の要求特性を満足し、乳脂肪を配合した風味の良好なロールイン用油脂組成物、即ち、可塑性範囲が広く、低温での伸展性に優れ、なお且つ経日的にも硬さが変化せず安定な乳脂肪含有ロールイン用油脂組成物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、油相中に直接β型結晶油脂と乳脂肪を含有し、該直接β型結晶油脂が、StEE(St:ステアリン酸、E:エライジン酸)で表されるトリグリセリド(以下、StEEとする)を含有する油脂(1)であり、該油脂(1)の配合量が、StEEが配合油中10重量%以上となる量であるか、又は、該直接β型結晶油脂が、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下、S1MS2とする)とMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下、MS3Mとする)とからなるコンパウンド結晶を形成し、MS3M/S1MS2がモル比率で0.8〜1.2である油脂(2)であり、該油脂(2)の配合量が、配合油中、S 1 MS 2 が2.5重量%以上で且つMS 3 Mが2.5重量%以上となる量であり、該乳脂肪の配合量は、配合油中、1〜95重量%であり、該油相中のSFC(固体脂含量)が10℃で20〜60%、20℃で10〜40%であり、且つ該油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型であることを特徴とするロールイン用油脂組成物を提供することにより、上記の目的を達成したものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のロールイン用油脂組成物について詳細に説明する。
【0013】
本発明は、上記のように、油相中に直接β型結晶油脂と乳脂肪を含有し、該油相中のSFC(固体脂含量)が10℃で20〜60%、20℃で10〜40%であり、且つ該油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型であることを特徴とするロールイン用油脂組成物である。
【0014】
本発明でいう油相とは、油脂に必要により乳化剤、着色料、酸化防止剤、着香料、調味料等を添加したものを指す。また、本発明でいう油脂には乳製品、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材から抽出される脂肪分も含む。
【0015】
上記の直接β型結晶油脂とは、油脂を溶解し、冷却し、結晶化したときに、熱エネルギー的に不安定なα型結晶から、準安定形のβプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する油脂を指す。且つ、ここでいう直接β型結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造を示す結晶として析出する。
【0016】
つまり、上記の直接β型結晶油脂は、溶解した後、冷却し、結晶化することにより、最安定形のβ型結晶で、且つトリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造を示す油脂結晶として析出する。この際、上記の結晶化条件は如何なる結晶化条件であってもよく、テンパリング等の特殊な熱処理を必要としない。
【0017】
ある油脂が直接β型結晶油脂であることを確認する一例としては、油脂を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持して得られた結晶についてX線回折で結晶型を測定した結果、β型の2鎖長構造をとることにより確認できる。
【0018】
また本発明では、上記の直接β型結晶油脂が微細結晶となるものであることが好ましい。
【0019】
上記の微細結晶とは、油脂の結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。
【0020】
本発明では、直接β型結晶油脂を用いることが必須である。
直接β型結晶ではない油脂、例えばβプライム型で最安定形の油脂のみを用いた場合には、ロールイン用油脂組成物が経日的に硬くなる傾向があり、結晶の析出方法や保存方法等を細かく管理しなければロールイン用油脂組成物としては好ましくないものとなる。
【0021】
また微細結晶であっても、直接β型結晶とならない油脂、例えば、βプライム型結晶を経由するような油脂を用いた場合には、βプライム型結晶はエネルギー的に準安定形であるため、保存条件等が適切でない場合等には、更にエネルギー的に安定な最安定形のβ型結晶へと転移現象を引き起こす恐れがある。この結果としてできたβ型結晶は粗大結晶である為、ロールイン用油脂組成物としては全く好ましくないものとなる。
【0022】
そして、微細結晶で且つβプライム型で最安定形の油脂であり、β型への結晶転移を起こさない油脂を用いた場合も、経日的に硬くなる傾向があり、ロールイン用油脂組成物としては安定性の点で十分に満足の得られないものとなる。
【0023】
本発明で用いる直接β型結晶油脂の種類としては、油脂を溶解した後、冷却し、結晶化したとき、βプライム型を経由しない直接β型結晶をとるものである。
【0024】
本発明で用いる直接β型結晶油脂としては、StEE(St:ステアリン酸、E:エライジン酸)で表されるトリグリセリド(以下、StEEとする)を含有する油脂(1)が挙げられる。
【0025】
この油脂(1)としては、例えば大豆油、ひまわり油、シア脂、サル脂の中から選ばれた1種又は2種以上を水素添加及び分別から選択される1又は2種類の処理を施した加工油脂を用いることができる。さらに好ましくはハイオレイックひまわり硬化油、シア分別軟部油の硬化油又はこの硬化油の分別硬部油、サル分別軟部油の硬化油又はこの硬化油の分別硬部油を用いることが望ましい。
【0026】
本発明のロールイン用油脂組成物において、上記の油脂(1)の配合量としては、StEEがロールイン用油脂組成物の配合油中10重量%以上、最も好ましくは30〜95重量%となるように配合する。
【0027】
また、本発明で用いる直接β型結晶油脂としては、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下、S1MS2とする)とMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下、MS3Mとする)とからなるコンパウンド結晶を形成する油脂(2)が挙げられる。
【0028】
上記のS1MS2のS1とS2及びMS3MのS3は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸であり、さらに好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸である。また、本発明において、上記のS1、S2及びS3が、同じ飽和脂肪酸であるのが最も好ましい。
【0029】
上記のS1MS2のMやMS3MのMは、好ましくは炭素数16以上のモノ不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸、最も好ましくはオレイン酸である。
【0030】
上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶とは、構造の異なるS1MS21分子とMS3M1分子とが混合された際、あたかも単一のトリグリセリド分子であるかの如き結晶化挙動を示すものである。コンパウンド結晶は分子間化合物とも呼ばれる。そして、上記のコンパウンド結晶は、S1MS2とMS3Mを混合、溶解した後、冷却し、結晶化することにより、最安定形のβ型結晶で、且つトリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造を示す結晶として析出する。この際、上記の結晶化条件は如何なる結晶化条件であってもよく、テンパリング等の特殊な熱処理を必要としない。
【0031】
本発明のロールイン用油脂組成物において、上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶の含有量は、ロールイン用油脂組成物の配合油中、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、最も好ましくは30〜95重量%となるように配合する。S1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶の含有量が、ロールイン用油脂組成物の配合油中、5重量%未満であると経日的に20μmを越えたサイズを有するβ型結晶が出現しやすく、経日的に硬くなりやすい。
【0032】
また上記の油脂(2)とは、S1MS2で表されるトリグリセリドやS1MS2を含有する油脂と、MS3Mで表されるトリグリセリドやMS3Mを含有する油脂との混合物である。
【0033】
上記のS1MS2を含有する油脂としては、例えばパーム油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を分別した加工油脂、並びに下記に記載するエステル交換油、該エステル交換油を分別した加工油脂を用いることができる。本発明では、上記の中から選ばれた1種又は2種以上を用いる。
【0034】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0035】
上記のMS3Mを含有する油脂としては、例えば豚脂、豚脂分別油、エステル交換油を用いることができ、本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いる。
【0036】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加、分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0037】
本発明のロールイン用油脂組成物において、上記の油脂(2)の配合量としては、上記のS1MS2を含有する油脂は、ロールイン用油脂組成物の配合油中、S1MS2 を2.5重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上、最も好ましくは15〜50重量%となるよう配合し、上記のMS3Mを含有する油脂は、ロールイン用油脂組成物の配合油中、MS3Mを2.5重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上、最も好ましくは15〜50重量%となるよう配合する。
【0038】
さらに、本発明のロールイン用油脂組成物において、MS3Mで表されるトリグリセリドのモル数/S1MS2で表されるトリグリセリドのモル数が0.8〜1.2となるように配合する。
【0039】
本発明のロールイン用油脂組成物の油相は、上記の直接β型結晶油脂と共に、乳脂肪を必須成分とする。乳脂肪の含有量は、ロールイン用油脂組成物の配合油中、1〜95重量%、さらに好ましくは5〜50重量%、最も好ましくは10〜30重量%である。乳脂肪の含有量が1重量%未満であると良好な風味が得られにくい。また、乳脂肪の含有量が95重量%を超えると、得られるロールイン用油脂組成物が低温で硬くなりやすく、可塑性を有する温度範囲が狭くなりやすい。
【0040】
上記の乳脂肪として、牛乳、クリーム、バター、チーズ等の乳脂を含有する乳製品をそのまま使用しても、これらから脂質分だけを抽出した乳脂肪そのものも使用してもよい。また上記の乳脂肪を乾式分別、溶剤分別した分別乳脂硬部油、分別乳脂中部油、分別乳脂軟部油等を使用しても構わない。
【0041】
また本発明のロールイン用油脂組成物において、直接β型結晶油脂及び乳脂肪のほかに、その他の油脂を用いても良い。その他の油脂を用いる場合、その他の油脂の配合量は、ロールイン用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは90重量%以下、最も好ましくは70重量%以下である。その他の油脂としては、通常の加工食品に用いられる食用油脂であれば、特に限定されず、動物油、植物油等の天然油、及びこれらの油脂の硬化油、分別油、エステル交換油、ランダムエステル交換油等の単独あるいは混合油が使用できる。
【0042】
本発明のロールイン用油脂組成物は、油相中のSFCが10℃で20〜60%、20℃で10〜40%、好ましくは10℃で20〜50%、20℃で10〜30%となるように配合する必要がある。SFCが10℃で20%未満、又は20℃で10%未満のときはロールイン用油脂組成物として軟らかすぎてパフ性の良好なペストリーが得られない。一方、SFCが10℃で60%を超える、又は20℃で40%を超えると、伸展性が悪く広い温度範囲で可塑性を得ることができない。
【0043】
このときのSFCは、次のようにして測定する。即ち、ロールイン用油脂組成物の油相を60℃に30分保持し、油脂を完全に融解し、そして0℃に30分保持して固化させる。さらに25℃に30分保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分保持する。これをSFCの各測定温度に30分保持後、SFCを測定する。
【0044】
本発明のロールイン用油脂組成物は、油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型であることが必要である。油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型でないときには、結晶安定性の面で十分に満足の得られるものとならない。
【0045】
あるロールイン用油脂組成物の油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型であることを確認する一例としては、ロールイン用油脂組成物の油相を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持して得られた結晶についてX線回折で結晶型を測定した結果、β型の2鎖長構造をとることにより、確認できる。
【0046】
ロールイン用油脂組成物の油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型であることを確認する方法について、さらに詳細を述べる。
【0047】
本発明のロールイン用油脂組成物においては、油相を70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが好ましい。5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが好ましいが、4日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることがさらに好ましく、5℃で1日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが一層好ましく、5℃で1時間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることがさらに一層好ましく、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが最も好ましい。このようにして油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶をとることが確認されれば、油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型であると言える。
【0048】
また、上記の油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認する方法としては、例えばX線回折測定による方法が挙げられる。
【0049】
X線回折測定においては、上記の油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。一方、上記の油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、2鎖長構造をとっていると判断する。
【0050】
X線回折測定において、以下のようにして短面間隔を測定すると、油脂結晶がβ型結晶であるかどうかの判断がさらに高い精度で可能となる。
具体的には、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)と、4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)とをとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が、1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0051】
従来のマーガリンやショートニング等の可塑性油脂は、用いられている油相を70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が、2鎖長構造である点では、本発明のロールイン用油脂組成物と同一であるが、該油脂結晶が準安定形のβプライム型である点で、本発明のロールイン用油脂組成物とは異なる。また、主にチョコレート等の油脂性菓子に用いられるカカオ脂は、70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が、最安定形のβ型である点では、本発明のロールイン用油脂組成物と同一であるが、該油脂結晶の鎖長構造が3鎖長である点で、本発明のロールイン用油脂組成物とは異なる。
【0052】
油相を70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶とならない場合、例えばβプライム型で最安定形となる油脂組成物は、油脂組成物が経日的に硬くなる傾向があり、結晶の析出方法や保存方法等を細かく管理しなければ油脂組成物としては好ましくないものとなる。
【0053】
また本発明のロールイン用油脂組成物の油相の油脂結晶は、微細結晶であることが好ましい。上記の微細結晶とは、油脂の結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。
【0054】
本発明において、ロールイン用油脂組成物の油相の油脂結晶のサイズが20μmを超えた油脂結晶であると、ロールイン用油脂組成物を口にしたり、触った際にザラつきを感じやすく、液状油成分を保持することが困難となり、ロールイン用油脂組成物が油にじみを起こしやすい。特にロールイン用油脂組成物を水相成分を有する油中水型乳化とした際には、水相成分を油脂結晶により形成される3次元構造中に維持できない恐れがある。
【0055】
そして、本発明のロールイン用油脂組成物は、上記のような微細結晶を実質的に含有することが好ましい。この「実質的に」とは、全ての油相中の油脂結晶のうち、微細結晶を90重量%以上含有することを指す。
【0056】
本発明のロールイン用油脂組成物は、さらに高融点油脂を含有することが好ましい。高融点油脂を配合することにより、本発明のロールイン用油脂組成物の耐熱保型性を向上させ、ロールイン用途(デニッシュ用途)に使用した際、製造工程におけるホイロ時の生地の伸びを向上させることが出来る。
【0057】
上記の高融点油脂の融点は、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上、最も好ましくは55℃以上80℃以下である。融点が40℃未満の油脂では、ホイロ時の生地の伸びが充分に得られにくい。
【0058】
また、上記の高融点油脂は、ロールイン用油脂組成物の全油脂分中、好ましくは0〜30重量%、さらに好ましくは0〜10重量%、最も好ましくは0〜5重量%である。上記の高融点油脂は、油脂組成物の全油脂分中の含有量が、30重量%を越えると口溶けが悪化しやすい。
【0059】
上記の高融点油脂の具体例としては、例えば、パーム油、カカオバター、或いは、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂に、水素添加、分別並びにエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0060】
その他、本発明のロールイン用油脂組成物に含有させることができる成分としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0061】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン類等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記乳化剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のロールイン用油脂組成物中、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。また本発明のロールイン用油脂組成物において、上記乳化剤が必要でなければ、乳化剤を用いなくてもよい。
【0062】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のロールイン用油脂組成物中、好ましくは0〜10重量%、さらに好ましくは0〜5重量%である。また本発明のロールイン用油脂組成物において、上記増粘安定剤が必要でなければ、増粘安定剤を用いなくてもよい。
【0063】
次に、本発明のロールイン用油脂組成物の製造方法を説明する。
本発明のロールイン用油脂組成物の製造方法は、上記のように、直接β型結晶となる油脂と乳脂肪を含有し、SFC(固体脂含量)が10℃で20〜60%、20℃で10〜40%である油相を融解し、冷却、可塑化して、2鎖長構造のβ型である油脂結晶を析出することを特徴とするものである。
【0064】
詳しくは、本発明のロールイン用油脂組成物は、直接β型結晶となる油脂と乳脂肪を混合し、必要によりその他の成分を混合し、融解し、油相とする。そして次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法はタンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、冷却可塑化する。本発明において冷却条件は好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上である。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましいが、本発明では徐冷却であっても、微細なβ型結晶をとり、可塑性範囲が広く、低温での伸展性に優れ、経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物を得ることができる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0065】
また、本発明のロールイン用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0066】
さらに、本発明のロールイン用油脂組成物は、その形状に関して、シート状、ブロック状、円柱状等の形状としてもよい。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50〜1000mm、横:50〜1000mm、厚さ:1〜50mm、ブロック状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ50〜500mm、円柱状:直径1〜25mm、長さ5〜100mmである。
【0067】
本発明のロールイン用油脂組成物は、可塑性油脂組成物であることが好ましく、マーガリンタイプでもショートニングタイプでもよい。またその乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0068】
本発明のロールイン用油脂組成物は、デニッシュ、クロワッサン、パイ、フライドパイ等のペストリーに使用することができる。また、本発明のロールイン用油脂組成物の上記用途における使用量は、使用用途により異なるものであり、特に限定されるものではない。
【0069】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。また、St:ステアリン酸、O:オレイン酸、P:パルミチン酸、S:飽和脂肪酸、M:モノ不飽和脂肪酸を示す。尚、以下の実施例1〜15のうち、実施例3は参考例である。
【0070】
また実施例と比較例におけるSFC測定方法は以下の通りである。配合油を60℃に30分保持し、油脂を完全に融解し、そして0℃に30分保持して固化させる。さらに25℃に30分保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分保持する。これをSFCの各測定温度に30分保持後、SFCを測定した。
【0071】
ペストリーは特記するもの以外、下記に示す配合及び製法により製造し、評価に供した。
<配合>
強 力 粉 70 重量部
薄 力 粉 30 重量部
食 塩 1.3重量部
砂 糖 2 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
練り込み油脂 5 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 80 重量部
【0072】
<製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を、縦型ミキサーにて低速及び中速でミキシングした後、冷蔵庫内で生地をリタードした。この生地にロールイン用油脂組成物を載せ、常法によりロールイン(4つ折り4回)し、成型(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)、焼成した。
【0073】
〔実施例1〕
ハイオレイックひまわり油を原料とし、DL−メチオニンの存在下で異性化水素添加を行い融点40℃の硬化油(a)を得た。この硬化油(a)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶油脂であった。確認のため、上記硬化油(a)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0074】
また上記硬化油(a)はStEEで表されるトリグリセリドを25重量%含有していた。
【0075】
上記硬化油(a)64重量%、乳脂肪20重量%と、大豆油16重量%とを混合し、60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で39%、20℃で26%であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物(b)とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0076】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が2800g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2800g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0077】
このロールイン用油脂組成物を用い、上記の配合と製法にて、ペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率(焼成後のペストリーの厚みを焼成前の生地厚で除した値;焼成品10個の平均値)は、11.2倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0078】
〔実施例2〕
通常の急冷可塑化工程での冷却速度は−20℃/分以上であるが、実施例1で用いた乳化物(b)を更に緩慢な冷却条件(冷却速度にして−1℃/分)下で、冷却可塑化し、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0079】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が3000g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も3000g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0080】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、10.7倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0081】
〔実施例3〕
シア分別軟部油を原料とし、ニッケル触媒を用いて水素添加を行い沃素価59の硬化油(c)を得た。この硬化油(c)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶油脂であった。確認のため、上記硬化油(c)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0082】
また上記硬化油(c)はStEEで表されるトリグリセリドを15重量%含有していた。
【0083】
上記硬化油(c)51重量%、乳脂肪15重量%と、大豆油34重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で36%、20℃で28%であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0084】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が2700g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2700g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0085】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、14.9倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0086】
〔実施例4〕
サル分別軟部油を原料とし、DL−メチオニンの存在下で異性化水素添加を行い沃素価54の硬化油とし、次いでこの硬化油をドライ分別により分画し、分別硬部油(d)を得た。この分別硬部油(d)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶油脂であった。確認のため、上記分別硬部油(d)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0087】
また上記分別硬部油(d)はStEEで表されるトリグリセリドを36重量%含有していた。
【0088】
上記分別硬部油(d)30重量%、乳脂肪25重量%と、大豆油45重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で34%、20℃で24%であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0089】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が1300g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も1300g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0090】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、10.5倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0091】
〔実施例5〕
大豆極度硬化油とオレイン酸エチルを、重量比で2:3として混合、溶解し、ナトリウムメトキシド触媒の存在下でエステル交換反応を行った。反応物を分子蒸留により脂肪酸を取り除き、得られた油脂を分別、精製することにより、分別軟部油を得た。この分別軟部油はOStOで表されるトリグリセリドを60重量%含有していた。
【0092】
この分別軟部油50重量%と、StOStで表されるトリグリセリドを60重量%含有するマンゴー核分別中部油50重量%とを60℃で溶解混合し、混合油(e)を得た。この混合油(e)はStOStで表されるトリグリセリドを30重量%、OStOで表されるトリグリセリドを30重量%含有していた。
【0093】
そして、上記混合油(e)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶油脂であった。確認のため、上記混合油(e)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0094】
上記混合油(e)50重量%、乳脂肪30重量%と、大豆油20重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で40%、20℃で20%であった。なお、この配合油中のStOStで表されるトリグリセリドは15重量%、OStOで表されるトリグリセリドは15重量%であり、OStOで表されるトリグリセリドのモル数/StOStで表されるトリグリセリドのモル数は1.0であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0095】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が1750g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も1750g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0096】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、13.6倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0097】
〔実施例6〕
魚油を原料とし、ニッケル触媒を用いて水素添加を行い、融点30℃の魚油硬化油を得た。この魚油硬化油を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させDSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型をとる油脂であった。確認のため、この魚油硬化油を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.2オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型をとることが確認された。
【0098】
この魚油硬化油63重量%と実施例1で用いた硬化油(a)27重量%及び乳脂肪10重量%を60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で39%、20℃で26%であった。次いでこの配合油100重量%を、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、ショートニングタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横210mm、厚さ13mmのシート状に成形した。
【0099】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたショートニングは5℃のレオメーター値が1900g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も1900g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0100】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、10.7倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0101】
〔実施例7〕
実施例1で用いた油中水型の乳化物(b)を、実施例1と同様に、急冷可塑化(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。次いで、このロールイン用油脂組成物を直径5mm、長さ40mmの円柱状に成形した。
【0102】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を実施例1と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が2500g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2500g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0103】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合にて以下のような製法で、ペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、11.5倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0104】
<製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を、縦型ミキサーにて低速及び中速でミキシングした後、ロールイン用油脂組成物を添加し、低速で混合し、生地を得た。そして、冷蔵庫でこの生地をリタードした。この生地に、常法により折り畳み(4つ折り4回)、成型(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)、焼成した。
【0105】
〔実施例8〕
StOStで表されるトリグリセリドを83重量%含有するシア分別中部油17重量%と、OPOで表されるトリグリセリドを17重量%含有するラード83重量%とを60℃で溶解混合し、混合油(f)を得た。この混合油(f)はStOStで表されるトリグリセリドを14重量%、OPOで表されるトリグリセリドを14重量%含有していた。
【0106】
そして、上記混合油(f)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶油脂であった。確認のため、上記混合油(f)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0107】
上記混合油(f)40重量%、乳脂肪40重量%と、大豆油20重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で32%、20℃で19%であった。なお、この配合油中のStOStで表されるトリグリセリドは6重量%、OPOで表されるトリグリセリドは6重量%であり、OPOで表されるトリグリセリドのモル数/StOStで表されるトリグリセリドのモル数は1.0であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦285mm、横210mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0108】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が2650g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2650g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0109】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、12.3倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0110】
〔実施例9〕
StOStで表されるトリグリセリドを57重量%含有するサル脂分別中部油23重量%と、OPOで表されるトリグリセリドを17重量%含有するラード分別軟部油77重量%とを60℃で溶解混合し、混合油(g)を得た。この混合油(g)はStOStで表されるトリグリセリドを13重量%、OPOで表されるトリグリセリドを13重量%含有していた。
【0111】
そして、上記混合油(g)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶であった。確認のため、上記混合油(g)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0112】
上記混合油(g)50重量%、乳脂肪25重量%と、大豆油25重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で30%、20℃で18%であった。なお、この配合油中のStOStで表されるトリグリセリドは7重量%、OPOで表されるトリグリセリドは7重量%であり、OPOで表されるトリグリセリドのモル数/StOStで表されるトリグリセリドのモル数は1.0であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦285mm、横420mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0113】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が1970g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も1970g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0114】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、12.4倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0115】
〔実施例10〕
POPで表されるトリグリセリドを60重量%含有するパーム分別中部油22重量%と、OPOで表されるトリグリセリドを17重量%含有するラード78重量%とを60℃で溶解混合し、混合油(h)を得た。この混合油(h)はPOPで表されるトリグリセリドを13重量%、OPOで表されるトリグリセリドを13重量%含有していた。
【0116】
そして、上記混合油(h)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶であった。確認のため、上記混合油(h)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0117】
上記混合油(h)40重量%、乳脂肪14重量%、大豆極度硬化油5重量%、大豆油35重量%と、実施例6で用いた魚油硬化油6重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で30%、20℃で22%であった。なお、この配合油中のPOPで表されるトリグリセリドは5重量%、OPOで表されるトリグリセリドは5重量%であり、OPOで表されるトリグリセリドのモル数/POPで表されるトリグリセリドのモル数は1.0であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦450mm、横300mm、厚さ14mmのシート状に成形した。
【0118】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が2460g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2460g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0119】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、14.4倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0120】
〔実施例11〕
POPで表されるトリグリセリドを22重量%含有するパーム油44重量%と、OPOで表されるトリグリセリドを17重量%含有するラード56重量%とを60℃で溶解混合し、混合油(i)を得た。この混合油(i)はPOPで表されるトリグリセリドを10重量%、OPOで表されるトリグリセリドを10重量%含有していた。
【0121】
そして、上記混合油(i)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶であった。確認のため、上記混合油(i)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0122】
上記混合油(i)50重量%、乳脂肪30重量%と、大豆油20重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で32%、20℃で15%であった。なお、この配合油中のPOPで表されるトリグリセリドは5重量%、OPOで表されるトリグリセリドは5重量%であり、OPOで表されるトリグリセリドのモル数/POPで表されるトリグリセリドのモル数は1.0であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0123】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が2190g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2190g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0124】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、11.7倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0125】
〔実施例12〕
シアステアリンとハイオレイックひまわり油を、重量比1:1の割合で混合、溶解し、1,3選択的酵素を用いてエステル交換反応を行った。得られた反応油脂を分別、精製することにより分別軟部油を得た。この分別軟部油はOStOで表されるトリグリセリドを36重量%含有していた。この分別軟部油38重量%と、POPで表されるトリグリセリドを22重量%含有するパーム油62重量%とを60℃で溶解混合し、混合油(j)を得た。この混合油(j)はPOPで表されるトリグリセリドを14重量%、OStOで表されるトリグリセリドを14重量%含有していた。
【0126】
そして、上記混合油(j)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶であった。確認のため、上記混合油(j)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0127】
上記混合油(j)65重量%、乳脂肪20重量%と、大豆油15重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で28%、20℃で11%であった。なお、この配合油中のPOPで表されるトリグリセリドは9重量%、OStOで表されるトリグリセリドは9重量%であり、OStOで表されるトリグリセリドのモル数/POPで表されるトリグリセリドのモル数は0.9であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦420mm、横285mm、厚さ18mmのシート状に成形した。
【0128】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が2770g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も2770g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0129】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、12.0倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0130】
〔実施例13〕
パームステアリンとハイオレイックなたね油を、重量比4:6の割合で混合、溶解し、化学的触媒を用いてエステル交換反応を行った。得られた反応油脂を精製することによりエステル交換反応油脂を得た。このエステル交換反応油脂はOPOで表されるトリグリセリドを12重量%含有していた。このエステル交換反応油脂84重量%と、POPで表されるトリグリセリドを60重量%含有するパーム分別中部油16重量%とを60℃で溶解混合し、混合油(k)を得た。この混合油(k)はPOPで表されるトリグリセリドを10重量%、OPOで表されるトリグリセリドを10重量%含有していた。
【0131】
そして、上記混合油(k)を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶であった。確認のため、上記混合油(k)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また光学顕微鏡で、この油脂結晶のサイズを観察したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0132】
上記混合油(k)35重量%、乳脂肪30重量%と、大豆油35重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で23%、20℃で12%であった。なお、この配合油中のPOPで表されるトリグリセリドは4重量%、OPOで表されるトリグリセリドは4重量%であり、OPOで表されるトリグリセリドのモル数/POPで表されるトリグリセリドのモル数は1.0であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0133】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶であることを確認した。また得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が1240g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も1240g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0134】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、10.8倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることが判る。
【0135】
〔実施例14〕
ラード分別軟部油77重量%とサル脂分別中部油23重量%を混合し、SMSで表されるトリグリセリドを13重量%、MSMで表されるトリグリセリドを13重量%含有した混合油(l)を得た。この混合油(l)を60℃で溶解した後、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶であった。
【0136】
確認のため、上記混合油(l)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また、光学顕微鏡でこの油脂結晶のサイズを確認したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0137】
上記混合油(l)50重量%、乳脂肪25重量%と、大豆油25重量%とを60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油中のSMSで表されるトリグリセリドは7重量%、MSMで表されるトリグリセリドは7重量%であり、SMSで表されるトリグリセリドのモル数/MSMで表されるトリグリセリドのモル数は1.0であった。この配合油81.5重量%に乳化剤としてソルビタン脂肪酸エステル2.0重量%とグリセリン脂肪酸エステル0.5重量%を混合溶解した油相を得た。水16重量%に上記油相84重量%を添加し、水中油型の乳化物とし、5℃で固化し、逆相マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。
【0138】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で3μm以下の微細結晶であり、上記ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶を形成することを確認した。そして、上記ロールイン用油脂組成物の配合油のSFCは10℃で30%、20℃で18%であった。得られたロールイン用油脂組成物は縦250mm、横340mm、厚さ215mmのブロック状とした。
【0139】
また得られたロールイン用油脂組成物は、5℃のレオメーター値が600g/cm2であり、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も600g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0140】
さらに、このロールイン用油脂組成物を2cm角の角柱状(立方体状)にカットしたものを用い、以下のような配合・製法にて、ペストリーを得た。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、12.4倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることがわかる。
【0141】
<配合>
強 力 粉 70 重量部
薄 力 粉 30 重量部
食 塩 1.3重量部
砂 糖 2 重量部
脱脂粉乳 3 重量部
水 54 重量部
ロールイン用油脂組成物 85 重量部
【0142】
<製法>
水と食塩以外の原料を、縦型ミキサーにて低速で混合後、食塩を溶解した水を添加し、低速及び中速でミキシングし、生地を得た。そして、冷蔵庫でこの生地をリタードした。この生地を、常法により折り畳み(4つ折り4回)、成型(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)、焼成した。
【0143】
〔実施例15〕
ラード79重量%とパーム分別中部油21重量%を混合し、SMSで表されるトリグリセリドを16重量%、MSMで表されるトリグリセリドを16重量%含有した混合油(m)を得た。この混合油(m)を60℃で溶解した後、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する直接β型結晶であった。
【0144】
確認のため、上記混合油(m)を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。また、光学顕微鏡でこの油脂結晶のサイズを確認したところ、3μm以下の微細な結晶であった。更に、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認され、直接β型結晶の形成が確認された。
【0145】
この混合油(m)15重量%、乳脂肪75重量%と、大豆油10重量%とを混合し、60℃で溶解させ配合油を得た。上記配合油中のSMSで表されるトリグリセリドは2.5重量%、MSMで表されるトリグリセリドは2.5重量%であり、SMSで表されるトリグリセリドのモル数/MSMで表されるトリグリセリドのモル数は1.0であった。この配合油80.4重量%を溶解させ、乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で3μm以下の微細結晶であり、ロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、2鎖長構造のβ型をとり、直接β型結晶を形成することを確認した。そして、ロールイン用油脂組成物の配合油のSFCは10℃で50%、20℃で20%であった。ロールイン用油脂組成物の形状は縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状とした。
【0146】
また、得られたロールイン用油脂組成物は、5℃のレオメーター値が3300g/cm2、20℃のレオメーター値が400g/cm2と低温でも軟らかくて可塑性範囲が広く、伸展性に優れ、且つ製造から1ヶ月経過後での5℃のレオメーター値も3300g/cm2と経日的にも硬さが変化せず安定したロールイン用油脂組成物であった。
【0147】
さらにこのロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法にて、ペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、12.8倍であった。これより得られたペストリーはパフ性の良好なものであることがわかる。
【0148】
〔比較例1〕
魚油を原料とし、ニッケル触媒を用いて水素添加を行い、融点45℃の魚油硬化油を得た。この魚油硬化油を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型をとる油脂であった。確認のため、この魚油硬化油を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.2オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型をとることが確認された。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることを確認し、直接β型結晶の形成は認められなかった。
【0149】
この魚油硬化油55重量%、乳脂肪20重量%と大豆油25重量%とを混合し、60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で45%、20℃で33%であった。次いで、この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0150】
得られたロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、3鎖長構造のβプライム型をとり、直接β型結晶でないことを確認した。
【0151】
このロールイン用油脂組成物は、製造直後の段階で5℃のレオメーター値が2470g/cm2であったのに対し、1ヶ月経過後には5℃のレオメーター値が3580g/cm2となり、経日的に硬くなることが認められ、安定性の乏しいロールイン用油脂組成物であった。
【0152】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、8.0倍であった。これより、このロールイン用油脂組成物を用いても、パフ性の良好なペストリーは得られないことが判る。
【0153】
〔比較例2〕
コーン油を原料とし、ニッケル触媒を用いて水素添加を行い、融点36℃のコーン硬化油を得た。このコーン硬化油を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型をとる油脂であった。確認のため、このコーン硬化油を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.2オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型をとることが確認された。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることを確認し、直接β型結晶の形成は認められなかった。
【0154】
このコーン硬化油70重量%と大豆油30重量%を混合し、60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で35%、20℃で20%であった。次いで、この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0155】
得られたロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、3鎖長構造のβプライム型をとり、直接β型結晶でないことを確認した。
【0156】
さらに、このロールイン用油脂組成物は急冷可塑化直後の時点では、光学顕微鏡下で5μm以下の微細結晶を呈していたが、1ヶ月経過後には30μmにも達する粗大結晶へと転移を起こし、非常にザラつきを感ずる製品価値の全くないものとなった。また、同時にこのロールイン用油脂組成物は、製造直後の段階で5℃のレオメーター値が1500g/cm2であったのに対し、1ヶ月経過後には5℃のレオメーター値が2400g/cm2となり、経日的に硬くなることが認められ、安定性の乏しいロールイン用油脂組成物であった。
【0157】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、7.9倍であった。これより、このロールイン用油脂組成物を用いても、パフ性の良好なペストリーは得られないことが判る。
【0158】
〔比較例3〕
比較例1で用いた融点45℃の魚油硬化油18重量%、シア分別中部油32重量%、乳脂肪25重量%及び大豆油25重量%を混合し、60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油を60℃で溶解し、0℃に冷却し、結晶化させた後、DSCにより結晶転移の有無を確認したところ、βプライム型をとる油脂であった。確認のため、この配合油を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.2オングストロームと4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型とβ型の混在をとることが確認された。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることを確認し、直接β型結晶の形成は認められなかった。
【0159】
この配合油のSFCは10℃で53%、20℃で45%であった。次いで、この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0160】
得られたロールイン用油脂組成物の油相を上記と同条件でX線回折測定を行ったところ、β型結晶とβプライム型結晶の混在をとっていたが、3鎖長構造を示し、直接β型結晶でないことを確認した。
【0161】
更にこのロールイン用油脂組成物は急冷可塑化直後の時点では、光学顕微鏡下で5μm以下の微細結晶を呈していたが、1ヶ月経過後には30μmにも達する粗大結晶へと転移を起こし、非常にザラつきを感ずる製品価値の全くないものとなった。また、同時にこのロールイン用油脂組成物は、製造直後の段階で5℃のレオメーター値が3700g/cm2であったのに対し、1ヶ月経過後には5℃のレオメーター値が5900g/cm2となり、経日的に硬くなることが認められ、安定性の乏しいロールイン用油脂組成物であった。また、その可塑性範囲は著しく狭いもので満足のいくものではなかった。
【0162】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、7.5倍であった。これより、このロールイン用油脂組成物を用いても、パフ性の良好なペストリーは得られないことが判る。
【0163】
〔比較例4〕
実施例3で用いた硬化油(c)80重量%と乳脂肪20重量%を混合し、60℃で溶解させ配合油を得た。この配合油のSFCは10℃で64%、20℃で52%であった。この配合油80.4重量%に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.5重量%とレシチン0.1重量%を混合溶解した油相81重量%と水16重量%、食塩1重量%、脱脂粉乳2重量%とを常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0164】
得られたロールイン用油脂組成物は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。さらに、ロールイン用油脂組成物の油相を70℃で完全溶解し、0℃で30分間保持し、そして5℃で30分間保持し結晶析出させたものを2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβ型をとることが確認された。更に2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施し、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることを確認した。しかし、得られたロールイン用油脂組成物は5℃のレオメーター値が9800g/cm2と非常に硬く、可塑性範囲が狭く、伸展性に劣るものであった。
【0165】
また、このロールイン用油脂組成物を用い、実施例1と同様の配合・製法によりペストリーを製造した。得られたペストリーの浮き倍率を実施例1と同様の方法で計測したところ、7.1倍であった。これより、このロールイン用油脂組成物を用いても、パフ性の良好なペストリーは得られないことが判る。
【0166】
これらの結果から明らかなように、βプライム型結晶油脂を用いた比較例1及び2では、経日的な変化が認められ結晶安定性の点で問題がある。また比較例3に示した組成物では一部β結晶を示したものの、2鎖長構造を示さず、直接β型結晶ではなかった。また、微細結晶でもないため、結晶安定性に乏しく、可塑性範囲が著しく狭いものであった。更に比較例4に示した組成物では直接β型結晶である油脂を用いているが、そのSFCが10℃で20〜60%、20℃で10〜40%の範囲になく、伸展性の悪いものであった。これら比較例1〜4の組成物を用いても、パフ性の良好なペストリーは得られない。
【0167】
これに対し、実施例1〜15では、可塑性範囲が広く、低温でも軟らかく、伸展性に優れ、なお且つ経日的に硬さが変化することのない、結晶安定性に優れたロールイン用油脂組成物であった。更に直接β型結晶油脂とβプライム型結晶である油脂を併用した実施例6及び実施例10の組成物においても、可塑性範囲が広く、低温でも軟らかく、伸展性に優れ、なお且つ経日的に硬さが変化することのない、結晶安定性に優れたロールイン用油脂組成物であった。さらに実施例1〜15のロールイン用油脂組成物を用いることで、パフ性の良好なペストリーが得られる。
【0168】
【発明の効果】
本発明は、油相中に直接β型結晶油脂と乳脂肪を含有し、該油相中のSFC(固体脂含量)が10℃で20〜60%、20℃で10〜40%であり、且つ該油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型であることを特徴とするロールイン用油脂組成物に関するものであり、油脂組成物を製造する際に特殊な温度管理をしなくても安定結晶を含有し、低温でも軟らかく、伸展性に優れた、可塑性範囲の広い、なお且つ経日的にも硬さが変化せず安定なロールイン用油脂組成物である。さらに本発明のロールイン用油脂組成物を用いることにより、パフ性の良好なペストリーを提供することができる。
Claims (6)
- 油相中に直接β型結晶油脂と乳脂肪を含有し、
該直接β型結晶油脂が、StEE(St:ステアリン酸、E:エライジン酸)で表されるトリグリセリド(以下、StEEとする)を含有する油脂(1)であり、該油脂(1)の配合量が、StEEが配合油中10重量%以上となる量であるか、又は、該直接β型結晶油脂が、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下、S1MS2とする)とMS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下、MS3Mとする)とからなるコンパウンド結晶を形成し、MS3M/S1MS2がモル比率で0.8〜1.2である油脂(2)であり、該油脂(2)の配合量が、配合油中、S 1 MS 2 が2.5重量%以上で且つMS 3 Mが2.5重量%以上となる量であり、
該乳脂肪の配合量は、配合油中、1〜95重量%であり、
該油相中のSFC(固体脂含量)が10℃で20〜60%、20℃で10〜40%であり、且つ該油相中の油脂結晶が2鎖長構造の直接β型であることを特徴とするロールイン用油脂組成物。 - マーガリンタイプである請求項1記載のロールイン用油脂組成物。
- ショートニングタイプである請求項1記載のロールイン用油脂組成物。
- 請求項1記載のロールイン用油脂組成物を製造する方法であって、
直接β型結晶となる油脂と乳脂肪を含有し、該油脂が、StEEを含有する油脂(1)であり、該油脂(1)の配合量が、StEEが配合油中10重量%以上となる量であるか、又は、該油脂が、S1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶を形成し、MS3M/S1MS2がモル比率で0.8〜1.2である油脂(2)であり、該油脂(2)の配合量が、配合油中、S 1 MS 2 が2.5重量%以上で且つMS 3 Mが2.5重量%以上となる量であり、該乳脂肪の配合量は、配合油中、1〜95重量%であり、SFC(固体脂含量)が10℃で20〜60%、20℃で10〜40%である油相を融解し、冷却、可塑化して、2鎖長構造の直接β型である油脂結晶を析出することを特徴とするロールイン用油脂組成物の製造方法。 - 請求項1〜3の何れかに記載のロールイン用油脂組成物を用いたベーカリー生地。
- 請求項5記載のベーカリー生地を焼成したベーカリー類。
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