JP6595859B2 - ロールイン用可塑性油脂組成物の製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、バター等の乳脂は良好な可塑性を示す温度帯がおおよそ13〜18℃と狭く、作業性という点では課題が多い。特に、クロワッサン、デニッシュ、パイ等の層状ベーカリー食品を得る際に使用されるロールイン用油脂として利用する場合に課題が顕著である。層状ベーカリー食品の製造では、一般にまずシート状の可塑性油脂を生地の間に挟み込み、折り畳み、圧延を繰り返すことで生地中に薄い油脂層を多数形成させる。この油脂層は、小麦粉生地層の相互の付着を防止する役割を果たし、続く焼成において、生地から発生する水蒸気や炭酸ガスの発散を遮り、この結果として製品を層状に膨張させフレーキーなテクスチャーを付与する。焼成中、層状に折り込まれた油脂は、最終的に溶けて生地に吸収され、その生地は、生地中の澱粉が糊化し、蛋白質が熱変性することによって凝固し、独特の層状構造が形成される。バター等の乳脂は20℃以上では軟らかくなり、生地に折り込む際に軟化して生地に練り込まれてしまうため、良好な層状膨化食品が得られにくい。そのため、バターを使用する場合には熟練した職人の技術によるところが多くなってしまうのが現状である。
しかし、(特許文献5)には乳脂を多く含有する油脂については記載されていない。
(I)乳脂又は乳脂を主体とする油脂組成物(A)及び油分中の乳脂含有量が50質量%未満である油脂組成物(B)を、固体脂含量(SFC)がそれぞれ20〜65%、かつ油脂組成物(A)のSFCに対する油脂組成物(B)のSFCの差が±20%以内となるように調整する工程
(II)油脂組成物(A)及び油脂組成物(B)を混捏及び可塑化する工程
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物の製造方法は、下記工程(I)〜(II)を有するものである。
(I)乳脂又は乳脂を主体とする油脂組成物(A)及び油分中の乳脂含有量が50質量%未満である油脂組成物(B)を、固体脂含量(SFC)がそれぞれ20〜65%、かつ油脂組成物(A)のSFCに対する油脂組成物(B)のSFCの差が±20%以内となるように調整する工程
(II)油脂組成物(A)及び油脂組成物(B)を混捏及び可塑化する工程
まず、乳脂又は乳脂を主体とする油脂組成物(以下、油脂組成物(A)ということもある)について説明する。
油脂組成物(A)は、乳脂又は乳脂を主体とするものであり、好ましくは油脂組成物の油分中、乳脂の含有量が60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
なお、上記油分とはトリグリセリドを表すものとし、後述する油相とは油分の他、油溶性の成分もあわせたものとする。
上記乳脂の由来としては、生クリーム、バター、バターオイル、クリームチーズ、デイリースプレッド等の乳脂原料が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を使用することができる。
なお、バターやバターオイル等の乳脂原料をそのまま油脂組成物(A)として用いることもでき、最も好ましい実施形態としてはバターを使用する。また、上記油脂組成物(A)として、市販されているバターやバターオイル、乳脂を主体とする油脂組成物等をそのまま使用することももちろん可能である。
油脂組成物(B)の乳脂が50質量%よりも多くなると、上記油脂組成物(A)と組成の近いものとなり、本発明の製造方法を利用することで得られる効果が小さくなるため、必要性が乏しくなる。
なお、上記「実質的に含有しない」とは、油相中に乳脂が5質量%未満、好ましくは3質量%未満であることを指す。
上記油脂組成物(B)では、本発明の効果を阻害しない範囲内で必要により以下のような油脂以外のその他の原料を配合することができる。該その他の原料としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、水、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
上記油脂組成物(B)の好ましい製造方法は、その製造方法が特に制限されるものではなく、例えば、加熱溶解した食用油脂に必要に応じてその他の原料を添加・分散後、冷却・結晶化し、必要に応じて可塑化することにより得ることができる。
そして次に殺菌処理をすることが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80〜100℃、更に好ましくは80〜95℃、最も好ましくは80〜90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40〜60℃、更に好ましくは40〜55℃、最も好ましくは40〜50℃とする。
SFCの差が20%よりも大きいと、最終的に得られるロールイン用可塑性油脂組成物の物性や風味がばらついたものになる。なお、ここでいう「ばらつき」とはロールイン用可塑性油脂組成物ごとのばらつき、及び一枚のロールイン用可塑性油脂組成物中でのばらつきの両方を指すものであり、このようなばらつきが後述するベーカリー食品にも影響する。
工程(II)は、上記油脂組成物(A)及び(B)を混捏及び可塑化する工程である。
上記工程(II)においては、上記の工程(I)により上記の特定のSFC条件となるように調整された油脂組成物(A)及び(B)を混捏及び可塑化する。通常「混捏及び可塑化」では「混捏」と「可塑化」とが同時に行われる。工程(II)における「混捏及び可塑化」では、工程(II)により得られる油脂組成物が可塑性を有していれば、必ずしも「混捏及び可塑化」前の油脂組成物(A)及び/又は(B)に比べて可塑性が向上していなくてもよい。
なお、油脂組成物(A)及び(B)の混合は、通常、工程(II)において油脂組成物(A)及び(B)を混捏する過程で行われる。
混捏及び可塑化は、必要に応じて温度調節をしながら行うこともできる。混捏及び可塑化の温度条件は、通常可塑化に用いられる任意の温度を設定することができるが、おおよそ10〜25℃で行うことが好ましい。なお、本発明では工程(I)においてすでに結晶の析出がおおよそ完了しているため、工程(II)の温度条件は結晶の状態を維持できる温度帯、すなわちおおよそ10〜25℃であれば問題ない。
また、工程(I)と工程(II)の間に、工程(I)で調整されたSFCを損なわない範囲でその他の工程をいれることも可能であるが、工程(I)と工程(II)は連続して行うことが好ましい。
(可塑化の際に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。)
本発明のベーカリー生地は、上述した本発明のロールイン用可塑性油脂組成物をロールインしたベーカリー生地である。
本発明のベーカリー食品は、上記ベーカリー生地を適宜、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、加熱してベーカリー食品とする。
上記成形においては、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。これらの成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
上記加熱としては、例えば、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼きが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができる。
ヨウ素価55のパーム分別軟部油に対し、ナトリウムメチラートを触媒として、非選択的エステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、0.93kPa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、0.4kPa以下の減圧下)を行ない、エステル交換油脂Iを得た。
予めバター(油分中の乳脂含有量が100質量%)を−20℃、5℃、10℃、15℃、20℃で1時間調温し、異なる固体脂含量(SFC)を有するバターを用意した(油脂組成物(A)に相当、各温度でのSFCはそれぞれ、57.5%、48.2%、44.0%、38.4%、24.8%であった)。
・油中水型乳化物I
エステル交換油脂Iを82質量部、ステアリン酸モノグリセリドを0.5質量部、レシチン0.5質量部からなる油相に水17質量部をゆっくりと加え、撹拌しながら乳化し、クーリングドラムで急冷固化し薄片状の未練りの油中水型乳化物I(油脂組成物(B)に相当)を得た。油中水型乳化物Iの製造直後の固体脂含量(SFC)は24.9%、油相に占めるトリ飽和トリグリセリド(上記S3)の割合は8.1質量%であった。
続いて、油中水型乳化物Iを−20℃、5℃、10℃、15℃、20℃のいずれかでそれぞれ1時間保持し(エージング処理)、異なるSFCを有する油中水型乳化物Iを用意した。(各温度でのSFCはそれぞれ67.2%、52.8%、47.5%、42.4%、32.0%であった。)
エステル交換油脂Iを80質量部、菜種油20質量部を60℃で混合し、配合油Aを得た。続いて、配合油Aを82質量部、ステアリン酸モノグリセリドを0.5質量部、レシチン0.5質量部からなる油相に水17質量部をゆっくりと加え、撹拌しながら乳化し、クーリングドラムで急冷固化し薄片状の未練りの油中水型乳化物II(油脂組成物(B)に相当)を得た。油中水型乳化物IIの製造直後の固体脂含量(SFC)は21.1%、油相に占めるトリ飽和トリグリセリド(上記S3)の割合は6.5質量%であった。
続いて、油中水型乳化物IIを−20℃、5℃、10℃、15℃、20℃のいずれかでそれぞれ1時間保持し(エージング処理)、異なるSFCを有する油中水型乳化物IIを用意した。(各温度でのSFCはそれぞれ50.3%、43.2%、39.2%、33.6%、23.8%であった。)
上記油脂組成物(A)に相当するバター及び油脂組成物(B)に相当する油中水型乳化物I、IIを、異なるSFCの組み合わせとして〔表1〕のように選択し、コンプレクターで減圧条件下、混捏及び可塑化しロールイン用可塑性油脂組成物を得た。(混捏及び可塑化は室温(15℃)で行った。)
得られたロールイン用可塑性油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
上記配合油A65.6質量部に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.4質量部とレシチン0.4質量部を混合溶解した油相と、バター20質量部を完全に溶解した後、水13.6質量部を加え常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用可塑性油脂組成物を得た。得られたロールイン用油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
バター20質量部、パームステアリン20質量部、菜種油20質量部、エステル交換油脂Iを40質量部を60℃で溶解させ混合し、配合油Bを得た。続いて、この配合油B65.6質量部に乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.4質量部とレシチン0.4質量部を混合溶解した油相と、バター20質量部を完全に溶解した後、水13.6質量部を常法により、油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン用油脂組成物を得た。得られたロールイン用可塑性油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
得られた本発明の実施例1〜13及び比較例1〜5のロールイン用可塑性油脂組成物を5℃で保存し、製造1週間後または3か月後のロールイン用可塑性油脂組成物を用いて、下記配合と製法によりデニッシュペストリーを製造し、ロールイン時の作業性を下記の基準で評価した。また、焼成したデニッシュペストリーの口どけ、乳由来の風味については、それぞれ10人のパネラーにより下記評価基準に従って官能評価をさせ、10人のパネラーの合計点を評価点数とし、結果を下記のようにして表2に示した。
41〜50点:◎+、31〜40点:◎、21〜30点:○、11〜20点:△、0〜10点:×
強力粉80質量部、薄力粉20質量部、イースト4質量部、イーストフード0.2質量部、上白糖15質量部、全卵(正味)10質量部、純植物性マーガリン5質量部、水45質量部をミキサーボールに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにて低速3分、中速3分ミキシングし、デニッシュ用生地を得た。得られたデニッシュ用生地はフロアタイム20分、−5℃の冷凍庫で24時間リタードさせた後、定法により、上記ロールイン用可塑性油脂組成物(いずれか)45質量部をロールイン(3つ折り3回)し、デニッシュペストリー生地を得た。このデニッシュペストリー生地は厚さ4mmに圧延し、100mm×100mmの板状に切り出し、34℃60分ホイロ後、固定オーブンで200℃15分焼成し、それぞれデニッシュペストリーを得た。
・作業性
◎…コシがあり、伸展性が非常に良好である。
○…コシがあり、伸展性が良好である。
△…あまりコシがなく、伸展性が良くない。
×…コシがなく、伸展性が悪い。
・口どけ
5点…非常に口どけが良く、また口どけのばらつきも見られない。
3点…口どけが良く、また口どけのばらつきもほとんど見られない。
1点…口どけがやや悪い箇所がありばらつきが見られる、又は全体的にやや口どけが悪い。
0点…非常に口どけが悪い箇所がありばらつきが大きい、または全体的に口どけが悪い。
・風味
5点…乳由来の風味が強く感じられ、また風味のばらつきがなく非常に良好である。
3点…乳由来の風味が感じられ、また風味のばらつきが少なく良好である。
1点…風味のばらつきが見られ、乳由来の風味がやや乏しい箇所がある、又は乳由来の風味が全体的にやや乏しい。
0点…風味のばらつきが大きく、乳由来の風味が感じられない箇所がある、又は乳由来の風味が全体的に乏しい。
Claims (5)
- 下記工程(I)〜(II)を有し、該工程(I)及び該工程(II)を連続して行うロールイン用可塑性油脂組成物の製造方法。
(I)乳脂を油分中に60質量%以上含有する油脂組成物(A)及び油分中の乳脂含有量が50質量%未満である油脂組成物(B)を、固体脂含量(SFC)がそれぞれ20〜65%、かつ油脂組成物(A)のSFCに対する油脂組成物(B)のSFCの差が±20%以内となるように調整する工程
(II)油脂組成物(A)及び油脂組成物(B)を10〜25℃で混捏及び可塑化する工程 - 上記油脂組成物(B)の油相に占めるトリ飽和トリグリセリド(S3、但しSは炭素数16以上の飽和脂肪酸を指す)が1〜10質量%である、請求項1記載のロールイン用可塑性油脂組成物の製造方法。
- 請求項1又は2記載の製造方法で得られたロールイン用可塑性油脂組成物。
- 請求項3記載のロールイン用可塑性油脂組成物を用いたベーカリー生地。
- 請求項4記載のベーカリー生地を加熱したベーカリー食品。
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