JP7353709B2 - 可塑性油脂組成物の製造方法 - Google Patents
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Description
以下では、Aユニットに送入される前の、油相を含有する融液を、「予備融解液」(予備融解液が水相を含む場合は「予備乳化液」)と記載する場合があり、Aユニットを通過している、油相を含有する組成物を、「油脂組成物」と記載する場合があり、Aユニットを通過した、油相を含有する組成物を、「可塑性油脂組成物」と記載する場合があり、本発明の可塑性油脂組成物の製造方法の各段階において、上記の通り呼称を便宜上区別する。本発明においては、Aユニットの通過後、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用することができ、Aユニットの通過後にこれらの機器を通過したものについても、「可塑性油脂組成物」として記載する場合がある。
はじめに、予備融解液の調製について述べる。
予備融解液の調製は、まず、油脂に、必要により下述のその他の成分を添加して油相とし、この油相を加熱融解し予備融解液とする。水相を含む可塑性油脂組成物を製造する場合は、水に、必要により下述のその他の成分を添加した水相を用意する。そして、上記油相と上記水相を混合・乳化し、水相を含む予備融解液である予備乳化液とする。
次に、後述する冷却工程と昇温工程に用いられる製造装置について述べる。
本発明の製造方法においては、密閉型連続式掻き取りチューブ式冷却機(Aユニット)を用いて、上記の予備融解液を冷却し、結晶を析出させ、混練し可塑化させる。このAユニットとしては、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等が挙げられる。
次に、本発明における冷却工程について述べる。
本発明の製造方法における冷却工程とは、上述の予備融解液をAユニットで冷却しながら混練し、油脂結晶を析出させるとともに、油脂組成物に可塑性を付与していく工程を指す。
上記冷却工程において急冷する場合、A1ユニットを、油脂組成物が通過する際の平均冷却速度が0.5℃/秒以上となる条件とすることが好ましく、1℃/秒以上となる条件とすることがより好ましい。平均冷却速度の上限は、5℃/秒である。このような条件とすることで、最終的に得られる可塑性油脂組成物に良好なコシと伸展性が付与されやすい。これらの平均冷却速度が得られるように、油脂組成物の流量等の各種条件が適宜調整されるが、好ましくは、少なくとも平均冷却速度が0.1℃/秒超となるように調整される。A1ユニットを油脂組成物が通過する際の平均冷却速度は、A1ユニットに送入される直前の品温とA1ユニットから出た後の品温の差分を、A1ユニットにおける滞留時間で除することにより得られる。
次に、昇温工程について述べる。本発明の製造方法において、昇温工程は上記冷却工程の後に行われ、昇温工程終了時点の油脂組成物の品温を、冷却工程後の油脂組成物の品温に対して少なくとも1℃以上上昇させる。上記の冷却工程の後、昇温工程を経ることにより、経日的な硬化やグレーニングといった品質の低下が抑制され、良好なコシや伸展性を有する可塑性油脂組成物が得られる。
硬化やグレーニングといった可塑性油脂組成物の経日的な劣化は、特に可塑性油脂組成物中の油脂結晶の経日的な安定化や、後結晶化に起因するものと推測される。本発明の可塑性油脂組成物の製造方法は、上記昇温工程を経て油脂組成物の品温を上昇させることを特徴とし、これにより、上記の経日的に起こる油脂結晶の安定化と結晶の析出が製造ライン内で加速的に生じ、可塑性油脂組成物が得られた段階では、十分安定化された油脂結晶が多く得られているために、経日的な硬化やグレーニングといった品質の低下が抑制されるものと推察している。
上記範囲で油脂組成物の品温を上昇させるために、昇温工程における平均保持温度を、冷却工程における平均保持温度より5℃以上高く設定することが好ましく、10℃以上高く設定することがより好ましい。冷却工程で生じた油脂結晶が溶解し後結晶化に伴う可塑性油脂組成物の物性が悪化する場合があるため、昇温工程における平均保持温度と冷却工程における平均保持温度の差分は、20℃以下であることが好ましい。
本発明で用いることのできる油脂としては、食用の油脂であれば特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、微細藻類油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、カカオ脂、シア脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられ、これらの内から1種又は2種以上を選択することができる。
その他の成分としては、例えば、糖類、乳化剤、澱粉類、デキストリン、食物繊維、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・脱脂濃縮乳、蛋白質濃縮ホエイ等の乳や乳製品、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、全卵・卵黄・酵素処理卵黄・卵白・卵蛋白質等の卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
下記の実施例及び比較例において、SFCは、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、製造された可塑性油脂組成物、油脂組成物、予備乳化液のSFCを測定した値である。
パームオレインのランダムエステル交換油76質量部、液状油(大豆油)20質量部、及びパーム油とパーム極度硬化油とをそれぞれ加熱溶解した状態で65:35の質量比で混合したもののランダムエステル交換油4質量部を混合し、油脂混合物とした。次に、この油脂混合物78.9質量部にレシチン0.1質量部を加え、分散・溶解させたものを油相とした。
水17質量部に脱脂粉乳3質量部を加えて分散・溶解させたものを水相とした。
上記油相に、水相と香料1質量部を加えて、混合し、乳化して、予備乳化液を得た。得られた予備乳化液を85℃で加熱殺菌した後、45℃まで予備冷却を行った。
A1~A4ユニットそれぞれのクリアランスは、A1ユニットから順に、5mm、10mm、10mm、15mmとした。
上記の4本のAユニットのうち、A1及びA2ユニットで冷却工程を、A3及びA4ユニットで昇温工程を行った。
冷却工程では油脂組成物を急冷した。A1及びA2ユニットにおける保持温度はそれぞれ-20℃とし、冷却工程の平均保持温度を-20℃とした。A1ユニットにおける平均冷却速度は1.5℃/秒とした。冷却工程終了後(A2ユニット出口)の油脂組成物の品温は9.0℃であった。
冷却工程終了後(A2ユニット出口)の油脂組成物のSFCは23.5%であり、製造された可塑性油脂組成物Aを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCに対して、62.8%のSFCとなっていた。
昇温工程における、A3及びA4ユニットの保持温度はそれぞれ-5℃とし、A3及びA4ユニットの平均保持温度を-5℃とした。昇温工程後の油脂組成物の品温は11.3℃であり、冷却工程後の油脂組成物の品温に対して2.3℃上昇していた。昇温工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物のSFCは27.4%であり、冷却工程終了後(A2ユニット出口)の油脂組成物のSFCに対して、116.8%のSFCとなっていた。
昇温工程を行わず、A1~A4ユニットの全てを用い、下記の条件で冷却工程を行った以外は、実施例1と同様にしてロールイン用の可塑性油脂組成物Bを得た。製造された可塑性油脂組成物Bを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCは38.1%であった。
[製造条件]
保持温度は全てのAユニットで-20℃とし、平均保持温度を-20℃とした。A1ユニットにおける平均冷却速度は1.5℃/秒とした。冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物の品温は5.7℃であった。
冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物のSFCは31.2%であり、製造された可塑性油脂組成物Bを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCに対して82.0%のSFCとなっていた。
昇温工程を行わず、A1~A4ユニットの全てを用い、下記の条件で冷却工程を行った以外は、実施例1と同様にしてロールイン用の可塑性油脂組成物Cを得た。製造された可塑性油脂組成物Cを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCは36.3であった。
[製造条件]
保持温度は全てのAユニットで-5℃とし、平均保持温度を-5℃とした。A1ユニットにおける平均冷却速度は1.3℃/秒とした。冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物の品温は7.9℃であった。
冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物のSFCは25.5%であり、製造された可塑性油脂組成物Cを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCに対して70.2%のSFCとなっていた。
昇温工程を行わず、A1~A4ユニットの全てを用い、下記の条件で冷却工程を行った以外は、実施例1と同様にしてロールイン用の可塑性油脂組成物Dを得た。製造された可塑性油脂組成物Dを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCは37.6%であった。
[製造条件]
保持温度はA1及びA2ユニットでそれぞれ-5℃、A3及びA4ユニットでそれぞれ-20℃とし、平均保持温度は-12.5℃とした。A1ユニットにおける平均冷却速度は-1.3℃/秒とした。冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物の品温は6.1℃であった。
冷却工程終了後(A4ユニット出口)の油脂組成物のSFCは30.1%であり、製造された可塑性油脂組成物Dを5℃で7日間保管したものの5℃におけるSFCに対して80.1%のSFCとなっていた。
得られたロールイン用の可塑性油脂組成物A~Dを用いて、下記配合と製法によりデニッシュA~Dをそれぞれ製造した。デニッシュ生地を調製する際のロールイン用の可塑性油脂組成物のコシと伸展性を下記評価基準により評価した。その結果を表1に示す。また、経日安定性の評価として、得られたロールイン用の可塑性油脂組成物を製造後5℃で保存し、7日目の表面の状態を下記基準で評価した。結果を表2に示した。経日安定性の評価においては、○のみを合格品とした。
強力粉100質量部
イースト4質量部
イーストフード0.1質量部
上白糖15質量部
食塩2質量部
全卵5質量部
ショートニング((株)ADEKA製プレミアムショートCF)5質量部
ロールイン用の可塑性油脂組成物A~D35質量部
水45質量部
可塑性油脂組成物A~D以外の原料をミキサーボールに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにて低速3分、中速5分にてミキシングを行い、生地(以下、「ベース生地」と記載する場合がある)を調製した。フロアタイムを20分とった後、このベース生地を-5℃の冷凍庫で24時間リタードさせた。この生地に、15℃に調温しておいた可塑性油脂組成物A~Dをのせ、常法により、ロールイン(3つ折り3回)し、成型(縦10センチ、横10センチ、厚さ3ミリ)した。そしてホイロ(34℃、60分、80%RH)をとり、200℃15分にて焼成し、デニッシュA~Dを得た。
◎:ロールイン用の可塑性油脂組成物がベース生地に練り込まれず、ヒビ・割れが生じることなく折り込まれており、非常に良好である。
○:ロールイン用の可塑性油脂組成物がベース生地にほとんど練り込まれず、ヒビ・割れが生じることなく折り込まれ、良好である。
△:ロールイン用の可塑性油脂組成物が一部ベース生地に練り込まれる部分、若しくはヒビ・割れが生じる部分があり、やや不良である。
×:ロールイン用の可塑性油脂組成物がベース生地に練り込まれる部分、若しくは割れが確認される部分があり、不良である。
◎:ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展が均一であり、非常に良好である。
○:ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展にわずかな違いが見られるものの、耳が殆ど見られず、良好である。
△:ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展に部分的な差が見られ、耳が散見され、やや不良である。
×:ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展に明確な差が見られ、耳が多数確認されており、不良である。
尚、上記の「耳」とはデニッシュ生地を調製する際、デニッシュ生地の端に見られる、ベース生地とロールイン用の可塑性油脂組成物の伸展性の差に起因するベース生地の余分を指す。
○:ロールイン用の可塑性油脂組成物の表面に触れてもザラつきを感じず、油にじみを全く起こしていない。
△:ロールイン用の可塑性油脂組成物の表面に触れると僅かにザラつきを感じる、或いは油にじみを僅かに起こしている。
×:ロールイン用の可塑性油脂組成物の表面に触れると非常にザラつきを感じる、又は強い油にじみを起こしている。
他方、可塑性油脂組成物B~Dは、コシや伸展性が乏しく、経日的な物性の悪化が見受けられた。このことからも、製造工程中に油脂組成物の品温を上昇させることにより、得られる可塑性油脂組成物の物性が向上することが確認された。
Claims (4)
- 連続式掻き取りチューブ冷却機を用いる可塑性油脂組成物の製造方法であって、結晶を析出させる冷却工程と、冷却工程後の品温に対して少なくとも1℃以上8℃以下の昇温となるように、かつ昇温工程後の油脂組成物のSFCが、昇温工程直前にサンプリングされた油脂組成物のSFCの90~150%となるように、品温を上昇させる昇温工程とを含み、複数の連続式掻き取りチューブ冷却機を直列に配置し、これらを用いて結晶を析出させる冷却工程と、昇温工程とを行う、可塑性油脂組成物の製造方法(ただし、昇温工程が加圧による昇温によって行われるものを除く)。
- 冷却工程が、製造される可塑性油脂組成物の5℃におけるSFCに対して、50%以上のSFCとなるように結晶を析出させる冷却工程である、請求項1記載の可塑性油脂組成物の製造方法。
- 冷却工程における平均保持温度と、昇温工程における平均保持温度の差が、5℃以上である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物の製造方法。
- 請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法により製造された可塑性油脂組成物。
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