JP4451536B2 - 装飾部材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面から任意の深さで硬化層が形成された装飾部材と、その製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
装飾部材、たとえば腕時計のバンド、ベゼル、ケース、裏蓋、中留、文字板などの外装部材には、ステンレス鋼、チタン鋼、あるいはチタン合金鋼が用いられる。特に、ステンレス鋼としては、耐食性と装飾性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼が多用される。
たとえば、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316系材、あるいはSUS304系材より成る板材に冷間鍛造を施す。さらに、任意に切削加工や孔開け加工を施し、腕時計バンドの駒の形状に仕上げる。そして、このようにして得られる駒と駒とを連結してバンドを完成させる。
【0003】
近年、かかるオーステナイト系ステンレス鋼の優れた耐食性を維持したまま、そのステンレス鋼表面を硬質化させる技術が試みられている。たとえば、特開平9−71854号公報、特開平9−268364号公報、および特開平9−302456号公報に開示された技術では、オーステナイト系ステンレス鋼に、フッ素系ガス雰囲気下で300〜500℃というような低温でフッ化処理を施す。よって、不動態皮膜を炭素原子の浸透が容易なフッ化皮膜に変化させる。その後、浸炭性ガス雰囲気下で400〜500℃というような低温でオーステナイト系ステンレス鋼にガス浸炭処理を施す。さらに酸洗処理または機械的研磨(たとえばバレル研磨)を施す。
【0004】
このようにして得られた部材、たとえば腕時計のバンドは、耐食性を維持したまま、表面から5〜50μmの深さで硬質な硬化層、すなわち浸炭層が形成される。よって、部材は美しい鏡面を呈すると共に、その鏡面の表面硬度はビッカース硬度(HV)で500〜700というステンレス鋼では得られない高い硬度を有する。
このように表面が硬質化された装身具は、傷つきにくいため、長い間にわたり美観を維持できるという利点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のように表面が硬質化されたステンレス部材であっても、鋭利で大きな外力が負荷されると傷つくことがあった。よって、より高い表面硬度が望まれていた。
【0006】
また、腕時計の外装部材やブレスレットなどにおいては、装身具として、他の装飾品と同じく装飾的な価値を求められる。そのために、このような装身具の表面には、しばしば装飾的な被膜が被覆される。装飾的な被膜としては、湿式メッキ法によって被覆される金合金被膜などが広く使われる。
しかしながら、これらの金合金被膜は軟らかく、傷つきやすい。よって、硬質化された装身具の表面に、このような軟らかい金合金被膜を被覆しても、金合金被膜に傷がつくため、装飾品としての美観を損ねてしまう。故に、表面を硬質化したという利点が生かされないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、表面から任意の深さで硬化層が形成された装飾部材の表面に、より高い表面硬度を与えることにある。
また、本発明の別の目的は、表面から任意の深さで硬化層が形成された装飾部材の表面に、表面硬度を低下させずに、金色をはじめ、様々な色調を与えることにある。
また、本発明の別の目的は、上記の目的を達する製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、前記母材にフッ素系ガス雰囲気下にて100〜500℃でフッ化処理を施し、次いで、前記フッ化処理が施された母材に一酸化炭素を含む浸炭性ガス雰囲気下にて400〜500℃でガス浸炭処理を施して浸炭層を形成し、次いで前記母材の表面に形成された鉄の酸化物を含む黒皮および前記浸炭層の表面から1〜2μmの深さの領域を研磨して鏡面とした後に、前記母材に前記浸炭層よりも硬質な炭素硬質被膜を被覆したことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
(硬化層の具体的説明)
まず、実施例に先立って、本発明に係る硬化層について具体的に説明する。
以下、本発明に係る装飾部材としては、具体的には、ステンレス鋼、チタン金属、チタン合金などが挙げられる。
ステンレス鋼としては、特にオーステナイト系ステンレス鋼が好ましく用いられる。
また、チタン金属とは、純チタンを主体とする金属材料を意味し、JIS規格で定義されているチタン第1種、チタン第2種、チタン第3種などをいう。
そして、チタン合金とは、純チタンを主体とする金属にアルミニウム、バナジウム、鉄などを添加した金属材料を意味し、JIS規格で定義されているチタン60種、チタン60E種などをいう。この他にも、各種チタン合金および各種チタン基の金属間化合物が、チタン合金材料に含まれる。
【0010】
本発明においては、上記のような装飾部材の表面に固溶原子を固溶させて硬化層が形成される。
固溶原子としては、炭素原子、窒素原子および酸素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子が用いられる。
ステンレス鋼、たとえばオーステナイト系ステンレス鋼に炭素原子を固溶させる。あるいは、ステンレス鋼に窒素原子と酸素原子を固溶させる。
チタンあるいはチタン合金に窒素原子と酸素原子を固溶させても良い。また、チタンあるいはチタン合金に炭素原子を固溶させても良い。
【0011】
硬化層は、装飾部材の表面から5〜50μmの深さにわたって形成することが好ましい。
硬化層の鏡面の表面硬度は、ビッカース硬度(HV)で500以上であることが好ましい。
【0012】
本発明において、たとえばチタン金属を含まないオーステナイト系ステンレス鋼からなる装飾部材に、硬化層として浸炭層を形成する場合、以下のような工程を経ることが好ましい。
【0013】
(1)フッ化処理
浸炭層を形成する前に、フッ素系ガス雰囲気下に100〜500℃、好ましくは150〜300℃で、装飾部材にフッ化処理を施すことが好ましい。このオーステナイト系ステンレス鋼は、たとえばFe−Cr−Ni−Mo系ステンレス、Fe−Cr−Mn系ステンレスなどが挙げられる。本発明で用いられるオーステナイト系ステンレスとしては、浸炭硬化層深さおよび価格の面からは、Ni含有量が出来るだけ小さい安定型のステンレスが望ましい。耐食性の面からは、Ni含有量が多く、しかも、有価元素であるMoを1.5〜4重量%程度含有するステンレスが望ましい。また、最も好適なオーステナイト系ステンレスとしては、クロム含有量が15〜25重量%で、常温で加工してもオーステナイト相の安定な安定型ステンレスに、Moを1.5〜4重量%添加したものが挙げられる。
【0014】
上記のフッ化処理に際して用いられるフッ素系ガスとしては、具体的には、NF3、CF4、SF4、C2F6、BF3、CHF3、HF、SF6、WF6、SiF4、C1F3などのフッ素化合物ガスが挙げられる。これらのフッ素化合物ガスは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。また、これらのガス以外に、分子内にフッ素を含む他のフッ素化合物ガスも上記フッ素系ガスとして用いることができる。さらにまた、このようなフッ素化合物ガスを熱分解装置で熱分解させて生成させたF2ガス、あるいは予め調製したF2ガスも上記フッ素系ガスとして用いることができる。このようなフッ素化合物ガスとF2ガスとは、任意に混合して用いられる。
【0015】
上記フッ素化合物ガス、F2ガス等のフッ素系ガスは、それぞれ1種単独で用いることもできるが、通常は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈されて使用される。このような希釈されたガスにおけるフッ素系ガス自身の濃度は、通常10,000〜100,000容量ppm、好ましくは20,000〜70,000容量ppm、さらに好ましくは30,000〜50,000容量ppmである。
本発明で最も好ましく用いられるフッ素系ガスは、NF3である。NF3は、常温でガス状であり、化学的安定性が高く、取り扱いが容易である。このNF3ガスは、通常、窒素ガスと組み合わせて上記の濃度範囲内で用いられる。
【0016】
本発明におけるフッ化処理は、たとえば所定の形状に加工した装飾部材を、上記濃度のフッ素系ガス雰囲気下に、100〜500℃の温度で行なわれる。フッ化処理時間は、処理物の種類・大きさ等により異なるが、通常は、十数分から数時間である。
【0017】
このようなフッ化処理を行なうことにより、装飾部材表面に、炭素原子の浸透性が良好なフッ化被膜を形成することができる。よって、次に行なわれる硬化処理としてのガス浸炭処理により、ステンレス鋼表面から内部に炭素原子が浸透拡散し、浸炭硬化層を容易に形成することができる。
【0018】
(2)ガス浸炭処理
上記のフッ化処理が施された装飾部材に、一酸化炭素を含む浸炭性ガス雰囲気下に、400〜500℃、好ましくは400〜480℃でガス浸炭処理を施す。この浸炭処理の際に用いられる浸炭性ガスとしては、炭素源ガスとして一酸化炭素を用い、通常、この一酸化炭素と水素、二酸化炭素、窒素の混合ガスの形で用いられる。
【0019】
本発明では、ガス浸炭処理温度を400〜500℃という低温にすることにより、浸炭硬化層中にCr23C6 等の結晶質のクロム炭化物が析出せず、オーステナイト系ステンレス鋼中のクロム原子が消費されない。よって、浸炭硬化層の優れた耐食性を維持することができる。また、浸炭処理温度が低温であるため、この浸炭処理により、Cr23C6、Cr7C3、Cr3C2等の結晶質のクロム炭化物の粗大化も起こらず、しかも、ステンレス鋼内部の軟化による強度低下も少ない。
【0020】
このようなガス浸炭処理法によれば、オーステナイト系ステンレス鋼からなる装飾部材の表面に浸炭硬化層(炭素の拡散浸透層)が均一に形成される。しかも、上記ガス浸炭処理により結晶質のクロム炭化物が生成せず、母材中のクロム原子を消費しないことから、浸炭硬化層は、オーステナイト系ステンレス鋼が本来有している優れた耐食性と同程度の耐食性を保持する。
ガス浸炭処理後の装飾部材の表面には、主としてステンレス鋼中のFeとCが共存する層、おそらくはFe2O3などの鉄の酸化物を含む「黒皮」が形成される。
【0021】
(3)酸洗処理
次いで、上記のガス浸炭処理が施された時計外装部品用母材に、酸洗処理を施す。具体的には、時計外装部品用母材を酸性溶液に浸漬する。
この酸洗処理で用いられる酸性溶液としては、特に限定されるものではなく、たとえばフッ酸、硝酸、塩酸、硫酸、フッ化アンモニウムなどが用いられる。これらの酸は、単独で用いることができるが、フッ化アンモニウムと硝酸との混合液、硝酸とフッ酸との混合液、硝酸と塩酸との混合液、硫酸と硝酸との混合液として用いることもできる。
【0022】
これらの酸性溶液の濃度は、適宜決定されるが、たとえば硝酸と塩酸との混合液では、硝酸濃度が15〜40重量%程度、塩酸濃度が5〜20重量%程度であることが好ましい。また、硝酸溶液の濃度は10〜30重量%程度が好ましい。
また、これらの酸性溶液は、常温で用いることができるし、高温で用いることもできる。
【0023】
さらに、酸洗処理として、硝酸、硫酸等の電解溶液を使用して電解処理を行なってもよい。
酸性溶液への浸漬時間は、酸性溶液の種類にもよるが、通常は約15〜90分程度である。
この酸洗処理により、時計外装部品用母材の表面に形成された浸炭処理に起因する黒皮に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮が除去されるが、この酸洗処理のみでは、黒皮を完全に除去することはできない。しかも、ガス浸炭処理により形成された浸炭硬化層の表面は、酸性溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗面化される。
【0024】
(4)水洗処理
次いで、上記酸洗処理後、時計外装部品用母材に水洗処理を施す。
この水洗処理により、時計外装部品用母材から剥離しかかっている黒皮を洗い流すとともに、時計外装部品用母材に付着している酸性溶液を完全に洗い流し、酸性溶液による浸炭硬化層の粗面化がさらに進行しないようにする。上記の酸洗処理および水洗処理により、時計外装部品用母材の表面に形成された黒皮を完全に除去することはできない。
【0025】
(5)研磨処理
次いで、水洗処理された時計外装部品用母材の表面をバレル研磨する。
具体的には、時計外装部品用母材をバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として好ましくはクルミのチップとアルミナ系研磨材をバレル槽内に入れる。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、浸炭硬化層の最表面に形成された粗い面と、残っている黒皮を研磨する。
【0026】
上記の酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨を併用することにより、時計外装部品用母材の表面に形成された黒皮を完全に除去することができる。この時計外装部品用母材が複雑な形状を成していても、この黒皮を完全に除去することができる。また、このバレル研磨により、時計外装部品用母材の表面を鏡面とすることができる。
【0027】
なお、バレル研磨に代えてバフ研磨を行なうと、時計外装部品用母材の表面に形成された黒皮を完全に除去することは非常に困難である。
かかるバレル研磨後の浸炭層の表面硬度(HV)は、50g荷重で500以上あれば、時計外装部品の硬さとしては充分である。好ましくは50g荷重で600以上あればよい。
【0028】
本発明においては、バレル研磨した時計外装部品用母材の表面を、さらにバフ研磨してもよい。
かかるバフ研磨後の浸炭層の表面硬度(HV)は、50g荷重で500以上あれば、時計外装部品の硬さとしては充分である。好ましくは50g荷重で600以上あればよい。
【0029】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316系材から成る母材に、熱間鍛造、冷間鍛造、切削加工、孔開け加工などを施し、腕時計のバンドの駒を作製した。
次いで、各駒に穿設されたピン孔に連結部品を挿入し、複数の駒と駒とを互いに回動可能に連結し、かかる駒の表面をバフ研磨などで研磨して鏡面に仕上げ、腕時計のバンドを完成した。
【0031】
なお、この多数の駒を連結して成る腕時計のバンドの幾つかの駒は、携帯者の手首の太さに合わせてバンドの長さを調整できるように、隣接する駒から取り外し可能な駒、いわゆる長さ調整用駒である。長さ調整用駒以外の駒は、隣接する駒から容易に分離できないように連結される駒である。
また、連結部品として、長さ調整用駒に用いられる連結部品(長さ調整用ピン)と、その他の駒に用いられる連結部品(連結ピンと割パイプ、ローレットピン)を使用した。
【0032】
次いで、この腕時計のバンドを、金属製のマッフル炉内に装入した後、480℃まで昇温した。次いで、フッ素系ガス(5容量%のNF2と95容量%のN2との混合ガス)をマッフル炉内に15分間吹き込み、フッ化処理を行なった。
次いで、フッ素系ガスを排出した後、浸炭性ガス(10容量%のCOと、20容量%のH2と、1容量%のCO2と、69容量%のN2との混合ガス)を吹き込み、480℃で12時間保持して浸炭処理を行なった後、バンドをマッフル炉より取り出した。
【0033】
取り出した浸炭処理後のバンドの表面に黒皮が形成されていた。
次いで、このバンドを、フッ化アンモニウム3〜5容量%と硝酸2〜3容量%を含む酸性水溶液に20分間浸漬した。
この酸洗処理により、バンドの駒表面に形成されていた黒皮中に含まれている鉄が酸化溶解し、黒皮の大部分は除去されていた。また、互いに隣接する駒と駒における相対する面や、ピン孔の内壁、さらに駒と駒とを連結する連結部品である、連結ピン、割パイプ、長さ調整用ピンにも、黒皮は観察されなかった。
【0034】
しかしながら、バンドの駒の表面、すなわち、浸炭処理により形成された浸炭層の表面は、酸性水溶液への浸漬により鉄が溶解し、粗い面となっていた。
次いで、酸洗処理されたバンドを水洗した。
次いで、水洗したバンドをバレル研磨装置のバレル槽の内部に設置し、研磨媒体として、くるみのチップとアルミナ系研磨剤をバレル槽内に入れた。そして、約10時間かけてバレル研磨を行ない、駒の浸炭層の最表面に形成された粗い面を研磨した。これにより、浸炭層の表面から1〜2μmの深さの領域が除去され、駒の表面、すなわち浸炭層の最表面が鏡面となった。
【0035】
以上の工程により、得られた鏡面を呈する腕時計バンドは、耐傷付き性に優れ、SUS316系材が本来有している優れた耐食性と同等の耐食性を保持していた。浸炭層の表面硬度(HV)は、50g荷重で700に達した。
【0036】
このように、予め多数の駒をまとめてバンドの形態にしてから、フッ化処理、ガス浸炭処理、酸洗処理、水洗処理およびバレル研磨処理を行なうので、これらの処理工程における駒の取り扱いが容易で生産性に優れる。処理作業にかかる人手と時間が削減され、処理コストを安価にすることができる。
【0037】
また、連結部品も浸炭処理されるため、連結部品の表面から数十μmの深さの領域に硬質な浸炭層が形成された。その結果、連結部品の硬度が高くなり、バンドの長手方向に沿ってバンドが引っ張られても、連結ピンや長さ調整用ピンが曲がったり、折れたりしにくくなった。
【0038】
しかしながら、連結ピンや長さ調整用ピンなどの連結部品は、各駒に穿設されたピン孔内に留まっているので、酸洗処理や研磨処理を施しても、連結部品に形成された黒皮は除去しにくい。酸洗処理や研磨処理の後、なお連結部品に黒皮が残存するときは、黒皮が残存する連結部品を新しい連結部品と交換すれば良い。すると、連結部品のみ浸炭層が形成されていないバンドを得る。
【0039】
特に、連結部品のうち、長さ調整用ピンに黒皮が残存すると、このピンが駒より抜けにくくなる。すると、携帯者の手首の太さに合わせてバンドの長さを調整することが困難になる。この場合、連結部品のうち、長さ調整用の連結部品のみを新しい部品と交換すれば良い。すると、長さ調整用の連結部品のみ浸炭層が形成されていないバンドを得る。
【0040】
次に、各駒の浸炭層の上に、金色色調の硬質被膜を被覆する。この説明には図1が参照される。
図に示す通り、バンドの駒1の表面に形成された浸炭層2の上に、乾式メッキ法の1つであるイオンプレティーング法によって、金色の硬質被膜として窒化チタンから成るTiN被膜3が被覆される。
【0041】
TiN被膜3の形成方法を説明する。
まず、浸炭層2が形成されたバンドをイソプロピルアルコール等の有機溶剤で洗浄し、イオンプレティーング装置内に配置した。イオンプレティーング装置は、一般に使用されているものでかまわないので、その説明は図面を含めて省略する。
【0042】
次いで、装置内を1.0×10-5Torrまで排気した後、不活性ガスとしてアルゴンガスを3.0×10-3Torrまで導入した。
次に、装置内部に備えられた熱電子フィラメントとプラズマ電極を駆動させて、アルゴンのプラズマを形成した。同時にバンドに−50Vの電位を印加して、10分間ボンバードクリーニングを行った。
【0043】
次に、アルゴンガスの導入を止めた後、装置内に窒素ガスを2.0×10-3Torrまで導入した。
そして、装置内部の備えられた電子銃でプラズマを発生させた後、チタンを10分間蒸発させて、バンドの表面全体、すなわちち駒1の浸炭層2の上にTiN被膜3を0.5μmの膜厚で形成した。
【0044】
このようにして得られたバンドは、TiN被膜3が金と同じような光学的特性を備えるが故に、均一な金色色調を呈した。これにより、バンドの装飾的な価値をさらに高めることができた。
また、このTiN被膜3を被覆した駒1の表面硬度(HV)は、50g荷重で800に達した。TiN被膜3を被覆した駒1は、優れた耐摩耗性、耐食性、耐擦傷性を備えていた。
このように、浸炭層2より硬質な被膜3を被覆することにより、表面硬化処理を施した駒1が、さらに傷つきにくくなった。
【0045】
なお、乾式メッキ法としては、上記したイオンプレティーング法に限らず、スパッタリング法や真空蒸着法などの公知の手段を用いることができる。
【0046】
また、乾式メッキ法で被覆される金色の硬質被膜として、周期律表の4a、5a、6a族元素(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)の窒化物、炭化物、酸化物、窒炭化物、窒炭酸化物を採用することができる。
周期律表の4a、5a、6a族元素をMで表わし、Mの窒化物をMNxで表わしたとき、窒化度を示すxの値が1より小さくなるにしたがって、前記Mの窒化物MNxの被膜の色調は金色から淡黄色に近づく。また、窒化度を示すxの値が1より大きくなるにしたがって、被膜の金色は、赤味を帯びてくる。また、窒化度を示すxの値が、0.9〜1.1の範囲であれば、金、あるいは金合金の色調に近い金色を窒化物MNxの被膜上形成することができる。特に、窒化度を示すxの値が、x=1の時、Mの窒化物MNxの被膜は、充分な硬度を備える硬質被膜であると同時に、金、あるいは金合金の色調に最も近い金色を呈する。
【0047】
周期律表の4a、5a、6a族元素Mの炭化物、酸化物、窒炭化物、窒炭酸化物についても、それらの炭化度、酸化度、窒化度を所定の範囲に制御することにより、それらの被膜に金、あるいは金合金の色調に最も近い金色を付与できる。
特に、TiN被膜とZrN被膜は、充分な硬度を備える硬質被膜であると同時に、金、あるいは金合金の色調に最も近い金色を呈するので好ましい。
また、Mの窒化物MNxの膜厚が薄いと、被膜に有効な耐摩耗性、耐食性、耐擦傷性を得ることができない。逆に、被膜の膜厚が厚いと、被覆にかかる時間が長くなって、被膜のコストが高くなる。よって、Mの窒化物MNxの被膜の膜厚は、好ましくは0.1〜10μmの範囲、さらに好ましくは0.2〜5μmの範囲に制御される。
【0048】
(実施例2)
実施例1と同じ方法によって浸炭層が形成された駒の上に、実施例1とは異なる色調の硬質被膜を被覆する。この説明には図2が参照される。
図に示すように、バンドの駒1の表面に形成された浸炭層2の上に、乾式メッキ法によって、白色色調の硬質被膜として炭化チタンから成るTiC被膜4が被覆される。
乾式メッキ法の1つであるイオンプレティーング法を用いて、エチレンガス雰囲気中でチタンを蒸発させ、バンドの駒1の表面にTiC被膜4を被覆した。その他の被覆条件は、実施例1に準じた。
【0049】
このようにして得られたバンドは、TiC被膜4の被覆により、均一な白色色調を呈した。これにより、バンドの装飾的な価値をさらに高めることができた。また、TiC被膜4を被覆した駒1の表面硬度(HV)は、50g荷重で800に達した。TiC被膜4TiN被膜3を被覆した駒1は、優れた耐摩耗性、耐食性、耐擦傷性を備えていた。
このように、浸炭層2より硬質な被膜4を被覆することにより、表面硬化処理を施した駒1が、さらに傷つきにくくなった。
【0050】
(実施例3)
実施例1と同じ方法によって浸炭層が形成された駒の上に、黒色色調の硬質被膜として炭素硬質被膜を被覆する。炭素硬質被膜は、ダイヤモンドに似た優れた特性を備えることから、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)として、広く知られている。この説明には図3が参照される。
図に示すように、バンドの駒1の表面に形成された浸炭層2の上に、乾式メッキ法によって黒色の炭素硬質被膜5が被覆される。
【0051】
炭素硬質被膜5の形成方法は、例えば以下の通りである。
まず、浸炭層2が形成されたバンドをイソプロピルアルコール等の有機溶剤で洗浄し、真空装置内に配置した。そして、高周波プラズマCVD法を用いて、以下の条件にしたがって、浸炭層2の上に炭素硬質被膜5を2μm形成した。
〔形成条件〕
ガス種 :メタンガス
成膜圧力 :0.1Torr
高周波電力 :300ワット
成膜速度 :毎分0.1μm
このようにして、炭素硬質被膜5が浸炭層2の上に密着良く被覆された。
【0052】
このようにして得られたバンドは、炭素硬質被膜5の被覆により均一な黒色色調を呈した。これにより、バンドの装飾的な価値をさらに高めることができた。また、この炭素硬質被膜5を被覆した駒1の表面硬度(HV)は、3000から5000に達した。このように、浸炭層2より硬質な被膜5を被覆することにより、表面硬化処理を施した駒1が、さらに傷つきにくくなった。
【0053】
炭素硬質被膜5の膜厚は、好ましくは0.1〜5μmの範囲、さらに好ましくは0.5〜3μmの範囲に制御される。
また、炭素硬質被膜4を被覆するには、RFP−CVD法の他に、DCプラズマCVD法やECR法などの様々気相成膜法を用いることができる。また、イオンビーム法、スパッタリング法、あるいはイオンプレティーング法などの物理蒸着法を採用してもよい。
【0054】
また、図4に示すように、浸炭層2と炭素硬質被膜5との間に中間層被膜6を形成すると、炭素硬質被膜5が駒1の表面にさらに強く密着するので好ましい。
中間層6の形成方法は、例えば以下の通りである。
乾式メッキ法、たとえばスパッタリング法により、チタン被膜であるTi被膜6aを浸炭層2の上に0.1μm被覆した。さらに、スパッタリング法により、シリコン被膜であるSi被膜6bをTi被膜6aの上に0.3μm被覆した。
その後、たとえば、高周波プラズマCVD法を用いて、前述の条件にしたがって、炭素硬質被膜5をSi被膜6bの上に2μm被覆すれば良い。
【0055】
上記のTi被膜6aは、クロム(Cr)被膜に代えることができる。また、上記のSi被膜6bは、ゲルマニウム(Ge)被膜に代えることができる。
中間層としては、このような積層被膜の他にも、IVa族、あるいはVa族金属の炭化物の単層を被覆しても良い。特に、過剰な炭素を含有する炭化チタンの被膜は、炭素硬質被膜との密着強度が高いので好ましい。
【0056】
(実施例4)
実施例1と同じ方法によって浸炭層が形成された駒の表面の一部分に、金色色調の硬質被膜が被覆される。この説明には図5から7が参照される。
図7に示す通り、バンドの駒1の表面の一部分に、乾式メッキ法の1つであるイオンプレティーング法によって、金色色調の硬質被膜として窒化チタンから成るTiN被膜7が被覆される。
【0057】
以下、金色のTiN被膜7の部分的形成方法について説明する。
まず、図5に示すように、浸炭層2が形成された駒1それぞれの表面の所望の部分に、エポキシ系樹脂から成る有機マスク剤、あるいはマスキングインクを印刷して、マスキング層8を形成した。次に、マスキング層8を形成したバンドの駒1をイソプロピルアルコール等の有機溶剤で洗浄し、イオンプレティーング装置内に配置した。
なお、イオンプレティーング装置は、一般に使用されているものでかまわないので、その説明は図面を含めて省略する。
【0058】
次いで、装置内を1.0×10-5Torrまで排気した後、不活性ガスであるアルゴンガスを3.0×10-3Torrまで導入した。次に、装置内部に備えられた熱電子フィラメントとプラズマ電極を駆動させて、アルゴンのプラズマを形成した。同時にバンドの駒1それぞれに−50Vの電位を印加して、10分間ボンバードクリーニングを行った。
【0059】
次に、アルゴンガスの導入を止めた後、装置内に窒素ガスを2.0×10-3Torrまで導入した。そして、装置内部の備えられたプラズマ銃でプラズマを発生させた後、チタンを10分間蒸発させてた。よって、図6に示すように、バンドの駒1それぞれの硬化層2の表面にTiN被膜7、およびマスキング層8の表面にTiN被膜7aを共に0.5μmの膜厚で形成した。
【0060】
次に、エチルメチルケトン(EMK)、あるいはエチルメチルケトン(EMK)に蟻酸および過酸化水素を添加した剥離溶液によりマスキング層8を膨潤させ、リフトオフ法により、マスキング層8およびその上に積層されたTiN被膜7aを剥離した。
よって、図7に示すように、TiN被膜7が被覆された金色色調を呈する部分と、TiN被膜が被覆されていないステンレス鋼の銀白色を呈する部分とを有するバンドの駒を得た。これにより、バンドの装飾的価値をさらに高めることができた。
【0061】
なお、マスキング手段としては、本実施例で説明したような化学的マスキング層を設ける他に、機械的なマスキング手段を用いても良い。すなわち、窒化チタン被膜を被覆する前に、予め駒の任意の部分に金属製のキャップを被せておき、窒化チタン被膜を被覆後、かかるキャップを取除けば良い。すると、キャップが被せられていた駒の部分には窒化チタン被膜が被覆されず、キャップが被せられなかった部分には窒化チタン被膜が被覆される。
【0062】
また、本実施例では、駒1の表面に部分的に被覆される硬質被膜として窒化チタン被膜を用いた例で説明した。しかしながら、実施例1で説明したように、乾式メッキ法で被覆される金色の硬質被膜として、周期律表の4a、5a、6a族元素の窒化物、炭化物、酸化物、窒炭化物、窒炭酸化物を採用できる。
特に、実施例2で用いた炭化チタン被膜を、駒1の表面に部分的に被覆することができる。すると、炭化チタン被膜が被覆された白色色調を呈する部分と、炭化チタン被膜が被覆されていないステンレス鋼の銀白色を呈する部分とを有する駒を得る。
あるいは、実施例3で用いた炭素硬質被膜を、部分的に被覆される硬質被膜として採用しても良い。すると、炭素硬質被膜が被覆された黒色色調を呈する部分と、炭素硬質被膜が被覆されていないステンレス鋼の銀白色を呈する部分とを有する駒を得る。
【0063】
(実施例5)
実施例1と同じ方法によって浸炭層が形成された駒の表面に、金色色調の硬質被膜が被覆される。さらに、金色の硬質被膜の上に金合金被膜被膜が被覆される。この説明には図8が参照される。
図に示す通り、浸炭層2が形成された駒1の表面に、乾式メッキ法の1つであるイオンプレティーング法によって、金色の硬質被膜である窒化チタンから成るTiN被膜9が被覆される。TiN被膜9の上に、金合金被膜としての金−チタン合金被膜10が被覆される。
【0064】
以下、本実施例におけるTiN被膜9と金−チタン合金被膜10の形成方法を説明する。
まず、浸炭層2が形成されたバンドをイソプロピルアルコール等の有機溶剤で洗浄し、イオンプレティーング装置内に配置した。イオンプレティーング装置は、一般に使用されているものでかまわないので、その説明は図面を含めて省略する。
次いで、装置内を1.0×10-5Torrまで排気した後、不活性ガスであるアルゴンガスを3.0×10-3Torrまで導入した。次に、装置内部に備えられた熱電子フィラメントとプラズマ電極を駆動させて、アルゴンのプラズマを形成した。同時にバンドの駒1それぞれに−50Vの電位を印加して、10分間ボンバードクリーニングを行った。
【0065】
そして、装置内部の備えられたプラズマ銃でプラズマを発生させた後、チタンを10分間蒸発させて、駒1の表面全体にTiN被膜9を0.5μmの膜厚で形成した。
次いで、チタンの蒸発と窒素ガスの導入を止め、装置内を1.0×10-5Torrまで排気した。次いで、装置内にアルゴンガスを1.0×10-3Torrまで導入してプラズマを発生させた後、金50原子%とチタン50原子%とからなる金−チタン混合物を蒸発させ、金−チタン合金被膜10を形成した。そして、金−チタン合金被膜10の厚みが0.3μmになったところで金−チタン混合物の蒸発を止めた。
【0066】
このようにして得られバンドの駒は、均一な金色色調を呈した。これにより、バンドの装飾的な価値を高めることができた。また、最外層被膜に金−チタン合金被膜10を被覆したことにより、TiN被膜9よりさらに暖かみのある金色色調を呈するバンドを得た。これにより、バンドの美観をさらに高めることができた。
【0067】
一般的に金合金被膜自体は、10μmを越える厚い膜厚でなければ、有効な耐摩耗性、耐食性、あるいは耐擦傷性を得ることができない。金は、非常に高価な金属である。よって、かかる金合金被膜を厚く被覆することは、被膜のコストを大幅に高くしてしまう。しかしながら、本実施例においては、金合金被膜からなる最外層被膜の下に、硬質なTiN被膜を設けた。TiN被膜が、優れた耐摩耗性、耐食性、耐擦傷性を備えるため、金合金被膜からなる最外層被膜は薄くても良い。これにより、高価な金の使用量が減るため、被膜のコストが安価にすることができるという利点がある。
【0068】
また、薄く被覆された金合金被膜からなる最外層被膜が部分的に摩耗して、その下のTiN被膜が露見する可能性があるが、いかなる局部的な最外層被膜の摩耗も決して目立つことはない。なぜならば、TiN被膜は、金と同じような光学的特性を備え、金色色調を有するからである。金色色調の金合金被膜からなる最外層被膜が摩耗した部分の下から、同じ金色色調のTiN被膜が現れる。
従って、金合金被膜からなる最外層被膜を薄くしても、その摩耗が視認されなく、装身具としてのバンドの美観、及び装飾的価値を維持することができる。
【0069】
また、本実例では、硬質被膜として窒化チタン被膜を用いたが、この他に乾式メッキ法で被覆される金色の硬質被膜として、周期律表の4a、5a、6a族元素の窒化物、炭化物、酸化物、窒炭化物、窒炭酸化物を採用することができる。
また、金合金被膜として、上記した金−チタン合金層以外にも、Al、Si、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Hf、Ta、W、Ir、Ptから選ばれた少なくとも1つと金との合金を形成させることができる。
【0070】
しかしながら、上記の組み合わせから選ばれるいくつかの金合金被膜を被覆した装身具が皮膚に接触すると、汗などの電解溶液により金属イオンが溶出する。すると、装身具が接触する皮膚に金属アレルギーを引き起こす可能性がある。
特に、溶出されるニッケルイオンは、金属アレルギーの症例が最も多い金属イオンとして知られている。逆に、鉄は、金属アレルギーの症例が極めて少ない金属である。チタンに関する金属アレルギーの症例は、未だ報告されていない。
よって、金属アレルギーを考慮するならば、最外層被膜に用いる金合金被膜としては、金−鉄合金、あるいは金−チタン合金が好ましい。
【0071】
(実施例6)
さらに、実施例4に記載した、浸炭層が形成された駒の表面に部分的に被覆された金色色調の硬質被膜の上のみに、実施例5に記載した金合金被膜を被覆しても良い。この例を図9と10に示す。
【0072】
以下、金色色調の硬質被膜として窒化チタンから成るTiN被膜11、および金合金被膜として金−チタン合金被膜12を部分的に形成する方法について簡単に説明する。
浸炭層2が形成された駒1それぞれの表面の所望の部分に、エポキシ系樹脂から成る有機マスク剤、あるいはマスキングインクを印刷して、マスキング層13を形成した。次に、マスキング層13を形成したバンドの駒1をイソプロピルアルコール等の有機溶剤で洗浄し、イオンプレティーング装置内に配置した。
【0073】
次に、乾式メッキ法の1つであるイオンプレティーング法を用いて、バンドの駒1の浸炭層2の表面、およびマスキング層13の表面にTiN被膜11、11aを0.5μmの膜厚で形成した。次いで、TiN被膜11、11aの上に金−チタン合金被膜12、12aを0.3μmの膜厚で形成した。
【0074】
次に、エチルメチルケトン(EMK)、あるいはエチルメチルケトン(EMK)に蟻酸および過酸化水素を添加した剥離溶液によって、マスキング層13を膨潤させ、リフトオフ法により、マスキング層13およびその上に積層されたTiN被膜11a、および金−チタン合金被膜12aを剥離した。
よって、 TiN被膜11と金−チタン合金被膜12が被覆された金色色調を呈する部分と、それらがの被膜が被覆されていないステンレス鋼の銀白色を呈する部分とを有するバンドを得た。
【0075】
本実施例においても、実施例5に記載したように、窒化チタン被膜以外の様々な硬質被膜を採用できる。また、金−チタン合金層以外にも、様々な金合金層を採用できる。
【0076】
(実施例7)
実施例1と同じ方法によって浸炭層が形成された駒の表面に、第1の硬質被膜が被覆される。さらに、第1の硬質被膜の表面に一部分に、第1の硬質被膜とは異なる色調の第2の硬質被膜が被覆される。この説明には図11から13が参照される。
【0077】
図11に示すように、実施例1と同じ方法によって、浸炭層2が形成された駒1の表面に、第1の硬質被膜である金色色調の窒化チタンから成るTiN被膜3を被覆した。TiN被膜3の表面の所望の部分に、エポキシ系樹脂から成る有機マスク剤、あるいはマスキングインクを印刷するなどして、マスキング層13を形成した。
【0078】
次いで、図12に示すように、実施例2と同じ方法によって、TiN被膜3の表面に、第2の硬質被膜である白色色調の炭化チタンから成るTiC被膜14を、マスキング層13の表面にTiC被膜14aを被覆した。
【0079】
次いで、剥離溶液によりマスキング層13を膨潤させ、リフトオフ法により、マスキング層13およびその上に積層されたTiC被膜14aを剥離した。
よって、図13に示すように、金色のTiN被膜3の表面の一部分に、白色のTiC被膜14が積層された。このようにして、TiN被膜3に被覆された金色色調を呈する部分と、TiC被膜14が被覆された白色を呈する部分とを有するバンドの駒を得た。
これにより、バンドの装飾的価値をさらに高めることができた。また、浸炭層2より硬質な被膜13と14を被覆することにより、表面硬化処理を施した駒1が、さらに傷つきにくくなった。
【0080】
本実施例における硬質被膜として、実施例5に記載したように、窒化チタンや炭化チタン被膜以外の様々な硬質被膜を採用できる。あるいは、第1の硬質被膜と第2の硬質被膜のいずれかを、実施例3に記載した炭素硬質被膜とすることができる。また、それらの被膜の種類に合わせて、マスキング層13と剥離溶液の種類は適宜選択できる。
【0081】
また、周期律表の4a、5a、6a族元素をMで表わし、Mの窒化物をMNxで表わしたとき、第1の硬質被膜と第2の硬質被膜を共にMNx被膜とすることもできる。この場合、第1の硬質被膜における窒化度を示すxの値と、第2の硬質被膜におけるxの値が異なるように被覆すれば、第1の硬質被膜と第2の硬質被膜の色調が異なるように被覆できる。炭化物、酸化物、窒炭化物、窒炭酸化物についても同様である。
【0082】
(実施例8)
実施例1と同じ方法によって浸炭層が形成された駒の表面の一部分に、第1の硬質被膜が被覆される。さらに、駒の表面の他の一部分に、第1の硬質被膜とは異なる色調の第2の硬質被膜が被覆される。この説明には図14から16が参照される。
【0083】
図14に示すように、実施例4と同じ方法によって、浸炭層2が形成された駒1の表面の一部分に、第1の硬質被膜である金色色調の窒化チタンから成るTiN被膜7を被覆した。TiN被膜7の表面、およびそれと連続する駒1の表面の所望の一部分に、マスキング層15を形成した。
【0084】
次いで、図15に示すように、実施例2と同じ方法によって、TiN被膜7、マスキング層15、および残された駒1の表面に、第2の硬質被膜である白色色調の炭化チタンから成るTiC被膜16をを被覆した。
【0085】
次いで、剥離溶液によりマスキング層15を膨潤させ、リフトオフ法により、マスキング層15およびその上に積層されたTiC被膜16を剥離した。
よって、図16に示すように、TiN被膜7に被覆された金色色調を呈する部分と、TiC被膜16が被覆された白色を呈する部分と、駒1の表面が露出した部分とを有する3色のバンドの駒を得た。これにより、バンドの装飾的価値をさらに高めることができた。
【0086】
第1の硬質被膜と第2の硬質被膜の選択肢、あるいは剥離溶液やマスキング層の選択肢は、実施例7の記載に準ずる。また、第1の硬質被膜と第2の硬質被膜のいずれか、あるいは双方の上に、実施例5に記載した金合金被膜被膜を被覆すしても良い。
【0087】
なお、上記の実施例2、および4から8では乾式メッキ法としてイオンプレティーング法を用いたが、スパッタリング法や真空蒸着法などの公知の被覆手段を用いることができる。
【0088】
また、上記のすべての実施例において、腕時計のバンドの駒を例に挙げた。しかしながら、本発明は、腕時計のケースのように、機械的、あるいは電子的な駆動機構を収納するものにも適用できる。また、本発明は他のあらゆる装飾部材にも適用できる。
【0089】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、表面から任意の深さで硬化層が形成された装飾部材の表面に、より高い表面硬度を与えることができる。
また、本発明によれば、表面から任意の深さで硬化層が形成された装飾部材の表面に、表面硬度を低下させずに、金色をはじめ、様々な色調を与えて、装飾的価値を高めることができる。
また、それらの装飾部材を得るための生産性の高い表面処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例2におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例3におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例3におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例4におけるバンドの駒の表面処理工程を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例4におけるバンドの駒の表面処理工程を示す模式図である。
【図7】本発明の実施例4におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例5におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【図9】本発明の実施例6におけるバンドの駒の表面処理工程を示す模式図である。
【図10】本発明の実施例6におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【図11】本発明の実施例7におけるバンドの駒の表面処理工程を示す模式図である。
【図12】本発明の実施例7におけるバンドの駒の表面処理工程を示す模式図である。
【図13】本発明の実施例7におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【図14】本発明の実施例8におけるバンドの駒の表面処理工程を示す模式図である。
【図15】本発明の実施例8におけるバンドの駒の表面処理工程を示す模式図である。
【図16】本発明の実施例8におけるバンドの駒の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
1 駒
2 浸炭層
3 TiN被膜
3 ヒ−タ−
4 TiC被膜
5 炭素硬質被膜
6 中間層
7 TiN被膜
8 マスキング層
9 TiN被膜
10 金−チタン合金被膜
11 TiN被膜
12 金−チタン合金被膜
13 マスキング層
14 TiC被膜
15 マスキング層
16 TiC被膜
Claims (2)
- オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、
前記母材にフッ素系ガス雰囲気下にて100〜500℃でフッ化処理を施し、次いで、
前記フッ化処理が施された母材に一酸化炭素を含む浸炭性ガス雰囲気下にて400〜500℃でガス浸炭処理を施して浸炭層を形成し、次いで
前記母材の表面に形成された鉄の酸化物を含む黒皮および前記浸炭層の表面から1〜2μmの深さの領域を研磨して鏡面とした後に、
前記母材に前記浸炭層よりも硬質な炭素硬質被膜を被覆したことを特徴とする装飾部材の製造方法。 - 請求項1に記載の製造方法により得られた装飾部材。
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