JP4415481B2 - 光電変換素子及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は光電変換素子に関する。更に詳細には、本発明は高い光電変換効率及び優れた長期信頼性を有する新規な構造の光電変換素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽電池はクリーンなエネルギー源として大きく期待されており、すでにpn接合型太陽電池などが実用化されている。一方、光励起状態の化学反応を利用して電気エネルギーを取り出す光化学電池は多くの研究者によって開発されているが、実用化に関して言えば、すでに実績の高いpn接合型太陽電池には遙かに及ばなかった。
【0003】
従来の光化学電池の中で、増感剤と電子受容体からなる酸化還元反応を利用したタイプが知られている。例えば、チオニン色素と鉄(II)イオンを組み合わせた系などがある。また、本多−藤嶋効果の発見以来、金属やその酸化物の光電荷分離を利用した光化学電池も知られている。
半導体が金属と接触した場合、金属と半導体の仕事関数の関係によりショットキー接合ができるが、半導体と溶液が接している時も同様な接合ができる。例えば、溶液中にFe2+/Fe3+、Fe(CN)6 4-/Fe(CN)6 3-、I-/I2、Br-/Br2、ハイドロキノン/キノンなどの酸化還元系が含まれている時、nd型半導体を溶液に浸けると半導体の表面付近の電子が溶液中の酸化剤へ移動し平衡状態に達する。その結果、半導体の表面付近は正に帯電し電位勾配が生じる。これにともない半導体の伝導帯および価電子帯にも勾配が生じる。
【0004】
酸化還元溶液に浸けた半導体電極の表面に光を照射すると、半導体のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光が吸収され、表面付近で伝導帯に電子を、価電子帯に正孔を生成する。伝導帯に励起された電子は上述した半導体の表面付近に存在する電位勾配により半導体内部へ伝達され、一方、価電子帯に生成された正孔は酸化還元溶液中の還元体から電子を奪う。
【0005】
酸化還元溶液に金属電極を浸して金属電極と半導体間で回路を作ると、正孔に電子を奪われた還元体は溶液中を拡散して金属電極から電子を受け取り、再び還元される。このサイクルを繰り返し、半導体電極は負極として、金属電極は正極としてそれぞれ働き、外部へ電力を供給することができる。したがって、光起電力は酸化還元溶液の酸化還元準位と半導体中のフェルミ準位との差になる。
【0006】
光起電力を大きくするためには、▲1▼酸化還元準位の低い、すなわち酸化力の強い酸化還元溶液を用いること、▲2▼酸化還元準位と半導体中のフェルミ準位との間に大きな差を作り出せる、すなわちバンドギャップの大きい半導体を用いることである。
【0007】
しかしながら、酸化還元溶液の酸化力があまり大きすぎると半導体自身の表面に酸化膜を形成し、光電流は短時間のうちにストップする。また、バンドギャップについては、一般にバンドギャップが3.0eV以下さらには2.0eV以下の半導体は光電変換の際に流れる電流により溶液中に溶解しやすい問題がある。例えば、n-Siは水中の光照射で表面に不活性な酸化物被膜を形成し、n-GaAsやn-CdSは酸化的に溶解する。
【0008】
これらの問題を解決すために、半導体に保護膜を被覆する工夫が試みられており、正孔輸送特性を有するポリピロールやポリアニリン、ポリチオフェンなどのp型導電性高分子を半導体の保護膜に使用する工夫が提案されている。しかしながら耐久性に問題があり、せいぜい数日程度しか安定しなかった。
【0009】
光溶解の問題を解決するために、バンドギャップが3eV以上ある半導体の利用が考えられるが、強度のピークが2.5eV付近にある太陽光を効率よく吸収するには大きすぎる。そのため、太陽光のうち紫外部しか吸収できず、大部分を占める可視域を全く吸収せず、光電変換効率は極めて低くなる。
【0010】
可視光域の有効利用とバンドギャップの大きな半導体の光安定性を両立させるために、半導体のバンドギャップより小さい長波長側の可視光を吸収する増感色素を半導体に担持させた色素増感太陽電池が知られている。従来の半導体を用いた湿式太陽電池と異なるところは、色素に光を照射して電子が励起され、励起電子が色素から半導体へ移動する光電荷分離過程である。
【0011】
色素増感太陽電池は光合成と関連づけてとらえられることが多い。当初、色素としては光合成と同様にクロロフィルが考えられていたが、絶えず新しい葉緑素と交換される自然のクロロフィルと違い、太陽電池に用いる色素では安定性の面で問題があり、また、太陽電池としての光電変換効率も0.5%に満たないものであった。自然界の光合成の過程をそのまま模擬し、太陽電池を構成することは非常に困難である。
【0012】
このように、色素増感太陽電池は、光合成からヒントを得て長波長の可視光を吸収しようというものであるが、実際には電子の伝導機構が複雑になったため、却って損失の増大が問題となった。固体の太陽電池では、光を吸収する層を厚くすれば吸収効率は上げることができる。しかしながら、色素増感太陽電池に関しては、半導体電極に電子を注入できるのは表面上の単分子層のみである。そのため無駄な光の吸収をなくすために、半導体表面上の色素は単分子層とすることが望ましい。
【0013】
しかも励起された色素内の電子が効率的に半導体内に注入されるためには、半導体表面と化学的に結合していることが好ましい。例えば、酸化チタンに関しては、半導体表面と化学的に結合するために、色素にカルボキシル基があることなどが重要である。
【0014】
この点に関して、重要な改善をしたのはFujihiraらのグループである。彼らはローダミンBのカルボキシル基がSnO2表面の水酸基とエステル結合することにより、光電流が従来の吸着法の10倍以上になったことを1977年に雑誌Natureに報告している。これは従来のアミド結合よりエステル結合の方が色素内で光のエネルギーを吸収した電子の存在するπ軌道が半導体の表面に近いためとしている。
【0015】
しかしながら、半導体に電子を有効に注入できたとしても伝導帯内にある電子は、色素の基底準位と再結合する可能性や、酸化還元物質と再結合する可能性などがある。このような問題点があったため、電子注入について上記の改善にも関わらず光電変換効率は低いままであった。
【0016】
以上のように、従来の色素増感太陽電池の大きな問題点として、半導体表面に単層で担持された増感色素しか半導体へ電子を注入することができないことである。すなわち、これまで半導体電極によく用いられていた単結晶や多結晶半導体は、表面が平滑で内部に細孔を持たず、増感色素が担持される有効面積は電極面積に等しく、増感色素の担持量が少ない。
【0017】
従って、このような電極を用いた場合、その電極に担持された単分子層の増感色素は最大吸収波長でも入射光の1%以下しか吸収できず、光の利用効率が極めて悪くなる。光捕集力を高めるために増感色素を多層にする試みも提案されているが、概して充分な効果が得られていない。
【0018】
グレッツェル等は、このような問題を解決する手段として、酸化チタン電極を多孔質化し、増感色素を担持させ,内部面積を著しく増大させた(例えば、特許2664196号)。ゾル・ゲル法によりこの酸化チタン多孔質膜を作製し、膜のポロシティーは約50%ほどであり、非常に高い内部表面積を有するナノ多孔性構造が形成されている。たとえば、8μmの膜厚ではラフネスファクター(基板面積に対する多孔質内部の実面積の割合)は約720にも達する。この表面を幾何学的に計算すると、増感色素の濃度は1.2×10-7mol/cm2に達し、実に、最大吸収波長で入射光の約98%が吸収されることになる。
【0019】
このグレッツェル・セルとも呼ばれる新しい色素増感太陽電池は、上述の酸化チタンの多孔質化による増感色素の飛躍的な担持量の増大と、太陽光を効率よく吸収しかつ半導体への電子注入速度が著しく速い増感色素の開発した点が大きな特徴である。
【0020】
グレッツェルらは、色素増感太陽電池のためにビス(ビピリジル)Ru(II)錯体を開発した。そのRu錯体は一般式シス−X2ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)Ru(II)の構造を持つ。XはCl−,CN−,SCN−である。これらについて蛍光、可視光吸収、電気化学的および光酸化還元的挙動について系統的な研究が行われた。これらのうち、シス−(ジイソシアネート)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)Ru(II)は、太陽光吸収剤および色素増感剤として格段に優れた性能を持つことが示された。
【0021】
この色素増感剤の可視光吸収は、金属から配位子への電荷移動遷移である。また、配位子のカルボキシル基は表面のTiイオンに直接配位して、色素増感剤と酸化チタンの間に密接な電子的接触を形成している。この電子的な接触により、色素増感剤から酸化チタンの伝導帯への電子注入が1ピコ秒以下の極めて速い速度で起こり、その逆方向の酸化された色素増感剤による酸化チタンの伝導帯へ注入された電子の再捕獲はマイクロ秒のオーダーで起こるとされている。この速度差が光励起電子の方向性を生み出し、電荷分離が極めて高い効率で行われる理由である。そして、これがpn接合面の電位勾配により電荷分離を行うpn接合太陽電池との違いであり、グレツェル・セルの本質的な特徴である。
【0022】
グレッツェル・セルの構成はフッ素ドープした酸化スズの透明導電膜をコーティングした導電ガラス基板2枚の間に、酸化還元対を含む電解質溶液を封入したサンドイッチ型のセルである。ガラス基板の一方は、透明導電膜上にコロイド状の酸化チタン超微粒子から構成される多孔質膜を積層し、さらに増感色素を吸着させて作用電極としたものである。他方は、透明導電膜上に少量の白金をコーティングして対極としたものである。2枚のガラス基板の間にスペーサを挟み、その間のごくわずかの隙間に毛細管現象を利用して電解質溶液を注入する。電解質溶液は、エチレンカーボネートとアセトニトリルの混合溶媒を使用し、ヨウ化テトラ-n-プロピルアンモニウムとヨウ素を溶質としたもので、I-/I3-の酸化還元対を含む。対極にコーティングされた白金はこの酸化還元対のI3-をI-に陰極還元する触媒作用がある。
【0023】
グレッツェル・セルの動作原理は、基本的に従来の半導体を用いた湿式太陽電池と変わらない。ただし、グレッツェル・セルのような多孔質電極のどの部分においても光電荷分離応答が均一かつ効率的に行われるのは、主に電解質層が液体であるためである。すなわち、色素担持多孔質電極を溶液に浸すだけで溶液が均一に多孔質内に拡散し、理想的な電気化学的界面を形成できるからである。
【0024】
グレッツェル・セルの特徴は酸化チタンの超微粒子を使ってラフネスファクターを格段に向上させ、増感色素担持量を大きくしたことである。その結果、従来の色素増感太陽電池より高い光電変換効率を実現している。したがって、より高い光電変換効率を目指すには、ラフネスファクターをより大きくすることや、酸化チタンの多孔質膜の膜厚を厚くすることなどが考えられる。
【0025】
しかしながら、ラフネスファクターを大きくすることは、超微粒子間が点接触で結合することになり、接触抵抗が急激に増加する問題がある。また、膜厚を厚くすると、酸化チタン中の電子の移動距離が長くなり、金属より導電率の低い酸化チタン中では抵抗による損失あるいは再結合による損失が大きくなる問題が生じる。すなわち、酸化チタンの超微粒子を使った多孔質膜の作製では、電気伝導性の劣る酸化チタンを使用しているため、多孔質膜の電気伝導を改善することは困難であった。更に、別の問題点として、光が酸化チタン半導体中を通過する過程において、酸化チタン中の光の通過距離が長くなり透過損失が増大することが認められた。
【0026】
前者の問題点の解決策として、例えば、特開平10−112337号公報には、金属表面を陽極酸化させ、表面を多孔質化した金属酸化物で被覆することで、導電基板と酸化膜の一体構造をとり、その界面での電気抵抗を低減させる方法が記載されている。ただし、この方法を使用する場合は、必ず金属チタンを基材として使用しなければならないという制限がある。
【0027】
また、例えば、特開平8−81222号公報には、酸化チタンの超微粒子からなる多孔質膜表面を鉱酸でエッチングして、格子欠陥や不純物の減少、および色素担持量を増加させる方法が記載されている。この方法は酸化チタン超微粒子の表面を改質して増感色素から酸化チタンへの効果的な電子注入を期待するものであり、多孔質膜の電気伝導性は変わりない。
【0028】
酸化チタンの多孔質膜を低抵抗化するには、その膜厚を薄くすればよいが、増感色素の担持量の減少に伴い、増感色素から酸化チタンへ注入される光励起電子が減り、充分な光電流を得ることができない。すなわち、多孔質膜の低抵抗化を考慮すると、増感色素の担持量を増大させることが困難になってしまう。このようなトレード・オフの関係が生じるのは、酸化チタンが▲1▼光電荷分離応答の機能と、▲2▼充分な増感色素の担持量が得られるラフネスファクター具備機能、の2つの機能を同時に果たさなければならないからである。このトレード・オフの関係により、従来の酸化チタン・増感色素系光電変換素子の光電変換率は必ずしも十分ではなかった。
【0029】
また、グレッツェルセルでは、半導体層と透明電極との界面に生じる内部抵抗が、太陽電池の変換効率の低下要因となる問題があった。この問題を解決するために、例えば、特開平10−290018号公報には、半導体層に導電材を混合させることにより半導体層の導電性を保持する方法が記載されている。しかし、この方法では、入射光により励起した電子は、半導体粒子と導電材との混合膜を移動する際、伝導度が高い導電材にトラップされ、電子移動の妨げになることが考えられ、変換効率の向上が期待できない。
【0030】
また、特開平10−112337号公報には、金属表面を陽極酸化させ、表面を多孔質化した金属酸化物で被覆することで、導電基板と酸化膜の一体構造をとり、その界面での電気抵抗を低減させる方法が記載されている。ただし、この方法を使用する場合は、必ず金属チタンを基材として使用しなければならないという制限があり、コスト上昇が懸念される。
【0031】
また、グレッツェルセルでは,電解質層に液層を使用した場合、電解質溶液の液漏れが他の電池構成要素の劣化に先行して起こり、太陽電池の性能を低下させてしまうことが問題であった。
【0032】
前者の問題点の解決策として、例えば、電解質層を構成する材料として、導電性高分子(例えば,K. Murakoshi et. al., Chem. Lett., 1997, pp.471-472参照)や、非晶質のホール輸送剤(U.Bach et. al,Nature,395,583(1998)参照)や、固体状のイオン伝導体(特開平7−288142号公報及び特開平8−236165号公報参照)などを使用し、上記の問題点を解決する試みがいくつか知られている。しかしながら、電解質層を固体化した前記方法では、電解質層と電極との接触面積が小さくなり内部抵抗が増加するために、あるいは、固体電解質層自体の電子移動度が低いために、液体からなる電解質層に比べて光電変換効率が減少するという新たな問題点が生じた。
【0033】
また、特開平9−27352号公報及び特開平11−126917号公報には、電解液を架橋構造を有する高分子化合物で保持した形の電解質層を使用することが記載されている。しかし、この発明では、電解液中の酸化還元対は架橋構造を有する高分子化合物内を移動することになるため、電解質層中の酸化還元対の移動度が低下し、半導体層表面の色素と対電極と間での酸化還元対を媒介とした電子授受反応が律速となり変換特性が低下する問題があった。
【0034】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、低抵抗損失及び低透過損失を有し、高い光電変換効率を達成できる光電変換素子を提供することである。
本発明の別の目的は、液漏れせず、かつ優れた光電変換効率を長期にわたり維持することができる光電変換素子を提供することである。
【0035】
【課題を解決するための手段】
前記第1の課題は、少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層を有する光電変換素子において、▲1▼前記半導体層を導電性物質と半導体材料とから構成すること、及び/又は、▲2▼前記電極と前記半導体層との間に導電性微粒子からなる層を配設することにより解決される。
前記第2の課題は、少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層を有する光電変換素子において、▲3▼前記電解質層を、多孔質支持体と該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成することにより解決される。
前記▲1▼、▲2▼及び▲3▼の特徴は適宜組み合わせて併用することができ、これにより従来技術では達成できなかった優れた特性を有する光電変換素子を得ることができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、半導体材料に起因した損失低減を図るべく鋭意検討を行った結果、色素増感太陽電池における半導体は、半導体と増感色素とが接触する場所において光電変換機能を発現するためにだけあればよい、という知見を得た。すなわち、色素増感太陽電池の変換効率向上のためには、半導体中で生じる損失の低減を図る手段として、光電変換に寄与しない半導体部分を抵抗損失および透過損失の少ない材料に置き換えることが有効であることを発見した。
【0037】
本発明の或る実施態様によれば、導電性物質の外表面に半導体の薄膜を被着させることにより、(a)半導体(例えば、酸化チタン)は光電荷分離の場を提供する必要最小限の膜厚にすることができ、(b)ラフネスファクターが高い多孔質膜を得るために、電気伝導性の高い導電性粒子を使用することで、多孔質膜の電気伝導性を向上させることができる。これにより、従来技術の色素増感酸化チタン半導体光電変換素子が有するトレード・オフの関係を完全に解決することができる。すなわち、導電性物質の表面を薄い半導体膜で被覆することで半導体膜内を移動する際に生じる抵抗損失を低減でき、かつ電荷分離で生じた電子が導電粒子内を移動することにより多孔質膜内を移動する際に生じる抵抗を低減することができる。
【0038】
更に、本発明者らは、半導体層と電極との接触面積の小ささ、それに伴う界面における抵抗上昇が光電変換素子全体の抵抗損失増大に寄与していることを発見した。半導体層は比表面積が大きい半導体微粒子により、非常に高い内部表面積を有するナノ多孔性構造が形成されている。一方、電極は半導体層に比べ表面積は小さく半導体層との接触面積は小さくなる。優れた光電変換素子を得るためには、半導体層と電極との接触面積を大きくし、その界面における抵抗を低減することが有効であることを発見した。
【0039】
本発明の或る実施態様によれば、電極と半導体層との間に導電性微粒子からなる層を配設することにより、半導体層と電極との接触面積を増大させ、それによりその界面における抵抗を低減することができる。
【0040】
また、本発明者らの研究によれば、孔径数nmから数μmの多孔質な半導体層内に存在する電解液には半導体層の構造に由来した毛管作用による電解液保持効果あるが、半導体層と対電極との間の数μmから数mmの間隙を埋める形で存在する電解液には半導体層内ほどの毛管作用による保持効果が働かないため、この部分の電解液が流出しやすいという知見を得た。すなわち、液漏れせず、かつ優れた光電変換効率を長期にわたり維持することが可能な光電変換素子を得るためには、半導体層内に存在する電解液ではなく、半導体層と対電極との間に存在する電解液の漏れを防ぐことが重要であることを発見した。
【0041】
また、半導体層と対電極との間に存在する電解液に対してのみ保持効果を発現するように多孔質支持体を設けたことにより、固体電解質層や架橋構造を有する高分子化合物で保持した形の電解質層に比べ、酸化還元対の移動度の低下を抑制することが可能となり、これにより高い光電変換効率を達成することができる。
【0042】
以下、図面を参照しながら本発明の光電変換素子を具体的に説明する。まず、半導体中で生じる損失の低減を図る手段として、光電変換に寄与しない半導体部分を抵抗損失および透過損失の少ない材料に置き換えることにより、色素増感太陽電池の変換効率向上を図ることからなる本発明の実施態様を図1〜3により説明する。
【0043】
図1は本発明の光電変換素子の一例の概要断面図である。図示されているように、本発明の光電変換素子1は、透明基板3の一方の表面に形成された透明電極5を有する。この透明電極5の一方の表面には半導体層7が形成されている。更に、この半導体層7に対峙して対電極9が存在する。対電極9は別の透明基板11の一方の表面に形成されている。半導体層7と透明対電極9との間には電解質層13が存在する。
【0044】
半導体層7は、導電性物質の薄膜15と、この薄膜15の表面に形成された半導体薄膜17からなる。また、半導体薄膜17の表面には増感色素19が担持されている。
【0045】
導電性物質の薄膜15の膜厚は一般的に、1〜50μmの範囲内であることが好ましい。導電性物質膜15の膜厚が1μm未満の場合、増感色素の担持量が少なく、充分な光電子を生成することができないなどの不都合が生じるので好ましくない。一方、導電性物質膜15の膜厚が50μm超の場合、半導体層7の光透過率の低下、ならびに抵抗損失の増大などの悪影響が生じるので好ましくない。導電性物質膜15の膜厚の好ましい範囲は、3〜40μmであり、一層好ましい範囲は5〜30μmであり、最も好ましい範囲は10〜20μmである。
【0046】
導電性物質を被覆する半導体膜17の膜厚は一般的に、2〜100nmの範囲内である。半導体膜17の膜厚が2nm未満の場合、半導体膜17が導電性物質15又は21を被覆しない部分が発生する恐れがあるので好ましくない。一方、半導体膜17の膜厚が100nm超の場合、半導体膜17の抵抗損失が増大するなどの悪影響が生じるので好ましくない。半導体膜17の膜厚の好ましい範囲は、10〜60nmであり、一層好ましい範囲は30〜50nmである。
【0047】
図1に示されるような平面状の導電性物質膜の代わりに、図2に示される、粒子状の導電性物質21の表面に半導体膜17を直接被覆することもできる。半導体膜17の外表面には図1と同様に、増感色素19が担持されていて、これら全体で半導体層7を形成する。
【0048】
本発明の光電変換素子は、光電変換素子1を構成する半導体層7が半導体17を被膜した導電性物質膜15からなるため、半導体層7のラフネスファクターは大きく、増感色素19を多く担持することができる。更に、導電性物質15として光透過性の材料を使用するため、増感色素は効率よく光を吸収することができる。
【0049】
導電性物質としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化珪素、三酸化インジウム、三酸化ストロンチウムなどから選ばれた一種または二種以上の結晶性金属酸化物、あるいはこれらの複合酸化物の微粒子が挙げられる。例えば,酸化スズを主成分とし、1〜20モル%の三酸化ストロンチウムや酸化アンチモンなどを含有した微粒子は有効な複合酸化物導電材の例である。また、硫酸バリウムやほう酸アルミニウムを芯材として、この芯材に酸化スズやドーパント処理した酸化スズ、ITO(Indium tin Oxide)などでコーティングした三井金属鉱業社製のパストランが挙げられる。さらに、金属微粒子も下記の光透過性を有するならば、本発明に用いる導電性物質として使用することができる。
【0050】
導電性粒子の体積抵抗率は10Ω-cm以下、好ましくは10Ω-cm以下、特に好ましくは10Ω-cm以下である。この時の下限には特に制限はないが、通常10−9Ω-cm程度である。
【0051】
導電性粒子の粒径は1nmから500nm以下、好ましくは100nm以下である。導電粒子の粒径が500nm以上では光電変換素子を構成する半導体層の膜厚を厚くしてラフネスファクターを大きくする必要があり、半導体層の光透過率が低下するという問題が生じる。500nm以下の場合、このような問題は生じず、さらに100nm以下では、半導体層が高い透過率とラフネスファクターを有することができる。
【0052】
導電性粒子の光透過性は、導電性粒子のみで作製された薄膜の透過率が60%以上であることが好ましい。光透過性が60%未満の場合、半導体層に担持された増感色素に照射される光量が減少して、充分な光電子が生成されなくなるなどの不都合が生じるので好ましくない。
【0053】
導電性粒子に被覆する半導体材料としては、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、Crの酸化物、SrTiO3、CaTiO3のようなペロブスカイト、または、CdS、ZnS、In23、PbS、Mo2S、WS2、Sb23、Bi23、ZnCdS2、Cu2Sの硫化物、CdSe、In2Se3、WSe2、HgSe、PbSe、CdTeの金属カルコゲナイド、その他GaAs、Si、Se、Cd23、Zn23、InP、AgBr、PbI2、HgI2、BiI3が好ましい。または、前記半導体から選ばれる少なくとも一種以上を含む複合体、例えば、CdS/TiO2、CdS/AgI、Ag2S/AgI、CdS/ZnO、CdS/HgS、CdS/PbS、ZnO/ZnS、ZnO/ZnSe、CdS/HgS、CdSx/CdSe1-x、CdSx/Te1-x、CdSex/Te1-x、ZnS/CdSe、ZnSe/CdSe、CdS/ZnS、TiO2/Cd32、CdS/CdSeCdyZn1-yS、CdS/HgS/CdSが好ましい。
【0054】
本発明の光電変換素子1における半導体層7を構成する導電性粒子15又は21に含まれる金属元素Xに対する、半導体膜17に含まれる金属元素Yの元素比Y/Xの値は、0.1以上8.0以下であることが好ましい。Y/Xの値が0.1以下の場合,導電性粒子表面の半導体膜の膜厚が平均して2nm以下となり、半導体膜により被覆されていない部分が発生する恐れがある。この場合、増感色素19を担持する場所となる半導体膜17の表面積が小さくなり、結果として増感素担持量が減少し光電変換素子1の出力特性の劣化が生じる。また、Y/Xの値が8.0以上の場合,光電変換に寄与しない半導体部分を抵抗損失の少ない材料に置き換えることにより得られる抵抗損失低減効果が小さくなり、結果として太陽電池の出力特性の改善効果が得られなくなる。
【0055】
ここでY/Xの値は、次のようにして決定することができる。半導体層7を備えた電極をエタノール溶液で洗浄し付着している電解液を取り除き、さらにアルカリ性エタノール溶液で増感色素19を取り除く。続いて、透明電極5上の半導体層7を電極から分離する。分離方法は、透明電極と半導体層を分離できれば、如何なる方法を用いてもかまわない。このような分離方法としては、例えば、超音波で振動を与えたり、こそぎ落としたりする方法などが挙げられる。このようにして半導体層7のみを取り出して、蛍光X線分析による分析を行い、導電性粒子に含まれる金属元素Xに対する半導体膜に含まれる金属元素Yの元素比を測定評価する手法を用いることにより決定することができる。
【0056】
また、半導体層7を備えた電極をエタノール溶液で洗浄し付着している電解液を取り除き、さらにアルカリ性エタノール溶液で増感色素19を取り除いた後、透明電極5上の半導体層7を電極から分離して半導体層7のみを取り出してから、半導体層7を酸で溶解し、溶液中に含有される、導電性粒子に含まれる金属元素Xに対する半導体膜に含まれる金属元素Yの元素比を原子吸光法ないしはICP法により測定評価することもできる。
【0057】
さらに,導電性粒子および半導体膜に数種の金属元素が含まれる場合、XおよびYは、導電性粒子中の金属元素の総和および半導体膜中の金属元素の総和をとるものとする。
【0058】
図1に示されるような、平面状半導体層は、例えば、透明電極5を有する基板3の表面に、導電性微粒子からなるスラリー液を公知慣用の方法(例えば、ドクターブレードやバーコータなどの使う塗布方法や、スプレー法、ディップコーティング法、スクリーン印刷法、スピンコート法など)により塗布し、その後、400℃〜600℃の範囲内の温度で加熱焼結して多孔質導電性物質膜15を形成し、次いで、この多孔質膜上に、半導体微粒子からなる膜あるいは半導体膜17を形成することにより調製することができる。導電性微粒子からなる多孔質膜を均一に覆う半導体微粒子からなる膜あるいは半導体被膜形成法としては,液相堆積法,ゾルゲル法,無電解メッキ,電解メッキ法,TiCl4溶液処理法などが好適である。
【0059】
また、図2に示されるような、半導体材料17で被覆された導電性粒子21は、半導体材料のゾル溶液に導電性粒子を添加させることで得られる。半導体のゾル溶液は、超微粒子の半導体を水に懸濁させたり、アルコールと金属塩や金属との反応などによって得られる金属のアルコキシドを加水分解したり、金属のアルコキシドに溶解した金属塩を加水分解する公知な方法によって調製される。例えば、チタンのアルコキシドとして、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、チタニウムエチルアセトアセテート、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコレート、チタニウムラクテートなどがある。
【0060】
また、導電粒子に被膜された半導体層に空孔を開け、導電粒子の表面が一部露出するようにして、導電粒子間の電気的接触をより向上させることを目的に、半導体のゾル溶液にポリエチレングリコールなどの公知の添加剤を入れてもかまわない。半導体のゾル溶液の希釈液として、このゾル溶液と相溶性のあるものであれば何でもよく、単独でも混合物でも制限なく使用できる。例えば、酸化チタンゾル溶液の希釈液として、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、N−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリクレン、プロピレンジクロライドなどがある。
【0061】
半導体のゾル溶液から導電性粒子に半導体を被覆させる方法として、ゾル溶液に導電性粒子を添加したり、導電性粒子の粉末にゾル溶液を滴下したり、導電性粒子を飛散させたチャンバー内にゾル溶液を噴霧したりする方法がある。導電性粒子に被膜させる半導体の膜厚は、導電性粒子の粒径との関係で一概には言えないが、50nm以下が好ましい。この膜厚の制御はゾル溶液と導電性粒子を混合させている時間を変えることによって行う。混合時間が長いと、導電性粒子に均一に半導体が被膜しなくなるので、混合時間は60秒以下が好ましい。導電性粒子に被膜している加水分解後の半導体にはヒドロキシル基などがあり、凝集し易いため、半導体のゾル溶液と導電性粒子を混合した後、導電性粒子を直ちに分別しなければならない。凝集を最小限に抑えるため、導電性粒子を分別後、半導体のゾル溶液と相溶性のある液体で洗浄することが好ましい。さらに、この洗浄によって、均一かつ50nm以下の膜厚の半導体を被膜した導電性粒子が得られる。
【0062】
図2に示されるような半導体層の場合、前記のようにして得られた、半導体で被覆された導電性粒子を、基板3の透明電極5の表面に塗布し、その後、加熱焼結することによって得られる。半導体を被膜した導電性粒子を塗布する方法は、ドクターブレードやバーコータなどの使う塗布方法や、スプレー法、ディップコーティング法、スクリーン印刷法、スピンコート法などがある。加熱焼結過程で、導電性粒子同士が焼結されて電気的接触がより強固になり、さらに、導電性粒子に被膜している半導体を結晶化させることができる。加熱温度は焼結率ならびに半導体の結晶化の進み具合や、熱劣化による導電性粒子の導電率の低下を勘案して、400℃から600℃が好ましい。400℃以下では強固な膜が得られず、600℃以上では熱劣化による導電性粒子の導電率の低下が著しい。400℃から600℃の加熱温度に到達するまでの昇温過程は室温から徐々に行うことが好ましい。室温から昇温することで、導電性粒子に被膜した半導体に亀裂を生じさせることなく、導電性粒子を焼結させることができる。このような塗布と加熱焼結を繰り返して、任意の所望する膜厚を持つ多孔質な半導体膜を得ることができる。
【0063】
多孔質半導体層の膜厚を制御することにより、ラフネスファクター(基板面積に対する多孔質内部の実面積の割合)を決定することができる。ラフネスファクターは20以上であることが好ましく、150以上であることが一層好ましい。ラフネスファクターが20未満の場合、増感色素の担持量が不十分となり、光電変換特性が改善されない。ラフネスファクターの上限値は一般的に、5000程度である。ラフネスファクターは半導体層の膜厚を厚くすると大きくなって、半導体層の表面積が広がり、増感色素の担持量の増加が期待できる。しかし、膜厚が厚くなりすぎると、半導体層の光透過率ならびに抵抗損失の影響が現れ始める。また、膜のポロシティーを高くすれば、膜厚を厚くしなくてもラフネスファクターを大きくすることが可能である。しかし、ポロシティーが高すぎると、導電性粒子間の接触面積が減少して、抵抗損失の影響を考慮しなくてはならない。このようなことから、膜のポロシティーは50%以上が好ましく、その上限値は一般的に約80%程度である。膜のポロシティーは液体窒素温度下で窒素ガスあるいはクリプトンガスの吸着−脱離等温曲線の測定結果から算出することができる。
【0064】
図3は、本発明による光電変換素子1の効果を説明する模式図である。(a)は従来の増感光電変換素子100における抵抗損失と透過損失を示す。従来の光電変換素子100では、膜厚がDの半導体材料のみからなる半導体層110が透明電極5付き透明基板3に被着され、半導体層110の表面に増感色素19が担持されている。(b)は本発明の色素増感光電変換素子1における抵抗損失と透過損失を示す。本発明の色素増感光電変換素子1では、半導体膜17の膜厚dは、増感色素19との間で光電変換機能を発現するために必要十分な値でしかない。従って、d<<Dである。しかも、本発明の素子1では、半導体膜17と電極5との間には、60%以上の透過率を有する導電性粒子層15が存在する。このため、同じ半導体層であっても、本発明の素子1における半導体層7の透過損失及び抵抗損失は、従来の素子100における半導体層110の透過損失及び抵抗損失に比べて著しく低くなる。
【0065】
再び図1を参照する。図1におけるその他の構成部材は光電変換素子の構成部材として公知のものである。例えば、透明基板3及び11としては、ガラス又はプラスチックなどを使用できる。プラスチックは可撓性なので、柔軟性を必要とする用途に適する。基板3は光入射側基板として機能するので透明であることが好ましい。一方、基板11は透明でも、不透明でもよいが、両側の基板から光を入射させることができるので、透明であることが好ましい。
【0066】
基板3の一方の面に成膜される電極5は、金属そのものか、またはガラスもしくはプラスチック上に設けた導電性をもつ膜である。好ましい導電材としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、もしくは導電性の金属酸化物(インジウム−錫複合酸化物、フッ素をドープした酸化錫等)が挙げられる。
【0067】
電極5は、表面抵抗が低い程よい。好ましい表面抵抗の範囲としては50Ω/sq以下であり、より好ましくは30Ω/sq以下である。下限に特に制限はないが、通常0.1Ω/sqである。
【0068】
電極5は、光透過率が高い程よい。好ましい光透過率としては50%以上であり、より好ましくは80%以上である。電極5の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。電極5の膜厚が0.1μm未満の場合、均一な膜厚の電極膜を形成することが困難になる。一方、膜厚が10μm超の場合、光透過性が低下し、十分な光が半導体層7及び増感色素19に到達しなくなる。光は半導体層17が被着される側の電極5から入射させる事が好ましい。
【0069】
本発明の半導体層7は増感色素分子19を担持させることにより、光電変換効率の高い光電変換素子を得ることができる。本発明の半導体層7に担持させるために使用される増感色素19としては、従来の色素増感性光電変換素子で常用の色素であれば全て使用できる。このような色素は当業者に公知である。このような色素は例えば、RuL2(H2O)2タイプのルテニウム−シス−ジアクア−ビピリジル錯体又はルテニウム−トリス(RuL3)、ルテニウム−ビス(RuL2)、オスニウム−トリス(OsL3)、オスニウム−ビス(OsL2)タイプの遷移金属錯体若しくは、亜鉛−テトラ(4−カルボキシフェニル)ポルフィリン、鉄−ヘキサシアニド錯体、フタロシアニンなどが挙げられる。有機色素としては、9-フェニルキサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、テトラフェニルメタン系色素、キノン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素などが挙げられる。この中でもルテニウム−ビス(RuL2)誘導体が好ましい。
【0070】
半導体層7への増感色素19の担持量としては、10-8〜10-6mol/cm2の範囲にあればよく、特に0.1〜9.0×10-7mol/cm2が好ましい。増感色素19の担持量が10-8mol/cm2未満の場合、光電変換効率向上効果が不十分となる。一方、増感色素の担持量が10-6mol/cm2超の場合、光電変換効率向上効果が飽和し、不経済となるだけである。
【0071】
半導体層7への増感色素19の担持方法は、例えば、増感色素を溶かした溶液に、半導体層7を被着させた基板3を浸漬させる方法が挙げられる。この溶液の溶媒としては、水、アルコール、トルエン、ジメチルホルムアミドなど増感色素を溶解可能なものであれば全て使用できる。また、浸漬方法として増感色素溶液に、半導体層7を被着させた電極付基板を一定時間浸漬させている時に、加熱還流をしたり、超音波を印加したりすることが有効である。
【0072】
対電極9は光電変換素子1の正極として機能し、前記の半導体層7が被着される側の電極5と同義である。本発明における光電変換素子1の対電極9としては、光電変換素子1の正極として効率よく作用するために、電解質の還元体に電子を与える触媒作用を有する白金やグラファイトなどが好ましい。また、対電極9と透明基板11との間には対電極9とは異なる材料からなる導電性のある膜を設けてもよい。
【0073】
増感色素19を担持した半導体層7と対電極9との間には電解質層13が存在する。電解質としては、酸化体と還元体からなる一対の酸化還元系構成物質が溶媒中に含まれていれば、特に限定されないが、酸化体と還元体が同一電荷を持つ酸化還元系構成物質が好ましい。この明細書における、酸化還元系構成物質とは、酸化還元反応において、可逆的に酸化体及び還元体の形で存在する一対の物質を意味する。このような酸化還元系構成物質自体は当業者に公知である。本発明で使用できる酸化還元系構成物質は例えば、塩素化合物−塩素、ヨウ素化合物−ヨウ素、臭素化合物−臭素、タリウムイオン(III)−タリウムイオン(I)、水銀イオン(II)−水銀イオン(I)、ルテニウムイオン(III)−ルテニウムイオン(II)、銅イオン(II)−銅イオン(I)、鉄イオン(III)−鉄イオン(II)、バナジウムイオン(III)−バナジウムイオン(II)、マンガン酸イオン−過マンガン酸イオン、フェリシアン化物−フェロシアン化物、キノン−ヒドロキノン、フマル酸−コハク酸などが挙げられる。言うまでもなく、その他の酸化還元系構成物質も使用できる。中でも、ヨウ素化合物−ヨウ素が好ましく、ヨウ素化合物としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム等の金属ヨウ化物、テトラアルキルアンモニウムヨージド、ピリジニウムヨージド等のヨウ化4級アンモニウム塩化合物、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム等のヨウ化ジイミダゾリウム化合物が特に好ましい。
【0074】
電解質を溶解するために使用される溶媒は、酸化還元系構成物質を溶解しイオン伝導性に優れた化合物が好ましい。溶媒としては水性溶媒及び有機溶媒の何れも使用できるが、酸化還元系構成物質をより安定するため、有機溶媒が好ましい。例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネ−ト化合物、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、ガンマーブチロラクトン等のエステル化合物、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソシラン、テトラヒドロフラン、2−メチルーテトラヒドラフラン等のエーテル化合物、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物、スルフォラン、ジジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド等の非プロトン性極性化合物などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いることもできるし、また、2種類以上を混合して併用することもできる。中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネ−ト化合物、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物が特に好ましい。
【0075】
次に、低抵抗損失を有し、高い光電変換効率を達成できる本発明の光電変換素子の別の実施態様を図4に示す。図1に示された実施態様では、導電性物質15は内部抵抗を低くするため緻密かつ均一な膜厚を有する薄膜状であるが、図4に示される実施態様では、粒子状の導電性物質23からなる層25を電極5と半導体層7との間に配設する。
【0076】
図1の構造の場合、比表面積が大きい半導体層17と緻密な構造の導電性物質層15からなる電極とが接するため、半導体層と電極との接触面積は小さく、半導体層と電極との界面の抵抗による損失が変換効率低下の要因となっていた。図4の構造の場合、半導体層と電極との間に導電性粒子層を介在させたことにより、半導体の高い比表面積及び電極の低抵抗といった特性を損なうことなく、半導体層と電極との接触面積を大きくし、界面の抵抗を低減させ、高い変換効率が得られる。
【0077】
別法として、図5に示されるように、半導体膜17で被覆された粒子状導電性物質21からなる半導体層7(図2参照)と電極5との間に導電性粒子層25を介在させることもできる。これにより、更に一層優れた低抵抗損失及び低透過損失が得られる。
【0078】
図4及び図5に示される実施態様で使用される導電性粒子23としては光透過性であるものが好ましい。導電性粒子層25の光透過率は60%以上であることが好ましい。導電性粒子層25の光透過率が60%未満場合、半導体層7に担持された増感色素19に照射される光量が減少して、十分な光電子が生成されなくなるなどの不都合が生じるので好ましくない。このような光透過性導電性微粒子としては、図1及び図2における導電性物質と同じものを使用することができる。
【0079】
導電性粒子23の粒径は3nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。3nm〜100nmの範囲内であることが一層好ましい。導電性粒子の粒径が500nm超では比表面積が著しく小さくなるため、ラフネスファクターを大きくすることができず、導電性粒子層の使用効果を発現できない。一方、導電性粒子の粒径が3nm未満では粒子の取扱作業性が低下するので好ましくない。
【0080】
また、導電性粒子層25の厚みとしては、一般的に10〜3000nmの範囲内であることが好ましい。10nm未満であると、電極5の表面の導電性粒子層25による被覆において不完全となる部分が生じるため好ましくない。また、3000nm超であると、導電性粒子層25による光透過損失が大きくなるため好ましくない。導電性粒子層25の厚みの一層好ましい範囲は500nm〜2500nmである。
【0081】
図6は、液漏れせず、かつ優れた光電変換効率を長期にわたり維持することができる本発明の光電変換素子の断面図である。図6において、電解質層13は、多孔質支持体27と、該多孔質支持体27内に充満保持された電解液とから構成されている。
【0082】
なお、この明細書における「多孔質支持体」とは、電解液を保持できるばかりでなく、電解液中の酸化還元対が通過できる空間を有し、かつ、それ自体が一つの独立した膜状構造体からなるものを意味する。従って、前記のような構造体である多孔質支持体は、光電変換素子を分解した際に一枚の膜として取り出すことができる特徴を有する。
【0083】
本発明の光電変換素子1における電解質層13を構成する多孔質支持体27の構造としては、繊維状物質を重ね合わせたもの、格子状の網目構造をもつもの、多孔質支持体面に対し法線方向に柱状の空隙をもつものなどが好ましい。従って、多孔質支持体27としては、例えば、濾過フィルター(メンブランフィルタ)あるいは一次電池や二次電池などに用いられるセパレーター又は不織布などを好適に使用できる。特に、多孔質支持体面に対し法線方向に貫通した空隙をもつ場合、多孔質支持体27自体が酸化還元対の移動を阻害する作用が少ないため高い光電変換効率が得られる。
【0084】
本発明の多孔質支持体27として使用される濾過フィルターの材質としては、ガラス繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類などからなるものが好ましい。
【0085】
本発明の多孔質支持体27として使用されるセパレーター又は不織布の材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリアミド類、ポリフェリレンスルフィド、ビニヨン(塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合物)、ポリイミド、ビニロン(アセタール化ポリビニルアルコール)などが好ましい。これらの材質のセパレーター又は不織布を単独でも、あるいは2種以上の材質のセパレーター又は不織布を複合化して使用することもできる。ここで、「複合化した不織布」とは、上記2種類の材料をブレンド後に溶融紡糸/延伸したブレンド延伸型不織布、または上記2種類の材料の一方を芯とし、他方がその周囲を被覆してなる複合繊維(コンジュゲート型繊維)を熱融着してなる芯鞘構造型の不織布である。例えば、芯成分に高融点のポリプロピレンを用い、鞘成分に低融点のポリエチレンを用いた熱融着タイプの不織布がよく知られている。
【0086】
多孔質支持体27の厚みは半導体層7と対電極9との面間隔で規定される。しかし、一般的に、多孔質支持体27の厚みは、1mm以下が好ましい。多孔質支持体27の厚みが1mm超の場合、電解質層13中の酸化還元対の移動距離が長くなり、酸化還元対を媒介とした電子の授受反応が律速となり光電変換効率が低下する。
【0087】
半導体層7と対電極9との空間を無くすことは、多孔質支持体27による電解液保持機構の働かない電解質層13部分を無くすことになり、そのこと自体は液漏れ防止および信頼性向上につながる。しかしながら、半導体層7と対電極9との空間を無くすために、その組立工程おいて両極を互いに強く押しつけ合うことは、半導体層7および対電極9を機械的に破壊し、光電変換効率を低下させる要因となることもある。そのため、半導体層7と対電極9との間には少なくとも1μm以上の間隔を設け、前記半導体層7および対電極9の機械的破壊を防ぐことが好ましい。従って、半導体層7と対電極9との間に設ける多孔質支持体27の厚みとしては1μm以上とすることが好ましい。
【0088】
本発明の半導体層7と対電極9との間の電解質層13を構成するために使用される多孔質支持体27は、半導体層7と対電極9との間に充填される電解液の酸化還元対の移動を妨げないばかりか、これら電解液を液漏れしないように保持しなければならない。従って、本発明の多孔質支持体27は、光電変換素子の形成に必要な電解液の酸化還元対の移動を妨げず、しかも、液漏れを起こさないように電解液を保持するのに必要十分なポロシティー(気孔率)を有しなければならない。
【0089】
このため、本発明の光電変換素子1における電解質層13を構成するための多孔質支持体27としては、ポロシティー(気孔率)が30%〜80%の範囲内である多孔質素材を使用することが好ましい。ポロシティーが30%より小さい多孔質支持体27を用いた場合、多孔質支持体27が酸化還元対の移動を妨げる効果が大きくなり、酸化還元対を媒介とした電子の授受反応が律速となり光電変換効率が低くなる。一方、ポロシティーが80%より大きい多孔質支持体27を用いた場合,孔径が大きくなり、毛管作用による電解液保持能力が低下し、十分な液漏れ抑制効果が得られなくなる。ポロシティー(気孔率)が35%〜70%の範囲内である多孔質素材を使用することが一層好ましい。ポロシティー(気孔率)が40%〜60%の範囲内である多孔質素材を使用することが最も好ましい。
【0090】
図6において、基板3及び11、電極5、対電極9、半導体層7及び電解液は前記の図1〜図5に関連して説明したとおりのものであることもできるし、あるいは従来技術と同様なものであることもできる。
【0091】
電解質層13が、固体電解質層や架橋構造を有する高分子化合物で保持した形の電解質層であれば液漏れの問題は起こらない。従って、使用する半導体層7及び電解質層13の形態に応じて、本発明の光電変換素子としては、次の7種類の実施態様が可能である。
少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層を有する光電変換素子において、
(1)前記半導体層を導電性物質と半導体材料とから構成する;
(2)前記電極と前記半導体層との間に導電性微粒子からなる層を配設する;
(3)前記半導体層を導電性物質と半導体材料とから構成し、かつ、前記電極と前記半導体層との間に導電性微粒子からなる層を配設する;
(4)前記電解質層を、多孔質支持体と該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成する;
(5)前記半導体層を導電性物質と半導体材料とから構成し、かつ、前記電解質層を、多孔質支持体と該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成する;
(6)前記電極と前記半導体層との間に導電性微粒子からなる層を配設し、かつ、前記電解質層を、多孔質支持体と該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成する;
(7)前記半導体層を導電性物質と半導体材料とから構成し、前記電極と前記半導体層との間に導電性微粒子からなる層を配設し、かつ、前記電解質層を、多孔質支持体と該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成する。
前記何れの実施態様においても、半導体層は増感色素を担持したタイプであることが好ましい。
【0092】
図7は前記(7)の実施態様を示す部分拡大断面図である。
【0093】
【実施例】
以下、実施例により、半導体中で生じる損失の低減を図る手段として、光電変換に寄与しない半導体部分を抵抗損失および透過損失の少ない材料に置き換えることにより、色素増感太陽電池の変換効率向上を図った本発明の光電変換素子の構成及び効果を具体的に例証する。
【0094】
参考例1
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中にITO粒子(三井金属鉱業製,平均粒径20nm)を濃度約1wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電性ガラス基板(F−SnO,10Ω/sq,旭硝子製)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ10μmの多孔質ITO膜を形成した。次に、フルオロチタンアンモニウム2.0g/L,ホウ酸1.2g/Lを含む水に前記多孔質ITO膜を基板とともに浸漬し、25℃で3時間放置することからなる液相堆積法によりITO膜上に被膜状の酸化チタン膜(膜厚10nm)を形成した。その後、多孔質導電膜上に酸化チタン薄膜を備えた導電性ガラスを、[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ビピリジン)2(NCS)2]で表される増感色素溶液中に浸漬し80℃で還流を行いながら色素吸着処理を行った。
【0095】
前記のようにして得た半導体電極とその対極とを電解質液に接触させて太陽電池を構成した。この場合、対極としては、白金を20nm厚さで蒸着した導電性ガラスを用いた。両電極間の距離は0.1mmとした。電解質液としては、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(0.5M)とヨウ素(0.04M)を含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。
【0096】
前記のようにして得られた電池の変換効率を下記の表1に要約して示す。また、下記の表1には、導電性物質中に存在する金属元素に対する半導体材料中に存在する金属元素の元素比および半導体層の抵抗率と透過率も併記した。
【0097】
比較例1
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中に酸化チタン粒子(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)を濃度約1wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製,F−SnO 2 ,10Ω/sq)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ10μmの多孔質酸化チタン膜を形成した。次に、この多孔質酸化チタン膜を設けた基板とともに,[Ru(4,4'−ジカルボキシル-2,2'-ビピリジン) 2 (NCS) 2 ]で表される増感色素溶液中に浸漬し、80℃で還流を行いながら色素吸着処理を行った。
【0098】
前記のようにして得た半導体電極とその対極とを電解質液に接触させて太陽電池を構成した。この場合、対極としては、白金を20nm厚さで蒸着した導電性ガラスを用いた。両電極間の距離は0.1mmとした。電解質液としては,テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(0.5M)とヨウ素(0.04M)を含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。前記のようにして得られた電池の変換効率を下記の表1に要約して示す。また、下記の表1には、導電性物質中に存在する金属元素に対する半導体材料中に存在する金属元素の元素比および半導体層の抵抗率と透過率も併記した。
【0099】
【表1】
導電性物質中の金属
元素に対する半導体 半導体層 500nmでの
材料中の金属元素の 半導体層抵抗率 の光透過 変換効率
元素比(Y/X) (Ω−cm) 率(%) (%)
参考例1 0.53 0.2x104 80 7.3
比較例1 78.0 0.1x106 65 3.2
(注)比較例1でY/Xの値を記載する根拠は、透明電極5上の半導体層7を電極から分離するときに、半導体層7のみを完全に取り出すことができず、透明電極の成分(酸化スズ)が極少量混入してしまうためである。従って、比較例1において、理想的にはX=0で、Y/X=無限大となるはずであるが、実際にはX成分が検出されて、Y/Xが有限値をもつこととなる。
【0100】
前記の表1に示された結果から明らかなように、本発明による参考例1の光電変換素子は比較例1の従来の光電変換素子に比べて高い出力特性が得られる。
【0101】
実施例2
(1)酸化チタン被覆ITO粒子の調製
チタンテトライソプロポキシド60gを2−プロパノール300mlに徐々に加え、透明な酸化チタンのゾル溶液を調製した。ITO粒子(三井金属鉱業社製、平均粒径20nm)10gを2−プロパノール100mlに分散させ、ITO懸濁液を調製した。ITO懸濁液を先の酸化チタンのゾル溶液に一気に加え、30秒間激しく攪拌した。この反応溶液をろ過して、酸化チタンを被覆したITO粒子を分別した。過剰な酸化チタンを取り除くため、分別した粒子を2−プロパノール200mlに加え、攪拌した。続いて、ろ過後、乾燥させて酸化チタンを被覆したITO粒子を得た。得られた粒子をTEM観察したところ、平均粒径が40nmであり、ITO粒子表面に酸化チタンが平均膜厚10nmで被覆していると概算した。また、得られた粒子をX線回折で調べた結果、被覆した酸化チタンはアナターゼ型であった。
【0102】
(2)多孔質酸化チタン膜の作製
前項で調製した酸化チタン被覆ITO粒子6gに水2mlとアセチルアセトン0.2mlを添加し、せん断応力を利用してペーストを用意した。メノウ乳鉢でこのペーストをポリエチレングリコール(分子量400)に分散させた。ポリエチレングリコールに対するペーストの割合は30wt%である。酸化チタン被覆ITO粒子を分散させたポリエチレングリコールをスクリーン版(メッシュ200、塗布面積1cm2)で導電性ガラス基板(F-SnO2,10Ω/sq,旭硝子製)上にスクリーン印刷した。続いて、この基板を3時間かけて450℃まで昇温し、450℃で1時間焼成した。スクリーン印刷と焼成の工程を2回繰返し膜厚15μmの多孔質酸化チタン膜を得た。
【0103】
(3)光電変換素子の作製
増感色素を担持した多孔質酸化チタンの透明電極は、次のような手順で作製した。前項で作製した多孔質酸化チタン膜を被着した導電性ガラス基板(10mm×20mm)と、増感色素である[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ジピリジン)2(NCS)2]0.3mMを溶かした脱水エタノール50mlを100mlのナス型フラスコに入れ、80℃で還流を行いながら増感色素の吸着処理を行った。ナス型フラスコから先の導電性ガラス基板を取り出し、脱水エタノールで洗浄して、多孔質酸化チタン膜に担持されていない増感色素を取り除いた。また、透明電極付きガラス(10mm×20mm)に白金を20nmの厚さでスパッタしてこれを対電極とした。電解質液としては,ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5mol/lとヨウ素0.04mol/lを含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。これら2つの電極で、酸化チタン側と白金側が向き合うようにして電解液を毛細管現象により電極間に含浸させた。続いて、周囲を封止し、各電極から端子を引き出して、本発明の光電変換素子を作製した。
【0104】
本発明の光電変換素子に45mW/cm2のキセノンランプ光を照射し(照射面積1cm2)、光電流−電圧特性を測定した。
【0105】
実施例3
(1)酸化ニオブ被覆SnO2粒子の調製
ニオブ(V)エトキシド64gを無水エタノール400mlに徐々に加えた後、水7mlを添加し、透明な酸化ニオブのゾル溶液を調製した。SnO 2 粒子(三井金属鉱業社製、パストランTYPE-IV4700、平均粒径100nm)10gを無水エタノール100mlに分散させ、SnO 2 懸濁液を調製した。SnO 2 懸濁液を先の酸化ニオブのゾル溶液に一気に加え、30秒間激しく攪拌した。この反応溶液をろ過して、酸化ニオブを被覆したSnO 2 粒子を分別した。過剰な酸化ニオブを取り除くため、分別した粒子を無水エタノール200mlに加え、攪拌した。続いて、ろ過後、乾燥させて酸化ニオブを被覆したSnO 2 粒子を得た。得られた粒子をTEM観察したところ、平均粒径が130nmであり、SnO 2 粒子表面に酸化ニオブが平均膜厚15nmで被膜していると概算した。
【0106】
(2)多孔質酸化ニオブ膜の作製
前項で調製した酸化ニオブ被膜SnO 2 粒子を実施例2と同様な手順で導電性ガラス基板にスクリーン印刷した。続いて、この基板を3時間かけて500℃まで昇温し、500℃で1時間焼成した。スクリーン印刷と焼成の工程を3回繰返し膜厚36μmの多孔質酸化ニオブ膜を得た。
【0107】
(3)光電変換素子の作製
Ru錯体の増感色素を担持させた多孔質酸化ニオブの透明電極を構成要素とする光電変換素子を実施例2と同様な手順で作製、および評価した。
【0108】
実施例4
チタンテトライソプロポキシド60gを2-プロパノール300mlに徐々に加えた後、水7mlと分子量1000のポリエチレングリコール0.5gを添加し、透明な酸化チタンのゾル溶液を調製した。SnO 2 粒子(三井金属鉱業社製、パストランTYPE-IV4700、平均粒径100nm)10gを2−プロパノール100mlに分散させ、SnO 2 懸濁液を調製した。SnO 2 懸濁液を先の酸化チタンのゾル溶液に一気に加え、30秒間激しく攪拌した。この反応溶液をろ過して、酸化チタンを被覆したSnO 2 粒子を分別した。余分な酸化チタンとポリエチレングリコールを取り除くため、分別した粒子を無水エタノール200mlに加え、攪拌した。続いて、ろ過後、乾燥させて酸化チタンを被覆したSnO2粒子を得た。得られた粒子をSEM観察したところ、ポリエチレングリコールの効果により、SnO 2 粒子の表面が部分的に露出し、酸化チタンで被覆されていない表面形態が観察された。表面の露出部分は直径が10〜20nmの空孔であった。上記の部分的に酸化チタンが被覆されたSnO 2 粒子を用いて、実施例2と同様な手順で多孔質酸化チタン膜を作製後、光電変換素子を作製、および評価した。
【0109】
比較例2
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中に酸化チタン粒子(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)を濃度約38wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製,F−SnO 2 ,10Ω/sq)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ10μmの多孔質酸化チタン膜を形成した。次に、この多孔質酸化チタン膜を設けた基板とともに、[Ru(4,4’-ジカルボキシル-2,2’-ビピリジン) 2 -(NCS) 2 ]で表される増感色素溶液中に浸漬し、80℃で還流を行いながら色素吸着処理を行った。
【0110】
前記のようにして得た半導体電極とその対極との間に電解液を挟み込み光電変換素子を構成した。この場合、対極としては、白金を20nm厚さで蒸着した導電性ガラスを用いた。電解液としては、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(0.46M)とヨウ素(0.6M)を含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。
【0111】
下記の表2に、実施例2、実施例3、実施例4及び比較例2の各光電変換素子の光電変換効率の評価結果を示す。
【0112】
【表2】
試 料 光電変換効率(%)
実施例2 6.3
実施例3 5.9
実施例4 6.5
比較例2 5.2
【0113】
前記の表2に示す結果から明らかなように、実施例2は比較例2と比較して高い光電変換効率が得られた。また、実施例3に示すように、酸化チタン以外の金属酸化物である酸化ニオブを使用することにより高い光電変換効率を示す光電変換素子を作製することができた。更に、実施例4に示すように、酸化チタンのゾル溶液にポリエチレングリコールを添加して得られた表面の一部分が露出しているSnO2導電性粒子を使用することで、導電性粒子間の電気的接触が向上し、実施例2よりもさらに高い変換効率が得られた。
【0114】
つぎに、低抵抗損失及び低透過損失を有し、高い光電変換率を達成できる光電変換素子を提供するためには、少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層を有する光電変換素子において、前記電極と半導体層との間に導電性微粒子層を配設することが有効であるといった本発明の一例の光電変換素子の実施例を挙げて具体的に説明する。
【0115】
実施例5
(1)導電性微粒子からなる層の作製界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中にITO粒子(三井金属鉱業製,平均粒径20nm)を濃度約1wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電電極付きガラス基板(10mm×20mm,F−SnO 2 ,10Ω/sq,旭硝子製)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ2μmの多孔質な透明性微粒子からなる層を形成した。このとき導電性微粒子からなる層の透過度は約80%であった。
【0116】
(2)多孔質酸化チタン膜の作製
酸化チタン(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)9gに水21mlとアセチルアセトン0.2mlを添加し、さらにこの懸濁液にpHを1.5に保つように硝酸を加え、メノウ乳鉢で3時間分散させた。その後、ポリエチレングリコール(分子量20000)を添加しペーストを作製する。ポリエチレングリコールは酸化チタンに対し30wt%である。酸化チタンを分散させたペーストをスクリーン版(200メッシュ、塗布面積1cm 2 )で前記ITO粒子が塗布された透明電極付きガラス基板上にスクリーン印刷した。続いて、この基板を450℃の電気炉に入れ、450℃で30分焼成した。これにより膜厚15μmの多孔質酸化チタン膜を得た。
【0117】
(3)光電変換素子の作製
増感色素を担持した多孔質酸化チタンの透明電極は、次のような手順で作製した。前項で作製した多孔質酸化チタン膜を被着した透明電極付きガラス基板を焼成後直ちに、増感色素である[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ジピリジン) 2 (NCS) 2 ]0.3mMを溶かした脱水エタノール50mlの入った100mlのナス型フラスコに入れ、80℃で3時間還流を行いながら増感色素の吸着処理を行った。ナス型フラスコから先の導電性ガラス基板を取り出し、脱水エタノールで洗浄して、多孔質酸化チタン膜に担持されていない増感色素を取り除いた。また、透明電極付きガラス(10mm×20mm)に白金を20nmの厚さでスパッタしてこれを対電極とした。両電極間の距離は0.1mmとした。電解質溶液としては,ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5モル/lとヨウ素0.04モル/lを含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。これら2つの電極で、酸化チタン側と白金側が向き合うようにして電解質溶液を毛細管現象により電極間に含浸させた。続いて、周囲を封止し、各電極から端子を引き出して、本発明の光電変換素子を作製した。このようにして得られた本発明の光電変換素子に45mW/cm 2 のキセノンランプ光を照射し(照射面積1cm2)、光電流−電圧特性を測定した。
【0118】
比較例3
酸化チタン(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)20gを水100mlに添加し、さらにこの懸濁液にpHを1.5に保つように硝酸を加えた。攪拌した後、導電材としてITO粒子(三井金属鉱業製,平均粒径20nm)を混合し、メノウ乳鉢で3時間分散させた。その後、ポリエチレングリコール(分子量20000)を添加しペーストを作製する。ポリエチレングリコールは酸化チタンとITO粒子の総量に対し30wt%である。酸化チタンとITO粒子を分散させたペーストをスクリーン版(200メッシュ、塗布面積1cm 2 )で前記透明電極付きガラス基板上にスクリーン印刷した。続いて、この基板を450℃の電気炉に入れ、450℃で30分焼成した。これにより膜厚15μmの混合膜を得た。
【0119】
混合膜を被着した透明電極付きガラス基板を焼成後直ちに、増感色素である[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ジピリジン)2(NCS)2]0.3mMを溶かした脱水エタノール50mlの入った100mlのナス型フラスコに入れ、80℃で3時間還流を行いながら増感色素の吸着処理を行った。ナス型フラスコから先の導電性ガラス基板を取り出し、脱水エタノールで洗浄して、混合膜に担持されていない増感色素を取り除いた。また、透明電極付きガラス(10mm×20mm)に白金を20nmの厚さでスパッタしてこれを対電極とした。両電極間の距離は0.1mmとした。電解質液としては,ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5モル/lとヨウ素0.04モル/lを含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。これら2つの電極で、酸化チタン側と白金側が向き合うようにして電解液を毛細管現象により電極間に含浸させた。続いて、周囲を封止し、各電極から端子を引き出して、比較用の光電変換素子を作製した。この比較用光電変換素子に45mW/cm 2 のキセノンランプ光を照射し(照射面積1cm2)、光電流−電圧特性を測定した。
【0121】
比較例5
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中にITO粒子(三井金属鉱業製,平均粒径20nm)を濃度約5wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電電極付きガラス基板(10mm×20mm,F−SnO2,10Ω/sq,旭硝子製)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ10μmの多孔質透明導電膜を形成した。このとき透明導電膜の透過度は約60%であった。さらに前記参考例1における酸化チタンペーストをスクリーン印刷し、450℃で30分間焼成し多孔質半導体膜を得た。焼成後、増感色素である[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ジピリジン)2(NCS)2]0.3mMを溶かした脱水エタノール中に多孔質半導体膜が密着した透明導電性ガラス基板を入れ、80℃、3時間還流し増感色素の吸着処理を行った。基板を取り出し、過剰な色素の除去のため脱水エタノールで洗浄した。対極としては、白金を20nm厚さで蒸着した透明電極付きガラスを用いた。両電極間の距離は0.1mmとした。電解質溶液としては,テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(0.5M)とヨウ素(0.04M)を含むエチレンカーボネートとアセトニトリル用いた。これら2つの電極で、酸化チタン側と白金側が向き合うようにして電解質溶液を毛細管現象により電極間に含浸させた。続いて、周囲を封止し、各電極から端子を引き出して、比較用の光電変換素子を作製した。この比較用光電変換素子に45mW/cm2のキセノンランプ光を照射し(照射面積1cm2)、光電流−電圧特性を測定した。
【0122】
前記のようにして得られた実施例5、比較例2、比較例3、比較例5における各光電変換素子の光電変換効率の評価結果を表3に示す。
【0123】
【表3】
試 料 光電変換効率(%)
実施例5 6.4
比較例2 5.2
比較例3 5.4
比較例5 5.3
【0124】
前記の表3に示された結果から明らかなように、本発明による実施例5の光電変換素子は比較例2の従来の光電変換素子に比べて高い光電変換効率が得られる。実施例5は酸化チタンと透明導電膜との間に多孔質ITO膜を介することで導電膜の透過度を低下させることもなく酸化チタンとITO膜との接地面積が大きくなることで高い光電変換効率が得られた。比較例3では半導体と導電材を含有させた混合膜に色素を担持させ半導体層内の内部抵抗の低減を行っているが導電材が電子をトラップし電子移動の妨げとなり短絡電流密度が低下することになる。また、比較例5では、実施例5同様に多孔質ITO膜を介在しているが、ITO粒子が大きく接触面積が十分でないこと、及び多孔質ITO膜が厚く光透過率を低減させるため光電変換効率が低下することになる。
【0125】
次に、液漏れせず、かつ優れた光電変換効率を長期に渡り維持することが可能な光電変換素子を提供するために、前記電解質層を、多孔質支持体と、該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成することにより解決するといった本発明の一例を、実施例を挙げて具体的に説明する。
【0126】
実施例6
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中に酸化チタン粒子(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)を濃度約38wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製,F−SnO2,10Ω/sq)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ10μmの多孔質酸化チタン膜を形成した。次に、この多孔質酸化チタン膜を設けた基板とともに、[Ru(4,4’-ジカルボキシル-2,2’-ビピリジン)2-(NCS)2]で表される増感色素溶液中に浸漬し、80℃で還流を行いながら色素吸着処理を行った。
【0127】
前記のようにして得た半導体電極とその対極との間に、電解液および孔径100nmの柱状の空隙のあいた濾過フィルター(ワットマン社製,ポロシティー30%)多孔質支持体を挟み込み光電変換素子を構成した。この場合、対極としては、白金を20nm厚さで蒸着した導電性ガラスを用いた。両電極間の距離、即ち、濾過フィルターの厚みは60μmとした。電解液としては,テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(0.46M)とヨウ素(0.6M)を含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。
【0128】
実施例7
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中に酸化チタン粒子(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)を濃度約38wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製,F−SnO2,10Ω/sq)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ10μmの多孔質酸化チタン膜を形成した。次に,この多孔質酸化チタン膜を設けた基板とともに、[Ru(4,4’-ジカルボキシル-2,2’-ビピリジン)2-(NCS)2]で表される増感色素溶液中に浸漬し、80℃で還流を行いながら色素吸着処理を行った。
【0129】
前記のようにして得た半導体電極とその対極との間に、電解液および繊維状物質(メッシュフィルム)を重ね合わせた多孔質支持体(ポロシティー40%)を挟み込み光電変換素子を構成した。この場合,対極としては,白金を20nm厚さで蒸着した導電性ガラスを用いた。両電極間の距離、即ちメッシュフィルムの厚みは0.1mmとした。電解液としては、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(0.46M)とヨウ素(0.6M)を含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。
【0130】
比較例6
架橋性高分子モノマーとしてヘキサエチレングリコールメタクリル酸エステル(日本油脂化学社製ブレンマーPE350)1gと、酸化還元対を溶解することができる物質としてエチレングリコール1gと、重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(日本チバガイギー社製ダロキュア1173)20mgを含有した混合溶液にヨウ化リチウム500mgを溶解し、前記混合溶液を半導体電極上に塗布した。半導体電極としては、界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中に酸化チタン粒子(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)を濃度約38wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に,このスラリー液を厚さ1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製,F−SnO2,10Ω/sq)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ10μmの多孔質酸化チタン膜を形成し、次に、この多孔質酸化チタン膜を設けた基板とともに、[Ru(4,4’-ジカルボキシル-2,2’-ビピリジン)2-(NCS)2]で表される増感色素溶液中に浸漬し、80℃で還流を行いながら色素吸着処理を行うことにより調製した。前記混合溶液を塗布した半導体電極を減圧下におくことで、多孔質な半導体電極中の気泡を除き混合溶液を浸透を促した後、紫外光照射により重合して架橋構造を有する高分子固体電解質の均一なゲルによる被覆された電極を得た。このようにして得られた電極をヨウ素雰囲気下に30分間曝して高分子化合物中にヨウ素を拡散させた後、対電極を圧着した。対電極としては、白金を20nm厚さで蒸着した導電性ガラスを用いた。
【0131】
比較例7
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中に酸化チタン粒子(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)を濃度約38wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に,このスラリー液を厚さ1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製,F−SnO2,10Ω/sq)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ10μmの多孔質酸化チタン膜を形成した。次に、この多孔質酸化チタン膜を設けた基板とともに、[Ru(4,4’-ジカルボキシル-2,2’-ビピリジン)2-(NCS)2]で表される増感色素溶液中に浸漬し、80℃で還流を行いながら色素吸着処理を行った。
【0132】
前記のようにして得た半導体電極とその対極との間に、電解液および繊維状物質を重ね合わせた多孔質支持体(メッシュフィルム,ポロシティー10%)を挟み込み光電変換素子を構成した。この場合、対極としては、白金を20nm厚さで蒸着した導電性ガラスを用いた。両電極間の距離、即ちメッシュフィルムの厚みは0.1mmとした。電解液としては、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(0.46M)とヨウ素(0.6M)を含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。
【0133】
上記のようにして作製した各光電変換素子の液漏れの起こり難さ、光電変換効率および長期信頼性を下記の手法により評価した。
【0134】
液漏れの起こり難さに関しては、室温で一週間、電極面の法線方向に沿って電極面に均一に0.5kg/cm2の圧力を印加し、その後、液漏れの有無を目視により確認することからなる、電解液保持試験結果を指標として判断した。
【0135】
光電変換効率に関しては、光電変換素子に45mW/cm2のキセノンランプ光を照射し光電流−電圧特性を測定し、光電変換効率を求めた。
【0136】
長期信頼性に関しては、JISC8917付属書9記載の耐熱性(高温保存)試験B−1の試験前後の光電変換効率から光電変換効率保持率を求め、これを指標とし判断した。なお、JISC8917付属書9記載の耐熱性(高温保存)試験B−1の方法を下記に示す。
【0137】
耐熱性(高温保存)試験法
耐熱性(高温保存)試験には、C8917結晶系太陽電池モジュールの環境試験方法及び耐久性試験方法附属書9記載の耐熱性(高温保存)試験B−1に準じ行った。下記にその試験方法を記す。
(1) 試験に先立ち、試料の光電変換効率を測定する。
(2) 恒温槽にて、室温より85℃まで加温後,温度85±2℃で、
100±12時間保持する。試験槽内の出力端子は、開放状態に保つ。(3) 試験後、清浄な布などで表面を清掃した後、室温に24時間以上放置
し、試料の光電変換効率を評価する。
(4) 試験前後の光電変換効率の値から、下記式で定義する光電変換効率
保持率を求めた。
(光電変換効率保持率)={(耐熱性試験前の光電変換効率)―(耐熱性試験後の光電変換効率)}×100/(耐熱性試験前の光電変換効率)
【0138】
実施例5、実施例6及び比較例2〜4の電解液保持試験結果、光電変換効率および光電変換効率保持率を下記の表1に要約して示す。
【0139】
【表4】
Figure 0004415481
【0140】
前記表4に示された結果から明らかなように、実施例6および7における本発明の光電変換素子は電解液の液漏れが全く無く、電解質層が液体より構成される場合と同等の光電変換特性が得られた。特に、実施例6に示す柱状の空隙のあいた濾過フィルターを多孔質支持体として用いた場合、多孔質支持体が酸化還元対の移動を阻害する作用が少ないため、高い光電変換効率が得られる。一方、比較例2の光電変換素子は、初期特性は高いものの、電解液の液漏れが有り、長期信頼性の面で本発明の光電変換素子よりも劣っている。また、比較例6および比較例7の光電変換素子は、電解液の液漏れの無い点では本発明の光電変換素子に匹敵するが、架橋構造を有する高分子固体電解質の均一なゲルで電極を被覆しているため、あるいは、ポロシティーの小さい多孔質体により電解液を保持しているため、酸化還元対を媒介とした電子の授受反応が律速となり光電変換効率が低くなる。この点で本発明の光電変換素子よりも著しく劣っている。従って、これらの結果から、半導体層と対電極との間に、ポロシティーが30%〜80%の多孔質支持体を設けることで、電解液の液漏れを起こさない、高い光電変換効率および長期信頼性に優れた光電変換素子が得られることが理解できる。
【0141】
実施例8
(1)導電性微粒子からなる層の作製
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中にITO粒子(三井金属鉱業製,平均粒径20nm)を濃度約1wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電電極付きガラス基板(10mm×20mm,F−SnO2,10Ω/sq,旭硝子製)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ2μmの多孔質な透明性微粒子からなる層を形成した。このとき導電性微粒子からなる層の透過度は約80%であった。
【0142】
(2)酸化チタン被覆ITO粒子の調製
チタンテトライソプロポキシド60gを2−プロパノール300mlに徐々に加え、透明な酸化チタンのゾル溶液を調製した。ITO粒子(三井金属鉱業社製、平均粒径20nm)10gを2−プロパノール100mlに分散させ、ITO懸濁液を調製した。ITO懸濁液を先の酸化チタンのゾル溶液に一気に加え、30秒間激しく攪拌した。この反応溶液をろ過して、酸化チタンを被覆したITO粒子を分別した。過剰な酸化チタンを取り除くため、分別した粒子を2−プロパノール200mlに加え、攪拌した。続いて、ろ過後、乾燥させて酸化チタンを被覆したITO粒子を得た。得られた粒子をTEM観察したところ、平均粒径が40nmであり、ITO粒子表面に酸化チタンが平均膜厚10nmで被覆していると概算した。また、得られた粒子をX線回折で調べた結果、被覆した酸化チタンはアナターゼ型であった。
【0143】
前項で調製した酸化チタン被覆ITO粒子6gに水2mlとアセチルアセトン0.2mlを添加し、せん断応力を利用してペーストを用意した。メノウ乳鉢でこのペーストをポリエチレングリコール(分子量400)に分散させた。ポリエチレングリコールに対するペーストの割合は30wt%である。酸化チタン被覆ITO粒子を分散させたポリエチレングリコールをスクリーン版(メッシュ200、塗布面積1cm)で導電性ガラス基板(F−SnO,10Ω/sq,旭硝子製)上に形成した導電性粒子からなる層の上にスクリーン印刷した。続いて、この基板を3時間かけて450℃まで昇温し、450℃で1時間焼成した。スクリーン印刷と焼成の工程を2回繰返し膜厚15μmの多孔質酸化チタン膜を得た。
【0144】
(3)光電変換素子の作製
増感色素を担持した多孔質酸化チタンの透明電極は、次のような手順で作製した。前項で作製した多孔質酸化チタン膜を被着した導電性ガラス基板(10mm×20mm)と、増感色素である[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ジピリジン)2(NCS)2]0.3mMを溶かした脱水エタノール50mlを100mlのナス型フラスコに入れ、80℃で還流を行いながら増感色素の吸着処理を行った。ナス型フラスコから先の導電性ガラス基板を取り出し、脱水エタノールで洗浄して、多孔質酸化チタン膜に担持されていない増感色素を取り除いた。また、透明電極付きガラス(10mm×20mm)に白金を20nmの厚さでスパッタしてこれを対電極とした。電解質液としては,ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5モル/lとヨウ素0.04モル/lを含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。これら2つの電極で、酸化チタン側と白金側が向き合うようにして電解液を毛細管現象により電極間に含浸させた。続いて、周囲を封止し、各電極から端子を引き出して、本発明の光電変換素子を作製した。
【0145】
本発明の光電変換素子に45mW/cmのキセノンランプ光を照射し(照射面積1cm)、光電流−電圧特性を測定した。結果を下記の表5に示す。
【0146】
【表5】
試 料 光電変換効率(%)
実施例8 6.7
【0147】
表5に示された光電変換効率データを前記の表1〜4に示された光電変換効率データと比較すれば明らかなように、少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層とを有する光電変換素子において、1)導電性物質上の半導体被膜に増感色素を担持させた構造とすること、2)前記電極と半導体層との間に導電性微粒子層を配設することの両者を利用することで一層高い光電変換効率が得られる。
【0148】
実施例9
(1)酸化チタン被覆ITO粒子の調製
チタンテトライソプロポキシド60gを2−プロパノール300mlに徐々に加え、透明な酸化チタンのゾル溶液を調製した。ITO粒子(三井金属鉱業社製、平均粒径20nm)10gを2−プロパノール100mlに分散させ、ITO懸濁液を調製した。ITO懸濁液を先の酸化チタンのゾル溶液に一気に加え、30秒間激しく攪拌した。この反応溶液をろ過して、酸化チタンを被覆したITO粒子を分別した。過剰な酸化チタンを取り除くため、分別した粒子を2−プロパノール200mlに加え、攪拌した。続いて、ろ過後、乾燥させて酸化チタンを被覆したITO粒子を得た。得られた粒子をTEM観察したところ、平均粒径が40nmであり、ITO粒子表面に酸化チタンが平均膜厚10nmで被覆していると概算した。また、得られた粒子をX線回折で調べた結果、被覆した酸化チタンはアナターゼ型であった。
【0149】
前項で調製した酸化チタン被覆ITO粒子6gに水2mlとアセチルアセトン0.2mlを添加し、せん断応力を利用してペーストを用意した。メノウ乳鉢でこのペーストをポリエチレングリコール(分子量400)に分散させた。ポリエチレングリコールに対するペーストの割合は30wt%である。酸化チタン被覆ITO粒子を分散させたポリエチレングリコールをスクリーン版(メッシュ200、塗布面積1cm)で導電性ガラス基板(F−SnO,10Ω/sq,旭硝子製)上に形成した導電性粒子からなる層の上にスクリーン印刷した。続いて、この基板を3時間かけて450℃まで昇温し、450℃で1時間焼成した。スクリーン印刷と焼成の工程を2回繰返し膜厚15μmの多孔質酸化チタン膜を得た。
【0150】
(2)光電変換素子の作製
増感色素を担持した多孔質酸化チタンの透明電極は、次のような手順で作製した。前項で作製した多孔質酸化チタン膜を被着した導電性ガラス基板(10mm×20mm)と、増感色素である[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ジピリジン)2(NCS)2]0.3mMを溶かした脱水エタノール50mlを100mlのナス型フラスコに入れ、80℃で還流を行いながら増感色素の吸着処理を行った。ナス型フラスコから先の導電性ガラス基板を取り出し、脱水エタノールで洗浄して、多孔質酸化チタン膜に担持されていない増感色素を取り除いた。また、透明電極付きガラス(10mm×20mm)に白金を20nmの厚さでスパッタしてこれを対電極とした。電解質液としては,ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5モル/lとヨウ素0.04モル/lを含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。前記のようにして得た半導体電極とその対極との間に、電解液および孔径100nmの柱状の空隙のあいた濾過フィルター(ワットマン社製,ポロシティー30%)多孔質支持体を挟み込み光電変換素子を作製した。
【0151】
実施例10
(1)導電性微粒子からなる層の作製
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中にITO粒子(三井金属鉱業製,平均粒径20nm)を濃度約1wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電電極付きガラス基板(10mm×20mm,F−SnO2,10Ω/sq,旭硝子製)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ2μmの多孔質な透明性微粒子からなる層を形成した。このとき導電性微粒子からなる層の透過度は約80%であった。
【0152】
(2)多孔質酸化チタン膜の作製
酸化チタン(日本アエロジル社製,P25,平均粒径20nm)9gに水21mlとアセチルアセトン0.2mlを添加し、さらにこの懸濁液にpHを1.5に保つように硝酸を加え、メノウ乳鉢で3時間分散させた。その後、ポリエチレングリコール(分子量20000)を添加しペーストを作製する。ポリエチレングリコールは酸化チタンに対し30wt%である。酸化チタンを分散させたペーストをスクリーン版(200メッシュ、塗布面積1cm2)で前記ITO粒子が塗布された透明電極付きガラス基板上にスクリーン印刷した。続いて、この基板を450℃の電気炉に入れ、450℃で30分焼成した。これにより膜厚15μmの多孔質酸化チタン膜を得た
【0153】
(3)光電変換素子の作製
増感色素を担持した多孔質酸化チタンの透明電極は、次のような手順で作製した。前項で作製した多孔質酸化チタン膜を被着した導電性ガラス基板(10mm×20mm)と、増感色素である[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ジピリジン)2(NCS)2]0.3mMを溶かした脱水エタノール50mlを100mlのナス型フラスコに入れ、80℃で還流を行いながら増感色素の吸着処理を行った。ナス型フラスコから先の導電性ガラス基板を取り出し、脱水エタノールで洗浄して、多孔質酸化チタン膜に担持されていない増感色素を取り除いた。また、透明電極付きガラス(10mm×20mm)に白金を20nmの厚さでスパッタしてこれを対電極とした。電解質液としては,ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5モル/lとヨウ素0.04モル/lを含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。前記のようにして得た半導体電極とその対極との間に、電解液および孔径100nmの柱状の空隙のあいた濾過フィルター(ワットマン社製,ポロシティー30%)多孔質支持体を挟み込み光電変換素子を作製した。
【0154】
前記の実施例9及び実施例10で作製された本発明の光電変換素子に45mW/cmのキセノンランプ光を照射し(照射面積1cm)、光電変換効率を評価した。また、液漏れおよび長期信頼性に関しては前述に従い評価した。結果を下記の表6に要約して示す。
【0155】
【表6】
Figure 0004415481
【0156】
前記の表6に示すように、少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層とを有する光電変換素子において、1)導電性物質上の半導体被膜に増感色素を担持させた構造とすること、2)前記電解質層を、多孔質支持体と、該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成することで高い光電変換効率を持ち、かつ液漏れがなく、長期信頼性に優れた光電変換素子を提供できる。
【0157】
また、表6に示すように、少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層とを有する光電変換素子において、1)前記電極と半導体層との間に導電性微粒子層を配設すること、2)前記電解質層を、多孔質支持体と、該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成することの両者を利用することで高い光電変換効率を持ち、かつ液漏れがなく、長期信頼性に優れた光電変換素子を提供できる。
【0158】
実施例11
(1)導電性微粒子からなる層の作製
界面活性剤を含む水とアセチルアセトンとの混合液(容量混合比=20/1)中にITO粒子(三井金属鉱業製,平均粒径20nm)を濃度約1wt%で分散させてスラリー液を調製した。次に、このスラリー液を厚さ1mmの導電電極付きガラス基板(10mm×20mm,F−SnO2,10Ω/sq,旭硝子製)上に塗布し、乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成し、基板上に厚さ2μmの多孔質な透明性微粒子からなる層を形成した。このとき導電性微粒子からなる層の透過度は約80%であった。
【0159】
(2)酸化チタン被覆ITO粒子の調製
チタンテトライソプロポキシド60gを2−プロパノール300mlに徐々に加え、透明な酸化チタンのゾル溶液を調製した。ITO粒子(三井金属鉱業社製、平均粒径20nm)10gを2−プロパノール100mlに分散させ、ITO懸濁液を調製した。ITO懸濁液を先の酸化チタンのゾル溶液に一気に加え、30秒間激しく攪拌した。この反応溶液をろ過して、酸化チタンを被覆したITO粒子を分別した。過剰な酸化チタンを取り除くため、分別した粒子を2−プロパノール200mlに加え、攪拌した。続いて、ろ過後、乾燥させて酸化チタンを被覆したITO粒子を得た。得られた粒子をTEM観察したところ、平均粒径が40nmであり、ITO粒子表面に酸化チタンが平均膜厚10nmで被覆していると概算した。また、得られた粒子をX線回折で調べた結果、被覆した酸化チタンはアナターゼ型であった。
【0160】
前項で調製した酸化チタン被覆ITO粒子6gに水2mlとアセチルアセトン0.2mlを添加し、せん断応力を利用してペーストを用意した。メノウ乳鉢でこのペーストをポリエチレングリコール(分子量400)に分散させた。ポリエチレングリコールに対するペーストの割合は30wt%である。酸化チタン被覆ITO粒子を分散させたポリエチレングリコールをスクリーン版(メッシュ200、塗布面積1cm )で導電性ガラス基板(F−SnO,10Ω/sq,旭硝子製)上に形成した導電性粒子からなる層の上にスクリーン印刷した。続いて、この基板を3時間かけて450℃まで昇温し、450℃で1時間焼成した。スクリーン印刷と焼成の工程を2回繰返し膜厚15μmの多孔質酸化チタン膜を得た。
【0161】
(3)光電変換素子の作製
増感色素を担持した多孔質酸化チタンの透明電極は、次のような手順で作製した。前項で作製した多孔質酸化チタン膜を被着した導電性ガラス基板(10mm×20mm)と、増感色素である[Ru(4,4'-ジカルボキシル-2,2'-ジピリジン)2(NCS)2]0.3mMを溶かした脱水エタノール50mlを100mlのナス型フラスコに入れ、80℃で還流を行いながら増感色素の吸着処理を行った。ナス型フラスコから先の導電性ガラス基板を取り出し、脱水エタノールで洗浄して、多孔質酸化チタン膜に担持されていない増感色素を取り除いた。また、透明電極付きガラス(10mm×20mm)に白金を20nmの厚さでスパッタしてこれを対電極とした。電解質液としては,ヨウ化テトラプロピルアンモニウム0.5モル/lとヨウ素0.04モル/lを含むエチレンカーボネートとアセトニトリルとの混合液(容量混合比=80/20)を用いた。前記のようにして得た半導体電極とその対極との間に、電解液および孔径100nmの柱状の空隙のあいた濾過フィルター(ワットマン社製,ポロシティー30%)多孔質支持体を挟み込み光電変換素子を作製した。
【0162】
本発明の光電変換素子に45mW/cmのキセノンランプ光を照射し(照射面積1cm)、光電変換効率を評価した。また、液漏れおよび長期信頼性に関しては前述に従い評価した。結果を下記の表7に示す。
【0163】
【表7】
Figure 0004415481
【0164】
前記の表7に示すように、少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層とを有する光電変換素子において、1)導電性物質上の半導体被膜に増感色素を担持させた構造とすること、2)前記電極と半導体層との間に導電性微粒子層を配設すること、3)前記電解質層を、多孔質支持体と、該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成することで高い光電変換効率を持ち、かつ液漏れがなく、長期信頼性に優れた光電変換素子を提供できる。
【0165】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、光電変換素子の半導体層として、導電性物質の外表面に半導体の薄膜を被着させることにより構成された半導体層を使用することにより、低抵抗損失および低透過損失の光電変換素子を得ることができる。また、本発明によれば、光電変換素子の半導体層と透明電極との間に導電性粒子からなる層を介在させることにより、半導体層と透明電極との接触面積を大きくし、半導体層と透明電極の界面における抵抗損失を低減でき、優れた光電変換効率をもつ光電変換素子を得ることができる。また、本発明によれば、半導体層と対電極との間に電解液を保持した多孔質支持体を設けることにより、電解液の液漏れを起こさない長期信頼性に優れた光電変換素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】導電性物質の外表面に半導体の薄膜を被着させることにより構成された半導体層を使用した本発明の光電変換素子の一例の概要断面図である。
【図2】導電性物質の外表面に半導体の薄膜を被着させることにより構成された半導体層を使用した本発明の光電変換素子の別の例の部分拡大概要断面図である。
【図3】従来の光電変換素子と本発明の光電変換素子の各半導体層における透過損失および抵抗損失を説明する模式的断面図であり、(a)は従来の光電変換素子であり、(b)は導電性物質の外表面に半導体の薄膜を被着させることにより構成された半導体層を使用した本発明の光電変換素子である。
【図4】半導体層と透明電極との間に導電性粒子からなる層を介在させた本発明の光電変換素子の一例の部分拡大概要断面図である。
【図5】図2に示されるような導電性物質の外表面に半導体の薄膜を被着させることにより構成された半導体層と透明電極との間に導電性粒子からなる層を介在させた本発明の光電変換素子の一例の部分拡大概要断面図である。
【図6】半導体層と対電極との間に電解液を保持した多孔質支持体を設けた本発明の光電変換素子の一例の概要断面図である。
【図7】図5に示されるような導電性物質の外表面に半導体の薄膜を被着させることにより構成された半導体層と透明電極との間に導電性粒子からなる層を介在させ、半導体層と対電極との間に電解液を保持した多孔質支持体を設けた本発明の光電変換素子の一例の部分拡大概要断面図である。
【符号の説明】
1 本発明の光電変換素子
3,11 透明基板
5 透明電極
7 半導体層
9 対電極
13 電解質層
15 導電性物質層
17 半導体膜
19 増感色素
21、23 導電性粒子
25 導電性粒子層
27 多孔質支持体
100 従来の光電変換素子

Claims (10)

  1. 少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層を有する光電変換素子において、
    前記電極と前記半導体層との間に膜厚が10nm〜3000nmの範囲内である導電性微粒子からなる層を配設したことを特徴とする光電変換素子。
  2. 前記導電性微粒子の粒径が3nm〜500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
  3. 前記導電性微粒子の体積抵抗率が10 −9 Ω-cm〜10 Ω-cmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子。
  4. 前記導電性微粒子は酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化珪素、三酸化インジウム及び三酸化ストロンチウムからなる群から選択される一種類以上の結晶性金属酸化物微粒子又はこれらの複合酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光電変換素子。
  5. 前記複合酸化物微粒子はインジウム錫酸化物(ITO)であることを特徴とする請求項に記載の光電変換素子。
  6. 前記半導体層は、導電性微粒子の外表面に被覆された半導体材料の薄膜から構成されていることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の光電変換素子。
  7. 少なくとも、一方の面上に半導体層が被着された電極と、この電極の前記半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記半導体層と対電極との間に配置された電解質層を有する光電変換素子の製造方法において、前記半導体層は、(i)酸化チタン及び酸化ニオブから選択される半導体材料のゾル溶液を用いてインジウム錫酸化物(ITO)及び酸化スズ(SnO )から選択される導電性粒子の外表面に前記半導体材料を被覆するステップと、(ii)前記半導体材料で被覆された前記導電性粒子を前記電極に塗布し、次いで、加熱焼結させるステップと、により作製されることを特徴とする光電変換素子の製造方法
  8. 前記ステップ(i)と(ii)の間に、前記導電性粒子を被覆する半導体膜の少なくとも一部を除去して、下部の導電性粒子外表面を露出させるステップを更に有することを特徴とする請求項7に記載の光電変換素子の製造方法。
  9. 少なくとも、一方の面上に色素増感半導体層が被着された電極と、この電極の前記色素増感半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記色素増感半導体層と対電極との間に配置された電解質層を有する光電変換素子において、前記電極と前記色素増感半導体層との間に粒径が3nm〜500nmの範囲内である導電性微粒子からなる膜厚が10nm〜3000nmの範囲内である層を配設し、かつ、前記電解質層が、多孔質支持体と、該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成されていることを特徴とする光電変換素子。
  10. 少なくとも、一方の面上に色素増感半導体層が被着された電極と、この電極の前記色素増感半導体層と対峙する対電極と、該電極の前記色素増感半導体層と対電極との間に配置された電解質層を有する光電変換素子において、前記色素増感半導体層が、インジウム錫酸化物(ITO)及び酸化スズ(SnO )から選択され、粒径が3nm〜500nmの範囲内である導電性物質と、酸化チタン及び酸化ニオブから選択される半導体材料とから構成され、かつ、前記電極と前記色素増感半導体層との間に膜厚が10nm〜3000nmの範囲内である導電性微粒子からなる層を配設し、かつ、前記電解質層が、多孔質支持体と、該多孔質支持体内に充満された電解液とから構成されていることを特徴とする光電変換素子。
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