JP4409036B2 - 着色ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメント及びその製造方法 - Google Patents

着色ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメント及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリフッ化ビニリデン樹脂組成物からなる着色モノフィラメントに関する。より詳しくは、ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメントからなる釣り糸の優れた特性を維持しながら、特殊な蛍光染料により鮮明な蛍光色に着色され、透明で視認性に優れた釣り糸、なかでも道糸に好適なペリレン系高級染料を含有する光輝性の透明ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメントとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメントは、強靱性、耐衝撃性、感度(魚信探知性)、及び耐光性などが優れ、しかも、1.79という高比重で水中に沈み易く、水の屈折率(1.33)に近い屈折率(1.42)を有しているため水中での表面反射が少なく透明で見え難い。更に、吸水性が無いためそれらの特性を水中でも長時間維持することができ、特にハリスに代表されるテグス用途に好んで用いられてきた。
一方、このポリフッ化ビニリデン系モノフィラメントの耐衝撃性、高比重、高感度を生かし、ルアー用ライン、投げ釣り用道糸などに使用されてきた。このルアー用ラインや道糸用途には、釣り人からの視認性が要求され、最近では、染色による着色が試みられている。しかしながら、ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメントは、元来その染色が極めて困難なことから、染色したものは、色調が薄く、不鮮明である。濃色化を図ろうと熱処理温度を高め、処理時間を長くすると引張強度等の初期物性が低下してしまうことから、視認性と強度の両方の点で満足のいくものが得られていなかった。更に、ポリフッ化ビニリデン樹脂は、濃色化が可能な原着法(使用する合成樹脂自体を押出前に、予め染料、顔料、ピグメントレジンカラーなどの着色剤で着色し、これを押出・紡糸してモノフィラメントを得る方法)では、ポリフッ化ビニリデン樹脂の押出加工の際の高温、及び溶融時に微量発生するフッ酸で、殆どの着色剤が変色・分解を生じる。また、それに耐え得るごく一部の顔料でも、色調は不鮮明で、また、透明感が低下し、且つ、その顔料の分散粒径が大きいため、特に釣り糸として最も重要な結節強度を低下させてしまい、満足な着色が達成されなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメントからなる釣り糸の特性を維持し、紡糸中、樹脂の分解に起因するフッ酸の発生による着色剤の変色が認められず、鮮明な蛍光色に着色されて、透明で視認性に優れた釣り糸を形成するモノフィラメント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題の解決を目指して鋭意研究した結果、ペリレン系蛍光染料を含有したポリフッ化ビニリデン樹脂組成物からなるモノフィラメントが、かかる課題を解決し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、ペリレン系蛍光染料を含有したポリフッ化ビニリデン樹脂組成物からなるモノフィラメントを提供する。前記発明において、ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対してペリレン系蛍光染料の含有量が0.001〜0.5重量部であるモノフィラメントを提供する。結節強度が下記式(1)で示される前記発明のモノフィラメントを提供する。
結節強度[GPa]の数値≧{(25/(糸径[μm]の数値)}1/3 (1)
また、ポリフッ化ビニリデン樹脂組成物を押出設定温度300℃以下、押出機滞留時間60分以内で紡糸する前記発明のモノフィラメントの製造方法を提供する。前記発明のモノフィラメントからなる釣り糸を提供する。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において用いられるポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)とは、好ましくは、フッ化ビニリデン単独重合体、フッ化ビニリデンを構成単位として70モル%以上を含有する共重合体、更にはこれら重合体の混合物が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合されるモノマーとしては、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、フッ化ビニル等が挙げられる。また、これらの少なくとも一種を用いることができる。フッ化ビニリデン樹脂のインヒレント粘度(ηinh)は、好ましくは0.8〜2.0dl/g、さらに好ましくは1.0〜1.7dl/gの範囲である。
【0006】
また、本発明のモノフィラメントの原料ポリフッ化ビニリデン樹脂には、その性質を損なわない範囲で、ポリエステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、フラバントロンで代表される核剤、あるいはポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、アクリル酸メチル/イソブチレン共重合体等のフッ化ビニリデン樹脂との相溶性の良好な樹脂を混合した組成物が含まれる。特に可塑剤としては、繰り返し単位組成が炭素数2〜4のジアルコールと炭素数4〜6のジカルボン酸とのエステルよりなり、末端基が炭素数1〜3の一価の酸もしくは一価のアルコール残基よりなり、分子量が1500〜4000のポリエステルが好しく用いられる。また、ポリフッ化ビニリデン樹脂に加えることができる前記樹脂のうち、ポリメタクリル酸メチルが好ましく、ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量%に対して5重量%程度含まれていてもよい。特にポリメタクリル酸メチルをポリマーブレンドした場合、ポリメタクリル酸メチルが非結晶樹脂であるため、ポリフッ化ビニリデン樹脂よりペリレン系染料との相溶性に優れ、染料の発色性や耐光性の向上が期待できる。但し、ポリメタクリル酸メチルの混合量が多くなった場合には、モノフィラメントの柔軟性や引張強度の低下を招くおそれがあるため10重量%以上の添加は好ましくない。
【0007】
本発明において用いられるペリレン系蛍光染料としては、特開昭57−125260号公報、特開昭58−40359号公報及び特開昭60−203650号公報に開示されているようなペリレン骨格を有する化合物を総称して含める。それらのうち、例えば、ルモゲンTR F イエロー083(BASFジャパン(株)社製)、ルモゲンTR F オレンジ240(BASFジャパン(株)社製)、ルモゲンTR F レッド300(BASFジャパン(株)社製)などのペリレン系蛍光染料及びこれらと同等品を挙げることができる。
【0008】
ペリレン系蛍光染料の含有量は、特に制限するものではないが、通常ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対して0.001〜0.5重量部、更には0.005〜0.1重量部、特には0.01〜0.05重量部が好ましい。含有量が0.001重量部〜0.5重量部の範囲にあることにより、光輝性が発現するとともに視認性を得ることができ、更に、ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメントの特性(例えば、高い比重、水に近い屈折率、及び吸水性がないこと)を維持することができる。染料の含有量が0.001重量部以下では、色調が薄く光輝性が発現しないと共に、充分な視認性を得難くなる。また、含有量が0.5重量部を越えると、濃色になりすぎ、光の吸収が大きくなり逆に光輝性、視認性が低下することがあるので好ましくない。
【0009】
本発明の効果を更に発揮するには、ステアリン酸カルシウム(Ca−St)、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸鉛等の金属石鹸類を用いるとよい。これらのうち、ステアリン酸カルシウムが溶融紡糸時の溶融体の紡糸性を向上させ、糸表面のスラブの発生を抑える効果を発揮する。特に、ポリフッ化ビニリデン樹脂にペリレン系染料を添加した場合、ノズル等の金属内壁との樹脂の流動性が低下し接着性が増すためか、スラブが発生する傾向がみられる。これを防止する手段として、金属石鹸類の添加が効果的である。金属石鹸類の添加量はポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対して0.001〜0.1重量部、更には0.05〜0.5重量部程度が好ましい。なお、本発明の効果を阻害しない範囲で紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤等の添加剤を含んでもよい。
【0010】
ペリレン系蛍光染料、金属石鹸類、その他の添加剤を配合するには、各々、単独に加えてもよいが、糸の構成素材として使用するポリフッ化ビニリデン樹脂又は、その他の樹脂で希釈した所謂、マスターバッチを調製しておき、これを所定量使用することが通常行われる。
【0011】
ポリフッ化ビニリデン樹脂組成物とは、ポリフッ化ビニリデン樹脂と少なくともペリレン系蛍光染料とからなる樹脂組成物である。この樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂及びペリレン系蛍光染料の混合物であっても、以下のようなドライブレンド物であっても、ペレットであってもよい。ポリフッ化ビニリデン樹脂組成物は、公知の方法で調製することができる。例えば、予めポリフッ化ビニリデン樹脂で希釈して調製しておいたペリレン系蛍光染料及び随意に加える金属石鹸のマスターバッチをポリフッ化ビニリデン樹脂に所定量加えてドライブレンドして粉状体の樹脂組成物とする方法、又は原料のポリフッ化ビニリデン樹脂単体と前記のペリレン系蛍光染料とを単に混合する方法、又は樹脂組成物をペレット状にしておく方法などがある。
【0012】
得られた樹脂組成物の粉状体又はペレットを押出機に投入し、押出設定温度を300℃以下、好ましくは230〜280℃で押出し、30〜80℃の水中などで急冷する。次いで、150〜180℃のグリセリンなどの熱媒中で4.5〜6.5倍に延伸(場合により、延伸を2段階以上で行うこともある)し、その後、70〜98℃の温水中で2〜12%の緩和処理を行う。このとき溶融樹脂組成物の押出機滞留時間は、好ましくは60分以内、更に好ましくは10〜40分とする。押出機での滞留時間が60分を越えると樹脂組成物、特にペリレン系染料の分解が始まり、紡糸した糸の変色、糸表面の発泡などが発生することがあるので好ましくない。更に、このポリフッ化ビニリデン樹脂とペリレン系染料を組み合わせた場合、濃色化を図ろうとペリレン系染料の添加量を多くした場合、樹脂への染料の分散性・相溶性が低下してくるのか、押出機での滞留時間によって容易にペリレン系染料が分解し変色する傾向がみられるので、押出機での樹脂の滞留時間が重要である。
特に、釣り糸では0.1号糸(糸径50μm)などの細号柄になってくると押出量が減少する分、押出機内の滞留時間が極めて長くなってくるので、殊に注意を要する。
モノフィラメントの糸径は、特に制限はないが、通常50μm〜2.5mmである。
【0013】
得られたモノフィラメントは、釣り糸として用いられる。また、モノフィラメントの結節強度は、式(1)で示す条件を満たすことが道糸としての強靱性の観点から好ましい。ポリフッ化ビニリデン樹脂のモノフィラメントは、釣り糸として糸径が細くなる程、結節強度の高さが重要視され、逆に太くなる程、その性質上結節強度が出難くなってくる。本発明のモノフィラメントは、ペリレン系蛍光染料により鮮明な蛍光色に着色され、透明で視認性に優れた釣り糸、なかでも道糸に好適な光輝性の透明ポリフッ化ビニリデンモノフィラメントとなる。
【0014】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、評価方法は以下のように行った。
結節強伸度:東洋精機製作所(株)製ストログラフRII型引張試験機を用い、23℃65RH%の室内で、試長300mm、引張速度300mm/分、測定数n=5で、試料の中央に結節点を設け結節強伸度を測定した。
【0015】
使用原料
ポリフッ化ビニリデン樹脂:KF#1300(呉羽化学(株)製、融点174℃、ηinh=1.3)。
着色染顔料:
ルモゲン F イエロー 083(BASFジャパン(株)製、ペリレン系蛍光染料)。
ルモゲン F オレンジ 240(BASFジャパン(株)製、ペリレン系蛍光染料)。
ルモゲン F レッド 300(BASFジャパン(株)製、ペリレン系蛍光染料)。
エポカラーFP−1007 イエローグリーン(日本触媒(株)製、ピグメントレジンカラー)。
ヌビアン ブラック PC−0850(オリエント化学工業(株)製、アジン系染料)。
金属石鹸系滑剤:
ステアリン酸カルシウム(Ca−St)(関東化学(株)製)。
【0016】
(実施例1〜7)
ポリフッ化ビニリデンモノフィラメントの原料樹脂として、PVDF(商品グレードKF#1300)を用い、この樹脂に表1に示した着色剤及び金属石鹸を所定量添加し、ドライブレンドして各々の樹脂組成物とした。次いで、この組成物を35mmφの押出機、孔径1.3mmφ×6ホールノズルを使用し、押出樹脂温度250〜280℃、押出機ギヤーポンプ回転数6.1rpmの条件で紡糸した後、冷却温度50℃の水中で急冷した。次いで、167℃のグリセリン浴中で5.5倍に延伸し、その後、85℃の温水中で5%緩和熱処理し、直径0.3mmのモノフィラメントを得た。
【0017】
(比較例1)
着色剤を添加せずに紡糸した以外は実施例1と同様に行った。
(比較例2)
蛍光着色剤として、ナイロン用途に開発された耐熱温度280℃のピグメントレジンカラーを使用した以外は実施例1と同様に行った。得られたモノフィラメントはくすんだ黄緑色に色飛び、変色を起こし、強度も低下していた。
(比較例3)
着色剤として、アジン系染料を使用した以外は、実施例1と同様に行った。ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートなどのエンジニアリングプラスチック樹脂用途に開発された耐熱温度300℃の染料を用いたが、得られたモノフィラメントは、表面に分解、発泡による膨らみが発生し、又、強度も低下していた。
(比較例4)
細号柄のモノフィラメントを得るために、ギアポンプの回転数を3.2rpmに低下させ、直径0.22mmのモノフィラメントを得た以外は、原料処方とも実施例1と同様に行った。得られたモノフィラメントは、色調が橙色がかり、表面に分解、発泡による膨らみが発生し、強度も低下していた。押出機内の溶融樹脂の滞留時間を測定したところ98分かかっており、これが原因と考えられる。
【0018】
(実施例8)
実施例1と同様の原料処方で細号柄のモノフィラメントを得るべく、ノズルを2mmφ×24ホールのものに切り替え、押出温度255〜290℃にて、ギアポンプ回転数を13rpmに設定し、吐出量を増やして紡糸し、実施例1と同様の急冷、延伸、緩和条件で直径0.22mmのモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントは、表面に分解、発泡による膨らみは認められず、鮮明な蛍光黄色に着色され、また、強度も充分であった。押出しの際、押出機内の樹脂の滞留時間を測定したところ、25分と短く、これにより染料の分解を抑えることができたと考え得られる。
実施例及び比較例で得た試料の評価結果を表2に示した。
【0019】
【表1】
Figure 0004409036
【0020】
【表2】
Figure 0004409036
【発明の効果】
本発明によれば、ペリレン系蛍光染料を含有したポリフッ化ビニリデン樹脂組成物からなるモノフィラメントにより、ポリフッ化ビニリデン系モノフィラメントからなる釣り糸の特性を維持し、着色剤の変色が認められず、鮮明な蛍光色に着色され、視認性に優れた釣り糸を形成するモノフィラメント及びその製造方法を提供することができた。

Claims (5)

  1. ペリレン系蛍光染料を含有したポリフッ化ビニリデン樹脂組成物からなるモノフィラメント。
  2. ポリフッ化ビニリデン樹脂100重量部に対してペリレン系蛍光染料の含有量が0.001〜0.5重量部である請求項1記載のモノフィラメント。
  3. 結節強度が下記式(1)で示される請求項1又は2に記載のモノフィラメント。
    結節強度[GPa]の数値≧{(25/(糸径[μm]の数値)}1/3 (1)
  4. ポリフッ化ビニリデン樹脂組成物を押出設定温度300℃以下、押出機滞留時間60分以内で紡糸する請求項1〜3のいずれかに記載のモノフィラメントの製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載のモノフィラメントからなる釣り糸。
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