JP4389431B2 - グラビア印刷用導電性ペーストおよびその製造方法、ならびに積層セラミック電子部品 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この発明は、グラビア印刷に適した導電性ペーストおよびその製造方法、ならびにこの導電性ペーストを内部導体膜の形成のために用いて構成された積層セラミック電子部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、積層セラミック電子部品に対しては、携帯電話機を代表例とした各種電子機器の小型化に伴い、より一層の薄層化および低コスト化が望まれている。たとえば、積層セラミックコンデンサにおいては、大容量化を実現するために誘電体セラミック層の厚みが5μm以下にまで薄層化され、また、誘電体セラミック層の積層数についても300層以上と多層化されている。
【0003】
また、低コスト化のため、静電容量を得るための内部電極のような内部導体膜において用いられる導電性金属材料として、Ag、Pdなどの貴金属材料からNi、Cuなどの卑金属材料への変更がなされており、また、内部導体膜の形成のために導電性ペーストが用いられる場合には、薄層化に伴い、導電性ペーストに含まれる金属粉末の粒径の微細化も進んでいる。
【0004】
従来、積層セラミック電子部品において、セラミックグリーンシート上に導電性ペーストによる内部導体膜を形成する方法として、一般に、スクリーン印刷が用いられている。しかしながら、タクト時間の長いスクリーン印刷では、生産性が低いため、このような内部導体膜印刷工程の高効率化が望まれている。内部導体膜印刷工程での生産性を向上させる対策の1つとして、高速印刷が可能なグラビア印刷方法を採用することが考えられる。
【0005】
積層セラミック電子部品の内部導体膜をグラビア印刷により形成するため、グラビア電極インキとその製造方法が、たとえば特開平10−199331号公報および特開平10−335167号公報において提案されている。
【0006】
これらの公報では、従来のスクリーン印刷に用いられる導電性ペーストとは異なり、導電性インキの粘度を1Pa・s以下に低粘度化し、かつチキソトロピー性の発生を抑えたインキとすることにより、グラビア印刷での印刷適性を満足させている。実際、出版や包装用途でのグラビア印刷インキも、版かぶりや転写についての印刷適性を満足させるため、その粘度は0.5Pa・s以下と低粘度に設計されている。
【0007】
また、凹版オフセット印刷により内部導体膜用パターンを形成する積層セラミックコンデンサの製造方法が特開2000−76930号公報において提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
積層セラミック電子部品に備える内部導体膜の形成に用いる導電性ペーストは、導電成分である金属粉末の含有比率が比較的高いため、グラビア印刷用とするため、ペースト粘度を1Pa・s以下にまで低くすると、比重の比較的大きい金属粉末がペースト中に沈降する不具合が確認されている。金属粉末の沈降により、導電性ペーストは分相するため、ペースト中の金属粉末の分散性が均質でなくなる。
【0009】
その結果、印刷塗膜の膜厚および塗膜中の金属充填比率がばらつき、グラビア印刷での利点である高速印刷に対して、安定した連続印刷性が確保できない問題が発生する。また、印刷塗膜の厚みおよび塗膜中の金属充填比率のばらつきにより、内部導体膜内での金属粉末の焼結性が場所によって異なり、そのため、内部導体膜の有効面積のばらつきが生じる。その結果、たとえば積層セラミックコンデンサにおいては、目的とする静電容量が得られない等、電子部品の電気的特性に関わる問題が発生する。
【0010】
金属粉末の沈降を防止するためには、金属粉末が進行し得ないペースト粘度が必要である。しかしながら、その反面、スクリーン印刷や凹版オフセット印刷に用いられている導電性ペーストのように粘度が高すぎると、転写不良、版詰まり等の印刷不良が発生するため、均質な厚みを有する印刷塗膜を得ることができない。それゆえ、金属粉末の沈降を防止できながらも、印刷時には印刷不良が発生しない、ペースト粘度の設計を行なう必要がある。
【0011】
そこで、この発明の目的は、上述した金属粉末の沈降の問題を解決し、高速での安定したグラビア印刷適性を実現し得る、グラビア印刷用導電性ペーストおよびその製造方法を提供しようとすることである。
【0012】
この発明の他の目的は、上述した導電性ペーストを内部導体膜の形成のために用いて構成された積層セラミック電子部品を提供しようとすることである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
この発明は、要約すれば、チキソトロピー流体の導電性ペーストを用いることにより、低いずり速度の状態では、金属粉末の沈降を防止できる粘度を保持し、他方、印刷時には、導電性ペーストに加わる比較的高いずり速度によって粘度を低下させることにより流動性を向上させ、グラビア印刷において、高速での安定した連続印刷性が得られるようにしたものである。
【0014】
この発明は、複数のセラミック層およびセラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜を備える積層セラミック電子部品における内部導体膜をグラビア印刷によって形成するために用いられる導電性ペーストに、まず、向けられる。
【0015】
この発明に係る導電性ペーストは、前述した技術的課題を解決するため、金属粉末を含む30〜70重量%の固形成分と、1〜10重量%の樹脂成分と、0.05〜5重量%の分散剤と、残部としての溶剤成分とを含み、金属粉末の平均一次粒径は、0.05μm以上かつ0.5μm以下であり、樹脂成分は、重量平均分子量が5000以上であり、分散剤は、アニオン性分散剤を含み、このアニオン性分散剤は、重合反応体であり、その重量平均分子量が4500以上であり、ずり速度0.1(s-1)での粘度が1Pa・s以上のチキソトロピー流体であって、ずり速度0.1(s-1)での粘度を基準としたときに、ずり速度10(s-1)での粘度変化率が50%以上であることを特徴としている。
【0016】
上述した固形成分は、セラミック粉末を含んでいてもよい。
【0017】
また、金属粉末は、卑金属を含む粉末、より特定的には、ニッケルまたは銅を含む粉末であることが好ましい。
【0020】
アニオン性分散剤としては、カルボン酸、スルホン酸もしくはリン酸またはこれらいずれかの中和塩を有するモノマーを含むものが好適に用いられる。
【0021】
この発明は、また、上述のような導電性ペーストを製造する方法にも向けられる。
【0022】
この発明に係る導電性ペーストの製造方法は、前述した技術的課題を解決するため、固形成分と分散剤と溶剤成分とを含む第1ミルベースを混合および分散処理することによって、第1スラリーを得る、1次工程と、第1スラリーに樹脂成分と溶剤成分とを混合した第2ミルベースを分散処理することによって、第2スラリーを得る、2次工程と、第2スラリーから1.0μm以上の塊状物を除去する、3次工程とを備えることを特徴としている。
【0023】
上述した3次工程の後、溶剤成分の一部を除去することによって、導電性ペースト中の溶剤比率を調整する、4次工程をさらに備えていてもよい。
【0024】
また、4次工程は、好ましくは、加熱および減圧の少なくとも一方を適用して溶剤成分の一部を蒸発除去する工程を含む。
【0025】
また、3次工程において塊状物を除去する前の第2スラリーの粘度は、0.5Pa・s以下に調整されていることが好ましい。
【0026】
また、3次工程は、目開きが金属粉末の平均一次粒径の2倍以上かつ20μm以下であるフィルタを用いて塊状物を除去する工程を含むことが好ましい。
【0027】
また、3次工程は、圧力1.5kg/cm2 未満の加圧濾過により塊状物を除去する工程を含むことが好ましい。
【0028】
また、3次工程において、好ましくは、2段以上の多段濾過が適用される。
【0029】
なお、3次工程において、フィルタが用いられるとき、このフィルタは、デプスタイプであっても、サーフェスタイプであってもよい。
【0030】
この発明は、さらに、複数のセラミック層およびセラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜を備える、積層セラミック電子部品にも向けられる。この発明に係る積層セラミック電子部品は、上述の内部導体膜が、前述したような、この発明に係る導電性ペーストを焼成して得られた焼結体からなることを特徴としている。
【0031】
この積層セラミック電子部品は、好ましくは、積層セラミックコンデンサに適用される。この場合、内部導体膜は、セラミック層を介して静電容量が得られるように配置され、さらに、積層セラミック電子部品は、複数のセラミック層をもって構成される積層体の外表面上に形成され、かつ静電容量を取り出すため内部導体膜の特定のものに電気的に接続される外部電極を備えている。
【0032】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明に係るグラビア印刷用導電性ペーストを用いて構成される積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【0033】
積層セラミックコンデンサ1は、積層体2を備えている。積層体2は、積層される複数の誘電体セラミック層3と、複数の誘電体セラミック層3の間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ形成される複数の内部導体膜4および5とを備えている。
【0034】
内部導体膜4および5は、積層体2の外表面にまで到達するように形成されるが、積層体2の一方の端面6にまで引き出される内部導体膜4と他方の端面7にまで引き出される内部導体膜5とが、積層体2の内部において、誘電体セラミック層3を介して静電容量が得られるように交互に配置されている。
【0035】
上述の静電容量を取り出すため、積層体2の外表面上であって、端面6および7上には、内部導体膜4および5の特定のものに電気的に接続されるように、外部電極8および9がそれぞれ形成されている。また、外部電極8および9上には、ニッケル、銅などからなる第1のめっき層10および11がそれそれ形成され、さらにその上には、半田、錫などからなる第2のめっき層12および13がそれぞれ形成されている。
【0036】
このような積層セラミックコンデンサ1において、内部導体膜4および5は、以下に詳細に説明するような導電性ペーストを、誘電体セラミック層3となるべきセラミックグリーンシート上にグラビア印刷によって付与し、これを焼成して得られた焼結体から構成される。
【0037】
導電性ペーストは、金属粉末を含む30〜70重量%の固形成分と、1〜10重量%の樹脂成分と、0.05〜5重量%の分散剤と、残部としての溶剤成分とを含み、金属粉末の平均一次粒径は、0.05μm以上かつ0.5μm以下であり、樹脂成分は、重量平均分子量が5000以上であり、分散剤は、アニオン性分散剤を含み、このアニオン性分散剤は、重合反応体であり、その重量平均分子量が4500以上であることを特徴とするとともに、ずり速度0.1(s-1)での粘度が1Pa・s以上のチキソトロピー流体であって、ずり速度0.1(s-1)での粘度を基準としたときに、ずり速度10(s-1)での粘度変化率が50%以上であることを特徴としている。
【0038】
このような導電性ペーストを用いて、図1に示した積層セラミックコンデンサ1における内部導体膜4および5のような積層セラミック電子部品に備える内部導体膜をグラビア印刷により形成することにより、良好な生産効率をもって、積層セラミックコンデンサ1のような積層セラミック電子部品を製造することができる。
【0039】
なお、導電性ペーストの粘度は、測定温度25±5℃において、測定方式がずり速度制御方式による回転式粘度測定機によって測定した粘度を示している。この測定装置を用いることにより、任意のずり速度での粘度を測定できる。
【0040】
ずり速度0.1(s-1)というような低いずり速度において、導電性ペーストの粘度が低い場合、比重の大きい金属粉末が沈降するため、分散性が低下する。また、用いている金属粉末の平均一次粒径が小さくなればなるほど、ニッケル粉末や銅粉末間の相互作用が強まり、凝集しやすくなる。これは、磁性をもつニッケル粉末では、より顕著となる。その結果、凝集した粉末がフロック体を形成して沈降するため、導電性ペーストの分散性が損なわれる。
【0041】
したがって、金属粉末として、微粉末、特に凝集しやすいニッケル微粉末や銅微粉末を含む導電性ペーストにおいては、金属粉末間の相互作用を弱め、凝集を防止する必要がある。また、同時に、比重差による金属粉末の沈降を生じさせない粘度を保持する必要がある。
【0042】
導電成分である金属粉末間の相互作用を弱め、分散性を向上させるためには、樹脂成分や分散剤等の有機物成分を金属粉末に対して均質に吸着させる必要がある。有機物成分の均質な吸着により、金属粉末の各々は、その表面が有機物による吸着層で覆われた状態となって導電性ペースト中に存在する。それゆえ、個々の金属粉末は、吸着層を介して隣接するため、金属粉末間の相互作用による凝集が生じにくく、また、フロック体も形成されにくい。
【0043】
また、金属粉末の表面が有機物成分の吸着層で覆われている導電性ペーストでは、金属粉末の凝集は生じにくいだけでなく、有機物成分の吸着層による相互作用が存在する。吸着層で覆われた金属粉末は、低ずり速度域では、有機物成分の相互作用により、隣接する金属粉末間でネットワーク化した構造体を形成する。つまり、吸着層を介した構造体の形成により、金属粉末の流動が抑制されることになり、その結果、導電性ペーストの粘度が高くなる。
【0044】
このような原理に基づき、この発明に係る導電性ペーストによれば、低ずり速度域での粘度を高く確保することが可能となる。また、金属粉末表面への均質な有機物成分の吸着により、分散性向上の効果も併せて実現することができる。
【0045】
他方、この発明に係る導電性ペーストは、低ずり速度域では、有機物成分を介して構造体を形成しているが、グラビア印刷時において高いずり速度が加わると、そのネットワーク構造体は破壊される。これは、ずり速度が高くなるにつれて、吸着層間の相互作用が弱まるためであり、最終的に、高ずり速度域での金属粉末は、互いに独立した状態で導電性ペースト中に存在する。つまり、高ずり速度域では、吸着層で覆われている金属粉末が、導電性ペースト中で凝集することなく流動できるため、大幅な粘度低下が起こり、導電性ペーストの流動性が向上する。
【0046】
このようなことから、グラビア印刷において、版詰まりによる転写不良やかすれ等の不具合のない印刷適性が得られる。
【0047】
以上のように、この発明に係る導電性ペーストによれば、金属粉末表面へ均質に有機物成分を吸着させることにより、低ずり速度域での粘度確保と、高ずり速度域での大きな粘度低下を併せて実現することができる。その結果、ずり速度依存性の大きいチキソトロピー流体である導電性ペーストが得られ、金属粉末の沈降や凝集の防止と、グラビア印刷での高速印刷適性との双方を満足させることができる。
【0048】
この発明に係る導電性ペーストにおいては、ずり速度0.1(s-1)での粘度が1Pa・s以上のチキソトロピー流体である必要がある。そのため、金属粉末への有機物成分の吸着を均質に行ない、吸着層を介した構造体を形成することにより、ずり速度0.1(s-1)で1Pa・s以上の粘度を確保するようにされる。
【0049】
ずり速度0.1(s-1)での粘度が1Pa・s未満になると、比重の大きい金属粉末が沈降しやすくなり、均質に分散させた導電性ペーストにおいて、分相を引き起こしてしまう。導電性ペーストの分相は、印刷塗膜の膜厚および塗膜中の金属充填比率のばらつきをもたらすため、安定した連続印刷性を得ることができず、結果として、高品質の積層セラミックコンデンサ1のような積層セラミック電子部品を得ることができない。
【0050】
また、この発明に係る導電性ペーストは、ずり速度0.1(s-1)での粘度を基準としたときに、ずり速度10(s-1)での粘度変化率が50%以上である必要がある。グラビア印刷で良好な印刷適性を得るためには、印刷時のずり速度での十分な粘度低下が求められる。そのため、良好な印刷適性が得られるチキソトロピー性の指標として、ずり速度0.1(s-1)での粘度を基準としたときの、ずり速度10(s-1)での粘度変化率が選択され、この粘度変化率が50%以上であるとされる。
【0051】
50%以上の粘度変化率は、上述したように、金属粉末への有機物成分の吸着を均質に行ない、低ずり速度域では構造体を形成させ、かつ、高ずり速度域においては吸着層に覆われた個々の金属粉末を凝集させることなく互いに独立させて分散させることを可能にする。
【0052】
粘度変化率が50%未満の場合、印刷時の導電性ペーストの粘度低下が十分でないため、転写不良や版詰まり等の不具合が発生し、高速での良好な連続印刷性を実現できない。
【0053】
この発明に係る導電性ペーストにおいて、金属粉末を含む固形成分の含有比率は、前述したように、30〜70重量%とされる。この範囲で固形成分の比率を調整することにより、目的とする印刷塗膜厚みを安定して得ることができる。
【0054】
固形成分の含有比率が30重量%未満の場合、印刷塗膜中の固形成分の密度、より特定的には、金属粉末の密度が低くなり過ぎる。その結果、図1に示した積層セラミックコンデンサ1について言えば、焼結時において内部導体膜4および5の断線などの不具合が生じ、内部導体膜4および5の有効面積にばらつきが生じ、安定した電気的特性を有する積層セラミックコンデンサ1を得ることができない。また、ずり速度0.1(s-1)において1Pa・s以上の粘度を得ることが難しくなり、固形成分の主成分となる金属粉末の沈降による分散性の低下を引き起こす。
【0055】
他方、固形成分の含有比率が70重量%を超えると、グラビア印刷時に版詰まりによる印刷塗膜厚みのばらつき等の不具合が多々発生する。
【0056】
上述した固形成分は、金属粉末の他、セラミック粉末を含んでいてもよい。図1に示した積層セラミックコンデンサ1について言えば、導電性ペーストをもって形成された内部導体膜4および5と誘電体セラミック層3となるべきセラミックグリーンシートとを積層した構造を有する生の状態の積層体2を高温で焼成した場合、内部導体膜4および5となる導電性ペーストに含まれる金属粉末とセラミックグリーンシートに含まれるセラミックとの間で焼結温度に差があると、積層体2の内部に焼結収縮のずれによる応力が発生するため、積層体2において、剥がれやクラック等が発生する。固形成分にセラミック粉末を含ませることにより、これらの弊害を生じにくくすることができる。
【0057】
固形成分に含まれる金属粉末としては、ニッケル、銅等の卑金属からなる粉末、特にニッケル粉末を有利に用いることができる。銀やパラジウムなどの貴金属からなる金属粉末も用いることができるが、上述のように、卑金属粉末を用いることにより、積層セラミックコンデンサ1のような積層セラミック電子部品をより安価に製造することが可能となる。
【0058】
金属粉末の平均一次粒径は、前述したように、0.5μm以下とされる。今後、積層セラミックコンデンサ1のような積層セラミック電子部品に対しては、さらなる小型化かつ低背化が進むことが望まれている。そのため、積層セラミック電子部品に備える内部導体膜の厚みを可能な限り薄くすることが望ましく、このような内部導体膜の薄層化のためには、金属粉末の粒径を小さくする必要がある。金属粉末の平均一次粒径が0.5μm以下とされると、上述のような内部導体膜の薄層化に十分対応することが可能になる。
【0059】
他方、金属粉末の平均一次粒径が0.5μmを超えると、内部導体膜の物理厚みを厚くせざるを得ず、薄層化の要求に十分に対応することが困難になる。
【0060】
また、金属粉末の平均一次粒径は小さい方が望ましい。しかしながら、金属粉末の微粉化に対する懸念事項として、金属粉末間の相互作用が非常に強くなることによる凝集力増加や分散性低下等があり得る。このような懸念を回避するためには、金属粉末の平均一次粒径は、0.05μm以上としておくことが好ましい。
【0061】
この発明に係る導電性ペーストにおいて、前述したように、樹脂成分の含有比率は、1〜10重量%とされる。
【0062】
この樹脂成分の比率が1重量%未満であると、印刷塗膜の強度が十分でなく、密着不足やブロッキング不良による不具合が発生する。また、導電性ペースト中での固形成分に対する樹脂成分の存在量が少なくなるため、樹脂成分が金属粉末のような固形成分粉末に対して均質に吸着することが困難になる。その結果、分散性の低下や固形成分粉末の凝集を引き起こし、適正なチキソトロピー性を有する導電性ペーストを得ることができない。
【0063】
他方、樹脂成分の比率が10重量%より多くなると、導電性ペーストの粘度上昇のため、版詰まりによる印刷精度の低下、溶剤成分の乾燥性の低下などの不具合が発生する。また、積層セラミック電子部品を得るための生の積層体中の有機物量が増加するため、脱脂性の低下による構造欠陥等が発生して、積層セラミック電子部品の特性低下および歩留まりの低下を引き起こす。
【0064】
樹脂成分としては、たとえば、ニトロセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体や、アクリル樹脂、ケトン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルブチラール、石油樹脂、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリアミド、ポリウレタン等を適宜用いることができ、溶剤成分と相溶性のあるものを選択して用いればよい。また、これらの樹脂は、単独あるいは複数のものの組み合わせで用いることができる。
【0065】
また、用いられる樹脂成分は、前述したように、重量平均分子量が5000以上とされる。重量平均分子量が5000未満であると、金属粉末のような固形成分粉末への吸着−離脱が短時間のサイクルで進行するため、固形成分粉末に対する吸着性が十分でなくなる。
【0066】
また、樹脂成分としては、端末に水酸基、アミド基、カルボキシル基等の側鎖を有するものが好ましい。
【0067】
この発明に係る導電性ペーストにおいて、分散剤の含有比率は、前述したように、0.05〜5重量%とされる。分散剤の添加量は、直接、導電性ペーストの分散性に影響するため、固形成分の含有比率に応じて、上記の範囲内で使い分けられる。
【0068】
分散剤の含有比率が0.05重量%未満の場合、金属粉末のような固形成分粉末の表面への分散剤の吸着量が十分でないため、分散性が低下して、固形成分粉末の凝集により、印刷塗膜上の塊状物が増加して、積層セラミック電子部品の特性が低下する。
【0069】
他方、分散剤の含有比率が5重量%より多いと、積層セラミック電子部品を得るための生の積層体中の有機物量が増加するため、脱脂性の低下による構造欠陥等が発生し、得られた積層セラミック電子部品の特性低下および歩留まり低下を引き起こす。
【0070】
分散剤としては、高分子タイプのアニオン性分散剤を用いることができ、溶剤成分との相溶性のあるものを適宜選択して用いればよい。
【0071】
アニオン性分散剤としては、代表例として、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、リン酸エステル含有樹脂、マレイン酸、スルホン酸含有樹脂、ポリオキシアルキレン、酸変性アミド樹脂等の単体、またはこれら複数のものの組み合わせからなる共重合体がある。前述したように、アニオン性分散剤としては、重量平均分子量が4500以上の重合反応体が用いられる。
【0072】
重量平均分子量が4500未満であると、固形成分粉末への吸着−離脱が短時間のサイクルで進行するため、固形成分粉末に対する吸着性が十分でなくなる。
【0073】
分散剤の、金属粉末のような固形成分粉末への吸着メカニズムは、酸−塩基相互作用によると考えられており、有機溶剤を用いた系では、非共有電子対の授受、つまりルイス論に基づく酸−塩基相互作用が支配的であると考えられる。一般的な吸着形態として、ループ・トレイン・テール構造が知られている。導電性ペーストのチキソトロピー性をコントロールする場合、分散剤の構造の中で固形成分粉末に吸着する官能基部を基準にして、テール状に広がる側鎖構造を導入することにより、固形成分粉末同士の相互作用をコントロールすることが可能である。
【0074】
たとえば、物理的には、側鎖部に鎖数の多いアルキル基等を導入することにより、その側鎖が立体障害となり、固形成分粉末同士の相互作用を弱めることができる。
【0075】
また、化学的には、側鎖部に導入する官能基の水素結合性をコントロールすることにより、固形成分粉末同士の相互作用の程度をコントロールすることが可能である。
【0076】
実際には、樹脂成分や分散剤について、上記の物理的作用および化学的作用の双方を考慮しながら、固形成分粉末間の相互作用を適正にコントロールできるように、材料および含有比率が選ばれる。
【0077】
一般に、ニッケルや銅などの金属粉末、あるいはセラミック粉末などの表面が反応性に富む無機酸化物粉末は、空気中の酸素および水分との反応により、その表面が酸化膜または水酸化膜で覆われた塩基性を示している。つまり、酸化膜または水酸化膜で覆われている固形成分粉末の表面に対して電子対授受による反応が活性となる有機物成分が存在する状態で、固形成分粉末の分散を行なうことにより、固形成分粉末の表面へ均質に有機物成分を吸着させることができる。
【0078】
この発明に係る導電性ペーストに含まれる溶剤成分としては、たとえば、アルコール類、テルペン系、ケトン系、エーテル系、エステル系、炭化水素系、多価アルコール系等の溶剤を、単独または相溶性のあるものを複数組み合わせて、適宜用いることができる。なお、この溶剤成分は、導電性ペーストに含まれる樹脂成分および分散剤の双方を溶解するが、セラミックグリーンシート中の有機物成分を溶解しない性質を持つものが望ましい。
【0079】
溶剤成分の沸点は、50℃以上かつ250℃未満であることが望ましい。沸点が50℃未満の場合、印刷時などに溶剤成分の蒸発が速過ぎるため、導電性ペーストの粘度上昇や固形成分の凝集により、安定した印刷適性が得られず、印刷等の作業性が大きく低下する。他方、溶剤成分の沸点が250℃以上であると、印刷塗膜の乾燥性が低くなり過ぎ、高速印刷に対応できなくなる。
【0080】
この発明に係る導電性ペーストにおいては、前述したように、金属粉末のような固形成分粉末の表面へ均質に有機物成分を吸着させ得ることが重要である。したがって、このような導電性ペーストを得るため、次のような製造方法が用いられることが好ましい。図2を参照して説明する。
【0081】
まず、固形成分と分散剤と溶剤成分とを含む第1ミルベース16が用意され、これらを混合および分散処理する1次工程17を実施して、第1スラリー18を得る。
【0082】
次いで、第1スラリー18に樹脂成分と溶剤成分とを混合した第2ミルベース19を作製し、これらを分散処理する2次工程20を実施して、第2スラリー21を得る。
【0083】
次に、第2スラリー21から1.0μm以上の塊状物を除去する、3次工程22を実施し、目的とする導電性ペーストを得ることができる。
【0084】
得ようとする導電性ペーストにおいて要求されるペースト粘度、用いる金属粉末による分散性の違い等に応じて、上述した3次工程22の後、溶剤成分の一部を除去することによって、導電性ペースト中の溶剤比率を調整する、4次工程23が実施されてもよい。
【0085】
たとえば、金属粉末として、凝集しやすいニッケル微粉末を用いた場合、ニッケル粉末の解砕性、ニッケル粉末表面への有機物成分の吸着、および再凝集防止による分散安定性を向上させるため、ミルベースの分散は、より低粘度で行なった方が好ましく、このような場合には、4次工程23が実施される。
【0086】
4次工程23を実施する場合には、1次ないし3次工程17、20および22での任意の過程で溶剤成分を予め過剰量添加しておくことにより、ミルベースの低粘度化が可能となる。また、スラリー18または21も低粘度となるため、3次工程22での塊状物除去の作業効率も向上し、加えて、微粉化された固形成分に対しても、十分な解砕および分散性を付与することが可能となる。
【0087】
このように、4次工程23が実施される場合、この4次工程23では、導電性ペーストに含まれる溶剤成分の一部が除去されるが、溶剤成分が単一成分から構成される場合には、その一部、溶剤成分が複数成分から構成される場合には、その中で最も沸点が低い溶剤の一部または全部が除去され、適度なペースト粘度に調整される。
【0088】
また、このような溶剤成分の除去方法としては、たとえば、加熱、減圧またはこれら双方を適用することができ、生産効率を考慮した場合、加熱および減圧の双方を併用することが好ましい。
【0089】
過剰添加した溶剤成分は、4次工程23において、導電性ペーストから除去される。その際、導電性ペーストの粘度は、溶剤成分の除去量に応じて上昇するが、既に、金属粉末のような固形成分粉末へ有機物成分が均質に吸着しており、また、分散状態も安定化しているため、粘度が上昇しても、良好な分散性は維持されたままの状態に保たれることができる。
【0090】
上述の図2に示した導電性ペーストの製造方法を採用すれば、1次工程17で、固形成分と分散剤とを分散処理することにより、分散剤の、固形成分粉末表面への吸着を効率良くかつ均質に行なうことができる。
【0091】
1次工程17においては、まず、分散剤を固形成分粉末表面へ優先的に吸着させるため、ここで樹脂成分を添加する場合には、樹脂成分の添加量は、導電性ペーストの設計組成比における樹脂成分の総含有量の1/3以下とすることが好ましい。
【0092】
このように、1次工程17において、固形成分粉末表面へ分散剤、場合によっては、さらに樹脂成分を効率良くかつ均質に吸着させるため、固形成分粉末表面を有機物成分により安定して覆うことができ、固形成分粉末間の相互作用による凝集を防止することができる。また、この均質な吸着層により、低ずり速度域で固形成分粉末の吸着層を介した構造体が形成されるため、低ずり速度域でのペースト粘度を上げることができる。
【0093】
次に、2次工程20では、第1スラリー18に、樹脂成分を、溶剤成分とともに添加し、分散処理されるが、既に1次工程17において、固形成分粉末の表面に分散剤が吸着しているため、樹脂成分と固形成分との親和性は良好であり、固形成分粉末の表面にさらに安定した吸着層を形成することができる。
【0094】
これら1次および2次工程17および20が、この発明に係る導電性ペーストの流体特性を左右する重要な過程であり、安定な吸着層の形成によって、固形成分粉末間の相互作用を弱めることができ、ずり速度による粘度変化率の比較的大きいチキソトロピー性を示す導電性ペーストを得ることができる。
【0095】
1次および2次工程17および20の各々において実施される分散処理には、低粘度ミルベースの分散に適した分散機を適宜用いることができる。用い得る分散機としては、たとえば、インペラー分散機、ホモジナイザー分散機、ポット分散機、サンドミル分散機等が挙げられる。なお、一般には、1次工程17と2次工程20とにおいて、同一の分散機が用いられるが、分散させるべきミルベースの粘度、分散機の生産性および特性を考慮して、異なる分散機が用いられてもよい。
【0096】
固形成分としては、金属粉末、その合金粉末、セラミック等の無機酸化物粉末というように、種々の粉末が用いられる可能性がある。このようなとき、それぞれの粉末について、最適な分散剤、スラリー組成、分散条件等が異なる場合がある。
【0097】
上述のような場合、各粉末について、最適な分散剤、スラリー組成、分散条件等の下で分散処理して得られた複数のスラリーを混合することによって、第1スラリー18または第2スラリー21を得るようにしてもよく、また、複数の第2スラリー21から希釈溶剤を除去して、複数の中間ペーストを得た後に、これらを混合して、目的とする最終組成の導電性ペーストを得るようにしてもよい。
【0098】
また、3次工程22では、前述したように、第2スラリー21中に存在する塊状物(印刷面に現れる突起物)が除去される。この塊状物は、第2スラリー21中に含まれる固形成分粉末の未分散物、いずれかの工程において混入される異物、樹脂成分や分散剤などの有機物成分の不溶解物などからなることが、分析により判明している。このような塊状物を含んだ状態の導電性ペーストで内部導体膜を形成すると、薄層化が進む積層セラミック電子部品では、この塊状物がセラミックグリーンシートを貫き、得られた積層セラミック電子部品の信頼性および歩留まりを著しく低下させるという問題を引き起こすため、導電性ペーストの製造過程の中で除去しておく必要がある。
【0099】
この3次工程22において塊状物を除去する前の第2スラリー21の粘度は、0.5Pa・s以下に調整しておくことが好ましい。ここでの粘度は、測定温度25±5℃およびずり速度10(s-1)の条件にて、回転式粘度測定機によって測定した粘度を示している。
【0100】
第2スラリー21が0.5Pa・sを超える粘度であると、細かなフィルタを通過させる際の差圧が大きくなるため、通常、濾過時間が長くなり、生産性を低下させる。第2スラリー21を低粘度化しておくことにより、塊状物除去工程としての3次工程22での濾過時間を短縮でき、生産効率を向上させることができる。
【0101】
第2スラリー21の低粘度化は、第2スラリー21の加温または第2スラリー21への溶剤添加によって可能である。たとえば、4次工程23を実施しない場合には、第2スラリー21の加温を行なうことが好ましく、4次工程23を実施する場合には、第2スラリー21の加温および溶剤添加の一方または双方を適用することができる。また、前述したように、4次工程23を実施する場合には、塊状物除去工程としての3次工程22の前段階に限らず、1次工程17または2次工程20において、設計値より過剰量の溶剤をミルベース16または19へ添加しておくことによって、第2スラリー21の低粘度化を図ってもよい。
【0102】
3次工程22において実施される第2スラリー21に含まれる塊状物除去は、目開きが導電性ペーストに含まれる金属粉末の平均一次粒径の2倍以上かつ20μm以下であるフィルタを用いて、圧力1.5kg/cm2 未満の加圧濾過によって行なうことが好ましい。
【0103】
用いられるフィルタは、濾過精度の高いものであれば、どのような形状のものでもよい。カートリッジ式、カプセル式などのフィルタが、濾過精度および使用の容易さの点で適している。
【0104】
濾過時の圧力が1.5kg/cm2 以上と高く設定すると、濾過時間を短縮できるが、ゲル状の有機物成分までもがフィルタを通過するため、濾過精度の点からも、できる限り、濾過圧力を低くした低差圧状態での使用が好ましい。この発明に係る導電性ペーストの製造方法では、低粘度スラリーの状態で濾過を行なうことができるので、1.5kg/cm2 未満の加圧であっても、良好な生産効率をもってスラリーを濾過することができる。したがって、濾過圧力は、スラリー粘度によって適宜調整すればよい。
【0105】
3次工程22において用いるフィルタの目開きについて、これが20μmを超えると、金属粉末の損失量は少なくなるが、粗粒が除去されないために、導電性ペースト中に塊状物が残存する。したがって、3次工程22での塊状物除去の目的が達成されない。
【0106】
また、最も小さい塊状物を除去するためのフィルタには、導電性ペーストに含まれる金属粉末の平均一次粒径の2倍の目開きを有するフィルタを用いるのが効果的である。たとえば、平均一次粒径が0.2μmの金属粉末を用いる場合、目開きが0.4μmのフィルタを用いるのが効果的である。通常、金属粉末は、任意の幅の粒度分布をもっている。そのため、平均一次粒径と実質的に同じ目開きのフィルタでは、ほとんどの場合、金属成分の大部分が除去されてしまうため、好ましくない。
【0107】
フィルタの種類としては、綿繊維やガラス繊維を巻き込んだ糸巻き式などのデプスタイプ、あるいはポリテトラフルオロエチレンのメンブレン式やポリプロピレンの不織布などを使用したサーフェスタイプのいずれでもよい。導電性ペーストの製造において使用される溶剤に対する耐性など考慮して、用いるべきフィルタの材質および構造を適宜選択すればよい。
【0108】
濾過処理されるペースト中からゲル状樹脂のような変形する不純物を除去する場合には、糸巻き式などのデプスタイプのフィルタを使用することが好ましい。
【0109】
また、たとえば積層セラミックコンデンサ1のように、誘電体セラミック層3となるべきセラミックグリーンシートの厚みが薄い状況において内部導体膜を形成するために用いられる導電性ペーストを製造する場合には、濾過精度の高いメンブレン式などのサーフェスタイプのフィルタを用いることが好ましい。また、糸巻き式などのデプスタイプおよびメンブレン式などのサーフェスタイプの各々のフィルタを組み合わせて使用することによっても、より高い濾過精度を達成できる。
【0110】
このような精密フィルタによる濾過を行なえば、ある程度の固形成分が除去されてしまう。通常、導電性ペーストは、固形成分の含有量により、印刷などによる膜形成時の塗布厚みを調整している。そのため、濾過の結果、固形成分の含有量が設計値より低下してしまうと、目的とする塗布厚みを得られないという問題が発生する。
【0111】
そこで、濾過前のペースト中の固形成分含有量を設計値より高めに設定し、濾過による固形成分の損失を見越しておくことにより、得られた導電性ペーストの固形成分含有量のずれを防ぐことができる。
【0112】
また、濾過による固形成分の損失がロット毎に変動する場合においても、通常の濾過による固形成分の損失量より3〜4%程度高めに固形成分を添加しておき、濾過後において、目的とする固形成分含有量となるように、導電性ペーストに含まれる主溶剤を添加することによって、固形成分含有量を調整することも可能である。
【0113】
塊状物除去のために、目開きが20μm以下の細かいフィルタを使用すると、固形成分粉末の凝集が強い場合や、不純物が多い場合には、フィルタに詰まりが発生し、フィルタの寿命が極端に落ちることがある。
【0114】
このような問題を回避するためには、2段以上のフィルタを用いて、多段濾過を適用することが好ましい。このとき、多段のフィルタは互いに目開きが異なることが好ましい。そして、最終の目的とする濾過精度を与えるフィルタより前段に、目的とする濾過精度より粗めのフィルタを少なくとも1段配置するようにすれば、濾過効率が向上するとともに、固形成分の損失も最小限に抑制でき、また、最終段のフィルタの寿命を伸ばすこともできる。
【0115】
フィルタへの第2スラリー21の液送法としては、ダイアフラムポンプ、バイキングポンプ、チューブポンプ、モーノポンプなどのポンプによる液送や、圧縮空気、窒素ガスなどによるガス圧送などを適用することができ、フィルタの設定耐圧を超えない範囲で適宜選択すればよい。
【0116】
以上のように、この発明に係る導電性ペーストの製造方法によれば、固形成分粉末表面へ均質に有機物成分を効率良く吸着させ、固形成分粉末を良好に分散させることができる。その結果、大きなずり速度依存性を示すチキソトロピー流体である、この発明に係る導電性ペーストを高品質でかつ安定的に製造することができる。
【0117】
【実験例】
次に、この発明に従って実施した実験例について説明する。この実験例では、グラビア印刷用導電性ペーストを、積層セラミックコンデンサの内部導体膜を形成するために用いた。
【0118】
まず、表1に示すような試料1〜26の各々に係る導電性ペーストを作製した。表1および後述する表2において、試料番号に*が付されている試料は、この発明の範囲外のものである。
【0119】
表1を参照して、「比率」の各欄に記載された数値は、得られた導電性ペーストを100重量%としたときの各成分の重量割合を重量%で示したものである。
【0120】
また、「固形成分1」の「成分」の欄にある右側の数値は、固形成分粉末として用いたニッケル粉末および銅粉末の平均一次粒径(μm)を示している。
【0121】
なお、「固形成分2」の「成分」の欄にある「誘電体粉末」は、BaTiO3 系誘電体セラミック粉末であり、この実験例では、0.2μmの平均一次粒径を有するものを用いた。
【0122】
また、「樹脂成分」の「成分」の欄に示された「変性セルロース」は、試料15を除いて、重量平均分子量が5000〜250000であり、試料15についてのみ、重量平均分子量が2800である。
【0123】
また、「分散剤」の「成分」の欄にある「変性ポリアクリル酸エステル」は、試料20を除いて、重量平均分子量が4500〜200000であり、試料20についてのみ、重量平均分子量が3500である。また、「無水マレイン酸ポリスチレン共重合体」は、いずれも、重量平均分子量が4500〜200000である。
【0124】
また、「ペースト製造方法」の欄に「1」とあるのは、次のような製造方法に従って、試料に係る導電性ペーストを作製した。
【0125】
すなわち、固形成分、分散剤、樹脂成分(全添加量に対して1/3程度)および溶剤成分を混合することによって、第1ミルベースを得て、これを玉石(5mm径)とともに容積1リットルの樹脂ポット中で調合した。この調合済みポットを一定回転速度で12時間回転させることによって、ポットミル分散処理を行ない、第1スラリーを得た。
【0126】
次に、上記ポット中に、樹脂成分(残量)と溶剤成分とを予め混合しておいた有機ビヒクルを添加することによって、第2ミルベースを得て、さらに一定速度で12時間回転させることによって、ポットミル分散処理を行ない、第2スラリーを得た。
【0127】
次に、第2スラリーを加温した状態でスラリー粘度が0.5Pa・s以下になるように調整した後、目開きが20μm、10μm、5μm、3μmおよび最終段に金属粉末(固形成分1)の平均一次粒径の2倍の目開きのメンブレン式フィルタを用いて、圧力1.2kg/cm2 での濾過処理を行ない、導電性ペーストを得た。
【0128】
他方、「ペースト製造方法」の欄に「2」とある試料については、次のような製造方法に従って、各試料に係る導電性ペーストを製造した。
【0129】
すなわち、固形成分、分散剤、樹脂成分(全添加量に対して1/3程度)および溶剤成分を混合することによって、第1ミルベースを得て、これを玉石(5mm径)とともに容積1リットルの樹脂ポット中で調合した。この調合済みポットを一定回転速度で12時間回転させることによって、ポットミル分散処理を行ない、第1スラリーを得た。
【0130】
次に、上記ポット中に、樹脂成分(残量)と溶剤成分とを予め混合しておいた有機ビヒクルを添加し、さらに、溶剤成分を添加することによって、スラリー粘度が0.5Pa・s以下となるように調整した第2ミルベースを得た後、これを一定回転速度で12時間回転させることによって、ポットミル分散処理を行ない、第2スラリーを得た。
【0131】
次に、第2スラリーを加温した状態で、目開きが20μm、10μm、5μm、3μmおよび最終段に金属粉末(固形成分1)の平均一次粒径の2倍の目開きのメンブレン式フィルタを用いて、圧力1.2kg/cm2 での濾過処理を行ない、第3スラリーを得た。
【0132】
次に、第3スラリーを、2×10-2MPaの減圧下で45℃に加熱して溶剤の一部を除去するように減圧蒸留して、各試料に係る導電性ペーストを得た。
【0133】
なお、試料24については、溶剤成分として、表1に示したトルエンおよびターピネオールに加えて、第1ミルベースと第2ミルベースとの各々にメタノールを添加しており、第3スラリーから溶剤の一部を除去する工程において、沸点が最も低いメタノールの全量を除去した。
【0134】
また、「ペースト製造方法」の欄に「一括混合」とあるのは、この発明の比較例であり、固形成分、樹脂成分、分散剤および溶剤成分を、すべて一度に混合した後、ボールミルおよびアトライターを用いて、分散させ練り合わせて、各試料に係る導電性ペーストを作製したものである。
【0135】
【表1】
【0136】
次に、表1に示した各試料に係る導電性ペーストについて、表2に示すような各項目についての評価を行なった。なお、試料8については、固形成分1としてのニッケル粉末が非常に強く凝集していたため、その評価を行なわなかった。
【0137】
より詳細には、各試料に係る導電性ペーストについて、0.1(s-1)および10(s-1)のずり速度が加わったときの粘度を、25±5℃の環境下で、ずり速度制御方式の回転式粘度測定機により測定した。その結果が、表2の「粘度」の欄に示されている。
【0138】
また、上述の「粘度」の測定結果から、粘度変化率を、
粘度変化率(%)=[{(ずり速度0.1・s-1での粘度)−(ずり速度10・s-1での粘度)}/(ずり速度0.1・s-1での粘度)]×100
の式に基づいて求めた。その結果が、表2の「粘度変化率」の欄に示されている。
【0139】
また、固形成分の沈降状態を確認するため、作製直後の導電性ペーストを試験管に詰め、静止状態のまま24時間放置した後、目視により固形成分粉末(ニッケル粉末または銅粉末)の沈降度合いを評価した。その結果が、表2における「固形成分粉末の沈降」の欄に示され、「○」は、沈降が実質的に生じなかったことを示し、「△」は、沈降がやや生じたことを示し、「×」は、比較的多くの沈降が生じたことを示している。
【0140】
また、各試料に係る導電性ペーストのグラビア印刷適性について、次のように評価した。
【0141】
まず、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルム上に、厚み5.0μmのセラミックグリーンシートを成形した。また、グラビア印刷には、市販の包装用材用途に用いられるグラビア印刷機を用い、グラビア印刷用の版胴には、印刷面積中にチップパターンが数千個得られる形状のグラビア版を用いた。
【0142】
次に、上述のセラミックグリーンシート上に、目的とする導体膜厚みが1.5μmとなる所定の印刷条件を適用しながら、印刷速度20m/秒にて、各試料に係る導電性ペーストを連続印刷し、2時間連続印刷した後の印刷塗膜の厚み、白点の有無、および塊状物の有無を評価した。
【0143】
なお、これらの評価は、印刷面積中の任意の50点について行ない、厚みは蛍光X線により、白点および塊状物の観察は金属顕微鏡により行なった。
【0144】
これらの結果が、表2において、「印刷塗膜厚み」、「白点の有無」および「塊状物の有無」の各欄に示されている。
【0145】
次に、導電性ペーストを印刷したセラミックグリーンシートを乾燥した後、所定の枚数を積層して、所定の条件で加圧した後、所定の寸法にカットし、100nFの静電容量を設計値とする積層セラミックコンデンサのための生の積層体を得た。次に、生の積層体を、所定の温度にて焼成し、さらに外部電極を焼き付けによって形成し、試料となる積層セラミックコンデンサを得た。
【0146】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの静電容量を求めた。その結果が、表2において、「静電容量」に欄に示されている。
【0147】
なお、金属粉末として銅粉末を用いた試料5については、ニッケルを用いた他の試料と同一焼成条件での加工が不可能であるため、積層体への加工は行なわず、印刷から乾燥後のセラミックグリーンシート上の塗膜の形態観察評価に止めた。
【0148】
【表2】
【0149】
まず、固形成分比率が互いに異なる試料1〜7について比較する。
【0150】
いずれの試料においても、ずり速度0.1(s-1)での粘度が1.0Pa・s以上であり、粘度変化率も50%以上であった。また、固形成分粉末の沈降も、試料2〜7については全く発生せず、試料1については、やや発生したが、特に問題はなかった。
【0151】
しかし、この発明の範囲外である、固形成分が20重量%の試料1および同じく75重量%の試料7では、印刷適性および静電容量に不具合が確認された。
【0152】
すなわち、試料1では、固形成分としてのニッケル粉末の含有比率が少ないため、十分な印刷塗膜厚みを得ることができなかった。また、ニッケル粉末の沈降が関与した転写不良により白点が発生した。加えて、印刷塗膜中のニッケル粉末密度が低いため、焼成後の内部導体膜の有効面積が低下して、十分な静電容量が得られなかった。
【0153】
また、固形成分の多い試料7では、版詰まりにより、安定した印刷塗膜厚みが得られなかった。その結果、固形成分粉末としてのニッケル粉末の密度が低くなり、焼成後の内部導体膜の有効面積が減少し、そのため、十分な静電容量が得られなかった。
【0154】
これらに対して、固形成分が30〜70重量%の範囲にある試料2〜4および6では、グラビア印刷適性および積層セラミックコンデンサの電気的特性のいずれにおいても異常はなく優れていた。
【0155】
さらに、試料4のペースト組成から、金属粉末を銅粉末に変更した試料5についても、印刷塗膜厚み、白点の発生、塊状物の発生のいずれの評価においても問題はなく、良好なグラビア印刷適性を示していることがわかった。この実験例では、試料5に関して積層セラミックコンデンサとしての電気的特性評価は行なっていないが、銅電極に適したセラミック組成および焼成条件を適用すれば、特に印刷塗膜形状を原因とする不具合は発生しないものと推測できる。
【0156】
次に、固形成分1の平均一次粒径が互いに異なる試料8〜11について比較する。
【0157】
試料8以外の試料9〜11は、ずり速度0.1(s-1)での粘度が1.0Pa・s以上であり、粘度変化率も50%以上であった。また、固形成分粉末としてのニッケル粉末の沈降も発生しなかった。
【0158】
試料8では、平均一次粒径が0.05μmより小さい0.03μmのニッケル粉末を用いたが、ニッケルの磁性により粉末間の相互作用が非常に強く、ニッケル粉末が凝集したため、均質な分散性が得られず、ペースト化することが困難であった。
【0159】
これに対して、試料9〜11では、ニッケル粉末の平均一次粒径が0.05μm以上であり、グラビア印刷適性および積層セラミックコンデンサの電気的特性について何ら問題ない結果が得られた。なお、平均一次粒径が0.8μmのニッケル粉末を用いた試料11では、ニッケル粉末の平均一次粒径が0.05μm以上かつ0.5μm以下である試料9および10と比較して、印刷塗膜厚みが約10%程度増加した。これは、用いられたニッケル粉末の平均一次粒径が大きいことによるものである。
【0160】
この実験での条件下では、試料11であっても、グラビア印刷適性および積層セラミックコンデンサの電気的特性について十分に満足する結果が得られているが、積層セラミックコンデンサにおける薄層化が進み、印刷塗膜の厚みを薄くする必要がある場合には、試料9および10のように、用いられるニッケル粉末の平均一次粒径が0.05μm以上かつ0.5μm以下であることが好ましい。
【0161】
次に、樹脂成分比率が互いに異なる試料12〜17について比較する。
【0162】
いずれの試料も、ずり速度0.1(s-1)での粘度は1.0Pa・s以上であるが、試料12および17のみ、粘度変化率が50%未満であった。
【0163】
試料12では、樹脂成分の含有比率が0.5重量%と低いため、ニッケル粉末に対する樹脂成分の吸着が十分に生じず、その結果、分散性が低下して、高ずり速度域での粘度変化率が小さくなった。加えて、印刷塗膜中の樹脂成分も少なくなるため、塗膜強度が弱く、ブロッキング性が非常に悪かった。
【0164】
また、試料17では、樹脂成分の含有比率が12重量%と多いため、溶剤中に相溶して広がった樹脂成分が互いに絡み合う。その結果、ニッケル粉末の分散性は良好に維持できるが、粘度低下率が低くなった。
【0165】
これらの理由により、粘度変化率が低い試料12および17では、印刷時の版詰まり等の不具合により、十分な印刷塗膜厚みを得ることができなかった。また、転写不良による白点も発生しており、内部導体膜の有効面積低下により、十分な静電容量が得られなかった。
【0166】
これらに対して、樹脂成分の含有比率が1〜10重量%である試料13〜16のうち、試料15では、前述のように、重量平均分子量が5000未満の樹脂成分を用い、試料13、14および16では、重量平均分子量が5000以上の樹脂成分を用いている。
【0167】
したがって、試料15は、試料13、14および16と比較して、固形成分粉末に対して、安定かつ十分な吸着が得られないため、粘度変化率が小さくなっている。試料15であっても、この実験で採用した条件下では、実用上問題のない印刷特性が得られているが、より高品質の安定した印刷適性を実現するためには、試料13、14および16のように、用いられる樹脂成分の重量平均分子量を5000以上とすることが好ましい。
【0168】
次に、分散剤の含有比率が互いに異なる試料18〜21について比較する。なお、前述したように、試料19と試料20との間には、分散剤として用いた変性ポリアクリル酸エステルの重量平均分子量において差がある。
【0169】
いずれの試料も、ずり速度0.1(s-1)での粘度は1.0Pa・s以上であるが、試料18についてのみ、粘度変化率が50%未満であった。
【0170】
試料18では、分散剤を含んでいないため、固形成分粉末としてのニッケル粉末への吸着は樹脂成分のみである。樹脂成分のみでは、ニッケル粉末への吸着が十分でないため、分散性低下に伴い、凝集したニッケル粉末により、粘度変化率が低下したものである。また、印刷塗膜上には、塊状物が確認され、焼成後の積層セラミックコンデンサではショート不良が多発し、安定した品質を実現できなかった。
【0171】
このように、粘度変化率が低い試料18では、印刷時に導電性ペーストの流動性が向上しないため、版詰まり等の不具合により、十分な印刷塗膜厚みが得られず、また、転写不良による白点も発生した。その結果、内部導体膜の有効面積の減少により、十分な静電容量が得られなかった。
【0172】
また、試料20では、分散剤の重量平均分子量が4500未満であり、重量平均分子量が4500以上であることを除いて同じ条件の試料19と比較して、粘度変化率が小さかった。この実験で採用された条件下では、試料20であっても、実用上問題のない印刷適性が得られているが、より高品質の安定した印刷適性を実現するためには、分散剤の重量平均分子量が4500以上であることが好ましい。
【0173】
次に、試料22は、上述した試料と比較して、「ペースト製造方法」が「1」である点において大きく異なっているが、グラビア印刷適性および積層セラミックコンデンサの電気的特性のいずれもが優れた結果を示している。
【0174】
次に、試料23および24は、互いに同じ組成系であり、複数の溶剤成分を用い、かつ「ペースト製造方法」として「2」を採用して作製したものである。
【0175】
試料23での溶剤成分は、トルエン/ターピネオールの混合溶剤であり、第1スラリーおよび第2スラリーへ過剰量のトルエンを添加して各スラリーの粘度を低下させながら分散させ、その後、トルエンの設計値に対して過剰分を4次工程で除去した。
【0176】
また、試料24の溶剤成分は、最終的にトルエン/ターピネオールの混合溶剤であるが、第1スラリーおよび第2スラリーへ、前述したように、メタノールを添加して、スラリーの粘度を低下させ、分散させた後、添加したメタノールの全量を4次工程で除去した。
【0177】
これら試料23および24によれば、上述のいずれの方法を採用しても、粘度、印刷塗膜の状態および静電容量の各々について問題のない結果が得られていることがわかる。
【0178】
次に、試料25および26は、前述したように、「ペースト製造方法」として「一括混合」を採用した比較例である。これら試料25および26では、粘度変化率は50%以上であるが、ずり速度0.1(s-1)での粘度は1.0Pa・s未満である。
【0179】
これら試料25および26によれば、低ずり速度域での粘度が低いために、静止状態ではニッケル粉末等の固形成分粉末の沈降が起こり、導電性ペーストが分相した。そのため、印刷塗膜厚みのばらつきが大きく、正常な印刷塗膜を得ることが困難であった。その結果、積層セラミックコンデンサの電気的特性に関しても、設計値の静電容量が得られなかった。
【0180】
以上、この発明を、積層セラミックコンデンサの内部導体膜の形成に用いるグラビア印刷用導電性ペーストについて説明したが、この発明に係るグラビア印刷用導電性ペーストは、このような用途に限定されるものではなく、たとえば、多層セラミック基板等の積層セラミック電子部品に備える内部導体膜をグラビア印刷によって形成するための導電性ペーストとしても適用することができる。
【0181】
【発明の効果】
以上のように、この発明に係るグラビア印刷用導電性ペーストによれば、ずり速度0.1(s-1)での粘度が1Pa・s以上のチキソトロピー流体であって、ずり速度0.1(s-1)での粘度を基準としたときに、ずり速度10(s-1)での粘度変化率が50%以上であるので、比較的低いずり速度の状態では金属粉末を含む固形成分の沈降を防止できる粘度を保持し、印刷時には導電性ペーストに加わる比較的高いずり速度で粘度低下し流動性を向上させることができるので、グラビア印刷において高速での安定した連続印刷性が得られ、良好な生産効率をもって、積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品を製造することができる。
【0182】
この発明において、導電性ペーストに含まれる固形成分がセラミック粉末を含むと、積層セラミック電子部品のための生の積層体を焼成するとき、内部導体膜とセラミック層との収縮挙動の差による剥がれやクラック等の構造欠陥を生じにくくすることができる。
【0183】
この発明に係る導電性ペーストにおいて、固形成分として含まれる金属粉末がニッケルまたは銅のような卑金属を含む粉末である場合には、貴金属からなる粉末を用いる場合に比べて、導電性ペーストのコストないしは積層セラミック電子部品のコストを低減することができる。
【0184】
また、この発明に係る導電性ペーストによれば、そこに含まれる金属粉末の平均一次粒径が0.05μm以上にされるので、たとえば磁性等に基づく凝集を生じにくくすることができる。
【0185】
また、この発明に係る導電性ペーストによれば、そこに含まれる金属粉末の平均一次粒径を0.5μm以下にしているので、この導電性ペーストをもって形成される内部導体膜の薄層化および内部導体膜に沿って形成されるセラミック層の薄層化の要求に十分に対応することができる。
【0186】
また、この発明に係る導電性ペーストによれば、そこに含まれる樹脂成分の重量平均分子量が5000以上であるので、固形成分粉末に対する樹脂成分の十分な吸着性をより確実に得ることができる。
【0187】
また、この発明に係る導電性ペーストによれば、そこに含まれる分散剤がアニオン性分散剤を含み、このアニオン性分散剤が、重量平均分子量4500以上の重合反応体であるので、固形成分粉末に対する分散剤の十分な吸着性をより確実に得ることができる。
【0188】
また、この発明に係る導電性ペーストの製造方法によれば、固形成分と分散剤と溶剤成分とを含む第1ミルベースを混合および分散処理することによって、第1スラリーを得る、1次工程と、第1スラリーに樹脂成分と溶剤成分とを混合した第2ミルベースを分散処理することによって、第2スラリーを得る、2次工程と、第2スラリーから1.0μm以上の塊状物を除去する、3次工程とを実施するようにしているので、金属粉末を含む固形成分粉末の表面に有機物成分を効率良くかつ均質に吸着させることが容易となり、かつ良好な分散状態を得ることが容易となるので、前述したようなこの発明に係る特徴ある導電性ペーストを確実にかつ高い生産効率をもって製造することができる。
【0189】
上述の3次工程の後、溶剤成分の一部を除去することによって、導電性ペースト中の溶剤比率を調整する、4次工程をさらに実施するようにすれば、1次ないし3次工程で過剰な溶剤成分を添加しておくことができ、そのため、各ミルベースの低粘度化が可能となる。したがって、1次および2次工程で実施される分散処理や3次工程で実施される塊状物除去工程の作業効率を高めることができるとともに、これら分散処理および塊状物除去の効率を高めることができる。
【0190】
3次工程において塊状物を除去する前の第2スラリーの粘度を、0.5Pa・s以下に調整しておくと、塊状物除去を能率的に行なうことが可能となり、したがって、塊状物除去のために要する時間の短縮を図ることができる。
【0191】
3次工程において、目開きが金属粉末の平均一次粒径の2倍以上かつ20μm以下であるフィルタを用いると、塊状物を確実に除去しながら、金属粉末の損失量を少なく抑えることができる。
【0192】
3次工程において、2段以上の多段濾過が適用されると、用いられるフィルタの寿命を伸ばすことができるとともに、より高い濾過精度を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係るグラビア印刷用導電性ペーストを用いて構成される積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【図2】この発明の一実施形態による導電性ペーストの製造方法に備える複数の工程を順次示すブロック図である。
【符号の説明】
1 積層セラミックコンデンサ
2 積層体
3 誘電体セラミック層
4,5 内部導体膜
8,9 外部電極
16 第1ミルベース
17 1次工程
18 1次スラリー
19 第2ミルベース
20 2次工程
21 第2スラリー
22 3次工程
23 4次工程
Claims (15)
- 複数のセラミック層および前記セラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜を備える積層セラミック電子部品における前記内部導体膜をグラビア印刷によって形成するために用いられる導電性ペーストであって、
金属粉末を含む30〜70重量%の固形成分と、1〜10重量%の樹脂成分と、0.05〜5重量%の分散剤と、残部としての溶剤成分とを含み、
前記金属粉末の平均一次粒径は、0.05μm以上かつ0.5μm以下であり、
前記樹脂成分は、重量平均分子量が5000以上であり、
前記分散剤は、アニオン性分散剤を含み、前記アニオン性分散剤は、重合反応体であり、その重量平均分子量が4500以上であり、
ずり速度0.1(s-1)での粘度が1Pa・s以上のチキソトロピー流体であって、ずり速度0.1(s-1)での粘度を基準としたときに、ずり速度10(s-1)での粘度変化率が50%以上である、
導電性ペースト。 - 前記固形成分は、セラミック粉末を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
- 前記金属粉末は、卑金属を含む粉末である、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
- 前記卑金属は、ニッケルまたは銅を含む、請求項3に記載の導電性ペースト。
- 前記アニオン性分散剤は、カルボン酸、スルホン酸もしくはリン酸またはこれらいずれかの中和塩を有するモノマーを含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の導電性ペースト。
- 請求項1ないし5のいずれかに記載の導電性ペーストの製造方法であって、
前記固形成分と前記分散剤と前記溶剤成分とを含む第1ミルベースを混合および分散処理することによって、第1スラリーを得る、1次工程と、
前記第1スラリーに前記樹脂成分と前記溶剤成分とを混合した第2ミルベースを分散処理することによって、第2スラリーを得る、2次工程と、
前記第2スラリーから1.0μm以上の塊状物を除去する、3次工程と
を備える、導電性ペーストの製造方法。 - 前記3次工程の後、前記溶剤成分の一部を除去することによって、導電性ペースト中の溶剤比率を調整する、4次工程をさらに備える、請求項6に記載の導電性ペーストの製造方法。
- 前記4次工程は、加熱および減圧の少なくとも一方を適用して前記溶剤成分の一部を蒸発除去する工程を含む、請求項7に記載の導電性ペーストの製造方法。
- 前記3次工程において前記塊状物を除去する前の前記第2スラリーの粘度は、0.5Pa・s以下に調整されている、請求項6または7に記載の導電性ペーストの製造方法。
- 前記3次工程は、目開きが前記金属粉末の平均一次粒径の2倍以上かつ20μm以下であるフィルタを用いて前記塊状物を除去する工程を含む、請求項6ないし9のいずれかに記載の導電性ペーストの製造方法。
- 前記3次工程は、圧力1.5kg/cm2未満の加圧濾過により前記塊状物を除去する工程を含む、請求項6ないし10のいずれかに記載の導電性ペーストの製造方法。
- 前記3次工程において、2段以上の多段濾過が適用される、請求項6ないし11のいずれかに記載の導電性ペーストの製造方法。
- 前記3次工程において、デプスタイプまたはサーフェスタイプのフィルタが用いられる、請求項6ないし12のいずれかに記載の導電性ペーストの製造方法。
- 複数のセラミック層および前記セラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜を備える、積層セラミック電子部品であって、
前記内部導体膜は、請求項1ないし5のいずれかに記載の導電性ペーストを焼成して得られた焼結体からなる、積層セラミック電子部品。 - 前記内部導体膜は、前記セラミック層を介して静電容量が得られるように配置され、さらに、前記複数のセラミック層をもって構成される積層体の外表面上に形成され、かつ前記静電容量を取り出すため前記内部導体膜の特定のものに電気的に接続される外部電極を備え、それによって、積層セラミックコンデンサを構成する、請求項14に記載の積層セラミック電子部品。
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