JP4318237B2 - 複合半透膜の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液状混合物の成分を選択透過分離するために有用な高性能の複合半透膜を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法が利用されてきている。膜分離法に使用されている膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜がある。さらに近年になって逆浸透膜と限外ろ過膜の中間に位置する膜(ルースRO膜あるいはNF膜:Nanofiltration membrane)も現れ使用されるようになってきた。この技術は例えば海水、カン水、有害物を含んだ水から飲料水を得ることも可能であるし、また、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などにも用いられてきた。
【0003】
現在市販されている複合半透膜の大部分は多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものの2種類である。中でも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を多孔性支持膜上に被覆してなる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い逆浸透膜として広く用いられている。
【0004】
しかしながら、実用的な逆浸透用半透膜に対する要求は、年々高まり、省エネルギーという観点から、高い溶質除去性を維持したまま、より低圧での運転が可能な水透過性の高い半透膜の出現が望まれている。一方で、高回収率の運転も望まれているが、シリカの排除率の高い膜で高回収率運転を行うと濃縮水側のシリカの濃度が急激に上昇し膜面に析出する。このことにより膜性能の低下が起こり安定運転および水質の向上が望めないという問題もある。
【0005】
ところで、近年、河川水および湖沼水などを原水とする浄水場では田畑や茶畑、ゴルフ場などに多量に散布された農薬が近隣の河川、湖沼に流入し問題となりつつある。農薬にはその用途により様々な物質が存在するが一般的に分子量200程度であり、膜分離法では精密ろ過膜、限外ろ過膜は細孔径が大きく、農薬の十分な除去が行えない。また、逆浸透膜では細孔径が小さく農薬の除去率は高いがシリカ除去率も高くなる。このことにより、逆浸透膜を用いての高回収率の運転は難しいという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題点を解決するために、高い溶質排除性と高い水透過性を有し、高回収率運転の可能な複合半透膜を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の構成を有する。
「トリメシン酸ハロゲン化物と、一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能アミンとの重縮合により、多孔性支持膜上に架橋ポリアミドの分離機能層を形成するに際し、多官能アミンがメタフェニレンジアミンおよび1,3,5−トリアミノベンゼンをメタフェニレンジアミン/1,3,5−トリアミノベンゼンの割合が10/90〜25/75(モル比)の範囲で含むものであり、前記重縮合を、トリメリット酸無水物ハロゲン化物の存在下で行うとともに、前記トリメシン酸ハロゲン化物に対する前記トリメリット酸無水物ハロゲン化物のモル比が0.2〜10の範囲内になるように調整することを特徴とする複合半透膜の製造方法。」
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明では、多官能アミンとして、メタフェニレンジアミンおよび1,3,5−トリアミノベンゼンを含むものを用いる。ここで、多官能アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有するアミンであり、2官能以上のアミンとしては、たとえば芳香族アミンであるm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、脂肪族ではメチレンジアミン、エチレンジアミン、プロパンジアミン、シクロプロパンジアミン、1,2-シクロブタンジアミン、1,3-シクロブタンジアミン、1,2-シクロペンタンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、プロパントリアミン、シクロプロパントリアミン、1,2,3-シクロブタントリアミン、1,2,3-シクロペンタントリアミン、1,3,5-シクロヘキサントリアミンなどがある。本発明では、特に重縮合反応性の観点から芳香族アミンのm-フェニレンジアミンおよび高架橋性の観点から1,3,5−トリアミノベンゼンが用いられる。多官能アミンとしては2種以上を用いる。
【0011】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に1つ以上のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物であり、上記多官能アミンとの重縮合反応によりポリアミドを与えるものであれば特に限定されるものではない。多官能酸ハロゲン化物として、例えば1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸の酸ハロゲン化物を用いることができる。特に経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応性の容易さ等の点から1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸ハロゲン化物であるトリメシン酸クロライドが好ましい。また、上記多官能酸ハロゲン化物は単独で用いることもできるが、混合物として用いてもよい。
【0012】
本発明法により製造して得られる複合半透膜は、X線光電子分光法(ESCA)を用いて分析した分離機能層中の親水基濃度の総和が0.001以上0.1未満の範囲内にあり、かつ、カルボキシル基濃度が0.001以上0.015以下の範囲内にある、という性質を具備することができる。ここで親水基とは特に限定はしないが、その濃度の和を定義する場合、アミノ基、水酸基、カルボニル基、スルホ基、カルボキシル基である。親水基濃度とは分離機能層中の全炭素量(モル数)に対する親水基量(モル数)の割合のことであり下記式で示される。親水基は混合している場合も含む。
【0013】
【数1】
【0014】
親水基濃度は、Journal of Polymer Science Vol.26 559−572(1988)および日本接着学会誌 Vol.27 No.4(1991)で例示されているX線光電子分光法(ESCA)を用いることにより求めることができる。
【0015】
アミノ基濃度、水酸基濃度およびカルボキシル基濃度については、ラベル化試薬による気相化学修飾法により求めることができる。ラベル化試薬としては、アミノ基ではペンタフルオロベンズアルデヒド、水酸基では無水トリフルオロ酢酸、カルボキシル基ではトリフルオロエタノールを用いる。ラベル化試薬を変更することで同様な測定方法で測定ができる。
【0016】
以下に一例として、カルボキシル基濃度の測定方法について説明する。試料をラベル化試薬により気相化学修飾を行い、同時に気相化学修飾を行ったポリアクリル酸標準試料のESCAスペクトルからラベル化試薬の反応率(r)および反応残留物の残留率(m)を求める。つぎに試料とラベル化試薬が反応してできたF1sピーク(フッ素の1S軌道のピーク)の面積強度[F1s]を求める。また、元素分析によりC1sピーク(炭素の1S軌道のピーク)の面積強度[C1s]を求める。
測定条件を以下に示す。
【0017】
励起X線:Mg K α 1,2線(1253.6eV) X線出力:8kV 30mV
光電子脱出角度:90°
データ処理は中性炭素(CHx)のC1sピーク位置を284.6eVに合わせた。
上述のようにして求めた面積強度[F1s]、[C1s]をJournal of Polymer Science Vol.26 559−572(1988)に示される下記式に代入しカルボキシル基濃度を求めることができる。
【0018】
【数2】
【0019】
RCOOH:カルボキシル基濃度、[F1s]:フッ素の1S軌道のピークの面積強度、kF1s:フッ素の1S軌道のピークの感度補正値、r:ラベル化試薬の反応率、 [C1s]:炭素の1S軌道のピークの面積強度、m:反応残留物の残留率
また、カルボニル基およびスルホ基濃度は、日本接着学会誌 Vol.27 No.4(1991)で例示されているように、ワイドスキャン、ナロースキャンを行い、ナロースキャンの化学シフトから元素の化学状態を判断する。次いで、ナロースキャンスペクトルをピーク分割することにより求めることができる。
【0020】
分離機能層中の親水基濃度が多いと、透水性は増加するが農薬の除去性能が低下してしまう。逆に親水基濃度が少ないと膜が疎水性になり透水性が低下する。このため親水基濃度の総和は0.001以上0.1未満、好ましくは0.001以上0.08以下、とりわけ0.001以上0.04以下が好ましい。それと同時にカルボキシル基濃度は0.001以上0.015以下、好ましくは0.001以上0.014以下、とりわけ0.001以上0.01以下が好ましい。これにより、高い農薬除去性能および適度な親水性のため高い透過水量を得ることができる。
【0021】
上記の親水基濃度を実現するために、本発明では多官能酸無水物ハロゲン化物を重縮合の際に存在させ、そのモル比が多官能酸ハロゲン化物に対して0.2〜10倍とすることが好ましい。モル比が0.2倍以下であると多官能酸無水物ハロゲン化物の効果が現れにくく複合半透膜の高い水透過性が得られず、また、10倍以上では複合半透膜がうまく生成されないので、好ましくは0.3〜9倍、とりわけ0.5〜6倍のモル比がより好ましい。
【0022】
ここでいう多官能酸無水物ハロゲン化物とは、一分子中に一個以上の酸無水物部分と一個以上のハロゲン化カルボニル基を有するものであって、例えば無水安息香酸、無水フタル酸、無水酢酸の酸無水物部分に酸ハロゲン基を有する物などが挙げられるが、高い水透過性や溶解性有機物を除去する適度な細孔径などから、特に下記式で表されるトリメリット酸無水物ハロゲン化物が好ましく用いられる。
【0023】
【化3】
【0024】
X1、X2:炭素数が1〜6の範囲の脂肪族基、H、OH、COOH、SO3H、COF、COCl、COBrもしくはCOIまたはそれらが結合した酸無水物基
X3:炭素数が1〜6の範囲の脂肪族基、H、OH、COOH、SO3H、COF、COCl、COBrまたはCOI
Y:F、Cl、BrまたはI
本発明の複合半透膜は、特に限定されるものではないが、実質的に分離性能を有する分離機能層が、実質的に分離性能を有さない多孔性支持膜上に被覆されてなり、該超薄膜は、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合によって得られる架橋ポリアミドである。
【0025】
本発明において、好ましい多孔性支持膜としては布帛により強化されたポリスルホン支持膜を例示することができる。
【0026】
多孔性支持膜は、実質的には分離性能を有さない層で、実質的に分離性能を有する分離機能層に機械的強度を与えるために用いられるものであり、均一で微細な孔あるいは片面からもう一方の面まで徐々に大きな微細な孔をもっていて、その微細孔の大きさはその片面の表面が100nm以下であるような構造の支持膜が好ましい。上記の多孔性支持膜は、ミリポア社製“ミリポアフィルターVSWP”(商品名)や、東洋濾紙社製“ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるが、通常は、“オフィス・オブ・セイリーン・ウォ−ター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造できる。その素材にはポリスルホンや酢酸セルロース、硝酸セルロースやポリ塩化ビニル等のホモポリマーあるいはブレンドしたものが通常使用されるが、化学的、機械的、熱的に安定性の高い、ポリスルホンを使用するのが好ましい。例えば、上記ポリスルホンのジメチルホルムアミド(DMF)溶液を密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それをドデシル硫酸ソーダ0.5重量%およびDMF2重量%を含む水溶液中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有した多孔性支持膜が得られる。
【0027】
次に、本複合半透膜の製造方法について説明する。
【0028】
複合半透膜中の実質的に分離性能を有する分離機能層は、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、前述の多官能酸ハロゲン化物を含有する水と非混和性の有機溶媒溶液を用い、前述の多孔性支持膜上で重縮合により形成される。
【0029】
多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%である。また、該水溶液および有機溶媒溶液には多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、必要に応じて、アシル化触媒や極性溶媒、酸捕捉剤、界面活性剤、酸化防止剤等の化合物が含まれていてもよい。
【0030】
多孔性支持膜表面へのアミン水溶液の被覆は、水溶液が表面に均一にかつ連続的に被覆されればよく、公知の塗布手段、例えば、水溶液を多孔性支持膜表面にコーティングする方法、多孔性支持膜を水溶液に浸漬する方法等で行えばよい。
【0031】
次いで過剰に塗布されたアミン水溶液を液切り工程により除去する。液切りの方法としては、例えば膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法等がある。液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の全部あるいは一部を除去してもよい。次いで、前述の多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を塗布し、重縮合により架橋ポリアミド分離機能層を形成させる。多官能酸ハロゲン化物の濃度は特に限定されるものではないが、少なすぎると活性層である超薄膜の形成が不十分となり欠点になる可能性があり、多いとコスト面から不利になるため、0.01〜1.0重量%程度が好ましい。多官能酸ハロゲン化物のアミン水溶液相への接触の方法は、アミノ化合物水溶液の多孔性支持膜への被覆方法と同様に行えばよい。また、反応後の有機溶媒の除去は、例えば、特開平5−76740記載の方法で行うことができる。
【0032】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し多孔性支持膜を破壊しないことが必要であり、重縮合反応により架橋ポリマを形成し得るものであればいずれであっても良い。代表例としては液状の炭化水素、トリクロロトリフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられるが、オゾン層を破壊しない物質であることや入手のしやすさ、取り扱いの容易さ、取り扱い上の安全性を考慮するとオクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカンなど、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン、1−オクテン、1−デセンなどの単体あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0033】
複合半透膜中の分離機能層の膜厚としては、1nm〜500nm、好ましくは1nm〜100nm、さらに好ましくは1nm〜60nm、とりわけ1nm〜20nmが好ましい。
【0034】
本発明の複合半透膜は、中空糸形や平膜形として用いることができる。また、エレメント形態として、スパイラル形やチューブラー形やプレートアンドフレーム形などを用いることができるが、特に、スパイラル形であれば、膜上に捕捉された異物などを容易に除去することができるので好ましい。
【0035】
以上のような手段を用いることにより従来の精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜等では成し得ない高い農薬除去性能と高い水透過性を有し、高いシリカ透過性による高回収率運転が可能な複合半透膜を実現できる。
【0036】
また、本発明法により得られる複合半透膜を用いた造水装置により膜ろ過する場合には、操作圧力を0.1〜3.0MPaの範囲内とすることにより、原水中に含まれる有害物質およびその前駆物質を効率的に除去することができる。操作圧力を低くすると使用するポンプの容量が少なくなり電力費が低下する反面、膜が目詰まりしやすくなり透過水量が少なくなる。逆に操作圧力を高くすると前記の理由で電力費が増加し、透過水量が多くなる。したがって、操作圧力の範囲としては、0.1〜3.0MPa、好ましくは0.1〜2.0MPa、とりわけ0.1〜1.0MPaが好ましい。透過水量の範囲としては透過水量を安定に維持する上で0.5〜5.0m3/m2・d、好ましくは0.6〜3.0m3/m2・d、とりわけ0.8〜2.0m3/m2・dが好ましい。
【0037】
また、造水コストを下げ効率的に供給水を回収するために、回収率が80%以上である複合半透膜を用いることが好ましい。
【0038】
ここで、回収率とは、温度が25℃、pH6.5、シリカ濃度が30ppmの水溶液を0.3MPaで3時間透過させた時に、下記1〜4の連立方程式を解くことにより得られる値をいう。
1.F=B+P
2.F×Cf=B×Cb+P×Cp
3.除去率=(1−Cp/Cf)×100
4.回収率=P/F×100
ここで、F:供給液流量、B:濃縮液流量、P:透過液流量、Cf:供給液中の溶質濃度(ppm)、Cb:濃縮液中の溶質濃度(120ppm:シリカのpH=6.5、25℃での飽和溶液濃度)、Cp:透過液中の溶質濃度(ppm)である。また、除去率(%)は、(1−(透過液中の溶質濃度)/(供給液中の溶質濃度))×100により求める。
【0039】
有害物質とは、トリハロメタンあるいは農薬などを挙げることが出来る。トリハロメタン前駆物質は浄水場での塩素殺菌において発癌性を有するトリハロメタンを生成する可能性がある。トリハロメタン前駆物質としてはフミン酸、フルボ酸などが挙げられるが、特にトリハロメタンの生成量が多いのはフミン酸である。農薬としては、平成5年に新たに改定された水道水質基準の健康に関連する項目中に1,3-ジクロロブロベン、シマジン、チウラム、チオベンカーブ(ベンチオカーブ)の4つが管理対象として挙げられている。また、WHO飲料水水質ガイドラインには海外において問題となっているアトラジンが管理対象として挙げられている。これらの農薬は、いずれもppbオーダーで水質基準値が決められており、原水からの高いレベルでの除去が期待される。除去率は農薬の原水中の濃度によって変わる。一例として代表的な畑作用除草剤であるシマジンについて説明する。透過水側のシマジンの濃度を水質基準値の半分以下とすると、原水濃度が基準値の3ppbであるとき、除去率は50%以上が必要である。
【0040】
次に、本発明法により得られる複合分離膜を用いる造水装置について述べる。
【0041】
図1は、本発明の一実施態様に係る造水装置の概略フロー図である。造水装置7において、原水路1から原水槽2に導入された原水は、ポンプ3によって分離膜4へ送られ、ろ過が行われる。分離膜4を透過した透過水は透過水路6から取り出され、また、分離膜を透過しなかった濃縮水は濃縮水路5から取り出されるとともに、一部が原水槽2へ循環し、ふたたびろ過に供される。
【0042】
本発明の造水装置は、原水のろ過を行う分離膜を備え、かつ、この分離膜が操作圧力0.3MPaにおける透過水量が0.5〜3.0m3/m2・dの範囲にあるスパイラル型逆浸透膜である。分離膜の特性として上記の透過水量を有することにより、より低い操作圧力においても十分な透過水量を得ることができる。分離膜としては、たとえば、上述した本発明の複合半透膜を用いることができる。
【0043】
また、膜形態をスパイラル型とすることにより、膜状に捕捉された異物などを容易に除去することができる。
【0044】
分離膜への原水の供給は、自然流下などにより行うこともできるが、ポンプを用いて行うと、安定的に透過水を得ることができるので好ましい。
【0045】
分離膜の操作圧力は、0.1〜3.0MPaの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜2.0MPaの範囲であり、さらに好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲である。操作圧力が0.1MPaを下回ると、透過水量が低下する傾向にあり、3.0MPaを超えると、膜が変形しやすくなり安定したろ過を行いにくくなる。
【0046】
また、本発明の造水装置の回収率を80%以上、より好ましくは90%以上として運転することが好ましい。ここで、造水装置の回収率とは造水装置に供給した原水量に対する透過水量の割合のことをいい、操作圧力や濃縮水の原水槽2への循環量などにより調節することができる。この回収率を80%以上とすることにより、より経済的に透過水を得ることができる。
【0047】
本発明の複合半透膜を用いることにより、シリカ濃度30ppm as SiO2(全国平均値)において、シリカを透過し、シリカスケール生成を防止することも可能であり、回収率80%以上の高回収率運転を行うことができる。
【0048】
【実施例】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0049】
なお、実施例において除去率および透過率は次式により求めた。
【0050】
除去率(%)={1−(透過液中の溶質濃度)/(供給液中の溶質濃度)}×100
透過率(%)=(透過液中の溶質濃度/供給液中の溶質濃度)×100
さらに、造水量は単位時間(日)に単位面積(m2)当たりの膜を透過する透過水量(m3/m2・d)で求めた。
参考例1
本発明において使用した繊維補強ポリスルホン支持膜(限外濾過膜)は、以下の手法により製造した。
【0051】
タテ30cmヨコ20cmの大きさのポリエステル繊維からなるタフタ(タテ糸、ヨコ糸とも150デニールのマルチフィラメント糸、織密度タテ90本/インチ、ヨコ67本/インチ、厚さ160μ)をガラス板上に固定し、その上にポリスルホン(ユニオン・カーバイト社製のUdel−P3500)の15重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を200μの厚みで室温(20℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜(以下FR−PS支持膜と略す)を作製する。
このようにして得られたFR−PS支持膜(厚さ210〜215μ)の造水量は、圧力0.1MPa、温度25℃で測定して1.7m3/m2・dであった。また、pH6.5に調整した3ppbのシマジンを原水とし、上記と同様の条件下で限外濾過テストした結果、シマジンの除去率は0.2%であった。pH6.5に調整した2ppbのアトラジンを原水としシマジンと同条件下で限外濾過テストした結果、アトラジンの除去率は0.5%であった。さらに、Na2SiO3・9H20をSiO2として30ppm相当になるように溶解した水溶液を原水とし、シマジンと同様の条件下で限外濾過テストした結果、シリカの透過率は、99.9%であった。
比較例1
参考例1に従って製造したFR−PS支持膜をm−フェニレンジアミン3重量%を含む水溶液中に1分間浸漬した。支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取除いた後、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含んだデカン溶液にトリメシン酸クロライドに対してモル比が2.33となるようにトリメリット酸無水物クロライドを加えた溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、膜面に残った溶媒を蒸発させるために膜表面での風速が8m/s、温度30℃の空気を1分間吹き付けた。この膜を炭酸ナトリウムを1重量%、ドデシル硫酸ナトリウムを0.3重量%含む水溶液に2分間浸漬した。
このようにして得られた複合半透膜をpH6.5に調整した3ppbのシマジンおよび2ppbのアトラジンをそれぞれ別々の原水とし、0.3MPa、25℃の条件下で逆浸透テストした結果、造水量は2.50m3/m2・d、シマジンの除去率は3.5%、アトラジンの除去率は4.1%であった。さらに、Na2SiO3・9H20をSiO2として30ppm相当になるように溶解した水溶液を原水とし、シマジンと同様の条件下で逆浸透テストした結果、シリカの透過率は94.8%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると98.3%であった。また、X線光電子分光法(ESCA)によりカルボキシル基濃度を求めると、0.026であった。
参考例2
実施例1(後述)と同様にして得られた複合半透膜を用い、操作圧力を3.2MPaにした以外は比較例1と同条件下で逆浸透テストした結果、透過水量は20.6m3/m2・d、シマジンの除去率は40%、アトラジン除去率は45%、シリカの透過率は98.0%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると99.3%であった。
参考例3
実施例1(後述)と同様にして得られた複合半透膜を用い、操作圧力を0.05MPaにした以外は比較例1と同条件下で逆浸透テストした結果、透過水量は0.33m3/m2・d、シマジンの除去率は25%、アトラジン除去率32%、シリカの透過率は91.3%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると97.7%であった。
比較例2
トリメシン酸クロライドに対してモル比が0.1となるようにトリメリット酸無水物クロライドを加えた以外は比較例1と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜の操作圧力を0.8MPaにした以外は比較例1と同条件下で逆浸透テストした結果、透過水量は1.0m3/m2・d、シマジンの除去率は98%、アトラジン除去率99%、シリカの透過率は5.3%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると76%であった。
比較例3
トリメシン酸クロライドに対してモル比が10.2となるようにトリメリット酸無水物クロライドを加えた以外は比較例1と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜の操作圧力を0.1MPaにした以外は比較例1と同条件下で逆浸透テストした結果、透過水量は1.2m3/m2・d、シマジンの除去率は1.2%、アトラジン除去率1.5%、シリカの透過率は98.9%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると99.7%であった。
実施例1
m-フェニレンジアミンを含む水溶液にアミン全体で3重量%でm-フェニレンジアミン/1,3,5−トリアミノベンゼン=15/85(モル比)となるように1,3,5−トリアミノベンゼンを加えた以外は比較例1と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜の操作圧力を0.3MPaにした以外は比較例1と同様の条件下で逆浸透テストした結果、透過水量は1.95m3/m2・d、シマジンの除去率は80%、アトラジン除去率87%、シリカの透過率は96.0%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると98.7%であった。また、X線光電子分光法(ESCA)により親水基濃度の総和を求めると0.005、カルボキシル基濃度を求めると、0.004であった。
実施例2
m-フェニレンジアミンを含む水溶液にアミン全体で3重量%でm-フェニレンジアミン/1,3,5−トリアミノベンゼン=10/90モル比となるように1,3,5−トリアミノベンゼンを加え、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含んだデカン溶液にトリメシン酸クロライドに対してモル比が1.68となるようにトリメリット酸無水物クロライドを加えた以外は、比較例1と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様の条件下で逆浸透テストした結果、透過水量は1.4m3/m2・d、シマジンの除去率は75%、アトラジン除去率83%、シリカの透過率は90.3%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると96.8%であったまた、X線光電子分光法(ESCA)により、親水基濃度の総和を求めると0.020、カルボキシル基濃度を求めると、0.012であった。
実施例3
m-フェニレンジアミンを含む水溶液にアミン全体で3重量%でm-フェニレンジアミン/1,3,5−トリアミノベンゼン=25/75モル比となるように1,3,5−トリアミノベンゼンを加え、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含んだデカン溶液にトリメシン酸クロライドに対してモル比が1.0となるようにトリメリット酸無水物クロライドを加えた以外は、比較例1と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様の条件下で逆浸透テストした結果、透過水量は1.02m3/m2・d、シマジンの除去率は73%、アトラジン除去率78%、シリカの透過率は95.2%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると98.4%であったまた、X線光電子分光法(ESCA)により、親水基濃度の総和を求めると0.030、カルボキシル基濃度を求めると、0.015であった。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に、比較例1〜3、参考例2〜3および実施例1〜3について逆浸透テストした結果をまとめた。
実施例4
実施例1で用いた複合半透膜を分離膜として、図1に示したような造水装置を作製した。この造水装置を用いて操作圧力0.3MPaにて、2ppbのアトラジンを含む原水をろ過しろ過水を得たところ、回収率は90%であった。また、アトラジンの除去率は90%であった。
【0054】
【発明の効果】
本発明法により複合半透膜を製造することにより、高い水透過性を有する複合半透膜を得ることができ、これを用いることで、原水中に含まれる汚染物質や微量有害物質を選択的に分離除去し高回収率運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明法により得られる複合半透膜を用いる造水装置の一実施態様を示す概念フロー図である。
【符号の説明】
1:原水路
2:原水槽
3:ポンプ
4:分離膜
5:濃縮水路
6:透過水路
7:造水装置
Claims (1)
- トリメシン酸ハロゲン化物と、一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能アミンとの重縮合により、多孔性支持膜上に架橋ポリアミドの分離機能層を形成するに際し、多官能アミンがメタフェニレンジアミンおよび1,3,5−トリアミノベンゼンをメタフェニレンジアミン/1,3,5−トリアミノベンゼンの割合が10/90〜25/75(モル比)の範囲で含むものであり、前記重縮合を、トリメリット酸無水物ハロゲン化物の存在下で行うとともに、前記トリメシン酸ハロゲン化物に対する前記トリメリット酸無水物ハロゲン化物のモル比が0.2〜10の範囲内になるように調整することを特徴とする複合半透膜の製造方法。
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