JP3852211B2 - 複合半透膜およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液状混合物の成分を選択透過分離するための高性能な複合半透膜およびその製造方法に関するものである。本発明によって得られる複合半透膜は特に浄水場の原水中に含まれる汚染物質や微量有害物質およびそれらの前駆物質などを選択的に分離除去しシリカを透過し低圧、高回収率運転下で飲料水の製造に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法が利用されてきている。膜分離法に使用されている膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜がある。さらに近年になって逆浸透膜と限外ろ過膜の中間に位置する膜(ルースRO膜あるいはNF膜:Nanofiltration membrane)も現れ使用されるようになってきた。この技術は例えば海水、カン水、有害物を含んだ水から飲料水を得ることも可能であるし、また、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などにも用いられてきた。
【0003】
現在市販されている複合半透膜の大部分は微多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、微多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものの2種類である。中でも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる超薄膜層を微多孔性支持膜上に被覆してなる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い逆浸透膜として広く用いられている。
【0004】
しかしながら、実用的な逆浸透用半透膜に対する要求は、年々高まり、省エネルギーという観点から、高い溶質排除性を維持したまま、より低圧運転が可能な水透過性の高い半透膜の出現が望まれている。一方で、高回収率の運転も望まれているが、シリカの排除率の高い膜で高回収率運転を行うと濃縮水側のシリカの濃度が急激に上昇し膜面に析出する。このことにより膜性能の低下が起こり安定運転および水質の向上が望めないという問題もある。
【0005】
ところで、近年、河川水および湖沼水などを原水とする浄水場では泥炭地や山間部などから流入する溶解性有機物(トリハロメタン前駆物質)を浄水場で塩素殺菌処理することで発ガン性を有するハロゲン含有有機物(トリハロメタン類)の生成が深刻な問題になっている。トリハロメタン前駆物質でもっとも重要なものは分子量数千〜数万の溶解性有機物であるフミン酸である。現在、浄水場への導入が検討されているオゾン・活性炭処理方法では運転開始時の除去率は高いが長期運転を行うと活性炭の細孔内に吸着が起こり除去率が急激に低下し、ついには除去ができなくなる。このために頻繁に活性炭の交換が必要となりコストがかかるという問題がある。また、接触酸化法、生物膜法などの生物処理法では溶解性有機物が生物代謝の末に生成されてきたものであり十分な除去が行えないという問題がある。膜分離法では精密ろ過膜、限外ろ過膜は細孔径が大きく、フミン酸の十分な除去が行えない。また、逆浸透膜では細孔径が小さくフミン酸の除去率は高いがシリカ除去率も高くなる。このことにより、逆浸透膜を用いての高回収率の運転は難しいという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題点を解決するために、低圧操作下でも高い溶質排除性と高い水透過性を有し高回収率運転の可能な複合半透膜および上水を浄化または製造する方法およびそのための装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の構成を有する。
【0008】
第一および第二の発明として、
「一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物および多官能酸無水物ハロゲン化物を重縮合させてなる架橋ポリアミドの超薄膜層を微多孔性支持膜上に形成させた複合半透膜であって、超薄膜層中のカルボキシル基濃度が0.02〜0.07であり、かつ、操作圧力0.3MPaにおける水の透過量が0.5〜3.0m 3 /m 2 ・dであることを特徴とする複合半透膜およびその製造方法。」
第三の発明として、
「上記複合半透膜を有してなることを特徴とする上水浄化装置。」
第四の発明として、
「原水を、上記複合半透膜を用いてろ過する工程を含むことを特徴とする上水の製造方法。」
である。
【0009】
【発明の実施の形態】
第一および第二の発明において、膜中に親水基を含有することになる。親水基とは特に限定はしないが、その濃度の和を定義する場合、アミノ基、水酸基、カルボニル基、スルホ基、カルボキシル基である。親水基濃度とは超薄膜層中の全炭素量(モル数)に対する親水基量(モル数)の割合のことであり式2で示される。親水基は混合している場合も含む。
【0010】
【数1】
…式2
親水基濃度は、Journal of Polymer Science Vol.26 559−572(1988)および日本接着学会誌 Vol.27 No.4(1991)で例示されているX線光電子分光法(ESCA)を用いることにより求めることができる。
【0011】
アミノ基濃度、水酸基濃度およびカルボキシル基濃度については、ラベル化試薬による気相化学修飾法により求めることができる。ラベル化試薬としては、アミノ基ではペンタフルオロベンズアルデヒド、水酸基では無水トリフルオロ酢酸、カルボキシル基ではトリフルオロエタノールを用いる。ラベル化試薬を変更することで同様な測定方法で測定ができる。
【0012】
以下に一例として、本発明で規定するカルボキシル基濃度の測定方法について説明する。試料をラベル化試薬により気相化学修飾を行い、同時に気相化学修飾を行ったポリアクリル酸標準試料のESCAスペクトルからラベル化試薬の反応率(r)および反応残留物の残留率(m)を求める。つぎに試料とラベル化試薬が反応してできたF1sピーク(フッ素の1S軌道のピーク)の面積強度[F1s]を求める。また、元素分析によりC1sピーク(炭素の1S軌道のピーク)の面積強度[C1s]を求める。
【0013】
測定条件を以下に示す。
【0014】
励起X線:Mg K α 1,2線(1253.6eV) X線出力:8kV 30mV
光電子脱出角度:90°
データ処理は中性炭素(CHx)のC1sピーク位置を284.6eVに合わせた。
【0015】
上述のようにして求めた面積強度[F1s]、[C1s]をJournal of Polymer Science Vol.26 559−572(1988)に示される式3に代入しカルボキシル基濃度を求めることができる。
【0016】
【数2】
…式3
RCOOH:カルボキシル基濃度[F1s]:フッ素、kF1s:フッ素の1S軌道のピークの感度補正値、r:ラベル化試薬の反応率、 [C1s]:炭素の1S軌道のピークの面積強度、m:反応残留物の残留率
また、カルボニル基およびスルホ基濃度は、日本接着学会誌 Vol.27 No.4(1991)で例示されているように、ワイドスキャン、ナロースキャンを行い、ナロースキャンの化学シフトから元素の化学状態を判断する。次いで、ナロースキャンスペクトルをピーク分割することにより求めることができる。
【0017】
カルボキシル基濃度が高いと膜がうまく形成されないか、あるいは膜としての形状を保持できず膜性能を実現できない傾向がある。逆にカルボキシル基濃度が低いと膜が疎水性になり透水性が低下する。このため、カルボキシル基は0.02〜0.07である必要があり、0.02〜0.05が好ましい。これにより、親水性が増し低圧においても高い透過水量を得ることができる。
【0018】
上記のカルボキシル基濃度を有する複合半透膜は、一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物から重縮合によって、架橋ポリアミドの超薄膜層を微多孔性支持膜上に形成させる複合半透膜であって、該重縮合の際に多官能酸無水物ハロゲン化物を存在させ、かつ、そのモル比が多官能酸ハロゲン化物に対して0.2〜10倍であることにより形成され得ることを特徴とする複合半透膜により実現することができる。
【0019】
前記複合半透膜の超薄膜層は、「重縮合の際に多官能酸無水物ハロゲン化物を存在させ、かつ、そのモル比がそれ以外の多官能酸ハロゲン化物に対して0.2〜10倍であることにより形成され得る」ものならば、特に限定されるものではない。従って、元の原料の段階では、例えば、アミンや酸ハロゲン化物以外のものが用いられたとしても、結果物たる架橋ポリアミドが前記超薄膜層の架橋ポリアミドと同じ構造である限り、本発明の技術範囲の属するものである。かかる構造の架橋ポリアミドとしては、1つ以上の酸無水物を形成しうる官能基またはその残基とポリアミド結合しうる官能基またはその残基を併せ持つ構造が存在する架橋ポリアミドである。酸無水物を形成しうる官能基とは、例えば、2つの官能基が芳香環上にあるならばオルト位にある2つの官能基のことである。酸無水物を形成しうる官能基の残基とは、例えば、酸無水構造が加水分解した構造があげられる。なお、複合半透膜が形成された段階では殆どの酸無水構造は分解され、加水分解した構造に変成されている。以下、本発明で必須の構成要素である、多官能酸無水物ハロゲン化物を用いて説明する。
【0020】
多官能酸無水物ハロゲン化物のモル比が0.2倍未満であると酸無水物ハロゲン化物の効果が現れにくく半透膜の高い水透過性が得られず、また、10倍を越えると半透膜がうまく生成されない。好ましくは0.3〜9倍、とりわけ0.5〜9倍のモル比がより好ましい。
【0021】
ここでいう多官能酸無水物ハロゲン化物とは、一分子中に一個以上の酸無水物部分と一個以上のハロゲン化カルボニル基を有するものであって、例えば無水安息香酸、無水フタル酸、無水酢酸のカルボニルハロゲン化物などが挙げられるが、高い水透過性や溶解性有機物を除去する適度な細孔径などから、特に下記一般式で表されるトリメリット酸無水物ハロゲン化物およびその誘導体が好ましく用いられる。
【化3】
X1、X2:炭素数1〜20、好ましくは1〜3の直鎖状あるいは環状の飽和、不飽和脂肪族基、H、OH、COOH、SO3H、COF、COCl、COBr、COIのいずれかから選ばれうるものあるいは酸無水物を形成するもの(特にX1とX2とが結合してなすジカルボン酸基、
X3:炭素数1〜10好ましくは1〜3の直鎖状あるいは環状の飽和、不飽和脂肪族基、H、OH、COOH、SO3H、COF、COCl、COBr、COIのいずれかから選ばれうるもの、
Y:F、Cl、Br、Iのいずれかから選ばれうるもの。
【0022】
多官能アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有するアミンであり、特に限定されるものではないが、2官能以上のアミンとしては、たとえば芳香族アミンであるm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、脂肪族ではメチレンジアミン、エチレンジアミン、プロパンジアミン、シクロプロパンジアミン、1,2-シクロブタンジアミン、1,3-シクロブタンジアミン、1,2-シクロペンタンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1、3-シクロヘキサンジアミン、プロパントリアミン、シクロプロパントリアミン、1,2,3-シクロブタントリアミン、1,2,3-シクロペンタントリアミン、1,3,5-シクロヘキサントリアミンなどがある。特に重縮合反応性の観点から芳香族アミンのm-フェニレンジアミンが好ましく用いられる。また、上記アミンは単独で用いることもできるが、混合物として用いてもよい。
【0023】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に1つ以上のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物であり、上記多官能アミンとの重縮合反応によりポリアミドを与えるものであれば特に限定されるものではない。多官能酸ハロゲン化物として、例えば1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸の酸ハロゲン化物を用いることができる。特に経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応性の容易さ等の点から1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸ハロゲン化物であるトリメシン酸クロライドが好ましい。また、上記多官能酸ハロゲン化物は単独で用いることもできるが、混合物として用いてもよい。
【0024】
本発明の複合半透膜は、特に限定されるものではないが、実質的に分離性能を有する超薄膜層が、実質的に分離性能を有さない微多孔性支持膜上に被覆されてなり、該超薄膜は、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合によって得られる架橋ポリアミドである。
【0025】
本発明において、好ましい微多孔性支持膜としては布帛により強化されたポリスルホン支持膜を例示することができる。
【0026】
微多孔性支持膜は、実質的には分離性能を有さない層で、実質的に分離性能を有する超薄膜層に機械的強度を与えるために用いられるものであり、均一で微細な孔あるいは片面からもう一方の面まで徐々に大きな微細な孔をもっていて、その微細孔の大きさはその片面の表面が100nm以下であるような構造の支持膜が好ましい。上記の微多孔性支持膜は、ミリポア社製"ミリポアフィルターVSWP"(商品名)や、東洋濾紙社製"ウルトラフィルターUK10"(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるが、通常は、"オフィス・オブ・セイリーン・ウォ−ター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート"No.359(1968)に記載された方法に従って製造できる。その素材にはポリスルホンや酢酸セルロース、硝酸セルロースやポリ塩化ビニル等のホモポリマーあるいはブレンドしたものが通常使用されるが、化学的、機械的、熱的に安定性の高い、ポリスルホンを使用するのが好ましい。例えば、上記ポリスルホンのジメチルホルムアミド(DMF)溶液を密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それをドデシル硫酸ソーダ0.5重量%およびDMF2重量%を含む水溶液中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有した微多孔性支持膜が得られる。
【0027】
次に、本複合半透膜の製造方法について説明する。
【0028】
複合半透膜中の実質的に分離性能を有する超薄膜層は、多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する水と非混和性の有機溶媒溶液を用い、前述の微多孔性支持膜上で重縮合により形成される。
【0029】
多官能アミン水溶液におけるアミノ化合物の濃度は0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%である。また、該水溶液および前述の有機溶媒溶液にはアミノ化合物と多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、必要に応じて、アシル化触媒や極性溶媒、酸捕捉剤、界面活性剤、酸化防止剤等の化合物が含まれていてもよい。
【0030】
微多孔性支持膜表面への該アミン水溶液の被覆は、該水溶液が表面に均一にかつ連続的に被覆されればよく、公知の塗布手段、例えば、該水溶液を微多孔性支持膜表面にコーティングする方法、微多孔性支持膜を該水溶液に浸漬する方法等で行えばよい。
【0031】
次いで過剰に塗布された該アミン水溶液を液切り工程により除去する。液切りの方法としては、例えば膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法等がある。液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の全部あるいは一部を除去してもよい。
【0032】
次いで、前述の多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を塗布し、重縮合により架橋ポリアミド超薄膜層を形成させる。多官能酸ハロゲン化物の濃度は特に限定されるものではないが、少なすぎると活性層である超薄膜の形成が不十分となり欠点になる可能性があり、多いとコスト面から不利になるため、0.01〜1.0重量%程度が好ましい。多官能酸ハロゲン化物のアミノ化合物水溶液相への接触の方法は、アミノ化合物水溶液の微多孔性支持膜への被覆方法と同様に行えばよい。また、反応後の該有機溶媒の除去は、例えば、特開平5−76740記載の方法で行うことができる。
【0033】
該有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し多孔性支持膜を破壊しないことが必要であり、重縮合反応により架橋ポリマを形成し得るものであればいずれであっても良い。代表例としては液状の炭化水素、トリクロロトリフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられるが、オゾン層を破壊しない物質であることや入手のしやすさ、取り扱いの容易さ、取り扱い上の安全性を考慮するとオクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカンなど、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン、1−オクテン、1−デセンなどの単体あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0034】
以上のような手段を用いることにより精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜で成し得ない低圧操作下でも高いフミン酸排除性と高い水透過性を有し、高いシリカ透過性による高回収率運転が可能な複合半透膜を実現できる。
【0035】
また、本発明の複合半透膜を用いて操作圧力0.1〜2.0MPaの低圧で原水中に含まれる有害物質およびその前駆物質の除去を行うことができる。また、シリカを透過し、シリカスケール生成を防止することも可能である。
【0036】
前記複合半透膜として、操作圧力0.3MPaにおける水の透過量が0.5〜3.0m3/m2・dである複合半透膜を用いることを必須とする。
第三および第四の発明では、前記第1または第2の発明の複合半透膜が用いられる。当該複合半透膜の形態としては、中空糸型、スパイラル型などが挙げられるが、特に、スパイラル型の複合半透膜を使用した上水浄化装置および上水の製造方法が好ましい。
【0037】
複合半透膜の操作圧力とは、複合半透膜を用いて膜分離操作する際の圧力のことであり、0.1〜2.0MPaが好ましい、さらに好ましくは0.1〜1.0MPa、より好ましくは0.1〜0.6MPaである。
【0038】
上水浄化装置とは、原水槽、ポンプおよび複合半透膜を有するシステムからなる分離装置のことであり、分離膜の原水供給側にポンプを有する。特に図1で表されるシステムが好ましく用いられる。
【0039】
システム回収率とは、システム全体での回収率のことであり、原水量に対する透過水量すなわち得られる上水の割合である。システム回収率として好ましくは90%以上である。
【0040】
【実施例】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0041】
なお、実施例において除去率は次式により求めた。
【0042】
除去率(%)={1−(透過液中の溶質濃度)/(供給液中の溶質濃度)}×100
また、回収率は以下の連立方程式を解くことにより求めた。
【0043】
1. F=B+P
2. F×Cf=B×Cb+P×Cp
3. 除去率=(1−Cp/Cf)×100
4. 回収率=P/F×100
ここで、F:供給液流量、B:濃縮液流量、P:透過液流量、Cf:供給液中の溶質濃度、Cb:濃縮液中の溶質濃度(120ppm:シリカのpH=6.5、25℃での飽和溶液濃度)、Cp:透過液中の溶質濃度である。
【0044】
さらに、造水量は単位時間[日(=d)]に単位面積[m2]当たりの膜を透過する透過水量[m3/m2・d]で求めた。
【0045】
参考例
本発明において使用した繊維補強ポリスルホン支持膜(限外濾過膜)は、以下の手法により製造した。
【0046】
タテ30cmヨコ20cmの大きさのポリエステル繊維からなるタフタ(タテ糸、ヨコ糸とも150デニールのマルチフィラメント糸、織密度タテ90本/インチ、ヨコ67本/インチ、厚さ160μm)をガラス板上に固定し、その上にポリスルホン(ユニオン・カーバイト社製のUdel−P3500)の15重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を200μmの厚みで室温(20℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜(以下FR−PS支持膜と略す)を作製する。このようにして得られたFR−PS支持膜(厚さ210〜215μm)の造水量は、圧力0.1MPa、温度25℃で測定して1.7m3/m2・dであった。また、pH6.5に調整した2ppmのフミン酸を原水とし、上記と同様の条件下で限外濾過テストした結果、フミン酸の除去率は60%であった。さらに、Na2SiO3・9H20をSiO2として50ppm相当になるように溶解した水溶液を原水とし、フミン酸と同様の条件下で限外濾過テストした結果、シリカの除去率は、0.12%であった。
【0047】
比較例1
参照例に従って製造したFR−PS支持膜をm−フェニレンジアミン3重量%を含む水溶液中に1分間浸漬した。該支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取除いた後、トリメシン酸クロライド0.06重量%を含んだデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、膜面に残った溶媒を蒸発させるために膜表面での風速が8m/s、温度30℃の空気を1分間吹き付けた。この膜を炭酸ナトリウムの1重量%水溶液に5分間浸漬した。
【0048】
このようにして得られた複合半透膜をpH6.5に調整した2ppmのフミン酸を原水とし、0.3MPa、25℃の条件下で逆浸透テストした結果、造水量は0.33m3/m2・d、フミン酸の除去率は99.5%以上であった。さらに、Na2SiO3・9H20をSiO2として50ppm相当になるように溶解した水溶液を原水とし、フミン酸と同様の条件下で逆浸透テストした結果、シリカの除去率は99.5%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると58.5%であった。
【0049】
また、X線光電子分光法(ESCA)によりカルボキシル基濃度を求めると、0.016であった。
【0050】
実施例1
トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液にトリメシン酸クロライドに対してモル比が0.63となるようにトリメリット酸無水物クロライドを加えた以外は比較例と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜を比較例と同様の条件下で逆浸透テストした結果、造水量は0.98m3/m2・d、フミン酸の除去率は99.5%以上、シリカの除去率は76.4%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると64.7%であったまた、X線光電子分光法(ESCA)によりカルボキシル基濃度を求めると、0.022であった。
【0051】
実施例2
トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液にトリメシン酸クロライドに対してモル比が1.01となるようにトリメリット酸無水物クロライドを加えた以外は比較例と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜を比較例と同様の条件下で逆浸透テストした結果、造水量は1.18m3/m2・d、フミン酸の除去率は99.5%以上、シリカの除去率は53.1%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると72.5%であった
また、X線光電子分光法(ESCA)によりカルボキシル基濃度を求めると、0.023であった。
【0052】
実施例3
トリメシン酸クロライド0.06重量%を含むデカン溶液にトリメシン酸クロライドに対してモル比が2.33となるようにトリメリット酸無水物クロライドを加えた以外は比較例と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜を比較例と同様の条件下で逆浸透テストした結果、造水量は2.10m3/m2・d、フミン酸の除去率は99.5%以上、シリカの除去率は11.7%であった。このとき運転可能な回収率の最大値を計算すると92.3%であった。また、X線光電子分光法(ESCA)によりカルボキシル基濃度を求めると、0.026であった。
【0053】
以上、表1に比較例および実施例1〜3について逆浸透テストした結果をまとめた。
【0054】
なお、表1中の略記号は次のとおりである。
【0055】
TMC:トリメシン酸クロライド
TMAC:トリメリット酸無水物クロライド
【表1】
実施例4
次に、実施例3の複合半透膜をスパイラル型の複合半透膜として使用し、図1に示す原水入路1を有する原水槽2、原水槽2に連通したポンプ3、ポンプ3出口に連通した複合半透膜4、複合半透膜4の透過側に連通した透過水出口6、複合半透膜4の非透過側に連通した濃縮水出口5を備えた上水浄化装置を作製した。
【0056】
この装置を用いて、操作圧力0.3MPaで2ppmのフミン酸を含む原水から上水の製造を行ったところ、フミン酸の除去率が99%以上、水の回収率が90%であった。
【0057】
【発明の効果】
本発明により、高い水透過性を有する複合半透膜を得ることができる。そして原水中に含まれる汚染物質や微量有害物質を選択的に分離除去し低圧高回収率運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の上水の製造方法に用いられる上水浄化装置の概念図である。
【符号の説明】
1:原水入路
2:原水槽
3:ポンプ
4:複合半透膜
5:濃縮水出口
6:透過水出口
7:上水浄化装置
Claims (13)
- 一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物および多官能酸無水物ハロゲン化物を重縮合させてなる架橋ポリアミドの超薄膜層を微多孔性支持膜上に形成させた複合半透膜であって、X線光電子分光法(ESCA)を用いて分析した超薄膜層中のカルボキシル基濃度が0.02〜0.07であり、かつ、操作圧力0.3MPaにおける水の透過量が0.5〜3.0m 3 /m 2 ・dであることを特徴とする複合半透膜。
- 一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物から重縮合によって架橋ポリアミドの超薄膜層を微多孔性支持膜上に形成させる際に、多官能酸無水物ハロゲン化物を存在させ、かつ、該多官能酸無水物ハロゲン化物のモル比を該多官能酸無水物ハロゲン化物以外の多官能酸ハロゲン化物に対して0.2〜10倍とすることにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の複合半透膜。
- 一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物から重縮合によって架橋ポリアミドの超薄膜層を微多孔性支持膜上に形成する複合半透膜の製造方法であって、該重縮合の際に多官能酸無水物ハロゲン化物を存在させ、かつ、該多官能酸無水物ハロゲン化物のモル比を該多官能酸無水物ハロゲン化物以外の多官能酸ハロゲン化物に対して0.2〜10倍とすることを特徴とする複合半透膜の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の複合半透膜、または、請求項4または5に記載の方法により得られた複合半透膜を用いて、操作圧力が0.1〜2.0MPaの低圧で原水中に含まれる有害物質および該有害物質の前駆物質の除去を行うことを特徴とする原水からの有害物質除去方法。
- 該有害物質の前駆物質がトリハロメタン前駆物質であることを特徴とする請求項6に記載の有害物質除去方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の複合半透膜、または、請求項4または5に記載の方法により得られた複合半透膜を用いることでシリカを透過し、シリカスケール生成を防止したことを特徴とする有害物質除去方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の複合半透膜、または、請求項4または5に記載の方法により得られた複合半透膜を有してなることを特徴とする上水浄化装置。
- 前記複合半透膜の原水供給側にポンプを有することを特徴とする請求項9に記載の上水浄化装置
- 原水を、請求項1〜3のいずれかに記載の複合半透膜、または、請求項4または5に記載の方法により得られた複合半透膜を用いてろ過する工程を含むことを特徴とする上水の製造方法。
- 前記複合半透膜の操作圧力が、0.1〜2.0MPaであることを特徴とする請求項11記載の上水の製造方法。
- 水の回収率が、90%以上であることを特徴とする請求項11または12記載の上水の製造方法。
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