JP4264082B2 - 浸炭窒化方法、機械部品の製造方法および機械部品 - Google Patents

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本発明は浸炭窒化方法、機械部品の製造方法および機械部品に関し、より特定的には、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化するための浸炭窒化方法、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化する工程を含む機械部品の製造方法および0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなり、浸炭窒化が実施された機械部品に関するものである。
一般に、浸炭窒化処理、特に鋼からなる被処理物に対して実施されるガス浸炭窒化処理においては、RXガスおよびアンモニア(NH)ガスを一定の流量(単位時間あたりの供給量)で熱処理炉内に流入させるとともに、熱処理炉内のカーボンポテンシャル(C)値を熱処理炉内の二酸化炭素(CO)の分圧に基づいて制御することにより、当該熱処理炉内の雰囲気が制御されている。ここで、被処理物の表層部に侵入する窒素量は、浸炭窒化処理中に直接測定することは困難である。そのため、各熱処理炉に関して、アンモニアガスの流量と被処理物の表層部に侵入する窒素量との関係を過去の生産実績等から経験的に決定し、浸炭窒化処理中に直接測定することが可能なアンモニアガスの流量を調節することにより被処理物の表層部に侵入する窒素量が制御される場合が多い。
そして、このアンモニアガスの流量は、各熱処理炉の過去の生産実績等に基づき、被処理物の量や形状などを考慮して経験的に決定されているが、過去の生産実績が無いような量や形状の被処理物を浸炭窒化処理する必要が生じた場合、当該浸炭窒化処理における最適なアンモニアガスの流量を決定するための試行錯誤が必要となる。その結果、最適なアンモニアガスの流量が決定されるまでは被処理物の品質を安定させることが困難なだけでなく、上記試行錯誤を量産ラインにおいて実施する必要があるため、要求品質を満たさない被処理物が発生し、生産コスト上昇の要因となるおそれもある。
これに対し、熱処理炉の形状、被処理物の量や形状ごとに変化するアンモニアガスの流量ではなく、熱処理炉内に残留している気体アンモニアの濃度である未分解アンモニア濃度(アンモニアの残留ガス濃度)を調節することにより、被処理物に侵入する窒素量を制御する方法が提案されている(たとえば、非特許文献1および特許文献1参照)。すなわち。浸炭窒化処理中に測定が可能な未分解アンモニア濃度を測定し、熱処理炉の形状や被処理物の量および形状等に関係なく決定可能な未分解アンモニア濃度と被処理物に侵入する窒素量との関係に基づき、アンモニアガスの流量を調節する。これにより、最適なアンモニアガスの流量を試行錯誤により決定することなく、被処理物に侵入する窒素量を制御することが可能となり、被処理物の品質を安定させることができる。
恒川好樹、外2名、「ガス浸炭窒化処理におけるボイドの発生と窒素の拡散挙動」、熱処理、1985年、25巻、5号、p.242−247 特開平8−13125号公報
しかし、上述の未分解アンモニア濃度をパラメータとする浸炭窒化処理方法を含めて、従来の浸炭窒化処理方法では、被処理物への窒素の侵入速度(被処理物の表面の単位面積から単位時間あたりに侵入する窒素量)をコントロールすることは困難であった。浸炭窒化処理は、機械部品の製造工程等において、比較的コストの高い工程である。そのため、浸炭窒化処理に対しては、その処理コストの低減が求められている。したがって、被処理物への窒素の侵入速度をコントロールすることにより、窒素の侵入速度を向上させ、浸炭窒化処理の効率化を図ることができれば、上記浸炭窒化処理コストの低減の要求に応えることができる。
そこで、本発明の目的は、窒素の侵入速度を向上させ、浸炭窒化処理の効率化を図ることが可能な浸炭窒化方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、効率的な浸炭窒化処理が実施されることにより、製造コストの低減が可能な機械部品の製造方法を提供することである。また、本発明のさらに他の目的は、効率的な浸炭窒化処理が実施されることにより、製造コストが低減された機械部品を提供することである。
本発明に従った浸炭窒化方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を 点以上の温度に加熱して浸炭窒化するための浸炭窒化方法である。本発明の浸炭窒化方法は、熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程と、熱処理炉内において被処理物に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程とを備えている。そして、雰囲気制御工程は、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度を制御する未分解アンモニア濃度制御工程と、熱処理炉内の一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧を制御する分圧制御工程とを含んでいる。雰囲気制御工程においては、被処理物中の炭素の活量をa、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度をCとした場合に、γ=a/Cで定義されるγの値が2以上5以下の範囲になるように、未分解アンモニア濃度制御工程および分圧制御工程が実施される。
本発明者は、熱処理炉内の雰囲気と被処理物への窒素の侵入挙動との関係について詳細に検討を行なった。そして、被処理物への窒素の侵入速度に対して熱処理炉内の雰囲気中の未分解アンモニア量だけでなく以下の式(1)で定義される炭素の活量も影響を与えることに着目し、以下の式(2)で定義されるγの値が被処理物への窒素の侵入挙動に影響を及ぼす重要な因子となっていることを見出した。
Figure 0004264082
すなわち、γが一定であれば、aが小さいほど被処理物への窒素の侵入速度が大きくなる。一方、aが一定であれば、γが小さいほど被処理物への窒素の侵入速度が大きくなる。そして、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物においては、γの値が5となったとき、被処理物への窒素の侵入速度が最大となり、γの値が5以下では窒素の侵入速度は一定となる。つまり、γの値を5以下とすることで、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物への窒素の侵入速度を最大にすることができる。ここで、aは、式(1)により算出される鋼中における計算上の炭素の活量、PCOは一酸化炭素(CO)の分圧、PCO2は二酸化炭素(CO)の分圧、Kは
<C>+CO⇔2CO
における平衡定数、Cは熱処理炉内の未分解アンモニア濃度である。
一方、上述のように浸炭窒化を実施する熱処理炉内の雰囲気におけるγ値が5以下であれば、被処理物への窒素の侵入速度を最大にすることができるが、γの値が小さくなりすぎると別の問題が発生する。すなわち、γの値を2未満とするためには、熱処理炉へのアンモニアの供給速度(アンモニアの流量)を高くする必要がある。これに伴い、熱処理炉内における一酸化炭素の分圧が低下するため、カーボンポテンシャルを保持するためには、熱処理炉内へのエンリッチガスの導入量を増加させる必要が生じる。これにより、スーティング(熱処理炉内にすすが発生し、被処理物に付着すること)が発生しやすくなり、被処理物に表面浸炭などの品質上の不具合が発生するおそれがある。
本発明の浸炭窒化方法では、加熱パターン制御工程において、被処理物に所望の温度履歴が付与されるとともに、雰囲気制御工程において熱処理炉内の雰囲気におけるγの値が2以上5以下とされていることにより、スーティングの発生を抑制しつつ、被処理物への窒素の侵入速度を最大とすることが可能となっている。その結果、被処理物への窒素の侵入速度を向上させ、浸炭窒化処理の効率化を図ることができる。
なお、未分解アンモニア濃度とは、熱処理炉内に供給されたアンモニアのうち、分解されることなく気体アンモニアの状態で残存しているアンモニアの熱処理炉内の雰囲気における濃度をいう。
上記浸炭窒化方法において好ましくは、未分解アンモニア濃度制御工程では、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度が測定され、未分解アンモニア濃度と、γの値が2以上5以下の範囲となる目標の未分解アンモニア濃度とが比較されて、熱処理炉内に供給されるアンモニアの流量が調節される。
これにより、熱処理炉内における雰囲気中の未分解アンモニア濃度を精度良くコントロールすることができる。その結果、上述の雰囲気制御工程における熱処理炉内のγ値の制御が容易となる。
上記浸炭窒化方法において好ましくは、被処理物がA点以上の温度に保持されている期間中における、γの値の最大値と最小値との差は1以下となるように雰囲気制御工程が実施される。
上述のように、γの値が5以下であれば、窒素の侵入速度は一定となるが、γの値が大きく変化すると、a値が大きく変化するおそれがある。この場合、以下の式(3)に示すように、a値の変化に伴ってカーボンポテンシャル(C)値も変化する。ここで、Aは温度に依存する物性値である。そうすると、被処理物の表層部の炭素濃度をコントロールするためのC値の制御が困難になる。
Figure 0004264082
これに対し、被処理物の浸炭窒化が進行する、被処理物がA点以上の温度に保持されている期間中における、γの値の最大値と最小値との差を1以下とすることで、C値の制御が容易となる。
なお、浸炭窒化処理において、より厳密なC値の制御が必要な場合、被処理物がA点以上の温度に保持されている期間中における、γの値の最大値と最小値との差は0.6以下とすることが好ましい。また、たとえばγの値に2.3以上4.7以下の所定の目標値を設定し、当該目標値に対してγの値が±0.5以下(望ましくは、±0.3以下)の範囲となるように、γの値を制御してもよい。
また、被処理物の表層部とは、被処理物の表面付近の領域をいい、たとえば仕上げ加工等が実施され、被処理物が製品となった状態における表面からの距離が0.2mm以下の領域となるべき領域をいう。つまり、被処理物の表層部とは、被処理物が加工等されて製造される製品に対する要求特性に鑑み、被処理物が製品となった状態において、窒素濃度や炭素濃度を制御すべき領域であって、製品ごとに適宜決定することができる。
上記浸炭窒化方法において好ましくは、被処理物を構成する鋼の組成ごとに決定される、被処理物がA点以上の温度に保持されている時間である浸炭窒化時間およびγの値と、被処理物の表面から所定の深さの領域における窒素濃度との関係に基づき、浸炭窒化時間が決定される。
一般に、浸炭窒化処理における被処理物への窒素の侵入速度は浸炭窒化時間だけでなく、浸炭窒化処理中のC値、a値などにも依存する複雑な変数である。そのため、被処理物の内部における窒素濃度の分布を制御することは困難である。しかし、被処理物に対して浸炭窒化処理が実施された後、仕上げ加工などが実施されて表面付近の領域が除去される場合、表面付近の領域ではなく所定の深さの領域における窒素含有量が重要となる。これに対し、本発明の浸炭窒化方法によれば、上述のように被処理物への窒素の侵入速度が常に最大に保たれるため、γの値が一定であれば、所定の組成を有する被処理物への窒素の侵入速度と浸炭窒化時間との関係が一定となる。したがって、被処理物を構成する鋼の組成ごとに決定される、γの値および浸炭窒化時間と、被処理物の表面から所定の深さの領域における窒素濃度との関係を予め求めておくことにより、当該関係に基づいて浸炭窒化時間を決定することで、被処理物の所望の深さの領域における窒素含有量を制御することが可能となる。
本発明に従った機械部品の製造方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程と、鋼製部材準備工程において準備された鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A点以上の温度からM点以下の温度へ冷却することにより、鋼製部材を焼入硬化する焼入硬化工程とを備えている。そして、焼入硬化工程における浸炭窒化処理は、上述の浸炭窒化方法を用いて実施される。
ここで、A点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、M点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
本発明の機械部品の製造方法によれば、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物に適した上述の本発明の浸炭窒化方法が焼入硬化工程において採用されることにより、効率的な浸炭窒化処理が実施され、機械部品の製造コストを低減することが可能となる。
本発明に従った機械部品は、上述の機械部品の製造方法により製造されている。上述した本発明の機械部品の製造方法により製造されていることにより、本発明の機械部品は、効率的な浸炭窒化処理が実施されており、製造コストが低減されている。
上記本発明の機械部品は軸受を構成する部品として用いられてもよい。浸炭窒化が実施されることにより表面層が強化され、かつ製造コストが低減された本発明の機械部品は、疲労強度、耐摩耗性等が要求される機械部品である軸受を構成する部品として好適である。
なお、上述の機械部品を用いて、軌道輪と、軌道輪に接触し、円環状の軌道上に配置される転動体とを備えた転がり軸受を構成してもよい。すなわち、軌道輪および転動体の少なくともいずれか一方は、上述の機械部品である。浸炭窒化が実施されることにより表面層が強化され、かつ製造コストが低減された本発明の機械部品を備えていることにより、当該転がり軸受によれば、製造コストが低減されるとともに、長寿命な転がり軸受を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の浸炭窒化方法によれば、窒素の侵入速度を向上させ、浸炭窒化処理の効率化を図ることが可能な浸炭窒化方法を提供することができる。また、本発明の機械部品の製造方法によれば、効率的な浸炭窒化処理が実施されることにより、製造コストの低減が可能な機械部品の製造方法を提供することができる。また、本発明の機械部品によれば、効率的な浸炭窒化処理が実施されることにより、製造コストが低減された機械部品を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
図1は、本発明の一実施の形態である機械部品を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、本発明の一実施の形態における転がり軸受としての深溝玉軸受について説明する。
図1を参照して、深溝玉軸受1は、環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体としての複数の玉13とを備えている。外輪11の内周面には外輪転走面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪転走面12Aが形成されている。そして、内輪転走面12Aと外輪転走面11Aとが互いに対向するように、外輪11と内輪12とは配置されている。さらに、複数の玉13は、内輪転走面12Aおよび外輪転走面11Aに接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である外輪11、内輪12、玉13および保持器14のうち、特に、外輪11、内輪12および玉13には転動疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、深溝玉軸受1の製造コストを低減しつつ、深溝玉軸受1を長寿命化することができる。
図2は、本発明の一実施の形態である機械部品を備えた転がり軸受としてのスラストニードルころ軸受の構成を示す概略断面図である。図2を参照して、本発明の一実施の形態における転がり軸受としてのスラストニードルころ軸受について説明する。
図2を参照して、スラストニードルころ軸受2は、円盤状の形状を有し、互いに一方の主面が対向するように配置された転動部材としての一対の軌道輪21と、転動部材としての複数のニードルころ23と、円環状の保持器24とを備えている。複数のニードルころ23は、一対の軌道輪21の互いに対向する主面に形成された軌道輪転走面21Aに接触し、かつ保持器24により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、スラストニードルころ軸受2の一対の軌道輪21は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である軌道輪21、ニードルころ23および保持器24のうち、特に、軌道輪21、ニードルころ23には転動疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、スラストニードルころ軸受2の製造コストを低減しつつ、スラストニードルころ軸受2を長寿命化することができる。
図3は、本発明の一実施の形態である機械部品を備えた等速ジョイントの構成を示す概略部分断面図である。また、図4は、図3の線分IV−IVに沿う概略断面図である。また、図5は、図3の等速ジョイントが角度をなした状態を示す概略部分断面図である。なお、図3は、図4の線分III−IIIに沿う概略断面図に対応する。図3〜図5を参照して、本発明の一実施の形態における等速ジョイントについて説明する。
図3〜図5を参照して、等速ジョイント3は、軸35に連結されたインナーレース31と、インナーレース31の外周側を囲むように配置され、軸36に連結されたアウターレース32と、インナーレース31とアウターレース32との間に配置されたトルク伝達用のボール33と、ボール33を保持するケージ34とを備えている。ボール33は、インナーレース31の外周面に形成されたインナーレースボール溝31Aと、アウターレース32の内周面に形成されたアウターレースボール溝32Aとに接触して配置され、脱落しないようにケージ34によって保持されている。
インナーレース31の外周面およびアウターレース32の内周面のそれぞれに形成されたインナーレースボール溝31Aとアウターレースボール溝32Aとは、図3に示すように、軸35および軸36の中央を通る軸が一直線上にある状態において、それぞれ当該軸上のジョイント中心Oから当該軸上の左右に等距離離れた点Aおよび点Bを曲率中心とする曲線(円弧)状に形成されている。すなわち、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに接触して転動するボール33の中心Pの軌跡が、点A(インナーレース中心A)および点B(アウターレース中心B)に曲率中心を有する曲線(円弧)となるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aのそれぞれは形成されている。これにより、等速ジョイントが角度をなした場合(軸35および軸36の中央を通る軸が交差するように等速ジョイントが動作した場合)においても、ボール33は、常に軸35および軸36の中央を通る軸のなす角(∠AOB)の2等分線上に位置する。
次に、等速ジョイント3の動作について説明する。図3および図4を参照して、等速ジョイント3においては、軸35、36の一方に軸まわりの回転が伝達されると、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに嵌め込まれたボール33を介して、軸35、36の他方の軸に当該回転が伝達される。ここで、図5に示すように軸35、36が角度θをなした場合、ボール33は、前述のインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bに曲率中心を有するインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに案内されて、中心Pが∠AOBの二等分線上となる位置に保持される。ここで、ジョイント中心Oからインナーレース中心Aまでの距離と、アウターレース中心Bまでの距離とが等しくなるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aが形成されているため、ボール33の中心Pからインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bまでの距離はそれぞれ等しく、△OAPと△OBPとは合同である。その結果、ボール33の中心Pから軸35、36までの距離Lは互いに等しくなり、軸35、36の一方が軸まわりに回転した場合、他方も等速で回転する。このように、等速ジョイント3は、軸35、36が角度をなした場合でも、等速性を確保することができる。なお、ケージ34は、軸35、36が回転した場合に、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aからボール33が飛び出すことをインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aとともに防止すると同時に、等速ジョイント3のジョイント中心Oを決定する機能を果たしている。
ここで、機械部品であるインナーレース31、アウターレース32、ボール33およびケージ34のうち、特に、インナーレース31、アウターレース32およびボール33には疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、等速ジョイント3の製造コストを低減しつつ、等速ジョイント3を長寿命化することができる。
次に、本発明の機械部品の製造方法における一実施の形態である上記機械部品、および上記機械部品を備えた転がり軸受、等速ジョイントなどの機械要素の製造方法について説明する。図6は、本発明の一実施の形態における機械部品および当該機械部品を備えた機械要素の製造方法の概略を示す図である。図6を参照して、まず、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程が実施される。具体的には、たとえば、0.8質量%以上の炭素を含有する棒鋼を素材とし、当該棒鋼に対して切断、鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、機械部品としての外輪11、軌道輪21、インナーレース31などの機械部品の概略形状に成形された鋼製部材が準備される。
次に、鋼製部材準備工程において準備された上述の鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A点以上の温度からM点以下の温度へ冷却することにより、鋼製部材を焼入硬化する焼入硬化工程が実施される。この焼入硬化工程の詳細については後述する。
次に、焼入硬化工程が実施された鋼製部材に対して、A点以下の温度に加熱することにより焼入硬化された鋼製部材の靭性等を向上させる焼戻工程が実施される。具体的には、焼入硬化された鋼製部材がA点以下の温度である150℃以上350℃以下の温度、たとえば180℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。
さらに、焼戻工程が実施された鋼製部材に対して、仕上げ加工などが施される仕上げ工程が実施される。具体的には、たとえば、焼戻工程が実施された鋼製部材の内輪転走面12A、軌道輪転走面21A、アウターレースボール溝32Aなどに対する研削加工が実施される。これにより、本発明の一実施の形態における機械部品は完成し、本発明の一実施の形態における機械部品の製造方法は完了する。さらに、完成した機械部品が組み合わされて機械要素が組み立てられる組み立て工程が実施される。具体的には、上述の工程により製造された本発明の機械部品である、たとえば外輪11、内輪12、玉13と保持器14とが組み合わされて、深溝玉軸受1が組み立てられる。これにより、本発明の機械部品を備えた機械要素が製造される。
次に、上述の焼入硬化工程の詳細について説明する。図7は、本発明の一実施の形態における機械部品の製造方法に含まれる焼入硬化工程の詳細を説明するための図である。また、図8は、図7の浸炭窒化工程に含まれる加熱パターン制御工程における加熱パターン(被処理物に与えられる温度履歴)の一例を示す図である。図8において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図8において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図7および図8を参照して、本実施の形態における機械部品の製造方法に含まれる焼入硬化工程の詳細について説明する。
図7を参照して、本発明の一実施の形態における機械部品の製造方法の焼入硬化工程においては、本発明の一実施の形態における浸炭窒化方法が用いられて浸炭窒化工程が実施される。本発明の一実施の形態における浸炭窒化方法では、まず、被処理物としての鋼製部材が浸炭窒化される浸炭窒化工程が実施される。その後、鋼製部材がA点以上の温度からM点以下の温度に冷却される冷却工程が実施される。
浸炭窒化工程は、熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程と、熱処理炉内において被処理物に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程とを備えている。この雰囲気制御工程と加熱パターン制御工程とは、独立に、かつ並行して実施することができる。そして、雰囲気制御工程は、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度を制御する未分解アンモニア濃度制御工程と、熱処理炉内の一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧を制御する分圧制御工程とを含んでいる。
分圧制御工程では、式(1)〜(3)を参照して、熱処理炉内の一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧が制御されることにより、a値が制御されてγ値が調整されるとともに、C値が調整される。さらに、雰囲気制御工程においては、γの値が2以上5以下の範囲になるように、未分解アンモニア濃度制御工程および分圧制御工程が実施される。
具体的には、未分解アンモニア濃度制御工程では、まず、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度を測定する未分解アンモニア濃度測定工程が実施される。未分解アンモニア濃度の測定は、たとえばガスクロマトグラフを用いて実施することができる。そして、未分解アンモニア濃度測定工程において測定された未分解アンモニア濃度に基づいて熱処理炉へのアンモニアガスの供給量を増減させるアンモニア供給量調節工程の実施の要否を判断する未分解アンモニア濃度判断工程が実施される。当該判断は、γの値が2以上5以下の範囲になるように予め決定された目標の未分解アンモニア濃度と、測定された未分解アンモニア濃度を比較することにより実施される。
未分解アンモニア濃度が目標の未分解アンモニア濃度になっていない場合には、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度を増減させるためのアンモニア供給量調節工程が実施された後、未分解アンモニア濃度測定工程が再度実施される。アンモニア供給量調節工程は、たとえば、熱処理炉に配管を介して連結されたアンモニアガスボンベから単位時間に熱処理炉に流入するアンモニアの量(アンモニアガスの流量)を当該配管に取り付けられたマスフローコントローラなどを備えた流量制御装置により調節することにより実施することができる。すなわち、測定された未分解アンモニア濃度が目標の未分解アンモニア濃度よりも高い場合、上記流量を低下させ、低い場合、上記流量を増加させることにより、アンモニア供給量調節工程を実施することができる。このアンモニア供給量調節工程において、測定された未分解アンモニア濃度と目標の未分解アンモニア濃度との間に所定の差がある場合、どの程度流量を増減させるかについては、予め実験的に決定したアンモニアガスの流量の増減と未分解アンモニア濃度の増減との関係に基づいて決定することができる。
一方、未分解アンモニア濃度が目標の未分解アンモニア濃度になっている場合には、アンモニア供給量調節工程が実施されることなく、未分解アンモニア濃度測定工程が再度実施される。
分圧制御工程では、エンリッチガスとしてのプロパン(C)ガス、ブタンガス(C10)などの供給量が調節されることにより、COおよびCOの分圧の少なくともいずれか一方の分圧が制御され、a値が調整される。具体的には、たとえば、赤外線ガス濃度測定装置を用いて雰囲気中の一酸化炭素の分圧PCOおよび二酸化炭素の分圧PCO2が測定される。そして、当該測定値に基づいて、a値が目標の値となるように、エンリッチガスとしてのプロパン(C)ガス、ブタンガス(C10)などの供給量が調節される。
γの値は、未分解アンモニア濃度制御工程により未分解アンモニア濃度を一定に保持した状態で、分圧制御工程によりa値を変化させて制御してもよいし、逆に、分圧制御工程によりa値を一定に保持した状態で、未分解アンモニア濃度制御工程により未分解アンモニア濃度を変化させて制御してもよい。また、未分解アンモニア濃度制御工程および分圧制御工程により未分解アンモニア濃度およびa値を変化させて、γの値を制御してもよい。
なお、上記γの値が5に近い場合、被処理物への窒素の侵入速度が最も高い状態を確実に維持するためには、厳密な雰囲気制御が必要になる。雰囲気制御を容易にするためには、上記γの値は、4.7以下とすることが好ましい。一方、窒素の侵入速度の観点からは、γの値を2まで小さくしてもよいが、そのためには熱処理炉内に導入されるアンモニアガスの流量を大きくする必要がある。しかし、アンモニアガスは比較的コストが高いため、浸炭窒化のコストを低減するためには、γの値は2.5以上とすることが好ましい。
加熱パターン制御工程では、被処理物としての鋼製部材に付与される加熱履歴が制御される。具体的には、図8に示すように、鋼製部材が上述の雰囲気制御工程および分圧制御工程によって制御された雰囲気中で、A1点以上の温度である800℃以上1000℃以下の温度、たとえば850℃に加熱され、60分間以上300分間以下の時間、たとえば150分間保持される。当該保持時間が経過するとともに加熱パターン制御工程は終了し、同時に雰囲気制御工程も終了する。
その後、鋼製部材が油中に浸漬(油冷)されることにより、A点以上の温度からM点以下の温度に冷却される冷却工程が実施される。以上の工程により、鋼製部材は表層部が浸炭窒化されるとともに焼入硬化される。これにより、本実施の形態の焼入硬化工程は完了する。
以上のように、本実施の形態の浸炭窒化方法によれば、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物に対して、γの値が2以上5以下の範囲に制御されているため、スーティングの発生を抑制しつつ、被処理物への窒素の侵入速度を最大とすることが可能となっている。その結果、被処理物への窒素の侵入速度が向上し、浸炭窒化処理の効率化が図られている。
さらに、本実施の形態の浸炭窒化方法によれば、未分解アンモニア濃度は、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度の測定値に基づいて、アンモニア供給量の調整の要否が検討されて未分解アンモニア濃度が目標の濃度になるように制御されている。そのため、熱処理炉内における雰囲気中の未分解アンモニア濃度を精度良くコントロールすることが可能となっている。その結果、上述の雰囲気制御工程における熱処理炉内のγ値の制御が容易となっている。
また、本実施の形態の機械部品の製造方法によれば、製造コストが低減されつつ、浸炭窒化処理が実施された機械部品を製造することができる。また、本実施の形態の機械部品は、製造コストが低減されつつ、浸炭窒化処理が実施された機械部品となっている。
また、本発明の浸炭窒化方法においては、被処理物としての鋼製部材を構成する鋼の組成ごとに決定される、γの値および浸炭窒化時間と、被処理物の表面から所定の深さの領域における窒素濃度との関係に基づき、浸炭窒化時間が決定されることが好ましい。具体的には、所定のγ値のもとで、ある組成の鋼からなる試験片を熱処理炉において種々の浸炭窒化時間、実際に浸炭窒化し、各深さの領域における浸炭窒化時間と窒素濃度との関係を決定する。このとき、熱処理パターン、特にA点以上の温度域における昇温および降温の時間に対する割合(昇温速度および降温速度)と、実際に熱処理される鋼製部材の昇温速度および降温速度との差は50%以下であることが好ましい。各深さの領域における窒素濃度は、たとえばEPMA(Electron Probe Micro Analysis)により測定することができる。そして、被処理物としての鋼製部材を浸炭窒化する際には、当該被処理物の浸炭窒化後の加工工程、その後の使用状態等を考慮して窒素濃度を制御すべき深さを決定し、上述の関係に基づいて窒素濃度を制御すべき深さにおける窒素濃度が所望の濃度となるように、浸炭窒化時間を決定する。
上記γの値および浸炭窒化時間と、被処理物の表面から所定の深さの領域における窒素濃度との関係は、被処理物を構成する鋼の組成により決定されるため、当該関係を予め決定しておくことにより、同一組成の被処理物に対しては、被処理物の形状等が変化した場合でも、当該関係に基づいて浸炭窒化時間を決定することができる。これにより、被処理物において重要な所望の深さの領域における窒素含有量を容易に制御することが可能となる。
なお、本実施の形態においては、本発明の機械部品の一例として、深溝玉軸受、スラストニードルころ軸受、等速ジョイントについて説明したが、本発明の機械部品はこれに限られず、表層部の疲労強度、耐摩耗性が要求される機械部品、たとえばハブ、ギア、シャフト等であってもよい。
以下、本発明の実施例1について説明する。γの値と被処理物への窒素侵入速度との関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
実験に用いた熱処理炉の容量は120L(リットル)である。被処理物はJIS SUJ2(炭素含有量1質量%)製の外径φ38mm、内径φ30mm、幅10mmのリングとし、熱処理炉以内に101g(グラム)挿入した。加熱パタ−ンは図8と同様のパターンを採用して浸炭窒化の保持温度は850℃とした。そして、a値を0.76〜1.24の3水準として、C値を変化させることによりγの値を変化させ、浸炭時間9000秒間に侵入した窒素の質量を測定することにより、1秒間あたりに被処理物の表面1mmから侵入した窒素の質量(単位:g)すなわち窒素侵入速度(単位:g/mm・秒)を算出した。侵入した窒素の量は、EPMAにより測定した。
図9は、3水準のa値におけるγ値と窒素侵入速度との関係を示す図である。図9において、横軸はγの値、縦軸は窒素侵入速度である。そして、丸印および破線はaが0.76、三角印および実線はaが1.05、四角印および一点鎖線はaが1.24の場合を示している。図9を参照して、a値およびγ値と窒素侵入速度との関係について説明する。
図9を参照して、γが一定であれば、aが小さいほど被処理物への窒素の侵入速度が大きくなる。一方、aが一定であれば、γが小さいほど被処理物への窒素の侵入速度が大きくなる。そして、γの値が5となったとき、被処理物への窒素の侵入速度が最大となり、γの値が5以下では窒素の侵入速度は一定となる。したがって、γの値を5以下とすることで、被処理物への窒素の侵入速度を最大にすることができることがわかる。
さらに、同様の試験条件において、浸炭窒化時間を変化させた場合の窒素侵入量を調査する実験を行なった。γの値は2.9〜23.8の6水準とした。図10は、浸炭窒化時間およびγの値を変化させた場合の窒素侵入量の推移を示す図である。図10において、横軸は浸炭窒化時間、縦軸は被処理物の表面1mmから侵入した窒素の質量である窒素侵入量(単位:g/mm)を示している。そして、太い実線はγが2.9、細い実線はγが4.2、一点鎖線はγが5.0、幅の狭い破線はγが8.0、二点鎖線はγが14.0、幅の広い破線はγが23.8の場合をそれぞれ示している。図10を参照して、浸炭窒化時間およびγの値を変化させた場合の窒素侵入量の推移について説明する。
図10を参照して、いずれのγの値の場合でも、浸炭窒化時間の増加とともに窒素侵入量が増加する傾向にあり、γの値が大きくなるにつれて窒素侵入量が大きくなっている。しかし、γの値が5.0以下であるγの値が5.0、4.2および2.9の場合、浸炭窒化時間に対する窒素侵入量の推移はほぼ同様となっている。このことから、浸炭時間9000秒間の時点までの窒素侵入速度が、γの値が5以下であれば同一となるだけでなく、γの値が5以下の場合、浸炭窒化時間の経過に伴う窒素侵入速度の推移もほぼ同一であることが分かる。以上より、浸炭窒化処理において、熱処理炉内における雰囲気のγの値を5以下とすることにより、被処理物への窒素侵入速度が最大となるとともに、一定の侵入挙動を示すことが分かる。
なお、種々の組成の鋼からなる被処理物に対する上述と同等の実験の結果より、上述の窒素の侵入挙動は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物に顕著に表れる。したがって、上述の窒素の侵入挙動を利用した本発明の浸炭窒化方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物に有効に適用することができる。ここで、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼、すなわち共析鋼および過共析鋼としては、たとえば軸受鋼であるJIS SUJ2およびこれに相当するSAE52100、DIN規格100Cr6の他、JIS SUJ3、ばね鋼であるJIS SUP3、SUP4、工具鋼であるJIS SK2、SK3などが挙げられる。
以下、本発明の実施例2について説明する。γの値を一定に保った場合の、被処理物の表面からの各深さの領域における浸炭窒化時間と当該領域における窒素濃度との関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
実験に用いた熱処理炉の容量は120Lである。実験の条件は基本的に実施例1と同様である。そして、γの値を4.2とし、種々の浸炭窒化時間の浸炭窒化を実施した。その後、EPMAにより被処理物の表面からの深さ方向に窒素濃度の分布を測定し、鋼中の窒素の固溶限に対する比(活量)に換算した。
図11は、被処理物の各深さにおける浸炭窒化時間と窒素の活量との関係を示す図である。図11において、横軸は浸炭窒化時間、縦軸は被処理物を構成する鋼中における窒素の活量である。また、太い実線は表面、細い実線は深さ0.05mm、一点鎖線は深さ0.1mm、破線は深さ0.15mm、二点鎖線は深さ0.2mmの領域における浸炭窒化時間と活量との関係を示している。図11を参照して、被処理物の各深さにおける浸炭窒化時間と窒素の活量との関係を説明する。
図11を参照して、表面における窒素濃度は浸炭窒化時間1800秒で固溶限に到達している。そして、深さが深くなるにしたがって活量の上昇には時間を要するようになり、活量の上昇の浸炭窒化時間に対する割合は深さ毎に異なっている。窒素侵入速度をコントロールすることのできない従来の浸炭窒化方法においては、図11の関係は、雰囲気のa値やC値に依存して変化する。そのため、被処理物の形状や量が変化し、雰囲気のa値やC値が変化した場合、所望の深さにおいて所望の窒素濃度を得るための浸炭窒化時間を図11の関係から決定することは困難である。これに対し、本発明の浸炭窒化方法によれば、γの値を5以下とすることで被処理物の形状や量が変化しても、図10に示したように浸炭窒化時間に対する窒素侵入速度の変化を一定に保つことができる。そのため、被処理物の形状や量が変化しても、被処理物を構成する鋼の組成が変化しない限り、図11の関係は変化しない。その結果、所望の深さにおいて所望の窒素濃度を得るための浸炭窒化時間を、被処理物を構成する鋼の組成ごとに決定される図11の関係から決定することができる。
なお、図11の縦軸は被処理物中の窒素の活量であるが、活量は材料ごとに決まる物性値である窒素の固溶限に対する窒素濃度の比である。そのため、図11の縦軸である窒素の活量と窒素濃度とは一対一の対応関係を有する。したがって、図11の関係から、所望の深さにおいて所望の窒素濃度を得るための浸炭窒化時間を決定することができる。また、横軸を浸炭窒化時間、縦軸を窒素濃度とする関係図を作成し、これに基づいて所望の深さにおいて所望の窒素濃度を得るための浸炭窒化時間を決定してもよい。
以上より、本発明の浸炭窒化方法によれば、浸炭窒化時間に対する窒素侵入速度の変化を一定に保つことができるため、被処理物を構成する鋼の組成ごとに、γの値を任意の一定値に保った場合における図11と同様の関係を予め求めておくことで、所望の深さにおいて所望の窒素濃度を得るための浸炭窒化時間を決定することが可能である。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の浸炭窒化方法および機械部品の製造方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる部材の浸炭窒化方法および0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる機械部品の製造方法に特に有利に適用され得る。また、本発明の機械部品は、疲労強度および耐摩耗性が要求される機械部品に特に有利に適用され得る。
本発明の一実施の形態である機械部品を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。 本発明の一実施の形態である機械部品を備えた転がり軸受としてのスラストニードルころ軸受の構成を示す概略断面図である。 本発明の一実施の形態である機械部品を備えた等速ジョイントの構成を示す概略部分断面図である。 図3の線分IV−IVに沿う概略断面図である。 図3の等速ジョイントが角度をなした状態を示す概略部分断面図である。 本発明の一実施の形態における機械部品および当該機械部品を備えた機械要素の製造方法の概略を示す図である。 本発明の一実施の形態における機械部品の製造方法に含まれる焼入硬化工程の詳細を説明するための図である。 図7の浸炭窒化工程に含まれる加熱パターン制御工程における加熱パターン(被処理物に与えられる温度履歴)の一例を示す図である。 3水準のa値におけるγ値と窒素侵入速度との関係を示す図である。 浸炭窒化時間およびγの値を変化させた場合の窒素侵入量の推移を示す図である。 被処理物の各深さにおける浸炭窒化時間と窒素の活量との関係を示す図である。
符号の説明
1 深溝玉軸受、2 スラストニードルころ軸受、3 等速ジョイント、11 外輪、11A 外輪転走面、12 内輪、12A 内輪転走面、13 玉、14 保持器、21 軌道輪、21A 軌道輪転走面、23 ニードルころ、24 保持器、31 インナーレース、31A インナーレースボール溝、32 アウターレース、32A アウターレースボール溝、33 ボール、34 ケージ、35、36 軸。

Claims (5)

  1. 0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物をA点以上の温度に加熱して浸炭窒化するための浸炭窒化方法であって、
    熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程と、
    前記熱処理炉内において前記被処理物に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程とを備え、
    前記雰囲気制御工程は、
    前記熱処理炉内の未分解アンモニア濃度を制御する未分解アンモニア濃度制御工程と、
    前記熱処理炉内の一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧を制御する分圧制御工程とを含み、
    前記雰囲気制御工程においては、前記被処理物中の炭素の活量をa、前記熱処理炉内の未分解アンモニア濃度をCとした場合に、γ=a/Cで定義されるγの値が2以上5以下の範囲になるように、前記未分解アンモニア濃度制御工程および前記分圧制御工程が実施される、浸炭窒化方法。
  2. 前記未分解アンモニア濃度制御工程では、前記熱処理炉内の未分解アンモニア濃度が測定され、前記未分解アンモニア濃度と、前記γの値が2以上5以下の範囲となる目標の未分解アンモニア濃度とが比較されて、前記熱処理炉内に供給されるアンモニアの流量が調節される、請求項1に記載の浸炭窒化方法。
  3. 前記被処理物がA点以上の温度に保持されている期間中における、前記γの値の最大値と最小値との差は1以下となるように前記雰囲気制御工程が実施される、請求項1または2に記載の浸炭窒化方法。
  4. 前記被処理物を構成する鋼の組成ごとに決定される、前記被処理物がA点以上の温度に保持されている時間である浸炭窒化時間および前記γの値と、前記被処理物の表面から所定の深さの領域における窒素濃度との関係に基づき、前記浸炭窒化時間が決定される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の浸炭窒化方法。
  5. 0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程と、
    前記鋼製部材準備工程において準備された前記鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A点以上の温度からM点以下の温度へ冷却することにより、前記鋼製部材を焼入硬化する焼入硬化工程とを備え、
    前記焼入硬化工程における前記浸炭窒化処理は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の浸炭窒化方法を用いて実施される、機械部品の製造方法。
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