JP2008001967A - 浸炭窒化方法、機械部品の製造方法および機械部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】浸炭窒化温度を上昇させることなく、処理効率を向上させることが可能な浸炭窒化方法を提供する。
【解決手段】浸炭窒化方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化するための浸炭窒化方法であって、熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程と、熱処理炉内において被処理物に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程とを備えている。そして、雰囲気制御工程においては、熱処理炉内の温度が、被処理物を浸炭窒化するために熱処理炉内の温度が保持される温度である本加熱温度に到達する前に、被処理物に対して窒素を供給するための窒素供給物質としてのアンモニアが熱処理炉内に導入される。
【選択図】図9
【解決手段】浸炭窒化方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化するための浸炭窒化方法であって、熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程と、熱処理炉内において被処理物に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程とを備えている。そして、雰囲気制御工程においては、熱処理炉内の温度が、被処理物を浸炭窒化するために熱処理炉内の温度が保持される温度である本加熱温度に到達する前に、被処理物に対して窒素を供給するための窒素供給物質としてのアンモニアが熱処理炉内に導入される。
【選択図】図9
Description
本発明は浸炭窒化方法、機械部品の製造方法および機械部品に関し、より特定的には、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化するための浸炭窒化方法、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化する工程を含む機械部品の製造方法および0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなり、浸炭窒化が実施された機械部品に関するものである。
一般に、浸炭窒化処理、特に鋼からなる被処理物に対して実施されるガス浸炭窒化処理においては、RXガスおよびアンモニア(NH3)ガスを一定の流量(単位時間あたりの供給量)で熱処理炉内に流入させるとともに、熱処理炉内のカーボンポテンシャル(CP)値を熱処理炉内の二酸化炭素(CO2)の分圧に基づいて制御することにより、当該熱処理炉内の雰囲気が制御されている。ここで、被処理物の表層部に侵入する窒素量を、浸炭窒化処理中に直接測定することは困難である。そのため、熱処理炉ごとに、アンモニアガスの流量と被処理物の表層部に侵入する窒素量との関係を過去の生産実績等から経験的に決定し、浸炭窒化処理中に直接測定することが可能なアンモニアガスの流量を調節することにより被処理物の表層部に侵入する窒素量が制御される場合が多い。
そして、このアンモニアガスの流量は、各熱処理炉の過去の生産実績等に基づき、被処理物の量や形状などを考慮して経験的に決定されている。そのため、過去の生産実績が無いような量や形状の被処理物を浸炭窒化処理する必要が生じた場合、当該浸炭窒化処理における最適なアンモニアガスの流量を決定するための試行錯誤が必要となる。その結果、最適なアンモニアガスの流量が決定されるまでは被処理物の品質を安定させることが困難なだけでなく、上記試行錯誤を量産ラインにおいて実施する必要があるため、要求品質を満たさない被処理物が発生し、生産コスト上昇の要因となるおそれもある。
これに対し、熱処理炉ごとに、また被処理物の量や形状ごとに変化させる必要のあるアンモニアガスの流量ではなく、熱処理炉内に残留している気体アンモニアの濃度である未分解アンモニア濃度(アンモニアの残留ガス濃度)を調節することにより、被処理物に侵入する窒素量を制御する方法が提案されている(たとえば、非特許文献1および特許文献1参照)。すなわち。浸炭窒化処理中に測定が可能な未分解アンモニア濃度を測定し、熱処理炉の形状や被処理物の量および形状等に関係なく決定可能な未分解アンモニア濃度と被処理物に侵入する窒素量との関係に基づき、アンモニアガスの流量が調節される。これにより、最適なアンモニアガスの流量を試行錯誤により決定することなく、被処理物に侵入する窒素量を制御することが可能となり、被処理物の品質を安定させるとともに処理コストを低減することができる。
恒川好樹、他2名、「ガス浸炭窒化処理におけるボイドの発生と窒素の拡散挙動」、熱処理、1985年、25巻、5号、p.242−247 特開平8−13125号公報
恒川好樹、他2名、「ガス浸炭窒化処理におけるボイドの発生と窒素の拡散挙動」、熱処理、1985年、25巻、5号、p.242−247
浸炭窒化処理は、機械部品の製造工程等において、比較的コストの高い工程である。そのため、浸炭窒化処理に対しては、さらなる処理コストの低減を目的として、処理時間の短縮による処理効率の向上が求められている。
ここで、被処理物への窒素浸入速度(被処理物の表面の単位面積から単位時間あたりに侵入する窒素量)は、被処理物の表面における窒素濃度の影響を大きく受け、当該窒素濃度が高いほど窒素浸入速度は低下する。したがって、浸炭窒化処理が実施される温度(浸炭窒化温度)を高くして、被処理物内部における窒素の拡散速度を上昇させ、被処理物に侵入した窒素をなるべく速く内部へと拡散させることで、窒素浸入速度を向上させることができる。しかし、浸炭窒化温度を高くすると、焼入後の被処理物を構成する鋼中の残留オーステナイト量が増加する。過剰な残留オーステナイトは、焼入後の被処理物の硬度を低下させるとともに、経年寸法変化量を増大させるという悪影響を被処理物に及ぼす。そのため、浸炭窒化温度を高くすることによる処理効率の向上は、必ずしも好ましいとはいえない。
そこで、本発明の目的は、浸炭窒化温度を上昇させることなく、処理効率を向上させることが可能な浸炭窒化方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、効率的な浸炭窒化処理が実施されることにより、製造コストの低減が可能な機械部品の製造方法を提供することである。また、本発明のさらに他の目的は、効率的な浸炭窒化処理が実施されることにより、製造コストが低減された機械部品を提供することである。
本発明に従った浸炭窒化方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化するための浸炭窒化方法である。そして、当該浸炭窒化方法は、熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程と、熱処理炉内において被処理物に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程とを備えている。そして、雰囲気制御工程においては、熱処理炉内の温度が、被処理物を浸炭窒化するために熱処理炉内の温度が保持される温度である本加熱温度に到達する前に、被処理物に対して窒素を供給するための窒素供給物質が熱処理炉内に導入される。
本発明者は、浸炭窒化処理の効率化を目標として、浸炭窒化処理における窒素供給物質の熱処理炉内への供給タイミングと、被処理物の内部に所望の窒素濃度分布が形成されるまでの所要時間との関係について鋭意検討し、以下のような知見を得た。
一般に、被処理物を浸炭窒化するために熱処理炉内の温度が保持される温度である本加熱温度まで熱処理炉内の温度を上昇させる昇温工程と、熱処理炉内の温度を本加熱温度に保持する本加熱工程とを有する浸炭窒化工程においては、アンモニアやアミノ基を有する化合物(たとえば、塩化アンモニウム)などの窒素供給物質は、本加熱工程においてのみ、熱処理炉内に供給される。これは、窒素侵入速度は温度の影響を大きく受け、窒素供給物質を低温時から供給しても窒素の侵入を促進する効果は小さいと考えられていること、および昇温過程において被処理物の表面に鉄やクロムなどの窒化物からなる窒化物層が形成されることによる被処理物の特性への悪影響が懸念されること、などに基づいている。
これに対し、本発明者は、窒素供給物質の熱処理炉への供給タイミングを詳細に検討した結果、本加熱温度に到達する前の昇温工程において、窒素供給物質を熱処理炉内に導入することで、本加熱工程の時間(本加熱時間)を短縮できること、およびこれを行なっても被処理物の特性への悪影響は認められないことを見出した。すなわち、昇温工程において、窒素供給物質を熱処理炉内に導入することで、被処理物に所望の窒素分布を形成するための本加熱工程の時間を、これを行なわない場合に比べて短縮できることが確認された。
さらに、昇温工程において窒素供給物質を熱処理炉内に導入して浸炭窒化が実施された被処理物の表面を確認したところ、窒化物層の形成は認められなかった。これは、昇温工程が通常の昇温速度、たとえば160(℃/時間)以上の昇温速度において実施される場合、窒化物層が主に形成される500〜600℃付近の温度域に被処理物が保持される時間が短いため、窒化物層が形成されない、あるいはわずかに形成された窒化物層に含まれる窒化物は、その後の昇温工程および本加熱工程において分解されて素地中に固溶するためであると考えられる。
つまり、本発明の浸炭窒化方法によれば、熱処理炉内の温度が本加熱温度に到達する前に、窒素供給物質が熱処理炉内に導入されることにより、浸炭窒化温度を上昇させることなく、処理効率を向上させることができる。
上記本発明の浸炭窒化方法において好ましくは、窒素供給物質が熱処理炉内に導入される温度である窒素供給物質導入温度は、被処理物のA1点以上の温度である。これにより、上述の窒化物層の形成が一層抑制される。なお、窒化物層の形成をより確実に回避するためには、窒素供給物質導入温度は、A1点よりも20℃以上高い温度であることが好ましい。
上記本発明の浸炭窒化方法において好ましくは、雰囲気制御工程は、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度を制御する未分解NH3濃度制御工程と、熱処理炉内の一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧を制御するCO/CO2分圧制御工程とを含んでいる。そして、雰囲気制御工程においては、以下の式(1)で定義されるγの値が2以上5以下の範囲になるように、未分解NH3濃度制御工程およびCO/CO2分圧制御工程が実施される。
本発明者は、熱処理炉内の雰囲気と被処理物への窒素の侵入挙動との関係について詳細に検討を行なった。そして、被処理物への窒素の侵入速度に対して熱処理炉内の雰囲気中の未分解アンモニア量だけでなく、上記式(2)で定義されるaC *も影響を与えることに着目し、式(1)で定義されるγの値が被処理物への窒素の侵入挙動に影響を及ぼす重要な因子となっていることを見出した。
すなわち、γが一定であれば、aC *が小さいほど被処理物への窒素の侵入速度が大きくなる。一方、aC *が一定であれば、γが小さいほど被処理物への窒素の侵入速度が大きくなる。そして、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物においては、γの値が5となったとき、被処理物への窒素の侵入速度が最大となり、γの値が5以下では窒素の侵入速度は一定となる。つまり、γの値を5以下とすることで、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物への窒素の侵入速度を最大にすることができる。なお、ac *は、1.0以下の値となる場合、炭素の活量に該当する。
一方、上述のように浸炭窒化を実施する熱処理炉内の雰囲気におけるγ値が5以下であれば、被処理物への窒素の侵入速度を最大にすることができるが、γの値が小さくなりすぎると別の問題が発生する。すなわち、γの値を2未満とするためには、熱処理炉へのアンモニアの供給速度(アンモニアの流量)を高くする必要がある。これに伴い、熱処理炉内における一酸化炭素の分圧が低下するため、カーボンポテンシャルを保持するためには、熱処理炉内へのエンリッチガスとしてのプロパン(C3H8)ガス、ブタンガス(C4H10)などの炭化水素ガスの導入量を増加させる必要が生じる。これにより、スーティング(熱処理炉内にすすが発生し、被処理物に付着すること)が発生しやすくなり、被処理物に表面浸炭などの品質上の不具合が発生するおそれがある。
つまり、雰囲気制御工程において、γの値が2以上5以下の範囲になるように、未分解NH3濃度制御工程およびCO/CO2分圧制御工程が実施されることにより、スーティングの発生を抑制しつつ、浸炭窒化処理の処理効率を一層向上させることができる。
なお、未分解アンモニア濃度とは、熱処理炉内に供給されたアンモニアのうち、分解されることなく気体アンモニアの状態で残存しているアンモニアの熱処理炉内の雰囲気における濃度をいう。
上記浸炭窒化方法において好ましくは、未分解アンモニア濃度制御工程では、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度が測定され、未分解アンモニア濃度と、γの値が2以上5以下の範囲となる目標の未分解アンモニア濃度とが比較されて、熱処理炉内に供給されるアンモニアの流量が調節される。
これにより、熱処理炉内における雰囲気中の未分解アンモニア濃度を精度良くコントロールすることができる。その結果、上述の雰囲気制御工程における熱処理炉内のγ値の制御が容易となる。
本発明に従った機械部品の製造方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程と、鋼製部材準備工程において準備された鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A1点以上の温度からMS点以下の温度へ冷却することにより、鋼製部材を焼入硬化する焼入硬化工程とを備えている。そして、焼入硬化工程における浸炭窒化処理は、上述の浸炭窒化方法を用いて実施される。
本発明の機械部品の製造方法によれば、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物に適した上述の本発明の浸炭窒化方法が焼入硬化工程において採用されることにより、安定した品質が確保されつつ効率的な浸炭窒化処理が実施され、機械部品の製造コストを低減することが可能となる。
ここで、A1点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、Ms点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
本発明に従った機械部品は、上述の機械部品の製造方法により製造されている。上述した本発明の機械部品の製造方法により製造されていることにより、本発明の機械部品は、効率的な浸炭窒化処理が実施されており、製造コストが低減されている。
上記本発明の機械部品は、軸受を構成する部品として用いられてもよい。浸炭窒化が実施されることにより表面層が強化され、かつ製造コストが低減された本発明の機械部品は、疲労強度、耐摩耗性等が要求される機械部品である軸受を構成する部品として好適である。
なお、上述の機械部品を用いて、軌道輪と、軌道輪に接触し、円環状の軌道上に配置される転動体とを備えた転がり軸受を構成してもよい。すなわち、軌道輪および転動体の少なくともいずれか一方、好ましくは両方が、上述の機械部品である。浸炭窒化が実施されることにより表面層が強化され、かつ製造コストが低減された本発明の機械部品を備えていることにより、当該転がり軸受によれば、製造コストが低減されるとともに、長寿命な転がり軸受を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の浸炭窒化方法によれば、浸炭窒化温度を上昇させることなく、処理効率を向上させることが可能な浸炭窒化方法を提供することができる。また、本発明の機械部品の製造方法によれば、効率的な浸炭窒化処理が実施されることにより、製造コストの低減が可能な機械部品の製造方法を提供することができる。また、本発明の機械部品によれば、効率的な浸炭窒化処理が実施されることにより、製造コストが低減された機械部品を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
図1は、本発明の一実施の形態における機械部品を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、本発明の一実施の形態における転がり軸受としての深溝玉軸受について説明する。
図1を参照して、深溝玉軸受1は、環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体としての複数の玉13とを備えている。外輪11の内周面には外輪転走面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪転走面12Aが形成されている。そして、内輪転走面12Aと外輪転走面11Aとが互いに対向するように、外輪11と内輪12とは配置されている。さらに、複数の玉13は、内輪転走面12Aおよび外輪転走面11Aに接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である外輪11、内輪12、玉13および保持器14のうち、特に、外輪11、内輪12および玉13には転動疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、深溝玉軸受1の製造コストを低減しつつ、深溝玉軸受1を長寿命化することができる。
図2は、本発明の他の実施の形態における機械部品を備えた転がり軸受としてのスラストニードルころ軸受の構成を示す概略断面図である。図2を参照して、本発明の他の実施の形態におけるスラストニードルころ軸受について説明する。
図2を参照して、スラストニードルころ軸受2は、円盤状の形状を有し、互いに一方の主面が対向するように配置された転動部材としての一対の軌道輪21と、転動部材としての複数のニードルころ23と、円環状の保持器24とを備えている。複数のニードルころ23は、一対の軌道輪21の互いに対向する主面に形成された軌道輪転走面21Aに接触し、かつ保持器24により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、スラストニードルころ軸受2の一対の軌道輪21は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である軌道輪21、ニードルころ23および保持器24のうち、特に、軌道輪21、ニードルころ23には転動疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、スラストニードルころ軸受2の製造コストを低減しつつ、スラストニードルころ軸受2を長寿命化することができる。
図3は、本発明のさらに他の実施の形態における機械部品を備えた等速ジョイントの構成を示す概略断面図である。また、図4は、図3の線分IV−IVに沿う概略断面図である。また、図5は、図3の等速ジョイントが角度をなした状態を示す概略断面図である。なお、図3は、図4の線分III−IIIに沿う概略断面図に対応する。図3〜図5を参照して、本発明のさらに他の実施の形態における等速ジョイントについて説明する。
図3〜図5を参照して、等速ジョイント3は、軸35に連結されたインナーレース31と、インナーレース31の外周側を囲むように配置され、軸36に連結されたアウターレース32と、インナーレース31とアウターレース32との間に配置されたトルク伝達用のボール33と、ボール33を保持するケージ34とを備えている。ボール33は、インナーレース31の外周面に形成されたインナーレースボール溝31Aと、アウターレース32の内周面に形成されたアウターレースボール溝32Aとに接触して配置され、脱落しないようにケージ34によって保持されている。
インナーレース31の外周面およびアウターレース32の内周面のそれぞれに形成されたインナーレースボール溝31Aとアウターレースボール溝32Aとは、図3に示すように、軸35および軸36の中央を通る軸が一直線上にある状態において、それぞれ当該軸上のジョイント中心Oから当該軸上の左右に等距離離れた点Aおよび点Bを曲率中心とする曲線(円弧)状に形成されている。すなわち、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに接触して転動するボール33の中心Pの軌跡が、点A(インナーレース中心A)および点B(アウターレース中心B)に曲率中心を有する曲線(円弧)となるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aのそれぞれは形成されている。これにより、等速ジョイントが角度をなした場合(軸35および軸36の中央を通る軸が交差するように等速ジョイントが動作した場合)においても、ボール33は、常に軸35および軸36の中央を通る軸のなす角(∠AOB)の2等分線上に位置する。
次に、等速ジョイント3の動作について説明する。図3および図4を参照して、等速ジョイント3においては、軸35、36の一方に軸まわりの回転が伝達されると、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに嵌め込まれたボール33を介して、軸35、36の他方の軸に当該回転が伝達される。ここで、図5に示すように軸35、36が角度θをなした場合、ボール33は、前述のインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bに曲率中心を有するインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに案内されて、中心Pが∠AOBの二等分線上となる位置に保持される。ここで、ジョイント中心Oからインナーレース中心Aまでの距離と、アウターレース中心Bまでの距離とが等しくなるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aが形成されているため、ボール33の中心Pからインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bまでの距離はそれぞれ等しく、△OAPと△OBPとは合同である。その結果、ボール33の中心Pから軸35、36までの距離Lは互いに等しくなり、軸35、36の一方が軸まわりに回転した場合、他方も等速で回転する。このように、等速ジョイント3は、軸35、36が角度をなした場合でも、等速性を確保することができる。なお、ケージ34は、軸35、36が回転した場合に、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aからボール33が飛び出すことをインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aとともに防止すると同時に、等速ジョイント3のジョイント中心Oを決定する機能を果たしている。
ここで、機械部品であるインナーレース31、アウターレース32、ボール33およびケージ34のうち、特に、インナーレース31、アウターレース32およびボール33には疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、等速ジョイント3の製造コストを低減しつつ、等速ジョイント3を長寿命化することができる。
次に、本発明の機械部品の製造方法の一実施の形態における機械部品、および上記機械部品を備えた転がり軸受、等速ジョイントなどの機械要素の製造方法について説明する。図6は、本発明の一実施の形態におけるにおける機械部品および当該機械部品を備えた機械要素の製造方法の概略を示す図である。
図6を参照して、まず、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程が実施される。具体的には、たとえば、0.8質量%以上の炭素を含有する棒鋼、鋼線などを素材とし、当該棒鋼、鋼線などに対して切断、鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、機械部品としての外輪11、軌道輪21、インナーレース31などの機械部品の概略形状に成形された鋼製部材が準備される。
次に、鋼製部材準備工程において準備された上述の鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A1点以上の温度からMS点以下の温度へ冷却することにより、鋼製部材を焼入硬化する焼入硬化工程が実施される。この焼入硬化工程の詳細については後述する。
次に、焼入硬化工程が実施された鋼製部材に対して、A1点以下の温度に加熱することにより鋼製部材の靭性等を向上させる焼戻工程が実施される。具体的には、焼入硬化された鋼製部材がA1点以下の温度である150℃以上350℃以下の温度、たとえば180℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。
さらに、焼戻工程が実施された鋼製部材に対して、仕上げ加工などが施される仕上げ工程が実施される。具体的には、たとえば、焼戻工程が実施された鋼製部材の内輪転走面12A、軌道輪転走面21A、アウターレースボール溝32Aなどに対する研削加工が実施される。これにより、本発明の実施の形態における機械部品は完成し、本実施の形態における機械部品の製造方法は完了する。
さらに、完成した機械部品が組合わされて機械要素が組立てられる組立て工程が実施される。具体的には、上述の工程により製造された本発明の機械部品である、たとえば外輪11、内輪12、玉13と保持器14とが組合わされて、深溝玉軸受1が組立てられる。これにより、本発明の機械部品を備えた機械要素が製造される。
次に、上述の焼入硬化工程の詳細について説明する。図7は、本発明の一実施の形態における機械部品の製造方法に含まれる焼入硬化工程の詳細を説明するための図である。また、図8は、図7の雰囲気制御工程に含まれる未分解NH3分圧制御工程を説明するための図である。また、図9は、図7の浸炭窒化工程に含まれる加熱パターン制御工程における加熱パターン(被処理物に与えられる温度履歴)の一例を示す図である。図9において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図9において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図7〜図9を参照して、本実施の形態における機械部品の製造方法に含まれる焼入硬化工程の詳細について説明する。
図7を参照して、本実施の形態における機械部品の製造方法の焼入硬化工程においては、まず、被処理物としての鋼製部材が浸炭窒化される浸炭窒化工程が実施される。その後、鋼製部材がA1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却される冷却工程が実施される。そして、浸炭窒化工程においては、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化するための本発明の浸炭窒化方法が用いられて、浸炭窒化処理が実施される。
浸炭窒化工程は、熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程50と、熱処理炉内において被処理物に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程60とを備えている。この雰囲気制御工程50と加熱パターン制御工程60とは、それぞれ並行して実施することができる。そして、雰囲気制御工程50は、熱処理炉内の未分解アンモニア分圧が制御される未分解NH3分圧制御工程51と、熱処理炉内の一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧が制御されるCO/CO2分圧制御工程52とを含んでいる。
そして、雰囲気制御工程50においては、式(1)で定義されるγが2以上5以下となるように、未分解NH3分圧制御工程51およびCO/CO2分圧制御工程52が実施される。ここで、未分解NH3分圧制御工程51は、熱処理炉内の温度が、後述するアンモニア導入温度T1未満である期間は実施されず、熱処理炉内の温度が、T1に到達すると同時に開始される。そして、これと同時に、γが2以上5以下となるように、未分解NH3分圧制御工程51およびCO/CO2分圧制御工程52が実施される。
すなわち、たとえば、雰囲気制御工程50は以下のように実施することができる。まず、被処理物の表層部における所望の炭素濃度を考慮して、雰囲気のカーボンポテンシャル(CP)値と一対一の関係にあるac *の目標値が決定される。そして、式(2)を参照して、CO/CO2分圧制御工程52では、一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧が制御されて、雰囲気のac *が目標値に調整される。当該調整は、たとえばエンリッチガスとしてのプロパン(C3H8)ガス、ブタンガス(C4H10)などの炭化水素ガスの供給量を調節することにより、実施することができる。
具体的には、たとえば、赤外線ガス濃度測定装置を用いて雰囲気中の一酸化炭素の分圧PCOおよび二酸化炭素の分圧PCO2が測定される。そして、当該測定値に基づいて、式(2)で定義されるac *が目標の値となるように、エンリッチガスとしてのプロパン(C3H8)ガス、ブタンガス(C4H10)などの供給量が調節される。
一方、熱処理炉内の温度がT1に到達すると、未分解NH3分圧制御工程51が開始される。未分解NH3分圧制御工程51では、未分解アンモニア分圧が制御されることにより、未分解アンモニア濃度が調節される。そして、式(1)を参照して、上述のように目標値に調整されたac *との関係に基づいてγが2以上5以下に調整される。
より具体的には、図8を参照して、未分解NH3分圧制御工程51では、まず、熱処理炉内の未分解アンモニア分圧を測定する未分解NH3分圧測定工程(S11)が実施される。未分解アンモニア分圧の測定は、たとえばガスクロマトグラフを用いて実施することができる。そして、工程(S11)において測定された未分解アンモニア分圧に基づいて、熱処理炉へのアンモニアガスの供給量を増減させるNH3供給量調節工程(S13)の実施の要否を判断する、未分解NH3分圧判断工程(S12)が実施される。当該判断は、γが2以上5以下の範囲になるように決定された目標の未分解アンモニア分圧と、測定された未分解アンモニア分圧とを比較し、測定された未分解アンモニア分圧が目標の未分解アンモニア分圧になっているかどうかを判定することにより実施される。
ここで、上記未分解アンモニア分圧と目標の未分解アンモニア分圧との比較は、実際に分圧を比較するものだけでなく、未分解アンモニアの濃度など、分圧と等価な値を比較することにより結果的に分圧が比較されるものであればよい。
未分解アンモニア分圧が目標の未分解アンモニア分圧になっていない場合には、熱処理炉内の未分解アンモニア分圧を増減させるための工程(S13)が実施された後、工程(S11)が再度実施される。工程(S13)は、たとえば、熱処理炉に配管を介して連結されたアンモニアガスのボンベから単位時間に熱処理炉に流入するアンモニアの量(アンモニアガスの流量)を、当該配管に取り付けられたマスフローコントローラなどを備えた流量制御装置を用いて調節することにより実施することができる。すなわち、測定された未分解アンモニア分圧が目標の未分解アンモニア分圧よりも高い場合、上記流量を低下させ、低い場合、上記流量を増加させることにより、工程(S13)を実施することができる。この工程(S13)において、測定された未分解アンモニア分圧と目標の未分解アンモニア分圧との間に所定の差がある場合、どの程度流量を増減させるかについては、予め実験的に決定したアンモニアガスの流量の増減と未分解アンモニア分圧の増減との関係に基づいて決定することができる。
一方、未分解アンモニア分圧が目標の未分解アンモニア分圧になっている場合には、工程(S13)が実施されることなく、工程(S11)が再度実施される。
なお、上記γの値を所望の値とするためには、式(1)に示すように熱処理炉へのアンモニアの単位時間あたりの供給量(流量)を調節して未分解アンモニア濃度を制御してもよいが、エンリッチガスの流量を調節して一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧を制御してもよい。
一方、図7を参照して、加熱パターン制御工程60では、被処理物としての鋼製部材に付与される加熱履歴が制御される。具体的には、図9に示すように、鋼製部材が上述の雰囲気制御工程50によって制御された雰囲気中で、A1点以上の温度である800℃以上1000℃以下の温度、たとえば850℃に加熱され、60分間以上300分間以下の時間、たとえば150分間保持される。
ここで、雰囲気制御工程50においては、被処理物を浸炭窒化するために熱処理炉内の温度が保持される温度である本加熱温度、たとえば850℃に到達する前の温度T1(アンモニア導入温度T1)において、窒素供給物質としてのアンモニアが熱処理炉内に導入される。具体的には、浸炭窒化工程の加熱パターン制御工程60は、図9を参照して、熱処理炉内の温度を本加熱温度まで上昇させる昇温工程と、熱処理炉内の温度を本加熱温度に保持する本加熱工程とを有している。そして、昇温工程中の温度T1において、アンモニアが熱処理炉内に導入される。これにより、浸炭窒化温度を上昇させることなく、処理効率を向上させることができる。
ここで、上記雰囲気制御工程50において好ましくは、T1は、A1点以上本加熱温度未満の温度である。T1をA1点以上の温度とすることにより、被処理物の表面に鉄やクロムなどの窒化物からなる窒化物層が形成されることを抑制することができる。
さらに、上記雰囲気制御工程50において好ましくは、A1点以上の温度域においては常に、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度が0.2体積%以上0.4体積%以下、より好ましくは、さらにγが2以上5以下の範囲とされる。これにより、浸炭窒化処理の処理効率を一層向上させることができる。ここで、未分解アンモニア濃度が0.2体積%未満では、被処理物の表層部における窒素濃度が不十分となり、被処理物に十分な転動疲労強度や耐摩耗性を付与することができない。一方、未分解アンモニア濃度が0.4体積%を超えると、被処理物の表層部における残留オーステナイトが過多となり、被処理物の表層部の硬度低下、経年寸法変化率の増大などの問題を生じるおそれがある。そのため、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度は、0.2体積%以上0.4体積%以下であることが好ましい。
なお、上記雰囲気制御工程50においては、T1はA1点よりも20℃以上高い温度であって本加熱温度未満の温度であってもよいし、さらにA1点よりも20℃以上高い温度域においては常に、熱処理炉内の未分解アンモニア濃度が0.2体積%以上0.4体積%以下、さらにγが2以上5以下の範囲とされてもよい。これにより、被処理物の表面に鉄やクロムなどの窒化物からなる窒化物層が形成されることを一層抑制することができる。
以上のように、雰囲気制御工程50において熱処理炉内の雰囲気が制御されつつ、本加熱温度での、たとえば60分間以上300分間以下の保持時間が経過するとともに加熱パターン制御工程60は終了し、同時に雰囲気制御工程50も終了する。
その後、図7および図9を参照して、鋼製部材が油中に浸漬(油冷)されることにより、A1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却される冷却工程が実施される。以上の工程により、鋼製部材は表層部が浸炭窒化されるとともに焼入硬化される。これにより、本実施の形態の焼入硬化工程は完了する。
以上のように、本実施の形態の浸炭窒化方法によれば、熱処理炉内の温度が本加熱温度に到達する前に、アンモニアが熱処理炉内に導入されるため、浸炭窒化温度を上昇させることなく、処理効率を向上させることができる。
また、本実施の形態の機械部品の製造方法によれば、製造コストを低減しつつ、適切に浸炭窒化処理が実施された機械部品を製造することができる。また、本実施の形態の機械部品は、製造コストが低減されつつ、適切に浸炭窒化処理が実施された機械部品となっている。
ここで、本実施の形態の浸炭窒化方法においては、被処理物としての鋼製部材を構成する鋼の組成ごとに決定される、γの値および被処理物が浸炭窒化雰囲気中でA1点以上の温度に保持されている時間である浸炭窒化時間と、被処理物の表面から所定の深さの領域における窒素濃度との関係に基づき、浸炭窒化時間が決定されることが好ましい。
具体的には、本実施の形態の浸炭窒化方法においては、上述のようにγが適切な値に決まれば、浸炭窒化処理における窒素侵入速度が最大近くにまで向上し、所定時間内の窒素侵入量が決定される。そして、被処理物に侵入した窒素は、以下の式(3)に示すように、ガウスのエラー関数に従って拡散、分布すると考えることができる。したがって、被処理物の浸炭窒化後の加工工程、その後の使用状態等を考慮して窒素濃度を制御すべき深さを決定し、上述の関係に基づいて窒素濃度を制御すべき深さにおける窒素濃度が所望の濃度となるように、浸炭窒化時間を決定することができる。
ここで、拡散係数Dは、実験的に求めることが可能で、被処理物中の窒素濃度が拡散係数に及ぼす影響を考慮した拡散係数として、たとえば以下の式(4)に示す拡散係数Dを式(3)の計算に採用することができる。
D=6.85×10−7exp(140×N)・・・・(4)
N:窒素濃度
上記γの値および浸炭窒化時間と、被処理物の表面から所定の深さの領域における窒素濃度との関係は、被処理物を構成する鋼の組成により決定される。そのため、当該関係を予め決定しておくことにより、同一組成の被処理物に対しては、被処理物の形状等が変化した場合でも、当該関係に基づいて浸炭窒化時間を決定することができる。これにより、被処理物において重要な所望の深さの領域における窒素含有量を容易に制御することが可能となる。
N:窒素濃度
上記γの値および浸炭窒化時間と、被処理物の表面から所定の深さの領域における窒素濃度との関係は、被処理物を構成する鋼の組成により決定される。そのため、当該関係を予め決定しておくことにより、同一組成の被処理物に対しては、被処理物の形状等が変化した場合でも、当該関係に基づいて浸炭窒化時間を決定することができる。これにより、被処理物において重要な所望の深さの領域における窒素含有量を容易に制御することが可能となる。
なお、上記実施の形態においては、本発明の機械部品の一例として、深溝玉軸受、スラストニードルころ軸受、等速ジョイントを構成する機械部品について説明したが、本発明の機械部品はこれに限られず、表層部の疲労強度、耐摩耗性が要求される機械部品、たとえばハブ、ギア、シャフト等を構成する機械部品であってもよい。
また、被処理物の表層部とは、被処理物の表面付近の領域をいい、たとえば仕上げ加工等が実施され、被処理物が製品となった状態における表面からの距離が0.2mm以下の領域となるべき領域をいう。つまり、被処理物の表層部とは、被処理物が加工等されて製造される製品に対する要求特性に鑑み、被処理物が製品となった状態において、窒素濃度や炭素濃度を制御すべき領域であって、製品ごとに適宜決定することができる。
以下、本発明の実施例1について説明する。窒素供給物質であるアンモニアガスを、熱処理炉内の温度が本加熱温度に到達する前に熱処理炉内に導入することによる、浸炭窒化処理の効率化の可否を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
実験に用いた熱処理炉の容量は120L(リットル)である。被処理物はJIS SUJ2(炭素含有量1質量%)製の外径φ38mm、内径φ30mm、幅10mmのリングとし、熱処理炉内に101g(グラム)挿入した。加熱パタ−ンは図9と同様のパターンを採用して本加熱温度は850℃、熱処理炉内に供給されるベースガス(エンリッチガスおよびアンモニアガス以外の雰囲気ガス)の流量は20℃、1.05気圧の下で11.5L/分、ac *は1.03、未分解アンモニア濃度0.2体積%とした。
そして、本発明の実施例においては、本加熱温度(850℃)到達前の770℃をアンモニア導入温度T1として、この温度に到達した時点からアンモニアを熱処理炉内に導入し、本加熱工程終了まで未分解アンモニア濃度を0.2体積%に維持して浸炭窒化処理を実施した。本加熱温度に保持される時間(本加熱時間)は、実施例Aでは8100秒、実施例Bでは4050秒の2水準とした。なお、アンモニア導入温度T1として採用した770℃は、SUJ2のA1点温度である750℃よりも20℃高い温度である。
一方、本発明の範囲外である比較例においては、本加熱温度である850℃到達直後からアンモニアを熱処理炉内に導入し、本加熱工程終了まで未分解アンモニア濃度を0.2体積%に維持して浸炭窒化処理を実施した。本加熱時間は、比較例Aでは9000秒、比較例Bでは4500秒の2水準とした。すなわち、実施例Aは比較例Aに対して、実施例Bは比較例Bに対して、それぞれ本加熱時間を10%低減した条件で浸炭窒化処理を実施した。なお、実施例および比較例の昇温工程は同一の温度履歴により実施され、770℃から850℃までの昇温速度は、160℃/時間とした。
浸炭窒化工程終了後、油冷することにより被処理物を焼入硬化させた後、当該被処理物を表面に垂直な断面で切断し、得られた断面をEPMA(Electron Probe Micro Analysis)により分析した。そして、被処理物表面の単位面積あたりから侵入した窒素量である窒素侵入量、および当該断面の深さ方向における窒素濃度分布を調査した。
表1に本実験の実験条件および窒素侵入量を示す。また、図10は、実施例Aおよび比較例Aにおける窒素濃度分布を示す図である。また、図11は、実施例Bおよび比較例Bにおける窒素濃度分布を示す図である。表1、図10および図11を参照して、本実験の結果について説明する。
表1、図10および図11を参照して、実施例Aおよび比較例A、実施例Bおよび比較例Bをそれぞれ比較すると、実施例においては、本加熱時間が比較例に対して10%低減されたにもかかわらず、実施例および比較例の窒素侵入量および窒素濃度分布はほとんど同一となっている。このことから、熱処理炉内の温度が本加熱温度に到達する前に、アンモニアを熱処理炉内に導入することにより、浸炭窒化温度を上昇させることなく、処理効率を向上させることが可能であることが確認された。
以下、本発明の実施例2について説明する。γの値と被処理物への窒素侵入速度との関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
実験に用いた熱処理炉および被処理物は、実施例1と同様である。加熱パタ−ンは図9と同様のパターンを採用して浸炭窒化の保持温度は850℃とした。そして、aC *値を0.78〜1.28の3水準として、γの値を変化させ、浸炭窒化時間9000秒間に侵入した窒素の質量を測定することにより、1秒間あたりに被処理物の表面1mm2から侵入した窒素の質量(単位:g)すなわち窒素侵入速度(単位:g/mm2・秒)を算出した。侵入した窒素の量は、EPMAにより測定した。
図12は、3水準のaC *値におけるγ値と窒素侵入速度との関係を示す図である。図12において、横軸はγの値、縦軸は窒素侵入速度である。そして、丸印および破線はaC *が0.78、三角印および実線はaC *が1.03、四角印および一点鎖線はaC *が1.28の場合を示している。図12を参照して、aC *値およびγ値と窒素侵入速度との関係について説明する。
図12を参照して、γが一定であれば、aC *が小さいほど被処理物への窒素の侵入速度が大きくなる。一方、aC *が一定であれば、γが小さいほど被処理物への窒素の侵入速度が大きくなる。そして、γの値が5となったとき、被処理物への窒素の侵入速度が最大となり、γの値が5以下では窒素の侵入速度は一定となる。したがって、γの値を5以下とすることで、被処理物への窒素の侵入速度を最大にすることができることがわかる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の浸炭窒化方法および機械部品の製造方法は、0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化するための浸炭窒化方法、および0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化する工程を含む機械部品の製造方法に特に有利に適用され得る。また、本発明の機械部品は、疲労強度および耐摩耗性が要求される機械部品に特に有利に適用され得る。
1 深溝玉軸受、2 スラストニードルころ軸受、3 等速ジョイント、11 外輪、11A 外輪転走面、12 内輪、12A 内輪転走面、13 玉、14,24 保持器、21 軌道輪、21A 軌道輪転走面、23 ニードルころ、31 インナーレース、31A インナーレースボール溝、32 アウターレース、32A アウターレースボール溝、33 ボール、34 ケージ、35,36 軸、50 雰囲気制御工程、51 未分解HN3分圧制御工程、52 CO/CO2分圧制御工程、60 加熱パターン制御工程。
Claims (5)
- 0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなる被処理物を浸炭窒化するための浸炭窒化方法であって、
熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程と、
前記熱処理炉内において前記被処理物に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程とを備え、
前記雰囲気制御工程においては、前記熱処理炉内の温度が、前記被処理物を浸炭窒化するために前記熱処理炉内の温度が保持される温度である本加熱温度に到達する前に、前記被処理物に対して窒素を供給するための窒素供給物質が前記熱処理炉内に導入される、浸炭窒化方法。 - 0.8質量%以上の炭素を含有する鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程と、
前記鋼製部材準備工程において準備された前記鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A1点以上の温度からMS点以下の温度へ冷却することにより、前記鋼製部材を焼入硬化する焼入硬化工程とを備え、
前記焼入硬化工程における前記浸炭窒化処理は、請求項1または2に記載の浸炭窒化方法を用いて実施される、機械部品の製造方法。 - 請求項3に記載の機械部品の製造方法により製造された、機械部品。
- 軸受を構成する部品として用いられる、請求項4に記載の機械部品。
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