JP2007321209A - 焼入硬化方法、機械部品の製造方法および機械部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化する焼入硬化方法を提供する。
【解決手段】焼入硬化方法は、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却することにより焼入硬化する焼入硬化方法である。当該焼入硬化方法は、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却する冷却工程における750℃から300℃までの平均冷却速度が、以下に示す式(1)で定義されるRよりも大きくなるように、被処理物が冷却される。
R=133.4899−0.1253T+23.5957CN+342.8263CN 2・・・(1)
T:冷却前の保持温度、CN:被処理物中の窒素濃度
【選択図】図7
【解決手段】焼入硬化方法は、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却することにより焼入硬化する焼入硬化方法である。当該焼入硬化方法は、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却する冷却工程における750℃から300℃までの平均冷却速度が、以下に示す式(1)で定義されるRよりも大きくなるように、被処理物が冷却される。
R=133.4899−0.1253T+23.5957CN+342.8263CN 2・・・(1)
T:冷却前の保持温度、CN:被処理物中の窒素濃度
【選択図】図7
Description
本発明は焼入硬化方法、機械部品の製造方法および機械部品に関し、より特定的には、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を焼入硬化するための焼入硬化方法、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を焼入硬化する工程を含む機械部品の製造方法およびJIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された機械部品に関するものである。
苛酷な環境下で使用される機械部品の耐久性を向上させる方策の1つとして、当該機械部品に窒素富化層を形成したうえで焼入硬化する浸炭窒化焼入などの熱処理が実施される場合がある。焼入硬化された窒素富化層は、耐摩耗性に優れる等の種々の優れた特性を有しており、機械部品の特性向上に寄与している。
ここで、浸炭窒化焼入などの熱処理条件は、各熱処理設備の過去の生産実績等に基づき、被処理物の量や形状などを考慮して経験的に決定されている場合が多い。そのため、過去の生産実績が無いような量や形状の被処理物を熱処理する必要が生じた場合、最適な熱処理条件を決定するための試行錯誤が必要となる。その結果、最適な熱処理条件が決定されるまでは被処理物の品質を安定させることが困難なだけでなく、上記試行錯誤を量産ラインにおいて実施する必要があるため、要求品質を満たさない被処理物が発生し、生産コスト上昇の要因となるおそれもある。
これに対し、試行錯誤による条件決定を行なうことなく窒素富化層を形成するための熱処理方法が検討されている(たとえば、非特許文献1および特許文献1参照)。これにより、品質の安定した窒素富化層を被処理物に形成することが可能となる。
恒川好樹、外2名、「ガス浸炭窒化処理におけるボイドの発生と窒素の拡散挙動」、熱処理、1985年、25巻、5号、p.242−247 特開平8−13125号公報
恒川好樹、外2名、「ガス浸炭窒化処理におけるボイドの発生と窒素の拡散挙動」、熱処理、1985年、25巻、5号、p.242−247
しかし、窒素富化層が形成された被処理物を焼入硬化する場合、被処理物を構成する鋼の組織中に、微細なパーライト組織などの不完全焼入組織が形成されやすいという問題がある。この不完全焼入組織が形成されると、被処理物の耐久性(疲労強度、耐摩耗性など)の特性が大幅に低下する。すなわち、安定した品質の窒素富化層が形成されていても、その後の焼入硬化が十分では無い場合、耐久性に優れた被処理物を得ることはできない。
そこで、本発明の一の目的は、機械部品、特に軸受を構成する部品の素材として広く採用されているJIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化する焼入硬化方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化が実施される浸炭窒化焼入工程を含むことにより、JIS規格SUJ2からなる耐久性に優れた機械部品を製造することが可能な機械部品の製造方法を提供することである。また、本発明のさらに他の目的は、窒素富化層を有し、かつ耐久性に優れた機械部品を提供することである。
本発明に従った焼入硬化方法は、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却することにより焼入硬化する焼入硬化方法である。そして、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却する際における750℃から300℃までの平均冷却速度が、以下に示す式(1)で定義されるRよりも大きくなるように、被処理物は冷却される。
R=133.4899−0.1253T+23.5957CN+342.8263CN 2・・・(1)
T:焼入温度、CN:被処理物中の窒素濃度
本発明者は、機械部品、特に軸受を構成する部品として広く用いられているJIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物における、不完全焼入組織の発生について詳細な検討を行なった。その結果、以下のような知見を得た。
T:焼入温度、CN:被処理物中の窒素濃度
本発明者は、機械部品、特に軸受を構成する部品として広く用いられているJIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物における、不完全焼入組織の発生について詳細な検討を行なった。その結果、以下のような知見を得た。
すなわち、SUJ2からなる被処理物においては、窒素富化層が形成されると、鋼中に侵入した窒素がクロム(Cr)窒化物を形成し、鋼中のCrを消費する。ここで、Crは、鋼の焼入性向上に寄与する元素であるため、鋼中のCrが消費されることにより、被処理物の焼入性が低下する。その結果、当該被処理物の臨界冷却速度(焼入硬化によりオーステナイト化した鋼がマルテンサイトに変態できる最低冷却速度)が速くなる。そのため、窒素富化層が形成された被処理物においては、不完全焼入組織が発生しやすくなっている。
これに対し、本発明者は、被処理物の窒素濃度および焼入条件が臨界冷却速度に及ぼす影響について詳細に検討し、臨界冷却速度は、窒素濃度および焼入温度に大きな影響を受けることを見出した。具体的には、750℃から300℃までの平均冷却速度が、焼入硬化の冷却直前の保持温度である焼入温度および被処理物中の窒素濃度とから式(1)に基づいて算出されるR以上とすることにより、不完全焼入組織を発生させることなく、被処理物を焼入硬化できることが明らかとなった。
したがって、本発明の焼入硬化方法によれば、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化することができる。
ここで、窒素富化層とは、被処理物の表層部に形成された被処理物の芯部に比べて窒素含有量が高い層(たとえば、窒素濃度0.01質量%以上0.4質量以下の層)であって、たとえば浸炭窒化、窒化、浸窒などの処理によって形成することができる。また、被処理物の表層部とは、被処理物の表面付近の領域をいい、たとえば仕上げ加工等が実施され、被処理物が製品となった状態における表面からの距離が0.2mm以下の領域となるべき領域をいう。つまり、被処理物の表層部とは、被処理物が加工等されて製造される製品に対する要求特性に鑑み、被処理物が製品となった状態において、窒素濃度や炭素濃度を制御すべき領域であって、製品ごとに適宜決定することができる。
さらに、平均冷却速度とは、単位時間あたりの温度降下(単位:℃/秒)をいい、750℃から300℃までの平均冷却速度とは、温度降下450℃を、750℃から300℃になるまでの所要時間で除した値である。また、A1点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、MS点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
本発明に従った機械部品の製造方法は、JIS規格SUJ2からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程と、鋼製部材準備工程において準備された鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却することにより、鋼製部材の焼入硬化を実施する浸炭窒化焼入工程とを備えている。そして、浸炭窒化焼入工程における焼入硬化は、上述の焼入硬化方法を用いて実施される。
本発明の機械部品の製造方法によれば、不完全焼入組織の形成を回避可能な本発明の焼入硬化方法が浸炭窒化焼入工程において採用されることにより、SUJからなる耐久性に優れた機械部品を製造することができる。
本発明に従った機械部品は、上述の機械部品の製造方法により製造されている。上述した本発明の機械部品の製造方法により製造されていることにより、本発明の機械部品は、耐久性に優れている。
上記本発明の機械部品は、軸受を構成する部品として用いられてもよい。浸炭窒化が実施されることにより表層部が強化され、耐久性が向上した本発明の機械部品は、疲労強度、耐摩耗性等が要求される機械部品である軸受を構成する部品として好適である。
なお、上述の機械部品を用いて、軌道輪と、軌道輪に接触し、円環状の軌道上に配置される転動体とを備えた転がり軸受を構成してもよい。すなわち、軌道輪および転動体の少なくともいずれか一方、好ましくは両方が、上述の機械部品である。浸炭窒化が実施されることにより表層部が強化され、耐久性が向上した本発明の機械部品を備えていることにより、当該転がり軸受によれば、長寿命な転がり軸受を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の焼入硬化方法によれば、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化する焼入硬化方法を提供することができる。また、本発明の機械部品の製造方法によれば、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化が実施される浸炭窒化焼入工程を含むことにより、JIS規格SUJ2からなる耐久性に優れた機械部品を製造することが可能な機械部品の製造方法を提供することができる。また、本発明の機械部品によれば、窒素富化層を有し、かつ耐久性に優れた機械部品を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における機械部品を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、実施の形態1における転がり軸受としての深溝玉軸受について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における機械部品を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、実施の形態1における転がり軸受としての深溝玉軸受について説明する。
図1を参照して、深溝玉軸受1は、環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体としての複数の玉13とを備えている。外輪11の内周面には外輪転走面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪転走面12Aが形成されている。そして、内輪転走面12Aと外輪転走面11Aとが互いに対向するように、外輪11と内輪12とは配置されている。さらに、複数の玉13は、内輪転走面12Aおよび外輪転走面11Aに接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である外輪11、内輪12、玉13および保持器14のうち、特に、外輪11、内輪12および玉13には転動疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の耐久性に優れた機械部品であることにより、深溝玉軸受1を長寿命化することができる。
図2は、実施の形態1の第1の変形例における機械部品を備えた転がり軸受としてのスラストニードルころ軸受の構成を示す概略断面図である。図2を参照して、実施の形態1の第1の変形例におけるスラストニードルころ軸受について説明する。
図2を参照して、スラストニードルころ軸受2は、円盤状の形状を有し、互いに一方の主面が対向するように配置された転動部材としての一対の軌道輪21と、転動部材としての複数のニードルころ23と、円環状の保持器24とを備えている。複数のニードルころ23は、一対の軌道輪21の互いに対向する主面に形成された軌道輪転走面21Aに接触し、かつ保持器24により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、スラストニードルころ軸受2の一対の軌道輪21は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である軌道輪21、ニードルころ23および保持器24のうち、特に、軌道輪21、ニードルころ23には転動疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは耐久性に優れた本発明の機械部品であることにより、スラストニードルころ軸受2を長寿命化することができる。
図3は、実施の形態1の第2の変形例における機械部品を備えた等速ジョイントの構成を示す概略断面図である。また、図4は、図3の線分IV−IVに沿う概略断面図である。また、図5は、図3の等速ジョイントが角度をなした状態を示す概略断面図である。なお、図3は、図4の線分III−IIIに沿う概略断面図に対応する。図3〜図5を参照して、実施の形態1の第2の変形例における等速ジョイントについて説明する。
図3〜図5を参照して、等速ジョイント3は、軸35に連結されたインナーレース31と、インナーレース31の外周側を囲むように配置され、軸36に連結されたアウターレース32と、インナーレース31とアウターレース32との間に配置されたトルク伝達用のボール33と、ボール33を保持するケージ34とを備えている。ボール33は、インナーレース31の外周面に形成されたインナーレースボール溝31Aと、アウターレース32の内周面に形成されたアウターレースボール溝32Aとに接触して配置され、脱落しないようにケージ34によって保持されている。
インナーレース31の外周面およびアウターレース32の内周面のそれぞれに形成されたインナーレースボール溝31Aとアウターレースボール溝32Aとは、図3に示すように、軸35および軸36の中央を通る軸が一直線上にある状態において、それぞれ当該軸上のジョイント中心Oから当該軸上の左右に等距離離れた点Aおよび点Bを曲率中心とする曲線(円弧)状に形成されている。すなわち、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに接触して転動するボール33の中心Pの軌跡が、点A(インナーレース中心A)および点B(アウターレース中心B)に曲率中心を有する曲線(円弧)となるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aのそれぞれは形成されている。これにより、等速ジョイントが角度をなした場合(軸35および軸36の中央を通る軸が交差するように等速ジョイントが動作した場合)においても、ボール33は、常に軸35および軸36の中央を通る軸のなす角(∠AOB)の2等分線上に位置する。
次に、等速ジョイント3の動作について説明する。図3および図4を参照して、等速ジョイント3においては、軸35、36の一方に軸まわりの回転が伝達されると、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに嵌め込まれたボール33を介して、軸35、36の他方の軸に当該回転が伝達される。ここで、図5に示すように軸35、36が角度θをなした場合、ボール33は、前述のインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bに曲率中心を有するインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに案内されて、中心Pが∠AOBの二等分線上となる位置に保持される。ここで、ジョイント中心Oからインナーレース中心Aまでの距離と、アウターレース中心Bまでの距離とが等しくなるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aが形成されているため、ボール33の中心Pからインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bまでの距離はそれぞれ等しく、△OAPと△OBPとは合同である。その結果、ボール33の中心Pから軸35、36までの距離Lは互いに等しくなり、軸35、36の一方が軸まわりに回転した場合、他方も等速で回転する。このように、等速ジョイント3は、軸35、36が角度をなした場合でも、等速性を確保することができる。なお、ケージ34は、軸35、36が回転した場合に、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aからボール33が飛び出すことをインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aとともに防止すると同時に、等速ジョイント3のジョイント中心Oを決定する機能を果たしている。
ここで、機械部品であるインナーレース31、アウターレース32、ボール33およびケージ34のうち、特に、インナーレース31、アウターレース32およびボール33には疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは耐久性に優れた本発明の機械部品であることにより、等速ジョイント3を長寿命化することができる。
次に、本発明の機械部品の製造方法の一実施の形態である実施の形態1における機械部品、および上記機械部品を備えた転がり軸受、等速ジョイントなどの機械要素の製造方法について説明する。図6は、本発明の実施の形態1における機械部品および当該機械部品を備えた機械要素の製造方法の概略を示す図である。
図6を参照して、まず、JIS規格SUJ2からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程が実施される。具体的には、たとえば、SUJ2の棒鋼、鋼線などを素材とし、当該棒鋼、鋼線などに対して切断、鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、機械部品としての外輪11、軌道輪21、インナーレース31などの機械部品の概略形状に成形された鋼製部材が準備される。
次に、鋼製部材準備工程において準備された上述の鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A1点以上の温度からMS点以下の温度へ冷却することにより、鋼製部材を焼入硬化する浸炭窒化焼入工程が実施される。浸炭窒化焼入工程は、鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施する浸炭窒化工程と、浸炭窒化処理が実施された鋼製部材をA1点以上の温度からMS点以下の温度へ冷却することにより焼入硬化する冷却工程とを含んでいる。この浸炭窒化焼入工程の詳細については後述する。
次に、浸炭窒化焼入工程が実施された鋼製部材に対して、A1点以下の温度に加熱することにより鋼製部材の靭性等を向上させる焼戻工程が実施される。具体的には、焼入硬化された鋼製部材がA1点以下の温度である150℃以上350℃以下の温度、たとえば180℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。
さらに、焼戻工程が実施された鋼製部材に対して、仕上げ加工などが施される仕上げ工程が実施される。具体的には、たとえば、焼戻工程が実施された鋼製部材の内輪転走面12A、軌道輪転走面21A、アウターレースボール溝32Aなどに対する研削加工が実施される。これにより、本実施の形態における機械部品は完成し、実施の形態1における機械部品の製造方法は完了する。
さらに、完成した機械部品が組合わされて機械要素が組立てられる組立て工程が実施される。具体的には、上述の工程により製造された本発明の機械部品である、たとえば外輪11、内輪12、玉13と保持器14とが組合わされて、深溝玉軸受1が組立てられる。これにより、本発明の機械部品を備えた機械要素が製造される。
次に、上述の浸炭窒化焼入工程の詳細について説明する。図7は、実施の形態1における機械部品の製造方法に含まれる浸炭窒化焼入工程の詳細を説明するための図である。図7において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図7において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図7を参照して、実施の形態1における機械部品の製造方法に含まれる浸炭窒化焼入工程の詳細について説明する。
図7を参照して、実施の形態1における機械部品の製造方法に含まれる浸炭窒化焼入工程においては、まず、被処理物としての鋼製部材が浸炭窒化されて窒素富化層が形成される浸炭窒化工程が実施される。その後、鋼製部材がA1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却される冷却工程が実施される。そして、冷却工程においては、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却することにより焼入硬化する本発明の実施の形態1における焼入硬化方法が用いられて、焼入硬化が実施される。
具体的には、まず、浸炭窒化工程において、被処理物である鋼製部材は、たとえばRXガスにアンモニアガスが添加された雰囲気中で、A1点以上の温度である790℃以上870℃以下の温度、たとえば850℃に加熱され、60分間以上300分間以下の時間、たとえば150分間保持される。そして、冷却工程においては、たとえば鋼製部材が油中に浸漬されることにより焼入硬化される(油冷)。このとき、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却される際における750℃から300℃までの平均冷却速度が、式(1)で定義されるRよりも大きくなるように、鋼製部材が冷却される。
実施の形態1の焼入硬化方法によれば、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化することができる。そして、実施の形態1の機械部品の製造方法によれば、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化が実施される浸炭窒化焼入工程を含むことにより、JIS規格SUJ2からなる耐久性に優れた機械部品を製造することができる。また、実施の形態1の機械部品によれば、窒素富化層を有し、かつ耐久性に優れた機械部品を提供することができる。
なお、浸炭窒化処理により窒素富化層が形成される場合、被処理物(鋼製部材)の表面からの深さが深くなるにしたがって、窒素濃度CNが低くなる。そのため、式(1)を参照して、被処理物の最表層部において、上記条件を満たすように冷却が実施されれば、被処理物全体が上記条件を満たすように冷却される。よって、基本的には、Rの算出にあたって、CNの値としては、被処理物の最表層部(表面)における窒素濃度を採用することができる。ただし、被処理物の表層部が研削などの仕上げ加工により除去される場合、仕上げ加工後に最表層部となる部位における窒素濃度を、Rを算出する際のCNの値として採用してもよい。
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における焼入硬化方法、機械部品の製造方法および機械部品について説明する。実施の形態2の機械部品は、基本的には図1〜図5に基づいて説明した実施の形態1の機械部品と同様の構成を有している。そして、実施の形態2の機械部品は、実施の形態1の機械部品の特徴に加えて、オーステナイト結晶粒の平均粒径が5μm以下であるSUJ2からなっており、かつ表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上20体積%以下であるという特徴を有している。
次に、本発明の実施の形態2における焼入硬化方法、機械部品の製造方法および機械部品について説明する。実施の形態2の機械部品は、基本的には図1〜図5に基づいて説明した実施の形態1の機械部品と同様の構成を有している。そして、実施の形態2の機械部品は、実施の形態1の機械部品の特徴に加えて、オーステナイト結晶粒の平均粒径が5μm以下であるSUJ2からなっており、かつ表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上20体積%以下であるという特徴を有している。
これにより、実施の形態2の機械部品は、実施の形態1の機械部品と基本的に同様の効果を有している。そして、機械部品の表層部における残留オーステナイト量、および機械部品を構成する鋼のオーステナイト結晶粒の平均粒径の特徴に起因して、実施の形態2の機械部品は、以下の効果を有している。すなわち、残留オーステナイト量が上記範囲に限定された実施の形態2の機械部品は、寸法安定性に優れている。そして、実施の形態2の機械部品においては、オーステナイト結晶粒の平均粒径が小さいことにより、機械部品の転動疲労寿命、とくに異物混入環境における転動疲労寿命が補完されている。
次に、実施の形態2の機械部品の製造方法について説明する。図8は、本発明の一実施の形態である実施の形態2における機械部品の製造方法の概略を示す図である。図8を参照して、実施の形態2における機械部品の製造方法について説明する。
図8を参照して、実施の形態2における機械部品の製造方法は、基本的には図6に基づいて説明した実施の形態1における機械部品の製造方法と同様である。しかし、実施の形態2の製造方法は浸炭窒化焼入工程において、実施の形態1の製造方法とは異なっている。すなわち、図8を参照して、まず実施の形態1と同様に、鋼製部材準備工程が実施されたあと、浸炭窒化焼入工程が実施される。
浸炭窒化焼入工程では、浸炭窒化工程、第1の冷却工程、再加熱工程、第2の冷却工程が順次実施される。浸炭窒化工程では、鋼製部材がA1点以上の温度である浸炭窒化温度で浸炭窒化される。第1の冷却工程では、浸炭窒化工程において浸炭窒化された鋼製部材が、A1点より低い温度に冷却される。再加熱工程では、第1の冷却工程においてA1点より低い温度に冷却された鋼製部材が、A1点以上の温度であって浸炭窒化温度よりも低い温度である再加熱温度に加熱される。第2の冷却工程では、再加熱工程において再加熱温度に加熱された鋼製部材が、A1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却されることにより焼入硬化される。
その後、実施の形態1と同様に、焼戻工程および仕上げ工程が実施されることにより、実施の形態2における機械部品は完成し、実施の形態2における機械部品の製造方法は完了する。さらに、完成した機械部品が組合わされて機械要素が組立てられる組立て工程が、実施の形態1と同様に実施される。これにより、本発明の機械部品を備えた機械要素が製造される。
次に、実施の形態2における浸炭窒化焼入工程について詳細に説明する。図9は、実施の形態2における機械部品の製造方法に含まれる機械部品の浸炭窒化焼入工程の詳細を説明するための図である。図9において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図9において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図9を参照して、実施の形態2の鋼製部材に対して実施される浸炭窒化焼入工程の詳細を説明する。
図9を参照して、鋼製部材準備工程において準備された鋼製部材は、A1点以上の温度である790℃以上870℃以下の温度T1、たとえば850℃に加熱され、60分間以上300分間以下の時間、たとえば150分間保持される。このとき、RXガスにアンモニア(NH3)を添加した雰囲気において加熱されることにより、鋼製部材の表層部の炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度に調整される。これにより、浸炭窒化工程が完了する。その後、鋼製部材が、たとえば油中に浸漬されることにより(油冷)、A1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却される第1の冷却工程が実施される。これにより、1次焼入が完了する。
さらに、1次焼入が実施された鋼製部材がA1点以上の温度である790℃以上815℃以下の温度T2、たとえば800℃に再び加熱される再加熱工程が実施され、その後30分間以上120分間以下の時間、たとえば50分間保持される。このとき、浸炭窒化処理において調整された炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度となるように、たとえば脱炭を防止するため、たとえばRXガスを含む雰囲気において加熱される。さらに、鋼製部材が、たとえば油冷されることにより、A1点以上の温度からMS点以下の温度に急冷されて焼入硬化される第2の冷却工程が実施される。これにより、2次焼入が完了する。以上の手順により、実施の形態2における機械部品の製造方法に含まれる浸炭窒化焼入工程は完了する。
ここで、第2の冷却工程では、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却される際における750℃から300℃までの平均冷却速度が、式(1)で定義されるRよりも大きくなるように鋼製部材が冷却される、本発明の実施の形態2における焼入硬化方法が採用される。なお、第1の冷却工程においては、本発明の焼入硬化方法が採用されてもよいが、その後の再加熱工程において鋼製部材を構成する鋼(SUJ2)の組織が再度オーステナイト化されることを考慮すると、必ずしも採用される必要はない。
実施の形態2の焼入硬化方法によれば、実施の形態1と同様に、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化することができる。そして、実施の形態2の機械部品の製造方法によれば、不完全焼入組織を発生させることなく焼入硬化が実施される浸炭窒化焼入工程を含むことにより、JIS規格SUJ2からなる耐久性に優れた機械部品を製造することができる。また、実施の形態2の機械部品によれば、窒素富化層を有し、かつ耐久性に優れた機械部品を提供することができる。
さらに、実施の形態2の浸炭窒化焼入工程を採用することにより、鋼製部材の表層部における残留オーステナイト量を15体積%以上20体積%以下とし、かつ鋼製部材を構成する鋼のミクロ組織におけるオーステナイト結晶粒の平均粒径を5μm以下とすることができる。
なお、温度T2は、浸炭窒化焼入工程において鋼中に侵入する水素濃度を低減し、かつオーステナイト結晶粒を小さくする観点から、前述のように790℃以上815℃以下とすることが望ましい。また、同様の観点から、温度T2はT1よりも低い温度とすることが好ましい。
図10は、実施の形態2における浸炭窒化焼入工程の変形例の詳細を示す図である。図10において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図10において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図10を参照して、実施の形態2における浸炭窒化焼入工程の変形例の詳細を説明する。
図10を参照して、本変形例における図10に示す浸炭窒化焼入工程と上述の図9に示す浸炭窒化焼入工程とは基本的には温度および時間の条件を含めて同様の工程となっている。しかし、図10の浸炭窒化焼入工程においては浸炭窒化工程に引き続いて油冷を実施して1次焼入を完了するのではなく、まずA1変態点以下の温度に冷却した後、室温(常温)まで冷却することなく再びA1変態点以上の温度T2に加熱する点において、図9の浸炭窒化焼入工程とは異なっている。
これにより、一度焼入を実施した後に再度温度T2まで加熱する場合に比べて再加熱に要する時間およびエネルギーを小さくすることが可能となるため、製造コストを低減し得る点において有利である。なお、浸炭窒化後に引き続く冷却温度はA1変態点よりも低い温度、すなわち鉄のオーステナイトからフェライトへの変態点以下の温度であればよく、たとえば650℃以上700℃以下とすることができる。
なお、上記実施の形態においては、本発明の機械部品の一例として、深溝玉軸受、スラストニードルころ軸受、等速ジョイントを構成する機械部品について説明したが、本発明の機械部品はこれらに限られず、表層部の疲労強度、耐摩耗性が要求される機械部品、たとえばハブ、ギア、シャフト等を構成する機械部品であってもよい。
以下、本発明の実施例1について説明する。窒素富化層が形成されたJIS規格SUJ2製の部材を、不完全焼入組織を発生させること無く焼入硬化するための条件を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
図11は、実施例1の実験に用いられた試験片の形状を示す概略断面図である。また、表1には、実施例1の実験に用いられた試験片を構成する鋼の成分組成が示されている。表1において、上段には当該鋼に含有される元素の元素記号が示されており、下段には当該元素の割合が質量%の単位で記載されている。なお、表1において、記載された成分の残部は鉄および不可避的不純物である。図11および表1を参照して、実施例1の実験に用いられた試験片について説明する。
図11を参照して、実施例1の実験に用いられた試験片4は、外径φ40.7mm、内径29.75mm、高さ16.15mmのリング状の形状を有している。そして、試験片4の外周面41には、軸方向の断面において円弧の一部を構成し、曲率半径4.85mm、深さ1.76mmの溝部41Aが形成されている。そして、試験片4の外周面41からの距離2mmの位置には、端面42から軸方向に延びる直径2mm、深さ6mmの図示しない穴が形成されている。この穴は、後述する熱電対の先端を挿入するための熱電対固定穴である。また、表1を参照して、試験片4は、表1に示される成分を含有するJIS規格SUJ2から構成されている。
次に、実験の手順について説明する。まず、表1の成分組成を有するJIS規格SUJ2の棒鋼に対し、旋削などの加工を施すことにより、図11に基づいて説明した形状の試験片4を作製した。その後、試験片4を浸炭窒化処理することにより、表層部に窒素富化層を形成し、さらに焼入硬化した。そして、上述の熱電対固定穴に、シースK型熱電対の先端を挿入し、針金で固定した。
以上の手順により完成した試験片4を熱処理炉内に挿入し、所定の加熱温度(焼入温度)に加熱した後、種々の組成および温度の冷却剤中に浸漬することにより、冷却速度を変えて冷却することにより焼入硬化した。ここで、焼入温度は850℃および800℃の2水準、冷却速度は焼入温度850℃について11水準、焼入温度800℃について14水準とした。そして、試験片4の温度を上記熱電対により測定するとともに、焼入硬化後の試験片4の硬度をビッカース硬度計、窒素濃度をEPMA(Electron Probe Micro Analysis)により測定した。
上述の測定により得られた試験片の温度、窒素濃度、および硬度のデータから、不完全焼入組織が形成される焼入条件と形成されない焼入条件との境界(臨界冷却条件)を調査した。ここで、不完全焼入組織が形成されたか否かは、焼入硬化後の硬度が820HV以上となっているか否かにより判定した。なお、試験片4の形状および熱容量に基づいて熱伝導解析を実施したところ、温度が測定される位置と表面との温度差は0.1℃未満となっており、上記熱電対により測定された温度は、試験片4全体を代表していると考えることができることが分かった。
次に、実施例1の試験結果について説明する。図12は、焼入温度が850℃である場合の実験データから推定される臨界冷却条件を示す図である。また、図13は、焼入温度が800℃である場合の実験データから推定される臨界冷却条件を示す図である。図12および図13において、底面の2つの軸は、冷却開始からの経過時間および窒素濃度を示しており、縦軸(Z軸)は試験片の温度を示している。また、図中の曲面は、試験片の温度が当該曲面よりも常に下側(低温側)となるように試験片が冷却された場合、不完全焼入組織が形成されない境界面を示している。
図12および図13を参照して、上記境界面は、窒素濃度が高くなるにつれて、低温側に移動する傾向にあることが分かる。すなわち、不完全焼入組織が形成されないように焼入硬化を実施するためには、焼入硬化の冷却時において、被処理物の窒素濃度が高いほど、より低温に保ちつつ冷却する必要があることが確認された。
さらに、上記実験結果より、試験片の焼入温度および窒素濃度が、不完全焼入組織の形成を回避することが可能な冷却速度(750℃から300℃までの平均冷却速度)に及ぼす影響を導出した。図14は、試験片の焼入温度および窒素濃度が、不完全焼入組織の形成を回避することが可能な750℃から300℃までの平均冷却速度に及ぼす影響を示す図である。図14において、底面の2つの軸は、窒素濃度および焼入温度を示しており、縦軸(Z軸)は不完全焼入組織の形成を回避することが可能な750℃から300℃までの平均冷却速度を示している。また、図中の曲面は、平均冷却速度が当該曲面よりも上側(速度が速い側)であれば、不完全焼入組織が形成されないことを示している。図14を参照して、不完全焼入組織の形成を回避可能な平均冷却速度について説明する。
図14を参照して、図中の曲面は、上記実験の結果から導出された焼入温度および窒素濃度と、臨界冷却条件(平均冷却速度)との関係を示す曲面であって、平均冷却速度をRとして、式(1)で表される。具体的には、上記実験結果に基づき、指数、対数を含めた多項式にて曲面近似を行ない、適用範囲内で不連続でなく、且つ、異常な変曲点が存在しない近似式の中から、最も相関係数の高い曲面近似式を選択することにより、式(1)が導出された。そして、図14より、当該曲面は、焼入温度が低いほど、および窒素濃度が高いほど、不完全焼入組織の形成を回避するためには高い平均冷却速度が必要であることを示している。以上の結果より、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却する際における750℃から300℃までの平均冷却速度が、式(1)で定義されるRよりも大きくなるように焼入硬化を実施することにより、不完全焼入組織の形成を回避できることが確認された。すなわち、焼入硬化において、750℃から300℃までの平均冷却速度がRよりも大きくなるように被処理物の冷却を管理することにより、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、不完全焼入組織の形成を回避しつつ安定的に焼入硬化することができるといえる。
なお、上記不完全焼入組織の形成を回避するための冷却条件は、窒素富化層における窒素濃度が0.07質量%以上0.4質量%以下、焼入温度が800℃〜850℃の条件の下での実験に基づいて導出されたものであることから、特に窒素濃度が0.07質量%以上0.4質量%以下、焼入温度800℃〜850℃における冷却条件の決定に有用である。
以下、本発明の実施例2について説明する。窒素富化層が形成された後、式(1)で定義されるRよりも速い冷却速度で冷却する本発明の実施例の焼入硬化方法で焼入硬化された部材と、Rよりも遅い冷却速度で冷却する比較例の焼入硬化方法で焼入硬化された部材の硬度分布および疲労強度を比較する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
図15は、実施例2において実施された疲労試験の試験片の構成を示す概略図である。また、表2には、当該試験片の素材として採用された鋼(SUJ2)の成分組成が示されている。表2において、上段には当該鋼に含有される元素の元素記号が示されており、下段には当該元素の割合が質量%の単位で記載されている。なお、表2において、記載された成分の残部は鉄および不可避的不純物である。図15および表2を参照して、疲労試験の試験片の作製方法について説明する。
まず、表2に示す成分組成を有する鋼材を試験片の概略形状に加工した。その後、図9に基づいて説明した上述の実施の形態2と同様の方法(浸炭窒化を850℃で150分間、1次焼入後、焼戻を180℃で120分間、再加熱を800℃で50分間、2次焼入後、焼戻を180℃で120分間)で浸炭窒化、焼入、および焼戻を実施し、試験片を完成させた。ここで、実施例の試験片は、第2の冷却工程において、試験片全体が式(1)で定義されるRよりも速い冷却速度で冷却されている。一方、比較例の試験片は、第2の冷却工程において、窒素富化層がRよりも遅い冷却速度で冷却されている。
ここで、図15を参照して、試験片7は、直径φ12mm、長さ68.74mmの円柱状であり、試験片7の軸方向における中央部20mmの範囲には直径の細くなった部分である節部71が形成されている。節部71の外周面は、軸方向での断面において、半径14.5mmの円弧が軸に対称に向い合う形状となっており、中央部が最も細くなっている。そして、中央部の最も直径の小さい部分の直径は4mmとなっている。さらに、試験片7の一方の端部には、試験片7を試験機に固定するための長さ10mmのねじ部72が形成されており、当該ねじ部72を含めた試験片の全長は78.74mmとなっている。
以上のようにして完成した複数の試験片7のうち、一部について、節部71を軸方向に垂直な面で切断し、当該断面の外周面に垂直な方向における硬度分布を測定した。さらに、試験片の残部については以下の手順により、疲労試験に供した。
図16は、疲労試験を実施するために使用した疲労試験機の構成を示す概略図である。図16を参照して、疲労試験の試験方法について説明する。
図16を参照して、疲労試験機5は、試験片7のねじ部72がねじ込まれることにより、試験片7が固定される試験片保持部51と、試験片保持部51に連結されたホーン部52と、ホーン部52に接続されたPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)振動子53と、PZT振動子53に接続された増幅器54と、増幅器54に接続されたパーソナルコンピュータなどの制御装置55とを備えている。さらに、疲労試験機5は、試験片7がセットされた状態において、試験片7のねじ部72が形成された側とは反対側の端部に対向するように隙間ゲージ56が配置され、隙間ゲージ56はオシロスコープ57に接続されている。
以下、疲労試験の具体的手順を説明する。上述の作製方法により作製された試験片7のねじ部72を試験片保持部51にねじ込むことにより、試験片7を疲労試験機5にセットした。さらに、制御装置55により出力を制御しつつ、増幅器54を介してPZT振動子53に電力を入力することにより、超音波振動を発生させた。そして、当該超音波振動をホーン部52および試験片保持部51を介して試験片7に伝達することにより試験片7を共振させた。このとき、試験片7の節部71の直径が最も細い部分において、軸方向の引張圧縮の応力振幅が最大となる(応力負荷速度:2kHz)。一方、オシロスコープ57に接続された隙間ゲージ56により、試験片7の振動の状態を管理した。以上のように試験機を運転し、試験片7が破断するまでの応力の繰り返し数を調査した。さらに、当該調査を種々の応力について実施した。
次に、上記実験の結果について説明する。図17は、硬度分布の測定結果を示す図である。図17において、横軸は表面からの深さ、縦軸は硬度を示している。また、図18は、疲労試験の結果を示すS−N線図である。図18において、横軸は応力の負荷回数、縦軸は試験片に負荷された応力振幅を示している。また、図中において、矢印の付された点は、試験片が破断する前に試験が中止されたことを示している。図17および図18を参照して、上記試験の結果について説明する。
図17を参照して、実施例の試験片の硬度は、表面からわずかに低下しつつ、内部に向けてほぼ直線的に分布している。これに対し、比較例の試験片の硬度は、表面からの距離が0.2mm以下の表層部において、大幅に低下している。これは、表層部に形成された窒素富化層が、式(1)で定義されるRよりも遅い冷却速度で冷却された結果、当該窒素富化層に不完全焼入組織が形成されたためである。
また、図18を参照して、負荷回数108回において試験片が破断しない最大応力振幅(108回疲労限)は、本発明の実施例では900MPa程度であるのに対し、比較例では700MPaを下回っている。これは、比較例の試験片においては、表層部に形成された不完全焼入組織に起因した上述の硬度低下により、表層部の疲労強度が低下し、この表層部を起点として試験片が破断したためであると考えられる。以上より、本発明の焼入硬化方法は、SUJ2からなる被処理物において、窒素富化層に起因した不完全焼入組織の形成、およびこれに伴う疲労強度低下の回避に寄与することが確認された。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の焼入硬化方法および機械部品の製造方法は、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を焼入硬化するための焼入硬化方法、JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を焼入硬化する工程を含む機械部品の製造方法に特に有利に適用され得る。また、本発明の機械部品は、およびJIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された機械部品に特に有利に適用され得る。
1 深溝玉軸受、2 スラストニードルころ軸受、3 等速ジョイント、4 試験片、5 疲労試験機、7 試験片、11 外輪、11A 外輪転走面、12 内輪、12A 内輪転走面、13 玉、14,24 保持器、21 軌道輪、21A 軌道輪転走面、23 ニードルころ、31 インナーレース、31A インナーレースボール溝、32 アウターレース、32A アウターレースボール溝、33 ボール、34 ケージ、35,36 軸、41 外周面、41A 溝部、42 端面、51 試験片保持部、52 ホーン部、53 振動子、54 増幅器、55 制御装置、56 隙間ゲージ、57 オシロスコープ、71 節部、72 ねじ部。
Claims (4)
- JIS規格SUJ2からなり、窒素富化層が形成された被処理物を、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却することにより焼入硬化する焼入硬化方法であって、
前記A1点以上の温度から前記MS点以下の温度まで冷却する際における750℃から300℃までの平均冷却速度が、以下に示す式(1)で定義されるRよりも大きくなるように、前記被処理物は冷却される、焼入硬化方法。
R=133.4899−0.1253T+23.5957CN+342.8263CN 2・・・(1)
T:冷却前の保持温度、CN:被処理物中の窒素濃度 - JIS規格SUJ2からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼製部材を準備する鋼製部材準備工程と、
前記鋼製部材準備工程において準備された前記鋼製部材に対して、浸炭窒化処理を実施した後、A1点以上の温度からMS点以下の温度まで冷却することにより、前記鋼製部材の焼入硬化を実施する浸炭窒化焼入工程とを備え、
前記浸炭窒化焼入工程における前記焼入硬化は、請求項1に記載の焼入硬化方法を用いて実施される、機械部品の製造方法。 - 請求項2に記載の機械部品の製造方法により製造された、機械部品。
- 軸受を構成する部品として用いられる、請求項3に記載の機械部品。
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