JP2019039044A - 転がり摺動部材及び転がり軸受 - Google Patents

転がり摺動部材及び転がり軸受 Download PDF

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康平 金谷
Kohei Kanaya
康平 金谷
佐田 隆
Takashi Sada
隆 佐田
山下 朋広
Tomohiro Yamashita
朋広 山下
鈴木 崇久
Takahisa Suzuki
崇久 鈴木
根石 豊
Yutaka Neishi
豊 根石
大輔 平上
Daisuke Hiragami
大輔 平上
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Abstract

【課題】高荷重条件下においても、長い転動疲労寿命を確保できる転がり摺動部材及び転がり軸受を提供する。【解決手段】転がり軸受としての円すいころ軸受1の転がり摺動部材である外内輪10,20及び円すいころ30を、C0.10〜0.50質量%とSi0.10〜0.80質量%とMn0.20〜2.00質量%とNi5.00質量%以下とCr0.10〜2.50質量%とMo0.90質量%以下とAl0.001〜0.200質量%とV0.45質量%以下とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する基体部11a,21a,31aと、ビッカース硬さが700〜800、残留オーステナイト量が20〜50体積%及び炭素含有量が0.7〜1.1質量%であり、転がり摺動面10a,20a,30aから深さ方向への炭素濃度分布の移動平均曲線における転がり摺動面10a,20a,30aの位置での傾きが0以上である表面硬化層11b,21b,31bとを含むように構成する。【選択図】図1

Description

本発明は、転がり摺動部材及び当該転がり摺動部材を備えた転がり軸受に関する。
軸受等に用いられる転がり摺動部材を高荷重条件等の厳しい使用条件下で用いる場合、当該転がり摺動部材には、長い転動疲労寿命を有することが求められている。そこで、転がり摺動部材の製造に用いられる鋼材の表面に析出物を析出させることにより、長い転動疲労寿命を確保することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2001−98343号公報
しかし、特許文献1に記載の転がり摺動部材では、析出物面積率が30%を超える場合、析出物がはく離の起点となりやすいため、かえって転動疲労寿命が短くなることがある。
本発明は、このような実状に鑑みてなされたもので、高荷重条件下においても、長い転動疲労寿命を確保できる転がり摺動部材及び転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明の転がり摺動部材は、相手部材との間で相対的に接触をする転がり摺動面を有する転がり摺動部材であって、炭素0.10〜0.50質量%と、ケイ素0.10〜0.80質量%と、マンガン0.20〜2.00質量%と、ニッケル5.00質量%以下と、クロム0.10〜2.50質量%と、モリブデン0.90質量%以下と、アルミニウム0.001〜0.200質量%と、バナジウム0.45質量%以下とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する基体部と、表面硬化層とを含み、前記転がり摺動面を含む前記表面硬化層のビッカース硬さが700〜800であり、前記転がり摺動面を含む前記表面硬化層の残留オーステナイト量が20〜50体積%であり、前記転がり摺動面を含む前記表面硬化層の炭素含有量が0.70〜1.10質量%であり、前記転がり摺動面から深さ方向への炭素濃度分布の移動平均曲線における前記転がり摺動面の位置での傾きが0以上であることを特徴としている。
本発明の転がり摺動部材では、前記転がり摺動面を含む前記表面硬化層が、前記ビッカース硬さ、残留オーステナイト量及び炭素含有量を有しており、前記転がり摺動面から深さ方向への炭素濃度分布の移動平均曲線における前記転がり摺動面の位置での傾きが0以上となっている。そのため、本発明の転がり摺動部材では、最大直交せん断応力発生深さz位置付近にまで十分な量の炭素を確保できる。これにより、本発明の転がり摺動部材では、最大直交せん断応力発生深さz位置において、応力誘起マルテンサイト変態による組織の強靭化に十分な残留オーステナイト量を確保できる。また、本発明の転がり摺動部材では、応力誘起マルテンサイト変態が起こりやすい。したがって、本発明の転がり摺動部材によれば、高荷重条件下においても、長い転動疲労寿命を確保できる。
前記表面硬化層は、浸炭層又は浸炭窒化層であることが好ましい。この場合、転がり摺動部材として十分な硬さを確保できる。
前記基体部は、炭素0.30〜0.45質量%と、ケイ素0.10〜0.50質量%と、マンガン0.40〜1.50質量%と、ニッケル0.20質量%以下と、クロム0.30〜2.00質量%と、モリブデン0.10〜0.35質量%と、アルミニウム0.005〜0.100質量%と、バナジウム0.20〜0.40質量%とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有することが好ましい。この場合、製造時における浸炭焼入れ処理の際の浸炭時間又は浸炭窒化処理の際の浸炭窒化時間を短くできるため、製造コストを低減できる。
本発明の転がり軸受は、内周に転がり摺動面を有する外輪と、外周に転がり摺動面を有する内輪と、前記外内輪の両転がり摺動面の間に配置された複数個の転動体とを有する転がり軸受であって、前記外輪、内輪及び転動体のうちの少なくとも1つが、前述した転がり摺動部材であることを特徴としている。したがって、本発明の転がり軸受は、前述した転がり摺動部材を備えているので、前述の優れた作用効果を奏する。
本発明の転がり摺動部材及び当該転がり摺動部材を備えた転がり軸受によれば、高荷重条件下においても、長い転動疲労寿命を確保できる。
本発明の一実施形態に係る転がり軸受の一例である円すいころ軸受を示す要部断面図である。 本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材である外輪の製造方法の各工程を示す工程図である。 実施例1における熱処理条件を示す線図である。 実施例2における熱処理条件を示す線図である。 実施例3における熱処理条件を示す線図である。 実施例4における熱処理条件を示す線図である。 実施例5〜7における熱処理条件を示す線図である。 比較例1における熱処理条件を示す線図である。 比較例2における熱処理条件を示す線図である。 比較例3における熱処理条件を示す線図である。 (a)は、試験例1に用いられた試験機を示す要部断面図、(b)は、(a)のA−A線における断面図である。 試験例1において、実施例1〜7及び比較例2〜3の最大直交せん断応力発生深さz位置の残留オーステナイト量とL10寿命との関係を調べた結果を示すグラフである。 試験例1において、実施例2の試験片の表面からの深さと炭素濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。 試験例1において、比較例3の試験片の表面からの深さと炭素濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
[用語の説明]
本明細書において、「最大直交せん断応力発生深さ」とは、転がり摺動部材の内部に生じる直交せん断応力の振幅が最大となる深さをいう。前記最大直交せん断応力発生深さは、転がり摺動部材の用途、転がり摺動部材の形状、転がり摺動部材の使用条件等に応じて適宜決定できる。転がり摺動部材が、転がり軸受の構成部材である場合、前記最大直交せん断応力発生深さは、転がり軸受を構成する転動体の大きさから決定できる。
最大直交せん断応力発生深さは、転がり摺動部材が転動体である場合、通常、転動体の転がり摺動面から[転動体の直径Dの0.2〜2.5%]の深さである。ここで、転動体が円すいころ軸受の円すいころである場合、「転動体の直径D」は、円すいころの大端径を示す(図1参照)。また、転動体が玉軸受の玉である場合、「転動体の直径D」は、玉の直径を示す。最大直交せん断応力発生深さは、転がり摺動部材が軌道輪(外輪又は内輪)である場合、軌道輪の転がり摺動面(軌道面)から転動体の[直径Dの0.2〜2.5%]に相当する深さである。
[転がり軸受]
以下、添付の図面により本発明の一実施形態に係る転がり軸受を説明する。以下においては、転がり軸受の一例として円すいころ軸受を挙げて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る転がり軸受の一例である円すいころ軸受を示す要部断面図である。図1に示される円すいころ軸受1においては、外内輪10,20及び円すいころ30のすべてが、後述の本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材である。
図1に示される円すいころ軸受1は、外輪10と、外輪10の内周側に当該外輪10と同心に配置された内輪20と、外内輪10,20間に配列された複数の円すいころ30と、これら複数の円すいころ30を保持する保持器40とを備えている。
なお、本発明においては、転がり軸受は、例えば、円筒ころ軸受、玉軸受等の他の転がり軸受であってもよい。また、本発明においては、転がり軸受の外内輪及び転動体のうちの少なくとも1つが、後述の本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材であればよい。
[転がり摺動部材]
以下においては、本実施形態に係る転がり摺動部材の例として、円すいころ軸受1の外内輪10,20及び円すいころ30を挙げて説明する。
外輪10は、基体部11aと表面硬化層11bとを含む。表面硬化層11bは、基体部11a上に存在している。外輪10の内周面には、複数個の円すいころ30が転動する転がり摺動面10aが周方向に沿って形成されている。すなわち、図1に示されるように、転がり摺動面10aは、表面硬化層11bの表面部に形成されている。転がり摺動面10aは、軌道面である。外輪10は、転がり摺動面において、円すいころ30との間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触又は両接触を含む接触をする。
内輪20は、基体部21aと表面硬化層21bとを含む。表面硬化層21bは、基体部21a上に存在している。内輪20の外周面には、複数個の円すいころ30が転動する転がり摺動面20aが周方向に沿って形成されている。すなわち、図1に示されるように、転がり摺動面20aは、表面硬化層21bの表面部に形成されている。転がり摺動面20aは、軌道面である。内輪20は、転がり摺動面において、円すいころ30との間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触又は両接触を含む接触をする。内輪20は、外輪10の転がり摺動面10aが内輪20の転がり摺動面20aに対向した状態となるように外輪10と同心に配置されている。
円すいころ30は、基体部31aと表面硬化層31bとを含む。表面硬化層31bは、基体部31a上に存在している。複数の円すいころ30は、外内輪10,20の間に配置されている。これらの円すいころ30は、それぞれ、外内輪10,20の転がり摺動面10a,20a上を転動できる。これにより、外内輪10,20が相対回転自在となっている。円すいころ30の表面、すなわち、円すいころ30の表面硬化層31bの表面は、転がり摺動面である。円すいころ30は、転がり摺動面において、外内輪10,20それぞれとの間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触又は両接触を含む接触をする。
保持器40は、外内輪10,20と同心の環状部材である。保持器40は、金属、合成樹脂等を用いて形成されている。保持器40は、外内輪10,20の間で円すいころ30を保持している。
外内輪10,20及び円すいころ30それぞれの基体部11a,21a,31aは、炭素0.10〜0.50質量%と、ケイ素0.10〜0.80質量%と、マンガン0.20〜2.00質量%と、ニッケル5.00質量%以下と、クロム0.10〜2.50質量%と、モリブデン0.90質量%以下と、アルミニウム0.001〜0.200質量%と、バナジウム0.45質量%以下とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する鋼材から構成されている。前記不可避不純物は、鋼材を製造する際に、原料等から混入する物質であって、本発明の目的を阻害しない範囲で許容される物質を意味する。前記不可避不純物としては、リン、硫黄、銅等が挙げられる。
炭素は、転がり摺動部材の製造時における鋼材の焼入れ性を確保し、強度確保のための内部硬さを得るための元素である。しかしながら、過剰に添加すると、母材の硬さが高くなりすぎ、熱間加工性の低下や、切削時の工具寿命の低下などを引き起こす。
鋼材における炭素含有量は、十分な内部硬さを得る観点から、0.10質量%以上、好ましくは0.12質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上であり、熱処理前の加工性を十分に得る観点から、0.50質量%以下、好ましくは0.45質量%以下である。
ケイ素は、鋼の精錬時の脱酸のために必要な元素であるが、過剰な添加は、フェライトが強化されて硬さを上昇させるため、鋼材の加工性を悪化させる。
鋼材におけるケイ素含有量は、脱酸に必要な量として0.10質量%以上、好ましくは0.15質量%以上であり、熱処理前において、十分な加工性を確保する観点から、0.80質量%以下、好ましくは0.60質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下である。
マンガンは、転がり摺動部材の製造時における鋼材の焼入れ性を確保し、強度確保のための内部硬さを得るための元素である。また、マンガンは、オーステナイトを安定化させる元素であるため、その増量によりオーステナイトを容易に増加させることができる。しかしながら、過剰に添加すると、母材の硬さが高くなりすぎ、熱間加工性の低下や、切削時の工具寿命の低下などを引き起こす。
鋼材におけるマンガン含有量は、十分な焼入れ性と、残留オーステナイト量を得る観点から、0.20質量%以上、好ましくは0.30質量%以上、より好ましくは0.40質量%以上であり、熱処理前の加工性を十分に得る観点から、2.00質量%以下、好ましくは1.50質量%以下である。
ニッケルは、転がり摺動部材の製造時における鋼材の焼入れ性を高め、さらに残留オーステナイトを安定化させる元素である。しかしながら、過剰に添加すると、その効果は飽和し、高価な元素であるため、鋼材コストの上昇を引き起こす。
鋼材におけるニッケル含有量は、上記観点から、5.00質量%以下、より好ましくは4.50質量%以下、更に好ましくは0.20質量%以下である。なお、鋼材は、ニッケルを含有しなくてもよい。この場合、鋼材におけるニッケル含有量の下限は、0.00質量%である。
クロムは、転がり摺動部材の製造時における鋼材の焼入れ性を高め、硬さを上昇させるための元素である。しかしながら、過剰に添加すると、熱処理前の未固溶炭化物の量が増加し、これが析出核として働くことで、熱処理後に粗大な炭化物が析出し、疲労の起点となるため、転動疲労寿命の低下を引き起こす。
鋼材におけるクロム含有量は、十分な硬さを得る観点から、0.10質量%以上、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上であり、疲労破壊の起点となる粗大な析出物の生成を抑制し、転動疲労寿命の低下を防ぐ観点から、2.50質量%以下、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.80質量%以下である。
モリブデンは、クロムと同様に鋼材の焼入れ性を高め、クロムとの複合添加によって析出物を形成し、硬さを向上させるための元素である。しかしながら、モリブデンは、炭素との親和力が非常に強く、過剰に添加すると析出物の粗大化を招く。
鋼材におけるモリブデン含有量は、鋼材の焼入れ性を高めて浸炭焼入れ又は浸炭窒化焼入れ後の鋼材の硬さを向上させる観点から、好ましくは0.10質量%以上であり、疲労破壊の起点となりうる粗大な析出物の生成を抑制し、転動疲労寿命の低下を防ぐ観点から、0.90質量%以下、好ましくは0.83質量%以下、より好ましくは0.35質量%以下である。
アルミニウムは、製鋼時に脱酸剤として添加される。アルミニウム含有量が低すぎる場合、鋼に対する脱酸効果が十分に得られないおそれがある。
逆に、アルミニウム含有量が高すぎる場合、鋼中に粗大な酸化物系非金属介在物が現れ、転がり疲労寿命が低下する。
鋼材におけるアルミニウムの含有量は、十分な脱酸効果を得る観点から、0.001質量%以上、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.008質量%以上、より好ましくは0.010質量%以上である。
また、酸化物系非金属介在物の残留を抑制する観点から、鋼材におけるアルミニウムの含有量は、0.200質量%以下、好ましくは0.100質量%以下、より好ましくは0.050質量%以下、より好ましくは0.048質量%以下である。
バナジウムは、クロム及びモリブデンと同様に、鋼材の焼入れ性を高め、クロム及びモリブデンとの複合添加によって熱処理時に硬さを向上させるための元素である。
鋼材におけるバナジウム含有量は、十分な硬さを得る観点から、好ましくは0.20質量%以上であり、疲労破壊の起点となりうる粗大な析出物の生成を抑制し、転動疲労寿命の低下を防ぐ観点から、0.45質量%以下、好ましくは0.40質量%以下である。
リンは、不可避不純物である。したがって、鋼材におけるリン含有量は、できる限り低いほうが好ましい。鋼材におけるリン含有量は、好ましくは0.030質量%以下、より好ましくは0.025質量%以下である。
硫黄は、不可避不純物である。したがって、鋼材における硫黄含有量は、できる限り低いほうが好ましい。鋼材における硫黄含有量は、好ましくは0.030質量%以下、より好ましくは0.025質量%以下である。
表面硬化層11b,21b,31bは、炭素含有量が0.70〜1.10質量%であり、ビッカース硬さHvが700〜800である層である。表面硬化層11b,21b,31bは、転がり摺動部材として十分な硬さを確保できることから、浸炭層又は浸炭窒化層である。前記浸炭層は、前記鋼材に浸炭焼入れ処理を施すことによって形成できる。また、前記浸炭窒化層は、前記鋼材に浸炭窒化焼入れ処理を施すことによって形成できる。なお、外内輪10,20及び円すいころ30の転がり摺動面10a,20a,30aは、それぞれ、表面硬化層11b,21b,31bの表面に相当し、転がり摺動部材(円すいころとの接触面)として十分な硬さを確保する必要がある。
外内輪10,20及び円すいころ30それぞれの最大直交せん断応力発生深さの位置は、表面硬化層11b,21b,31b内に存在している。したがって、外内輪10,20及び円すいころ30それぞれの最大直交せん断応力発生深さの位置においては、応力誘起マルテンサイト変態による組織の強靭化に十分な残留オーステナイト量を確保できる。
表面硬化層11b,21b,31bの炭素含有量は、十分な表面硬さを確保する観点から、0.70質量%以上、好ましくは0.75質量%以上、より好ましくは0.80質量%以上であり、粗大な炭窒化物等の残存を抑制する観点から、1.10質量%以下、好ましくは1.05質量%以下、より好ましくは1.00質量%以下である。なお、表面硬化層11b,21b,31bの炭素含有量は、表面硬化層11b,21b,31bの表面から10μmの深さの位置における炭素含有量である。
表面硬化層11b,21b,31bが浸炭窒化層である場合、表面硬化層11b,21b,31bの窒素含有量は、十分な表面硬さを確保する観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上であり、粗大な炭窒化物の残存を抑制する観点から、好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.70質量%以下である。なお、表面硬化層11b,21b,31bの窒素含有量は、表面硬化層11b,21b,31bの表面から10μmの深さの位置における窒素含有量である。
なお、表面硬化層11b,21b,31bにおいては、ケイ素含有量、マンガン含有量、ニッケル含有量、クロム含有量、モリブデン含有量、バナジウム含有量は、基体部11a,21a,31aの組成と同様である。
外内輪10,20及び円すいころ30では、転がり摺動面10a,20a,30aから深さ方向への炭素濃度分布の移動平均曲線における転がり摺動面10a,20a,30aの位置での傾きは、0以上である。これにより、最大直交せん断応力発生深さz位置付近にまで十分な量の炭素を確保でき、最大直交せん断応力発生深さz位置において、十分な残留オーステナイト量を確保できる。したがって、外内輪10,20及び円すいころ30は、長い転動疲労寿命を確保できる。
一方で、表面硬化層11b,21b,31bの表面付近では、最大直交せん断応力発生深さz位置に比べて、転がり摺動部材として十分な硬さを確保することがより重要となる。そのため、傾きを0以上とすることで、表面付近を比較的低炭素とし、表面付近の残留オーステナイトを適度な量に抑制することができる。これにより、表面付近では十分な硬さを確保することができる。
なお、前記炭素濃度分布は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析による濃度測定によって求めることができる。前記炭素濃度分布の移動平均曲線は、転がり摺動面10a,20a,30aから深さ方向への炭素濃度分布を移動平均によって平滑化することによって得ることができる。
表面硬化層11b,21b,31bのビッカース硬さ(「表面ビッカース硬さ」ともいう)は、転がり軸受の部材として用いるのに十分な硬さを確保する観点から、700以上、好ましくは720以上であり、残留オーステナイト量の低下による転動疲労寿命の低下を抑制する観点から、800以下、好ましくは780以下である。外内輪10,20及び円すいころ30の表面硬化層11b,21b,31bは、かかる範囲の表面ビッカース硬さを有するので、転がり軸受の部材として用いるのに十分な硬さを確保できる。なお、本明細書において、前記表面ビッカース硬さは、転がり摺動部材の転がり摺動面から深さ方向に切断した後、前記転がり摺動面から50μmの深さの位置にビッカース圧子をあてて測定した値である。
外内輪10,20及び円すいころ30の転がり摺動面10a,20a,30aから10μmまでの深さの範囲における残留オーステナイト量は、20〜50体積%である。外内輪10,20及び円すいころ30の転がり摺動面10a,20a,30aから10μmまでの深さの範囲における残留オーステナイト量は、転動疲労寿命を十分に確保する観点から、20体積%以上、好ましくは35体積%以上、より好ましくは37体積%以上である。また、前記残留オーステナイト量は、転がり摺動部材として用いるのに十分な硬さを確保する観点から、好ましくは50体積%以下、より好ましくは45体積%以下である。外内輪10,20及び円すいころ30の転がり摺動面10a,20a,30aから10μmまでの深さの範囲における残留オーステナイト量がかかる範囲である場合、外内輪10,20及び円すいころ30の転がり摺動面10a,20a,30aの最大直交せん断応力発生深さ位置における残留オーステナイト量が20〜50体積%となる。したがって、転動体の転動中の応力誘起マルテンサイト変態によって組織が強靭化され、転動疲労寿命が向上する。
[転がり摺動部材の製造方法]
本実施形態に係る転がり摺動部材は、(A)炭素0.10〜0.50質量%と、ケイ素0.10〜0.80質量%と、マンガン0.20〜2.00質量%と、ニッケル5.00質量%以下と、クロム0.10〜2.50質量%と、モリブデン0.90質量%以下と、アルミニウム0.001〜0.200質量%と、バナジウム0.45質量%以下とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する鋼材から形成された素形材に対し、浸炭焼入れ処理又は浸炭窒化焼入れ処理を施して表面硬化層を形成する工程、及び
(B)前記工程(A)後の素形材に焼戻し処理を施す焼戻し工程
を含む方法によって得られる。以下、前記転がり摺動部材の製造方法の例として、外輪の製造方法を説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る転がり摺動部材である外輪の製造方法の各工程を示す工程図である。
まず、前記鋼材から、転がり摺動面10a、外周面10b及び端面10c,10dそれぞれを形成する部分に研磨取代を有する外輪の素形材W1を得る〔「前加工工程」、図2(a)参照〕。
つぎに、得られた素形材W1に対して浸炭焼入れ処理又は浸炭窒化焼入れ処理を施す〔「浸炭焼入れ又は浸炭窒化焼入れ工程」、図2(b)参照〕。
浸炭焼入れ処理では、素形材W1を浸炭炉にセットする。つぎに、素形材W1を浸炭雰囲気下に加熱する(浸炭処理)。浸炭処理後の素形材W1を、急冷(焼入れ)する。前記浸炭処理は、例えば、素形材W1をカーボンポテンシャル1.0〜1.5の雰囲気(浸炭雰囲気)中において、900〜980℃の浸炭温度で加熱した後、カーボンポテンシャル0.8〜1.3の雰囲気(浸炭雰囲気)中において、900〜980℃の浸炭温度で加熱することなどによって行なうことができる。浸炭雰囲気中での加熱時間(浸炭時間)は、例えば、鋼材の組成、転がり摺動部材の用途などに応じて適宜決定できる。前記急冷(焼入れ)は、例えば、浸炭処理後の素形材W1を780〜880℃に均熱した後に冷却油の油浴中における油冷等により行なわれる。
浸炭窒化焼入れ処理では、素形材W1を浸炭炉にセットする。つぎに、素形材W1を浸炭窒化雰囲気下に加熱する(浸炭窒化処理)。浸炭窒化処理後の素形材W1を、急冷(焼入れ)する。前記浸炭窒化処理は、例えば、カーボンポテンシャル1.0〜1.5及び変成ガス流量に対するアンモニアガス流量1〜10%(浸炭窒化雰囲気)中において、820〜980℃の浸炭窒化温度で加熱することなどによって行なうことができる。浸炭窒化雰囲気中での加熱時間(浸炭窒化時間)は、例えば、鋼材の組成、転がり摺動部材の用途などに応じて適宜決定できる。前記急冷(焼入れ)は、例えば、浸炭処理後の素形材W1を780〜880℃に均熱した後に冷却油の油浴中における油冷等により行なわれる。
つぎに、浸炭焼入れ処理又は浸炭窒化焼入れ処理後の素形材W1に対し、焼戻し処理を施す〔「焼戻し工程」、図3(c)〕。焼戻し処理は、素形材W1を150〜200℃の焼戻し温度に加熱し、空冷することによって行なうことができる。焼戻し温度での加熱時間(焼戻し時間)は、例えば、鋼材の組成、転がり摺動部材の用途などに応じて適宜決定できる。
その後、焼戻し工程後の中間素材に対し、仕上げ加工を施し、転がり摺動部材である外輪10を得る〔「仕上げ加工」、図3(e)〕。前記仕上げ加工は、焼戻し工程後の中間素材の転がり摺動面10a、外周面10b及び端面10c,10dそれぞれを形成する部分に対して、研磨仕上げ加工を施すとともに、転がり摺動面10aに対して超仕上げ加工を施して、所定精度に仕上げること等によって行なうことができる。得られた外輪10では、転がり摺動面10a、外周面10b及び端面10c,10dは、研磨部となっている。
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
実施例1〜5及び比較例1〜5
表1に示される鋼材A〜Dそれぞれを所定形状に加工して、直径20mm及び長さ36mmの円筒ころの素形材を製造した。
つぎに、得られた素形材に、熱処理を施した後、研磨仕上げを施し、実施例1〜7及び比較例1〜3の試験片を得た。実施例1〜7及び比較例1〜3それぞれにおける熱処理条件を表2及び図3〜10に示す。なお、表2における「浸炭又は浸炭窒化時間」は、合計時間である。
実施例1においては、鋼材Aを用い、熱処理として、図3に示される熱処理条件の浸炭焼入れ及び焼戻しを行なった。浸炭焼入れの条件は、カーボンポテンシャル1.4の浸炭雰囲気中における930℃で9時間の加熱、カーボンポテンシャル1.0の浸炭雰囲気中における930℃で11時間の加熱、870℃で0.5時間の加熱及び80℃までの油冷である。焼戻しの条件は、180℃で2時間加熱及び空冷(焼戻し)である。
実施例2においては、鋼材Aを用い、熱処理として、図4に示される熱処理条件の浸炭焼入れ及び焼戻しを行なった。実施例2の熱処理条件は、浸炭焼入れにおいて、カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気中における930℃で9時間の加熱、カーボンポテンシャル1.0の浸炭雰囲気中における930℃で11時間の加熱、870℃で0.5時間の加熱及び80℃までの油冷を行なう点を除き、実施例1の熱処理条件と同様である。
実施例3においては、鋼材Aを用い、熱処理として、図5に示される熱処理条件の浸炭焼入れ及び焼戻しを行なった。実施例3の熱処理条件は、浸炭焼入れにおいて、カーボンポテンシャル1.1の浸炭雰囲気中における930℃で9時間の加熱、カーボンポテンシャル1.0の浸炭雰囲気中における930℃で11時間の加熱、870℃で0.5時間の加熱及び80℃までの油冷を行なう点を除き、実施例1の熱処理条件と同様である。
実施例4においては、鋼材Aを用い、熱処理として、図6に示される熱処理条件の浸炭窒化焼入れ及び焼戻しを行なった。浸炭窒化焼入れの条件は、カーボンポテンシャル1.2及び変成ガス流量に対するアンモニアガス流量2体積%の浸炭窒化雰囲気中における870℃で25時間の加熱及び80℃までの油冷である。焼戻しの条件は、180℃で2時間加熱及び空冷(焼戻し)である。
実施例5〜7においては、鋼材B(実施例5)、鋼材C(実施例6)及び鋼材D(実施例7)を用い、熱処理として、図7に示される熱処理条件の浸炭焼入れ及び焼戻しを行なった。実施例5〜7の熱処理条件は、浸炭焼入れにおいて、カーボンポテンシャル1.3の浸炭雰囲気中における930℃で12.5時間の加熱、カーボンポテンシャル1.0の浸炭雰囲気中における930℃で15.5時間の加熱、870℃で0.5時間の加熱及び80℃までの油冷を行なう点を除き、実施例1の熱処理条件と同様である。
比較例1においては、鋼材Aを用い、熱処理として、図8に示される熱処理条件の浸炭焼入れ及び焼戻しを行なった。比較例1の熱処理条件は、浸炭焼入れにおいて、カーボンポテンシャル1.5の浸炭雰囲気中における930℃で9時間の加熱、カーボンポテンシャル1.0の浸炭雰囲気中における930℃で11時間の加熱、870℃で0.5時間の加熱及び80℃までの油冷を行なう点を除き、実施例1の熱処理条件と同様である。
比較例2においては、鋼材Aを用い、熱処理として、図9に示される熱処理条件の浸炭焼入れ及び焼戻しを行なった。比較例2の熱処理条件は、浸炭焼入れにおいて、カーボンポテンシャル1.0の浸炭雰囲気中における930℃で20時間の加熱、870℃で0.5時間の加熱及び80℃までの油冷を行なう点を除き、実施例1の熱処理条件と同様である。
比較例3においては、鋼材Aを用い、熱処理として、図10に示される熱処理条件の浸炭焼入れ及び焼戻しを行なった。比較例3の熱処理条件は、浸炭焼入れにおいて、カーボンポテンシャル1.1の浸炭雰囲気中における930℃で4.5時間の加熱、カーボンポテンシャル1.0の浸炭雰囲気中における930℃で5.5時間の加熱、870℃で0.5時間の加熱及び80℃までの油冷を行なう点を除き、実施例1の熱処理条件と同様である。
試験例1
実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた試験片について、表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さ、表面から10μmの深さ位置での残留オーステナイト量、最大直交せん断応力発生深さz位置の残留オーステナイト量、表面から10μmまでの深さの位置における炭素含有量及び窒素含有量、表面から径方向深さへの炭素濃度分布並びに転動疲労寿命(L10寿命)を調べた。
表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さは、実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた試験片をその表面から径方向に切断した後、表面から50μmの深さの位置にビッカース圧子をあて、ビッカース硬さ試験機を用いて測定した。
表面から10μmまでの深さの範囲における残留オーステナイト量は、表面から径方向の10μmの深さ位置において、X線回折法により、α相(マルテンサイト)とγ相(オーステナイト)との積分強度の比を算出することによって調べた。
最大直交せん断応力発生深さz位置での残留オーステナイト量は、表面から径方向に240μmまでの深さの範囲において、X線回折法により、α相(マルテンサイト)とγ相(オーステナイト)との積分強度の比を算出することによって調べた。
表面から10μmの深さの位置における炭素含有量及び窒素含有量は、実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた試験片の表面から径方向に切断した後、前記表面から径方向に10μmの深さの位置を中心とし深さ方向に±10μmの範囲における炭素及び窒素それぞれの量を測定することにより求めた。
炭素濃度分布は、EPMA分析による濃度測定によって調べた。得られた炭素濃度分布を用い、移動平均により、試験片の表面から径方向深さへの移動平均曲線を作成した。つぎに、試験片の表面位置での移動平均曲線の傾きを求めた。
転動疲労寿命は、図11に示される試験機100を用い、表3に示される条件で転動疲労試験を行ない、その結果から求められる10%破損確率を示すL10寿命を調べることによって評価した。10%破損確率は、転動疲労試験の結果をワイブル確率紙上にプロットすることによって求めた。なお、試験機100は、図11(a)に示されるように、駆動輪101と、従動輪102(102a,102b,102c)と、鋼球103(103a,103b)とを含む。試験機100では、転動疲労試験を行なう際には、駆動輪101の上方より応力Fが付加されることにより、試験片Sが鋼球103に押し付けられるように駆動輪101と、従動輪102との間に、鋼球103及び試験片Sが配置されている(図11(b)参照)。
試験例1において、実施例1〜7及び比較例1〜3それぞれで得られた試験片の表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さ、前記表面から10μmまでの深さの範囲における残留オーステナイト量、表面から10μmの深さの位置における炭素含有量及び窒素含有量、試験片の表面位置での移動平均曲線の傾き、最大直交せん断応力発生深さz位置での残留オーステナイト量並びにL10寿命を表4に示す。また、試験例1において、実施例1〜7及び比較例2〜3の最大直交せん断応力発生深さz位置の残留オーステナイト量とL10寿命との関係を調べた結果を図12、実施例2の試験片の表面からの深さと炭素濃度との関係を調べた結果を図13、比較例3の試験片の表面からの深さと炭素濃度との関係を調べた結果を図14に示す。
表4に示された結果から、実施例1〜7で得られた試験片の表面におけるビッカース硬さは、714.3〜792.1であることから、転がり軸受の用途で要求される硬さ(ビッカース硬さ700〜800)であることがわかる。また、実施例1〜7で得られた試験片のL10寿命は、58×106〜145×106サイクルであることがわかる。さらに、表4に示された結果から、実施例1〜7で得られた試験片では、表面から10μmまでの深さの範囲における残留オーステナイト量が23〜47体積%であることから、当該試験片の表面硬化層には、長い転動疲労寿命を確保し、かつ転がり軸受の部材として用いるのに適した硬さを確保するのに十分な量の残留オーステナイトが存在していることがわかる。なかでも、表2に示されるように、実施例1〜4の試験片の製造時における浸炭又は浸炭窒化時間は、実施例5〜7の試験片の製造時における浸炭又は浸炭窒化時間と比べ、短いことから、実施例1〜4の試験片は、低コストで製造できることがわかる。
これに対し、比較例1で得られた試験片では、表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さが転がり軸受などの用途で要求されるビッカース硬さに達していないため、L10寿命を測定できなかった。また、比較例2及び3で得られた試験片では、表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さは、757.2〜834.7であることから、転がり軸受などの用途で要求されるビッカース硬さ以上を満たしていることがわかる。しかし、比較例2及び3で得られた試験片のL10寿命は、15×106〜37×106サイクルであることから、実施例1〜7で得られた試験片のL10寿命よりも著しく短いことがわかる。
また、表4及び図12に示された結果から、最大直交せん断応力発生深さz位置での残留オーステナイト量が22〜44体積%である実施例1〜7の試験片は、最大直交せん断応力発生深さz位置において、表面から10μmまでの深さの範囲における残留オーステナイト量と同程度の残留オーステナイト量を有していることから、応力誘起マルテンサイト変態による組織の強靭化を行なうのに十分な残留オーステナイト量を有することがわかる。また、実施例1〜7の試験片は、最大直交せん断応力発生深さz位置での残留オーステナイト量が11〜18体積%である比較例2及び3の試験片と比べ、長いL10寿命を有することがわかる。
さらに、表4に示された結果から、実施例1〜7で得られた試験片では、表面から10μmの深さの位置における炭素含有量が0.72〜1.04であり、かつ表面位置での移動平均曲線の傾きが0以上の範囲であることがわかる。図13に示された結果から、実施例2の試験片のように、表面位置での移動平均曲線の傾きが0以上である場合、最大直交せん断応力深さ付近にまで、十分な量の炭素を確保できていることがわかる。
一般に、試験片等に浸炭処理を施した場合、その試験片の炭素濃度は、当該試験片の表面から径方向内側に向かって減少する。これに対して、図13に示すように、表面位置での移動平均曲線の傾きが0以上である場合、試験片の表面から径方向内側に向かって減少する炭素濃度の減少割合を抑えることができる。すなわち、表面から径方向内側に向けて炭素濃度の高い範囲が広がるため、最大直交せん断応力発生深さz位置付近まで十分な炭素濃度を確保できる。これにより、最大直交せん断応力発生深さz位置において応力誘起マルテンサイト変態による組織の強靭化に十分な残留オーステナイトを確保でき、長い転動疲労寿命を確保できる。
一方で、表面硬化層の表面付近では、最大直交せん断応力発生深さz位置に比べて、転がり摺動部材として十分な硬さを確保することがより重要となる。そのため、傾きを0以上とすることで、表面付近を比較的低炭素として、表面付近の残留オーステナイトを適度な量に抑制することができる。これにより、表面付近では十分な硬さを確保することができる。
一方、表4に示された結果から、比較例1〜3で得られた試験片では、表面から10μmの深さの位置における炭素含有量が0.68〜1.17であり、表面位置での移動平均曲線の傾きが負の範囲であることがわかる。図14に示された結果から、比較例3の試験片のように、表面位置での移動平均曲線の傾きが負である場合、最大直交せん断応力深さ付近にまで、十分な量の炭素を確保できていないことがわかる。
図14に示すように、表面での移動平均曲線の傾きが負の場合、試験片の表面から径方向内側に向かって減少する炭素濃度の減少割合が大きくなってしまう。すなわち、炭素濃度の高い範囲が表面付近に限られるため、最大直交せん断応力発生深さz位置付近まで十分な炭素濃度を確保できない。さらに、表面での移動平均曲線の傾きが負の場合、表面硬化層の表面付近における残留オーステナイト量が、傾きが0以上の場合に比べて相対的に高い値(比較的高炭素)をとることになる。そのため、表面付近の残留オーステナイトが過剰な分、表面付近で十分な硬さを確保することができない。
よって、図13、図14では、表面での炭素含有量は0.80質量%前後で大きな差はないが、移動平均曲線の傾きの違いによって、最大直交せん断応力発生深さz位置付近での炭素濃度および残留オーステナイト量に大きな影響を与えていることがわかる。
以上の結果から、転がり摺動部材の転がり摺動面から深さ方向への炭素濃度分布の移動平均曲線において、前記表面の位置での傾きが0以上になるように、転がり摺動部材の表面硬化層に炭素を分布させることにより、最大直交せん断応力発生深さz位置において、応力誘起マルテンサイト変態による組織の強靭化を行なうのに十分な量の残留オーステナイトが確保でき、長い転動疲労寿命を確保できることがわかる。
さらに、前記傾きが0以上になるように、転がり摺動部材の表面硬化層に炭素を分布させることにより、表面硬化層の表面付近を比較的低炭素とし、表面付近の残留オーステナイトを適度な量に抑制することができ、表面付近では十分な硬さを確保できることがわかる。
1:軸受、10,20:外内輪、10a,20a,30a:転がり摺動面、11a,21a,31a:基体部、11b,21b,31b:表面硬化層、40:保持器

Claims (4)

  1. 相手部材との間で相対的に接触をする転がり摺動面を有する転がり摺動部材であって、
    炭素0.10〜0.50質量%と、ケイ素0.10〜0.80質量%と、マンガン0.20〜2.00質量%と、ニッケル5.00質量%以下と、クロム0.10〜2.50質量%と、モリブデン0.90質量%以下と、アルミニウム0.001〜0.200質量%と、バナジウム0.45質量%以下とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する基体部と、表面硬化層とを含み、
    前記転がり摺動面を含む前記表面硬化層のビッカース硬さが700〜800であり、
    前記転がり摺動面を含む前記表面硬化層の残留オーステナイト量が20〜50体積%であり、
    前記転がり摺動面を含む前記表面硬化層の炭素含有量が0.70〜1.10質量%であり、
    前記転がり摺動面から深さ方向への炭素濃度分布の移動平均曲線における前記転がり摺動面の位置での傾きが0以上であることを特徴とする転がり摺動部材。
  2. 前記表面硬化層が、浸炭層又は浸炭窒化層である請求項1に記載の転がり摺動部材。
  3. 前記基体部が、炭素0.30〜0.45質量%と、ケイ素0.10〜0.50質量%と、マンガン0.40〜1.50質量%と、ニッケル0.20質量%以下と、クロム0.30〜2.00質量%と、モリブデン0.10〜0.35質量%と、アルミニウム0.005〜0.100質量%と、バナジウム0.20〜0.40質量%とを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する請求項1又は2に記載の転がり摺動部材。
  4. 内周に転がり摺動面を有する外輪と、外周に転がり摺動面を有する内輪と、前記外内輪の両転がり摺動面の間に配置されている複数個の転動体とを有する転がり軸受であって、
    前記外輪、前記内輪及び前記転動体のうちの少なくとも1つが、請求項1〜3のいずれかに記載の転がり摺動部材からなることを特徴とする転がり軸受。
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