JP5668283B2 - 転がり摺動部材の製造方法 - Google Patents
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一方、300℃程度の高温下においても長い転動疲労寿命を確保するため、ビッカース硬さ740以上の表面硬さを有する転がり摺動部材が求められている。
0.7〜0.9質量%の炭素と、0.05〜0.70質量%のケイ素と、0.05〜0.7質量%のマンガンと、3.2〜5.0質量%のクロムと、0.1〜1.0質量%のモリブデンと、0.05質量%以上0.5質量%未満のバナジウムとを含有し、かつ残部が鉄および不可避不純物である鋼材を、所定の形状に加工して、素形材を得る前加工工程、
前記素形材に対して、カーボンポテンシャル0.9〜1.3%で、アンモニアガス濃度が2〜5体積%の浸炭窒化雰囲気において、当該素形材を850〜900℃で加熱し、急冷する浸炭窒化処理を施し、中間素材を得る浸炭窒化処理工程、
前記浸炭窒化処理後の中間素材に対して、250℃を超え、300℃以下の温度で当該中間素材を加熱する焼もどし処理を施す焼もどし処理工程、および
前記焼もどし処理後の中間素材に、仕上げ加工を施すことにより、表面から50μmの深さの位置のビッカース硬さが740(ロックウェルC硬さが62)以上であり、表面から10μmまでの範囲の表面層における炭素の含有量が1.1〜1.6質量%であり、表面から10μmまでの範囲の表面層における窒素の含有量が0.1〜1.0質量%であり、表面から10μmまでの範囲の表面層には、バナジウム窒化物からなる粒径0.2〜2μmの粒子および/またはバナジウム炭窒化物からなる粒径0.2〜2μmの粒子を有しており、かつ表面から10μmまでの範囲の表面層における前記粒子の面積率が1〜10%である転がり摺動部材を得る仕上げ加工工程
を含むことを特徴としている。
これにより、得られる転がり摺動部材の表面から10μmまでの範囲の表面層における炭素の含有量を1.1〜1.6質量%、表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さが740〜900(ロックウェルC硬さが62〜67)、表面から10μmまでの範囲の表面層における窒素の含有量を0.1〜1.0質量%、表面から10μmまでの範囲の表面層に、バナジウム窒化物からなる粒径0.2〜2μmの粒子および/またはバナジウム炭窒化物からなる粒径0.2〜2μmの粒子を存在させ、表面から10μmまでの範囲の表面層における前記粒子の面積率を1〜10%とすることができる。
このように、本発明の転がり摺動部材の製造方法では、得られる転がり摺動部材の表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さが740〜900(ロックウェルC硬さが62〜67)とすることができるので、300℃の高温条件下で使用した場合であっても、良好な転動疲労寿命を確保するのに十分な表面硬さを確保することができる。
したがって、本発明の転がり摺動部材の製造方法によれば、300℃程度の高温までの広い温度範囲においても、良好な転動疲労寿命を確保するのに十分な表面硬さを示す転がり摺動部材を得ることができる。
しかも、本発明の転がり摺動部材の製造方法では、0.7〜0.9質量%の炭素と、0.05〜0.70質量%のケイ素と、0.05〜0.7質量%のマンガンと、3.2〜5.0質量%のクロムと、0.1〜1.0質量%のモリブデンと、0.05質量%以上0.5質量%未満のバナジウムとを含有し、かつ残部が鉄および不可避不純物である鋼材が用いられているので、例えば、高温用軸受鋼のSKH4やM50(バナジウム、マグネシウムおよびタングステンを含む軸受鋼)に比べて、加工がしやすく、低コストで、転がり摺動部材を製造することができる。
前記浸炭窒化処理後の中間素材に対して、サブゼロ処理を施すことにより、残留オーステナイトをマルテンサイトに変化させて、得られる転がり摺動部材における寸法安定性および耐磨耗性を向上させることができる。
また、外内輪1,2の軌道部1a,2aおよび玉3それぞれの表面には、セメンタイトおよびM7C3型炭化物およびM23C6型炭化物が析出している。
一方、前記外輪の環状素材13と同じ鋼材からなる内輪の環状素材23〔図3(a)参照〕に切削加工等を施して、軌道面21a、端面21b、内周面21cおよび外周面21dをそれぞれ所定形状に加工して、内輪の素形材24を得る〔図3(b)参照〕。
かかる鋼材によれば、外内輪1,2それぞれの表面における製鋼時に析出する粗大な共晶炭化物の量が少なくなり、転がり軸受での疲労破壊を抑制することができるとともに、焼入れ後や、浸炭窒化および焼もどし後において、十分な硬さを確保することができる。
前記鋼材中に含まれる炭素の含有量は、鋼材中に未固溶の炭化物を十分に残存させる観点から、0.7質量%以上であり、浸炭窒化処理前の加工性を十分に得るとともに、鋼材製造時に疲労破壊の起点となり易い粗大な共晶炭化物の生成を抑制する観点から、0.9質量%以下である。
前記効果を得るために観点から、鋼材中に含まれるクロムの含有量は、3.2質量%以上であり、疲労破壊の起点となる共晶炭化物の生成の抑制を容易に行う観点およびコストを低減させる観点から、5.0質量%以下である。
前記効果を得る観点から、鋼材中に含まれるケイ素の含有量は、0.05質量%以上であり、浸炭窒化処理前において、十分な加工性を確保するとともに、鋼材および加工等に要するコストを低減させる観点から、0.70質量%以下である。
前記効果を得る観点から、鋼材中に含まれるマンガンの含有量は、0.05質量%以上であり、鋼材中における未固溶の炭化物の量を増加させ、炭化物を析出させて、鋼材の硬さを向上させるとともに、転がり疲れ寿命を向上させる観点ならびに十分な熱間加工性および機械加工性を得る観点から、0.7質量%以下であり、好ましくは0.50質量%以下である。
前記効果を得る観点から、鋼材中に含まれるモリブデンの含有量は、0.10質量%以上であり、コストを低減させる観点および疲労破壊の起点となる粗大な共晶炭化物の生成を抑制する観点から、1.0質量%以下である。
また、加熱保持時間は、表面層の強化に十分な浸炭深さを得る観点から、4時間以上である。
焼もどし処理における加熱保持温度は、300℃程度の高温条件での使用に十分な寸法安定性を確保し、十分な耐熱性を確保する観点から、250℃を超える温度であり、残留オーステナイトの過剰な分解を抑制するとともに、製造コストを低減させる観点から、300℃以下である。
また、焼もどし処理における加熱保持時間は、300℃程度の高温条件での使用に十分な寸法安定性を確保し、十分な耐熱性を確保する観点から、0.5時間以上である。
一方、焼もどし処理工程後の内輪の素形材24(中間素材)の軌道面21a、端面21b、内周面21dに対して研磨仕上げ加工や超仕上げ加工を施して、所定精度に仕上げる〔図3(e)参照〕。このようにして、目的の内輪21を得ることができる。
サブゼロ処理における冷却温度は、コストを低減する観点から、好ましくは−100℃以上であり、耐摩耗性を向上させる観点から、好ましくは−50℃以上である。
また、サブゼロ処理における冷却時間は、残留オーステナイトをマルテンサイトに変化させる観点から、好ましくは1時間以上である。
このようにサブゼロ処理を行なうことにより、残留オーステナイトをマルテンサイトに変化させることにより、得られる転がり摺動部材の経時的な寸法変化を抑制して、寸法安定性を向上させ、かつ耐磨耗性を向上させることができる。
表1に示す組成を有する2種類の鋼材AおよびBそれぞれを用いて、型番6206の玉軸受の外輪、内輪および転動体を製造するための素形材それぞれを製造した。表1の鋼材Bは、軸受綱であるJIS SUJ2である。なお、転動体の直径は、9.525mmとした。
図6に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが1.2%、アンモニアガス濃度が5体積%の浸炭窒化雰囲気中において860℃で7時間加熱した後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(実施例2)。
図7に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが1.0%、アンモニアガス濃度が2体積%の浸炭窒化雰囲気中において860℃で7時間加熱した後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(実施例3)。
図8に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが1.1%、アンモニアガス濃度が2体積%の浸炭窒化雰囲気中において860℃で7時間加熱した後、−55℃で1時間冷却〔サブゼロ処理〕し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(実施例4)。
図9に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが0.8%の雰囲気中において830℃で0.5時間加熱して、ズブ焼入れを行った後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(比較例1)。
図10に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが1.2%の浸炭雰囲気中において850℃で5時間加熱した後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(比較例2)。
図11に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが1.2%、アンモニアガス濃度が2体積%の浸炭窒化雰囲気中において850℃で4時間加熱した後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(比較例3)。
図12に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが0.8%の雰囲気中において900℃で0.5時間加熱して、ズブ焼入れを行った後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(比較例4)。
図13に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが1.2%の浸炭雰囲気中において900℃で7時間加熱した後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(比較例5)。
図14に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが1.2%、アンモニアガス濃度が1体積%の浸炭窒化雰囲気中において860℃で7時間加熱した後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(比較例6)。
図15に示される熱処理条件は、素形材を、カーボンポテンシャルが1.2%、アンモニアガス濃度が15体積%の浸炭窒化雰囲気中において860℃で7時間加熱した後、80℃に油冷し、その後、300℃で2時間加熱〔焼もどし処理〕するものである(比較例7)。
実施例1〜4、比較例1〜7の内輪について、焼もどし処理(300℃)後における表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さ(またはロックウェルC硬さ)、表面から10μmまでの範囲の表面層における炭素含有量、表面から10μmまでの範囲の表面層における窒素含有量、析出物形態、およびバナジウム系析出物(バナジウム炭窒化物からなる粒径0.2〜2μmの粒子およびバナジウム窒化物からなる粒径0.2〜2μmの粒子)の面積率を調べた。
○:焼もどし処理(300℃)後におけるビッカース硬さが740(ロックウェルC硬さが62)以上であり、300℃程度の高温までの広い範囲の温度条件での使用に適している
×:焼もどし処理(300℃)後におけるビッカース硬さが740(ロックウェルC硬さが62)未満であり、300℃程度の高温までの広い範囲の温度条件での使用に不適である
これらの結果を表2に示す。表2中、「ビッカース硬さ(ロックウェルC硬さ)」は、焼もどし処理(300℃)後における表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さ(またはロックウェルC硬さ)、「炭素含有量」は、表面から10μmまでの範囲の表面層における炭素含有量、「窒素含有量」は、表面から10μmまでの範囲の表面層における窒素含有量、「バナジウム系析出物の面積率」は、バナジウム炭窒化物からなる粒子およびバナジウム窒化物からなる粒子の面積率をそれぞれ示す。
したがって、これらの結果から、鋼材Aからなる素形材を、カーボンポテンシャル0.9〜1.3%で、アンモニアガス濃度が2〜5体積%の浸炭窒化雰囲気において850〜900℃で加熱し、その後、急冷し(浸炭窒化処理)、浸炭窒化処理後の中間素材に対して、250℃を超え、300℃以下の温度で当該中間素材を加熱し(焼もどし処理)、焼もどし処理後の中間素材に、仕上げ加工を施すことにより、300℃程度の高温までの広い範囲の温度条件での使用に適した硬さを有する転がり摺動部材を得ることができることがわかる。
11 外輪
Claims (2)
- 相手部材との間で相対的に転がり接触もしくは滑り接触または両接触を含む接触をする転がり摺動部材の製造方法であって、
0.7〜0.9質量%の炭素と、0.05〜0.70質量%のケイ素と、0.05〜0.7質量%のマンガンと、3.2〜5.0質量%のクロムと、0.1〜1.0質量%のモリブデンと、0.05質量%以上0.5質量%未満のバナジウムとを含有し、かつ残部が鉄および不可避不純物である鋼材を、所定の形状に加工して、素形材を得る前加工工程、
前記素形材に対して、カーボンポテンシャル0.9〜1.3%で、アンモニアガス濃度が2〜5体積%の浸炭窒化雰囲気において、当該素形材を850〜900℃で加熱し、急冷する浸炭窒化処理を施し、中間素材を得る浸炭窒化処理工程、
前記浸炭窒化処理後の中間素材に対して、250℃を超え、300℃以下の温度で当該中間素材を加熱する焼もどし処理を施す焼もどし処理工程、および
前記焼もどし処理後の中間素材に、仕上げ加工を施すことにより、表面から50μmの深さの位置でのビッカース硬さが740以上であり、表面から10μmまでの範囲の表面層における炭素の含有量が1.1〜1.6質量%であり、表面から10μmまでの範囲の表面層における窒素の含有量が0.1〜1.0質量%であり、表面から10μmまでの範囲の表面層には、バナジウム窒化物からなる粒径0.2〜2μmの粒子および/またはバナジウム炭窒化物からなる粒径0.2〜2μmの粒子を有しており、かつ表面から10μmまでの範囲の表面層における前記粒子の面積率が1〜10%である転がり摺動部材を得る仕上げ加工工程
を含むことを特徴とする転がり摺動部材の製造方法。 - 前記浸炭窒化処理後の中間素材に対して、−50〜−100℃で当該中間素材を冷却するサブゼロ処理を施すサブゼロ処理工程をさらに含み、
前記サブゼロ処理後に、前記焼もどし処理を行なう、請求項1に記載の転がり摺動部材の製造方法。
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