JP4413769B2 - 転がり軸受用鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車や産業機械等に使用される転がり軸受に適した鋼材に関するもので、特に潤滑油に異物が混入する環境において使用しても、表面起点破損を遅延させることが可能な転がり軸受用鋼に関する。
従来から、転がり軸受における寿命低下の原因の一つとして、潤滑油中への異物の混入がある。これらの異物は金属切粉や削り屑、及び摩耗粉などで、軸受を使用する際に軌道輪の転動軌道部や転動体に損傷を与え、繰返し応力負荷によって表面剥離等の実質使用不可能となるような損傷に発展することが知られている。そのため、この潤滑油中に存在する異物は、軸受の寿命低下への影響が非常に大きく、JIS-SUJ2に代表される高炭素クロム軸受鋼や、JIS-SCR420相当の浸炭鋼を用いて製造された転がり軸受の場合には、異物のないクリーンな潤滑環境で使用する場合に比べて、軸受寿命が半減以下になることも少なくない。
このような異物混入による軸受の寿命低下に対する対策として、軸受をシールすることで異物を遮断することも考えられるが、軸受自体のコストを上げてしまうばかりでなく、高負荷、高速回転する環境ではグリースなどの潤滑材の温度が上昇して潤滑不良を生じたり、軸受以外の機械部品に潤滑油を通す必要から、軸受をシールすることが可能でない場合があり、根本的な解決とならないという問題がある。また、使用する材料側の対策として、前記SUJ2に高濃度浸炭を施し、表面硬さを増加させるという試みがされているが、近年ますます厳しくなる顧客要求に対し、期待するほどの寿命向上効果が得られないという問題がある。一方で、顧客の低コスト化要求は依然として強く、軸受製造に関する、加工、熱処理コストは極力抑制する必要がある。このような背景から、軸受製造コストの上昇を極力抑制することが可能で、異物混入環境下における表面損傷に強い鋼の開発が強く望まれていた。
この課題に対し、従来から、表面起点損傷を遅延させる方法として、主に表面処理による多量の残留オーステナイトや、析出した炭窒化物を有効活用することを特徴とする開発が盛んに進められている。例えば、特許文献1〜4に示される軸受用鋼やその表面硬化処理方法が提案されている。
特開平1−55423号公報 特開平2−277764号公報 特開平5−78814号公報 特開平5−118336号公報
特許文献1〜4に記載の特許は、全て浸炭、または浸炭窒化処理を適用することで、炭窒化物を利用して、ある程度の表面硬さを確保し、さらには残留オーステナイト量を高めて、異物が混入した潤滑環境での転動寿命を向上させたことを特徴とするものである。すなわち、焼入れされた炭窒化物を含む硬質のマルテンサイト組織は異物を噛み込んだ時の圧痕が付き難く、また耐摩耗性等の表面強度が優れており、さらに、そのマルテンサイト中に軟質な残留オーステナイトを存在させることで、その圧痕周辺における応力集中を緩和し、亀裂の発生、および進展を遅延させることを特徴とするものである。
しかしながら、前記した従来の発明には次の問題がある。
特許文献1は浸炭及び浸炭窒化によって残留オーステナイト量を高めてはいるが、既存の肌焼鋼、軸受鋼を用いた場合しか検討されておらず、残留オ−ステナイトを多量とした場合でも高硬度を確保可能とするための成分範囲の検討が十分でない。従って、残留オ−ステナイトを増量した場合に、最近要求されている厳しい使用環境(高面圧)で用いた場合において、十分な特性を得ることが難しいという問題がある。
次に、特許文献2、4においては、炭化物の析出硬化を利用して、特許文献2ではHRC65以上、特許文献4ではHRC63以上の高硬度を確保しているが、強度低下を懸念して、残留オ−ステナイト量の上限を25vol%にしているため、異物に対する抵抗が十分でないという問題がある。
また、特許文献3は、Cr、Mo、Vの1%以上の添加と、浸炭窒化処理により、高硬度かつ25%以上の残留オ−ステナイト量の確保を可能としているが、巨大炭化物の生成を抑制するため、表面層の炭素濃度を抑制しても高い硬さが得られるように、NH3ガスの使用が不可欠となる浸炭窒化処理を採用し、かつ微細炭窒化物を増加させるため、浸炭窒化処理後に冷却し、再加熱、焼入焼もどし処理することを特徴としている。従って、通常の再加熱を必要とせず、かつNH3ガスを使用しない浸炭処理をする場合と比較して、コスト面で大きく不利になるという問題がある。
本発明は、鋼の成分の最適化、および浸炭前状態を調整することで、前記のような再加熱を行わず、NH3ガスを必要としない浸炭処理のみによって、炭化物を微細分散させ、多量の残留オーステナイト量を生成させながらも高い表面硬さを確保することが可能な、転がり軸受用鋼を新規に提案することを目的とする。
前記した課題を解決するために成された請求項1の発明は、浸炭層表面の炭素量が1.2%以上となる高濃度浸炭を行って用いられる(浸炭処理前の)転がり軸受用鋼であって、
質量%で、C:0.70超〜0.90%、Si:0.70%以下、Mn:0.70%以下、Cr:3.20〜5.00%未満、Al:0.040%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.0050%以下、O:0.0015%以下と、Mo:1.00%未満、V:0.50%未満の1種又は2種を含有し、残部がFe及び不純物元素からなり、
硬さがHv250以下である球状化焼鈍組織を有し、
鋼中に存在する未固溶炭化物の平均粒径が0.1〜0.5μmであり、0.1μm以上の大きさの炭化物の析出数が1500000個/mm2以上であることを特徴とする転がり軸受用鋼である。
本発明は、コスト、生産性の面で最も有利な浸炭処理を用い、残留オーステナイト量の増加による硬さ低下を防止し、異物が混入する潤滑環境下で転動寿命を向上させる技術として、下記の知見を得ることにより完成されたものである。
(1)表面の高炭素濃度の浸炭層内に析出し、浸炭処理後に析出したままで残存する未固溶炭化物は、一般的な機械構造用鋼ではセメンタイト(M3C)であるが、Crを多量(3.2〜5.0%)に添加、あるいはV、Moを添加した場合には、M3Cよりも高硬度で粗大化し難いMC、M7C3、M23C6が析出し、残留オ−ステナイト量の増加にともなう硬さ低下を抑制する。
(2)(1)の効果を高めるためには、これらの炭化物をより微細に析出させる必要があり、そのためにCrを多量に含有する鋼を浸炭前に球状化焼鈍を施すことで、加工性を改善するだけでなく、多数の析出物(1500000個/mm2以上)が適当な大きさ(平均炭化物径が0.1〜0.5μm)で析出した状態を得る。その結果、高炭素濃度の浸炭によって浸入した炭素が炭化物として析出、成長する際、浸炭処理前に析出済の未固溶炭化物が析出核として働くため、多数の析出核が確保され、結果として炭化物の粗大化が抑制され、微細に析出させることが可能になる。これらの効果から、鋼の成分を最適化し、後述する適切な処理条件で浸炭処理した場合には、異物に対する抵抗を高めるために残留オ−ステナイト量を30%以上とした場合でも、HRC63以上の高硬度を確保することができ、転動寿命の向上を図ることができる。
(3)浸炭処理温度を低め(850〜930℃)に設定することにより、浸炭処理前に析出させた炭化物の固溶による消失と成長による粗大化を抑制し、浸炭表面の平均炭素量が1.2%以上になるようカーボンポテンシャルを制御することによって、面積率で10〜30%という多量の炭化物を微細分散(平均粒径0.5μm以下)させることが可能になり、その結果、(1)、(2)で記載した効果が発揮されることによって、残留オ−ステナイトを30%以上という多量に確保した場合でも、HRC63以上の高い硬さを得ることが可能となり、転動寿命の向上を図ることができる。
次に本発明である転がり軸受用鋼の成分等の限定理由について説明する。この発明は、異物混入下でも優れた寿命を得るための転がり軸受用部品を製造するための鋼材に関する発明であり、後工程である浸炭処理によって優れた寿命が得られるようにするための、浸炭処理前における材料面の条件を明確にしたことを特徴とする発明である。
具体的には、Crを増量する等、高硬度の炭化物が多量に生成しやすい成分系に最適化した上で、球状化焼鈍することにより、鋼中に適当な大きさの炭化物が多量に析出した状態とすることを発明の主な要旨としている。
C:0.70超〜0.90%
Cは焼入後の硬さを上昇させ、強度確保のための内部硬さを得るために必要な元素である。また、Cは浸炭処理前において未固溶炭化物を多量に残存させ、これを浸炭処理後においても多量に残存した状態とすることにより、残留オ−ステナイト量を30%以上としても、炭化物析出による強化によって高い硬度を確保可能とするために不可欠となる元素である。従って、未固溶炭化物生成のために必要となる十分な量のCを添加しておく必要があり、0.70%を超えて含有させることとした。
しかしながら、Cの多量添加は、球状化焼鈍後の硬さを上昇させ、浸炭前の機械加工性を劣化させるとともに、後述するように従来鋼よりもCrを多く添加している影響から、C量が多くなると、鋼材製造時に疲労破壊の起点と成り易い粗大な共晶炭化物が生成しやすくなるため、上限を0.90%とした。
Si:0.70%以下
Siは鋼の精錬時に脱酸のために必要な元素であるとともに、炭化物に固溶し難い性質を有することから、Siを含有していると炭化物の粗大成長にとって障害となり、その成長を抑制する効果を有する元素である。従って、鋼の脱酸のために少量の含有は不可欠となるが、多量の含有は避ける必要がある。また、Si量の増加は、フェライトの強化によって球状化焼鈍後の硬さが上昇し、所定形状へ加工が難しくなり、さらに浸炭性を阻害するため、上限を0.70%とした。
Mn:0.70%以下
Mnはオーステナイトを安定化させる元素であり、その増量によって容易に残留オーステナイト量を増加させることのできる元素である。しかしながら、Mnの増量は、浸炭加熱時に炭化物の固溶温度の低下をもたらすことから、多量に含有させると未固溶炭化物量が減少し、浸炭層で高硬度確保が困難となる。また、Mnの増量は、熱間加工性、機械加工性を低下させるという問題もある。そこで、本発明では、必要とする残留オ−ステナイト量の確保は、主として浸炭によって鋼中に侵入させる炭素量の調整によって得ることとし、最低限必要な焼入性確保のために必要な量として、その上限を0.70%とした。好ましくは、上限を0.50%未満とするのが良い。
Cr:3.20〜5.00%未満
Crは本発明にとって最も重要な炭化物形成元素の1つであり、浸炭処理前の段階で多量の未固溶炭化物を生成させ、浸炭処理時にその炭化物が析出核として作用することにより、浸炭処理後の表面浸炭層に微細炭化物(特に高硬度を有するM7C3、M23C6炭化物を多量に析出させた状態とする)を析出させ、多量の残留オ−ステナイトを有するにもかかわらず、高硬度を確保可能とするために不可欠となる元素である。従って、この効果を十分に得るためには、従来鋼に比べ多量に含有する必要があり、3.20%以上の含有することとした。しかしながら、多量に添加すると、疲労破壊の起点となる粗大な共晶炭化物の生成を防止することが難しくなるとともに、コスト高となるため、上限を5.00%未満とした。
Al:0.040%以下
Alは鋼の精錬時に脱酸のために必要な元素である。しかし、添加量が多くなるとアルミナ系非金属介在物が増加して、鋼材製造時に割れ、表面疵等が発生しやすくなるばかりでなく、転動疲労の破壊起点となるため、Alの添加は脱酸に必要な最低限量に抑制することが望ましく、上限を0.040%とした。
P:0.030%以下
Pはオーステナイト粒界に偏析し、鋼の靭性を低下させるため、上限の含有率を0.030%に制限した。
S:0.030%以下
SはMnと結合することでMnSを形成し、被削性が向上することが知られている。しかしながら、Sの添加量が多くなるとMnSが粗大化し、転動疲労時に剥離損傷の起点となるため、上限の含有率を0.030%に制限した。
Ti:0.0050%以下
Tiは、Nと結合することで非金属介在物であるTiNを生成し、転動疲労寿命を劣化させることが知られている。このTiN介在物はTi添加量とともに増加、粗大化するため、上限の含有率を0.0050%以下に制限した。前記理由より、規定内であってもTi量が少ない方がより好ましい。特に、Tiは添加しなくても不純物として少量の含有が避けられないので、造滓剤の種類を適切に選択して製造する等、Tiが増加しないよう配慮して製造する必要がある。
O:0.0015%以下
Oの多くは、鋼中のAlや、不純物として存在する微量のCaと結合することで、酸化物系介在物となり鋼中に存在する。これら酸化物系介在物は転動疲労時に剥離損傷の起点となること知られており、転動疲労寿命を劣化させる。したがって、従来より、製鋼メーカーとしては鋼中のO量を極力減少させるための技術開発を行ってきた。そのような背景から、Oの含有率を0.0015%以下に制限した。前記理由より、規定内であってもO量が少ない方がより好ましい。
Mo:1.00%未満
MoはCrよりも炭素との親和力の強い炭化物形成元素であり、浸炭温度における炭化物の固溶温度を上昇させ、未固溶炭化物量を増加させる元素である。従って、本発明にとって浸炭処理後の浸炭層の微細炭化物量を増加させ、硬度を上昇させるために重要な元素である。また、Moは鋼の焼入性を向上させるとともに、残留オーステナイト量の増加にも寄与する効果もある。従って、Moは、後述するVも含めた2種の元素のうち1種以上を添加して、表面硬度向上を図ることとしたものである。しかしながら、多量の添加はコスト高となるばかりでなく、疲労破壊の起点となる粗大な共晶炭化物が鋼材製造時に生成しやすくなるため、上限の含有率を1.00%未満とした。なお、下限は特に限定していないが、Moによって前記効果を十分に得るためには、0.10%以上含有させることがより望ましい。
V:0.50%未満
Vは炭素の親和力の非常に強い炭化物形成元素であるとともに、生成されたV炭化物であるVCは、Moの炭化物と比較して固溶温度が高いため、本発明における浸炭温度域(850〜930℃)では、浸炭処理前に存在していたVCが、下限温度である850℃ではほとんど固溶せず、上限温度である930℃でもかなりの割合が固溶せずに残存する。従って、その未固溶炭化物は浸炭処理時に浸炭層における炭化物の析出核と成り、炭化物の微細化に寄与するため、前記したMoも含めた2種の元素のうち、1種以上を添加して、表面硬度向上を図ることとしたものである。
特に、VCは浸炭時の加熱によって固溶しにくいことから、Moに比べ表面硬度向上効果が大きいので、Mo、Vのうち、Mo単独添加よりはV単独添加の方が高い硬さを得ることができる。しかしながら、Vを多量に添加すると、Cの拡散を阻害するため、浸炭表面の炭素濃度が上昇しにくくなるとともに、VCの生成によって固溶炭素量が減少し、必要とする残留オーステナイト量が確保しにくくなるため、上限の含有率を0.50%未満とした。なお、含有率の下限については特に限定していないが、前記効果を十分に得るためには、少なくとも0.10%以上含有させることが望ましい。
以上、各成分の限定理由について説明したが、炭化物形成元素であるCr、Mo、Vは同時に多量に添加しても、添加に見合ったほどの効果が得られないので、コスト的な観点から、3.5%≦(Cr+Mo+V)≦5.5%に限定することが好ましい。また、特にC、Cr、Moが多量になると、疲労破壊の起点となる粗大な共晶炭化物が鋼材製造時に生成しやすくなるため、その生成を抑制するためには、0.13≦C/(Cr+Mo)≦0.26とすることが好ましい。
次に、請求項1の発明について、成分以外の条件の限定理由について、以下に説明する。
球状化焼鈍後の硬さ:Hv250以下
請求項1の発明において、球状化焼鈍は炭化物を微細に析出させるためだけに実施するのではなく、本来の焼鈍処理の目的である加工性改善も同時に期待して実施されるものである。すなわち、浸炭処理後においては、非常に高い硬さとなって加工が困難となるため、最終的な仕上げ加工を除けば、焼鈍処理後浸炭処理前に必要な加工が行われるからである。従って、当然の如く焼鈍処理後において大量生産が可能な硬さに低下させておく必要があるため、その上限硬さをHv250と設定した。
未固溶炭化物の平均粒径:0.1〜0.5μm、0.1μm以上の大きさの炭化物の析出数:1500000個/mm2以上
浸炭処理後に30%以上の残留オ−ステナイトを確保しても高い硬さを維持するためには、浸炭処理前に適当な大きさの炭化物を多量に析出させた状態としておく必要がある。
平均粒径の下限を0.1μmとしたのは、微細に析出させすぎて粒径が小さいと、浸炭処理時の加熱によって固溶して消失し、浸炭処理後に残存する炭化物数が減少して、得られる硬さが低下するためであり、上限を0.5μmとしたのは、浸炭処理時の加熱で成長し、粗大化する炭化物が増加して平均粒径が大きくなるとともに、析出数も減少し、やはり得られる硬さが低下するためである。また、浸炭処理時においては、処理前に存在する炭化物が析出核となって、炭化物が生成されるため、浸炭処理前において炭化物の析出数を多くしておく必要があるため、0.1μm以上の大きさの炭化物の析出数の下限を1500000個/mm2とした。
ここで、対象とする析出物を大きさ0.1μm以上のものに限定したのは、0.1μm未満の大きさの析出物は、後工程である浸炭時の加熱で固溶消失するものが多く、硬さの向上への寄与があまり期待できないからである。なお、本発明鋼では、炭化物が多く析出するよう成分の最適化を図っているため、1500000個/mm2以上の炭化物を析出させることが可能であるが、SUJ2等の従来の軸受鋼では、このような多量の析出物の生成は難しく、この差異により浸炭処理後に従来鋼を用いた場合に比べ高寿命の部品を得ることができる。
以上、本発明の軸受用鋼について説明したが、本発明は以上の構成からなる鋼材と、後工程において適切な浸炭焼入処理をすることにより、異物混入下でも優れた寿命を有する転がり軸受用部品を製造できる。以下、その詳細について説明する。
本発明からなる鋼材は球状化焼鈍されているため、硬さがHv250以下の加工が十分可能な硬さまで低下した状態となっている。この段階で部品を製造するために必要な加工を実施し、表面の研磨等といった仕上げ加工を除く全ての加工を終了させておく。そして、これらの加工が終了した後、後述する条件で浸炭処理を行って、表面浸炭層に多量の残留オ−ステナイトと多量の炭化物を有し、高硬度(表面硬さがHRC63以上)を確保した転がり軸受用部品を製造する。以下、本発明鋼を用いて製造することにより異物混入下で優れた寿命を確保できる軸受部品の条件について説明する。
まず、浸炭後における内部の非浸炭層(浸炭時の加熱の影響のみ及んでいる領域)の炭化物析出状態の条件について、説明する。
未浸炭層における未固溶炭化物の析出数:300000個以上/mm2
本発明鋼を用いた軸受部品では、異物に対する抵抗を高めるために、浸炭層表面において軟質な残留オーステナイトを30%以上確保し、それによる硬さ低下を、炭化物の微細分散による強化により抑制している。この強化を十分なものとするためには、浸炭温度において析出核となり得る多量の未固溶炭化物が存在していることが必須であり、浸炭処理時の加熱による炭化物の固溶による個数減少があっても、300000個/mm2以上の炭化物が必要である。
なお、以上の説明から明らかなように、本発明で言う未固溶炭化物は、表面浸炭層の硬度低下抑制のために必要なものである。それにもかかわらず、個数を内部の非浸炭層における析出数にて指定しているのは、下記の理由によるものである。
(1)前記した通り浸炭処理後に生成される炭化物の数、量は、浸炭処理前に生成している未固溶炭化物の量によって大きく左右される。
(2)浸炭処理後に生成される炭化物の数、量は、浸炭処理前に存在する炭化物の数が、浸炭処理によってどれだけ固溶して消失することなく残存するかによっても左右される。
(3)浸炭処理時の表面からの炭素の侵入による影響がなければ、炭化物の生成状態は、表面も内部もほぼ同一となることが推定できるため、非浸炭層である内部の未固溶炭化物の個数を管理することにより、表面浸炭層の特性をある程度把握することができる。
以上の(1)〜(3)の理由により、表面浸炭層の特性を非浸炭層の未固溶炭化物数によって把握しようとするものである。
なお、浸炭処理前において前記した析出状態を確保した上で、後述の条件で浸炭処理することにより、高寿命を得るのに適した炭化物の析出状態を達成することが可能である。そして、この浸炭後に表面浸炭層において炭化物が適切な析出状態になっているかどうかを浸炭処理後の状態から容易に把握可能とするため、本条件を設定したものである。
次に、浸炭後に生成される浸炭層の表面における適切な条件について説明する。なお、ここで言う表面とは、転がり軸受用部品として使用される段階での表面のことを言い、浸炭後に仕上げ加工によって表面に研磨等の加工を加える場合には、仕上げ加工後の表面のことを意味する。部品としての性能は、最終仕上げ加工後の表面状態によって決定されるからである。
浸炭表面の平均炭素量:1.2%以上
前記した本発明鋼は、高炭素濃度の浸炭処理を施すことにより、多量の残留オーステナイトを有しつつ、多数の微細な析出炭化物を有する組織を得られる鋼である。その効果を発揮するためには、少なくとも浸炭処理後の表面の平均炭素量が1.2%以上である必要がある。望ましくは1.3〜1.6%である。また、炭素量が高くなりすぎると、残留オ−ステナイトが増加するが、それに伴い硬さが低下して、HRC63以上の硬さを維持するのが難しくなる可能性が生じるので、高くても1.7%以下とするのが良い。なお、炭素量は、表面からの深さが深くなるにつれて低下していくが、上記した条件を満足するように浸炭処理することにより、表面から若干内部に入った部分についても十分な量の炭化物が析出し、かつ高硬度が維持できるので、優れた寿命を確保することができる。
また、浸炭し、最終仕上げ加工後において、炭素量が1.0%以上となる深さを0.3mm以上確保できるように浸炭処理することが望ましい。
表面硬さ:HRC63以上
表面硬さはクリーンな潤滑環境ではもとより、異物混入潤滑下でも重要な特性である。すなわち、転動軌道表面の硬さが高いほど、異物の噛み込みによる表面損傷は軽微になるからである。したがって、必要な残留オーステナイト量を確保できる範囲では、より硬いことが望ましく、その下限をHRC63とするのが良い。
圧縮残留応力:100MPa以上
圧縮残留応力は歯車などで表面強度を向上させることが知られており、本発明においても同様の効果が期待できるため、浸炭処理後の表面において100MPa以上とするのが良い。残留オ−ステナイトが多くなると圧縮の残留応力の値が低下するので、注意が必要である。なお、圧縮の残留応力は高くなっても特性が低下することはないので、特に上限は規定していない。但し、実際に得られる残留応力の上限は、500MPa程度である。
最大炭化物粒径:3.0μm以下
粗大な炭化物は残留オーステナイトによる硬さ低下を抑制する効果を損なうばかりでなく、疲労破壊の起点となったり、異物による表面からの亀裂の発生、進展を抑制する効果をも低下させるので、上限を3.0μmとするのが良い。
平均炭化物粒径:0.5μm以下
本発明においては、高炭素に浸炭された表面で、軟質な残留オーステナイトの存在による硬さ低下を抑制する必要がある。炭化物は微細分散することで塑性変形を生じる結晶中の格子欠陥の運動を阻害し、結果として硬さを向上させるため、その平均炭化物粒径を0.5μm以下とした。なお、平均炭化物粒径はより小さい方が好ましいことは勿論である。また、ここで言う炭化物とはセメンタイトの他にMC(VC)、M7C3、M23C6を含むことを付記する(後述の面積率の箇所も同様)。なお、浸炭処理前とは異なり、後工程での加熱による固溶を考慮する必要がないため、下限は規定していない。
全炭化物の面積率:9〜30%
平均炭化物粒径については前記したが、その炭化物量が少ないと結晶中の格子欠陥の運動を十分に阻害することができなくなり、残留オーステナイトによる硬さ低下を抑制することが困難となる。従って、硬さ向上効果を十分に得るためには、面積率で9%以上の炭化物を析出させることが必要である。しかしながら、炭化物が増加して面積率が上昇すると、炭化物の凝集、合体を含む粗大化が生じてくるため、高硬度を確保することが難しくなる。従って、面積率は9〜30%の範囲とするのが良い。
残留オーステナイト量:30〜50%
本発明では、潤滑油中の異物による表面破壊を遅延させるため、残留オーステナイト量は極めて重要である。これは転動軌道部において、異物を噛み込むことで生じた表面損傷部の応力集中を残留オーステナイトが緩和するためである。その効果を十分に現出させるためには、浸炭層の表面における残留オ−ステナイト量を30%以上とすることが必要である。しかしながら、軟質な残留オーステナイト量が多過ぎると微細炭化物による強化では、硬さの低下を十分に抑制できず、HRC63以上の高い硬さを得ることが難しくなるため、上限は50%とするのが良い。
なお、以上説明した各条件は、実際に実施し製造された製品が、本発明の範囲内かどうかの判断を容易にするため、浸炭層の表面における状態について規定したものである。しかしながら、表面が上記した範囲であれば、浸炭の影響が及んでいる若干内部に入った位置(例えば、表面から0.3mm程度の深さの位置)での組織、炭化物析出状態も、表面と比較して大きく変化するものではなく、表面と同様に多量の残留オ−ステナイトと微細炭化物を有しているものである。
次に、本発明鋼を用いて、転がり軸受用部品を製造する方法について説明する。
まず、請求項1で示した成分からなる圧延鋼材を準備し、これを適当な寸法に切断等した後、必要に応じ熱間鍛造等の加工方法によって粗形状に加工する。しかしながら、本発明鋼は請求の範囲でその成分を示しているように、高炭素鋼であり、そのままでは後述する加工が容易にできる加工性を有していないため、ここで球状化焼鈍処理が行われる。そして、本発明においては、この処理が大きなポイントであり、前記した通り必要なC量を添加した上で、Cr、Mo、V等の炭化物形成元素を適量添加された鋼を球状化焼鈍処理することによって、未固溶炭化物が多量に析出した(150万個/mm2以上)組織が得られる。なお、ここで言う球状化焼鈍処理とは、SUJ2等の従来の軸受鋼でも行われている球状化焼鈍処理で良く、本発明鋼の場合は、例えば温度780〜820℃に加熱し、5時間程度温度保持後その温度から700〜730℃までの範囲を約15℃/hrの速度で徐冷し、さらにこの温度で5時間程度保持し、さらに600〜680℃の温度まで約15℃/hrの速度で徐冷する等の条件で行うと、未固溶炭化物が多量に析出した組織を得ることができる。
従って、球状化焼鈍は、後工程における加工性向上のために行うことは勿論であるが、この処理によって未固溶炭化物が多量に析出した組織とすることが、発明の効果を大きく得るための重要なポイントである。
そして、球状化焼鈍後機械加工等によって最終形状に近い形状まで加工され、浸炭処理を行う。なお、ここでの浸炭処理は、前記した球状化焼鈍によって得られた鋼中の未固溶炭化物が固溶して消失しないように、比較的低温である850〜930℃の温度で処理する。この処理により、若干の炭化物は固溶して消失するものの、かなりの割合の炭化物がそのまま残存し、かつ浸炭によって表面から新たに侵入するCによって生成する炭化物が既に存在している炭化物を核として析出するため、浸炭処理後においても浸炭層に炭化物が微細かつ多量に析出した状態を得ることができる。
浸炭処理の最後に焼入が行われた後、焼もどし(150〜200℃程度)される。焼もどし後最終の仕上げ加工、研磨等が実施され、軌道輪、転動体等の転がり軸受用部品が製造される。
以下、この製造方法における各項目の最適条件について説明する。
浸炭温度:850〜930℃
本発明では、浸炭温度における未固溶炭化物を高炭素濃度での浸炭時の析出核として利用するため、浸炭温度が低いほど浸炭前に存在していた炭化物が固溶によって減少する割合が小さく、浸炭層の炭化物も粗大化し難くなるので有利ではある。しかし、一方で処理温度が低いと浸炭の拡散反応が遅くなり、長い処理時間が必要になって生産性が低下するとともに、低温ほど固溶炭素量が減少するので残留オーステナイト量が低下するという問題がある。そして、以上の問題を全て考慮すると、最適な処理温度は、850〜930℃の範囲となる。
カーボンポテンシャル:1.20〜1.50%
浸炭処理中のカーボンポテンシャルは、その値によって浸炭層の炭化物析出状態や残留オ−ステナイトの量に大きく影響するため、適切な範囲に調整する必要がある。下限を1.20%としたのは、これより低いと、鋼中に侵入する炭素量が減少して、残留オ−ステナイト量が減少するとともに、炭化物の析出量が減少するためであり、逆に1.50%を超えると、炭素の侵入量が増加して残留オ−ステナイト量が増加するとともに、炭化物が粗大化しやすくなるため、表面硬さが低下する。また、カーボンポテンシャルが高くなると、浸炭炉内にススが発生しやすくなり、浸炭不良や、設備不良の原因となるという問題がある。
以上説明したように、本発明鋼は適切な条件で製造することにより、表面浸炭層に多量の残留オ−ステナイトを有するにもかかわらず、HRC63以上の高い硬さを有する部品を製造可能となるため、異物混入下での使用でも優れた寿命を確保することが可能となる。
次に、本発明である転がり軸受用鋼及び部品の特徴を実施例を示すことにより説明する。
表1に以下の実施例で使用した供試鋼の化学成分を示す。
表1のうち、A〜H鋼は、本発明で規定した各成分の条件を満足する発明鋼であり、I〜O鋼は、一部の成分が、発明の範囲外となっている比較鋼、P、Q鋼は、従来鋼であり、P鋼はJISのSCr420、Q鋼は、JISの高炭素クロム軸受鋼SUJ2である。なお、表1において、Cu、Ni、Nは、請求項には記載していないが、不純物として含有していた値を示したものである。
Figure 0004413769
表1で示す供試鋼は、VIM溶解炉にて溶解し、得られた2ton鋼塊を1265℃×4hrの条件で均熱処理後、160mm角の鋼片とし、最後にφ32の丸棒に圧延して、以下の試験に使用した。
評価は、最終的に実部品を製造して異物混入下で寿命試験により評価する必要があるため、前記丸棒を用いて1100〜1200℃の温度で熱間鍛造することにより、型番6206の深溝玉軸受の内輪を製造して評価することとした。内輪を評価部品として選定したのは、内輪は、外周が転動軌道となるため、転動体(ボール)との接触が、凸形状同士となることから、接触面積が外輪より小さく、面圧が高くなるため、異物による表面損傷の加速評価に適していると判断したからである。
熱処理は、基本的に球状化焼鈍組織が得られる条件で実施し、一部の供試鋼について、処理条件の違いによる影響を明確にするため、低温焼鈍も同時に実施した。また、従来鋼SCr420については、焼ならし処理後の結果を示した。熱処理後の硬さ(内輪切断断面で測定)の測定結果を表2に示す。なお、熱処理の詳細条件は、表2に示した通りである。
Figure 0004413769
表2に示す結果から明らかなように、本発明鋼は、Crを多量に添加しているため、Cr含有率が低い従来鋼と比較して、焼鈍により硬さが低下しにくいという特徴を有するが、球状化焼鈍組織となるよう前処理記号1で示す熱処理条件で球状化焼鈍処理することにより、大量生産での加工が可能となるHv250以下の硬さに低減することができる。また、比較として、前処理記号2に示す低温焼鈍処理も同時に行ったが、硬さは十分に低下しなかった。
次に、浸炭処理前の炭化物の析出状態について評価した結果について説明する。炭化物粒径と析出数の測定は、走査型電子顕微鏡を用いて10000倍に拡大した状態で観察及び複数の箇所で写真撮影した結果を整理したものである。結果を前記した表2に示す。
成分は、本発明の範囲内であるB、F鋼について、前処理記号2で示す低温焼鈍を行ったものは、球状化炭化物が非常に少なく、炭化物と確認できたものも、ほとんどが0.1μm以下の大きさのものであり、本発明で規定する析出物に比べ、著しく小さい析出物しか生成されていなかった。また、従来鋼P鋼は、炭素含有率が本発明鋼に比較して極端に低く、球状化した炭化物の存在は全く認められなかった。それに対し、前処理記号1で示す球状化焼鈍処理を行った供試材は、成分が本発明の範囲内であるかないかに関係なく、多量の析出物が微細に析出した状態が得られていた。
次に、熱間鍛造し、球状化焼鈍等の熱処理を行って製造した内輪の粗加工材に対し、さらに高炭素濃度の浸炭焼入及び焼もどし処理を施し、仕上げ加工を行って、硬さ(表面及び内部)、表面炭素量、残留オ−ステナイト量、炭化物の析出状態(表面と内部)について評価した。
表面炭素量は、浸炭後、仕上げ加工を施した内輪のボール溝部において、EPMAにより測定し、表面の残留オ−ステナイト量、残留応力も同様にボール溝部にて測定した。
表面の硬さ、炭化物量、炭化物粒径については、EPMAにて測定した表面炭素量と同一炭素量となる位置まで、同じ内輪の端面を仕上げ加工し、その表面部について測定した。炭化物の析出状態の測定は、前記評価と同様に走査型電子顕微鏡により10000倍に拡大した状態で観察し、かつ同時に複数の箇所を写真撮影した結果を整理する方法で実施した。
また、上記した方法で製造された内輪を用い、表3に示す条件で、異物混入下での転動寿命試験も同時に実施した。結果を表4に示す。
Figure 0004413769
Figure 0004413769
表4から明らかなように、いずれかの成分が本発明の範囲外である比較鋼の球状化焼鈍材に高濃度浸炭処理を施したものは、浸炭処理前における炭化物析出状態での比較では、本発明鋼と明確な差異はみられなかったものの、浸炭処理後においては、表面硬さ、炭化物の析出状態、得られる寿命において大きな差異が生じることが明らかとなった。
まず、I鋼は、炭素含有率が低いため、浸炭温度に加熱した際の炭化物量が減少(未浸炭部の未固溶炭化物量から推定可能)し、浸炭時の炭化物の析出核が減少して炭化物が粗大化して、表面硬さが低下し、寿命が低下する。
J鋼は、Mn含有率が高いため、浸炭加熱時の炭化物の固溶温度が低下し、I鋼と同様に析出核の数が減少し、表面硬さ、寿命が低下したものである。
K鋼は、Cr含有率が低いため、浸炭処理後におけるM7C3、M23C6炭化物の析出が減少し、炭化物の大部分がセメンタイトになるとともに、粗大化するため、炭化物による硬さ向上効果が低下して表面硬さが低下し、転動寿命が劣るものである。
L〜N鋼は、炭化物形成元素であるCr、Mo、Vのいずれかが高いため、粗大な共晶炭化物が生成、点在して、炭化物の最大径が大きくなり、この共晶炭化物が原因となって転動寿命が低下したものである。また、N鋼は、前記理由のほかにV含有率が多いことから、0.1μm以下の微細なVC系炭化物が増加した影響でマトリックス中の炭素含有率が低下し、その結果残留オ−ステナイト量が減少したことも、転動寿命が低下した原因になっていると考えられる。
O鋼は、C含有率が高いため、L〜N鋼と同様に共晶炭化物が生成、点在するとともに、炭化物が粗大化して平均粒径も大きくなったため、表面硬さが低下し、転動寿命が低下したものである。
また、成分は本発明の範囲内であるが、球状化焼鈍ではなく、前処理記号2で示す低温焼鈍処理を行ったもの(試験No.24、25)は、浸炭処理前の時点で生成している炭化物が微細すぎるため、浸炭時の加熱で固溶消失する炭化物の割合が多く、結果としてマトリックスの炭素量が増加して残留オ−ステナイトが増加したものである。また、浸炭時に炭化物の析出核がほとんどない状態となるため、浸炭後に生成される炭化物の個数が減少かつ粗大化し、表面硬さが低下して、転動寿命が低下したものである。
さらに、用いた鋼の成分及び浸炭処理前の組織、炭化物の析出状態は発明鋼の範囲内であるが、前記した最適浸炭温度に比較して、高温で浸炭処理した比較例である試験No.26、27は、浸炭前に析出していた炭化物の固溶が進み、析出核が少ない状態での浸炭処理となったため、試験No.24、25と同様に炭化物の粗大化を招き、表面硬さが低下して寿命が低下したものである。
試験No.28は、従来から浸炭して軸受部品に使用されているSCr420の実施例であるが、カーボンポテンシャルが1.3%の高炭素濃度の浸炭を行っても生成する炭化物が不足し、内部硬さも低く寿命が大きく劣るものであり、試験No.29は、従来鋼である高炭素クロム軸受鋼SUJ2に、同様に高炭素濃度の浸炭処理をしたもの、No.30は通常行われる焼入処理を行ったものであるが、いずれも炭化物の量が不足かつ残留オ−ステナイト量が少ないため、寿命が劣るものである。
以上説明した比較例、従来例に対し、本発明鋼であるA〜H鋼の球状化焼鈍材に対し、処理記号1〜3に示す高炭素濃度(カーボンポテンシャル1.3%)の浸炭処理を行ったものは、全て狙いとする炭化物が多量に分散した状態となっており、残留オ−ステナイト量を30%以上有しているにもかかわらず、HRC63以上の表面硬さを確保でき、異物混入下での転動寿命も従来鋼であるSUJ2を高濃度浸炭処理したものと比較して2倍超の、優れた寿命を示すことが確認できた。
以上説明したように、異物が混入する環境下で使用する軸受部品の寿命向上を実現するためには、Cr、Mo、V等の炭化物形成元素と、Cの含有率を最適化した鋼を用い、浸炭処理前に球状化焼鈍によって、後工程の浸炭加熱時に固溶せず、残存するために適当な大きさの炭化物が多量に析出した状態とすることが、まず重要である。そして、得られた鋼材をカーボンポテンシャル1.2%以上の高炭素濃度の浸炭処理を比較的低温(850〜930℃)で実施することによって、表面浸炭層に高硬度の炭化物(VC、M7C3、M23C6等)が多量に析出した状態とすることにより、異物への抵抗性を高めるため、残留オ−ステナイトを多量に含む組織であっても、HRC63以上の高硬度を確保可能としたことが、転動寿命向上を可能とするための重要なポイントである。
本発明は、以上の構成としたことにより、異物混入潤滑下での使用であっても、従来鋼であるSUJ2を高炭素濃度浸炭処理した場合と比較して、寿命を2倍超に延長することができ、その結果軸受をシールすることなしに、高寿命を維持することが可能となり、関係する産業への貢献は極めて大きいものである。

Claims (1)

  1. 浸炭層表面の炭素量が1.2%以上となる高濃度浸炭を行って用いられる転がり軸受用鋼であって、
    質量%で、C:0.70超〜0.90%、Si:0.70%以下、Mn:0.70%以下、Cr:3.20〜5.00%未満、Al:0.040%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ti:0.0050%以下、O:0.0015%以下と、Mo:1.00%未満、V:0.50%未満の1種又は2種を含有し、残部がFe及び不純物元素からなり、
    硬さがHv250以下である球状化焼鈍組織を有し、
    鋼中に存在する未固溶炭化物の平均粒径が0.1〜0.5μmであり、0.1μm以上の大きさの炭化物の析出数が1500000個/mm2以上であることを特徴とする転がり軸受用鋼。
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