JP6225613B2 - 肌焼鋼鋼材 - Google Patents
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残部がFeおよび不純物とからなり、
不純物中のP、TiおよびO(酸素)がそれぞれ、P:0.020%以下、Ti:0.005%以下およびO:0.0020%以下であり、
さらに、下記の(1)式および(2)式で表されるfn1およびfn2がそれぞれ、5.0≦fn1≦12.0および1.85≦fn2≦2.14であることを特徴とする肌焼鋼鋼材。
fn1=Cr/Si・・・(1)
fn2=Cr+Si・・・(2)
上記の(1)式および(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
Cは、歯車やシャフトの芯部強度確保のために必須の元素であり、0.10%以上の含有量が必要である。しかしながら、Cの含有量が多すぎると硬さが大きくなって被削性の低下を招き、特に、その含有量が0.24%を超えると、硬さ上昇に伴う被削性の低下が著しくなる。したがって、Cの含有量を0.10〜0.24%とした。
Siは、焼入性を向上させる作用および脱酸作用を有する。また、Siは焼戻し軟化抵抗を確保するのに有効で、歯車などの摺動表面が高温にさらされた状況下において、表面の軟化を防ぐ効果がある。これらの効果を得るには、0.16%以上のSiを含有する必要がある。しかしながら一方、Siは酸化性の元素であるため、その含有量が多くなると、浸炭ガス中に含まれる微量のH2OまたはCO2によってSiが選択酸化され、鋼表面にSi酸化物が生成されるため、浸炭異常層である粒界酸化層および不完全焼入層の深さが大きくなる。そして、浸炭異常層の深さが大きくなると、曲げ疲労強度の低下を招く。また、Siの含有量が多すぎると、焼戻し軟化抵抗を確保する効果が飽和するだけでなく、浸炭性を阻害する。特に、Siの含有量が0.34%を超えると、浸炭異常層の深さ増大および浸炭性の阻害による表面硬さ低下により曲げ疲労強度の低下が著しくなる。さらに、Siの含有量が多すぎると、硬さの上昇を招き、被削性が低下する。したがって、Siの含有量を0.16〜0.34%とした。
Mnは、焼入性を向上させる作用および脱酸作用を有する。これらの効果を得るには、0.50%以上のMn含有量が必要である。しかしながら、Mnの含有量が多くなると、硬さが大きくなって被削性の低下を招き、特に、その含有量が0.90%を超えると、硬さ上昇に伴う被削性の低下が著しくなる。したがって、Mnの含有量を0.50〜0.90%とした。なお、Mnの含有量は、下限を0.55%、上限を0.88%とすることが好ましい。
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を向上させる作用がある。この効果を得るには、0.005%以上のSを含有させる必要がある。しかしながら、Sの含有量が0.050%を超えると、粗大なMnSを形成して、熱間加工性、冷間鍛造性、曲げ疲労強度が低下する。したがって、Sの含有量を0.005〜0.050%とした。
Crは、焼入性を向上させる効果と焼戻し軟化抵抗を向上させる効果を有し、歯車やシャフトの摺動表面が高温にさらされた状況下において、表面の軟化を防ぐ効果がある。この効果を得るには、1.66%を超えるCr含有量が必要である。しかしながら、Crの含有量が多くなると、硬さが大きくなって被削性の低下を招き、特に、その含有量が1.98%を超えると、硬さ上昇に伴う被削性の低下が著しくなる。しかも、Siと同様にCrは酸化性の元素であるため、その含有量が多くなると、浸炭異常層である粒界酸化層および不完全焼入層の深さが大きくなる。そして、浸炭異常層の深さが大きくなると、曲げ疲労強度の低下を招き、特に、Crの含有量が1.98%を超えると、浸炭異常層の深さ増大による曲げ疲労強度の低下が著しくなる。さらに、その含有量が高くなると浸炭焼入後の表層に、粒界に沿った炭化物が生成しやすくなり、ピッチング強度が低下する。したがって、Crの含有量を1.66〜1.98%とした。なお、Crの含有量は、下限を1.70%、上限を1.95%とすることが好ましい。
Alは、脱酸作用を有する。また、Alには、Nと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化して鋼を強化する作用もある。しかしながら、Alの含有量が0.020%未満では、前記の効果を得難い。一方、Alの含有量が過剰になると、硬質で粗大なAl2O3形成による被削性の低下をきたし、さらに、曲げ疲労強度も低下する。特に、Alの含有量が0.060%を超えると、被削性、曲げ疲労強度の低下が著しくなる。したがって、Alの含有量を0.020〜0.060%とした。なお、Alの含有量は、下限を0.025%、上限を0.050%とすることが好ましい。
Nは、窒化物を形成することにより結晶粒を微細化させ、曲げ疲労強度を向上させる効果を有する。この効果を得るには、Nを0.0130%以上含有する必要がある。しかしながら、Nの含有量が過剰になると、粗大な窒化物を形成して靱性の低下および冷間鍛造性の低下を招き、特に、その含有量が0.0200%を超えると、靱性の低下および冷間鍛造性の低下が著しくなる。したがって、Nの含有量を0.0130〜0.0200%とした。なお、N含有量の上限は、0.0180%とすることが好ましい。
Pは、鋼に含有される不純物であり、結晶粒界に偏析して鋼を脆化させる。特に、その含有量が0.020%を超えると、脆化の程度が著しくなる。したがって、不純物中のPの含有量を0.020%以下とした。なお、不純物中のP含有量の上限は、0.015%とすることが好ましい。
Tiは、Nとの親和性が高いので、鋼中のNと結合して硬質で粗大な非金属介在物であるTiNを形成し、曲げ疲労強度を低下させ、さらに、被削性も低下させる。したがって、不純物中のTiの含有量を0.005%以下とした。
O(酸素)は、鋼中のSiやAlと結合して、酸化物を生成する。酸化物のうちでも、特に、Al2O3は硬質であるため、被削性を低下させ、さらに、曲げ疲労強度の低下も招く。したがって、不純物中のOの含有量を0.0020%以下とした。なお、不純物中のO含有量の上限は、0.0015%とすることが好ましい。
本発明に係る肌焼鋼鋼材は、
fn1=Cr/Si・・・(1)
で表されるfn1が、5.0〜12.0の範囲内でなければならない。
本発明に係る肌焼鋼鋼材は、
fn2=Cr+Si・・・(2)
で表されるfn2が、1.85〜2.14の範囲内でなければならない。
Cuは、焼入性を高める作用を有するので、さらなる焼入性向上のために含有させてもよい。しかしながら、Cuは高価な元素であるとともに、含有量が多くなると熱間加工性の低下を招き、特に、0.20%を超えると、熱間加工性の低下が著しくなる。したがって、含有させる場合のCuの量を0.20%以下とした。なお、Cuの量は、0.15%以下とすることが好ましい。
Niは、焼入性を高める作用を有する。Niには、靱性を向上させる作用があり、非酸化性の元素であるため、浸炭時に粒界酸化層の深さを増大させずに鋼表面を強靱化することもできる。このため、これらの効果を得るためにNiを含有させてもよい。しかしながら、Niは高価な元素であり、過度の添加は成分コストの上昇につながり、特に、Niの含有量が0.20%を超えると、コスト上昇が大きくなる。したがって、含有させる場合のNiの量を0.20%以下とした。
Moは、焼入性を高める作用を有し、浸炭焼入後の表面硬さ、硬化層深さおよび芯部硬さを向上させて、浸炭部品の強度を確保する効果がある。しかも、Moは、非酸化性の元素であるため、浸炭時に粒界酸化層の深さを増大させずに鋼表面を強靱化することができる。しかしながら、Moは高価な元素であり、過度の添加は成分コストの上昇につながり、特に、Moの含有量が0.15%を超えると、コスト上昇が大きくなる。したがって、含有させる場合のMoの量を0.15%以下とした。なお、Moの量は、0.14%以下とすることが好ましい。
Vは、CおよびNと結合して微細な炭化物、窒化物や炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、曲げ疲労強度および耐摩耗性を向上させる効果を有する。しかしながら、Vの含有量が過剰になると熱間延性の低下を招き、特に、その含有量が0.20%を超えると、熱間延性の低下が著しくなって、熱間圧延や熱間鍛造時に表面キズが発生しやすくなる。したがって、含有させる場合のVの量を0.20%以下とした。なお、Vの量は、0.10%以下とすることが好ましい。
Nbは、CおよびNと結合して微細な炭化物、窒化物や炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、曲げ疲労強度および耐摩耗性を向上させる効果を有する。しかしながら、Nbの含有量が過剰になると熱間延性の低下を招き、特に、その含有量が0.060%を超えると、熱間延性の低下が著しくなって、熱間圧延や熱間鍛造時に表面キズが発生しやすくなる。したがって、含有させる場合のNbの量を0.060%以下とした。なお、Nbの量は、0.050%以下とすることが好ましい。
浸炭焼入−焼戻し処理した切欠付き小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、その直径8mmの切欠部を横断し、切断面が被検面になるように樹脂に埋め込んだ後、前記面が鏡面仕上げになるように研磨し、マイクロビッカース硬度計を使用して表面硬さを調査した。
浸炭焼入−焼戻し処理しただけで上記<1>の表面硬さの調査に用いた各樹脂埋めした試験片を使用して、有効硬化層深さの調査を行った。
前記<1>および<2>で用いた樹脂埋めした切欠付き小野式回転曲げ疲労試験片を使用して、粒界酸化層深さおよび不完全焼入層深さの調査を行った。
前記<1>および<2>で用いた樹脂埋めした小ローラー試験片を使用して、表層炭化物の調査を行った。
切欠付き小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、下記の試験条件によって小野式回転曲げ疲労試験を実施し、繰返し数が107回において破断しない最大の強度で曲げ疲労強度を評価した。
・雰囲気:大気中、
・回転数:3000rpm。
小ローラー試験片および大ローラー試験片を用いて、下記の試験条件でローラーピッチング試験(耐ピッチング特性調査)を実施した。すなわち、小ローラー試験片および大ローラー試験片を接触させた状態で回転させ、接触部には下記の潤滑油を噴き付けた。繰り返し数107回において、小ローラー試験片表面に幅が1mm以上のピッチングが発生しない最大の強度でピッチング強度を評価した。ピッチング強度がJIS G 4052(2008)に規定されたSCM420Hに相当する鋼である鋼13と同じ程度あるいはそれを上回る場合に、耐ピッチング性に優れるものとした。
・小ローラー試験片の回転数:1500rpm、
・潤滑油:種類:オートマチックトランスミッション用潤滑油、
油温:100℃、
油量:2.0リットル/分。
{(V2−V1)/V1}×100。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.10〜0.24%、Si:0.16〜0.34%、Mn:0.50〜0.90%、S:0.005〜0.050%、Cr:1.66〜1.98%、Al:0.020〜0.060%およびN:0.0130〜0.0200%と、
残部がFeおよび不純物とからなり、
不純物中のP、TiおよびO(酸素)がそれぞれ、P:0.020%以下、Ti:0.005%以下およびO:0.0020%以下であり、
さらに、下記の(1)式および(2)式で表されるfn1およびfn2がそれぞれ、5.4≦fn1≦9.9(但し、7.6および8.5を除く。)および1.85≦fn2≦2.14であることを特徴とする肌焼鋼鋼材。
fn1=Cr/Si・・・(1)
fn2=Cr+Si・・・(2)
上記の(1)式および(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。 - Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、Mo:0.15%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の肌焼鋼鋼材。
- Feの一部に代えて、質量%で、V:0.20%以下およびNb:0.060%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の肌焼鋼鋼材。
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