JP3855418B2 - 軟窒化用鋼材の製造方法及びその鋼材を用いた軟窒化部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟窒化用鋼材の製造方法及びその鋼材を用いた軟窒化部品に関し、より詳しくは耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性や耐スポーリング性に優れた軟窒化部品と、その軟窒化部品の素材となる被削性に優れた軟窒化用鋼材の製造方法に関する。(なお、繰り返し面圧の負荷により、材料表面が剥離する疲労現象のうち、剥離が比較的小さいものを「ピッチング」、剥離が比較的大きなものを「スポーリング」と呼ぶことが多いので、本明細書においてもこれにならった。)
【0002】
【従来の技術】
自動車や産業機械に使用される多くの部品、例えば歯車や軸受などには、一般に大きな疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため前記部品は、所謂「表面硬化処理」を施して製造されてきた。
【0003】
表面硬化処理としては一般に、浸炭焼入れ、高周波焼入れ、炎焼入れ、窒化や軟窒化などの処理が知られている。このうち、浸炭焼入れ、高周波焼入れや炎焼入れといったオーステナイト状態の高温域から急冷(焼入れ)して表面を硬化させる処理では、部品に大きな焼入れ歪が生じてしまう。更に、場合によっては焼入れした部品に焼割れが生ずることもある。
【0004】
このため、所要部品に対して特に低歪であることが要求される場合には、窒化や軟窒化処理が施されている。
【0005】
しかし、一般の窒化処理は、アンモニアの気流中で500〜550℃に20〜100時間加熱後徐冷する所謂「ガス窒化」処理であるため生産性が低くコストが嵩む。このため、窒化温度が550℃前後の液体窒化法が開発されているが、この方法の場合にも窒化には12時間程度を要するので、必ずしも量産部品を低コストで効率よく製造するのに適した方法とは言えない。イオン窒化法によれば短時間で窒化が可能ではあるが、温度測定が困難なことや、陰極となる被処理部品の配置や形状、質量などによって温度や窒化層が不安定になったりするので、この方法もやはり量産部品の製造に適しているとは言い難い。
【0006】
一方、軟窒化処理は、570℃程度の温度のシアン系化合物の塩浴、又はRXガス(RXガスは吸熱型変成ガスの商標)にアンモニアを添加したガス中に保持することにより、鋼材表面からN(窒素)とO(酸素)を鋼中に侵入させて表層部を硬化させる方法で、短時間処理が可能である。このうち前者のシアン系化合物の塩浴を用いる方法は、廃液の処理にコストが嵩むため、後者のガスを用いる「ガス軟窒化法」が、低歪が要求される量産品に適した表面硬化処理方法として重用されている。
【0007】
従来、軟窒化用鋼としては、例えば、JIS G 4105に規定されているクロムモリブデン鋼鋼材(SCM435など)やJIS G 4202のアルミニウムクロムモリブデン鋼鋼材(SACM645)が多く使用されてきた。
【0008】
しかし、SCM435を初めとするJISに規定されたクロムモリブデン鋼鋼材を素材鋼とした部品の場合、軟窒化処理後の表面からビッカース硬度(Hv)500の位置までの距離(以下、「有効硬化深さ」という)は0.05mm程度と小さい。更に、表面から0.025mmの位置におけるマイクロビッカース硬度(以下、「表面硬度」という)もHv600以上にならない場合が多い。このため、疲労強度や耐摩耗性の点で充分に満足できるものではなかった。
【0009】
一方、上記の欠点を改良するためにSACM645には窒化特性向上元素であるAl及びCrが多量に添加されている。しかし、SACM645を素材鋼とした場合も、軟窒化処理によって表面硬度はHvで800〜1100と非常に高くなるものの、有効硬化深さは0.08mm程度と小さい。したがって、表面部から芯部(以下、軟窒化処理後の表面硬化されていない部分を「芯部」という)への硬度勾配が急激になりすぎる。そのため、高負荷の下で運転される歯車や軸受などでは、表面硬化部と芯部の境界付近から剥離現象が起きやすく、耐ピッチング性あるいは耐スポ−リング性が劣っていた。更に、SACM645は溶製、鋳造、熱間加工が比較的困難であるし、冷間加工性が悪く複雑な形状の部品にはプレス成形が難しいという問題もあった。
【0010】
特開昭58−71357号公報には、JIS規格鋼の問題点を解決した「軟窒化用鋼」が開示されている。この公報で提案された鋼を素材鋼として用いれば、確かに疲労強度、耐摩耗性に優れると共に耐ピッチング性、耐スポーリング性にも優れた軟窒化部品を得ることは可能である。しかし、Siなどの強化に有効な元素の含有量を低減して冷間加工性を向上させた鋼であるため、軟窒化によって表面部は硬化するものの、逆に芯部は軟窒化時の加熱で軟化するので、軟窒化後に芯部硬度が低くなりすぎて疲労特性が劣化する場合もあった。
【0011】
更に、JIS規格鋼であるSCM435などのクロムモリブデン鋼やアルミニウムクロムモリブデン鋼のSACM645及び上記の特開昭58−71357号公報で提案された鋼の場合には被削性が劣るため、これを熱間鍛造や冷間鍛造した後に所望の軟窒化部品の形状に成形するための切削加工のコストが嵩んでしまう。このため、切削加工を容易にし、低コスト化を図るために被削性に優れた軟窒化用鋼材に対する要求がますます大きくなっている。
【0012】
従来、被削性を高めるために、鋼にPb、Te、Bi、Ca及びSなどの快削元素を単独あるいは複合添加することが行われてきた。しかし、前記したJIS規格鋼や特開昭58−71357号公報で提案された鋼に、単に上記の快削元素を添加しただけの場合には、所望の機械的性質、なかでも疲労強度を確保できないことが多い。
【0013】
鉄と鋼(vol.57(1971年)S484)には、脱酸調整快削鋼にTiを添加すれば被削性が高まる場合のあることが報告されている。しかし、Tiの多量の添加はTiNが多量に生成されることもあって工具摩耗を増大させ、被削性の点からは好ましくないことも述べられている。例えば、C:0.45%、Si:0.29%、Mn:0.78%、P:0.017%、S:0.041%、Al:0.006%、N:0.0087%、Ti:0.228%、O:0.004%及びCa:0.001%を含有する鋼では却ってドリル寿命が低下して被削性が劣っている。このように、鋼に単にTiを添加するだけでは被削性は向上するものではない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みなされたもので、被削性と冷間加工性に優れた鋼を素材とし、冷間加工後に軟窒化処理するだけで優れた疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性や耐スポーリング性を呈する軟窒化部品を提供することを課題とする。更に、本発明は、上記軟窒化部品の素材となる被削性に優れた軟窒化用鋼材の製造方法を提供することも課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)に示す軟窒化用鋼材の製造方法及び(2)に示すその鋼材を用いた軟窒化部品にある。
【0016】
(1)重量%で、C:0.15〜0.45%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜2.5%、S:0.002〜0.2%、Cu:0.5〜1.5%、Ni:0.25〜0.75%で、且つ1.8≦Cu(%)/Ni(%)≦2.2、Cr:0.5〜2%、V:0.05〜0.5%、Ti:0.04〜1.0%、Al:0.01〜0.3%、N:0.008%以下、Mo:0〜0.3%、W:0〜0.5%、Pb:0〜0.35%、Ca:0〜0.01%、残部はFe及び不可避不純物からなる化学組成で、鋼中のTi炭硫化物の最大直径が10μm以下で、且つ、その量がJIS G 0555 に規定される清浄度で0.05%以上である鋼を、熱間加工後に球状化焼鈍して硬度をHv180以下とし、次いで冷間加工して硬度をHv250以上にすることを特徴とする被削性に優れた軟窒化用鋼材の製造方法。
【0017】
(2)素材が上記(1)に記載の方法で製造された軟窒化用鋼材であり、軟窒化後の表面硬度がHv600以上、且つ、有効硬化深さが0.1mm以上であることを特徴とする軟窒化部品。
【0018】
なお、本発明でいう「Ti炭硫化物」には単なるTi硫化物をも含むものとする。又、「(Tiの炭硫化物の)最大直径」とは「個々のTiの炭硫化物における最も長い径」のことを指す。Ti炭硫化物の清浄度は、光学顕微鏡の倍率を400倍として、JIS G 0555に規定された「鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法」によって60視野測定した値をいう。
【0019】
以下において、上記(1)、(2)に記載のものをそれぞれ(1)の発明、(2)の発明という。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、軟窒化部品の素材となる鋼材の化学組成、並びに各製造工程における適正なミクロ組織や機械的性質に関して調査・研究を行った。その結果、次の知見を得るに到った。
【0021】
(a)軟窒化部品の耐疲労特性や耐ピッチング性を向上させるには、いずれも表面硬度と有効硬化深さを大きくすれば良い。又、耐摩耗性を向上させるには、表面硬度を大きくすれば良い。一方、耐スポーリング性を向上させるには、有効硬化深さを大きくすれば良い。
【0022】
(b)軟窒化処理を施し、表面硬度をHv600以上、有効硬化深さを0.1mm以上とすれば、軟窒化部品の耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性及び耐スポーリング性を著しく高めることができる。
【0023】
(c)軟窒化後の芯部硬度がHv250以上であれば、例えば、自動車のミッションギアのように高い負荷が加わる部品においても、部品内部を起点として曲げ疲労が生ずることはない。
【0024】
(d)鋼材を球状化焼鈍して硬度をHv180以下に低下させれば、冷間加工性が向上して金型寿命を大幅に改善できる。
【0025】
(e)適正量のCuとNiとを含有する鋼材を球状化焼鈍して硬度をHv180以下にし、冷間鍛造による加工硬化で硬度をHv250以上に上昇させれば、次に軟窒化処理を施しても、軟窒化時の加熱で軟化して芯部硬度が低下することはない。すなわち、芯部硬度を軟窒化前の値に維持、あるいは更に高めることができる。このため、軟窒化部品にはHv250以上の高い芯部硬度が安定して確保できるので、耐疲労特性、なかでも耐曲げ疲労特性が大きく向上する。
【0026】
なお、特に断らない限り、軟窒化する前の状態(例えば球状化焼鈍後、冷間加工後)の硬度とは、軟窒化後の芯部に相当する部分(例えば「中心部」)の硬度のことをいう。
【0027】
(f)上記の(a)〜(e)から、優れた冷間加工性を有する鋼を素材鋼とし、これに冷間加工を施して加工硬化により充分な硬度を確保し、次に軟窒化して硬く深い窒化層を形成させるが、この軟窒化のための加熱で前記の加工硬化による硬度(すなわち芯部硬度)を維持あるいは更に上昇できれば、軟窒化部品に大きな耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性及び耐スポーリング性を付与できる。
【0028】
(g)鋼に適正量のTiを添加し、鋼中の介在物制御として硫化物をTi炭硫化物に変え、上記Ti炭硫化物を微細に分散させれば、鋼材の被削性が飛躍的に向上する。
そこで、更に研究を続けた結果、下記の事項を見いだした。
【0029】
(h)Sとのバランスを考慮して鋼にTiを積極的に添加して行くと、鋼中にTi炭硫化物が形成される。
【0030】
(i)鋼中に上記のTi炭硫化物が生成すると、MnSの生成量が減少する。
【0031】
(j)鋼中のS含有量が同じ場合には、Ti炭硫化物はMnSよりも大きな被削性改善効果を有する。これは、Ti炭硫化物の融点がMnSのそれよりも低いため、切削加工時に工具のすくい面での潤滑作用が大きくなることに基づく。
【0032】
(k)Ti炭硫化物の効果を充分発揮させるためには、N含有量を低く制限することが重要である。これは、N含有量が多いとTiNとしてTiが固定されてしまい、Ti炭硫化物の生成が抑制されてしまうためである。
【0033】
(l)製鋼時に生成したTi炭硫化物は、通常の熱間加工のための加熱温度及び焼準における通常の加熱温度では基地に固溶しない。したがって、オーステナイト領域において所謂「ピン止め作用」が発揮されるので、オーステナイト粒の粗大化防止に有効である。勿論、Ti炭硫化物は軟窒化処理の加熱温度でも基地に固溶しない。
【0034】
(m)Ti炭硫化物によって被削性を高めるとともに大きな強度、特に、大きな疲労強度を確保するためには、Ti炭硫化物のサイズと、その清浄度で表される量(以下、単に「清浄度」という)を適正化しておくことが重要である。
【0035】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0036】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、成分含有量の「%」は「重量%」を意味する。
【0037】
(A)素材鋼の化学組成
C:0.15〜0.45%
Cは、SとともにTiと結合してTiの炭硫化物を形成し、被削性を高める作用を有する。更に、Cは、静的強度を確保するのにも有効な元素である。しかし、その含有量が0.15%未満では所望の静的強度(冷間加工後に軟窒化処理した後の芯部硬度、すなわち最終製品である軟窒化部品の芯部硬度としてHv250以上)が確保できない。一方、0.45%を超えると芯部の延性、靭性の低下をきたすとともに、冷間加工性を劣化させてしまう。更に、軟窒化後の表面硬度及び硬化深さが却って減少するようになる。したがって、Cの含有量を0.15〜0.45%とした。
【0038】
Si:0.05〜0.5%
Siは、鋼の焼入れ性を高めるとともに静的強度を向上させる作用を有する。しかし、その含有量が0.05%未満では、前記した所望の静的強度が確保できない。一方、0.5%を超えると靭性の劣化を招いて、冷間加工性に悪影響を及ぼす。したがって、Siの含有量を0.05〜0.5%とした。
【0039】
Mn:0.2〜2.5%
Mnは、焼入れ性の向上と芯部強度の確保に有効な元素である。しかし、その含有量が0.2%未満では添加効果に乏しく、一方、2.5%を超えて含有させると偏析を生じて冷間加工性の劣化をもたらす。したがって、Mnの含有量を0.2〜2.5%とした。なお、Mnの含有量は0.5〜1.5%とすることが好ましい。
【0040】
S :0.002〜0.2%
SはCとともにTiと結合してTiの炭硫化物を形成し、被削性を高める作用を有する。しかし、その含有量が0.002%未満では所望の効果が得られない。
【0041】
従来、快削鋼にSを添加する目的は、MnSを形成させて被削性を改善させることにあった。しかし、本発明者らの検討によると、上記のMnSの被削性向上作用は、切削時の切り屑と工具表面との潤滑性を高める機能に基づくことが判明した。しかもMnSは巨大化し、鋼材本体の地疵を大きくし、欠陥となる場合がある。本発明におけるSの被削性改善作用は、適正量のCとTiとの複合添加によってTi炭硫化物を形成させることで初めて得られる。このためには、上記したように0.002%以上のSの含有量が必要である。一方、Sを0.2%を超えて含有させても被削性に与える効果に変化はないが、鋼中に粗大なMnSが再び生じるようになり、地疵等の問題が生じる。更に、熱間での加工性が著しく劣化し熱間での塑性加工が困難になるし、靭性が低下することもある。したがって、Sの含有量を0.002〜0.2%とした。Sの好ましい含有量は0.004〜0.1%である。
【0042】
Cu:0.5〜1.5%
Cuは、本発明において重要な元素であって、軟窒化処理時に微細に析出して鋼を硬化させる作用を有する。このため被処理鋼材は、軟窒化のための加熱で軟化することがなく軟窒化前の硬度を維持でき、場合によっては逆に硬化する。前記のCuの効果は、特に、球状化焼鈍して硬度をHv180以下にし、冷間鍛造による加工効果で硬度をHv250以上に上昇させた鋼材において大きく発揮される。しかし、その含有量が0.5%未満では充分な量が微細析出しないので添加効果に乏しい。一方、1.5%を超えて含有させると前記の効果が飽和するばかりか熱間加工性の劣化をもたらす。したがって、Cu含有量を0.5〜1.5%とした。
【0043】
Ni:0.25〜0.75%
Niは、上記のCuを基地に完全に固溶させて、軟窒化処理に際しCuの析出硬化作用を充分発揮させる効果を有する。この作用は後述するCu(%)/Ni(%)の比が1.8〜2.2の場合に顕著である。しかし、Niの含有量が0.25%未満では添加効果に乏しく、0.75%を超えて含有させても前記の効果は飽和する。このため、Niの含有量を0.25〜0.75%とした。
【0044】
Cu(%)/Ni(%):1.8〜2.2
Cu(%)/Ni(%)の値が1.8〜2.2の場合に、適正量のCuとNiの複合添加によりCuが基地に完全に固溶して、軟窒化処理に際し析出硬化するCuの作用の発現が顕著となる。したがって、Cu(%)/Ni(%)の値を1.8〜2.2とした。なお、Cu(%)/Ni(%)の値は1.9〜2.1とすることが好ましい。
【0045】
Cr:0.5〜2%
Crは、軟窒化時に鋼材表面から侵入してくるNと結合して、表面硬度を高めるとともに硬化深さを大きくするのに極めて有効な元素である。しかし、その含有量が0.5%未満では上記の作用が期待できない。一方、Crを2%を超えて含有させると、軟窒化によって表面硬度が高くなりすぎるために、表面から芯部にかけての硬度勾配が急激なものとなってしまい、却って耐スポーリング性や耐ピッチング性が劣化してしまう。したがって、Crの含有量を0.5〜2%とした。
【0046】
V:0.05〜0.5%
Vは、軟窒化処理時に鋼材表面から侵入してくるN及びCと結合して微細なバナジウム炭窒化物として析出することにより、表面硬度を高め、更に、硬化深さを大きくする作用を有する。V添加鋼においては上記のCr添加の場合に比べて、表面硬度の上昇割合が小さいのに対して硬化深さの増大割合は極めて大きく、且つ前記炭窒化物が析出して芯部硬度を高めるため、硬化深さの大きい、表面から芯部への硬度勾配が緩やかな硬化曲線が得られる。しかし、V含有量が0.05%未満では添加効果に乏しく、一方、0.5%を超えて含有させても前記の効果が飽和してコストが嵩むばかりか、却って脆化現象の発現をきたすようになる。したがって、V含有量を0.05〜0.5%とした。なお、V含有量は0.1〜0.3%とすることが好ましい。
【0047】
Ti:0.04〜1.0%
Tiは、本発明において介在物を制御するための重要な合金元素である。その含有量が0.04%未満ではSを充分Ti炭硫化物に変えることができないので、被削性を高めることができない。一方、1.0%を超えて含有させても、被削性改善効果が飽和してコストが嵩むばかりか、靭性及び熱間加工性が著しく劣化してしまう。したがって、Ti含有量を0.04〜1.0%とした。なお、良好な被削性と靭性を安定して得るためには、Tiの含有量を0.06〜0.8%とすることが好ましい。
【0048】
Al:0.01〜0.3%
Alは、鋼の脱酸の安定化及び均質化を図る作用がある。更に、侵入Nと結合して表面硬度を高める効果を有する。しかし、その含有量が0.01%未満では上記の作用が期待できない。一方、0.3%を超えると硬化深さを小さくしてしまう。したがって、Alの含有量を0.01〜0.3%とした。なお、Al含有量は0.01〜0.15とすることが好ましい。
【0049】
N:0.008%以下
本発明においてはNの含有量を低く制御することが極めて重要である。すなわち、NはTiとの親和力が大きいために容易にTiと結合してTiNを生成し、Tiを固定してしまうので、Nを多量に含有する場合には前記したTiの炭硫化物の被削性向上効果が充分に発揮できないこととなる。更に、粗大なTiNは靭性及び被削性を低下させてしまう。したがって、N含有量を0.008%以下とした。なお、Ti炭硫化物の効果を高めるためにN含有量の上限は0.006%とすることが好ましい。
【0050】
Mo:0〜0.3%
Moは添加しなくても良い。添加すれば、鋼の焼入れ性を高めるとともに軟窒化時の芯部の軟化抵抗を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Moは0.02%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.3%を超えると前記効果が飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Moの含有量を0〜0.3%とした。
【0051】
W:0〜0.5%
Wは添加しなくても良い。添加すれば、鋼の焼入れ性を高めるとともに軟窒化時の芯部の軟化抵抗を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Wは0.05%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.5%を超えると前記効果が飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Wの含有量を0〜0.5%とした。
【0052】
Pb:0〜0.35%
Pbは添加しなくても良い。添加すれば、鋼の被削性を一段と高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Pbは0.03%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Pbを0.35%を超えて含有させると熱間加工性が劣化して熱間圧延や熱間鍛造などの熱間加工時に割れの発生を招くことが多くなる。したがって、Pbの含有量を0〜0.35%とした。
【0053】
Ca:0〜0.01%
Caは添加しなくても良い。添加すれば、鋼の被削性を一段と高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Caは0.001%以上の含有量とすることが好ましい。一方、Caを0.01%を超えて含有させるには特殊な溶製技術や設備を要してコストが嵩む。したがって、Caの含有量を0〜0.01%とした。
【0054】
(B)Ti炭硫化物のサイズと清浄度
上記の化学組成を有する鋼の被削性をTi炭硫化物によって高めるとともに大きな強度をも確保するためには、Ti炭硫化物のサイズと清浄度を適正化しておくことが重要である。
【0055】
Ti炭硫化物の最大粒径が10μmを超えると疲労強度が低下してしまう。なお、Ti炭硫化物の最大直径は7μm以下とすることが好ましい。このTi炭硫化物の最大直径が小さすぎると被削性向上効果が小さくなってしまうので、Ti炭硫化物の最大直径の下限値は0.5μm程度とすることが好ましい。
【0056】
最大直径が10μm以下のTi炭硫化物の量が清浄度で0.05%未満の場合には、Ti炭硫化物による被削性向上効果が発揮できない。前記の清浄度は0.08%以上とすることが好ましい。上記のTi炭硫化物の清浄度の値が大きすぎると疲労強度が低下する場合があるので、上記のTi炭硫化物の清浄度の上限値は2.0%程度とすることが好ましい。
【0057】
Ti炭硫化物のサイズと清浄度を前記の値とするためには、Tiの酸化物が過剰に生成することを防ぐことが重要である。このための製鋼法としては、例えば、Si及びAlで充分脱酸し、最後にTiを添加する方法がある。
【0058】
なお、Ti炭硫化物は、鋼材から採取した試験片を鏡面研磨し、その研磨面を被検面として倍率400倍以上で光学顕微鏡観察すれば、色と形状から容易に他の介在物と識別できる。すなわち、前記の条件で光学顕微鏡観察すれば、Ti炭硫化物の「色」は極めて薄い灰色で、「形状」はJISのB系介在物に相当する粒状(球状)として認められる。Ti炭硫化物の詳細判定は前記の被検面をEDX(エネルギ−分散型X線分析装置)などの分析機能を備えた顕微鏡で観察することによって行うこともできる。
【0059】
前記のTi炭硫化物の清浄度は、既に述べたように、光学顕微鏡の倍率を400倍として、JIS G 0555に規定された「鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法」によって60視野測定した値をいう。
【0060】
(C)球状化焼鈍
球状化焼鈍は前記(A)に示した化学組成と、上記(B)に示したTi炭硫化物のサイズと清浄度をもつ鋼材を、熱間加工(例えば熱間圧延や熱間鍛造など)した後に、その硬度を低下させて冷間加工性を高めるとともに、それによって金型寿命を大幅に改善し、最終製品である所要の軟窒化部品の製造コストを低く抑えるのに必須の処理である。
【0061】
球状化焼鈍後の硬度がHvで180を超えると、金型の寿命が大幅に低下してしまうため、最終製品である所望の軟窒化部品の製造コストが著しく高くなる。したがって、球状化焼鈍後の硬度はHv180以下としなければならない。なお、球状化焼鈍の硬度の下限値については、特に制限する必要はない。
【0062】
この球状化焼鈍は、通常の方法で行えば良い。
【0063】
(D)冷間加工
球状化焼鈍して硬度をHv180以下に調整した上記(C)の鋼材を、次に冷間加工して所望の軟窒化部品の粗形状に仕上げ、更に切削加工して所望の軟窒化部品の形状に仕上げる。勿論、精密冷間加工して切削加工せずに所望の軟窒化部品の形状に仕上げても良いし、球状化焼鈍後に冷間加工の前あるいは前後で切削加工を行って所望の軟窒化部品の形状に仕上げても良い。
【0064】
なお、(1)の発明にかかわる「軟窒化用鋼材」とは、前記冷間加工と切削加工(あるいは精密冷間加工)によって所望形状に成形されたもののことで、軟窒化される前のものをいう。
【0065】
上記の冷間加工は、例えば、冷間鍛造、冷間転造や冷間引き抜きなど、通常の方法で行えば良いが、加工した部品の硬度をHv250以上にする必要がある。なぜならば、硬度をHv180以下に調整された上記(C)の鋼材は、冷間での加工を受けて硬度がHv250以上に上昇すれば、これに軟窒化処理を施しても芯部硬度は低下せず軟窒化前の硬度が維持でき、あるいは軟窒化前の硬度を高めることさえできるからである。
【0066】
軟窒化後の芯部硬度がHv250以上であれば、既に述べたように、例えば、自動車のミッションギアのように高い負荷が加わる部品においても、部品内部を起点として曲げ疲労を生ずることはない。
【0067】
上記(C)に示した球状化焼鈍して硬度をHv180以下に調整した鋼材を冷間加工して、硬度をHv250以上とするには、減面率で20%以上の加工が加わるように寸法調整しておけば良い。
【0068】
なお、冷間加工後の硬度の上限値は特に制限する必要はない。すなわち、設備上加えることが可能な最高の減面率で加工して、極めて大きな硬度となっても良い。
【0069】
これまでに述べた製造方法によって、(1)の発明に係る「軟窒化用鋼材」が得られる。この鋼材は、次に述べる軟窒化処理を施されて、(2)の発明に係る軟窒化部品となる。
【0070】
(E)軟窒化
上記(D)の冷間加工を行って、あるいは、冷間加工とその前又は/及びその後で切削加工を行って所要形状に成形した部品(軟窒化用鋼材)には、この後更に、軟窒化処理が施される。この軟窒化の方法は何ら制限しなくても良く、通常の方法で行えば良い。軟窒化処理を施し、表面硬度をHv600以上、有効硬化深さを0.1mm以上とすれば、軟窒化部品の耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性及び耐スポーリング性を著しく高めることができるのである。
【0071】
上記(D)に示した冷間加工、あるいは、冷間加工とその前又は/及びその後で切削加工を施された部品(軟窒化用鋼材)を軟窒化して表面硬度をHv600以上、有効硬化深さを0.1mm以上とするには、例えば、当該部品を570℃程度の温度の、RXガスにアンモニアを添加したガス中に3〜9時間保持し、その後油中に冷却すれば良い。
【0072】
なお、軟窒化後の表面硬度及び有効硬化深さの上限値は特に制限しなくても良い。しかし、軟窒化後の表面硬度については、Hv900程度を上限とすることが好ましい。
【0073】
(2)の発明に係る軟窒化部品は、素材鋼である前記(A)の化学組成と(B)に示すTi炭硫化物のサイズと清浄度をもつ鋼を、例えば、通常の方法によって溶製した後、熱間で圧延又は鍛造し、必要に応じて焼準を施し、(C)に示した球状化焼鈍を行い、次いで(D)に示した冷間加工によって、あるいは、(D)に示した冷間加工とその前又は/及びその後の切削加工によって、所望の部品形状に成形してから、軟窒化処理し、この後更に必要に応じて研削や研磨を施して製造される。
【0074】
ここで、本発明が対象とする化学組成を有する素材鋼においては、熱間加工後に焼準して、少なくとも表層から0.5mmを超える深さまでの領域の組織をベイナイトを含む組織(ベイナイト単相組織、あるいはベイナイト、並びに、フェライト、パーライト及びマルテンサイトの1種以上の混合組織)とすれば、球状化焼鈍後の炭化物(主としてセメンタイト)の球状化率が向上する。したがって、球状化焼鈍で冷間加工前の硬度を大きく低下させることができる。冷間加工前の鋼の硬度を下げることは、冷間加工性の向上につながり、金型寿命が延びて金型コストの削減が図れる。更に、球状化焼鈍時間を短縮することができて、生産性の向上と製造コストの低減が図れる。このため、(1)の発明の軟窒化用鋼材の製造方法においては、熱間加工後に焼準してから球状化焼鈍することが好ましい。
【0075】
【実施例】
表1、表2に示す化学組成を有する鋼を通常の方法によって180kg真空溶製した。なお、鋼18を除いて、Ti酸化物の生成を防ぐために、Si及びAlで充分脱酸し種々の元素を添加した最後にTiを添加して、Ti炭硫化物のサイズと清浄度を調整するようにした。鋼18についてはSi及びAlで脱酸する際に同時にTiを添加した。
【0076】
表1における鋼1〜9は化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼、表2における鋼10〜20は成分のいずれかが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較例の鋼である。比較例の鋼のうち鋼19及び20はそれぞれJIS規格のSCM435及びSACM645に相当する鋼にTiを添加したものである。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
次いで、これらの鋼を通常の方法によって鋼片にした後、1250℃に加熱してから、1250〜950℃の温度で熱間鍛造して、直径30mm及び38mmの丸棒とした。この後、C含有量に応じて870〜925℃で焼準し、次いで図1に示すヒートパターンで球状化焼鈍した。
【0080】
なお、鋼3及び9については、比較のために、熱間鍛造のままで、すなわち熱間鍛造後に焼準を行わないで球状化焼鈍したものも準備した。
【0081】
(実施例1)
上記のようにして得られた直径が30mmの丸棒を用いて、下記の各種調査を行った。
【0082】
すなわち、熱間鍛造のままの丸棒から、JIS G 0555の図1に則って試験片を採取し、鏡面研磨した幅が15mmで高さが20mmの被検面を、倍率が400倍の光学顕微鏡で60視野観察して、Ti炭硫化物を他の介在物と区分しながらその清浄度を測定した。Ti炭硫化物の最大直径も、倍率が400倍の光学顕微鏡で60視野観察して調査した。
【0083】
焼準のままの丸棒からは、直径が30mmで厚さが20mmの試験片を切り出し、ナイタルで腐食して倍率400倍の光学顕微鏡による組織観察を行った。
【0084】
球状化焼鈍後の各丸棒からは、直径が30mmで厚さが20mmの硬度試験片と直径が10mmで長さが15mmの冷間加工用試験片を作製した。
【0085】
上記の硬度試験片を用いて、マイクロビッカース硬度計により中央部のHv硬度測定を行った。
【0086】
又、上記の冷間加工用試験片を用いて、500t高速プレス機による通常の方法で冷間(室温)拘束型据え込み試験を行い、限界据え込み率を測定した。なお、各条件ごとに3回の据え込み試験を行い、3個の試験片のすべてに割れが発生しない最大加工率(減面率)を限界据え込み率として評価した。
【0087】
一方、前記のようにして得られた球状化焼鈍後の直径30mmの各丸棒を、直径25mmにピーリング加工し、この後、通常の方法によって冷間(室温)で直径20.9mm(減面率30.1%)までドロ−ベンチを用いて引き抜き加工した。次いで、RXガスにアンモニアガスを1:1の割合で添加した温度が570℃のガス中で6時間保持して軟窒化処理を施し、その後油中へ冷却した。
【0088】
引き抜きままの丸棒からは、直径が20.9mmで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、マイクロビッカ−ス硬度計を用いて中央部の硬度測定を行った。又、軟窒化処理した丸棒からも、直径が20.9mmで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、マイクロビッカ−ス硬度計により表面硬度(表面から0.025mmの位置におけるHv硬度)、有効硬化深さ(表面からHv500の位置までの距離)及び中央部硬度の測定を行った。
【0089】
被削性評価のため、ドリル穿孔試験も実施した。すなわち、既に述べた球状化焼鈍後の直径30mmの丸棒及び引き抜き加工後の直径20.9mmの丸棒を25mmの長さに輪切りにしたものを用いて、R/2部(Rは丸棒の半径)についてその長さ方向に貫通孔をあけ、刃先摩損により穿孔不能となったときの貫通孔の個数を数え、被削性の評価を行った。穿孔条件は、JIS高速度工具鋼SKH51のφ5mmストレ−トシャンクドリルを使用し、水溶性の潤滑剤を用いて、送り0.15mm/rev、回転数980rpmで行った。
【0090】
表3に各種の試験結果をまとめて示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3から、化学組成及び最大直径が10μm以下のTi炭硫化物の清浄度が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼1〜9を素材とするものは、球状化焼鈍後の硬度はいずれもHvで180を下回るもので、限界据え込み率は80%を超えているし、被削性も良好である。そして、減面率30.1%の冷間加工(引き抜き加工)によって、容易にHv250を超える硬度が得られているし、冷間引き抜き後の被削性も良好である。更に、軟窒化後にはHv600を超える表面硬度と、0.1mmを超える有効硬化深さが得られており、しかも軟窒化のための570℃での6時間の熱処理を受けても、中央部硬度(芯部硬度)は軟窒化前のレベルに維持されているか、あるいは軟窒化前の硬度より高くなっている。
【0093】
これに対して比較例の鋼を素材とする場合には、(イ)球状化焼鈍後の硬度がHv180を超える、(ロ)冷間加工後の硬度が低いために軟窒化後の芯部硬度も低い、(ハ)冷間加工後の硬度はHv250を超えるものの軟窒化後の芯部硬度はHv250を下回る、(ニ)軟窒化後の表面硬度がHv600を下回る、(ホ)軟窒化後の有効硬化深さが0.1mmを下回る、(ヘ)ドリル穿孔試験における貫通孔個数が100を大きく下回り被削性に劣る、のいずれか1つ以上に該当する。このため、冷間鍛造時の金型寿命が短くて金型コストが嵩むし、所望の軟窒化部品の形状に成形するための切削加工のコストも嵩むので、所望の軟窒化部品の製造コストは極めて高いものとなってしまう。あるいは、製造コストは低くても軟窒化部品の耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性及び耐スポーリング性は劣ったものとなってしまう。
【0094】
(実施例2)
前記のようにして得られた直径が38mmの丸棒を用いて、下記の各種調査を行った。
【0095】
すなわち、実施例1の場合と同様に、熱間鍛造のままの丸棒から、JIS G 0555の図1に則って試験片を採取し、鏡面研磨した幅が15mmで高さが20mmの被検面を、倍率が400倍の光学顕微鏡で60視野観察して、Ti炭硫化物を他の介在物と区分しながらその清浄度を測定した。Ti炭硫化物の最大直径も、倍率が400倍の光学顕微鏡で60視野観察して調査した。
【0096】
球状化焼鈍後の各丸棒からは、直径が38mmで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、これを用いて、マイクロビッカース硬度計により中央部のHv硬度測定を行った。
【0097】
更に、球状化焼鈍後の直径38mmの各丸棒を、直径36mmにピーリング加工し、この後、通常の方法によって冷間(室温)で直径30mm(減面率30.6%)までドロ−ベンチを用いて引き抜き加工した。この後、図2に示す転動疲労試験片(小ロ−ラー)と環状半円溝付きの小野式回転曲げ疲労試験片(JIS Z 2274のD=10mm、d=8mm、ρ=t=1mm、D0 =12mmの試験片)を作製した。
【0098】
次いで、前記の各試験片を、RXガスにアンモニアガスを1:1の割合で添加した温度が570℃のガス中で6時間保持して軟窒化処理を施し、その後油中へ冷却した。なお、直径30mm×長さ100mmの冷間引き抜きままのものに対しても、同時に上記の処理を施した。
【0099】
引き抜きままの丸棒からは、直径が30mmで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、マイクロビッカース硬度計を用いて中央部の硬度測定を行った。又、軟窒化処理した丸棒からも、直径が30mmで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、マイクロビッカース硬度計により表面硬度(表面から0.025mmの位置におけるHv硬度)、有効硬化深さ(表面からHv500の位置までの距離)及び中央部硬度の測定を行った。
【0100】
一方、軟窒化処理した小野式回転曲げ疲労試験片と転動疲労試験片を用いて、疲労特性を調査した。
【0101】
すなわち、常温(室温)、大気中、回転数3000rpmの条件で小野式回転曲げ疲労試験を行い、曲げ疲労強度(疲労限)を求めた。
【0102】
又、回転数1000rpm、潤滑油の温度80℃、すべり率40%の条件でロ−ラーピッチング試験機を用いて、面疲労強度を求めた。なお、相手材となる大ローラーには、JISのSUJ2を用いて硬度をロックウェルC硬度(HRC)で61に調整し、外径130mm、内径45mm、厚さ18mmに加工したものを使用した。そして、前記の試験条件で107 回の回転が可能な面圧を「面疲労強度」として評価した。
【0103】
表4に各種の試験結果をまとめて示す。
【0104】
【表4】
【0105】
表4から、化学組成及び最大直径が10μm以下のTi炭硫化物の清浄度が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼1〜9を素材とするものは、
前記の実施例1におけると同様に、球状化焼鈍後の硬度はいずれもHvで180を下回っている。そして、減面率で30.6%の冷間加工(引き抜き加工)によって、容易にHv250を超える硬度が得られている。更に、軟窒化後にはHv600を超える表面硬度と、0.1mmを超える有効硬化深さが得られており、しかも軟窒化のための570℃での6時間の熱処理を受けても、中央部硬度(芯部硬度)は軟窒化前のレベルに維持されているか、あるいは軟窒化前の硬度より高くなっている。
【0106】
更に、曲げ疲労強度は55kgf/mm2 以上の値を有し、面疲労強度も245kgf/mm2 を超える値が得られている。
【0107】
これに対して比較例の鋼を素材とする場合には、(イ)球状化焼鈍後の硬度がHv180を超える、(ロ)冷間加工後の硬度が低いために軟窒化後の芯部硬度も低い、(ハ)冷間加工後の硬度はHv250を超えるものの軟窒化後の芯部硬度はHv250を下回る、(ニ)軟窒化後の表面硬度がHv600を下回る、(ホ)軟窒化後の有効硬化深さが0.1mmを下回る、のいずれか1つ以上に該当する。更に、曲げ疲労強度も高々46kgf/mm2 で、本発明例の鋼材を素材とする場合と比較して明らかに劣っている。
【0108】
【発明の効果】
本発明の軟窒化部品は、耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性及び耐スポーリング性に優れることから、自動車用や産業機械用の歯車など大きな疲労強度や耐摩耗性が要求される部品として利用することができる。なお、Hv250以上の高い芯部硬度が安定して確保できるので、特に大きな曲げ疲労強度が要求される部品にも用いることができる。この軟窒化部品の素材となる被削性に優れた軟窒化用鋼材は、本発明の方法によって比較的容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例における球状化焼鈍のヒートパターンを示す図である。
【図2】実施例で用いた転動疲労試験片の形状を示す図である。
Claims (2)
- 重量%で、C:0.15〜0.45%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜2.5%、S:0.002〜0.2%、Cu:0.5〜1.5%、Ni:0.25〜0.75%で、且つ1.8≦Cu(%)/Ni(%)≦2.2、Cr:0.5〜2%、V:0.05〜0.5%、Ti:0.04〜1.0%、Al:0.01〜0.3%、N:0.008%以下、Mo:0〜0.3%、W:0〜0.5%、Pb:0〜0.35%、Ca:0〜0.01%、残部はFe及び不可避不純物からなる化学組成で、鋼中のTi炭硫化物の最大直径が10μm以下で、且つ、その量がJIS G 0555 に規定される清浄度で0.05%以上である鋼を、熱間加工後に球状化焼鈍して硬度をHv180以下とし、次いで冷間加工して硬度をHv250以上にすることを特徴とする被削性に優れた軟窒化用鋼材の製造方法。
- 素材が請求項1に記載の方法で製造された軟窒化用鋼材であり、軟窒化後の表面硬度がHv600以上、且つ、有効硬化深さが0.1mm以上であることを特徴とする軟窒化部品。
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