JP6238124B2 - 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼及びそれを用いた浸炭窒化部品 - Google Patents

水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼及びそれを用いた浸炭窒化部品 Download PDF

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Description

本発明は、水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼及びそれを用いた浸炭窒化部品に関する。
従来、浸炭窒化部品としての例えば軸受部品において、水素脆性による材料強度低下現象が知られている。これに関連し、本出願人は例えば下記の発明について出願済みである。具体的に、下記特許文献1では、Vを添加することによりV系炭化物による水素トラップ技術を用いて水素脆性型の面疲労強度を改善する高炭素高クロム軸受鋼に係る発明を開示した。また、下記特許文献2では、鋼材の初期炭素量を下げVとMoを複合添加することにより水素脆性型の面疲労強度に優れ、かつ歯車、CVT部品等の幅広い部品に適用可能な肌焼鋼に係る発明を開示した。さらに、下記特許文献3では、Cr,Mn量を適正化することで浸炭窒化後に表層に析出する主としてCr系微細窒化物による水素トラップの効果で耐水素脆性を改善する浸炭窒化鋼に係る発明を開示した。
特開2006−213981号公報 特開2008−280583号公報 特開2011−225936号公報
しかし、水素脆性型の面疲労強度の環境は過酷化しており、未だこれを完全に防止することができていないのが現状である。
本発明は以上のような事情を背景としてなされたものであり、その目的は過酷化しつつある環境下においても面疲労強度を十分に確保し得る浸炭窒化鋼やそれを用いた浸炭窒化部品を安価に提供することにある。
本発明者は、水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼に添加されるCr量とSi量の関係に着目した結果、以下の知見を得た。
(1)Cr量が約2.5%以下の場合に、Si量を添加するとCr系窒化物が減少し、Si系窒化物が生成するが、これはCrに対してSiの窒化物生成自由エネルギーが小さいためと考えられること。
(2)Si系窒化物は、Mnと複合したMnSiNとして析出すると考えられ、Cr系のCrNに比べて窒化物生成量が減少する一方で、粗大化しやすい傾向にあること。
(3)Mnと複合したMnSiNとして析出するSi系窒化物は、Mn添加量をSi添加量の2倍以上とすると微細化すること。
以上の知見に基づいた、本発明の水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼は、質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.35〜0.50%、Mn:0.80〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.50〜2.50%、Al:0.050%以下、O:0.0015%以下、N:0.025%以下、Mn/Si:2.00以上、Mn+Cr:2.50〜4.00%、残部がFe及び不可避不純物からなる、浸炭窒化焼入れ焼戻し処理された浸炭窒化鋼であって、前記焼戻し処理後の前記浸炭窒化鋼の表面から深さ10μmの位置までのC濃度の最大値が質量%で0.80〜1.50%、前記浸炭窒化鋼の表面から深さ10μmの位置までのN濃度の最大値が質量%で0.10〜1.00%、及び表面硬さがHRC58以上64未満であり、前記浸炭窒化鋼の表面から深さ10μmの位置までに分散析出した窒化物のうち粒径300nm未満のCr窒化物及びSi窒化物の個数が10個/mm以上であることを特徴とする。
この場合、質量%で、Mo:0.50%以下、Ni:0.50%未満、Ti:0.50%以下、Nb:0.10%以下、のうちいずれか1種又は2種以上を更に含有している構成とすることもできる。
本発明の浸炭窒化鋼によれば、従来Cr対比で不利であったSi添加の窒化物生成能を改善することができる。すなわち、Siは軟化抵抗性等の高温特性に優れ、コスト的にもCrより優れるが、このようにCrよりも多くの点で有利なSiを有効に活用することによって、過酷化しつつある環境下においても面疲労強度を十分に確保し得る浸炭窒化鋼を安価に提供することができ、ひいてはその浸炭窒化鋼を用いることで面疲労強度を十分に確保し得る浸炭窒化部品を安価に提供することができる。
は浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻し処理の一例を示す図。 (A)はFE−EPMAによる浸炭窒化鋼における各種の炭化物や窒化物を示す観察写真。(B)〜(F)は(A)に示された炭化物や窒化物を構成するC,N,Si,Cr及びMnの各元素をそれぞれ表す分析写真。 転動疲労試験方法の説明図。 2円筒ころがり疲労試験方法の説明図。
以下、本発明の水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼の各化学成分の添加理由及び限定理由について説明する。
(1)C:0.10〜0.40%
C(鋼材C濃度)は心部強度を確保するために必須の元素である。所定の熱処理後硬さを維持するためには0.10%以上の添加が必要であるため、C含有量の下限を0.10%とした。一方、C含有量が0.40%を超えると、鍛造や旋削加工等の製造性を低下させるため、C含有量の上限を0.40%とした。好ましくは0.15〜0.25%である。
(2)Si:0.35〜0.50%
Siは鋼を製造する際に脱酸剤として用いられ、鋼の強度を向上させるとともに、例えば転がり軸受として使用された場合には組織変化を抑制することで転動疲労寿命を向上させる。これらの効果を得るためには0.35%以上の添加が必要であるため、Si含有量の下限を0.35%とした。一方、Siの過度の添加は、鋼の靭性や熱間加工性を低下させる反面、水素脆性感受性を高める。0.50%を超えて添加すると水素脆性型の転動疲労寿命が低下するため、Si含有量の上限を0.50%とした。好ましくは0.40%以上である。
(3)Mn:0.80〜1.50%
Mnは本発明において重要な添加元素である。Mnは浸炭窒化によりSiと窒化物(例えばMnSiNなど)を形成し、水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。また、Mnは鋼を製造する際に脱酸剤として用いられる元素であるとともに、焼入れ性を改善する元素でもある。これらの効果を得るためにはMnを0.8%以上含有する必要がある。一方、1.50%を超えて多量にMnを含有すると被削性が大幅に低下するため、Mn含有量の上限を1.50%とした。好ましくは0.90%以上である。
(4)P:0.030%以下
Pは鋼のオーステナイト粒界に偏析し、靭性や転動疲労寿命の低下を招く。特に水素脆性型転動疲労の特徴である粒界強度を大きく低下させるため、P含有量の上限を0.030%とした。
(5)S:0.030%以下
Sは鋼の熱間加工性を害し、鋼中での非金属介在物を形成して靭性や転動寿命を低下させ、水素脆性型転動疲労強度を低下させるので、可及的に少なくすることが望ましいが、切削加工性を向上させる効果も有しているため、S含有量の上限を0.030%とした。
(6)Cr:1.50〜2.50%
Crは本発明において重要な添加元素である。Crは浸炭窒化により窒化物(例えばCrN)を形成し、水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。また、Crは焼入れ性の改善や炭化物による硬さの確保、寿命改善のために添加される。所定の窒化物を得るためには1.50%以上の添加が必要であるため、Cr含有量の下限を1.50%とした。一方、2.50%を超えて含有すると、浸炭性を劣化させ、大型の窒化物が生成し、転動疲労寿命の低下が生じるため、Cr含有量の上限を2.50%とした。好ましくは1.80%以上である。
(7)Al:0.050%以下
Alは鋼の製造時の脱酸剤として使用されるが、硬質の非金属介在物を生成し、転動疲労寿命を低下させるため低減することが望ましい。0.050%を超えて多量にAlを含有すると顕著な転動疲労寿命の低下が認められるため、Al含有量の上限を0.050%とした。なお、Al含有量を0.005%未満とするためには鋼製造コストの上昇が生じるため、Al含有量の下限を0.005%とすることが好ましい。
(8)O:0.0015%以下、N:0.025%以下
O及びNは鋼中に酸化物、窒化物を形成し、非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、O含有量の上限を0.0015%とし、N含有量の上限を0.025%とした。
(9)Mn/Si:2.00以上
Siを添加すると、浸炭窒化時の窒化物がCrNからSi系窒化物に変化し、窒化物数も減少するため、耐水素脆性は低下する。しかし、MnはSi系窒化物と複合化するものの、このSi系窒化物を微細化するため、結果として耐水素脆性が向上するようになる。この効果を得るためにはMn/Siの比が少なくとも2.00以上は必要であるため、Mn/Siの下限値を2.00とした。好ましくは2.50以上である。
(10)Mn+Cr:2.50〜4.00%
MnとCrは単独添加でも水素脆性型の面疲労強度を改善するが、十分な効果を得るためには両者を適正に複合添加することが必要である。Mn+Crの含有量が2.50%未満では水素脆性に対する改善効果を十分に得ることができないためMn+Cr含有量の下限を2.50%とした。一方、Mn+Cr含有量が4.00%を超えると、鍛造や旋削性等の製造性が低下するため、Mn+Cr含有量の上限を4.00%とした。好ましくは2.80〜3.50%である。
(11)表面硬さ:HRC58以上64未満
焼戻し後の表面硬さと転動疲労寿命には相関が認められ、表面硬さが高いほど転動疲労寿命は長くなる傾向がある。特に、焼戻し処理後の表面硬さがHRC58未満になると急激に転動疲労寿命が低下し、寿命のばらつきも大きくなるため、焼戻し処理後の表面硬さをHRC58以上とした。一方、表面硬さが高くなると水素脆性に対する感受性が高くなり、表面硬さがHRC64以上になると水素脆性型の面疲労強度が著しく低下するため、HRC64未満とした。なお、Hv硬さに換算すると約650Hv以上800Hv未満に相当する。
(12)粒径300nm未満のCr窒化物及びSi窒化物の個数:10個/mm以上
窒化物のうち水素トラップに有効な窒化物は、Cr窒化物であるCrNと、Si窒化物であるMnSiNである。窒化物は水素をトラップすることにより、水素脆性型の面疲労剥離を抑制する効果がある。その効果を得るためには、微細な窒化物を多数析出させる必要がある。窒化物生成数が少ない場合や粒径300nm以上の窒化物が多数生成し、粒径300nm未満の微細な窒化物が10/mm未満となると、水素トラップによる水素脆性型面疲労強度の改善効果が急速に低下する。このため、粒径300nm未満の窒化物の下限を10/mmとした。好ましくは4×10〜40×10個/mm、より好ましくは4×10〜20×10個/mmである。
(13)表層C濃度(表層炭素濃度):0.80〜1.50%
表層Cは、例えば転がり軸受としての強度を確保するために必須の元素であり、所定の熱処理後硬さを維持することや、窒化により最表層のC濃度が低下すること等を考慮に入れて、表層C濃度の下限を0.80%とした。一方、表層C濃度が1.50%を超えて含有された場合、大型の炭化物が生成し、転動疲労寿命の低下が生じることが判明したため、表層C濃度の上限を1.50%とした。好ましくは1.00〜1.20%である。
(14)表層N濃度(表層窒素濃度):0.10〜1.00%
表層Nは微細な窒化物を表層に生成することにより水素トラップサイトとして働き、耐水素脆性を改善する。また、鋼の軟化抵抗性を改善することにより転動寿命を向上させる。これらの効果を得るためには表層N濃度が0.10%以上は必要であるため、表層N濃度の下限を0.10%とした。一方、表層N濃度が1.00%を超えると、残留オーステナイトの生成により表面硬さを低下させ、所定の表面硬さが得られなくなることや、粗大な窒化物が形成されやすくなること等を考慮に入れて、表層N濃度の上限を1.00%とした。好ましくは0.30〜0.60%である。
本発明では、更に以下の化学成分の1種又は2種以上を添加することができる。
(15)Mo:0.50%以下
Moは粒界破壊を抑制することにより、水素脆性型の面疲労強度を向上させる。また、Moは鋼の焼入れ性を改善するとともに、炭化物中に固溶することにより、焼戻し時の硬さの低下を抑制する効果がある。一方、0.50%を超えて多量に含有すると、鋼材のコストが上昇し、熱間加工性や切削性が低下するため、Mo含有量の上限を0.50%とした。
(16)Ni:0.50%未満
Niは転動疲労過程での組織変化を抑制し、転動疲労寿命を向上させる。また、Niの添加は靭性および耐食性の改善にも効果がある。一方、0.50%を超えて多量に含有すると、鋼の焼入れ時に多量の残留オーステナイトが生成し、所定の硬さが得られなくなるとともに、鋼材のコストが上昇するため、Ni含有量を0.50%未満とした。
(17)Ti:0.50%以下
Tiの炭化物は微細であり、水素トラップサイトとして有効に働くことにより、水素脆性型の面疲労強度が改善する。一方、Tiは鋼中に酸化物、窒化物を形成し、非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、Ti含有量の上限を0.50%とした。
(18)Nb:0.10%以下
Nbの炭化物も微細であり、水素トラップサイトとして有効に働くことにより、水素脆性型の面疲労強度が改善する。また、Nbは結晶粒の粗大化を抑制する。結晶粒が微細化すれば、耐水素脆性の改善に有効となる。一方、0.10%を超えて多量にNbを含有してもその効果が飽和するため、Nb含有量の上限を0.10%とした。
(19)残部:Fe及び不可避不純物
表1では不可避不純物(不可避的不純物)を「その他」の欄の「−」で表している。
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す化学成分の材料を50kgの真空溶解で溶製し、熱間鍛造により直径28mmの棒鋼を製造した。この後、焼ならし処理として920℃に加熱し、2時間保持した後空冷した。さらに、球状化焼なまし処理として760℃に加熱し、3時間保持した後、−15℃/時間で650℃まで冷却した後空冷し、各試験の供試材とした。
前記供試材から直径25mm、長さ100mmの試験片を削り出し、種々の浸炭窒化条件で熱処理(浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻し処理)を行った。図1に表1の発明例1〜12、及び比較例13〜15で用いた浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻し処理の一例を示す。図1中CPはカーボンポテンシャルを、OQは油焼入れを、ACは空冷をそれぞれ表している。この浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻し処理は、浸炭工程を含む浸炭焼入れ焼戻し処理と、浸炭窒化工程を含む浸炭窒化焼入れ焼戻し処理をこの順に行うようにしたものである。
通常、オーステナイト中のN濃度が高くなるとマルテンサイト変態開始温度(Ms点)が低下し、焼入れ後の残留オーステナイト量が増加する。このため、残留オーステナイト量の増加により、表面硬さが不足する場合には表面硬さを所定の範囲に高めるため、840℃で2次焼入れを行なった。また、必要に応じて2次焼き入れ前に650℃で1時間保持する中間焼鈍を行なった。
浸炭窒化焼入れ焼戻し処理を行った後、試験片の外周を深さ0.2mmだけ研削し、5点平均でロックウェル硬さ(JIS Z2245に準拠)を求めた。その後、同試験片の縦断面を埋め込んで研磨仕上げし、表層部の表層C濃度と表層N濃度をEPMA(Electron Probe Micro Analysis)で分析した。ここで、表層C濃度と表層N濃度は、試験片の表面から深さ10μmの位置までのC濃度、N濃度の最大値(ピーク値)とした。
さらに、FE−EPMA(Field Emission-Electron Probe Micro Analysis)を用いて、試験片の表面から深さ10μmの位置までの窒化物の元素マッピングを行い、100μmの領域に存在する粒径10nm以上300nm未満の窒化物を全て同定し、観察領域の面積で除して、粒径300nm未満の微細な窒化物の個数密度(個/mm)を求めた。図2(A)にFE−EPMAによる表層における各種の炭化物や窒化物の観察写真を示す。
図2(B)〜(F)は、図2(A)に示された炭化物や窒化物を構成するC,N,Si,Cr及びMnの各元素を表した分析写真である。具体的には、図2(A)の符号1に対応して、図2(C),(D),(F)にはそれぞれ1c,1d,1fが存在するから、符号1はMnSi系窒化物であることが分かる。同様に、図2(A)の符号2に対応して、図2(C),(E)にはそれぞれ2c,2eが存在するから、符号2はCr系窒化物であり、図2(A)の符号3に対応して、図2(B),(E)にはそれぞれ3b,3eが存在するから、符号3はCr系炭化物であることが分かる。
次に、同供試材から直径12.3mm、長さ22.6mmの転動疲労試験片を粗加工し、各鋼種をそれぞれ前述と同じ熱処理条件で浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻し処理を行い、試験表面を直径12mmに研削仕上げし、長さ22mmの試験片を作製した。同試験片を3%塩化ナトリウム溶液1L中に3gのチオシアン酸アンモニウム溶解した電解液を用い、電流密度0.2mA/cmで24時間の陰極チャージを行った。水素チャージ後、10分以内に転動疲労試験を開始した。
転動疲労試験は、図3(A),(B)に示されるように、試験片10に対してSUJ2製のボール12を相手球として2個所定の面圧で押し付け、ガイドローラ14によるガイドの下で、駆動ローラ16により試験片10を転動させるものである。試験条件は、面圧5.9GPaで、潤滑はタービン#68を飛沫給油し、負荷速度46240rpmで試験を行った。同一条件で10点の試験を行い、ワイブル分布の累積破損確率が10%となるL10寿命を求めて評価寿命とした。なお、水素脆性型の面疲労はすべりに伴い、潤滑油の分解、新生面の生成等により水素侵入することが原因と考えられている。水素を陰極チャージした試験片10を用いた転動疲労試験で、水素脆性型の早期剥離現象を再現できることが確認されている。
また、同供試材から粗加工後、各鋼種を各々前述と同じ熱処理条件で浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻し処理を行い、試験面直径26mmの円筒試験片を作製し、その試験片を用いて、2円筒ころがり疲労試験を行った。2円筒ころがり疲労試験は、図4に示されるように、円筒形状の試験片18に対して相手円筒20を所定面圧で押し付け、その状態でモータ22により軸部24を介して試験片18を回転させるとともに、モータ22の回転をギア26,28を介して軸30に伝達して、相手円筒20を回転させるものである。相手円筒20は、SUJ2製の焼入れ焼戻し材からなり、軸方向に曲率半径150mmのクラウニングを有する直径130mmの形状に形成されている。
試験条件は、水素脆性型の面疲労剥離を再現する条件で行った。具体的には、水素脆性の生じる潤滑油を用い、水素脆性型の早期転動疲労破壊が生じる試験条件(油温90℃、すべり率−60%、面圧3GPa、回転数1500rpm)で試験を行った。ここで、すべり率とは、試験片18と相手円筒20の周速の差と、試験片18の周速との比率である。試験は同一条件で4点行い、平均寿命を求めた。表2に試験結果を示す。
表2の比較例のうち鋼種No.1〜No.4は、化学成分を発明例の鋼種No.1〜No.4とそれぞれ同じとする一方、浸炭窒化条件を発明例の鋼種No.1〜No.4とそれぞれ異ならせたもの、すなわち図1に示した浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻し処理とは異なる浸炭・浸炭窒化焼入れ焼戻し処理を施したものである。
発明例(鋼種No.1〜No.12)は、いずれも表面硬さHRC58以上64未満であり、表層C濃度は0.80〜1.50質量%の範囲、表層N濃度は0.10〜1.00質量%の範囲であり、粒径300nm未満の微細な窒化物を10個/mm以上含有する。
発明例の水素チャージ材の転動疲労のL10寿命は、20.9×10回(鋼種No.8)〜36.4×10回(鋼種No.1)と優れる。一方、比較例では、同L10寿命は0.5×10回(比較例鋼種No.4)〜9.6×10回(比較例鋼種No.13)と、いずれも水素脆性型の早期転動疲労破壊が生じて低寿命である。本発明により水素脆性型の転動寿命が1桁程度改善していることが分かる。
また、発明例の2円筒試験の平均寿命は、15.9×10回(鋼種No.3)〜25.1×10回(鋼種No.9)と優れる。一方、比較例では、同平均寿命は0.4×10回(比較例鋼種No.4)〜7.5×10回(比較例鋼種No.13)と、いずれも水素脆性により低寿命である。本発明により水素脆性型の転動寿命が1桁程度改善していることが分かる。
表2の比較例のうち、鋼種No.13はMn/Siの値が低いため(1.69<2.00)、鋼種No.14はCr量が低いため(1.41<1.50)、鋼種No.15はMn量が低いため(0.70<0.80)、いずれも低寿命となった例である。また、比較例のうち鋼種No.1〜No.4は、化学成分は請求範囲内にあるが、浸炭窒化条件が適正でないため低寿命となった例である。
具体的には、比較例の鋼種No.1は表層N濃度が低くなり(0.02<0.10)、しかも粒径300nm未満の窒化物の個数が少なくなったため(0.2×10<10)、比較例の鋼種No.2は粒径300nm未満の窒化物の個数が少なくなったため(0.8×10<10)、比較例の鋼種No.3は表面硬さが低くなったため(57<58)、比較例の鋼種No.4は表層C濃度が低くなったため(0.68<0.80)、いずれも低寿命となった例である。
以上の説明からも明らかなように、従来Cr対比で不利であったSi添加の窒化物生成能を改善するようにした本発明の浸炭窒化鋼によれば、CrよりもSiを有効に活用することによって、面疲労強度を十分に確保し得る浸炭窒化鋼を安価に提供することができ、ひいてはその浸炭窒化鋼を用いることで面疲労強度を十分に確保し得る浸炭窒化部品を安価に提供することができる。
1 MnSi系窒化物
2 Cr系窒化物
10、18 試験片

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.10〜0.40%、
    Si:0.35〜0.50%、
    Mn:0.80〜1.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Cr:1.50〜2.50%、
    Al:0.050%以下、
    O:0.0015%以下、
    N:0.025%以下、
    Mn/Si:2.00以上、
    Mn+Cr:2.50〜4.00%、
    残部がFe及び不可避不純物からなる、浸炭窒化焼入れ焼戻し処理された浸炭窒化鋼であって、前記焼戻し処理後の前記浸炭窒化鋼の表面から深さ10μmの位置までのC濃度の最大値が質量%で0.80〜1.50%、前記浸炭窒化鋼の表面から深さ10μmの位置までのN濃度の最大値が質量%で0.10〜1.00%、及び表面硬さがHRC58以上64未満であり、前記浸炭窒化鋼の表面から深さ10μmの位置までに分散析出した窒化物のうち粒径300nm未満のCr窒化物及びSi窒化物の個数が10個/mm以上であることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼。
  2. 請求項1において、質量%で、
    Mo:0.50%以下、
    Ni:0.50%未満、
    Ti:0.50%以下、
    Nb:0.10%以下、
    のうちいずれか1種又は2種以上を更に含有していることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼。
  3. 請求項1又は2の浸炭窒化鋼を用いて形成されたことを特徴とする浸炭窒化部品。
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