JP2010001521A - 軸、ピニオンシャフト - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ピニオンシャフト5を、所定の合金鋼からなる素材を用い、浸炭または浸炭窒化処理、焼入れ処理、サブゼロ処理、および150℃以上200℃以下での焼戻し処理をして得、表面の炭素と窒素の合計含有率を0.8質量%以上2.0質量%以下、表面硬さをビッカース硬さ(Hv)で700以上900以下、表面の残留オーステナイト量を20体積%以上50体積%以下とし、芯部の残留オーステナイト量を0にする。
【選択図】図1
Description
このようなラジアルニードル軸受の軸(ピニオンシャフト)は、過酷な環境下(高温、潤滑不良等による油膜形成性が劣化する環境下、異物混入潤滑下など)での転動疲労特性を向上することと、衝撃荷重が大きい場合であっても熱変形(塑性曲がり)を生じ難くすることが課題となっている。
また、この文献には、前記構成の軸の製造方法として、浸炭窒化後に焼入れ・焼戻しを施して、軸の全体の硬さをHv300〜500(望ましくはHv400〜500)に調質し、次いで高周波焼入れと焼戻しを行って表面の硬さをHv650以上にする方法が記載されている。この方法では、芯部の残留オーステナイト量が0となり、芯部の硬さがHv300〜500(望ましくはHv400〜500)となる。
しかしながら、特許文献3に記載された発明では使用する鋼が軸受鋼などの高炭素鋼系であるため、回転速度の高速化、潤滑不良などの油膜形成性が劣化する環境下での転動疲労寿命を確保することが難しい場合がある。
前記表面および芯部の残留オーステナイト量は、サブゼロ処理の温度により調整されるが、サブゼロ処理の温度が−100℃未満であると表面の残留オーステナイト量が20体積%未満となり、−30℃より高いと芯部の残留オーステナイト量が0にならないため、サブゼロ処理の温度は−100℃以上−30℃以下とすることが好ましい。
前記表面の硬さがビッカース硬さ(Hv)で700未満であると、潤滑不良などの油膜形成性が劣化する環境下で前記表面に圧痕が形成され易くなる。前記表面の硬さをビッカース硬さ(Hv)900より硬くするためには、サブゼロ処理の温度をより低温で行う必要があるが、その場合、表面の残留オーステナイト量を20体積%以上にできなくなる。よって、前記表面の硬さをビッカース硬さ(Hv)で700以上900以下とする。そして、前記表面の硬さをこの範囲にすることで、耐摩耗性、耐圧痕性、静的強度が良好になる。
前記合金鋼の各成分を所定範囲に特定した理由を以下に述べる。
炭素(C)は、基地(マトリックス)に固溶して焼入れ、焼戻し後の硬さを向上させて強度を向上させるとともに、鉄、クロム、モリブデン、バナジウム等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し、耐摩耗性を高める作用を有する元素である。
本発明では、浸炭または浸炭窒化処理を行って表面に炭素(または炭素と窒素)を導入して、表面の炭素と窒素の合計含有率を0.8質量%以上2.0質量%以下にするため、この処理に係る時間を短縮する目的で、素材をなす合金鋼中の炭素含有率を0.30質量%以上とし、好ましくは0.35質量%以上とする。
一方、炭素含有率が0.50質量%を超えると、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動疲労寿命や強度が低下する場合がある。また、鍛造性、冷間加工性、被削性が低下して、加工コストの上昇を招く場合がある。そのため、好ましくは炭素含有率を0.45質量%以下とする。
クロム(Cr)は、基地に固溶して、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性、及び転動寿命を高める作用を有する元素である。また、炭素、窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。
さらに、炭素と結合して形成されるクロム炭化物(Fe,Cr)3 C、(Fe,Cr)7 C3 、(Fe,Cr)23C6 等は微細で、硬度が高いため、耐摩耗性を高める作用も有している。
クロムの含有率が2.0質量%未満であると前述の作用が不足し、5.0質量%を超えると、冷間加工性、被削性、浸炭窒化性が低下して、コストの上昇を招くおそれがある。さらに、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動疲労寿命や強度が不足する。クロム含有率の好ましい範囲は2.5〜3.5質量%である。
モリブデン(Mo)は、クロムと同様に、基地に固溶して焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性、及び転動寿命を高める作用を有する元素である。また、クロムと同様に炭素、窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。
さらに、炭素と結合して形成されるモリブデン炭化物は微細で硬度が高いため、耐摩耗性を高める作用も有している。
モリブデン含有率が0.10質量%未満であると、前述の作用が不足する。1.5質量%を超えると、冷間加工性、被削性が低下して、コストの上昇を招くおそれがある。さらに、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動疲労寿命や強度が不足する。よって、モリブデン含有率は1.5質量%以下とする。好ましくは1.2質量%以下とする。
マンガン(Mn)は、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.10質量%以上添加する必要がある。好ましくは0.50質量%以上添加する。
また、クロムと同様に、基地に固溶してMs点を降下させて、多量の残留オーステナイトを確保したり、焼入れ性を高める作用を有している。ただし、多量に添加すると、冷間加工性、被削性が低下するだけでなく、Ms点が低下し過ぎて、浸炭窒化後に多量の残留オーステナイトが残存し、十分な硬さが得られない場合があるため、1.5質量%以下とする。好ましくは1.3質量%以下とする。
ケイ素(Si)は、マンガンと同様に製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.10質量%以上添加する必要がある。また、クロム、マンガンと同様に焼入れ性を向上させるとともに、基地のマルテンサイト化や残留オーステナイトの安定化を促進し、軸受寿命の向上に有効な元素である。さらに、焼戻し軟化抵抗性を高める作用も有している。好ましくは0.30質量%以上添加する。
ただし、多量に添加すると、鍛造性、冷間加工性、被削性、及び浸炭処理性が低下する場合があるため、1.5質量%以下とする。好ましくは0.5質量%以下とする。
本発明の軸は、遊星歯車装置のサンギヤおよびリングギヤに螺合するピニオンギヤを、転動体を介して回転自在に支持するピニオンシャフトとして好適である。
図1に示すプラネタリギヤ装置は、自動車用オートマチックトランスミッション等の遊星歯車機構に好適に使用されるものである。このプラネタリギヤ装置は、サンギヤ1と、サンギヤ1と同心に配されたリングギヤ2と、サンギヤ1およびリングギヤ2に噛み合いサンギヤ1の周りを公転する1個以上(図1においては3個)のピニオンギヤ3と、サンギヤ1およびリングギヤ2と同心に配されてピニオンギヤ3を回転自在に支持するキャリヤ4と、を備えている。
このピニオンシャフト5を以下の方法で作製した。
下記の表1に示す合金鋼A〜Jからなる線材を用意し、旋削加工、熱処理、外径粗研削、外径仕上げ研削、および超仕上げ研削を施して、直径16mm、長さ80mmのピニオンシャフトのサンプル(No. 1〜12)を得た。
なお、浸炭窒化後に焼戻しをしないで焼入れを行うと、置き割れ等が生じる可能性があるが、浸炭窒化後焼入れ前に焼戻しを行うことで、組織が安定化し靱性も向上するため置き割れ等が生じ難くなる効果が得られる。
そして、得られた各ピニオンシャフトと、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼2種)製で、ずぶ焼き後に焼戻し処理がなされて得られたピニオンギヤおよび針状ころ(直径3mm、長さ17.8mm)と、SCM415製で浸炭窒化処理が施された保持器を、日本精工(株)製のプラネタリニードル試験機に組み込んで、転動疲労寿命試験と熱変形試験を行った。なお、針状ころは保持器で保持されてケージアンドローラとされて試験機に組み込まれている。
なお、表2の転動疲労寿命は、No. 7の転動疲労寿命を1とした場合の相対値で示してある。また、ピニオンシャフト、ピニオンギア、針状ころのうち、どの部材が最も破損しやすいかを調べる予備試験を行い、ピニオンシャフトが最も破損しやすいことを確認した後に回転試験を行っている。
・基本動定格荷重C:24700N
・基本静定格荷重C0 :44000N
・ラジアル荷重:10000N
・ピニオンギアの自転速度:12000min-1
・計算寿命L10:28.3時間
・潤滑油の種類:ATF(オートマチックトランスミッションフルード)
・潤滑油の供給量:30ml/min
・潤滑油の温度:120℃
熱変形試験としては、下記の条件で、ピニオンシャフトを自転させながらキャリアの回転により公転させる回転試験を行い、ピニオンシャフトの曲がり量(熱変形量)をサーフコム形状測定機にて測定した。この曲がり量は、最も曲がり量が大きい部分から、ピニオンシャフトの両端部を結ぶ線に下ろした垂線の長さ(曲がる前のピニオンシャフトの軸方向に垂直な方向の長さ)である。その結果も下記の表2に併せて示す。
・基本動定格荷重C:24700N
・基本静定格荷重C0 :44000N
・ラジアル荷重:10000N
・キャリアの回転速度(ピニオンギアの公転速度):7000min-1
・ピニオンギアの自転速度:10000min-1
・潤滑油の種類:ATF
・潤滑油の供給量(キャリアに対して):100ml/min
・潤滑油の温度:120℃
・試験時間:20時間
したがって、この実施形態のNo. 1〜6のピニオンシャフト(本発明の実施例に相当する軸)は、No. 7〜12のピニオンシャフト(本発明の比較例に相当する軸)と比較して、前述の条件での転動疲労寿命が長く、熱変形が生じにくいものとなっている。
2 リングギヤ
3 ピニオンギヤ
4 キャリヤ
5 ピニオンシャフト(軸)
6 針状ころ(転動体)
Claims (2)
- 転がり軸受の内輪軌道面として機能する面を有する軸であって、
炭素(C)含有率が0.30質量%以上0.50質量%以下、クロム(Cr)含有率が2.0質量%以上5.0質量%以下、モリブデン(Mo)含有率が0.10質量%以上1.5質量%以下、マンガン(Mn)含有率が0.10質量%以上1.5質量%以下、珪素(Si)含有率が0.10質量%以上1.5質量%以下であり、残部が鉄および不可避不純物である合金鋼からなる素材を軸の形状に加工した後、
少なくとも内輪軌道面として機能する面は、浸炭または浸炭窒化処理、焼入れ処理、サブゼロ処理、および焼戻し処理をして得られ、表面の炭素と窒素の合計含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下、表面硬さがビッカース硬さ(Hv)で700以上900以下、表面の残留オーステナイト量が20体積%以上50体積%以下であり、芯部のオーステナイト量が0であることを特徴とする軸。 - 請求項1記載の軸であって、遊星歯車装置のサンギヤおよびリングギヤに螺合するピニオンギヤを、転動体を介して回転自在に支持するピニオンシャフト。
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