JP5879681B2 - 転動軸の製造方法 - Google Patents

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本発明は、相手部材である転動体に対して相対的に転動する転動軸、具体的には、遊星歯車装置のピニオンシャフトのような、転がり軸受の内輪として機能する転動軸の製造方法に関する。
自動車用オートマチックトランスミッションなどの遊星歯車機構においては、図1に例示する遊星歯車装置が使用されている。この遊星歯車装置は、図示しない軸が挿通されたサンギヤ1と、サンギヤ1と同心に配されたリングギヤ2と、サンギヤ1およびリングギヤ2に噛み合いサンギヤ1の周りを公転する1個以上のピニオンギヤ3と、サンギヤ1およびリングギヤ2と同心に配されピニオンギヤ3を回転自在に支持するキャリア4と、を備える。
ピニオンギヤ3の中心穴には、キャリア4に固定されたピニオンシャフト5が挿通されており、また、ピニオンシャフト5の外周面とピニオンギヤ3の内周面との間には図示されない複数の針状ころが転動自在に配されていて、これによりピニオンギヤ3はピニオンシャフト5を軸として回転自在とされている。
このように、ピニオンギヤ3と、図示しない複数の針状ころと、ピニオンシャフト5により、転がり軸受(ラジアルニードルころ軸受)が構成され、このうちのピニオンシャフト5が、転がり軸受の内輪に相当し、針状ころが転動軸の相手部材である転動体に相当する。
従来、遊星歯車装置のピニオンシャフトは、低炭素の工具鋼であるJIS鋼種SK5などで構成され、針状ころが転走する部分(転走面)には高周波焼入れが施されて、ピニオンシャフトとして必要な硬さが付与されている。また、潤滑不良などによる剥離寿命が問題となる場合には、ピニオンシャフトは、高炭素クロム軸受鋼であるJIS鋼種SUJ2などで構成され、浸炭窒化処理などが施されることにより、その寿命が確保されている。
近年、自動車の低燃費化の要求がますます強まっており、トランスミッションの小型化や高効率化が行われている。そのため、遊星歯車装置の回転速度が高まっているので、ピニオンシャフトに加わる荷重が増大し、かつ温度が上昇し、さらに潤滑油量が減少する傾向となっており、こうした傾向は、ピニオンシャフトの寿命低下につながっている。
さらに、荷重の増大とともに温度も上昇しているため、ピニオンシャフトに塑性変形が発生しやすい。この変形により、針状ころとピニオンシャフトとの間の滑りが増大して軌道面の摩耗やピーリングが生じるという問題や、針状ころとピニオンシャフトとの接触がエッジロードになって早期剥離に至るという問題が生じるおそれがある。
ピニオンシャフトの塑性変形は、ピニオンシャフトに負荷される荷重を緩和する方向に曲がりが生じる現象である。この塑性曲がりは、鋼に内在している残留オーステナイト量が多いほど大きくなる傾向がある。このため、塑性曲がりを抑制するためには、残留オーステナイト量を極力少なくすることが最も重要である。しかしながら、ピニオンシャフトの転走面の残留オーステナイト量が少ないと、転動疲労寿命が低下し、必要な耐久性が得られないおそれがある。
また、遊星歯車装置に使用される転がり軸受は、高温、高速、軽荷重という条件で使用されることがあり、ピニオンシャフトの転走面に、潤滑油中に混入する硬質の異物の噛み込みなどによる圧痕を起点とする表面起点型剥離や、軽荷重下で生じやすいスミアリングが早期に発生し、軸受寿命を著しく低下させることがある。よって、SK5やSUJ2などの鋼でピニオンシャフトが構成されていると、このような条件下では十分な軸受寿命が得られない場合がある。
さらに、遊星歯車装置に使用される転がり軸受は、高温、高荷重、高振動、潤滑不足という条件で使用されることがあり、転走面下の最大剪断応力位置に腐食されにくく、光学顕微鏡で白く見える白色組織が生じる場合があり、この白色組織に起因する白色はく離により、転がり寿命を著しく低下させることがある。この破損原因となる組織変化は、局所的なメタルコンタクトにより潤滑油中の水素が分解し鋼中に侵入することに起因する。よって、SK5やSUJ2などの鋼でピニオンシャフトが構成されていると、このような条件下では十分な軸受寿命が得られない場合がある。
これに対して、特許文献1には、転動軸を、0.5重量%〜1.2重量%の炭素を含有する合金鋼で構成すると共に、浸炭窒化を行った後に調質を行い、引き続き高周波焼入れを行うことにより、芯部の残留オーステナイト量を0体積%として、表面層の窒素含有量を0.05重量%〜0.4重量%とし、表面層の硬さをHv650以上とし、表面層のオーステナイト量を15体積%〜40体積%として、ピニオンシャフトの塑性曲がりを抑制することが開示されている。
また、特許文献1には、浸炭窒化後に焼入れおよび焼戻しを施して、転動軸全体の硬さをHv300〜500に調質し、次いで、高周波焼入れと焼戻しを施して、表面の硬さをHv650以上とすることにより、転動疲労寿命を向上させることが開示されている。
しかしながら、特許文献1では、SUJ2、S55C、SAC5160、SCr420などの鋼で転動軸を構成しているため、回転速度の高速化や、潤滑不良などの油膜形成性が劣化する環境下での転動疲労寿命を確保することが困難な場合がある。また、高周波焼入れは、管理面やコスト面において多くの問題がある。
これに対して、本発明者は、上記の従来技術が有する問題点を解決するために、高温下、潤滑不良下、または異物混入下で使用されても、塑性変形が生じにくく、耐久性に優れた転動軸の改良について複数の提案を行っている。
特許文献2では、転動軸を構成する合金鋼の炭素含有率だけでなく、クロム、モリブデン、マンガン、ケイ素の含有率を特定すると共に、820℃〜950℃の温度、3時間〜5時間の浸炭処理または浸炭窒化処理を施し、さらに820℃〜900℃の温度の焼入れ、および、160℃〜200℃の温度の焼戻しを行うことにより、表面の炭素濃度と窒素濃度との和が1質量%以上2.5質量%以下、表面硬さHvが630以上、表面の残留オーステナイト量が15体積%以上45体積%以下、平均残留オーステナイト量が8体積%以下として、高温、高速条件下においても、焼付き、かじりなどが生じにくく、長寿命で、かつ、モーメント荷重を受けた場合にも変形の発生を抑制できる転動軸を提案している。
この提案では、平均残留オーステナイト量に着目しているが、塑性曲がりを抑制するためには、平均残留オーステナイト量を規定するだけでは不十分である。すなわち、平均残留オーステナイト量が規定されていても、表面部と芯部の残留オーステナイト量の差が小さいと、残留オーステナイトの分解による塑性変形量が表面部と芯部との間で近い量となり、荷重や遠心力の除荷時に転動軸を元の形状に戻す力が小さくなるため、転動軸の塑性曲がり量が大きくなる場合がある。
特許文献3では、熱処理工程において、820℃〜980℃の温度、3時間〜5時間の条件で浸炭窒化処理を施し、150℃〜200℃の温度、1.5時間の条件で焼戻しを施し、さらに860℃〜950℃の温度、0.5時間の条件で焼入れを施し、さらに、150℃〜300℃の温度、1.5時間の条件で焼戻しを行うことにより、表面硬さHvが650〜900、表層部の残留オーステナイト量が5体積%〜45体積%、芯部の残留オーステナイト量が5体積%以下、表層部の残留オーステナイト量が芯部の残留オーステナイト量の6倍以上で、かつ、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%〜2質量%である転動軸を提案している。この転動軸は、高温下、潤滑不良下、異物混入下、またはスミアリングや白色組織の発生しやすい環境下での使用によっても、塑性変形が生じにくく、耐久性に優れている。ただし、この転動軸は、従来のSUJ2鋼を用いた転動軸と比較して、転動疲労寿命が最大で7倍程度であり、さらなる改善が望まれている。
特許文献4では、熱処理工程において、820℃〜950℃の温度、3時間〜5時間の条件で浸炭窒化処理を施し、焼入れを施し、150℃〜800℃の温度、2時間の条件で調質または低温の第1焼戻しを施し、さらに、900℃〜950℃、1秒〜20秒の条件で、転走面となる部分のみ高周波焼入れを施し、最後に、150℃〜180℃、1.5時間の条件で第2焼戻しを施すことで、表面硬さHvが650〜900、表層部の残留オーステナイト量が15体積%〜50体積%、芯部の残留オーステナイト量が0体積%で、かつ、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%〜2質量%である転動軸を提案している。この転動軸は、高温下、潤滑不良下、異物混入下での使用によっても、塑性変形が生じにくく、耐久性に優れている。ただし、この転動軸は、高周波焼入れを必要としており、かつ、従来のSUJ2鋼を用いた転動軸と比較して、転動疲労寿命が最大で9倍程度であり、さらなる改善が望まれている。
特許文献5では、浸炭窒化処理、第1の焼戻し、焼入れの工程の後で、−100℃〜−30℃の温度で、0.5時間〜1.0時間保持するサブゼロ処理を行い、さらに、第2の焼戻しを施すことで、表面硬さHvが700〜900、表層部の残留オーステナイト量が20体積%〜50体積%、芯部の残留オーステナイト量が0体積%で、かつ、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%〜2質量%であって、高温下、潤滑不良下、異物混入下での転動疲労寿命と熱変形を改善した転動軸を提案している。ただし、この技術では、サブゼロ処理が必要であり、このようなサブゼロ処理を必要としない転動軸およびその製造方法が望まれている。
特開2002−4003号公報 特開2005−291342号公報 特開2008−150672号公報 特開2008−223104号公報 特開2010−1521号公報
本発明は、本発明者による上記の先行技術をさらに改善し、高周波焼き入れやサブゼロ処理などの追加的な処理を施すことなく、高温下、潤滑不良下、異物混入下、または白色組織の発生しやすい環境下で使用されても、塑性変形がより生じにくく、耐久性にさらに優れた、転動軸を提供することを目的としている。
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の対象となる転動軸は、相手部材である転動体に対して相対的に転動する転動軸であって、下記の5つの条件を満足することを特徴とする。
条件1:炭素を0.35質量%以上0.5質量%以下、クロムを2.5質量%以上7.0質量%以下、モリブデンを0.45質量%を超え3.0質量%以下、マンガンを0.5質量%以上2.0質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有する合金鋼で構成されている。なお、この合金鋼は、鉄を主成分としており、上記の添加元素のほか、不可避不純物を含む。
条件2:外周面には、硬化された表面部が形成されており、表面から50μmの位置における窒素含有量は0.25質量%以上0.7質量%以下であり、その表面硬さHvは650以上900以下である。
条件3:部材全体の残留オーステナイト量の平均値である平均残留オーステナイト量(体積%)が、前記クロム、モリブデン、およびケイ素の含有量の和(質量%)の0.45倍以上2.0倍以下である。
条件4:表面から50μmの位置における残留オーステナイト量は、15体積%以上45体積%以下である。
条件5:表面から50μmの位置における、ケイ素含有量、窒素含有量、残留オーステナイト量が次の関係式を満たす。
(ケイ素含有量(質量%)+窒素含有量(質量%))/残留オーステナイト量(体積%)>0.01
また、本発明の対象となる転動軸は、上述した条件1〜5を具備するとともに、下記の特性1および2を備えることを特徴とする。
特性1:本発明の転動軸をピニオンシャフトとして、ピニオンギヤの中心穴に挿通し、該ピニオンシャフトの外周面と該ピニオンギヤの内周面との間に、複数の針状ころを転動自在に介装することにより、該ピニオンギヤが該ピニオンシャフトを軸として回転自在となるように構成して、以下の条件で回転試験を実施した場合において、該ピニオンシャフトの転動疲労寿命を示す90%残余寿命が1500時間以上である。
[転動疲労寿命試験の条件]
・基本動定格荷重C:15500N
・基本静定格荷重C0:16700N
・ラジアル荷重:5000N
・ピニオンギヤの自転速度:10000min-1
・計算寿命L10:72.4時間
・潤滑油の種類:オートマチックトランスミッションフルード
・潤滑油の供給量:10ml/min
・潤滑油の温度:120℃
・潤滑油に添加した異物:鋼粉(直径74μm〜147μm、硬さHv600)
・異物の添加量:300ppm
特性2:前記回転試験終了後における前記ピニオンシャフトの塑性曲がり量が4μm以下である。
上述のような転動軸を造るために、本発明の転動軸の製造方法は、前記合金鋼に、浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとを含む熱処理を施すことにより、外周面に硬化された表面部を形成するとともに、該表面部に、窒素をさらに含有させる。
なお、前記平均残留オーステナイト量は、10体積%以下であることが好ましい。
このような本発明の転動軸の製造方法は、前記合金鋼によって構成される線材に、旋削加工、熱処理、外径粗研削、外径仕上げ研削、および超仕上げ研削を施して、転動軸を得る工程において、
前記熱処理を、(1)前記旋削加工により得られた円柱状部材に、雰囲気ガスに含まれる窒素量を、アンモニア換算で0.3m3/h以上0.8m3/h未満として、820℃以上980℃以下の温度で、3時間以上5時間以下の浸炭窒化処理を施し、(2)150℃以上200℃以下の温度で、0.5時間以上2時間以下の第1の焼戻しを施し、(3)860℃以上950℃以下の温度で、0.3時間以上2.0時間以下の焼入れを施し、さらに、(4)150℃以上300℃以下の温度で、1時間以上2時間以下の条件で第2の焼戻しを施す、工程により構成することが好ましい
本発明により得られる転動軸は、平均残留オーステナイト量が少ないことから、曲げ応力が発生する使用環境や、高温下、潤滑不良下、または異物混入下において使用された場合でも、塑性変形である曲がりが生じにくく、耐久性に優れている。
また、特に表面の窒素濃度が高められていることから、さらには、これにより、表面における残留オーステナイトの分解が抑止されることによって、白色はく離やエッジロードによる摩耗などの不具合が防止される。
図1は、遊星歯車装置の概略構造を示す斜視図である。
[合金鋼の組成]
本発明により得られる転動軸は、炭素を0.35質量%以上0.5質量%以下、クロムを2.5質量%以上7.0質量%以下、モリブデンを0.45質量%を超えて3.0質量%以下、マンガンを0.5質量%以上2.0質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有する合金鋼で構成されていることを特徴とする。なお、この合金鋼は、鉄を主成分としており、上記の添加元素のほか、不可避不純物を含む。
〔炭素の含有量について〕
炭素(C)は、基地に固溶して焼入れ、焼戻し後の硬さを向上させて強度を向上させるとともに、鉄、クロム、モリブデン、バナジウムなどの炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し、耐摩耗性を高める作用を有する元素である。耐転がり疲労性に必要な硬さを得るために行う浸炭窒化処理の時間が長くなるとコストアップを招くことから、処理時間の短縮のために、炭素の含有量は0.35質量%以上とする必要がある。ただし、0.5質量%を超えると、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動寿命や強度が低下する場合がある。また、鍛造性、冷間加工性、被削性が低下して、加工コストの上昇を招く場合がある。
〔クロムの含有量について〕
クロム(Cr)は、基地に固溶して焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性、および転動寿命を高める作用を有する元素である。また、炭素、窒素などの侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして、基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。さらに、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度の(Fe,Cr)3C、(Fe,Cr)73、(Fe,Cr)236などの炭化物からなるために、耐摩耗性を高める作用も有している。
合金鋼中のクロムの含有量が2.5質量%未満であると、前述の作用が十分に得られない場合があり、7.0質量%を超えると、冷間加工性、被削性、浸炭窒化性が低下してコストの上昇を招くおそれがある。さらに、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動寿命や強度が低下する場合がある。
〔モリブデンの含有量について〕
モリブデン(Mo)は、クロムと同様に、基地に固溶して焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性、および転動寿命を高める作用を有する元素である。また、クロムと同様に、炭素、窒素などの侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして、基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。さらに、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度のモリブデンの炭化物などからなるために、耐摩耗性を高める作用も有している。
合金鋼中のモリブデンの含有量が0.45質量%以下であると、前述の作用が十分に得られない場合があり、3.0質量%を超えると、冷間加工性、被削性が低下して、コストの上昇を招くおそれがある。さらに、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動寿命や強度が低下する場合がある。
〔マンガンの含有量について〕
マンガン(Mn)は、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.5質量%以上添加する必要がある。また、クロムと同様に、基地に固溶してMs点を降下させて、多量の残留オーステナイトを確保したり、焼入れ性を高めたりする作用を有している。ただし、2.0質量%を超えて添加すると、冷間加工性、被削性が低下するだけでなく、マルテンサイト変態開始温度が低下して、浸炭窒化後に多量の残留オーステナイトが残存し十分な硬さが得られない場合がある。
〔ケイ素の含有量について〕
ケイ素(Si)は、マンガンと同様に、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1質量%以上添加する必要がある。また、クロム、マンガンと同様に、焼入れ性を向上させるとともに、基地のマルテンサイト化や残留オーステナイトの安定化を促進し、軸受寿命の向上に有効な元素である。さらに、焼戻し軟化抵抗性を高める作用も有している。ただし、1.5質量%を超えて添加すると、鍛造性、冷間加工性、被削性、および浸炭処理性が低下する場合がある。
[表面処理]
本発明の転動軸の製造方法は、上記組成の合金鋼からなる線材に、旋削加工、熱処理、外径粗研削、外径仕上げ研削、および超仕上げ研削を順に施す。特に、本発明により得られる転動軸は、前記熱処理工程において、浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとが施されることにより、その外周面には、硬化された表面部が形成されており、その表面硬さHvは650以上900以下となっている。
異物混入下における転動軸の転がり寿命の低下は、異物の噛み込みによって形成された圧痕の盛り上がり縁部における応力集中が原因とされる。転動軸の表面硬さHvが650以上900以下であれば、転動軸の転走面の硬さが十分であり、圧痕が形成されにくいので、異物混入下で使用されても長寿命となる。表面硬さHvが650未満であると、硬さが不十分であるため圧痕が形成されるおそれがあり、900を超えると、焼入れ温度を高くする必要が生じるため、結晶粒径の粗大化により靱性が低下するおそれがある。
また、後述する転動軸の各特性を得るためには、前記浸炭窒化処理、焼入れ、焼戻しについて、以下の条件で行うことが重要である。
まず、浸炭窒化処理は、転動軸の素材、具体的には前記合金鋼からなる線材に前記旋削加工を施すことにより得られた円柱状部材を、RXガス(N2、H2、CO、CO2などの混合ガス)、エンリッチガス、アンモニアガスなどを含有する雰囲気下で、820℃以上980℃以下の温度で、3時間以上5時間以下の条件で加熱処理を行うことにより、施される。なお、雰囲気としては、RXガス、エンリッチガス、およびアンモニアガスの混合ガスからなる雰囲気とすることが好ましい。また、この雰囲気ガス内のアンモニア流量を0.3m3/h以上0.8m3/h未満とする。アンモニア流量が0.3m3/h未満では、表面から50μmの位置における窒素含有量を十分に高くすることができず、0.8m3/h以上になると、研削性などの加工特性に問題が生ずる。なお、このアンモニア流量については、雰囲気ガスが、アンモニアガス以外のガスを含む場合、全体の窒素量をアンモニア量に換算した場合の数値を意味するものとする。
浸炭窒化処理の温度が820℃未満であるか、処理時間が3時間未満である場合には、転動軸の表面に窒素および炭素が十分に含浸できず、浸炭窒化の効果が十分に得られない。一方、温度が980℃を超えるか、5時間を超える場合には、必要以上に窒素と炭素が含浸して、転動軸の表面部における炭素濃度と窒素濃度との和が1.5質量%を超えて、初析炭化物がネット上に発生して転がり寿命が低下したり、熱処理の生産性が低下したり、あるいは、熱処理後の研削加工性が低下するため、好ましくない。なお、転動軸の表面部の炭素濃度と窒素濃度との和を0.65質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましい。
この浸炭窒化処理の後に、通常大気下で、150℃以上200℃以下の温度、0.5時間以上2時間以下の条件で、第1の焼戻しを行うことが好ましい。
次に、860℃以上950℃以下の温度で、0.3時間以上2.0時間以下の焼入れを施す。この焼入れ後にも、150℃以上300℃以下の温度で、1時間以上2時間以下の条件で第2の焼戻しを施すことが好ましい。
これらの温度または時間の条件が下限を下回ると、それぞれの処理効果が十分に得られず、一方、これらの温度または時間の条件が上限を上回ると、残留オーステナイト量の増加など、得られる転動軸の特性が十分に得られないほか、熱処理の生産性が低下するなどの問題が生じるおそれがある。
[平均残留オーステナイト量]
本発明により得られる転動軸では、部材全体の残留オーステナイト量の平均値である平均残留オーステナイト量(体積%)が、前記クロム、モリブデン、およびケイ素の平均含有量の和(質量%)の0.45倍以上2.0倍以下である。なお、「平均残留オーステナイト量」とは、転動軸の全体における残留オーステナイト量の平均値を意味し、たとえば、転動軸の表面から芯部までの残留オーステナイト量の分布を、X線回折装置を用いて深さ方向に測定し、その平均値を算出することにより得ることができる。
残留オーステナイトは、荷重等の応力や熱が加わると、分解してフェライトとセメンタイトの混合物やマルテンサイトに変化するため、転動軸に塑性変形が生じる。CrおよびMoの作用により、高温下における残留オーステナイトの分解を抑制することは可能であるが、部材全体における残留オーステナイト量が多すぎると、長期間にわたって高温に曝された場合に残留オーステナイトの分解が生じてしまう。そして、寸法変化により隙間が減少するため、焼付きが生じるおそれがある。
よって、平均残留オーステナイト量を、部材全体のクロム、モリブデン、およびケイ素の平均含有量の和に対して、0.45倍以上2.0倍以下とする必要がある。すなわち、部材全体における、クロム含有量、モリブデン含有量、ケイ素含有量、および平均残留オーステナイト量が、次の関係式:0.45≦平均残留オーステナイト量(体積%)/(クロム含有量(質量%)+モリブデン含有量(質量%)+ケイ素残留量(質量%))≦2.0を満たす必要がある。
[表面から50μmの位置における残留オーステナイト量]
本発明により得られる転動軸では、表面から50μmの位置における残留オーステナイト量が、15体積%以上45体積%以下である。なお、「表面から50μmの位置における残留オーステナイト量」とは、転動軸の表面から50μmの位置における残留オーステナイト量の分布を同様に測定し、その平均値を算出することにより得ることができる。
転動軸の表面における残留オーステナイトは表面疲労を軽減する作用があるので、15体積%以上とする必要があり、20体積%以上とすることがより好ましい。一方、表面の残留オーステナイト量が多いと、表面硬さが低下したり、軸受の組み立て時に変形が生じやすくなり、組み立て性が低下したりする場合があるので、45体積%以下とする必要があり、40体積%以下とすることがより好ましい。
なお、「表面から50μmの位置」で定義をされる表面を除き、転動軸の芯部では、残留オーステナイト量は5体積%以下であることが好ましく、0体積%であることがより好ましい。
[表面から50μmの位置における窒素とケイ素の含有量]
本発明により得られる転動軸では、表面から50μmの位置における窒素含有量が0.25質量%以上0.7質量%以下であり、かつ、表面から50μmの位置において、ケイ素含有量、窒素含有量、残留オーステナイト量が、次の関係式:(ケイ素含有量(質量%)+窒素含有量(質量%))/残留オーステナイト量(体積%)>0.01を満たしている。
窒素は、窒化物や炭窒化物を形成して、摩擦摩耗特性を大きく向上させる作用を有している。また、表面から50μmの位置における窒素含有量が高くなるほど、得られる転動軸において塑性曲がりが抑えられる。これは、窒素濃度が高くなることにより、残留オーステナイトが加工誘起マルテンサイトへと変態することが抑制されるからである。そして、塑性曲がりが抑えられることにより、白色はく離の発生が抑えられるという効果が得られる。その作用を十分に発揮させるためには、転動軸の表面である、表面から50μmの位置における窒素含有量を0.25質量%以上とする必要があり、0.3質量%以上であることがより好ましい。ただし、加工特性を確保する観点から、窒素含有量を0.7質量%以下とすることが好ましい。また、かかる表面における窒化物または炭窒化物の濃度は、面積率で0.5%以上である必要があり、0.7%以上であることがより好ましい。
なお、従来、表面部における窒素の含有量が高いと、研削性などの加工特性に問題が生ずるとして、その含有量は抑えられていたのであるが、本発明では、表面から50μmの位置における窒素含有量を0.25質量%以上と高くして、その効果を積極的に利用しようとする点に特徴がある。このように、表面部における窒素濃度を高めるためには、浸炭窒化処理における雰囲気ガス内のアンモニア流量を増加させることが必要となる。
また、本発明により得られる転動軸では、表面に残留オーステナイトを存在させることに特徴があるが、窒素およびケイ素は、残留オーステナイトの分解を抑制する作用を有する。したがって、表面から50μmの位置において、残留オーステナイト量に対する、窒素とケイ素の含有量が不十分であると、長時間の使用により、表面の残留オーステナイトが分解し、その分解に伴って、転動軸に塑性変形が生じ、その寿命が低下してしまうこととなる。すなわち、上記関係式の値が0.01以下の場合には、かかる効果が十分に得られないこととなる。
なお、転動軸の表面である、表面から50μmの位置における炭素含有量と窒素含有量との和は、0.65質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましい。この範囲であると、耐摩耗性、耐転がり疲労性、耐熱性に優れることになるが、0.65質量%未満では、耐摩耗性の向上に有効な炭窒化物不十分となって、その効果が十分に得られなくなるおそれがある。なお、1.5質量%を超えると、耐摩耗性の向上に対しては有利であるが、初析炭化物がネット状に発生して転がり寿命が低下したり、熱処理の生産性が低下したり、あるいは熱処理後の研削加工性が低下したりするおそれがある。また、Ms点が下がりすぎて残留オーステナイト量が45体積%を超えてしまい、その結果、表面硬さHvが650未満となるおそれがある。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本発明により得られる転動軸は、遊星歯車装置のピニオンシャフトに好適に適用されるが、転動軸は、他の種類の様々な転がり軸受の内輪に相当する部材として適用することが可能である。
[転動軸の特性]
本発明は、転動軸の製造工程、特に熱処理工程において、調質(高温焼戻し)またはサブゼロ処理を施す必要もなく、また、高周波焼入れを施す必要なく、表面における窒素含有量、ケイ素含有量、および残留オーステナイト量を適切に規制し、白色はく離や摩耗に影響を受ける転動疲労寿命をさらに改善するとともに、芯部の残留オーステナイト量を極力少なくさせて、ピニオンシャフトの塑性曲がりを抑制することを可能とする点に特徴がある。
たとえば、本発明により得られる転動軸をピニオンシャフトとして、ピニオンギヤの中心穴に挿通し、その外周面とピニオンギヤの内周面との間に、複数の針状ころを転動自在に介装し、ピニオンギヤがピニオンシャフトを軸として回転自在となるように構成して、以下の条件で回転試験(転動疲労寿命試験)を実施した場合に、その転動疲労寿命を示す90%残存寿命(L10寿命)を1500時間以上とすることができる。また、この回転試験の終了後におけるピニオンシャフトの塑性曲がり量を4μm以下とすることができる。
[転動疲労寿命試験の条件]
・基本動定格荷重C:15500N
・基本静定格荷重C0:16700N
・ラジアル荷重:5000N
・ピニオンギヤの自転速度:10000min-1
・計算寿命L10:72.4時間
・潤滑油の種類:オートマチックトランスミッションフルード
・潤滑油の供給量:10ml/min
・潤滑油の温度:120℃
・潤滑油に添加した異物:鋼粉(直径74μm〜147μm、硬さHv600)
・異物の添加量:300ppm
また、本発明により得られる転動軸は、ラジアル荷重を8000N、計算寿命L10を15.1時間としたこと以外は、上述した転動疲労寿命試験と同様の条件で回転試験を実施した場合に、白色はく離の発生を抑制することができる。
なお、本発明の転動軸の製造方法は、上述した調質、サブゼロ処理、高周波焼入れを適宜追加することにより、得られる転動軸の特性をさらに向上させてもよく、このような改良は本発明の範囲内にある。
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。以下のような方法により、図1に示したものとほぼ同様の構成のピニオンシャフトを製造した。
〔合金鋼の種類とピニオンシャフトの製造〕
ここで、各種試験に用いるピニオンシャフトの製造方法を説明する。ピニオンシャフトの素材には、表1に示すような組成を有する15種の合金鋼を用いた。この合金鋼からなる17種類の線材に、旋削加工、熱処理、外径粗研削、外径仕上げ研削、および超仕上げ研削を施して、直径14.17mm、長さ70mmのピニオンシャフトをそれぞれ得た。
Figure 0005879681
なお、上記の加工はすべて公知の手段により行ったが、比較例1、比較例10〜12を除き、熱処理工程については、以下の条件で行った。すなわち、合金鋼製の線材を旋削加工することにより得た円柱状部材に、約900℃の温度、約3時間の条件で浸炭窒化処理を施した。次に、約170℃の温度、約2時間の条件で第1焼戻しを施した。なお、この浸炭窒化処理は、RXガス、エンリッチガス、およびアンモニアガスの混合ガスからなる雰囲気下で行った。また、この混合ガス内におけるアンモニアの流量は0.5m3/hであった。次に、約890℃の温度、約0.5時間の条件で焼入れを施し、最後に約180℃の温度、約1.5時間の条件で第2焼戻しを施した。
なお、比較例10は、浸炭窒化処理を約930℃、約3時間の条件で行った点で、比較例11は、浸炭窒化処理における混合ガス内のアンモニアの流量を0.2m3/hとした点で、比較例12は、浸炭窒化処理における混合ガス内のアンモニアの流量を0.8m3/hとした点で異なるほかは、同様の条件で処理を施した。また、これらの実施例、参考例および比較例では、いずれの焼戻しについても、低温焼戻しを行った。ただし、比較例1については、浸炭窒化処理を施しておらず、熱処理の内容は、約835℃の温度、約0.5時間の条件でのズブ焼入れおよび最後の焼戻しのみとした。また、いずれの実施例、参考例および比較例においても、浸炭窒化処理と焼入れとの間に、A1変態点よりも低い温度まで冷却する工程を経るようにした。
〔ピニオンシャフトの性状〕
得られたピニオンシャフトについて、表面から50μmの位置における窒素含有量(質量%)、表面から50μmの位置における窒素およびケイ素の含有量の和(質量%)、表面から50μmの位置における残留オーステナイト量(体積%)について、X線回折装置(株式会社リガク製)を用いて測定した。この測定結果を、上記の残留オーステナイト量に対する窒素およびケイ素の含有量の和の比について、表2に示す。
また、同様に、得られたピニオンシャフトの部材全体における平均残留オーステナイト量(体積%)を測定した。この測定結果を、この部材全体におけるクロム、モリブデン、およびケイ素の平均含有量(質量%)に対する平均残留オーステナイト量の比についても、表2に示す。
なお、同時に、ビッカース硬さ試験機(株式会社アカシ製、AVK−CO)を用いて、それぞれのピニオンシャフトの表面の硬さを測定したところ、Hv650〜900の範囲にあり、問題はなかった。
〔転動疲労寿命試験〕
ピニオンシャフトをプラネタリニードル試験機(日本精工株式会社製)に装着した。すなわち、ピニオンギヤの中心穴にピニオンシャフトを挿通し、ピニオンシャフトの外周面とピニオンギヤの内周面との間に、複数の針状ころを転動自在に介装して、ピニオンギヤがピニオンシャフトを軸として回転自在となるようにした。なお、針状ころとしては、高炭素クロム鋼(SUJ2)製で、直径2.5mm、長さ24.8mmの寸法を有し、かつ、JIS鋼種SCM415製で浸炭窒化処理が施されている保持器で保持されている、いわゆるケージアンドローラを用いた。
下記のような条件で回転試験を行い、ピニオンシャフト、ピニオンギヤ、針状ころのうち少なくとも一つが破損した時点で寿命に至ったとし、それまでの回転時間を転動疲労寿命とした。なお、転動疲労寿命は、90%残存寿命(L10寿命)を測定し、たとえば、1500時間回転させてもフレーキングや焼付きが生じなかった場合には、L10寿命が1500時間であるとした。潤滑油には、異物として直径74μm〜147μmの鋼粉(硬さHv600)を300ppm添加した。
・基本動定格荷重C:15500N
・基本静定格荷重C0:16700N
・ラジアル荷重:5000N
・ピニオンギヤの自転速度:10000min-1
・計算寿命L10:72.4時間
・潤滑油の種類:オートマチックトランスミッションフルード
・潤滑油の供給量:10ml/min
・潤滑油の温度 :120℃
〔白色はく離寿命試験について〕
下記のようにラジアル荷重などの条件が異なる以外は、上述の転動疲労寿命試験と同様にして回転試験を行い、ピニオンシャフトに白色はく離が発生した時点で寿命に至ったとし、それまでの回転時間を白色はく離寿命とした。
・ラジアル荷重:8000N
・計算寿命L10:15.1時間
なお、回転試験自体は、まず、ピニオンシャフト、ピニオンギヤ、針状ころのうちどの部材が最も破損しやすいか、もしくは白色はく離を生じやすいかについて、予備試験を行って、ピニオンシャフトが最も破損しやすく、かつ、白色はく離を生じやすいことを確認した後に、この回転試験を行った。
また、回転試験終了後に、ピニオンシャフトの塑性曲がり量について、ダイヤルゲージ(株式会社ミツトヨ製)を用いて、測定した。これらの試験結果を、表3に併せて示す。
Figure 0005879681
Figure 0005879681
〔評価〕
表3における耐久試験の結果から理解されるように、実施例1〜6および参考例7は、比較例1〜12と比べて格段に長寿命である。特に、実施例1〜6は、合金鋼中のクロムの含有量、表面から50μmの位置における窒素含有量、残留オーステナイト量、表面から50μmの位置における残留オーステナイト量に対する窒素およびケイ素の含有量の和の比、平均オーステナイト量、すなわち部材全体におけるクロム、モリブデン、およびケイ素の平均含有量に対する平均残留オーステナイト量の比のすべてが好適な値であり、高温下かつ異物混入潤滑下においても、フレーキングや焼付きがまったく生じなかった。なお、参考例7は、クロムの含有量が好適な範囲内にあるものの若干多い合金鋼を用いたため、非晶炭化物が生成しており、実施例1〜6と比べると若干寿命が短かった。なお、ピニオンシャフトを構成する材料の結晶性状は、金属顕微鏡(株式会社ニコン製、LV100D)を用いて確認した。
また、実施例1〜6および参考例7では、塑性曲がりを抑えることで、白色はく離の発生が防止されていることが理解される。
これに対して、比較例1〜9は、合金鋼の組成が本発明の範囲から外れているので、実施例1〜7と比べて短寿命であった。比較例1および2はSUJ2製であり、比較例1は、ズブ焼入れを施したもの、比較例2は、浸炭窒化処理を施したものであった。比較例2の浸炭窒化処理を施したものは、比較例1と比べると寿命が長くなっていたが、各実施例と比べると著しく短寿命であった。
一方、比較例10〜12は、それぞれ合金鋼の組成は好適であるものの、比較例10は、平均残留オーステナイト量が好適な範囲ではなく、比較例11は、表面から50μmの位置における残留オーステナイト量が好適な範囲ではなく、それぞれ焼付きが生じて短寿命であった。また、比較例12は、表面から50μmの位置における窒素含有量が多く、摩耗が激しく短寿命であった。
1 サンギヤ
2 リングギヤ
3 ピニオンギヤ
4 キャリア
5 ピニオンシャフト

Claims (3)

  1. 相手部材である転動体に対して相対的に転動する転動軸の製造方法であって、
    (1)炭素を0.35質量%以上0.5質量%以下、クロムを2.5質量%以上7.0質量%以下、モリブデンを0.45質量%を超え3.0質量%以下、マンガンを0.5質量%以上2.0質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる合金鋼で構成されており、
    (2)表面から50μmの位置における窒素含有量は0.25質量%以上0.7質量%以下であり、表面硬さHvは650以上900以下であり、
    (3)部材全体の残留オーステナイト量の平均値であり、体積%で表される平均残留オーステナイト量が、質量%で表される前記クロム、モリブデン、およびケイ素の含有量の和の0.45倍以上2.0倍以下であり、
    (4)表面から50μmの位置における残留オーステナイト量は、15体積%以上45体積%以下であり、および、
    (5)表面から50μmの位置における、ケイ素含有量、窒素含有量、残留オーステナイト量が、次の関係式:
    (ケイ素含有量(質量%)+窒素含有量(質量%))/残留オーステナイト量(体積%)>0.01
    を満たす、
    という条件を具備し、
    (6)前記転動軸をピニオンシャフトとして、ピニオンギヤの中心穴に挿通し、該ピニオンシャフトの外周面と該ピニオンギヤの内周面との間に、複数の針状ころを転動自在に介装することにより、該ピニオンギヤが該ピニオンシャフトを軸として回転自在となるように構成して、基本動定格荷重Cを15500N、基本静定格荷重C0を16700N、ラジアル荷重を5000N、該ピニオンギヤの自転速度を10000min-1および計算寿命L10を72.4時間とし、異物として、直径74μm以上147μm以下で硬さHvが600である鋼粉を300ppm含み、120℃に調整されたオートマチックトランスミッションフルードを10ml/minで供給して、回転試験を実施した場合において、該ピニオンシャフトの転動疲労寿命を示す90%残余寿命が1500時間以上であり、かつ、
    (7)前記回転試験終了後における前記ピニオンシャフトの塑性曲がり量が4μm以下である
    転動軸を造るために、
    前記合金鋼に、浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとを含む熱処理を施すことにより、外周面に硬化された表面部を形成するとともに、該表面部に、窒素をさらに含有させる
    ことを特徴とする、転動軸の製造方法
  2. 前記平均残留オーステナイト量が、10体積%以下である、請求項1に記載の転動軸の製造方法
  3. 前記熱処理は、
    (1)前記合金鋼によって構成される線材に旋削加工を施すことにより得られた円柱状部材に、雰囲気ガスに含まれる窒素量を、アンモニア換算で0.3m3/h以上0.8m3/h未満として、820℃以上980℃以下の温度で、3時間以上5時間以下の浸炭窒化処理を施し、
    (2)150℃以上200℃以下の温度で、0.5時間以上2時間以下の第1の焼戻しを施し、
    (3)860℃以上950℃以下の温度で、0.3時間以上2.0時間以下の焼入れを施し、さらに、
    (4)150℃以上300℃以下の温度で、1時間以上2時間以下の条件で第2の焼戻しを施す、
    工程からなり、
    その後、外径粗研削、外径仕上げ研削、および超仕上げ研削を施す、請求項1または2に記載の転動軸の製造方法。
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