JP5168958B2 - 転動軸 - Google Patents
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Description
さらに、荷重の増大とともに温度も上昇しているため、ピニオンシャフトに塑性変形が発生しやすい。この変形により、針状ころとピニオンシャフトとの間の滑りが増大して軌道面の摩耗やピーリングが生じるという問題や、針状ころとピニオンシャフトとの接触がエッジロードになって早期剥離に至るという問題が生じるおそれがある。
しかしながら、特許文献1に例示されているSUJ2,S55C,SAC5160,SCr420等の鋼でピニオンシャフトが構成されていると、高速回転や潤滑剤の汚染及び供給不足に耐え得るだけの転動疲労寿命の確保が困難な場合がある。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高温下、潤滑不良下、又は異物混入下で使用されても、塑性変形が生じにくく耐久性に優れる転動軸を提供することを課題とする。
条件1:炭素を0.3質量%以上0.5質量%以下、クロムを2質量%以上5質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である合金鋼で構成されている。
条件3:前記表層部の残留オーステナイト量は15体積%以上50体積%以下である。
条件5:前記表層部の厚さは軸直径の8%以上15%以下である。
さらに、本発明に係る請求項2の転動軸は、請求項1に記載の転動軸において、少なくとも一方の端部の硬さHvが150以上350以下であることを特徴とする。
図1に示す遊星歯車装置は、自動車用オートマチックトランスミッション等の遊星歯車機構に好適に使用されるものであり、図示しない軸が挿通されたサンギヤ1と、該サンギヤ1と同心に配されたリングギヤ2と、サンギヤ1及びリングギヤ2に噛み合いサンギヤ1の周りを公転する1個以上(図1においては3個)のピニオンギヤ3と、サンギヤ1及びリングギヤ2と同心に配されピニオンギヤ3を回転自在に支持するキャリヤ4と、を備えている。
異物潤滑混入下における遊星歯車装置の転がり寿命の低下は、異物の噛み込みによって形成された圧痕の盛り上がり縁部における応力集中が原因とされる。ピニオンシャフト5の表面硬さHvが650以上900以下であれば、針状ころの転走面の硬さが十分であり圧痕が形成されにくいので、異物混入下で使用されても長寿命である。表面硬さHvが650未満であると、硬さが不十分であるため圧痕が形成されるおそれがあり、900超過であると、高周波焼入れ温度を高くする必要が生じるため、結晶粒径の粗大化により靱性が低下するおそれがある。
さらに、残留オーステナイトは、荷重等の応力や熱が加わると、分解してフェライトとセメンタイトの混合物やマルテンサイトに変化するため、ピニオンシャフトに塑性変形が生じる。したがって、芯部の残留オーステナイト量を0体積%とすれば、ピニオンシャフト5の塑性曲がりを抑制することが可能である。
なお、表層部の厚さは、ピニオンシャフト5の直径の15%以下であることが好ましい。そうすれば、ピニオンシャフト5の塑性曲がりや膨張が生じにくいので、これらに起因する寿命低下が抑制される。表層部の厚さがピニオンシャフト5の直径の15%超過であると、残留オーステナイトの絶対量が多くなるため、残留オーステナイトの分解による塑性変形の影響が大きくなる場合がある。なお、表層部の厚さとは、有効硬化層深さであり、表面から硬さがHv550である深さ位置までの距離である。
〔炭素の含有量について〕
炭素(C)は、基地に固溶して焼入れ,焼戻し後の硬さを向上させて強度を向上させるとともに、鉄,クロム,モリブデン,バナジウム等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し耐摩耗性を高める作用を有する元素である。耐転がり疲労性に必要な硬さを得るために行う浸炭窒化処理の時間が長くなるとコストアップを招くことから、処理時間の短縮のために、炭素の含有量は0.3質量%以上である必要がある。ただし、0.5質量%超過であると、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動寿命や強度が低下する場合がある。また、鍛造性,冷間加工性,被削性が低下して、加工コストの上昇を招く場合がある。
クロム(Cr)は、基地に固溶して焼入れ性,焼戻し軟化抵抗性,耐食性,及び転動寿命を高める作用を有する元素である。また、炭素,窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。さらに、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度の(Fe,Cr)3 C、(Fe,Cr)7 C3 、(Fe,Cr)23C6 等の炭化物からなるために、耐摩耗性を高める作用も有している。
合金鋼中のクロムの含有量が2質量%未満であると、前述の作用が十分に得られない場合があり、5質量%を超えると、冷間加工性,被削性,浸炭窒化性が低下してコストの上昇を招くおそれがある。さらに、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動寿命や強度が低下する場合がある。
モリブデン(Mo)は、クロムと同様に基地に固溶して焼入れ性,焼戻し軟化抵抗性,耐食性,及び転動寿命を高める作用を有する元素である。また、クロムと同様に炭素,窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。さらに、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度のモリブデンの炭化物等からなるために、耐摩耗性を高める作用も有している。
合金鋼中のモリブデンの含有量が0.1質量%未満であると、前述の作用が十分に得られない場合があり、1.5質量%を超えると、冷間加工性,被削性が低下してコストの上昇を招くおそれがある。さらに、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動寿命や強度が低下する場合がある。
マンガン(Mn)は、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1質量以上添加する必要がある。また、クロムと同様に基地に固溶してMs点を降下させて、多量の残留オーステナイトを確保したり、焼入れ性を高める作用を有している。ただし、1.5質量%を超えて添加すると、冷間加工性,被削性が低下するだけでなく、マルテンサイト変態開始温度が低下して、浸炭窒化後に多量の残留オーステナイトが残存し十分な硬さが得られない場合がある。
ケイ素(Si)は、マンガンと同様に製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1質量以上添加する必要がある。また、クロム,マンガンと同様に焼入れ性を向上させるとともに、基地のマルテンサイト化や残留オーステナイトの安定化を促進し、軸受寿命の向上に有効な元素である。さらに、焼戻し軟化抵抗性を高める作用も有している。ただし、1.5質量%を超えて添加すると、鍛造性,冷間加工性,被削性,及び浸炭処理性が低下する場合がある。
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。以下のような方法により、上記の実施形態におけるピニオンシャフト5とほぼ同様の構成のピニオンシャフトを製造した。
このようにして得たピニオンシャフトの耐久性を評価するため、転動疲労寿命試験を行った。
ピニオンシャフトを日本精工株式会社製のプラネタリニードル試験機に装着した。すなわち、ピニオンギアの中心穴にピニオンシャフトを挿通し、ピニオンシャフトの外周面とピニオンギヤの内周面との間に、複数の針状ころを転動自在に介装した。これにより、ピニオンギヤはピニオンシャフトを軸として回転自在とされる。この針状ころは、高炭素クロム鋼(SUJ2)製であり、その寸法は直径2.5mm、長さ24.8mmである。また、針状ころは、JIS鋼種SCM415製の保持器で保持されてケージアンドローラとされている。なお、保持器には浸炭窒化処理が施されている。
・基本静定格荷重C0 :16700N
・ラジアル荷重 :5000N
・ピニオンギアの自転速度:10000min-1
・計算寿命L10 :72.4時間
・潤滑油の種類 :オートマチックトランスミッションフルード
・潤滑油の供給量 :10ml/min
・潤滑油の温度 :120℃
加締め部の耐久性を確認するため、加締め割れ試験と加締め部疲労試験を行った。加締め割れ試験は、ピニオンシャフトをキャリヤに加締めにより固定する際に、靱性不足から加締め部に破損が発生するか否かを確認する試験である。具体的には、日本精工株式会社製の加締めプレス試験機を用いて、加締め荷重2.0t、加締めスピード40mm/sの条件で、ピニオンシャフトをキャリヤに取り付け、加締め部であるピニオンシャフトの端部にクラック,割れ等の破損が発生するか否かを確認した。
結果を表4,5に示す。端部の硬さHvが350以下のものについては、破損は認められなかったが、端部の硬さHvが350より大きい実施例14は、靱性不足のために亀裂が生じた。
結果を表4,5に示す。端部の硬さHvが150以上のものについては、破損は認められなかったが、端部の硬さHvが150より小さい実施例15は、強度不足のために変形が生じ、キャリヤから脱落した。
2 リングギヤ
3 ピニオンギヤ
4 キャリヤ
5 ピニオンシャフト
Claims (3)
- 相手部材である転動体に対して相対的に転動する転動軸において、下記の5つの条件を満足することを特徴とする転動軸。
条件1:炭素を0.3質量%以上0.5質量%以下、クロムを2質量%以上5質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である合金鋼で構成されている。
条件2:前記転動体と摺動する表面には、浸炭窒化処理と高周波焼入れと焼戻しとが施され硬化されてなる表層部が形成されており、その表面硬さHvは650以上900以下とされている。
条件3:前記表層部の残留オーステナイト量は15体積%以上50体積%以下である。
条件4:前記浸炭窒化処理と前記高周波焼入れとの間に施される調質又はサブゼロ処理により、前記表層部の内側の芯部の残留オーステナイト量は0体積%である。
条件5:前記表層部の厚さは軸直径の8%以上15%以下である。 - 少なくとも一方の端部の硬さHvが150以上350以下であることを特徴とする請求項1に記載の転動軸。
- 前記表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%以上2質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転動軸。
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