JP5335523B2 - 耐曲げ疲労性および耐剥離性に優れた歯車用軸鋼並びに歯車用軸 - Google Patents
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Cは、軸鋼に必要な硬さを確保する上で重要な元素である。C含有量が0.50%未満となると、300℃断面平均硬さが不足し、曲げ疲労強度および剥離強度が低下する。しかしながら、C含有量が過剰になると、硬さが上昇しすぎて被削性が低下したり、或は耐圧痕性を劣化させる残留γ量が増加するので、0.70%以下とする必要がある。尚、C含有量の好ましい下限は0.55%(より好ましくは0.58%)であり、好ましい上限は0.65%(より好ましくは0.62%)である。
Siは、300℃における耐軟化性確保のために必要な元素であり、こうした効果を有効に発揮させるためには、Si含有量は1.2%以上とする必要があり、好ましくは1.3%以上(更に好ましくは1.5%以上)とするのが良い。しかしながら、Si含有量が過剰になると、被削性が低下するので、2.5%以下とする必要がある。尚、Si含有量の好ましい上限は2.2%(より好ましくは2.1%)である。
Mnは、焼入性を向上させて鋼材の硬さを向上させる上で重要な元素である。Mn含有量が0.4%未満となると、300℃断面平均硬さが不足し、曲げ疲労強度および剥離寿命が低下する。一方、Mn含有量が過剰になると、Mnはマルテンサイト変態開始点(Ms点)低下元素でもあるため、耐圧痕性を劣化させる残留γ量が増加するので、1.0%以下とする必要がある。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.5%(より好ましくは0.6%)であり、好ましい上限は0.9%(より好ましくは0.7%)である。
Pは、鋼材中に不可避的に含まれる元素(不純物)であり、結晶粒界に偏析して部品の衝撃特性を低下させる元素であるため、できるだけ低減することが好ましい。こうした観点から、P含有量は0.02%以下とする必要がある。P含有量は好ましくは、0.018%以下であり、より好ましくは0.015%以下であり、更に好ましくは0.010%以下とするのがよい。Pは、その量を0%とすることは工業的に困難である。
Sは、Mnと結合してMnS介在物を形成し、疲労強度、衝撃強度を低下させるので、できるだけ低減することが好ましい。しかしながら、Sは被削性を向上させる元素でもあるので、その含有量は適宜調整する必要がある。通常の機械構造用鋼では、疲労強度、衝撃特性を確保するという観点から、0.03%以下とする必要がある。尚、S含有量は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは0.015%以下とするのがよい。但し、Sは、鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは工業的に困難である。
Crは、鋼材の焼入性を高め、鋼材の硬さを向上させるために有効な元素である。Cr含有量が0.5%未満となると、300℃断面平均硬さが不足し、曲げ疲労強度および剥離寿命が低下する。一方、Cr含有量が過剰になると、CrはMs点低下元素でもあるため、耐圧痕性を劣化させる残留γ量が増加するので、2%以下とする必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限は0.6%(より好ましくは0.8%)であり、好ましい上限は1.8%(より好ましくは1.1%)である。
Alは、脱酸剤として作用し、酸化物系介在物を低減して鋼材の内部品質を高めるのに有効な元素であるため、適量含有させることが好ましい。しかしながら、Al含有量が過剰になると、鋼材中の粗大な硬い非金属介在物(Al2O3)が生成し、疲労特性を低下させるので0.08%以下とする必要がある。尚、Al含有量は、好ましくは0.070%以下であり、より好ましくは0.050%以下とするのがよい。
Nは、鋼材に不可避的に含まれる元素(不純物)であり、N量が多くなると粗大なTiN介在物が生成して切削性や転動疲労強度を低下させると共に、鋼材の硬さ、変形抵抗を増大させ鍛造性を低下させるので、できるだけ低減することが好ましい。こうした観点から、N含有量は0.03%以下とする必要がある。N含有量は好ましくは、0.020%以下であり、より好ましくは0.015%以下とするのがよい。
NiとVは、焼入性を向上させ、焼入性を向上させて鋼材の硬さを向上させる上で重要な元素である。しかしながら、いずれもその含有量が0.3%を超えると、Ms点低下元素でもあることによって、残留γ量が増加し、曲げ疲労強度および剥離寿命が低下することになる。尚、より好ましい上限はいずれも0.25%(更に好ましくは0.15%)である。
CaはOと反応してCaOとなり、切削時に工具表面にベラーグを形成することができるため、工具寿命が向上する元素である。こうした効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、0.0030%を超えて過剰に含有されると、多量のCaOが生成し、曲げ疲労強度を低下させることになる。Ca含有量のより好ましい上限は0.0025%である。
Biは鉛(Pb)と同様の挙動を示し、液体金属脆化することから切削性を向上させるのに有効である。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、Biの含有量が過剰になると、圧延時間に割れや疵等の不良を招くので、0.02%以下とすることが好ましい。Bi含有量のより好ましい上限は、0.015%である。
Bは微量で鋼材の焼入性を大幅に向上させる効果があることに加え、結晶粒界を強化し衝撃強度を高める作用があるため、必要によって含有させる。しかしながら、Bを過剰に含有させてもその効果が飽和するばかりか、コストアップを招くので、0.0030%以下とすることが好ましい。より好ましい上限は、0.0020%である。また、Bの添加効果を有効に発揮させるためには、0.0005%以上(より好ましくは0.0010%以上)含有させることが好ましい。
試験片の一部を採出し、300℃断面平均硬さは、300℃で3時間焼戻しした後、表面から深さ50μmの位置から深さ2mmの位置までの範囲を、50μmピッチ間隔(40箇所)で荷重2.94Nで硬さ測定を行い、得られた硬さ総和を40(測定箇所数)で除した値を採用した。
試験片の一部を採出し、300℃で3時間焼戻しした後、表面から深さ200μmの位置までの範囲を、50μmピッチ間隔(5箇所)で、微小部X線測定装置(リガク社製)を用いて測定し、得られた残留γ量の総和を5(測定箇所数)で除した値を採用した。
4点曲げ疲労強度は、油圧サーボ試験機(200kN仕様:島津製作所製)を用い、4点支持になる治具を用いて、5〜20Hzの振幅で、S−N線図(応力S−繰返数N線図)を作成し、このS−N線図に基づいて100サイクル時の応力Sを求め、その値を4点曲げ疲労強度とした。また、一般的な肌焼鋼であるSCr420Hの浸炭品の硬さを1(100%)としたときの強度比も示した。尚、4点曲げ疲労強度試験で用いた試験片の形状を図2(概略説明図)に示す。
剥離寿命の評価は、2円筒試験機(「RP201型」コマツエンジニアリング製)を用いて、試験面圧:2.5GPa、回転速度:1500rpm、相対すべり率:60%、試験油温度:90℃の条件で行い、剥離が発生した時点を寿命とした。また、一般的な肌焼鋼であるSCr420Hの浸炭品の寿命を1(100%)としたときの寿命比も示した。剥離寿命試験で用いた試験片の形状を図3(概略説明図)に示す。
Claims (6)
- C:0.50〜0.70%(質量%の意味、以下同じ)、Si:1.2〜2.5%、Mn:0.4〜1.0%、P:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.5〜2%、Al:0.08%以下(0%を含まない)、N:0.03%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなるものであることを特徴とする耐曲げ疲労性および耐剥離性に優れた歯車用軸鋼。
- 更に、Ni:0.3%以下(0%を含まない)および/またはV:0.3%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の歯車用軸鋼。
- 更に、Ca:0.0030%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の歯車用軸鋼。
- 更に、Bi:0.02%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の歯車用軸鋼。
- 更に、B:0.0030%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の歯車用軸鋼。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の化学成分組成を有し、熱処理後の表層領域における残留オーステナイト量が20体積%以下であることを特徴とする歯車用軸。
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