JP2945714B2 - 高面圧歯車 - Google Patents

高面圧歯車

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Description

【発明の詳細な説明】 【発明の目的】
(産業上の利用分野) 本発明は、各種機械装置類の構成要素として利用さ
れ、とくに、ピッチング寿命等の面圧疲労強度が高く、
かつまた、歯元疲労強度が高く、強靭で信頼性の高い高
面圧歯車に関するものである。 (従来の技術) 近年、自動車においてその高出力化および軽量化が進
み、歯車類、シャフト類などの高強度化ならびに高信頼
性の要求は年々強まっている。 これに伴い、とくに歯車類に適用される高強度歯車用
鋼の開発が進んでおり、例えば、特開昭60−21539号公
報に記載されているように、浸炭層の靭性を劣化させる
不完全焼入層である粒界酸化層を低減させるためにSi,P
を低減し、Pの粒界偏析を抑制して粒界強度を高めて不
完全焼入層を出現しにくくするMoを添加し、焼入性を向
上させて粒内の強度を増加するNiを添加するようにした
歯車用鋼もあった。 さらに、歯車類の素材面からの改良に加えて、最近で
はショットピーニングによる高強度化の手法が多く採用
されている。この手法は、ショットピーニングを施すこ
とによって残留オーステナイトを加工誘起マルテンサイ
トに変態させることにより被ショットピーニング部に残
留応力を付与するようにしたものであって、この残留応
力が負荷応力を緩和する働きをなすため、疲れ限度が著
しく向上する。 (発明が解決しようとする課題) しかしながら、上記したような従来の素材の選定およ
びショットピーニングの実施による高強度化をはかった
歯車類にあっては、歯元の疲労強度は著しく強化される
ものの、相対的に歯面の強度が低下するため、破壊の起
点が歯面側に移行し、歯車の寿命が歯面のピッチング寿
命およびフレーキング寿命に律速されるようになってし
まうという問題点があった。 そして、ピッチング寿命を向上させるためには、焼も
どし軟化抵抗を高めるSiの添加が通常の場合に有効であ
るが、通常のガス浸炭においては粒界酸化層の生成を助
長させて、歯元疲労強度を低下させるため、Siの添加は
むしろ逆効果になるといった問題点があった。 そのため、従来の高強度歯車用鋼素材の選定とショッ
トピーニングの実施との組み合わせによる歯車の疲労強
度向上には限界があるという課題があった。 (発明の目的) 本発明は、上述した従来の課題にかんがみてなされた
ものであって、とくに、ピッチング寿命等の面圧疲労強
度が高く、かつまた、歯元疲労強度が高く、強靭で信頼
性の高い高面圧歯車を提供することを目的としている。
【発明の構成】
(課題を解決するための手段) 本発明に係わる高面圧歯車は、重量%で、C:0.10〜0.
30%、Si:0.25〜1.50%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.015%以
下、S:0.020%以下、Cr:2.0%以下、Mo:0.2〜1.0%、Si
+Mo:0.6〜2.0%、Al:0.010〜0.060%、N:0.005〜0.025
%、O:0.0015%以下、残部Feおよび不純物よりなる鋼を
素材とし、プラズマ浸炭もしくは真空浸炭により浸炭処
理した表面にアークハイトが0.4mmA以上のショットピー
ニングが施されている構成としたことを特徴としてお
り、必要に応じて、素材中に、焼入性向上元素として、
Ni:4.0%以下を含有している構成とし、同じく必要に応
じて、素材中に、結晶粒微細化元素として、Nb:0.006〜
0.050%,V:0.05〜0.30%,Ta:0.003〜0.025%,Zr:0.003
〜0.025%のうちから選ばれる1種または2種以上を含
有している構成とし、同じく必要に応じて、素材中に、
被削性向上元素として、B:0.001〜0.030%を含有してい
る構成としたことを特徴としており、上記した高面圧歯
車の構成を前述した従来の課題を解決するための手段と
している。 次に、本発明に係わる高面圧歯車の成分組成(重量
%)ならびに浸炭およびショットピーニング条件の限定
理由について説明する。 C:0.10〜0.30% Cは歯車の強度を確保するのに有用な元素であるが、
0.10%よりも少ないと強度の低下を招くので好ましくな
く、0.30%を超えると靭性の劣化を招くので、C含有量
は0.10〜0.30%の範囲とした。 Si:0.25〜1.50% Siはピッチング寿命等の面圧疲労強度を向上させるた
めに焼もどし軟化抵抗性を高めるのに有用な元素である
が、0.25%よりも少ないと十分な焼もどし軟化抵抗性を
得ることができなくなるので好ましくなく、1.50%を超
えると靭性の劣化を招くので、Si含有量は0.25〜1.50%
の範囲とした。 Mn:0.2〜2.0% Mnは鋼溶製時の脱酸および脱硫元素として有用である
と共に焼入性の向上にも寄与する元素であるが、0.2%
よりも少ないと前記した脱酸および脱硫作用が十分に得
られないと共に焼入性の向上効果も小さなものとなるた
め好ましくなく、2.0%を超えると靭性の劣化を招くと
共に、不純物元素の粒界への偏析を助長することとなる
ので、Mn含有量が0.2〜2.0%の範囲とした。 P:0.015%以下 Pはオーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させる
ことにより靭性を劣化させるので、0.015%以下とし
た。 S:0.020%以下 SはMnSを形成して靭性を劣化させるので、0.020%以
下とした。 Cr:2.0%以下 Crは焼入性を向上させるのに有用な元素であるが、多
すぎると靭性を劣化させると共に冷間鍛造性の劣化を招
くこととなるので、2.0%以下とした。 Mo:0.2〜1.0% MoはPの粒界偏析を抑制して粒界強度を高め、また、
焼入性を十分なものにすると共に焼もどし軟化抵抗性を
高めて靭性を向上させ、ピッチング寿命等の面圧疲労強
度を向上させるのに有用な元素であるが、0.2%よりも
少ないとPの粒界偏析の抑制作用が十分でなくなると共
に十分な焼入性や焼もどし軟化抵抗性を確保することが
できなくなるので好ましくなく、1.0%を超えると焼入
性向上の効果が飽和するので、Mo含有量は0.2〜1.0%の
範囲とした。 Si+Mo:0.6〜2.0% SiおよびMoは、前記したように、ピッチング寿命等の
面圧疲労強度を向上させるために、焼もどし軟化抵抗を
大きくする合金成分として添加させるものであり、Siと
Moによる焼もどし軟化抵抗増大の効果は同程度であっ
て、このような効果を得るためにはSiとMoの合計量を0.
6%以上とすることが必要である。しかし、多すぎるとA
c3変態点の上昇を招き、浸炭処理時にフェライトを生成
しやすくなって、不完全焼入層が形成されやすくなるの
で、SiとMoの合計量は2.0%以下とすることが必要であ
る。 Al:0.010〜0.060% Alは鋼溶製時の脱酸剤として作用すると共に、結晶粒
を微細化させ、クラック伝播の抵抗を増大させて、浸炭
層の靭性を増加させるのに有用な元素であるが、0.010
%よりも少ないと脱酸や結晶粒微細化の作用が小さくな
るので好ましくなく、0.060%よりも多いと地疵の発生
を招くこととなるので、Al含有量は0.010〜0.060%の範
囲とした。 N:0.005〜0.025% Nは上記Alと共にAlNによる結晶粒の微細化に有用な
元素であると共に、Bを添加した場合のBNによる被削性
の向上に有用な元素であるが、0.005%よりも少ないと
前記AlNによる結晶粒の微細化作用やBNによる被削性の
向上作用が十分なものとなりがたいので好ましくなく、
0.025%より多くしても効果が飽和すると共に鋼の製造
性を低下させ、地疵の発生を招くので、N含有量は0.00
5%〜0.025%の範囲とした。 O:0.0015%以下 O含有量が多すぎると疲労起点となるAl2O3の生成を
招くので、0.0015%以下とした。 Ni:4.0%以下 Niは焼入性を向上させて結晶粒内の強度を増加させる
のに有用な元素であるので、必要に応じて添加するのも
よいが、多すぎても焼入性向上の効果は飽和すると共に
かえってPの粒界偏析を助長するので、含有させるとし
ても4.0%以下とすることが必要である。 Nb:0.006〜0.050%,V:0.05〜0.30%,Ta:0.003〜0.025
%,Zr:0.003〜0.025%のうちから選ばれる1種または2
種以上 Nb,V,Ta,Zrは結晶粒を微細化して靭性を向上させるの
に有用な元素であるので、これらの1種または2種以上
を必要に応じて添加するのも良い。しかし、Nbが0.006
%未満,Vが0.05%未満,Taが0.003%未満,Zrが0.003%未
満であると上記した結晶粒の微細化作用は十分に得られ
なくなるので好ましくなく、反対にNbが0.050%を超え,
Vが0.30%を超え,Taが0.025%を超え,Zrが0.025%を超
えると炭窒化物が粗大化して結晶粒微細化の効果が消失
するので、含有させるとしても上述した各範囲内の1種
または2種以上とする必要がある。 B:0.010〜0.030% Bは鋼中のNと結合してBNを形成することにより被削
性を向上させるのに有効な元素であるので、被削性のよ
り一層の向上が望まれる場合には必要に応じて含有させ
るのもよい。しかし、0.001%よりも少ないと被削性向
上の効果が小さく、0.030%を超えると機械的性質が劣
化するので、含有させるとしても0.001〜0.030%の範囲
とする必要がある。 浸炭処理:プラズマ浸炭もしくは真空浸炭 本発明に係わる高面圧歯車では、ピッチング寿命等の
面圧疲労強度を向上させるために、焼もどし軟化抵抗を
高める合金成分としてSiおよびMoを添加しているが、Si
の添加により通常のガス浸炭では粒界酸化層がより多く
形成されてこの粒界酸化層が疲労起点となることにより
曲げ疲労強度が低下することとなって靭性が劣化したも
のとなり、浸炭後のショットピーニング効果も低下する
ので、浸炭処理としては粒界酸化層を生成しないプラズ
マ浸炭もしくは真空浸炭を実施することとした。 これらのプラズマ浸炭や真空浸炭ではSi含有量が多い
ときでも粒界酸化層が全く認められないものとなるの
で、この後に実施されるショットピーニングによる強化
が著しく有効に作用するものとなる。 ショットピーニング:アークハイトが0.4mmA以上 浸炭処理後に実施されるショットピーニングは、歯車
の歯元疲労強度のみならずピッチング寿命等の面圧疲労
強度を向上させるのに有効であることが判明したので、
このような効果を得るためにアークハイトが0.4mmA以上
のショットピーニングを実施することとした。 本発明に係わる高面圧歯車は、上述した組成の歯車用
鋼を素材とするものであり、このような組成の歯車用鋼
を素材として歯車を製作する場合に機械加工を行うに際
しては、従来既知の技術に従って行えばよいが、ショッ
トピーニングによる表面粗さを除去するために、研削や
ホーニング等の加工を行うことも必要に応じて望まし
い。 また、浸炭処理として真空浸炭を用いる場合には、高
温の熱処理であって結晶粒が粗大化しやすいことを考慮
して、Al,NのみならずNb,V等の結晶粒微細化元素を複合
添加することも必要に応じて望ましい。 (発明の作用) 本発明に係わる高面圧歯車は、上記の構成を有するも
のであり、歯車のピッチング寿命等の面圧疲労強度を向
上させるために、焼もどし軟化抵抗を増大させる合金成
分として、Si,Moを添加し、Siの添加により通常のガス
浸炭では粒界酸化層が著しく形成されて靭性が劣化し、
ショットピーニングの効果も低減するので、浸炭処理と
して粒界酸化層を生成しないプラズマ浸炭または真空浸
炭を選定することとしてこの後にショットピーニングを
行うようにしていることから、浸炭処理後に粒界酸化層
が全く認められなくなってこの後のショットピーニング
による強化が著しく有効に作用することとなって、ピッ
チング寿命等の面圧疲労強度が高いものとなり、かつま
た、歯元疲労強度が高いものとなって、強靭で信頼性の
高い高面圧歯車となる。 (実施例) 第1表に示す発明例A〜Mおよび比較例N〜Sの化学
成分の鋼を溶製したのち造塊して圧延し、焼ならしを施
したのち各々試験片に加工して第2表に示す条件で浸炭
焼入れを行った。 なお、第1表において、発明例A〜Mは本発明が適用
される鋼成分範囲を満足するものであり、比較例NはJI
S SCM420鋼であり、比較例OはP,S,Oの不純物が多すぎ
る鋼であり、比較例Pは低Si鋼であり、比較例Qは低Mo
鋼であり、比較例Rは低Si+Mo鋼であり、比較例Sは低
Al,N鋼である。 次いで、前記各試験片に対して第2表に示す条件で浸
炭焼入れを施した。 続いて、前記条件で浸炭焼入れ焼もどしを施したあと
第3表に示す条件でショットピーニングを行った。 次に、第4表に示す条件によりローラーピッチング試
験を行って、各供試材のピッチング寿命を測定した。こ
の結果を第6表のピッチング寿命の欄に示す。 また、第5表に示す仕様の歯車を作製し、これら各歯
車を動力循環式歯車試験機にかけて5000rpmで動力伝達
を行い、繰り返し数107回まで繰り返し応力を加えて、
歯元応力と繰り返し数との関係をS−N曲線に表わし、
その限界から疲れ限度と破損応力を読み取って各歯車の
疲れ強さを評価した。この結果を第6表の歯車疲れ強さ
の欄に示す。 さらに、前記第5表に示した仕様の歯車を計装化歯車
衝撃試験に固定部と回転部の一組を装着し、ハンマーに
て衝撃荷重を与えてそのときの荷重値を読みとることに
よって各歯車の衝撃特性を調べた。この結果を第6表の
歯車衝撃破断荷重の欄に示す。 第6表に示すように、本発明例A〜Mでは、ピッチン
グ寿命が大きく、歯車疲れ強さが大であると共に、歯車
衝撃破断荷重も大きな値を示すことが認められ、強靭で
信頼性の高い高面圧歯車となっていることが確かめられ
た。 これに対して、従来のJIS SCM420鋼を素材とした比較
例Nでは本発明と同様のプラズマ浸炭およびショットピ
ーニングを施してはいるもののいずれの特性も低い値を
示していた。また、不純物含有量の多い比較例Oにあっ
てもいずれの特性も低いものとなっておりとくにAl2O3
が多量に存在するため転動寿命,ピッチング寿命が低
く、Pの粒界酸化偏析のために衝撃値も低いものとなっ
ていた。 さらに、低Siの比較例P,低Moの比較例Q,低Si+Moの比
較例Rにおいては焼もどし軟化抵抗が低いため転動中に
発生する熱による軟化が原因で転動寿命が低いものとな
っており、低Al,Nの比較例Sでは浸炭中に結晶粒が粗大
化するため衝撃値が低いものとなっていた。 さらにまた、比較のために、本発明が適用される第1
表に示すA鋼を素材とするもののショットピーニングを
行わなかった比較例A1およびショットピーニングを行っ
たとしてもアークハイトが低い比較例A2の場合は歯車衝
撃破断荷重は良好な値を示すもののピッチング寿命およ
びは歯車疲れ強さは良くないものであった。 さらにまた、本発明が適用される第1表に示すA鋼を
素材とするものの通常用いられるガス浸炭を施した比較
例a1では粒界酸化層が深くショットピーニングの効果が
小さくなるため、いずれの特性においてもかなり劣った
ものとなっていることが認められた。
【発明の効果】
本発明に係わる高面圧歯車は、重量%で、C:0.10〜0.
30%、Si:0.25〜1.50%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.015%以
下、S:0.020%以下、Cr:2.0%以下、Mo:0.2〜1.0%、Si
+Mo:0.6〜2.0%、Al:0.010〜0.060%、N:0.005〜0.025
%、O:0.0015%以下、必要に応じて、焼入性向上元素と
して、Ni:4.0%以下を含有し、同じく必要に応じて、結
晶粒微細化元素として、Nb:0.006〜0.050%,V:0.05〜0.
30%,Ta:0.003〜0.025%,Zr:0.003〜0.025%のうちから
選ばれる1種または2種以上を含有し、同じく必要に応
じて、被削性向上元素として、B:0.001〜0.030%を含有
し、残部Feおよび不純物よりなる鋼を素材とし、プラズ
マ浸炭もしくは真空浸炭により浸炭処理した表面にアー
クハイトが0.4mmA以上のショットピーニングが施されて
いる構成としたことから、ピッチング寿命等の面圧疲労
強度が高く、かつまた、歯元疲労強度が高く、強靭で信
頼性の高い高面圧歯車であるという著しく優れた効果が
もたらされる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI F16H 55/06 F16H 55/06

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.25〜1.5
    0%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.015%以下、S:0.020%以下、
    Cr:2.0%以下、Mo:0.2〜1.0%、Si+Mo:0.6〜2.0%、A
    l:0.010〜0.060%、N:0.005〜0.025%、O:0.0015%以
    下、残部Feおよび不純物よりなる鋼を素材とし、プラズ
    マ浸炭もしくは真空浸炭により浸炭処理した表面にアー
    クハイトが0.4mmA以上のショットピーニングが施されて
    いることを特徴とする高面圧歯車。
  2. 【請求項2】素材中に、焼入性向上元素として、Ni:4.0
    %以下を含有している請求項第(1)項に記載の高面圧
    歯車。
  3. 【請求項3】素材中に、結晶粒微細化元素として、Nb:
    0.006〜0.050%,V:0.05〜0.30%,Ta:0.003〜0.025%,Z
    r:0.003〜0.025%のうちから選ばれる1種または2種以
    上を含有している請求項第(1)項または第(2)項に
    記載の高面圧歯車。
  4. 【請求項4】素材中に、被削性向上元素として、B:0.00
    1〜0.030%を含有している請求項第(1)項,第(2)
    項または第(3)項のいずれかに記載の高面圧歯車。
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