JP5635316B2 - 疲労強度に優れた歯車およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は自動車および各種産業機器に用いる高い面圧疲労強度を有する歯車とその製造方法に関し、特にファイナルギヤ用として好適なものに関する。
自動車等に用いられている歯車は、近年、省エネルギーのための車体軽量化に伴って小型化が要求される一方、エンジンの高出力化により負荷が増大していることから、歯元の曲げ疲労破壊ならびに歯面の面圧疲労破壊に対する耐久性の向上が求められている。
従来、JISSCM420H、SCM822H等の肌焼鋼を用いて歯車を成形し、浸炭等の表面処理を行い自動車等に使用されてきたが、高応力下での使用には耐えられないため、鋼材の変更、熱処理方法の変更、表面の加工硬化処理により歯元曲げ疲労強度、耐ピッチング性を向上させる研究開発が進められてきた。
たとえば、特許文献1には、鋼中のSiを低減し、Mn、Cr、Mo、Niをコントロールする事により、浸炭熱処理後の表面の粒界酸化層を低減し、亀裂の発生を少なくし、不完全焼入層生成を抑制する事により、表面硬さの低減を抑え、疲労強度を高める事、さらにCa添加により亀裂の発生・伝播を助長するMnSの延伸を制御する方法が記載されている。
また、特許文献2では素材としてSiを0.25〜1.50mass%添加した鋼材を用いて焼戻し軟化抵抗を高める事が記載されている。
特公平07−122118号公報 特許第2945714号公報
しかしながら、特許文献1により、Siを低減した場合、粒界酸化層、不完全焼入れ層を低減し、歯元での曲げ疲労亀裂発生を抑えることは可能であるが、逆に焼戻し軟化抵抗の低下を招き、破壊の起点が歯元から歯面側に移行し、歯面での摩擦熱による焼戻し軟化を抑える事が出来なくなり、表面が軟化してピッチングが発生しやすくなるという問題がある。
特許文献2では焼戻し軟化抵抗を上げるためにSi等を添加して、粒界酸化進行の抑制のために浸炭工法を真空浸炭あるいはプラズマ浸炭等に限定する方法が採られているが、この方法では製造コストが上がり、量産化するには有効ではない。
本発明は、上述した問題を解決して、疲労特性に優れた歯車および量産可能なその製造方法を提供することを目的とする。
本発明では、上記課題を解決するために、鋭意研究を行い、以下のことを見出した。
1.歯面のピッチングによる破壊を抑制するには表面硬さを高く、表面圧縮残留応力を高くする事が効果的である。さらに歯車駆動時に歯面の表面が低温焼戻しされる事による特性低下を抑制する事でさらなる長寿命化が可能となる。
2.表面硬さは高いほど、面疲労における亀裂の発生が抑制されるが、浸炭後の硬さには限界がある。そこで、浸炭後の表面に残留オーステナイトを適度に析出させた後にショットピーニング処理を行う事で、表面硬さを飛躍的に向上させることが可能となる。
3.表面圧縮残留応力はピッチングが生じた部分からの亀裂進展を抑制し、寿命を延ばすことが可能である。その最大値はより表層に近く、高いほど望ましい。
4.鋼材のSi増量添加は焼戻し軟化抵抗を高めて硬度の低下を少なくするだけではなく、表面の圧縮残留応力の低下を抑え、それによって、歯車駆動時に歯面の亀裂発生・進展の遅延が図れる。
5.Si添加による表面酸化は多くなるが、表面の粒界・粒内の全域で酸化が進行するために深さ方向への進展が遅れる。また、ショットピーニングを行う事で表層の酸化層が剥離するために粒界に沿った酸化だけが進行するような鋼よりも表面の欠陥が少なくなり歯面のピッチング発生防止にも、歯元での亀裂発生防止にも効果がある。
6.歯車駆動時の表面硬度の低下および圧縮残留応力の低下は300℃で1時間の焼戻しをした後の特性と相関が深い。
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであり、すなわち
(1)成分組成が、C:0.15〜0.35mass%、Si:0.6〜1.1mass%、Mn:0.3〜1.3mass%、S:0.006mass%以上、Cr:0.7〜1.7mass%、Mo:0.4mass%以下、Al:0.005〜0.050mass%、N:0.0040〜0.0200mass%、Cu:0.05〜0.27mass%、Ni:0.02〜0.19mass%、残部Feおよび不可避的不純物の鋼材を、鍛造により、または鍛造後、機械加工により歯車形状とした後、浸炭焼入焼戻しまたは浸炭浸窒焼入焼戻しを行い、その後ショットピーニングを行って製造する歯車であって、
浸炭焼入焼戻しまたは浸炭浸窒焼入焼戻し後の、表面から30μm深さ位置までの領域である浸炭表層部の残留オーステナイト組織が25体積%以上、58体積%以下で、ショットピーニング後には7体積%以下であり、その他はマルテンサイト組織を有し、前記浸炭焼入焼戻しまたは浸炭浸窒焼入焼戻しされた領域の旧オーステナイト粒度が8.5以上で、且つショットピーニング後の歯面の圧縮残留応力が1400MPa以上で、前記歯面の硬さがビッカースで850以上で、さらに下記(1)式を満足する事を特徴とする疲労強度に優れた歯車。
(1.96γRCS−0.4γRSS+HVCS+σRSS)−(HV300℃+σR300℃)≦640
・・・(1)
但し、γRcs:浸炭表層部の残留オーステナイト、γRss:浸炭表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト、HVcs:ショットピーニング後の歯面ビッカース硬さ、σRSS:ショットピーニング後の歯面圧縮残留応力(MPa)、HV300℃:300℃焼戻し後の歯面ビッカース硬さ、σR300℃:300℃焼戻し後の歯面圧縮残留応力(MPa)。
(2)鋼材の成分組成として、更に、Nb:0.010〜0.060mass%、V:0.03〜0.20mass%、Ti:0.005〜0.200mass%の1種以上を含有することを特徴とする(1)記載の疲労強度に優れた歯車。
(3)鋼材の成分組成として、更に、B:0.0005〜0.0050mass%を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の疲労強度に優れた歯車。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の歯車の製造方法であって、鋼材を冷間鍛造により、または熱間鍛造後の機械加工、冷間鍛造後の機械加工もしくは温間鍛造後の機械加工のいずれかで歯車形状とした後、900〜980℃で、浸炭処理、あるいは、浸炭浸窒および拡散処理を行い、その後、780〜880℃まで炉冷した後、60〜130℃の油へ投入して焼入れ後、150〜220℃に再加熱して焼戻しを行い、さらに歯車の歯面にショットピーニングを行うことを特徴とする疲労強度に優れた歯車の製造方法
本発明によれば、自動車、産業機械等に使用して好適な疲労強度に優れた歯車が得られるので、産業上極めて有用である。
実施例に用いた浸炭入焼戻し処理条件を説明する図。
本発明では素材となる鋼の成分組成、歯車の表層のミクロ組織と硬度、および歯面の圧縮残留応力の大きさを規定する。以下に各限定理由について述べる。
[成分組成]
C:0.15〜0.35mass%
Cは強度確保のために必要で、浸炭焼戻し後の内部硬さを決定する。0.15mass%未満では内部硬さが低下し、歯元の耐曲げ応力が低下して歯車としての強度を確保できない。一方、0.35mass%より多いと歯車内部の靭性が劣化し、歯元での曲げ応力によって早期に亀裂発生が発生して、短寿命となってしまうため、0.15〜0.35mass%とする。
Si:0.6〜1.1mass%
Siは焼戻し軟化抵抗を高めるのに有効な元素である。軟化抵抗が低いと、歯車駆動時に歯車どうしの摩擦により歯面表層が焼戻され軟化し、面疲労特性は低下する。その効果は0.6mass%以上で有効である。
また、Siは変態点を上げる作用がある。一部残留オーステナイトを含むマルテンサイト組織を得るには浸炭焼入れ時に一旦変態点以上に加熱してオーステナイト組織にする必要がある。しかし、1.1mass%を超えると浸炭時に変態点以下にしか加熱されず、浸炭されていない内部にフェライトが生成して、歯元での曲げ疲労強度が低下するようになるため、0.6〜1.1mass%とする。
Mn:0.3〜1.3mass%
Mnは焼入れ性を高める元素である。焼入れ性を確保するため0.3mass%以上とする。一方、1.3mass%を超えて添加すると焼入れ性が過剰となり、残留オーステナイト量が過多となって浸炭部の硬さが低下して疲労特性を低下させるようになるので、0.3〜1.3mass%とする。
S:0.006mass%以上
SはMnと結合してMnSを形成し、切削性を向上させる。0.006mass%未満では生成するMnSが少なくてその効果が十分得られないため、0.006mass%以上とする。
Cr:0.7〜1.7mass%
Crは焼入れ性向上元素であるとともに、焼戻し軟化抵抗を高める元素である。両方の性能を発揮させるには0.7mass%以上の添加が必要であるが1.7mass%を超えると軟化抵抗を高める効果は飽和する。また、焼入れ性が高くなりすぎるため歯車内部の靭性が劣化し、疲労亀裂の進展が早くなって曲げ疲労強度が低下するようになるので0.7〜1.7mass%とする。
Mo:0.4mass%以下
Moは焼入れ性向上元素であるが、0.4mass%を超えると焼入れ性が高すぎて焼割れが起こりやすくなり、また高価なため経済性も悪くなるので、0.4mass%以下とする。
Al:0.005〜0.050mass%
Alは脱酸に有効な元素であり、その効果は0.005mass%以上の添加で発揮される。また、0.050mass%までの添加でNと結合してAlNを生成し、結晶粒の粗大化を抑える働きがある。0.050mass%を超えると粗大粒が発生して疲労亀裂が進展し易くなって曲げ疲労強度および面疲労強度が低下するので0.005〜0.050mass%とする。
N:0.0040〜0.0200mass%
NはAlと結合してAlNを生成し、結晶粒の粗大化を抑えて疲労強度を向上させる。その効果を得るには0.0040mass%以上必要であるが、0.0200mass%を超えるとその効果は飽和するだけでなく、内部にブローホール等の欠陥を発生させ、曲げ疲労強度の低下を招くため、0.0040〜0.0200mass%とする。
以上が本発明の基本成分組成であるが、更に特性を向上させる場合、Nb、V、Ti、Bの一種または二種以上を添加する。
V:0.030〜0.20mass%
Vは焼入性を向上させるとともにSi、Crと同じく焼戻し軟化抵抗を高める。また、炭窒化物を形成して結晶粒の粗大化を抑制する。このような効果を発揮させるためには、0.030mass%以上の添加が必要であるが、0.20mass%を超えて添加しても飽和してしまい、十分な効果は得られず、製造コストが上がるだけとなるので、添加する場合は0.030〜0.20mass%とする。
Nb:0.010〜0.060mass%
Nbは炭窒化物形成により結晶粒を微細化し、歯元の曲げ疲労強度を向上させる。結晶粒の微細化効果は0.010mass%以上で増大し、一方、0.060mass%を超えて添加してもその効果は飽和するようになるので0.010〜0.060mass%とする。
Ti:0.005〜0.200mass%
Tiは微細Ti化合物を生成して鍛造後の結晶粒を小さくして強度を高める。その効果は0.005mass%以上で増大し、一方、0.200mass%を超えて添加するとTi析出物が粗大化し、疲労破壊の起点となって寿命が低下するようになるので、添加する場合は、0.005〜0.200mass%とする。
B:0.0005〜0.0050mass%
Bは焼入れ性を上げるのに有効である。その効果は0.0005mass%以上で得られ、0.0050mass%を超えると飽和するようになるので、添加する場合は0.0005〜0.0050mass%とする。
[ミクロ組織と硬度]
歯車の浸炭表層部のミクロ組織としての旧オーステナイト粒度を8.5以上に規定する。歯元および歯面の亀裂の発生及び発生した亀裂の進展を抑制するために、強度を高める事が好ましい。結晶粒が小さいほど強度は高くなるので、旧オーステナイト粒度で8.5以上とする。浸炭表層部は、浸炭焼入焼戻しまたは浸炭浸窒焼入焼戻しされた領域で歯車の表面から30μmの深さの位置までとする。
また、浸炭後の浸炭表層部における残留γ(オーステナイトともいう)量:25〜58体積%とする。残留オーステナイトはそれ自体では軟質だが、ショットピーニングの加工誘起変態により硬さを高める事が可能である。ショットピーニング後に初期亀裂が発生しにくい表面硬度HV850以上を得るため、浸炭後の浸炭表層部における残留オーステナイト量を25〜58体積%とする。尚、本発明で硬度(HV)は全て荷重10kgで求めた値として規定する。
25体積%より少ない場合はショットピーニングを種々の条件で行なっても硬度の上昇が少なくなり、表面硬度の向上が得がたくなる。また、58体積%より高い場合は残留オーステナイトがショットピーニング後も多く存在するために硬さが向上しない。
更に、ショットピーニング後の浸炭表層部における残留オーステナイト量を7体積%以下とする。ショットピーニング後に残留オーステナイトが多く存在すると、駆動後の歯面の凸凹が激しくなり、早期に微細なピッチングが発生し、最終破壊に至る時間が短くなってしまうので、7体積%以下にする。
ショットピーニング後の歯面の硬さは850HV以上とする。ピッチング発生に繋がる歯面の初期亀裂は硬さが高いほど発生しにくい。初期亀裂を抑えるためショットピーニング後の歯面の硬さは850HV以上とする。
[歯面の圧縮残留応力]
ショットピーニング後の歯面の圧縮残留応力は1500MPa以上とする。ピッチングに繋がる初期亀裂の発生を上記硬さの規定で抑制し、更に亀裂進展を抑制することで寿命を一層向上させることができる。亀裂の進展抑制には圧縮残留応力の付与が望ましく、長寿命を得るため、ショットピーニング後の歯面の圧縮残留応力を1500MPa以上に限定した。
(1.96γRCS−0.4γRSS+HVCS+σRSS)−(HV300℃+σR300℃)≦640・・・(1)
但し、γRcs:浸炭表層部の残留オーステナイト、γRss:浸炭表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト、HVcs:ショットピーニング後の歯面ビッカース硬さ、σRSS:ショットピーニング後の歯面圧縮残留応力(MPa)、HV300℃:300℃焼戻し後の歯面ビッカース硬さ、σR300℃:300℃焼戻し後の歯面圧縮残留応力(MPa)とする。
本パラメータ式は、歯面の面疲労強度を向上するために規定するもので、ショットピーニング後の歯面硬さ、歯面圧縮残留応力、残留オーステナイト量、および歯面の焼戻し後の特性として300℃で1時間の焼戻しを行った後の歯面のビッカース硬さ(歯面ビッカース硬さともいう)で構成する。前述のように、歯車駆動時の表面硬度の低下および圧縮残留応力の低下は300℃で1時間の焼戻しをした後の特性と相関が深い。本パラメータ式を満足すると、面疲労強度が向上する。
本発明に係る歯車は以下のように製造する。上記成分組成の鋼材を冷間鍛造により所望の歯車形状とする。または熱間鍛造、冷間鍛造または温間鍛造のいずれか後に機械加工で所望の歯車形状とする。熱間鍛造は1000〜1300℃で行い、温間鍛造は400〜950℃で行う。
歯車形状に加工された部材を、その後、900〜980℃で、浸炭処理あるいは浸炭浸窒および拡散処理を行い、その後、780〜880℃まで炉冷した後、60〜130℃の油へ投入して焼入れ後、150〜220℃に再加熱して焼戻しを行う。
最後に歯車の歯面にショットピーニングを行うが、(1)粒径が0.05〜0.1mmΦの硬さ700HV以上の粒を用いたショットピーニング、(2)粒径が0.4〜1.2mmΦの硬さ700HV以上の粒を用いて行った後、粒径が0.05〜0.1mmΦの硬さ700HV以上の粒を用いて再度行うショットピーニング、(3)粒径が0.4〜1.2mmΦの硬さ700HV以上の粒と、0.05〜0.1mmΦの硬さ700HV以上の粒を混合して行うショットピーニングのいずれかを行う。ショットピーニングとして(1)〜(3)の順で疲労特性は良好となるが、製造コストを考慮して適宜選定する。以下、本発明の作用効果を実施例で具体的に示す。
表1に示す化学成分を有する鋼を溶解した。表中に示すNo.1〜25は開発鋼であり、本発明の組成の範囲内であり、No.26〜44は本発明の成分範囲外になるもので、比較例である。No.45、46は従来鋼で、No.45はJIS SCM420H、No.46はSCM822H規格材である。
溶製された上記、本発明鋼、比較鋼、従来鋼のインゴットを熱間圧延により直径70mmの丸棒鋼に調製し、得られた丸棒鋼に対し焼準処理を実施した。
焼準処理後の丸棒を熱間鍛造後機械加工にて、モジュール2.5、ピッチ直径80mmのハスバ歯車を複数個作成した。ハスバ歯車に対して図1に示す浸炭焼入焼戻し処理を施した。
複数個のうちの1個を歯面の残留オーステナイト量測定に使用した。また、残りの歯車の表面には粒径0.05〜1.0mmの鋼球を使用してアークハイト0.4mmA以上のショットピーニングを施し、そのうちの1個を使用して歯面の残留オーステナイト量、粒界酸化層深さ、表面硬さ、有効硬化層深さ調査、浸炭部旧オーステナイト粒度、歯面残留応力を調査した。他の1個を使用し、300℃で1時間の焼戻しを行なった後に、表面硬さ(300℃焼戻し後の歯面ビッカース硬さ)および歯面の残留応力を調査した。さらに残りの歯車を用いて歯車疲労試験を実施した。
No.25の歯車については、上記の他に同様に製作した歯車を別に用意して、浸炭時の浸炭時間、拡散時間の割合とそれらの時間を変化させた処理を、上記の他に4種類実施したものを3個づつ用意し、同様の調査を実施した。以下にそれぞれの調査方法の詳細について説明する。
[有効硬化層深さ、組織観察、表面硬度]
ショットピーニングされた歯断面の硬度分布を測定し、歯表面からビッカース硬さで550HVの得られる深さを求めて有効硬化層深さとした。また、旧オーステナイト粒度および組織観察により粒界酸化層深さを調査した。表面硬度は、歯表面のビッカース硬さ(荷重10kg)の10点平均値とした。
[残留γ(オーステナイト)量]
表面下30μm位置までの残留γ量を測定した。尚、測定面の研磨には電解研磨を使用し、測定にはX線回折装置を使用した。
[残留応力]
測定には残留オーステナイト量測定と同じX線回折装置を使用した。
[歯車疲労試験]
動力循環式歯車疲労試験機を使用して、80℃のトランスアクスルオイルを潤滑に用い、所定のトルクをかけて回転数3000r.p.mにて試験を行った。その際、繰り返し数1000万回まで到達するトルクを疲労強度として求めた。
表2に上記試験結果を示す。表中のNo.は表1のNo.と同じものを指す。表2から下記事項が明らかである。
発明鋼であるNo.1〜25については、高い歯車疲労強度が得られた。それに対して、No.26はC%が発明範囲より低い。そのため浸炭焼入れ焼戻し後の内部硬度が低く、残留オーステナイト量も本発明範囲より少なく、さらにショットピーニング後の表層硬さも本発明範囲より低くなった。その結果300℃焼戻し後の表面硬度も低くなり、歯元の折損および歯面でのピッチングが起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.27はC量が発明範囲より高い。そのため、浸炭後の残留γ量が多くなりすぎており、ショットピーニング後にも残留オーステナイトが多く存在するため、高い表面硬度が得られていない、そのために(1)式も満足していないためピッチングが起こりやすくなった。また、内部の靭性が足りず歯元部での破壊も起こりやすくなった。よって歯車疲労強度が低下した。
No.28はSi量が本発明範囲よりも少なく、そのために粒界酸化層が深めになっている。300℃の焼戻し硬さと残留応力が低く、その結果(1)式も満足する事が出来ていない。これらの影響によりピッチングが起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.29はSi量が本発明範囲よりも多い。その結果、内部にフェライトが発生し、歯元での曲げ疲労破壊が起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.30はMn量が本発明範囲よりも低い。そのため、焼入れ性が低下しすぎており、有効硬化層深さが浅すぎるために、歯元での曲げ疲労破壊が起こりやすくなり歯車疲労強度が低下した。
No.31はMn量が本発明範囲より高い。そのために浸炭後の残留オーステナイト量が多くなりすぎたために、表面硬度が低くなり、(1)式も満足できず、ピッチングが起こりやすくなり歯車疲労強度が低下した。
No.32はS量が少ない。そのため試験片加工において加工精度が悪く、振動が大きすぎて疲労試験が出来なかった。
No.33はCr量が少なく、焼入れ性が低下しすぎている。そのため、硬化層深さが浅くなりすぎて歯元での折損が起こりやすくなり、またピッチングも起こりやすくなって、歯車疲労強度が低下した。
No.34はCr量が高すぎるために、内部硬度が高くなりすぎている。そのため、歯元の靭性が劣化して曲げ折損しやすくなり、疲労強度が低下した。
No.35はMo量が高い。そのため焼入れ性が高すぎて、浸炭焼入れ時に割れを生じてしまい、疲労試験が出来なかった。
No.36はAl量が低くすぎるために介在物起点による歯元および歯面での破壊が起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.37はAl量が高すぎるため、浸炭部のオーステナイト粒が粗大化してしまい、歯元および歯面での破壊が起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.38はV量が発明範囲より低く添加されており、そのため焼入れ性が向上せず、結晶粒も粗大化した。そのため歯元での曲げ折損および歯面でのピッチングが起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.39はNb量が本発明範囲よりも少ない。そのために結晶粒が粗大化し、歯元での曲げ折損が起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.40はTi量が本発明範囲より少ない。そのために結晶粒が大きく、歯元での曲げ折損が起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.41はTi量が多すぎる。そのためTi系介在物起点での破壊が多発した。そのために歯元での曲げ折損および歯面でのピッチングが起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.42はN量が低すぎる。そのために結晶粒の粗大化が起こり、歯元での曲げ折損が起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.43はN量が高すぎる。そのため、内部割れ起点での破壊が多く発生し、歯車疲労強度が低下した。
No.44はB量が低すぎる。そのため焼入れ性が不足して有効硬化層深さが浅すぎる。そのため歯元曲げ応力による破壊が発生しやすくなり歯車疲労強度が低下した。
No.45、46はSi量が本発明範囲よりも低いために300℃焼戻し硬さと残留応力が低くなっている。そのため、(1)式を満足しておらず、ピッチングが発生しやすくなった。また、表面酸化が粒界に沿って深く進行したため、歯元曲げ応力による折損がしやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
No.25−2は本発明成分範囲内であるが、浸炭後の残留オーステナイト量が高くなりすぎており、そのためにショットピーニングをしても残留オーステナイト量が多すぎて表面硬さが低く、ピッチングが発生しやすくなり歯車疲労強度が低下した。
No.25−3も同様に本発明成分範囲内であるが、ショットピーニングによる残留オーステナイトの加工誘起変態が不十分でショットピーニング後の残留オーステナイトが多く存在するために表面硬さが低く、ピッチングが発生しやすくなり歯車疲労強度が低下した。
No.25−4も本発明成分範囲内であるが、浸炭条件により表面硬さが低下している。そのためピッチングが発生しやすくなり歯車疲労強度が低下した。
No.25−5も本発明成分範囲内であるが、ショットピーニングによる残留応力付与が小さい。そのためピッチングが発生しやすくなり歯車疲労強度が低下した。
Figure 0005635316
Figure 0005635316

Claims (4)

  1. 成分組成が、C:0.15〜0.35mass%、Si:0.6〜1.1mass%、Mn:0.3〜1.3mass%、S:0.006mass%以上、Cr:0.7〜1.7mass%、Mo:0.4mass%以下、Al:0.005〜0.050mass%、N:0.0040〜0.0200mass%、Cu:0.05〜0.27mass%、Ni:0.02〜0.19mass%、残部Feおよび不可避的不純物の鋼材を、鍛造により、または鍛造後、機械加工により歯車形状とした後、浸炭焼入焼戻しまたは浸炭浸窒焼入焼戻しを行い、その後ショットピーニングを行って製造する歯車であって、
    浸炭焼入焼戻しまたは浸炭浸窒焼入焼戻し後の、表面から30μm深さ位置までの領域である浸炭表層部の残留オーステナイト組織が25体積%以上、58体積%以下で、ショットピーニング後には7体積%以下であり、その他はマルテンサイト組織を有し、前記浸炭焼入焼戻しまたは浸炭浸窒焼入焼戻しされた領域の旧オーステナイト粒度が8.5以上で、且つショットピーニング後の歯面の圧縮残留応力が1400MPa以上で、前記歯面の硬さがビッカースで850以上で、さらに下記(1)式を満足する事を特徴とする疲労強度に優れた歯車。
    (1.96γRCS−0.4γRSS+HVCS+σRSS)−(HV300℃+σR300℃)≦640
    ・・・(1)
    但し、γRcs:浸炭表層部の残留オーステナイト、γRss:浸炭表層部のショットピーニング後の残留オーステナイト、HVcs:ショットピーニング後の歯面ビッカース硬さ、σRSS:ショットピーニング後の歯面圧縮残留応力(MPa)、HV300℃:300℃焼戻し後の歯面ビッカース硬さ、σR300℃:300℃焼戻し後の歯面圧縮残留応力(MPa)。
  2. 鋼材の成分組成として、更に、Nb:0.010〜0.060mass%、V:0.03〜0.20mass%、Ti:0.005〜0.200mass%の1種以上を含有することを特徴とする、請求項1記載の疲労強度に優れた歯車。
  3. 鋼材の成分組成として、更に、B:0.0005〜0.0050mass%を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の疲労強度に優れた歯車。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の歯車の製造方法であって、
    材を冷間鍛造により、または熱間鍛造後の機械加工、冷間鍛造後の機械加工もしくは温間鍛造後の機械加工のいずれかで歯車形状とした後、900〜980℃で、浸炭処理、あるいは、浸炭浸窒および拡散処理を行い、その後、780〜880℃まで炉冷した後、60〜130℃の油へ投入して焼入れ後、150〜220℃に再加熱して焼戻しを行い、さらに歯車の歯面にショットピーニングを行うことを特徴とする疲労強度に優れた歯車の製造方法。
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