JP5185852B2 - 耐剥離損傷性に優れた歯車 - Google Patents

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本発明は、自動車用変速機をはじめとした各種伝達装置へ適用する歯車として用いたときに優れた耐剥離損傷性を発揮する様な歯車を製造するための鋼材、およびそのような鋼材から得られる耐剥離損傷性に優れた歯車に関するものである。
自動車用変速機等で用いられる歯車は、高い接触面圧で使用されることから、ピッチング(pitting)と呼ばれる歯面の疲れ剥離損傷が生じることがある。歯面の隔離損傷は、歯車の寿命を縮めることになるので、剥離損傷に対する特性(これを「耐隔離損傷特性」と呼ぶ)に優れていることは、歯車において重要な要求特性である。
耐剥離損傷特性を向上させる手段としては、歯車精度向上による歯当り改善や相手歯車の歯先修正による面圧負荷の低減、歯面のラッピング加工や長時間のなじみ運転による面粗度向上によって、金属間接触を防止し、面圧や摩擦係数を低減させ、剥離損傷を抑えることが行われている。
例えば特許文献1では、リン酸塩等による化学研磨による歯車の歯面粗さの片寄りを制御、規定することによって、耐剥離損傷特性を向上させることを提案している。特許文献2では、鋼材の軟化抵抗を上げることによって、ピッチング等の歯面剥離損傷に対する寿命を向上させ得ることを提案している。
特許第3127710号公報 特開平9−296250号公報
しかしながら、近年では、歯車の小型化や高負荷によって歯面への高面圧化が更に進んでおり、例えば浸炭のみならず浸炭窒化の様な、表面硬度が非常に高くなる表面硬化処理を行った場合には、表面のなじみ性が低下し、歯車の精度不良な部位に局所的な高面圧が作用し続けることによって、早期に剥離損傷が起こり、十分な疲労寿命が得られない場合がある。こうした観点から、これまで提案されている技術では、依然として十分なものとは言えないのが実情である。
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、優れた耐剥離損傷性特性を発揮して近年の要求特性に十分に態様できる様な歯車を製造するため歯車用鋼、およびそのような鋼材から得られる耐剥離損傷性に優れた歯車を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明の歯車用鋼とは、C:0.15〜0.25%(「質量%」の意味、以下同じ)、Si:0.40〜0.80%、Mn:0.20〜1.0%、P:0.030%以下(0%を含まない)、S:0.10%以下(0%を含まない)、Cu:0.30%以下(0%を含まない)、Ni:0.30%以下(0%を含まない)、Cr:0.8〜1.8%、Mo:0.60%以下(0%を含まない)、Al:0.02〜0.10%、N:0.005〜0.03%、O:0.003%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、且つ下記(1)式および(2)式の関係を満足するものである点に要旨を有するものである。
1.8(質量%)≦2×[Si]+[Cr]≦3.5(質量%) …(1)
但し、[Si]および[Cr]は、夫々SiおよびCrの含有量(質量%)を示す。
114×[Si]+2×[Cr]+68×[Mo]≧50(質量%) …(2)
但し、[Si],[Cr]および[Mo]は、夫々Si,CrおよびMoの含有量(質量%)を示す。
本発明の歯車用鋼においては、化学成分組成として、更にNb:0.05%以下(0%を含まない)を含有するものも有用であり、こうした歯車用鋼ではその特性を更に改善することができる。
一方、上記課題を解決することのできた本発明の歯車とは、上記のような歯車用鋼から製造された歯車であって、表面硬化処理した歯面にリン酸塩処理皮膜が形成されたものである点に要旨を有するものである。またこの歯車では、前記リン酸塩処理皮膜の表面に、更に固体潤滑剤皮膜が形成されたものであっても良い。上記のような歯車においては、歯面素地における油留り深さRvkの平均値が0.6μm以上、3.0μm以下であることが好ましい。
本発明は上記のように構成されており、リン酸塩処理した歯車の鋼中のSi,CrまたはMo等の含有量を所定の関係式[前記(1)式および(2)式]を満足するように、適正化することによって、歯面の油保持機能と焼戻し軟化抵抗を相乗的に向上させ、ピッチング等の歯面での耐剥離損傷特性を飛躍的に向上させることができた。そして、このような歯車部品の実現によって、高い負荷応力に耐え得ることが可能になり、コンパクト化が必要な変速機の動力伝達歯車などに適用でき、ひいては自動車の燃費改善という著しく優れた効果が発揮されることになる。
一般的な歯車における歯面表面性状のプロフィール示す説明図である。 歯車の噛み合いの進行によって変化した歯面表面性状のプロフィール示す説明図である。 油留り深さRvkの測定方法を説明するための図である。 Si含有量と油留り深さRvkの関係を示すグラフである。 Cr含有量と油留り深さRvkの関係を示すグラフである。 油留り深さRvkとピッチング寿命の関係を示すグラフである。 油留め指数とピッチング寿命の関係を示すグラフである。 硬さ指数とピッチング寿命の関係を示すグラフである。 No.5(実施例)の歯車について、その表面性状を示す図面代用顕微鏡写真である。 No.5(実施例)の歯車における表面粗さ曲線(解析形状曲線)と相対負荷曲線を示すグラフである。 No.3(比較例)の歯車について、その表面性状を示す図面代用顕微鏡写真である。 No.3(比較例)の歯車における表面粗さ曲線(解析形状曲線)と相対負荷曲線を示すグラフである。
本発明者らは、歯車におけるピッチング等の歯面での耐剥離損傷特性を向上させるべく様々な角度から検討した。その結果、SiおよびCrを一定の範囲に制御した歯車用鋼では、歯面に十分なリン酸皮膜や油が保持できる領域が形成され得ること、およびこうした歯車用鋼を用いて製造した浸炭窒化処理歯車の歯面にリン酸塩を施したものでは、歯面での耐剥離損傷特性を飛躍的に向上できることを見出した。
リン酸塩処理等の化学研磨をしない通常の歯面の場合には、初期表面性状は図1にプロフィール(うねり成分を除いた表面曲線)を示すように、尖鋭した凹凸形状を有しているが、歯車の噛み合いの進行に伴って、表面の摩耗、変形を生じて図2にプロフィールを示すように、尖鋭した凸部が少ない形状に近づいていくことになる。そして、図1に示した表面性状から図2に示した表面性状になる過程において、表面凸部に塑性変形や発熱に伴う組織の軟化等による損傷が蓄積され、ピッチングと呼ばれる剥離損傷が発生することになる。
これに対して、リン酸塩処理等の化学研磨を施した歯面の場合には、化学研磨によって表面凸部が溶解されて歯面性状が予め平らにされることによって、前記図2に示した状態になっており、こうした表面性状に形成しておくことは、剥離損傷寿命を向上させる(即ち、耐剥離損傷特性を良好にする)効果がある。特に、焼戻し軟化抵抗を向上させた歯車の場合には、耐摩耗性も同時に向上することになって歯面のなじみ性が進み難く、面圧が高いままとなるので、リン酸塩処理をはじめとする潤滑性皮膜処理を施すことが好ましい。
しかしながら、ピッチング等の歯面損傷の発生を抑制するには、潤滑性皮膜処理を施すだけでは不十分であり、相対する歯車歯面間の金属接触を防ぐ油膜の形成を助長させる様な、油保持能を高めた歯面表面性状にすることが必要であり、リン酸塩処理によって生成する腐食ピット部を深くすることも必要であることが判明した(後記図9、10参照)。
そのためには、リン酸塩処理に対する鋼材結晶粒界の耐食性を高め、相対的に粒内が優先的に腐食されるような成分設計にすればよいとの着想が得られたのである。そして、その具体的な手段について、更に検討した結果、下記(1)式に示すような関係を満足させるような成分設計を行えば、上記のような効果が発揮されることが判明した。
1.8(質量%)≦2×[Si]+[Cr]≦3.5(質量%) …(1)
但し、[Si]および[Cr]は、夫々SiおよびCrの含有量(質量%)を示す。
上記した(2×[Si]+[Cr])の値(以下、この値を「油留め指数」と呼ぶ)が1.8(質量%)以上でなければ、歯面全体が腐食されることになって、十分深い腐食ピットが得られず、一方油留め指数が3.5(質量%)を超えると、歯面が荒れて腐食ピットが大きくなり、ピット部上部先端を起点とした歯車剥離損傷が早期に発生することになる。
耐剥離損傷特性を飛躍的に向上させるためには、深い腐食ピットを歯面に形成させるだけでなく、歯車の母材が、腐食ピット若しくは歯面表面に生じる微視的な塑性変形や応力集中に打ち勝つだけの強度を有している必要がある。こうした観点から、本発明者らが検討したところ、表面硬化処理した歯車表層の焼戻し軟化抵抗を或る一定以上にすることで、深い腐食ピットの効果を最大限に活用できることが判明したのである。
即ち、本発明者らが、実験によって化学成分が焼戻し軟化抵抗に与える影響について検討した結果、焼戻し軟化抵抗に関係の深いSi,Cr,Moの含有量を下記(2)式に示すような関係を満足させるような成分設計を行えば、焼戻し軟化抵抗を確保でき、上記の腐食ピット形成効果と相俟って歯車の耐剥離損傷特性が飛躍的に向上し得ることがわかったのである。
114×[Si]+2×[Cr]+68×[Mo]≧50(質量%) …(2)
但し、[Si],[Cr]および[Mo]は、夫々Si,CrおよびMoの含有量(質量%)を示す。
上記した(114×[Si]+2×[Cr]+68×[Mo])の値(以下、この値を「硬さ指数」と呼ぶ)が50(質量%)以上となれば、最低必要な焼戻し軟化抵抗を確保することができる。その硬さ指数が大きくなればなるほど、焼戻し軟化抵抗は増大するが、各成分(Si,CrおよびMo)についても適正な範囲があるので(後述する)、この硬さ指数の上限も自ずと決まってくる。
本発明の歯車用鋼は、その化学成分組成も適切に調整する必要があるが、基本成分(C,Si,Mn,P,S,Cu,Ni,Cr,Mo,Al,N,O)の範囲設定理由は次の通りである。
[C:0.15〜0.25%]
Cは、機械構造用鋼部品として芯部硬さを確保するのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、C含有量は0.15%以上とする必要がある。しかしながら、C含有量が過剰になると、鋼材の硬さが必要以上に高くなり被削性や冷間鍛造性が低下するので、0.25%以下とする必要がある。C含有量の好ましい下限は0.18%であり、好ましい上限は0.23%である。
[Si:0.40〜0.80%]
Siは、母材を固溶強化する効果を有し、浸炭窒化処理適用においては、炭窒化物を形成して表層炭窒化物層の軟化抵抗性の向上に大きく寄与して耐摩耗性を高めるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Siは0.40%以上含有させることが必要である。しかしながら、Si含有量が過剰になると、鋼の浸炭、浸炭窒化性が阻害されると共に、部品の靭性、機械加工時の被削性および冷間鍛造性が著しく劣化するので、0.80%以下とする。Si含有量の好ましい下限は0.55%であり、好ましい上限は0.70%である。
[Mn:0.20〜1.0%]
Mnは、脱酸剤として作用し、酸化物系介在物を低減して鋼部品の内部品質を高めると共に、焼入れ性を向上させて鋼部品の芯部硬さや硬化層深さを高め、部品の強度を確保するのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mnは0.20%以上含有させる必要がある。しかしながらMnを過剰に含有させると、表層部の残留オーステナイト量が増加し、部品表面の硬度が低下するので、上限を1.0%とする。Mn含有量の好ましい下限は0.3%であり、好ましい上限は0.8%である。
[P:0.030%以下(0%を含まない)]
Pは、熱間加工時の割れを助長するので、その上限を0.030%とする必要がある。好ましくは0.020%以下に抑制するのが良い。
[S:0.10%以下(0%を含まない)]
Sは、鋼中介在物であるMnSを形成する元素であり、しかも熱間加工性および延性に悪影響を及ぼすために、その上限を0.10%とする必要がある。好ましくは0.03%以下に抑制するのが良い。
[Cu:0.30%以下(0%を含まない)]
Cuは、耐候性向上に有用な元素であるが、過剰に含有させると、圧延や熱間加工時に鋼表面に割れや疵が発生するため、0.30%以下とする必要がある。
[Ni:0.30%以下(0%を含まない)]
Niは、マトリックスに固溶し、靭性を向上させるのに有効な元素である。しかしながら、Ni含有量が過剰になると、圧延時にベイナイトやマルテンサイト組織が発生し、靭性の低下を招くので、0.30%以下とする必要がある。
[Cr:0.8〜1.8%]
Crは、母材の焼入れ性を高め、安定した硬化層深さや必要な芯部硬さを与えることによって歯車の機械構造用部品としての静的強度および疲労強度を確保する上で重要な成分である。こうした効果を発揮させるためには、Crは少なくとも0.8%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、浸炭阻害を発生させたり、被削性にも悪影響を与えるので、1.8%以下とする必要がある。Cr含有量の好ましい下限は1.2%であり、好ましい上限は1.6%である。
[Mo:0.60%以下(0%を含まない)]
Moは、本発明の歯車用鋼にとって重要な元素の一つであり、母材の焼入れ性を確保し、不完全焼入れ組織の生成を抑制するのに有効な元素である。Moによるこうした効果を発揮させるためには、0.2%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Mo含有量が過剰になると、芯部の硬度は必要以上に高くなり、機械加工時間における被削性や冷間鍛造性が劣化するので、0.60%以下とする必要がある。Mo含有量の好ましい上限は0.5%である。

[Al:0.02〜0.10%]
Alは、微細な窒化物を形成し、焼入れ時の結晶粒粗大化防止に有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.02%以上含有させる必要があるが、過剰に含有させると、酸化物等の非金属が増大し、靭性を劣化させるので、0.10%以下とする必要がある。
[N:0.005〜0.03%]
Nは、他元素と結合して窒化物を形成し、組織の微細化に寄与するのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.005%以上含有させる必要がある。しかしながら、N含有量が過剰になって0.03%を超えると、熱間加工性および延性に悪影響を及ぼすことになる。
[O:0.003%以下(0%を含まない)]
Oは、他元素と結合して、酸化物を形成し、形成された酸化物は非金属介在物として熱間加工性や延性に悪影響を及ぼすので、その量はできるだけ少なくする必要がある。こうした観点から、O含有量は0.003%以下に抑制する必要がある。
本発明の歯車用鋼の基本的な化学成分組成は上記の通りであって、残部は実質的に鉄である。尚、「実質的に鉄」とは、不可避的不純物の他、上記した各成分の作用効果や、該鋼材に浸炭や浸炭窒化処理して歯車部品としての特性を阻害しない範囲で不可避的に混入する元素を許容することを意味する。こうした許容元素としては、Ca,Mg,As,Zr,V,Sb,Sn,Te,Se,B,Nb,Ti,Ta,W,Co,希土類元素等が挙げられる。また本発明の歯車用鋼には、必要によって更にNbを積極的に含有させることも有用である。Nbを含有するときの範囲設定理由は以下の通りである。
[Nb:0.05%以下(0%を含まない)]
Nbは、結晶粒粗大化抑制に有効な元素であるが、過剰に含有されると、介在物が増大して強度低下、被削性等を引起こすので0.05%以下とするのがよい。尚、こうした効果を発揮させるための好ましいNb含有量は0.02%以上である。
本発明の歯車用鋼は、歯車形状にされた後、浸炭や浸炭窒化処理等の表面硬化処理が施され、その表面にリン酸塩処理を施すことを想定したものである。このときの表面硬化処理を実施する炉については、一般的なプロパン、ブタン、アンモニア等を用いたガス浸炭炉に限定されるものではなく、プロパン、アセチレン、アンモニアガス等を用いる真空浸炭炉を使用しても良い。表面硬化法についても浸炭だけに限らず、浸炭窒化や浸炭浸窒等を適用しても良い。尚、歯車歯面にはショットピーニング等の圧縮残留応力を付与する手法を加えても良いことは勿論である。
上記のような表面硬化処理を施した後に仕上げ研削を行う場合には、軟質な表面異常層が除去されてしまい、歯面同士のなじみ性が達成されにくくなるので、リン酸塩処理を施すことによる効果がより明確となる。
ところで、リン酸塩処理した歯車の歯面粗度は、優れた剥離損傷寿命を得るために、歯面素地の油留り深さRvkの平均値が0.6μm以上、3.0μm以下であることが好ましい(測定方法については後述する)。この油留り深さRvkの平均値が0.6μm未満では、剥離損傷寿命を改善する上で重要な深い腐食ピットが形成されておらず、3.0μmを超えると歯面が荒れて逆に剥離損傷寿命を低下させることになる。この油留り深さRvkの平均値は、より好ましい上限は1.5μmである。更に好ましくは0.7μm以上であり、1.0μm以下である。
リン酸塩処理は、適用するリン酸塩溶液の特性として鋼材への腐食性が弱く、本来表面層の数μm程度の極薄い部分にしか作用しないものである。本発明におけるリン酸塩処理効果を発揮させる上では、表面層の数μm程度の極薄い部分に作用させるだけでも良く、その種類については限定するものではないが、耐熱性や耐荷重性が比較的良好なリン酸マンガン処理を施すことが好ましい。特に、上記した様な深い腐食ピットを形成する上では、Mn(HPO42、Fe(H2PO42およびH3PO4を主成分とした80〜90℃のリン酸マンガン溶液に10〜15分程度浸漬することで、5〜10g/m2程度の皮膜を形成することが好ましい。
また、リン酸塩処理前に、リン酸塩結晶生成の核となり得るコロイドを主成分とした表面調整剤による前処理を行うことで、リン酸塩結晶を制御し、油留り指数Rvkを好ましい範囲に制御するようにしても良い。
本発明の歯車においては、歯面の潤滑性をより高めるために、リン酸塩処理皮膜の表面に、更に二硫化モリブデン等の固体潤滑剤皮膜を形成するようにしても良い。具体的には、液状の樹脂バインダーに二硫化モリブデンを分散させた混合液を歯車に塗布し、140〜150℃の温度で2時間程度焼成することによって、リン酸塩処理皮膜の上に二硫化モリブデンの固体潤滑性皮膜を形成させることができる。
本発明の歯車は上記のような歯車用鋼から通常方法に従って製造すればよいが、圧延または鍛造工程において1200℃以上の加熱を行い、鋼中へのSiやCrの均一化を図った後、歯車製造時の浸炭、浸炭窒化等の表面硬化処理時に、プロパン、ブタン等の浸炭ガスやアンモニア等の浸窒ガス等を用いる工程と共に、酸素を富化したエアーを併用する工程を入れることによって、粒界にSi酸化物やCr酸化物を形成させ、粒界の耐性を高めるようにすることもできる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することは勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記の諸元の耐剥離損傷試験用歯車を作成するために、下記表1に示す各種化学成分組成(鋼種A〜O)の1200℃×1時間加熱後鍛伸したφ80mm鋼材を、熱間鍛造、焼ならし、旋削、歯切り加工し、930℃浸炭窒化(プロパンおよびアンモニア雰囲気)による表面硬化処理をした後、歯面研削と一部の歯車にはリン酸マンガン処理を行った。
[歯車諸元]
試験歯車の種類:はすば歯車
モジュール:3.87
圧力角度:17.5°
歯数:21個
ねじれ角:15°
基準ピッチ円直径:84.1mm
試験用歯車の歯面粗さには、5%クロム酸溶液によってリン酸マンガン皮膜を除去した後、油留り深さRvkを下記の方法によって測定した。また得られた各種歯車について、下記の条件で剥離損傷試験を行い、下記の基準でピッチング寿命を評価した。その結果を、リン酸塩処理の有無、油留め指数および硬さ指数と共に下記表2に示す。
[油留り深さRvkの測定方法]
測定長さ:0.8mm,カットオフ:0.25mmの条件にて、歯丈方向に測定し、図3に示す相対負荷曲線(BAC)から求めた。具体的には、BAC上の点でtp値(tp値:負荷長さ率)が40%となるような2点(A,B)を通る直線の中で、傾きが最も小さい直線を求め、この直線と0%tp、100%tpとの交点を夫々点C、点Dと置き、点Dを通る切断レベルとBACとの交点をE、BACと100%tpとの交点をFとし、このときの線分DE、線分DF、曲線EFで囲まれた面積と三角形DEGの面積が等しくなるような100%tp上に点Gを求め、点Dと点Gの距離を油留まり深さRvkとした。尚、図3中、Mr2は点Eのtp値を示す。
前記「負荷長さ率tp」とは、表面粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の粗さ曲線を山頂線に平行な切断レベルで切断したときに得られる切断長さの和(負荷長さηp)の基準長さLに対する割合(ηp/L:%)である。
[剥離損傷試験条件および評価基準]
動力循環式歯車試験機を用い、ピッチ円上で面圧:2GPa、駆動歯車回転数:1000rpm、自動変速機用オイルを強制潤滑する条件下で隔離損傷試験を行った。ピッチング寿命は、歯面に発生したピッチングによる剥離の面積を全歯の有効噛み合い面積で除した値が1%となったときの駆動歯車累積回転数(サイクル)でピッチング寿命を評価した。この累積回転数が900万サイクル以上をピッチング寿命に優れると評価した。
これらの結果から次のように考察することができる。即ち、No.5,7,10,12,13,15〜18および21(試験No.の意味、以下同じ)は、本発明で規定する要件を満足する実施例であり、油留り深さRvkも大きな値となっており、いずれも優れたピッチング寿命が発揮されていることがわかる。
これに対し、No.4,6,9,11,14は,油留り深さRvkが小さな値となっており、硬さ指数が大きな値となってもピッチング寿命の向上が殆ど見られないことがわかる。またNo.1〜3,8のものでは、油留め指数および硬さ指数の両方の要件を満足しないものであり、リン酸塩処理の有無に拘わらず、ピッチング寿命が低いものとなっている。
これらの結果に基づいて、Si含有量と油留り深さRvkの関係を図4に、Cr含有量と油留り深さRvkの関係を図5に、油留り深さRvkとピッチング寿命の関係を図6に夫々示す。また、油留め指数とピッチング寿命の関係を図7に、硬さ指数とピッチング寿命の関係を図8に夫々示す。
これらの結果から明らかなように、Si含有量やCr含有量を適切に調整することによって、油留り深さRvkを適切な範囲に制御できること、および油留め指数[前記(1)式で規定する範囲]や硬さ指数[前記(2)式で規定する範囲]を適切に制御することによって、良好なピッチング寿命(耐剥離損傷特性)が達成されていることがわかる。
No.5(実施例)の歯車について、その表面性状(リン酸塩処理−皮膜除去後表面性状)を図9(図面代用顕微鏡写真)に、その表面粗さ曲線(解析形状曲線)と相対負荷曲線を図10に夫々示す。またNo.3(比較例)の歯車について、その表面性状(リン酸塩処理−皮膜除去後表面性状)を図11(図面代用顕微鏡写真)に、その表面粗さ曲線(解析形状曲線)と相対負荷曲線を図12に夫々示す。尚、図9、11において黒い点に見える部分が腐食ピットである。

Claims (3)

  1. C:0.15〜0.25%(「質量%」の意味、以下同じ)、Si:0.40〜0.80%、Mn:0.20〜1.0%、P:0.030%以下(0%を含まない)、S:0.10%以下(0%を含まない)、Cu:0.30%以下(0%を含まない)、Ni:0.30%以下(0%を含まない)、Cr:0.8〜1.8%、Mo:0.60%以下(0%を含まない)、Al:0.02〜0.10%、N:0.005〜0.03%、O:0.003%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、且つ下記(1)式および(2)式の関係を満足する歯車用鋼から製造された歯車であって、表面硬化処理した歯面にリン酸塩処理皮膜が形成されたものであると共に、歯面素地における油留り深さRvkの平均値が0.6μm以上、3.0μm以下であることを特徴とする耐剥離損傷性に優れた歯車
    1.8(質量%)≦2×[Si]+[Cr]≦3.5(質量%) …(1)
    但し、[Si]および[Cr]は、夫々SiおよびCrの含有量(質量%)を示す。
    114×[Si]+2×[Cr]+68×[Mo]≧50(質量%) …(2)
    但し、[Si],[Cr]および[Mo]は、夫々Si,CrおよびMoの含有量(質量%)を示す。
  2. 歯車用鋼は、更に、Nb:0.05%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の歯車
  3. リン酸塩処理皮膜の表面に更に固体潤滑剤皮膜が形成されたものである請求項1または2に記載の歯車。
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