JP7310723B2 - 鋼部品およびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、建産機や自動車分野で用いられる機械構造用に供する、特に接触疲労に対する寿命の長い鋼部品に関するものである。本発明の鋼部品として、建産機分野では、例えば、走行減速機のギア(リングギア等の歯車)、大型減速機のギア、油圧ポンプのバルブプレート、ボールねじのナット、サイクロン減速機の曲線板およびピン、並びに、直動軸受けのブロック等が挙げられ、同様に、自動車分野では、エンジンのクランクシャフトおよびタイミングギア、変速機の歯車類(ミッシングギア、リングギア、サンギアおよびプラネリタギア等)、並びに、足回りのステアリングピニオンおよびウォーム、内装のパワーウインド用ウォーム等が挙げられる。
鋼の疲労に対する耐久性、いわゆる疲労特性を向上させる熱処理として、窒化処理が知られている。この窒化処理は、浸炭焼入れ等と比較して熱処理ひずみが小さい利点を有しつつ鋼部品の疲労特性を向上させる熱処理であり、自動車用の歯車をはじめとし様々な部品に適用されている。ここでいう、窒化処理は、窒素のみを浸入させる窒化処理、窒素および炭素を同時に浸入させる軟窒化処理の双方を含み、いずれも鋼をマルテンサイト変態させない処理をいう。
ここで、鋼の疲労特性を向上することは、部品の小型化を可能とし車両の軽量化につながることから、根強い材料要求の一つである。例えば、部品の対折損型疲労強度を高める手段として、浸炭処理とショットピーニング処理を併用する技術が提案されている。この技術では、浸炭鋼部品にショットピーニングを適用することにより、圧縮残留応力を付与し疲労特性を向上させることが可能である。
また、切削工具や鍛造用金型材料では、化学気相成長(CVD)や物理気相成長(PVD)による硬質被膜の形成も表面疲労強度を向上させる作用がある。
例えば、特許文献1では、浸炭用鋼の表面に炭素を浸み込ませる化学的表面硬化処理工程、ショットピーニング工程、硬質被膜処理工程の順に処理する面疲労強度および曲げ疲労強度に優れた鋼部品が提案されている。
また、特許文献2では、工具の表面に硬質被膜を付与し摺動特性を向上させた工具が提案されている。
特開2005-23399号公報 特開2011-183545号公報
近年、環境対応のための、各種部品の軽量化への要求はますます強くなってきている。この要求に応えるために、部品の更なる高疲労強度化が求められている。また、歯車等の接触型部品では、摩擦によるエネルギー損失(フリクションロス)を低減するため、潤滑油の低粘度化が進んでいる。潤滑油の低粘度化は摩擦係数を増大させ、疲労寿命を低下させる要因であり、鋼部品に対しては特に接触型疲労特性の向上が必要になってきている。このような背景においては、従来の浸炭鋼部品では疲労特性が十分ではない場合が多くあった。
特許文献1に記載の技術では、浸炭後のショットピーニング工程の後に硬質被膜処理工程が続くために、ショットピーニングによる表面圧痕が鋼板表面に形成される。かような表面に硬質被膜を形成すると、被膜と鋼材との密着性が不足し、接触型の疲労に対して被膜剥離が早期に生じる結果、疲労特性が低下してしまう。
また、浸炭処理は窒化と比較して熱処理ひずみが大きいため、高い寸法精度が必要な部材には適用できないことも課題であった。
特許文献2に記載の技術では、工具の表面に硬質被膜を付与し摺動特性を向上させているが、工具鋼は炭素を含む合金添加量が多いため、自動車の歯車やシャフトに適用するには鍛造性や被削性が不足することが問題であった。
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたものであり、特に接触型の疲労に対する耐久性能(以下、接触疲労特性ともいう)に優れた鋼部品を提供することを目的とする。
発明者らは、上記の目的を達成すべく、窒化処理を施した鋼部品の疲労特性に及ぼす硬質被膜の影響を鋭意研究した結果、窒化処理後に硬質被膜を付与することによって、接触疲労に対する寿命を効果的に向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
1.C:0.04~0.35質量%、
Si:0.01~1.20質量%、
Mn:0.30~1.80質量%、
P:0.1質量%以下、
S:0.5質量%以下、
Cr:0.30~2.00質量%、
Al:0.010~0.300質量%および
N:0.0250質量%以下
を含み、残部はFe及び不可避的不純物の成分組成を有する鋼からなる鋼部分と、該鋼部分の表面に密着して存在する硬質被膜とを有し、
前記硬質被膜の直下の前記鋼部分に窒化層を有し、
前記硬質被膜は、チタン炭化物(TiC)、チタン窒化物(TiN)、チタン炭窒化物(TiCN)、クロム窒化物(CrN)、バナジウム炭化物(VC)および硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン)のいずれか1種以上である鋼部品。
2.前記窒化層のビッカース硬さHsと前記硬質被膜のビッカース硬さHfとの比Hf/Hsが1.5以上7.0以下である前記1に記載の鋼部品。
3.前記硬質被膜が硬質炭素膜であり、かつ前記窒化層のビッカース硬さHsと前記硬質被膜のビッカース硬さHfとの比Hf/Hsが2.5以上7.0以下である前記1または2に記載の鋼部品。
4.前記硬質被膜は、厚さが0.2μm 以上25.0μm以下である前記1から3のいずれかに記載の鋼部品。
5.前記成分組成は、さらに、
Mo:1質量%未満、
Cu:1質量%以下、
Ni:1質量%以下および
B:0.01質量%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有する前記1から4のいずれかに記載の鋼部品。
6.前記成分組成は、さらに、
Ti:0.1質量%以下、
Nb:0.1質量%以下、
V:0.1質量%以下、
Hf:0.1質量%以下、
Ta:0.1質量%以下および
Se:0.3質量%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有する前記1から5のいずれかに記載の鋼部品。
7.前記成分組成は、さらに、
Sn:0.1質量%以下および
Sb:0.1質量%以下
のいずれか1種または2種を含有する前記1から6のいずれかに記載の鋼部品。
8.前記成分組成は、さらに、
Pb:0.3質量%以下および
Bi:0.3質量%以下
のいずれか1種または2種を含有する前記1から7のいずれかに記載の鋼部品。
9.前記1、5~8のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を、鍛造および切削またはそれらの複合にて所望の形状に加工した後、窒化処理を施して窒化層を形成し、該窒化層上に、チタン炭化物(TiC)、チタン窒化物(TiN)、チタン炭窒化物(TiCN)、クロム窒化物(CrN)、バナジウム炭化物(VC)および硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン)のいずれか1種以上の硬質被膜を形成する鋼部品の製造方法。
本発明によれば、鋼部品の疲労特性が向上する結果、部品の小型軽量化を実現することができるため、工業上非常に有用である。
本発明の鋼部品について、詳しく説明する。
まず、鋼部品は、鋼を素材とした部品であり、すなわち鋼部分を有する。この鋼部分の成分組成の限定理由について、成分元素毎に説明する。
C:0.04~0.35質量%
Cは、窒化処理後の中心部の硬度を高めるために、0.04質量%以上とすることが好ましい。一方、含有量が0.35質量%を超えると、焼入れ後の芯部の靭性が低下するため、C量は0.35質量%以下の範囲とする。好ましくは0.05~0.27質量%の範囲、より好ましくは0.15~0.25%の範囲である。
Si:0.01~1.20質量%
Siは、脱酸剤として必要であり、少なくとも0.01質量%で添加する。一方、Siの過剰な添加は、鋼材の鍛造性を低下させるため上限を1.20質量%に規定する。好ましくは0.05~0.70質量%である。さらに好ましくは、0.10~0.50質量%である。
Mn:0.30~1.80質量%
Mnは、焼入れ性を向上させ、窒化前組織を高強度化する作用を通じ窒化後組織を高強度化する。こうして、十分な疲労強度を得るためには、少なくとも0.30質量%の添加を必要とする。しかし、Mnの過剰な添加は、固溶強化による変形抵抗の上昇を招くため、上限を1.80質量%とした。好ましくは0.40~1.70質量%であり、より好ましくは0.50~1.30質量%である。
P:0.1質量%以下
Pは、結晶粒界に偏析し、靭性を低下させるため、その混入は低いほど望ましいが、0.1質量%までは許容される。好ましくは、0.02質量%以下である。また、下限については特に限定せずとも問題はないが、無駄な低P化は精錬時間の増長や精錬コストを上昇させてしまうため、0.003質量%以上とすることが好ましい。
S:0.5質量%以下
Sは、硫化物系介在物として存在し、被削性の向上に有効な元素であるが、過剰な添加は冷間鍛造性の低下を招くため、上限を0.5質量%とする。また、下限については特に限定しないが、過度の低S化は精錬コストを上昇させてしまうため、0.003質量%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.004~0.300質量%であり、さらには0.005~0.090質量%である。
Cr:0.30~2.00質量%
Crは、焼入性と焼戻し軟化抵抗の向上に寄与し、さらには炭化物の球状化促進にも有用な元素であるが、含有量が0.30質量%に満たないと、その添加効果に乏しい。一方、2.00質量%を超えると、過剰浸炭や残留オーステナイトの生成を促進し、疲労強度に悪影響を与える。よって、Cr量は0.30~2.00質量%の範囲にする。好ましくは0.70~1.90質量%の範囲、より好ましくは0.80~1.24質量%である。
Al:0.010~0.300質量%
Alは、酸化物を形成し脱酸に有効な元素であるとともに、粗大な酸化物系介在物の生成を抑止する作用を有するが、含有量が0.010質量%に満たないと、その添加効果に乏しい。しかし、過剰な添加は介在物の増加を招き、疲労破壊の起点を増やし、低疲労強度の原因となることから、上限を0.300質量%とする。好ましくは、0.015~0.080質量%であり、より好ましくは0.015~0.060質量%である。また、Bと組み合わせて固溶Bによる焼入れ性向上も疲労強度向上に効果的であり、その場合は0.035~0.070質量%の範囲が好適である。
N:0.0250質量%以下
Nは、Alと結合し窒化物(AlN)を形成する。かようなAlNは微細に析出し結晶粒を微細化させ疲労特性を改善させる作用を有する。しかし、過剰な添加は鋳造後の鋼片表面割れを招くため、0.0250質量%を上限とする。下限については特に限定しないが、過度の低N化は精錬コストを上昇させてしまうため、0.0010%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.0015~0.0180質量%であり、さらには0.0020~0.0150質量%である。
以上説明した元素以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
以上、本発明の好適基本成分について説明したが、本発明では、必要に応じて、更に、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Mo:1質量%未満、
Cu:1質量%以下、
Ni:1質量%以下および
B:0.01質量%以下
のうちから選ばれる1種以上
Mo:1質量%未満
Moは、焼入性と焼戻し軟化抵抗性の向上に寄与し、有用な元素であるため添加してもよい。しかし、含有量が1質量%以上では、焼入性が過剰となり、圧延後の硬度が上昇し、鍛造性や被削性が低下する懸念がある。そのため、Mo含有量は1質量%未満の範囲に制限することが好ましい。なお、Moによる上記の焼入性、焼戻し軟化抵抗性の向上効果を発現させるためには、Moは0.01質量%以上で含有されることが好ましい。さらに、好ましくは0.03~0.25質量%の範囲である。より好ましくは0.05~0.22質量%である。
Cu:1質量%以下
Cuは、焼入性の向上に寄与する元素である。この効果を得るためには、Cuは0.01質量%以上で含有されることが好ましい。一方、Cu含有量が1質量%を超えると、圧延材の表面肌が荒れてしまい、疵として残存する懸念がある。そこで、Cu量は1質量%以下の範囲に限定することが好ましい。より好ましくは0.015~0.5質量%の範囲である。更に好ましくは0.03~0.3質量%である。
Ni:1質量%以下
Niは、焼入性の向上に寄与するとともに、靱性の向上に有用な元素である。これらの効果を得るためには、Niは0.01質量%以上で含有されることが好ましい。一方、1質量%を超えて含有されても、上記の効果が飽和する。よって、Ni含有量は1質量%以下の範囲に限定することが好ましい。より好ましくは0.015~0.5質量%の範囲である。更に好ましくは0.03~0.3質量%である。
B:0.01質量%以下
Bは、粒界に偏析し、拡散型変態を抑制することで、焼入性の向上に有効であり、加えて粒界を強化し、疲労亀裂の発生および進展を抑制し疲労強度を向上させる効果もある。Bによるこの効果を得るためには、0.0003質量%以上でBを含有させることが好ましい。一方、0.01質量%を超えると、靱性が低下するため、B量は0.01質量%以下の範囲に限定することが好ましい。より好ましくは、0.0005~0.005質量%の範囲である。更に好ましくは0.0007~0.002質量%である。
さらに、必要に応じて、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Nb:0.1質量%以下、
Ti:0.1質量%以下、
V:0.1質量%以下、
Hf:0.1質量%以下、
Ta:0.1質量%以下および
Se:0.3質量%以下
のうちから選ばれる1種以上
Nb:0.1質量%以下
Nbの添加は結晶粒粗大化を抑制して疲労特性を改善させる作用がある。しかし、0.1質量%を超えて添加しても、その効果は飽和し経済的に不利となるため、Nb含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.080質量%である。さらに好ましくは、0.01~0.06質量%である。
Ti:0.1質量%以下
Tiの添加は、鋳造後の表面割れを抑制する効果がある。しかし、0.1質量%を超えて添加しても、その効果は飽和し経済的に不利となるため、Ti含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.080質量%である。さらに好ましくは、0.01~0.06質量%である。
V:0.1質量%以下
Vは、鋼中でVCを形成し、鋼の熱間加工時等の、オーステナイト域への加熱時に、オーステナイト粒径の粗粒化をピン止め効果により抑制する。Vによるこの効果を得るためには、少なくとも0.003質量%以上でVを含有させることが好ましい。一方、0.1質量%を超えて添加しても、結晶粒の粗大化防止効果は飽和する一方で、合金コストが高価となるばかりである。よって、V含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.080質量%である。さらに好ましくは、0.01~0.06質量%である。
Hf:0.1質量%以下
Hfは、鋼中で炭化物を形成し、鋼の熱間加工時等の、オーステナイト域への加熱時に、オーステナイト粒径の粗粒化をピン止め効果により抑制する。Hfによるこの効果を得るためには、少なくとも0.003質量%でHfを添加することが好ましい。一方、0.1質量%を超えて添加すると、鋳造凝固時に粗大な析出物を生成し、粗粒化抑制能の低下や疲労強度の劣化を招くおそれがあるため、Hfの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.060質量%である。さらに好ましくは、0.01~0.05質量%である。
Ta:0.1質量%以下
Taは、鋼中で炭化物を形成し、鋼の熱間加工時等の、オーステナイト域への加熱時に、オーステナイト粒径の粗粒化をピン止め効果により抑制する。この効果を得るためには、少なくとも0.003質量%でTaを添加することが好ましい。一方、0.1質量%を超えて添加すると、鋳造凝固時に割れを生じやすくなり、圧延および鍛造後でも疵が残存してしまう懸念があるため、Taの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.060質量%である。さらに好ましくは、0.01~0.05質量%である。
Se:0.3質量%以下
Seは、MnやCuと結合し、鋼中に析出物として分散する。Se析出物はオーステナイト温度域で析出物成長がほとんど起こらず安定に存在しており、オーステナイト粒径のピン止め効果が高い。このため、Se添加は結晶粒の粗大化防止に有効であるが、この効果を得るためには、0.001質量%以上でSeを添加することが好ましい。一方、0.3質量%を超えて添加しても、結晶粒の粗大化防止効果は飽和し経済的に不利となるため、Se含有量は0.3質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.100質量%である。さらに好ましくは、0.008~0.090質量%である。
さらに、必要に応じて、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Sn:0.1質量%以下および
Sb:0.1質量%以下のうちから選ばれる1種以上を含有
Sb:0.1質量%以下
Sbは、鋼材表面の脱炭を抑制し、表面硬度の低下を防止するために有効な元素である。この効果を発現させるためには、Sbは0.0003質量%以上含有させることが好ましい。一方、過剰な添加は鍛造性を劣化させることから、Sbの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.001~0.050質量%であり、更に好ましくは、0.0015~0.0350質量%である。
Sn:0.1質量%以下
Snは、鋼材表面の耐食性を向上させるために有効な元素である。耐食性向上の観点からは、Snは0.003質量%以上含有させることが好ましい。一方、過剰な添加は鍛造性を劣化させることから、Snの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0010~0.0500質量%であり、更に好ましくは、0.0015~0.0350質量%である。
さらに、必要に応じて、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Pb:0.3質量%以下および
Bi:0.3質量%以下のうちから選ばれる1種以上を含有
PbおよびBiは、切削時の切屑を微細化する効果があり、切屑処理性を向上させる場合、これらの元素添加が有効である。この効果を得るために、PbおよびBiはそれぞれ0.01質量%以上の添加が好ましい。しかしながら、これらの元素を過度に添加しても切屑処理性の向上効果は飽和し経済的に不利となる。従って、合金コスト上昇を抑えるため、PbおよびBi量の上限値をそれぞれ0.3質量%とする。より好ましいPb量およびBi量はそれぞれ0.01~0.20質量%、更には0.01~0.10質量%である。
本発明の鋼部品は、上記した成分組成の鋼からなる鋼部分に加えて、該鋼部分の表面に密着して存在する硬質被膜を有する。さらに、鋼部分の硬質被膜の直下、すなわち、鋼部分の硬質被膜が密着する部位は、窒化層が形成されている。
以下、これらの要件毎に説明する。
[窒化層]
鋼部品は、鋼部分の表面、すなわち、鋼部分における硬質被膜を付着させる部位を窒化層とする。なぜなら、窒化処理にて鋼部品の表面を硬化することによって、疲労強度が向上するためである。
ここで、窒化層は、一般的なガス軟窒化処理や塩浴軟窒化処理によって得られるものであり、鋼部分の表層にある、芯部(窒化層以外の部分)よりもN含有量が高い部分のことである。窒化層は、N含有量に加えて、C含有量についても芯部より高くなっていてもよい。
上記した窒化層は、疲労強度確保のため、ビッカース硬さが550以上である部分の鋼部分表面からの深さが0.1mm以上であることが好ましい。窒化層として、ビッカース硬さが550以上である層の深さが0.1mm未満であると、機械構造部品、中でも歯車等の接触型部品
としての疲労寿命の確保が困難となる、おそれがある。
[硬質被膜]
さらに、前記窒化層上に硬質被膜を有することが肝要である。前記窒化層上に硬質被膜を形成すると、接触疲労寿命向上の効果を得ることができる。
前記鉄炭化物および鉄窒化物以外の硬質被膜としては、チタン炭化物(TiC)、チタン窒化物(TiN)、チタン炭窒化物(TiCN)、クロム窒化物(CrN)、バナジウム炭化物(VC)、硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン:DLC)が適切である。これらの硬質被膜は、それ自体が高強度であることに加え、潤滑作用を有するために、この潤滑作用を発揮することにより接触疲労寿命を向上させることができる。
前記硬質被膜の厚さは、0.2μm 以上25.0μm以下であることが好ましい。すなわち、硬質被膜の厚さは0.2μm以上であれば、接触疲労寿命を向上するのに十分である。一方、膜厚の過剰な増大は被膜の形成処理に要する時間を長くなりコスト的に不利になるため、膜厚の上限は25μmとすることが好ましい。
また、窒化層のビッカース硬さHsと硬質被膜のビッカース硬さHfとの比Hf/Hs(以下、単に硬さ比Hf/Hsと云う)が1.5以上7.0以下であることが好ましい。硬さ比Hf/Hsが1.5未満であると、硬質被膜が、接触疲労寿命の向上に寄与する皮膜とはならない。一方、硬さ比Hf/Hsが7.0超であるためには、窒化層のビッカース硬さHsを極端に低くするか、硬質被膜のビッカース硬さHfを高くする必要がある。疲労強度確保の観点からの窒化層のビッカース硬さは、上述のとおり550以上であること、および、上述した種々の硬質被膜の硬さを踏まえると、Hf/Hsは7.0以下であることが好ましい。言い換えると、硬さ比Hf/Hsが7.0超であると、窒化層による疲労強度向上の効果が弱まる。さらに、硬さ比Hf/Hsが7.0超であると、窒化層の硬さが硬質被膜の硬さに対して大きくなりすぎて、金属疲労を生じさせる使用環境下において、硬質被膜の剥離も生じやすくなる。したがって、硬さ比Hf/Hsは1.5以上7.0以下の範囲とすることが好ましい。硬質被膜が、硬質炭素幕(ダイヤモンドライクカーボン:DLC)である場合は、Hf/Hsは2.5~7.0の範囲である。
[製造方法]
上記した鋼部品は、鋼素材を、鍛造および切削またはそれらの複合にて所望の形状に加工した後、窒化処理を施して窒化層を形成し、該窒化層上に硬質被膜をPVD処理またはCVD処理にて被成することにより製造できる。
[窒化処理]
窒化処理は、公知の方法を適用でき、窒素富化層、すなわち、鋼の芯部のN含有量に比べてN含有量が高い表層を形成できる処理であればよい。窒化処理は、表層のN含有量を高めることに加えて、表層のC含有量を芯部のC含有量よりも高める処理であってもよい。例えば、炭素ポテンシャル0.1~0.5%、窒素ポテンシャル0.1~1.2%の雰囲気において、750℃以下の温度で保持した後冷却する。
特に、PVD処理およびCVD処理における上記した処理温度は、鋼材の軟化を抑制するために700℃以下とすることが好ましい。より好ましくは600℃以下とし、最適は500℃以下である。
なお、PVD処理またはCVD処理の後に焼入れを行うことは、硬質被膜と鋼材との密着性を低下させるため、避けるべきである。
また、窒化処理において形成させる窒化層中のN含有量の調整、あるいは、PVD処理またはCVD処理の温度の調整により、窒化層のビッカース硬さHsを調整して、窒化層のビッカース硬さHsと前記硬質被膜のビッカース硬さHfとの比Hf/Hsを1.5以上7.0以下とすることが好ましい。
以下、実施例に従って、本発明の構成および作用効果をより具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す成分組成の鋼を溶製し、熱間圧延により直径30mmの丸棒に成形した。得られた棒鋼よりローラーピッチング試験片を採取し、これらの試験片に窒化処理として、570℃で3時間のガス軟窒化熱処理を実施した。
比較として、硬質被膜を付与しない場合、窒化処理を行うことなく硬質被膜を形成する場合、をそれぞれ実施した。
かくして得られた硬質被膜付きおよび硬質被膜なしの各試験片につき、ローラーピッチング試験を行った。ローラーピッチング試験は、すべり率40%および試験速度3000rpmとし、低粘度油(80℃における動粘度7mm/s)を用い油温80℃の条件で試験した。また、相手材ローラーはSUJ2の調質材を用いクラウニングR150とした。試験面圧は2.6GPaで5本ずつ試験を行い、繰返し数の上限を1×106回とし打ち切った。上限繰り返し数に至るまでに、ピッチング(剥離)が発生した試験本数を疲労特性として評価した。その評価結果を表3に示す。
また、硬質被膜を付与した試験片では、硬質被膜の密着性を評価するため、面圧2.6GPaで更に1本ずつ試験を行い、繰返し数1×104回で試験中断後、転走面を画像解析し、硬質被膜の剥離面積率を求めた。本試験において、5本とも未破損であれば疲労寿命は十分長寿命である。
表3にローラーピッチング試験の結果を示すように、本発明に従えば、長寿命の疲労特性を有する鋼部品が得られる。
Figure 0007310723000001
Figure 0007310723000002
Figure 0007310723000003

Claims (8)

  1. C:0.04~0.35質量%、
    Si:0.01~1.20質量%、
    Mn:0.30~1.80質量%、
    P:0.1質量%以下、
    S:0.5質量%以下、
    Cr:0.30~2.00質量%、
    Al:0.010~0.300質量%および
    N:0.0250質量%以下
    を含み、残部はFe及び不可避的不純物の成分組成を有する鋼からなる鋼部分と、該鋼部分の表面に密着して存在する硬質被膜とを有し、
    前記硬質被膜の直下の前記鋼部分に窒化層を有し、
    前記硬質被膜は、チタン炭化物(TiC)、チタン窒化物(TiN)、チタン炭窒化物(TiCN)、クロム窒化物(CrN)、バナジウム炭化物(VC)および硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン)のいずれか1種以上であり、前記窒化層のビッカース硬さHsと前記硬質被膜のビッカース硬さHfとの比Hf/Hsが1.5以上7.0以下である鋼部品。
  2. 前記硬質被膜が硬質炭素膜であり、かつ前記窒化層のビッカース硬さHsと前記硬質被膜のビッカース硬さHfとの比Hf/Hsが2.5以上7.0以下である請求項1に記載の鋼部品。
  3. 前記硬質被膜は、厚さが0.2μm 以上25.0μm以下である請求項1または2に記載の鋼部品。
  4. 前記成分組成は、さらに、
    Mo:1質量%未満、
    Cu:1質量%以下、
    Ni:1質量%以下および
    B:0.01質量%以下
    のうちから選ばれる1種以上を含有する請求項1から3のいずれかに記載の鋼部品。
  5. 前記成分組成は、さらに、
    Ti:0.1質量%以下、
    Nb:0.1質量%以下、
    V:0.1質量%以下、
    Hf:0.1質量%以下、
    Ta:0.1質量%以下および
    Se:0.3質量%以下
    のうちから選ばれる1種以上を含有する請求項1から4のいずれかに記載の鋼部品。
  6. 前記成分組成は、さらに、
    Sn:0.1質量%以下および
    Sb:0.1質量%以下
    のいずれか1種または2種を含有する請求項1から5のいずれかに記載の鋼部品。
  7. 前記成分組成は、さらに、
    Pb:0.3質量%以下および
    Bi:0.3質量%以下
    のいずれか1種または2種を含有する請求項1から6のいずれかに記載の鋼部品。
  8. 請求項1、4~7のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を、鍛造および切削またはそれらの複合にて所望の形状に加工した後、窒化処理を施して窒化層を形成し、該窒化層上に、チタン炭化物(TiC)、チタン窒化物(TiN)、チタン炭窒化物(TiCN)、クロム窒化物(CrN)、バナジウム炭化物(VC)および硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン)のいずれか1種以上の硬質被膜を形成する、請求項1~7のいずれかに記載の鋼部品の製造方法
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